ビジネスプロセスのモデリングについて ー経営ニーズにマッチしたビジネスプロセスをどう設計するかー 東京工業大学 大学院社会理工学研究科 飯島淳一 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 問題意識と目的 • ワークフロー研究 ビジネスプロセスモデリング研究 (経営情報学会研究部会) • 経営ニーズとマッチしたビジネスプロセス設 計のためのモデリング手法とは? • 従来の手法の立脚点は正しいか? 新しいBPモデリングの手法を提案 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 内容 • • • • • • ビジネスプロセスモデリングの位置づけ われわれの立場 モデリングの要件 新たなモデリング手法の提案 事例への適用 今後の課題 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスプロセス関連書 1998年 1999年 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 2000年 経営ニーズとは • 研究部会でのご報告から – 配送業からロジスティックス企業へ(例:日通) – グローバリゼーション(例:コマツ) – ネットビジネスへ進出(例:ソニー) – 顧客満足を実現する商品の提供(例:サンウェー ブ) • 経営理念,ヴィジョン,… Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 経営ニーズの分節化 • バランススコアカードのフレームワークに 従えば, – ビジョンと戦略 – 視点 – 戦略目標 – 重要成功要因 – 業績評価指標 – ターゲット – 戦略プログラム Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 経営ニーズの2つのレベル • 2つのレベル:抽象的−具体的 • 抽象的なレベルのニーズに対しては,ひらめ きや発想などにより,それを実現するための 具体的なレベルの経営ニーズを着想 • 具体的なレベルのニーズに対しては,BPモデ リングによりITソリューションへのシームレス なモデルを構築。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 経営ニーズから ITソリューションまでのステップ 抽象的な経営ニーズ ビジネス目標モデリング 具体的な経営ニーズ(機能) ビジネスプロセスモデリング ビジネスプロセスモデル 情報システムモデリング 情報システムによる実現(要求から実装) Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスプロセスとは • ビジネスプロセスとは,「ビジネスという対象を そこに含まれる諸活動のつながりという視点 から眺めたもの」 • BPムーブメントの理由:各々の活動の品質の 向上から,“つながり”そのものに焦点が移っ た。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. モデルとは • モデル=対象をある視点で眺めた結果得ら れたもの。 • モデリング=モデルを構築する行為。 • モデリング技法=モデリングを行うために利 用する技法 • モデリング方法論=モデリングを行うための 目的やモデリングの対象に対する,モデリン グ技法の利用の仕方について述べたもの Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. なぜモデリングか? • • • • 対象をより深く知ることができる。 情報あるいは認識を関係者と共有できる。 望ましい挙動を得るための思考実験ができる。 イメージの具現化(対象そのものの設計)が できる。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 2つの大きな溝 実現の溝:IS部門(SE+ISコンサルタント)は, 経営サイド(経営者+経営コンサルタント) から与えられる経営ニーズにうまく応えら れない。 評価の溝:経営サイドは,ISの世界の言葉で 表現されたBPモデルを理解できない。 実現 gulf Vƒ ƒ Xƒ eƒ €— v‹• ‹@”\ d — l v ‹ ••ª• Í — Š•”• ÝŒ O v d— l O•• Š ” ÝŒ v “à • •” ÝŒ v d— l “à • •” ÝŒ v ƒ R•[ ƒ f ƒBƒ“ O ƒ ƒ \•[ ƒ Xƒ v ƒ •ƒOƒ‰ƒ€ “••‡‚³‚ꂽ Vƒ ƒ Xƒ eƒ € Š ® • ¬‚µ‚½ Ò“®•Eƒe ƒ ‰ Xƒ gƒ Vƒ Xƒ eƒ € ^•E ‰ — pÛ • ç “••‡ 評価 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 既往の技法 • クラス図やユースケース図などのUMLの図式 の拡張 • IDEFファミリー • DFDとその拡張 ほとんどが • フローチャートとその仲間 IS開発方法論の アップシフト • 形式的表現技法 • ペトリネット • OuldのRAD Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ユースケース図の例 テレビ 電源を入れる 電源を切る 視聴者 チャンネルを 変える Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ユースケース図の文法 • アクター:システムの外部でシステムと関係を 持つもの, • ユースケース • システム境界 • 《include》:ユースケースの機能の呼出し • 《extend》:拡張汎化関係で,元のユースケー スに対するオプションの記述 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 2つの溝を埋めるためには どうすればよいか? 経営サイド (経営者+経営コンサルタント) gulf Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. IS部門 (SE+ISコンサルタント) 経営サイドがBPモデルを描くべき理由 • IS部門がITに関する知識だけでなく,業務知 識も十分に持ち,経営ニーズに合うビジネス プロセスを提案できると期待するのは無理が ある。 • 要求を持っているものが自ら発信することが, 情報化社会の特徴である。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. われわれの立場 • 経営ニーズ(あるべきビジネスの姿)をもった ものが, – それを明かにし(抽象的経営ニーズから具体的 経営ニーズへ), – その具体的な経営ニーズを実現すると思われる ビジネスプロセスを設計する(具体的経営ニーズ からビジネスプロセスモデルへ) ために利用できるモデリング技法の開発。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. モデルの要件 • 視点の設定:対象を○○として見る – たとえば,ビジネスを「プロセスとして見る」とか, ビジネスを「交渉過程として見る」など • 変数の抽出:時間,種類,役割,… • 変数間の関係の表現:現状,望ましい関係, あるいは望ましくない関係 • 目標の設定 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスプロセスモデルの要件 • 視点:ビジネスを「プロセス」として見る。 活動間の関係が表現されている。 • 変数:時間,役割(組織),活動内容(何をどう する) • 変数間関係:時間,役割(組織)と活動の間の 関係,活動間の相互関係。 • 目標と活動の関係が表現されている。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 従来のBPモデリングの問題点 • 活動間の関係や,時間や組織などの資源と 活動の間の関係についての表現はある程度 考慮されている。 • 「目標」の視点が抜け落ちている。 • 目標とそのプロセスに含まれる活動の間の関 係については表現されていない。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 事例−発端− • ある保険会社の不動産部門における事例 • 具体的な経営ニーズとして,「不動産の証券 化に備えるとともに,不動産利回り3%を実現 すること」が与えられた。 • この目標を実現するビジネスプロセスを情報 システムとして実装することが,ある大手ベン ダーに依頼された。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 事例−BP設計の実際− • 実際に行われたビジネスプロセス設計は,次の手 順であった: – – – – – – – 要件(BP目標)の明確化 キーマンに対する問題点のヒアリング アンケートによる問題点の洗い出し(ボトムアップ) 問題の目的樹木図の作成 問題から課題への置換え システム化目標の設定 基本設計… • 「リアルタイムで現場の営業情報を把握すること」を 解とした。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 事例に見る問題点 • 「不動産の証券化に備えるとともに,不動産 利回り3%の実現」はどうなった? • 背後に意識はされている。 • 設計されたビジネスプロセスが,その目標を 実現するかどうかについての論理的なつめ がない。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 目標概念の分節化 • well-definedな目標(量的な変数の値として 明確に定義されるもの) – 配分可能な目標:目標を各アクティビティに分割 することが可能なもの(例:コスト削減) – 配分不可能な目標:目標がプロセス全体としてし か表現できないもの(例:顧客数の増大) • ill-definedな目標(量的な変数の値として明 確に定義できないもの): Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスモデリング • 3つのビジネスモデリング – ビジネス目標モデリング – ビジネスプロセスモデリング – 情報システムモデリング Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. EKDモデリング EKDモデリングオブジェクト によって実現される エンタープライズゴール サブモデル の中で実装される 情報システム サブモデル エンタープライズプロセス サブモデル によって遂行される エンタープライズ アクターロールサブモデル に関連する エンタープライズ アクティビティサブモデル エンタープライズ オブジェクトサブモデル によって制約をうける によって制約をうける エンタープライズ ルールサブモデル Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. によって制約をうける 目標モデリング • 経営ニーズを具体的な指標にまで落とし込む ためのモデリング • 目標の階層関係を表現 – ワークデザインにおける目的展開 • 目標の明確化 – ソフトシステム方法論における基本定義 • 目標に関わる変数間関係を表現 – システムダイナミクスにおけるCLD Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ソフトシステム方法論の概略 • (古典的)7ステージモデル • XYZ公式による基本定義(root definition) – Z:目的, ∼∼をするために – Y:手段, ∼∼をすることによって – X:活動,∼∼をするシステム • CATWOE分析 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 基本定義の例 • 「刑務所」とは – – – – – – – – – 犯罪者を教育するシステム 犯罪者を罰するシステム 犯罪者を更正させるシステム 一般人に犯罪を行わせないように警告を与えるシステム 看守の生活を支えるシステム 安い賃金でモノを制作させるシステム 三食付き健康管理システム 犯罪者が将来小説を書くためにネタを仕込むシステム 次のプロジェクトメンバーをリクルートするシステム Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. CATWOE • C:Customer 誰がこの意図ある活動の犠牲者あ るいは受益者か? • A:Actor 誰がこの活動の実行者か? • T:Transformation 活動の入力→変換→出力での 表現 • W:Weltanschauung 世界観(世界に対する見方) • O:Owner 誰がこの活動を止められるか • E:Environment システムが所与とする環境上の 制約は何か? Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. CATWOE分析の実際 • 基本定義:「市場予測と原材料の調達可能性にもと づき,担当スタッフ部門の専門プランナーの手によっ て,ある決められた期間の詳細な生産計画を作成 する,あるメーカーのシステム」 • CATWOE分析 – – – – – – C:生産部門の人々 A:専門の計画プランナー T:生産計画に間するニーズ→満たされたニーズ W:生産の合理的な計画策定は望ましく,可能である。 O:このメーカー E:スタッフ部門とライン部門の役割;必要情報の入手可能性 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 目標を明示した ビジネスプロセスモデリング • 目的−手段の連鎖に,目標をブレークダウン していく(AND/ORグラフ表現,因果関係の表 現) • leafとなる変数をそれと関わるアクティビティ にひもづける。 • 様々なインスタンスを入れて目標との関係を 見ることによって問題点を把握する Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネス目標モデリング 運用利回り + − 純利益 平残 + テナント運営 + 貸家賃料 + + 共益費 光熱水費 テナント入居契約 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスプロセスモデリング 顧客 0 3 いつ 4 5 6 7 どのように 信用調査 時間軸 納品 受注停止 再調査 受注 経理 製造 2 発注 営業 生産 管理 1 承認 送状作成 送状送付 何を どうした 注文分入力 生産計画 出荷 製造 在庫 組織軸 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 出荷 これをある視点から眺めて評価する 誰が ビジネスプロセスを斬る3つの軸 評価 時間 組織 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 2次元への射影 評価軸 0 顧客 1 2 3 4 5 6 7 納品 発注 営業 経理 時間軸 受注停止 再調査 受注 信用調査 承認 送状作成 生産 管理 注文分入力 製造 生産計画 出荷 送状送付 製造 在庫 出荷 評価軸 組織軸 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 残された問題 • 目的−手段の連鎖と,プロセス図を組合せた 図式の開発。 • 適用範囲についての検討 – well-definedな目標については有効と思われる。 – 「証券化」といった抽象的な経営ニーズについて のモデリングには不向き。 • 目標概念の更なる分節化が必要。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. モデルの構成要素 • アクター(ロール,部署):どこでという場所を 添付 • アクティビティー(活動):事前条件,事後条件, どのようにという内容を添付 • 矢線:流れるもの(何を)を明記 • 時間軸 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. プロセスに対する視点 • どのくらい時間がかかるか:アクティビティの箱の長さ • どのくらい人が必要か:アクティビティの箱の大きさ • そこを通るインスタンス数,etc. • これからどのような問題点が見えてくるか? (ひらめきにつながる表現) • 変数 • 変数とアクティビティの関係 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 今後の課題 • ビジネスプロセスとそこでの目標の分類 • 『プロセスとして見る』ということの普遍性の確 立 表現言語の標準化 • 数理的システム論にもとづく定式化 • UML(特にクラス図)の意味論との接続 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. ビジネスプロセスの分類 • 目標の分類 – 定量的な目標 • コスト型(各アクティビティに分散)か利益型(プロセス 全体として)か • Well-definedな目標か – 定性的な目標 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. まとめ • ビジネスプロセスモデリングの意味とそれに 対する立場を明らかにした。 • 事例にもとづきビジネスプロセスモデリングの 要件について検討した。 – ビジネス目標モデリング – ビジネスプロセスモデリング – 情報システムモデリング • 新たなモデリング手法を提案した。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 今後の課題 • ビジネスプロセスモデリング技法の確立 – 様々なケースへの適用 – 方法論の洗練化 • 『プロセスとして見る』ということの普遍性の確 立 表現言語の標準化 • 図式の持つ意味についての考察 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 表現言語の標準化 • ビジネスをプロセスとして見るための言語の 整備 • たとえば, – 組立てる,分解する,処理をする,処理を終える, 増加する,減少する,変換する,貯蔵する,検索 する,… – 名詞と動詞の標準的な用語の整備 – プロセス表現の構成要素,ビジネスオブジェクト の抽出 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. システム論の言葉では • 具体的な経営ニーズ:入出力システム • ビジネスプロセス:入出力システムの結合 • よって問題は,与えられた入出力システムを “実現”する,要素システムとその間の結合 (coupling)を見つける問題として,捉えること ができる。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 機能とは Y X S S ⊂ X×Y Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. 複合システムとは S1 S2 S3 Sn-2 Sn-1 S⊂S1×・・・×Sn Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T. Sn UMLに対する形式的アプローチ • UMLの意味論を明確化するためのアプロー チとして, S⊂S1×・・・×Snレベルの表現が 考えられる。 • 具体的な経営ニーズ⇒BP⇒情報システムの 間の変換の形式的表現として,システム論的 表現は有効であると考えられる。 Copyright 2001 IS-FMG, T.I.T.
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