社団法人埼玉県薬剤師会

社団法人 埼玉県薬剤師会
ドーピングとは
競技力を向上させるために禁止されてい
る物質・方法を使用すること
→ヒトや動物(競争馬等)の区別はない
ドーピングが何故いけないのか
スポーツのフェアプレー精神に反する
薬物の習慣性や副作用により選手の健康
を損ねる
次世代を担う青少年への悪影響等社会的
害を生じる
1
社団法人 埼玉県薬剤師会
世界アンチドーピング機構(WADA)について
IOCを中心に展開されてきたアンチ・ドー
ピング活動がプロスポーツの台頭や世界
規模のスポーツイベントの増加やドーピ
ングの社会的な深刻さの増大等により、
スポーツ組織と政府組織とが協力した新
たな枠組みが必要性となり誕生した組織
WADAの主な事業
世界アンチ・ドーピング規定の策定
(アンチ・ドーピング活動の統一規定)
競技外(抜き打ち)検査の実施
独立監査法人システムの実施
ドーピング検査手法等の科学研究推進
教育啓発活動
国内調整機関の設置推進と活動
2
社団法人 埼玉県薬剤師会
世界アンチ・ドーピング規定について
ドーピング違反定義、制裁措置、検査体
制・方法、分析方法、治療目的の例外使
用申請、禁止物質リスト等が細かく規定
されている
ドーピング違反となる行為
禁止物質(禁止リスト収載物質)の体内での存在
禁止物質あるいは禁止方法の使用および企て
検査の忌避あるいは拒否
検査の不正操作
禁止物質の所持
禁止物質の不正取引
競技支援要因(コーチ等)による関与
3
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ドーピング違反となる行為(1)
競技者の生体からのサンプルに、治療目的の許
可を得てない禁止物質、その代謝物または
マーカーが存在する(量的上限値が設けられてい
るものは、その値を超えた場合)
○故意・過失の有無にかかわらず違反が生じる
→禁止物質が体内に入らないようにすることは、
競技者自ら取り組まなければならない責務で
あるため、存在が確認されれば、競技者が責
任を負う
ドーピング違反となる行為(2)
治療目的の許可を得ることなく、禁止物質・
方法を使用または使用の企てをすること
○使用の成否ではなく、使用の企てたことにより成
立する
○「使用」の立証は、自認、第三者の証言など、信
頼できる証拠を通じて行うことができる
4
社団法人 埼玉県薬剤師会
ドーピング違反となる行為(3)
アンチ・ドーピング規則による通知後のサン
プル採取拒否・回避
○検体採取を受けない、または拒否することを禁
止している。このため、ドーピングコントロール担
当者が検査を実施する際、競技者が姿を消して
いることが証明されると違反となる
ドーピング違反となる行為(4)
競技外検査を受ける際の義務違反
(伝達の検査へ現れない、居場所情報の提供拒否)
○トレーニング期間中の不正を防ぎ、競技者のク
リーンさを証明するために実施され、トレーニン
グ期間中に事前の通告なしに実施されることが
多い。
国際競技連盟または国内アンチ・ドーピング機関
が指定した競技者には、正確かつ最新の居場所
情報を提出する義務を課せられる
5
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ドーピング違反となる行為(5)
検査のいずれかの過程での不正操作または
その企て
○ドーピングコントロール関係文書の改ざん等
ドーピング違反となる行為(6)
禁止物質・方法の所持
(競技者または競技支援者)
○競技者、競技会に向けて競技者と一緒に行動
する者、またはこの種の競技者に処置を施す
者(コーチ、トレーナー、監督、代理人、チーム
スタッフ、職員、医師または医療関係者)が、治
療目的の許可を得ることなく、禁止物質を所持し
ていること
○所持の態様が許可を得ている範囲を逸脱してる
6
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ドーピング違反となる行為(7)
禁止物質・方法の不正取引
○正当かつ合理的な治療目的以外で、直接あるい
は第三者を通じて競技者等に対して禁止物質を
販売、供与、投与、輸送、送付、配送もしくは配
達すること
ドーピング違反となる行為(8)
○競技者に対する禁止物質または方法の
投与・使用、もしくはその企て
○違反となる行為を伴う形で支援、助長、
教唆、隠蔽などの共犯関係があること、
またはこれらを企てる行為があること
7
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禁止リストについて
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は、
少なくとも年1回、禁止物質・方法で構成
される禁止リストを国際基準として公表
する
→禁止物質の種類と方法は毎年変わる
禁止リストに盛り込む際の判断基準
○隠蔽剤であるもの
○次の3要件のうち、2要件をみたしている
競技力を強化している(し得る)
健康上の危険性を及ぼす(し得る)
スポーツ精神に反する
8
社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止リストの構成
I.
競技会検査において禁止対象となるもの
II.
競技外検査においても禁止対象となるもの
III. 特定の競技においてのみ禁止対象となるもの
IV.
Ⅰ∼Ⅲのうち、広く医薬品として流通しており、かつドー
ピング物質としての乱用されにくいもの(指定物質)
→ 制裁緩和措置が設けられている
V.
禁止物質でないが、ドーピングの乱用状況等把握する
必要があると判断された物質(監視プログラム)
→失効や資格剥奪等の制裁措置はない
競技会検査と競技外検査
競技会検査
競技外検査
検査場所
競技場
場所を問わない
検査時間
競技終了後
時間を問わない
検査対象物質・方法
禁止リストにある全
ての物質・方法
トレーニングで使用すると長期
的に競技力を強化できるもの
居場所情報
不要
必要
選手の体内に禁止
物質が存在しない
ことを証明する
トレーニング期間中の不正を防
ぎ、競技者のクリーンさを証明
する
目
的
9
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居場所情報の収集事項について
氏名、住所
競技、種目
連絡先電話番号
トレーニング時間及び場所
トレーニングキャンプ
旅行計画
参加予定の競技会スケジュール
等
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競技会および競技外検査で禁止となる方法
禁止方法
禁止行為の例
酸素運搬能の強化 血液ドーピング(自己血、同種血、赤血球製
剤の不正使用)
エリスロポエチン、修飾ヘモグロビン製剤、ヘ
モグロビンのマイクロカプセル剤の不正使用
薬理学的、化学的、 カテーテル使用、尿の交換・改ざん、腎排泄
物理的操作
を抑制する行為、テストステロンとエピテスト
ステロンの濃度を操作する行為
遺伝子ドーピング
エリスロポエチン産生遺伝子等
禁止物質1
興奮剤
精神的に高揚させることで、闘争心を高めたり、
疲労感を低減させたりする
→覚せい剤、ブロマンタン、エフェドリン等古くから
使用されている
11
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エフェドラについて
興奮剤には、食欲抑制作用をもったものがある。
日本では使用が認められていないが、米国では
健康補助食品として広く流通している。
特に興奮剤エフェドラに人気が集まっていたが、
エフェドラが原因とみられる死亡例が多発したた
め、FDAは健康補助食品での販売を中止した
モダフィニルについて
中枢系のα1アドレナリン受容体刺激作用を持つ、日本では未
承認のナルコレプシー(過睡眠症)治療薬。現在は興奮剤に指
定されている。
2003年8月に開催の世界陸上で女子100メートルと200メー
トルを制したケリー・ホワイト(米国)から検出された。当時国際
陸連が定める禁止薬物リストに記載されてなかったが、禁止薬
物リストにある薬物と同じ影響があると判断され、同選手の両
種目の金メダルをはく奪された。しかし、競技力向上を目指した
ものではなかったとの主張が認められ、2年間の資格停止は免
れた。
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禁止物質2
麻薬性鎮痛剤
鎮痛作用、多幸感、無敵感などの精神作用
禁止物質3
カンナビノイド
○ 選手の精神的な安定
○ 試合への緊張緩和
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禁止物質4 − 1
蛋白同化男性化ステロイド剤(AAS)
○ 内因性
体内でコレステロールから合成されるもの及び
その他類似化学構造または類似の薬理効果を
有するもの
○ 外因性
蛋白同化作用を強めるため、体内で合成されな
い物質を人工的に合成したもの
内因性AASについて
内因性AASは、男女とも副腎皮質から分泌されているが、
男性において精巣から分泌され、また、女性では卵巣から
分泌される。
内因性AASの生成・分泌は、下垂体前葉ホルモンである黄
体形成ホルモン(精巣や卵巣の場合)や副腎皮質刺激ホル
モン(副腎皮質の場合)により刺激される。
蛋白同化作用により骨格筋肥大、中枢作用により闘争・攻
撃的性格の形成、男性化作用により陰茎や陰嚢、前立腺、
精嚢などの生殖器官の発達を促進する
14
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主なAASの男性化と蛋白同化作用の作用比
AAS成分名
男性化作用:蛋白同化作用
内因性 テストステロン
1:1
外因性 フルオキシメステロン
1:2
メタンジェノン
1:4∼8
オキサンドロロン
1:3∼13
ナンドロロン
1:3∼6
スタノゾール
1:3∼6
内因性AASの使用とみなされる基準
内因性AASと関連物質(代謝物またはマーカー
の濃度など)の比率が人間に通常みられる数値
の範囲から逸脱し、正常な内因性生成量に合致
しない場合
→逸脱の原因が競技者の生理的・病理的状態に
よるものであることを競技者側が証拠をもって立
証した場合は使用とみなされない
15
社団法人 埼玉県薬剤師会
内因性AASとその代謝物の濃度比率の基準
尿中テストステロンとエピテストステロンの存在比率が6:1を上回るか否か
→検査結果がこの比率を上回った場合、更に調査し、原因が競技者の生理
的・病理的状態によるものであるか否か判定しなければならない
(ごく稀に生理的に存在比率が10:1程度の値を示す競技者がいるため、
過去の検査結果や過去の検査結果がない競技者は追跡検査を行って判
定する)
※ 追跡検査への協力を怠った場合もドーピング違反となる
テストステロンとエピテストステロンの比率
欧米人の尿中には、テストステロンとその異性体のエ
ピテストステロンがほぼ同量排泄される
16
社団法人 埼玉県薬剤師会
内因性AASを含有した健康補助食品
1994年、規制緩和により米国において天然ステロイドホルモ
ンの前駆体(男性化作用が弱いステロイド等)の使用が栄養
補助食品として扱えるようになった
→体内でテストステロンに代謝されるアンドロステンジオンや
デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)等の内因性AASが含
まれた栄養補助食品が市場に流通している
尿中ステロイドの由来を見分ける方法
尿中ステロイドが、体外由来のものであるか否かを
12
13
炭素の同位体比( C: C)で判定する
→ステロイド製剤は、空気中の炭酸ガスを炭素源と
する植物由来であり、生体内で合成されるステロ
イドは、食物中の動物由来である。
このため、異なる同位体比を示す
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社団法人 埼玉県薬剤師会
テトラハイドロゲストリノン(THG)について
米カルフォルニアのベイ・エリア研究所にて開発され
た外因性AASで、ドーピング検査において検出できな
いよう禁止物質ゲストリノンの構造を一部変えたもの
→米国の野球、陸上、水泳選手に栄養補助食品とし
て供給されていた
現在は、米国においても健康補助食品としての用
いることは出来ない
禁止物質4 − 2
その他の蛋白同化剤
○ クレンブテロール(ベータ2作動薬)
飼料にクレンブテロールを添加したマウスの体脂
肪が低下した報告等あり
○ ゼラノール
脂肪を赤身肉へ変換する女性ホルモン作用のあ
る家畜用成長ホルモン
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社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止物質5
ペプチドホルモン
筋肉増強やステロイド使用の隠蔽を目的に不正に使用
エリスロポエチン
成長ホルモン(hGH)、インスリン様成長因子(IGF-1)
胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)−男性のみ禁止
下垂体及び合成性性腺刺激ホルモン類(LH)−同上
インスリン
コルチコトロピン類
禁止物質5 − 1
エリスロポエチン
構 造
アミノ酸165個のペプチドと約40%
の糖鎖からなる
分子量
34,000
生産臓器
腎・肝
分泌亢進条件 貧血状態・低酸素環境への曝露
作 用
赤血球の分化を活発化し、ヘモグ
ロビンの量を増やす
19
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禁止物質5 − 2
インスリン様成長因子(IGF-1、ソマトメジンC)
70個のアミノ酸からなるポリペ プチドで、
成長ホルモンの刺激によって肝臓や骨で
合成され、骨格筋の細胞の増殖および
肥大を誘発する
→筋肉増強
禁止物質5 − 3
成長ホルモン(hGH)
191個のアミノ酸からなるポリペプチドで、下
垂体前葉から分泌され、肝臓でのIGF-1を合
成促進、除脂肪体重を増加、体脂肪を減少
させる(遺伝子組換え製剤も同様に禁止)
→筋肉増強、蛋白同化剤によって肥大した
筋肉の質を大会まで維持する目的で使用
20
社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止物質5 − 4
脳下垂体性及び合成性性腺刺激ホルモン
黄体刺激ホルモン(LH)は、睾丸より内因
性AAS(テストステロン)の分泌を促す
→精巣の間質細胞に作用して、テストステロンの
合成を促進
黄体刺激ホルモンの精巣への働き
GnRH:性腺刺激 ホルモン
(ゴナドトロピン) 放
出ホルモン
21
社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止物質5 − 5
胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)
黄体刺激ホルモン(LH)と類似した作用
→内因性AAS産生量増加
禁止物質5 − 6
インスリン
細胞内へのアミノ酸透過を亢進し、アミノ
酸からの糖新生を抑制
→蛋白質同化促進、異化抑制
22
社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止物質5 − 7
コルチコトロピン(副腎皮質刺激ホルモン)類
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
テトラコサクチド
→
副腎皮質由来の内因性AAS(アンドロステ
ロン、デヒドロエピアンドロステロ:DHEA)の
分泌促進
禁止物質6
ベータ2作用薬
多量投与により蛋白同化作用
○次の疾患の予防・処置を目的する場合、フォル
モテロール、サルブタモール、サルメテロール、
テルブタリンの吸入剤に限り、事前の手続きに
より使用可能
喘息
運動誘発性の喘息・気管支収縮
23
社団法人 埼玉県薬剤師会
手続で使用可能となるベータ2作用吸入剤
成分名
日本で販売されている商品
フォルモテロール なし
サルメテロール セレベント50ディスカス(GSK)
セレベント25・50ロタディスク(GSK)
サルブタモール サルタノールインヘラー(GSK)
ベネトリン吸入液(三共)
アイロミール(大日本)
テルブタリン
なし
禁止物質7
抗エストロゲン作用を有する薬剤
アロマターゼ阻害薬、クロミフェン、タモキ
シフェン、シクロフェニル
→テストステロンの合成増加
※ 男性のみ禁止
24
社団法人 埼玉県薬剤師会
アロマターゼ阻害剤について
一部の内因性AASは、脂肪組織や筋肉、肝臓な
どに広く分布する酵素アロマターゼによってエス
トロゲンに変換される。
特に男性体内のエストロゲン多くは、アロマター
ゼによる経路で生成される
アロマターゼ阻害剤により、この変換が強力に抑
制されるため、内因性AASが増加する。
25
社団法人 埼玉県薬剤師会
エストロゲン受容体拮抗薬について
クロミフェン、タモキシフェン、シクロフェニル
→エストロゲンが受容体と結合するのを競
合的に拮抗するため、負のフィードバック
を仲介する視床下部の受容体も遮断し、
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)
の分泌抑制機能を働かなくする
禁止物質8
隠蔽剤
利尿剤、エピテストステロン、プロベネシド、
血漿増量剤
→使用薬剤の排泄を早め尿中濃度を下げ
るもの、内因性AASの代謝物濃度を意図
的に変化させるもの、尿中排泄を抑制す
るもの、血中濃度を下げるもの等
26
社団法人 埼玉県薬剤師会
プロベネシドについて
近位尿細管分泌の有機酸輸送系を強力に
阻害し、薬物の腎排泄に影響する
→有機輸送系を介して受動分泌される薬
物はプロベネシドと併用した場合、拮抗
作用によって尿細管分泌が低下する
禁止物質9
糖質コルチコイド
いわゆるステロイドホルモン
→蛋白同化作用、精神の高揚感
○経口投与、経直腸投与、静脈内投与、筋肉内投
与は禁止
これ以外の局所使用は、事前手続きにより、治
療目的使用が認められば使用可能
27
社団法人 埼玉県薬剤師会
禁止物質(特定の競技のみ) − 1
アルコール
競技種目によって閾値が異なるがアー
チェリーやスキーなどの競技会検査にお
いて規制されている
→競技への不安や緊張逃避目的等で
使用されることを防止する目的と競
技の安全性を確保する目的
禁止物質(特定の競技のみ) − 2
ベータ遮断剤
射撃やスキーのジャンプ競技などのいわ
ゆる精神スポーツの競技会検査におい
て規制されている
→心臓の働きを安定させる目的で使用
されることを防止する
28
社団法人 埼玉県薬剤師会
遺伝子ドーピング(3つの禁止方法の1つ)
競技力向上させうる遺伝子、遺伝子要素
あるいは細胞を治療目的以外に使用す
ること。例としてエリスロポエチン産生遺
伝子情報を導入した無毒化ウイルスベク
ターに感染させることによって、低酸素環
境への暴露なしに体内でのエリスロポエ
チン産生能を人工的に高められる
マラソンマウス(読売新聞より)
米ソーク研究所と韓国ソウル国立大などのチームが、遺伝
子操作によって、長時間走り続けることができ、食べても太ら
ないという究極の「マラソンマウス」を作ることに成功した。マ
ウスの実験で「遅筋」という筋肉を増やし、新陳代謝を大幅に
高めるPPARデルタ遺伝子を操作。通常よりこの遺伝子の
働きが強いマウスを作り出した。遅筋は持久力にかかわる筋
肉で、トレーニングを積んだマラソン選手の筋肉の9割は遅
筋。電気で刺激しながら走行器具上を走らせたことろ、通常
マウスは90分間、900メートルほどを走ったところでストップ。
ところが、遺伝子操作マウスは1時間も余計に走ることがで
き、距離も1800メートルにのびていた。しかも脂肪燃焼に効
果的な遅筋が発達したおかげで、どんなに食べても太らない
体になったという。
29
社団法人 埼玉県薬剤師会
指定物質
次の物質は、不注意によりアンチ・ドーピング規則
違反を誘発しやすい性質上、指定物質として指定
されている。競技者が治療目的であり競技力強化
でないことを立証できれば制裁措置が軽減される
医薬品として広く市販されている物質
ドーピング物質として乱用しにくい物質
指定物質となっているもの
興奮剤:エフェドリン、L-メチルアンフェタミン、メチルエフェドリン
カンナビノイド
吸入ベータ2作用剤(クレンブテロールをのぞく)
利尿剤
隠蔽剤:プロベネシド
糖質コルチコイド
ベータ遮断剤
アルコール
30
社団法人 埼玉県薬剤師会
監視プログラム
禁止物質に掲載されていないもののうち、競
技における薬物乱用パターンを把握した方が
得策とWADAが判断したもの
→使用報告または存在の検出があった場合で
も、ドーピング違反は成立しない
監視対象物質
○ 興奮剤 (競技会検査のみ)
カフェイン、フェニレフリン、フェニルプロパノール
アミン、ピプラドロール、プソイドエフェドリン、シネ
フリン
○ 麻薬性鎮痛剤 (競技会検査のみ)
モルヒネ・コデイン比
31
社団法人 埼玉県薬剤師会
モルヒネ・コデイン比について
カフェインについて
昨年の禁止リストには、カフェインが興奮剤として
禁止物質となっていたが、今年は監視プログラム
に移行している。
種目別の使用状況として検査結果が報告され、使
用頻度が高い場合、来年以降禁止物質になる可能
性がある。
32
社団法人 埼玉県薬剤師会
ドーピング検査とは
選手から提出を受けた尿や血液をWADA
公認検査機関で分析すること
焦点を絞った検査の実施について
アンチ・ドーピング機関は、次の点を考慮して焦点
を絞った検査を実施する
予定された競技会からの辞退あるいは欠場
引退予定あるいは引退からの復帰
急激なパフォーマンスの向上
嫌疑のある競技者で居場所を変更したもの
第3者からの確実な情報
等
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社団法人 埼玉県薬剤師会
競技会検査の流れ(尿検査)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
通
告: 以後エスコートが通告選手に付き添う
出
頭: 通告後1時間以内に検査室に入室
水分補給: 待合い場所で密閉された飲料を自由に補給
採尿カップの選択: 複数のものから自ら選択
尿の採取: 同性の係官の監視のもと75ミリットル以上
自ら採取
検体保存用ボトルの選択: 複数のものから自ら選択
尿の分割・封印: 自らボトルに採取尿を分割し、封印
pH及び比重の測定: 比重が一定基準以下は再採尿
使用薬物の申告: 3日以内に使用した薬やサプリメント
の申告
公式記録書の確認・署名・控えの受取り
競技会検査の流れ(選手必携書から)
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社団法人 埼玉県薬剤師会
血液検査について(競技会ごと規定)
ペプチドホルモン、特にエリスロポエチン検出のた
め導入されている
(一般的に血液検査でヘモグロビンとヘマトリック値
が同時に高値を示す選手をスクリーニングし、検
査時間を要する尿エリスロポエチン検査を効率よ
く実施するために導入されている)
→陸上や水泳などのいくつかの種目では新記録公
認の前提として最初から尿エリスロポエチン検査
を義務付けるようになっている
競技会検査の流れ(血液検査)
(1) 通
告: 以後エスコートが通告選手に付き添う
(2) 出
頭: 通告後1時間以内に検査室に入室
( 3 ) 休息時間: 待合い場所で少なくとも10分間快適な状態を提供
( 4 ) 採取キットの選択: 複数の検体採取キットから自ら選択
( 5 ) 血液採取: 血液採取役員が、競技者のパフォーマンスに悪影響を与
えないであろう部位の表層静脈から採取
( 6 ) キットの密閉: 自らキット内に採取検体を密閉
※ 競技者から最初に採取した血液量が不十分の場合、血液採取役員は1から5の手
順を繰り返す。最大試行回数は3回とし、全試行に失敗した場合採取を中止し、当
該事項と中止した理由を記録
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社団法人 埼玉県薬剤師会
ドーピング違反となった場合
次の処置が行われる
失効
参加競技結果の無効
資格剥奪
競技その他の活動への参加禁止
暫定的資格停止
公聴会において最終的な判断が下されるまで
の暫定的な競技への参加禁止
ドーピング違反処置の実施条件(検査陽性時)
次の場合処置が行われる
・A検体から禁止物質が検出され、本人がその使用を
認める
・本人がB検体の確認検査を要求し、B検体もA検体と
同様禁止物質が検出されたとき
※ 処置決定の前に弁明の機会(聴取会)が与えられる
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社団法人 埼玉県薬剤師会
選手の資格剥奪期間(違反回数で異なる)
禁止物質の体内での存在、禁止物質・方法の使用およ
び企て、禁止物質・方法の所持、通知後の採取拒否あ
るいは回避、検査の不正操作に違反した場合
○ 1回目の違反: 2年間の資格剥奪
○ 2回目の違反: 一生涯にわたる資格剥奪
※ この他に競技団体よって異なる場合がある
選手の資格剥奪期間(指定物質の場合)
指定物質の体内での存在が確認された場合は、競
技力向上の目的で使用したのではないことを競技者
が証明できれば、剥奪措置が緩和される。
○ 1回目の違反 : 最長1年の資格剥奪
○ 2回目の違反 : 2年間の資格剥奪
○ 3回目の違反 : 一生涯にわたる資格剥奪
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社団法人 埼玉県薬剤師会
選手の資格剥奪期間(競技外検査拒否等)
居場所情報についての違反や競技外検査拒否違反の
場合、検査を管轄するアンチドーピング機関又は居場
所情報を受理できなかったアンチ・ドーピング機関が定
めた規則に基づき資格剥奪期間が課せられる
○ 1回目の違反 : 機関規則による
(最低3ヶ月から最長2年)
○ 2回目の違反 : 機関規則による
※ アンチ・ドーピング機関の規則によっても異なる
競技支援要因等の資格剥奪期間
禁止物質の不正取引、競技支援要因(コーチ等)による
違反となる行為の支援、助長、教唆、隠蔽などおよびそ
の企てに違反した場合
○ 最低4年間から最長一生涯の資格剥奪
未成年を巻き込んだドーピングの場合
○ 一生涯にわたる資格剥奪
(行政機関や司法機関への報告が行われることあり)
38
社団法人 埼玉県薬剤師会
チームに対する処置
競技大会開催期間中、団体競技種目のチー
ム構成員の中にアンチ・ドーピング規則違反
を2人以上犯した場合、当該チームに対し
失効処分等発動することができる
※ 競技団体よって異なる
無過失または無不注意による違反
禁止物質の体内での存在、禁止物質・方法
の使用および企てによる違反についは、自
己の違反に関する過失あるいは不注意が無
かった旨を立証した場合、該当する資格剥
奪期間が免除される
→自分自身が全く疑いも抱いておらず、かつ
細心の注意をもっても合理的な観点から知
り得なかった旨を競技者が立証した状態
39
社団法人 埼玉県薬剤師会
無過失または無不注意が立証される例
相当の注意を払ったにもかかわらずライバルから
妨害を受けた旨を競技者が立証できる場合
《資格剥奪期間が全面的に免除とならない場合》
○ビタミン剤や栄養補助食品の品質悪化や誤った
表記が原因
○競技者本人に開示することなくトレーナーや主治
医が禁止物質を投与した場合
○競技者の知人等が競技者の飲食物を故意に改
質した場合
重い過失または重い不注意がない違反
完全に無過失とは認められないものの、違反の実
質的な原因が自己の過失でない旨競技者によって
立証された場合、資格剥奪期間が短縮される。
ただし、短縮後の資格剥奪期間は、最低剥奪期間
の半分未満になってはならない(一生涯の場合は8
年を下回らない)
なお、検査の不正操作に違反した場合は、この措
置はなされない
40
社団法人 埼玉県薬剤師会
重い過失または重い不注意がない違反
禁止物質の体内での存在による違反については、
自己の体内に禁止物質が入ってきた過程を競技者
が立証しなければ、資格剥奪期間は短縮されない
《資格剥奪期間が短縮される可能性がある例》
○禁止物質と無関係の供給元から購入した総合ビ
タミン剤の品質が悪化していたため検査結果が
陽性となり、他の栄養補助食品を摂取しないよう
注意していたことを競技者本人が明確に立証した
場合
禁止物質の治療目的使用の適用措置(TUE)
次の申請を事前に所定の用紙を用いて行い、治療目的
の使用が認定された場合、例外的に禁止物質を使用でき
る。ただし、他に治療法がなく、使用しても競技力を高め
ないものに限定される。
標準申請:
代替薬物がないため、禁止物質を治療目的に使用す
る旨を申請する場合
略式手続:
ベータ2作用薬(喘息予防・処置薬)吸入剤の一部や糖
質コルチコイドの局所使用を治療目的のため使用する
場合
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社団法人 埼玉県薬剤師会
治療目的使用の適用措置(TUE)の申請書類
標準申請
略式手続
提出書類
標準申請書
略式申請書
作成者
医師
医師
記載項目 代替薬剤が使えない理 代替薬剤が使えない理由、
由、投与量、頻度、経路、 投与量、頻度、経路、期間
期間、臨床検査成績等 等
署名者
作成医師、申請選手
作成医師、申請選手
備
考 審査により、使用が許可 不備のない書類が受理され
た時点で有効(審査はない)
されないことがある
特定競技でTUE申請が認められない物質
体重階級別競技と減量が競技力強化につながる次の
競技は、利尿剤のTUEは認められない。
ボディビルディング、ボクシング、柔道、空手、
パワーリフティング、ボート、スキー、テコンドー
ウエイトリフティング、レスリング、武術
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社団法人 埼玉県薬剤師会
認められていたTUE申請が無効になる場合
競技者の尿中に禁止物質が限界値又はそれ以下
の水準で存在し、かつ利尿剤が検出された時には、
TUEによる禁止物質の治療目的の使用は承認無効
となる
TUEによる承認があっても違反となる場合
ベータ2作用薬のうち、サルブタモールはTUEに
より使用が認められても、硫酸塩でないサルブタ
モールの尿中濃度が1,000ng/mLを超えた場合
ドーピング違反となる
ただし、基準値を超えた原因が、治療目的による吸
入である旨競技者が立証した場合はこの限りでない
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社団法人 埼玉県薬剤師会
国体でドーピング検査を行う理由
WADA常任理事国の中でドーピング検査の実
施数が少ないとの指摘を受けているため、国内
最大の総合体育大会にて実績数を上げる
国際標準に遵守した競技記録として扱われ大
会の価値が高まる
各競技団体や都道府県体育協会等の関係団
体のアンチ・ドーピング活動の推進が図れる
多くの競技者が関心を持つようになる
国体におけるドーピング検査とは
選手自ら採取した尿の提出を受け、これを
WADA公認検査機関で分析すること
→日本では、三菱化学BCLが公認検査機関
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社団法人 埼玉県薬剤師会
国体における競技会検査と競技外検査
競技会検査
競技外検査
検 査 日
出場競技開催日
宿泊先到着から
国体開催期間中
検査場所
各競技場
宿泊先や研修先等
対象選手
競技終了後すみやかに 遅くとも検査2日前まで
への通告
目
競技を終了した選手の トレーニング期間中の不
的 体内に禁止物質が存在 正を防ぎ、競技者のク
しないことを証明する
リーンさを証明する
治療目的使用の適用措置(TUE)の申請書類
(申請先および申請期限は、今国体の場合)
作成者
標準申請
略式手続
医師
医師
記載項目 代替薬剤が使えない理由、投与量、 代替薬剤が使えない理由、投
頻度、経路、期間、臨床検査成績等 与量、頻度、経路、期間等
署名者
申請先
申請期限
作成医師、申請選手
作成医師、申請選手
都道府県体育協会へ郵送
夏季:8月10日、秋季:9月21日
許可時
治療目的使用の承認書
送付書類
備
考 日本アンチ・ドーピング機構の審査
により、許可されないことがある
大会直前
受信証明書
不備のない書類が受理された
時点で有効 (審査はない)
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社団法人 埼玉県薬剤師会
治療目的での糖質コルチコイドの局所使用
昨年の国体では糖質コルチコイドを局所使用する
場合、書面による事前申請は必要なかったが、今
年は略式手続を行わなければ使用出来ない
また、経口、経直腸内、経静脈、筋肉内投与などの
全身投与に該当する場合は、昨年同様標準申請が
必要となる
治療目的でのインスリンの使用
昨年は略式申請の対象であったインスリンが、今
年は標準申請の対象に変更となっている
申請期日が設けられているため、昨年のような大
会直前の申請は認められないので注意が必要
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社団法人 埼玉県薬剤師会
オリンピックにおける競技会検査について
47
社団法人 埼玉県薬剤師会
48
社団法人 埼玉県薬剤師会
オリンピックにおける検査数について
49
社団法人 埼玉県薬剤師会
「うっかりドーピング」とは
選手がドーピング禁止物質を含有することを
知らずに医療薬を使用することや市販薬等を
購入・使用すること
主な疾患治療薬に含まれうる禁止物質(1)
疾患名
含まれうる禁止物質
主な投与方法
感冒(主に咳)
興奮剤(エフェドリンなど)
内服
気管支喘息
興奮剤
ベータ2作用薬
糖質コルチコイド
内服、吸入、貼付
アレルギー、炎症
糖質コルチコイド
(花粉症、蕁麻疹など)
内服、点眼、点鼻、
点耳、塗布
糖尿病
ペプチドホルモン(インスリン)
注射
高血圧
隠蔽剤(利尿剤)
ベータ遮断薬
内服
浮腫
隠蔽剤(利尿剤)
内服
痛風、高尿酸血症
隠蔽剤(プロベネシド)
内服
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社団法人 埼玉県薬剤師会
主な疾患治療薬に含まれうる禁止物質(2)
疾患名
含まれうる禁止物質
主な投与方法
ネフローゼ症候群
隠蔽剤(利尿剤)
糖質コルチコイド
内服
痔疾
糖質コルチコイド
塗布、直腸内
緑内障
アセタゾラミド
イソソルビド
隠蔽剤
(利尿剤)
アセタゾラミド
内服
婦人科疾患
蛋白同化男性化剤
抗エストロゲン作用薬
内服、注射
男性不妊症
蛋白同化男性化剤
内服、注射
メニエル病
てんかん
睡眠時無呼吸症候群
禁止物質が含まれる主な市販薬
含有禁止物質
かぜ薬・咳止め
エフェドリン類等
胃腸薬 ・ 滋養強壮薬
ストリキニーネ
便秘治療薬
エフェドリン類
鼻炎薬
エフェドリン類
眼薬 (充血改善)
エフェドリン類
痔治療
ヒドロコルチゾン等
虫さされ塗布剤
デキサメタゾン等
口内炎治療薬
トリアムシノロン等
皮膚炎治療塗布剤
プレドニゾロン等
滋養強壮薬(塗布・ドリンク剤等)
メチルテストステロ
ン等
毛髪用薬
該当分類
興奮剤
糖質コルチコイド類
蛋白同化剤
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社団法人 埼玉県薬剤師会
サプリメントなどの対応
○ 原則「自己責任」使用
ビタミン単独ならば問題ないが、多くの商品が含
有物質を明らかにしていないため
○ ドーピング検査時に、採尿票に正しく申告
○ JADAオフィシャルスポンサーシッププログラムに
よって認定された商品は、使用可能
詳しくは、JADAホームページ
http://www.anti-doping.or.jp
「うっかりドーピング」を防止するには
○ コーチ、顧問医に使用前に確認する
→宿泊先で提供を受けた常備薬等にも注意を払う
○ 受診時や市販薬の購入時に、医師・歯科医師
や薬剤師に、次のことを申し出る
国体参加選手であること
参加競技名
○ 海外製のサプリメント等の摂取を控える
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社団法人 埼玉県薬剤師会
アンチ・ドーピング相談活動協力会員
埼玉県薬剤師会は、「うっかりドーピング」を
防止すべく、責任を持って相談に応じれる薬
局・薬店をアンチ・ドーピング相談活動協力
店舗として認定している
→禁止物質を含まない市販薬は数多くある。市販
薬を購入・使用する際は、必ず店頭薬剤師に相
談すること
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