紫外線による健康影響 地球環境特論④ フロンとオゾン層破壊問題を考える ゆるやかに進行する全面核戦争 人類がはじめて引き返しに成功した事例 年間100万人当り 8人の増加 滋賀県立大学環境科学部 井手慎司 http://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_pdf/02.pdf オゾンホールの最大面積の推移 (NASA提供のTOMSデータVer.8を基に算出) オゾンは,ドブソンユニット(DU)という単位で測定する.人工衛星から の測定や,南極基地から風船を付けて飛ばしたオゾン測定器で測定し たオゾン全量[太陽を光源とし地表から成層圏までの空間を単位面積 を持つ柱と想定し,その中に含まれるオゾン量]が220DUに満たない 部分をオゾンホールと定義する. DU(Dobson Units: ドブソン単位)とは大気中のオゾンを標準状態(0℃, 1気圧)のもとに層積したと仮定した時のオゾン層の厚さを0.01 mm単 位で表したものをいう.たとえばオゾンホールの定義である220 DUは 2.2 mmの厚さに相当する. 通常のオゾンレベルは,熱帯地方では年間を通じて250〜300DUの間 にある.温帯地方では,季節の変化によってかなり変動するが,高い ところで475DU,低いところでも300DUはある. 3500 3000 万km2 2500 2000 南極大陸面積 1500 1000 500 0 1975 < 220DU 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 オゾンホールの定義 年 気象庁報道発表資料 フロンガス フロンとは商品名の和製英語 クロロフルオロカーボン (CFC)(フッ素化合物)の 特徴:有機化合物分子中 の水素をフッ素で置換した 物質.フッ素と炭素原子と の結合は電気陰性度が もっとも高く,耐熱性や低 熱伝導性,揮発性,不燃 性,耐腐食性,電気絶縁 性,溶解性などに優れる. Cl Cl Cl C C F F F CFC113の分子構造 Thomas Midgley, Jr (1889-1944) 1922年 ガソリンへの 四エチル鉛の添加を 考案 1928年 フロンを開発 1941年 米化学学会 プリーストリー賞受賞 百の桁は(炭素数-1),十の桁は(水 素数+1),一の桁は(フッ素数) 6 1 フロンガスを巡る年表 1928:ジェネラルモータース社の技師,トーマス・ミッジリー (1889-1944)が電気冷蔵庫の冷媒(アンモニアの代替ガ ス)としてフロンを開発. 1930:ミッジリーは,アメリカ化学会でフロンがいかに無害・ 無毒であるかを示すために,胸一杯にこのガスを吸い込 み,ローソクの炎を吹き消して見せた. 1931:ジェネラルモータース社とデュポン社の合弁会社が フロン12およびフロン11を「フレオン」の商品名で製造開始. 1970:J.E.ラヴロック(ガイア仮説の提唱者)が電子捕獲型 ガスクロマトグラフ検出器(ECD)で大気中のフロンをはじ めて検出.デュポン社が大気中のフロン調査を開始. フロンガスを巡る年表 1977:国連環境計画(UNEP)オゾン問題調整委員 会が発足. 1978:フロンを噴射剤とするエアゾール製品の製 造禁止(米).→世界のフロン製造量は一時25% 減少.しかし,特に電子産業分野での消費量が増 加を続け,80年代中頃には,75年のピーク時に匹 敵する製造量に. フロンガスを巡る年表 1974:ミシガン大シセロン博士が,成層圏の塩素原子が強 力なオゾン破壊物質である可能性を指摘. カリフォルニア大ローランド教授およびモリーナ博士が,フ ロンガスが成層圏に達して分解され,塩素原子を放出,こ の塩素原子がオゾン層を破壊しているとの仮説を発表. ( 1995年ノーベル化学賞) (米)環境保護団体がエアゾールスプレー缶を糾弾 売上60%減少 「塩素とオゾンの関連性に関する仮説は,現段階では推測 の域を出ていない.もしフロンの危険性が科学的に証明さ れたならば,その時点でわが社は生産を中止する」デュポ ン社の議会答弁. 世界で報告されている CFC-11およびCFC-12の生産量 1974 1982 最も広く利用されている上記2 種類のフロン生産量は,オゾ ン層への影響を説いた最初 の論文が発表される1974年 までは急激に増加していた. その後は,フロン含有エア ゾールスプレーを標的とした 環境保護運動の影響で減少 している.そして78年,アメリ カ合衆国でついにフロン含有 エアゾールが禁止される.と ころが,82年以降は,エア ゾール以外の用途でのフロン 需要が増え,総生産量も再び 増加している.(出所: Chemical Manufacturers Association) 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 フロンガスを巡る年表 1980:大統領がレーガンとなり,デュポン社は代替 フロン研究を中断. 1984:イギリス南極調査団が,南極上空の成層圏 でオゾンが40%減少していることを観測. 南極ハレー湾におけるオゾン測定(1985) 1985:ファーマンらが,南極 大陸上空のオゾン減少を発 見 南半球が春を迎え,太陽が 戻る10月に測定した南極ハ レー湾上空のオゾン量は, オゾンホールの存在を告げ る論文が発表された1985年 より10年以上も前から減少 を続けていた.(出所:J.C. Farman et al.) 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 2 フロンガスを巡る年表 反応性塩素の増加と南極のオゾン量の減少 1985:ウィーンでオゾン層保護(ウィーン)条約が採択. 1985:アメリカ航空宇宙局(NASA)がニンバス7号宇宙衛 星の記録から「オゾンホール」の存在を確認. 1987:「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール」 議定書調印→特定フロンの世界生産量を1986年水準に凍 結,93年までに20%,98年までに30%生産を削減すること に.(ただし第三世界は不参加:南北問題). 1987:アンダーソンらが,オゾンの 増減と一酸化塩素濃度の増減が対 称的となる観測結果(決定的証拠) を発表. NASAの探査用航空機ER2で,南 緯53度にあるチリのプーンタ・アレ イナス(Punta Arenas)から南緯72度 の地点に向けて飛行した際に,搭 載された計器で一酸化塩素とオゾ ンの濃度を同時に測定した.上の データは1987年9月16日の記録で ある.飛行機がオゾンホールに入る と,一酸化塩素の濃度が通常レベ ルの500倍にまで増え,逆にオゾン 濃度は急激に減少した.(出所: J.G. Anderson et al.) 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 フロンガスを巡る年表 1987:アンダーソンらの観測結果の発表.→デュポン社,フ ロンの製造を全面停止に向けて漸減することを発表. 米とEU加盟国は2000年までに特定フロンの生産をすべて うち切ることを決定. 1990:ロンドン改正:特定フロン+メチルクロロフォルム,四 塩化炭素,ハロンを含むすべてのフロン生産を2000年まで に段階的に撤廃することを決定.代替フロンへの技術的移 行を助ける国際基金の設立によって第三世界も参加. 1991:NASAが北半球上空のオゾンホールを発表. 地球における酸素オゾンの生成と生物の進化 バークナー・マーシャル仮説 (R.P. Wayne, Chemistry of Atmospheres, 1985, p.338 より構成) オゾン層の誕生 「オゾン層を守る」環境庁「オゾン層保護検討会」編,NHKブックス 大気による紫外線吸収 オゾン層の役割 太陽から入射する紫外線はほとんどす べて大気中の酸素とオゾンによって吸収 される.(出所:UNEP) 成層圏中のオゾンが減少→地表に達す る紫外線量が増加.→ 皮膚ガンや白内障による失 明の増加,免疫力の低下, 食糧生産の減少,海洋で魚 の減少などの可能性が増加 フロンはどのように成層圏 のオゾンを破壊するか 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 成層圏に達したフロン分子(CFCl3) は,紫外線(UV-B, C)に分解され 遊離塩素原子(Cl)を放出する.そ の塩素原子がオゾン(O3)と反応し て一酸化塩素(ClO)を生む.次に ClOが酸素原子(O)と反応するとま たClができ,再びオゾン原子との反 応が可能になる.こうしてオゾン破 壊のサイクルが繰り返される. 平均的な塩素原子は成層圏から消 えるまでに約10万個のオゾン分子 を破壊する. フロンの盲点は安定しすぎていた 点.だから塩素原子が成層圏にま で達した.(到達までに平均15年) 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 3 オゾンを破壊する主要な化学物質の 用途・生産量・大気中の滞留時間 化合物の名称 *特定フロン *CFC-11 *CFC-12 化学式 オゾン 層破壊 係数 CFCl3 1.0 CF2Cl2 *CFC-113 CCl3CF3 *CFC-114 用 途 1985年度の 世界生産量 (トン) オゾン層保護に向けた流れ 大気中での 滞留時間 (年) 298,000 65-75 冷蔵・エアゾール・発泡・殺菌・ 0.9-1.0 食品の冷凍・熱探知・警報装 置・化粧品・加圧噴射器 438,000 100-140 0.8-0.9 溶剤・化粧品 138,500 100-134 冷蔵・エアゾール・発泡 CClF2CClF2 0.7-1.0 冷蔵 *CFC-115 CClF2CF3 0.4-0.6 ハロン1301 CBrF3 10.013.2 ハロン1211 CClBrF2 HCFC-22 CHClF2 0.05 メチルクロロフォルム CH3CCl3 0.15 四塩化炭素 CCl4 1.2 300 冷蔵・トッピングのホイップク リームの安定剤 500 消火 2,600 2.2-3.0 消火 2,600 15 81,200 16-20 溶剤 499,500 5.5-10 溶剤 71,200 50-69 冷蔵・エアゾール・発泡・消火 110 成層圏到達までのタイムラグ+長い滞留時間2020年ごろから回復傾向オゾンホールの解消は21世紀中ごろ 「限界を超えて」ドネラH.メドウズ他,ダイヤモンド社 オゾン層保護のための国際法 1985「オゾン層の保護に関するウィーン条 約」 1987「オゾン層を破壊する物質に関するモン トリオール議定書」 南北問題/途上国支援基金 一部科学者による警告→世論の高まり(米国)/産 業界の抵抗 科学的データの登場→条約・議定書採択(国際ルー ルの変更)→科学的確証→産業界の方向転換(企業 イメージ保護,法的責任回避,次期市場シェア獲得, 国際的基準を求めて) 欧州業界の同調(米国オゾン関連法案) 途上国の懐柔「議定書に従うために発生したと認め られた増加費用のすべて」を先進国が返済する. フロン製品の非締約国への売買禁止 途上国も輸出のために廃止スケジュールを前倒し 環境条約締結の流れ 採択→(公開)署名→ →批准(承諾・承認)→発効条件 →発効→締約国会議(COP) 1990「ロンドン改正」 コペンハーゲン改正(1992)/ウィーン改正(1995)/モントリオール改正 (1997)/北京改正(1999)/モントリオール改正(2007) 気候変動に関する条約締結の流れはオゾン層保護 に関する条約作りの流れをモデルとしている 代替フロンからノンフロンに 特定フロン(クロロフルオロカーボン類: CFC) 代替フロン 高い温室効果 ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類 モントリオール議定書において,先進国では2020年 までに,開発途上国では2030年までに生産を中止 ハイドロフルオロカーボン(HFC)類 京都議定書の削減対象物質(温室効果ガス)に わが国においては「特定物質の規制等に よるオゾン層の保護に関する法律(オゾン 層保護法)」(1988年制定,最近改正2000 年)に基づき,クロロフルオロカーボン (CFC)をはじめ,主要なオゾン層破壊物 質は,生産が全廃されている. また,フロンを大気中にみだりに放出する ことを禁止するとともに,機器の廃棄時に おける適正な回収及び破壊処理の実施等 を義務づけた「特定製品に係るフロン類の 回収及び破壊の実施の確保等に関する 法律(フロン回収破壊法)」が2001年6月15 日に成立,同月22日に公布された. 本法律の対象は,自動車のカーエアコン と業務用冷凍空調機器に冷媒として使用 されているCFC,HCFC,HFCの3種類のフ ロン. 本法律は,ユーザー,フロン類回収業者, フロン類破壊業者などがそれぞれの役割 分担の下,適切にフロンの回収・破壊処 理を進めていくことを目的とする. 業務用冷凍空調機器のフロン回収等につ いては,2002年4月1日から,カーエアコン のフロン回収等については,2002年10月1 日から施行. 進まない(低い)フロン回収率+温暖化防 止のため2006年改正 4
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