欧州通貨統合ユーロ

欧州通貨統合ユーロ
EUにおける企業と市場(小川)2014
1
欧州通貨同盟


単一共通通貨ユーロの導入
EUの経済通貨同盟(EMU)の最終段階
1999年1月1日よりEU(発足当時11か国。現在、18か国。
2015年1月1日よりリトアニアが参加して、19か国。)が金
融取引においてユーロを導入。2002年1月1日よりユーロ
紙幣・硬貨が流通。

通貨同盟参加のための収斂条件
①インフレ率、②為替相場の安定、③金利、④財政赤字
と政府債務

欧州中央銀行制度(ESCB)
欧州中央銀行(ECB)と各国中央銀行によって組織
EUにおける企業と市場(小川)2014
2
単一共通通貨ユーロの導入
1999年1月1日より経済通貨同盟(EMU: Economic and Monetary
Union)の第3段階に入る。EU(発足当時11か国。現在、18か国。
2014年1月1日より19か国。 )が金融取引においてユーロを導入。
 2002年1月1日よりユーロ紙幣・硬貨が流通。
 ユーロ導入国:
ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリ
ア、フィランド、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルグ、ギリシア、
スロベニア、マルタ、キプロス、スロバキア、エストニア、ラトビア。
【2015年1月1日より、リトアニアが参加】
(参考)ECB, Convergence Report, June 2014
http://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/conrep/cr201406en.pdf 。
【未参加:イギリス、スウェーデン、デンマーク、新EU7か国[ポーランド、
チェコ、ハンガリー、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、クロアチ
ア]。その内、ERMⅡ国は、デンマーク、リトアニア】

EUにおける企業と市場(小川)2014
3
ユーロとその導入国
リトアニア
Source: European Central Bank
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4
世界の外貨準備に占めるユーロ
Source: ECB, The International Role of the Euro, July 2011
EUにおける企業と市場(小川)2014
5
経済通貨同盟(EMU)の3段階ア
プローチ
出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01
EUにおける企業と市場(小川)2014
6
経済通貨同盟:3段階アプローチ



第1段階(1990年7月~1993年12月):域内市場統合が促進さ
れ、「人、もの、サービス」の移動の完全自由化が図られた。一
方、通貨統合への準備として中央銀行総裁会議の機能が強化。
第2段階(1994 年1月~1998年12月):マクロ経済政策の協調
が強化された。経済収斂基準が達成されることが要求された。
一方、欧州通貨機構(EMI)が創設され、単一の金融政策の運
営に向けて着実に準備を進めた。
第3段階( 1999年1月1日~):経済通貨統合が促進され、単一
通貨ユーロが導入され、欧州中央銀行による単一の金融政策
が実施されている。さらに、2002年1月1日にユーロの紙幣と硬
貨が流通し始めた。ユーロの紙幣と硬貨の流通とともに、各国
通貨が回収され、EU諸国内で単一の共通通貨ユーロのみが流
通するという完全な通貨同盟が完成した。
EUにおける企業と市場(小川)2014
7
収斂条件




過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3か国の
平均値+1.5%以内であること、
為替相場は、少なくとも2年間、為替相場メカニズム
(ERM)の許容変動幅内にあって、切り下げがないこ
と
金利については、過去1年間、インフレ率が最も低い
3か国の長期金利の平均値+2%以内であること
国内総生産(GDP)に対して財政赤字が3%以内で
あり、GDPに対して政府債務が60%以内であること
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8
表1:ユーロ導入直前(1998年)の収斂条件
調整消費者物価
長期金利(%)
指数上昇率(%)
一般政府財政収
一般政府債務残
支 の 対 名 目
高 の 対 名 目
GDP 比(%)
GDP 比(%)
基準値
2.7
7.8
-3.0
60.0
ベルギー
1.4
5.7
-1.7
118.1
デンマーク
1.9
6.2
1.1
59.5
ドイツ
1.4
5.6
-2.5
61.2
ギリシア
5.2
9.8
-2.2
107.7
スペイン
1.8
6.3
-2.2
67.4
フランス
1.2
5.5
-2.9
58.1
アイルランド
1.2
6.2
1.1
59.5
イタリア
1.8
6.7
-2.5
118.1
ルクセンブルグ
1.4
5.6
1.0
7.1
オランダ
1.8
5.5
-1.6
70.0
オーストリア
1.1
5.6
-2.3
64.7
ポルトガル
1.8
6.2
-2.2
60.0
フィンランド
1.3
5.9
0.3
53.6
スウェーデン
1.9
6.5
0.5
74.1
1.8
7.0
-0.6
52.3
イギリス
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9
ユーロ圏諸国のインフレ率
図1:ユーロ圏諸国のHCPIインフレ率
9.0%
8.0%
7.0%
ベルギー
ドイツ
ギリシア
スペイン
フランス
アイルランド
イタリア
ルクセンブルグ
オランダ
オーストリア
ポルトガル
フィンランド
6.0%
5.0%
4.0%
3.0%
2.0%
1.0%
0.0%
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
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10
ユーロ圏諸国の長期金利
図2:ユーロ圏諸国の長期金利(10年物国債)
25
20
ベルギー
ドイツ
ギリシア
スペイン
フランス
アイルランド
イタリア
オランダ
オーストリア
ポルトガル
フィンランド
15
10
5
0
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
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11
ユーロ圏諸国の財政赤字
図3:ユーロ圏諸国の財政赤字(対GDP比)
10
5
ベルギー
ドイツ
ギリシア
スペイン
フランス
アイルランド
イタリア
ルクセンブルグ
オランダ
オーストリア
ポルトガル
フィンランド
0
-5
-10
-15
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
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12
ユーロ圏諸国の政府債務
図4:ユーロ圏諸国の政府債務(対GDP比)
%
160
140
120
ベルギー
ドイツ
ギリシア
スペイン
フランス
アイルランド
イタリア
ルクセンブルグ
オランダ
オーストリア
ポルトガル
フィンランド
100
80
60
40
20
0
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
EUにおける企業と市場(小川)2014
2004
13
欧州中央銀行制度



欧州通貨同盟においては、各国中央銀行が欧州中央銀行の
下で一元的な金融政策を行っている。
欧州中央銀行は、通貨同盟に参加している各国中央銀行を
統合する機関として位置づけされている。欧州中央銀行とEU
加盟国の各中央銀行から構成される組織を欧州中央銀行制
度(ESCB)と呼ばれる。欧州中央銀行と各国中央銀行との関
係は、欧州中央銀行の政策決定に従って、各国中央銀行が
金融調節の政策を遂行。
なお、欧州中央銀行の金融政策に関する最高意思決定機関
である理事会には、各国中央銀行総裁も構成員として参加
する。なお、ユーロ未導入国の中央銀行は、欧州中央銀行制
度のメンバーであるものの、独自の金融政策の運営が許され
ているとともに、ユーロ導入諸国の共通の金融政策の決定及
び運営には加わることができない。
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14
ECBと各国中央銀行
欧州中央銀行制度
ECB
理事会
【政策決定】
各国中央銀行
各国中央銀行
各国中央銀行
各国中央銀行
EUにおける企業と市場(小川)2014
【政策運営】
15
欧州中央銀行の政策目標



欧州中央銀行は、その主要な政策目標を物価安定の維
持としている。
より具体的には、通貨同盟に参加している諸国の消費者
物価指数である調整消費者物価指数(Harmonised
Index of Consumer Prices; HICP)が中期的に2%を下
回ることを目標としている
物価安定の維持の政策目標を達成するために、マネー・
サプライ成長率を重視し、マネー・サプライ成長率の参照
値を公表する。また、他の金融経済指標についても、マ
ネー・サプライ動向とともに、観察することになっている。
EUにおける企業と市場(小川)2014
16
欧州中央銀行の金融政策手段

(1)
(2)
欧州中央銀行は、金融政策を遂行するための金融政策手段
として、常設ファシリティと公開市場操作を有している。
常設ファシリティ:オーバーナイトの資金を供給・吸収すること、
金融政策スタンスに関するシグナルを発出すること、オー
バーナイト市場金利の上限及び下限を画することを、その目
的としている。
公開市場操作:金利水準の誘導、市場における流動性の調
節、金融政策スタンスに関するシグナルの発出を、その目的
としている。公開市場操作を実施するに際しては、レポ取引
(売戻あるいは買戻条件付き売買を中心としている。
EUにおける企業と市場(小川)2014
17
最適通貨圏


最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共
通通貨を利用することが適している地域。
各国間で非対称的ショックが発生したとき
に、通貨統合後は、為替相場以外の手段
で非対称的ショックによって生じる各国経
済間の不均衡を調整する必要がある。
EUにおける企業と市場(小川)2014
18
非対称的ショックに対する対応
A国
好況
為替相場による調整
労働の移動
A国通貨増価
貿易
B国通貨減価
財政移転
労働者不足
B国
不況
失業
EUにおける企業と市場(小川)2014
19
最適通貨圏の基準




ショックの対称性
労働の移動性
貿易面における経済の開放度
財政移転
EUにおける企業と市場(小川)2014
20
ショックの対称性


非対称的な供給ショック
為替相場以外の調整が必要となる。
非対称的な需要ショック
自然失業率仮説から言えば、長期的な非
対称的な需要ショックは消失する。
EUにおける企業と市場(小川)2014
21
表2:総供給ショックの相関(1969~89年)
ドイツ
フラン
オラン
ベルギ
デンマ
オース
ス
ダ
ー
ーク
トリア
スイス
イタリ
イギリ
スペイ
ポルト
アイル
スウェ
ノルウ
フィン
ア
ス
ン
ガル
ランド
デーン
ェー
ランド
ドイツ
1.00
フランス
0.52
1.00
オランダ
0.54
0.36
1.00
ベルギー
0.62
0.40
0.56
1.00
デンマーク
0.68
0.54
0.56
0.37
1.00
オーストリア
0.41
0.28
0.38
0.47
0.49
1.00
スイス
0.38
0.25
0.58
0.47
0.36
0.39
1.00
イタリア
0.21
0.28
0.39
0.00
0.15
0.06
-0.04
1.00
イギリス
0.12
0.12
0.13
0.12
-0.05
-0.25
0.16
0.28
1.00
スペイン
0.33
0.21
0.17
0.23
0.22
0.25
0.07
0.20
0.01
1.00
ポルトガル
0.21
0.33
0.11
0.40
-0.04
-0.03
0.13
0.22
0.27
0.51
1.00
アイルランド
0.00
-0.21
0.11
-0.02
-0.32
0.08
0.08
0.14
0.05
-0.15
0.01
1.00
スウェデーン
0.31
0.30
0.43
0.06
0.35
0.01
0.44
0.46
0.41
0.20
0.39
0.10
1.00
ノルウェー
-0.27
-0.11
-0.39
-0.26
-0.37
-0.21
-0.18
0.01
0.27
-0.09
0.26
0.08
0.10
1.00
フィンランド
0.22
0.12
-0.25
0.06
0.30
0.11
0.06
-0.32
-0.04
0.07
-0.13
-0.23
-0.10
-0.08
EUにおける企業と市場(小川)2014
1.00
22
労働の移動性

非対称的な供給ショックに対して、労働の
移動性によって対応可能。
EUにおける企業と市場(小川)2014
23
生産ショックに対する反応(1)

経済全体の生産関数(コブ-ダグラス型)
α
y = AL K

1−α
利潤最大化の条件
α −1
α AL K
1−α
α
=w
(1 − α ) AL K
−α
r
=
EUにおける企業と市場(小川)2014
24
生産ショックに対する反応(2)

労働は国際的に移動しない。

資本は国際的に移動する。
r=r
*
EUにおける企業と市場(小川)2014
25
生産ショックに対する反応(2)

生産性ショック(技術係数Aの低下)に対す
る反応
資本は、 K 0 − K 2 だけ外国に流出する。
 労働は、外国に流出・吸収されない。
もし賃金が伸縮的であれば、完全雇用では
あるが、雇用量が L0 − L2 だけ減少する。
もし賃金が硬直的であれば、失業が発生。

EUにおける企業と市場(小川)2014
26
図 6- 4a
w
D
S
L0
L
D
L1
A⇓
D
L2
K⇓
L2
L1
L
L0
図 6 -4 b
r
D
K0
D
K1
D
K2
A⇓
L⇓
r = r*
K2
K
EUにおける企業と市場(小川)2014
K
K
1
0
27
貿易面における経済の開放度



需要増大ショック←輸入増で対応
需要減少ショック←輸出増で対応
貿易面において経済が開放されていない
と、需要ショックを国内で吸収。GDPや物価
水準が変動。
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28
図 6 -5
p
AD0
AS
AD1
p0
A
B
p = p*
C
p1
y
y1
y2
y0
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29
財政移転



好況の国で得られた租税を不況の国に補助金と
して支払う。
国際的な財政移転が可能となるためには、財政
政策における国際政策協調や各国の財政主権
の統合が必要。
EUにおいては、リスボン条約において財政移転
を禁止。しかし、欧州安定化メカニズム
(European Stability Mechanism: ESM)は、20
12年10月に恒常的設立。
EUにおける企業と市場(小川)2014
30
通貨統合の便益・費用
通貨統合(通貨同盟)と固定為替相場制度
の区別
①通貨統合は恒久的固定相場。制度の信認
が高い。(固定為替相場制度は固定相場
の調整の可能性がある)
②通貨統合は各国の中央銀行(の裁量)は
事実上存在しない。

EUにおける企業と市場(小川)2014
31
通貨統合の費用



最適通貨圏の条件を満たさない場合にお
ける非対称的供給ショックの影響
通貨主権の放棄、金融政策の独立性の放
棄、「最後の貸し手」の不在。
財政収入源の1つである通貨発行利益
(seignorage)の放棄。
EUにおける企業と市場(小川)2014
32
通貨統合の便益
通貨交換に関わる取引費用の節約。
交換手段としての機能(ネットワーク外部
性)
価値尺度としての機能
 外国為替リスクの除去。
国内金利のリスク・プレミアムの軽減
ペソ問題の解消

EUにおける企業と市場(小川)2014
33
EUの財政規律:安定成長協定

(1)
(2)
安定成長協定(Stability and Growth Pact)は、財政規律の
遵守を求めて、過剰財政赤字手続きの実質的な適用を図る。
欧州委員会及び閣僚理事会は、加盟国の財政状況を相互
に監視するための手段として、「安定計画」の策定をユーロ
参加国に義務付けている。その「安定計画」に基づき、欧州
委員会及び閣僚理事会は、各国の財政状況を調査し、過剰
財政赤字と判断された場合には、過剰財政赤字手続きが適
用される。
過剰財政赤字手続きについて、欧州委員会及び閣僚理事会
が過剰財政赤字と判断した場合には、是正勧告が出される。
もし勧告に従わない場合には、制裁措置が当該国に適用さ
れ、財政赤字が参照値のGDP比3%を超えた度合いに応じ
て、GDPの0.2%から0.5%までの制裁措置が科される。当初
は無利子の預託金という形をとり、2年経っても超過財政赤
字の状態が是正されない場合には、罰則金として預託金が
34
EUにおける企業と市場(小川)2014
没収される。
EUにおける企業と市場(小川)2014
出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01
35
出所:放送大学『EU論』
EUにおける企業と市場(小川)2014
36
独仏への過剰財政赤字手続の適用




ドイツとフランスは、2002年より3年連続で財政赤字がGDP比
3%を超えることが見込まれたために、2003年に過剰財政赤
字手続が適用。
欧州委員会は、過剰財政赤字手続に基づく警告を採択する
ように、EU財務相理事会に提案。2003年11月25日の理事会
では、特定多数が得られず否決。2004年を達成期限としてい
た両国の3%基準の達成に1年の猶予を与え、過剰財政赤字
手続の適用を一時停止ことが理事会で合意。
2004年1月13日に欧州委員会が欧州司法裁判所へ提訴した
が、2004年7月に棄却の判決。
2005年3月20日に安定成長協定を緩和。財政赤字の算出か
らの除外項目を設置。(①東西ドイツの統一などの欧州統合
のコスト、②研究開発や雇用促進などの経済改革のコスト、
③年金改革コスト
EUにおける企業と市場(小川)2014
37
ユーロ圏諸国の財政赤字
(対GDP比)
EUにおける企業と市場(小川)2014
38
財政規律強化のための財政協
定・財政安定同盟
財政規律を強化するために、財政安定同盟の下に新し
い財政ルールを含む財政協定(Fiscal Compact)につくる。
①一般政府予算を均衡。
景気変動に影響を受ける循環的赤字を除いた、構造的赤
字についてGDPの0.5%以下。
②財政ルールを、各国の憲法あるいはそれに相当する法
律で規定。
③欧州委員会によってある国の財政赤字の上限超過を認
められたならば即時に、ユーロ圏諸国の反対がないかぎ
り、自動的に過剰財政赤字手続きが適用される自動修
正メカニズムを導入。

EUにおける企業と市場(小川)2014
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