破壊した来待砂岩の透水性変化に関する研究

資源・素材学会 平成19年度春季大会講演集(Ⅰ)資源編 講演番号3308 pp111-112 より引用
破壊した来待砂岩の透水性変化に関する研究
幌延 RISE 熊倉聡・木山保・西本壮志・石島洋二
北大工 藤井義明
1.
試験は,図 1 に示すような Case1 と Case2 の 2 種類の
はじめに
地下構造物を構築する場合,その周辺には破壊域が形成
載荷径路で実施した。以下に試験手順をまとめる。
され,透水性が増加すると考えられる。しかし,堆積岩は,
①軸差応力 0.5MPa,封圧 7MPa および間隙水圧 5MPa で
破壊しても荷重を受けることによって透水係数が破壊前
24 時間以上静置する(圧密 1)。本試験における圧密載荷
1)
の値以下に減少する場合があると報告されている 。
そこで本研究では,破壊した岩石がどのような要因で透
水性を回復するかを明らかにするために,岩石試験片に次
は,破壊後の軸ひずみを測定するためにすべて軸差応力
0.5MPa となっている。
②軸載荷は,残留強度を確認する,もしくは周変位計の
のような載荷を行い,透水性の変化を調査した。まず三軸
最大変位量 4mm に到達するまで行った(軸載荷 1)。透水
試験においてせん断破壊させ,残留強度状態まで載荷を行
試験を軸載荷前および軸載荷過程で実施した。軸載荷は,
う。そして所定の圧密応力を一定時間負荷し,その後圧密
周ひずみが-1.9×10-6/s で増加するように制御した。
応力を除荷する。これらの過程で,軸載荷前,破壊の前後,
軸載荷時における透水試験は,試験中のクリープ破壊
圧密中,圧密応力除荷後などの見掛けの透水係数を求めた。 の進行を防止するために周ひずみを一定に制御した。
③表 1 に示した圧密応力を一定時間負荷し(圧密 2),その
2.
試料岩石と被覆方法
試料岩石は,島根産の来待砂岩を用いた。一辺 30cm の
過程で透水試験を実施した。圧密 2 における載荷応力は,
基本的に残留強度相当分としたが,Case1-3 のみ残留強
立方体型岩石試料の互いに直交する 3 組の面に垂直な方
度の 50%とした。
向の P 波速度を測定した。そして,P 波速度のもっとも速
④再び圧密 1 の応力状態に戻し透水試験を実施する。
い方向をボーリングの掘削方向と一致させ,直径 50mm,
⑤Case2 の場合は,再度上記②∼④の手順を繰り返した。
高さ 100mm の円柱形に整形したものを試験に供した。
整形した試料は,デシケータ内で真空ポンプにより 3 日
透水試験は,トランジェントパルス法(近似解)により
間脱気後,その状態で蒸留水を投入し,さらに 3 日間脱気
行った。試験時には,約 0.5MPa のパルス圧を与え,上
した。その後大気圧下で,30 日以上水中養生した供試体
下の水圧ラインの差圧を計測した。本試験で得られた透
を試験に供した。
水係数はすべて見掛けの透水係数と呼ぶことにする。な
本試験で採用した供試体の被覆方法を以下に示す。被覆
材としてテフロン熱収縮チューブを使用した。供試体とエ
お,試験中の圧力容器内の温度は 24∼26℃とし,求めた
見掛けの透水係数は 16℃の値に校正していない。
Case1の載荷経路
ンドピースの間は,ステンレスメッシュ(SUS316,#200)
Case2の載荷経路
を挟み,シールテープと自己融着テープを巻き,固定した。
σ P (ピーク
強度)
供試体と被覆材間には,間隙水の側方流動防止のために,
σ c (圧密
応力)
軸載荷1
軸載荷2
圧密3
圧密1
シリコン樹脂(東芝シリコーン TSE3455)を塗布した。ただ
7
し,周変位計が接触する供試体中央部は,塗布していない。
σ3
エンドピースと被覆材はクランプ式バンドで締結した。
t1
図1
3.
圧密2
σ1
試験装置と試験方法
表1
載荷装置は MTS 社製 815 を用いた(最大軸荷重が
透水試験時箇所(概略)
t2
Time
t3
実験で採用した載荷径路
透水試験実施箇所は概略とする
圧密 2 おける載荷時間と載荷応力
ケース
圧密 2 の
載荷時間
t2
圧密 2 の
載荷封圧
ルサーボシステムで制御されている。軸ひずみ,周ひず
Case1-1
85h
み,軸アクチュエータ変位,軸荷重,封圧,間隙水圧,
Case1-2
24h
間隙水圧の差圧および封圧流体の温度を同時に測定した。
Case1-3
85h
11.6MPa
−
Case2
85h
19.3MPa
85h
4600kN,最大封圧および最大間隙水圧が 80MPa)。軸載
荷,封圧および間隙水圧の発生装置は,独立したデジタ
供試体の両端は間隙水圧のラインに接続される。
圧密 3 の
載荷応力
σc2
圧密 3 の
載荷時間
t3
19.2MPa
−
−
21.3MPa
−
−
σc3
−
17.3MPa
4.
試験結果
まとめと今後の課題
6.
図 2 に軸載荷過程(軸載荷 1)における見掛けの透水係数
本試験において来待砂岩は,破壊しても再び荷重を受
の変化の例として Case1-1 の結果を示す。軸載荷前の見掛
けることによって透水性が破壊前の値以下に減少する場
-11
けの透水係数は,k =3.35×10 m/s であった。軸圧の増加に
合が多かった。今後,同様な試験を結晶質岩にも適用し,
伴い見掛けの透水係数は一度減少し,その後,残留強度状
透水性の変化について明らかにしていきたい。
態に向かうに従って増加していく。周ひずみが-1%に達す
なお,本試験における軸載荷で形成された破壊面はすべ
て端面を通過せず,側面に到達していた。
引用文献
1)藤井ら(2006):資源・素材学会春季大会講演集資源
編,pp.103-104
表2
表 2 に本試験で得られた見掛けの透水係数の変化をま
とめる。また,図 2 には時間経過に伴う軸応力,封圧,軸
ひずみ,周ひずみおよび見掛けの透水係数の変化の例とし
ケース
k1
(10-11m/s)
透水試験結果
k 2/ k 1
k 3/ k 1
k 4/ k 1
k 5/ k 1
k 6/ k 1
k 7/ k 1
Case1-1
3.35
2.0
0.4
0.7
−
−
−
て Case1-1 の結果を示す。
すべてのケースでピーク強度後,
Case1-2
4.73
1.7
0.3
0.6
−
−
−
残留強度に移行する過程でもっとも透水性が大きくなる
Case1-3
3.33
2.4
0.8
1.1
−
−
−
が,軸載荷前の見掛けの透水係数(k 1)と比較すると 1.7∼
Case2
14.5
1.8
0.5
0.8
1.0
0.5
0.8
る。再び圧密 1 の応力状態に戻すと見掛けの透水係数(k 4)
は,Case1-3 を除き k 1 の 0.6∼0.8 倍と軸載荷前の見掛けの
透水係数より小さくなり,また破壊に伴う見掛けの透水係
-11
40
数の増加の影響もなくなった。
-11
Differential stress(MPa)
7.0x10
Case1-3 の k 4 は k 1 の 1.1 倍となり,軸載荷前の見掛けの
透水係数よりもやや大きいものの,ピーク強度後に確認し
た見掛けの最大透水係数の 45%程度まで低下を確認した。
Case2 は,軸載荷 2 で残留強度に移行しても見掛けの透
-11
30
6.0x10
-11
5.0x10
-11
20
4.0x10
-11
3.0x10
-11
10
2.0x10
0
時の見掛けの透水係数(k 7)は,圧密 2 終了後に圧密 1 の応
5.
図2
図 4 に実験終了後,回収した試験試料にブルーレジンを
50
圧入してき裂周辺の状況を観察した。図 4(a)は軸載荷 1 で
40
も図 4(a)と比較すると少ない。開口量の減少は,周ひずみ
の大きさが透水性の回復に寄与している可能性がある。
1
2
圧密 1
軸載荷 1
-11
3
圧密 2
8.0x10
Stress(MPa)
Axal strain
7.0x10
2
-11
Axial stress
6.0x10
Hydraulic conductivity
1
0
20
-1
-11
5.0x10
-3
0
50
100
150
-11
3.0x10
-11
-2
Confining pressure
0
-11
4.0x10
2.0x10
Circumferential
strain
10
しないことと一致する(図 3)。
回復に与える影響をみると,Case1-3 の結果から圧密応力
0
応力-ひずみ線図と見掛けの透水係数の変化(Case1-1)
ひずみは供試体をセットした時の値を 0 とし,見掛け
の透水係数は測定時の周ひずみの値を X 軸とした。
30
が,圧密 2 終了後に除荷しても圧密 2 載荷前の値まで回復
また,圧密 2 における載荷応力と載荷時間が透水係数の
-1
0.0
-11
残留強度を確認後,試料を回収したもので,き裂面は直線
が,細片化した岩片によりき裂は網目状に発達し,開口量
-2
-11
1.0x10
Strain(%)
考察
的で,開口も明瞭である。図 4(b)は Case1-2 のものである
Axial strain
Hydraulic
conductivity
水係数は k 1 とほぼ同様な値となり,圧密 3 終了後の除荷
力状態に戻した時の k 4 とほぼ同様の値となった。
8.0x10
Circumferential strain
Hydraulic conductivity(m/s)
って見掛けの透水係数(k 2)は,k 1 の 0.3∼0.8 倍に小さくな
k 1:圧密 1 終了時の見掛けの透水係数
k 2:軸載荷 1 における見掛けの最大透水係数
k 3:圧密 2 終了時の見掛けの透水係数
k 4:圧密 2 終了後,圧密 1 の応力状態に戻した時の見掛けの透水係数
k 5:軸載荷 2 のおける見掛けの最大透水係数
k 6:圧密 3 における見掛けの透水係数
k 7:圧密 3 終了後,圧密 1 の応力状態に戻した時の見掛けの透水係数
Strain(%)
2.4 倍しか大きくならない。その後の圧密応力の負荷によ
-11
1.0x10
Hydraulic conductivity(m/s)
ると k =6.5×10-11m/s とほぼ一定値となる。
0.0
200
Time(hour)
図3
時間経過に伴う応力,ひずみおよび見掛けの透水係数
の変化(Case1-1)
ひずみは供試体をセットした時の値を 0 とした。
き裂
以上より,破壊した岩石が再び荷重を受けると,破壊に
伴い発生したき裂が閉塞し,き裂面に生じた岩片が細片化
することにより,荷重を除荷してもき裂の閉塞は完全に回
復せず,破壊した岩石が遮蔽性を回復したと思われる。
き裂
(a)残留強度確認後に回収した供試体
図4
(b)Case1-2
き裂の薄片写真(ブルーレジン注入)