国内情報 - 家畜改良事業団

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第21回東日本家畜受精卵移植技術研究会大会報告
今年で第21回を迎える東日本家畜受精卵移植技術研
かにしました。
究会大会は、昨年第20回大会の本州最北の青森県三沢
また、分娩後早期で卵巣の静止した黒毛和種牛に対
市から東日本の最南端ともいえる三重県志摩市「合歓
するEB併用法は、排卵後の黄体期におけるPGF2α放
の郷」に場所を変えて、平成18年1月26日・27日の2日
出が抑制され、Ovsynch法で生じる短命黄体を防止し、
間にわたり、北海道から九州まで総勢250人の参加者
黄体機能維持を介して受胎を促進する可能性が示唆さ
を迎え盛大に開催されました。
れました。
大会初日は特別講演1題、シンポジウム4題の講演の
以上のことに加えさらに演者らは、Ovsynch+EB法
後に総合討論、情報交換会がなされ、翌日の2日目は
を用いた定時胚移植においても、PGF2α製剤による発
一般講演19題の発表がなされました。両日共に熱心な
情同期化法と同等の受胎成績と排卵後の黄体発育が得
聴講者からは多くの質問が投げ掛けられ、活発な討論
られることを報告しました。
が展開されました。
1. 特別講演
特別講演は、大阪府立大学大学院生命環境科学研究
科獣医繁殖学教室 川手憲俊助教授より『分娩後早期
2. シンポジウム
シンポジウムは『受胎率向上の鍵となる着床関連研
究の新開発』をテーマに掲げ、受胎における機能解析
について4人のパネラーによる講演が行われました。
の黒毛和種牛におけるEB(イージーブリード:(社)
九州沖縄農業研究センター高橋昌志らは「代謝マー
家畜改良事業団)を併用する排卵同期化法の作用機構
カーの利用による胚品質評価技術への展望」と題して、
とその定時授精の受胎促進効果』と題して講演されま
これまでの胚の品質評価は顕微鏡下での形態的な判定
した。
が主な手法でしたが、形態的な指標に加えて胚細胞内
分娩後早期で授乳中の肉用牛では卵巣静止の個体が
の増殖活性を評価する手法を示しました。活発な胚の
多いため、従来のOvsynch法にEBを併用すること、ま
代謝と成長性並びに品質の評価を効率的に実施できる
た1回目のGnRHの代わりにE2(エストラジオールベ
代謝関連物質の評価手法として①エネルギー利用・代
ンゾエート)を投与することにより、ホルモン濃度推
謝産物を活性の直接指標に利用した評価、②代謝の過
移はコントロールされ、排卵同期化・定時人工授精法
程で派生する二次的な関連物質を指標とした評価、お
において、Ovsynch+EB法およびE2+EB+GnRH法を実
よび、③代謝に関連する酵素、遺伝子・タンパク質発
施した牛の受胎率(それぞれ70%および75%)は、
現を指標にした評価の各手法を紹介すると共にその研
Ovsynch法(45%)に比較して顕著に高い値を示しま
究成果を報告しました。
した。
東北大学大学院農学研究科の松本浩道らは「マウス
これらホルモン処置の作用機構として、EB併用法
着床モデル系の機能解析」と題して、着床期子宮の胚
を用いることにより、①PGF2α投与時までの血中P濃
に対する許容状態を「着床ウィンドウ」という窓に例
度は高く、血中エストラジオール-17β濃度は低く維持
え、「着床ウィンドウ」が開く着床期子宮では子宮内
することから卵胞の早期成熟を抑制すること、②発情
膜細胞の分化と増殖が必要であることを示し、排卵、
周期後半で黄体の退行する数日前にOvsynch法を開始
授精、着床そして脱落膜形成の障害を示す不妊COX-2
した場合、排卵は定時人工授精前に生じるが、EB、
(cyclooxygenase-2:プロスタグランジン合成酵素)ノ
E2併用法により定時人工授精前の排卵を抑制し、かつ
ックアウトマウスの着床期子宮におけるプロスタグラ
排卵時期を人工授精後の適期に是正できることを明ら
ンジンの作用を解析し、プロスタグランジンI2(PGI2)
4
が子宮内膜細胞の増殖と分化、血管新生を促すことを
3. 一般講演
明らかとしました。また、細胞骨格クロスリンカーで
一般講演は、ホルモン処置4題、凍結4題(ガラス化
あるradixinとmoesinが発現することで、壁栄養外胚葉
2題)、IVF・OPU・バイオプシ−・性判別5題、核移植
の細胞表面構造に変化が生じることが、着床能力の獲
1題、卵子・胚の品質評価3題、取り組み報告2題の合
得に関与していると報告しました。
計19題の講演発表がされました。
農業生物資源研究所の高橋透氏は「ウシ胎盤性プロ
手法の簡易化や効率性、胚の品質評価法の検討およ
ラクチンファミリータンパク質;構造・発現動態およ
び胚の発生率向上のための改善策等、いずれの講演も
び機能」と題して、ウシの胎盤において大量に発現し
受精卵移植技術発展の可能性を追求した多岐にわたる
ているウシ胎盤性プロラクチン(PRL)ファミリ−タ
内容であり、各講演に対し多くの質問、助言等、活発
ンパク質(1種類のウシ胎盤性ラクトジェン(bPL)と
な意見討論がなされました。
少なくとも9種類のPRL関連タンパク質(bPRP)は、
生理作用の不明な点が多いことに着目し、bPLは栄養
膜の細胞分化のデターミナントとして重要な意義があ
4.終わりに
東日本家畜受精卵移植技術研究会大会は受精卵移植
ることを示唆しました。さらに、bPRPの作用解明は、
に携わる技術者の技術向上、研究開発および情報交換
妊娠という「入籠(いれこ)の生物学」の解明に新し
の場として重要な役割を果たしています。そのなかで
い視点をもたらす可能性があることから、ウシの胎盤
も研究開発、普及実践に顕著な功績のあった会員を表
性PRLファミリ−タンパク質について基礎的な側面か
彰する栄えある「杉江賞」は、イーハトーブ・ブリー
ら話題を提供し、最近公表された新しいbPRP遺伝子
ディング・サービスの後藤太一氏(家畜改良事業団家
について紹介しました。
畜改良アドバイザー)の「岩手県における牛受精卵移
畜産草地研究所高橋ひとみらは「ウシインターフェ
植技術の確立および普及」、長野県飯田家畜保健衛生
ロンτ(bIFNτ)の作製と胚発育促進への適用」と題
所の小松洋太郎氏の「牛胚採取装置の開発と胚移植技
して、バキュロウイルス/細胞系によりrecombinantウ
術の普及」にそれぞれ授与されました(写真)。
シインターフェロンτ(rbIFNτ)の作製システムを
受賞挨拶で後藤アドバイザーは、30年前の国内ET
確立し、これらのrbIFNτが糖鎖修飾されたタンパク
従事者10余名の描いた夢である「AIに替わる技術に」
質であること、ならびにin vitroにおいて生理活性を保
を目指したこれまでの受精卵移植に従事した30年の経
持していることを確認しました。また、bIFNτがウシ
緯を述べられるとともに、低コストと現場対応技術、
胚における初期発生の促進作用を有することを見いだ
現場での実用化という観点から、常に経済性のある受
すとともに、桑実胚と胚盤胞の着床前胚において
精卵移植技術推進の抱負を述べられました。
IFNRI発現を確認しました。これらの知見は、bIFNτ
小松洋太郎氏は、農家の所得向上を目指し、野外に
がIFNRIを介して胚発生促進作用を有することを示唆
おいて効率よく牛胚を採取するための簡易型子宮かん
しました。
流装置(「どこでもかん流装置」)を開発し、受精卵移
植技術を積極的に実施するための技術レベルの向上は
もとより、組織の枠を越えた関係者が常に経済性を念
頭におき、農家のために連携できる体制を構築するこ
とにより、利益を出す結果が得られたと報告し、農家
の経営安定のために持てる技術を最大限に発揮するこ
とが必要であると述べられました。
来年度はIETS(国際胚移植学会)が平成19年1月6日
(土)∼10日(水)に国立京都国際会館で開催される
ため、次回第22回大会は山形県で開催時期を早めて平
成18年11月30日(木)∼12月1日(金)に開催されま
す。
(事業部 鬼頭武資)
●杉江賞を受賞した後藤氏(左)と小松氏
5
平成17年度 優秀検定員の表彰
牛群検定の優秀検定員の表彰式が、濃密研修会の開
催に併せて、2月21日仙台市、23日福岡市で、また北
海道で検定員中央研修会の開催に併せて28日、北海道
厚生年金会館において行なわれました。
これは乳用牛群検定全国協議会(香川莊一会長)が
平成元年から毎年行なっているもので、長年にわたり
第一線で牛群検定の普及進展に携わり貢献された検定
員の方を、各都道府県畜産課長の推薦により表彰して
いるものであります。
本年度の受賞者は表のとおり25名の方々で、受賞者
のみなさんにお祝い申し上げますとともに、今後ます
●2月23日、福岡での表彰風景
ますのご活躍を祈念申し上げます。
平成17年度 優秀検定員受賞者名簿(敬称略)
ブ
ロ
ッ
ク
氏名
都道府県
又は支庁
所 属
月田 義光 石 狩 石狩北地区乳牛検定組合
新田 芳夫 上 川 鷹栖町乳牛検定組合
加茂 君子 胆 振 胆振西部乳牛検定組合
北 寺本 末松
和田 静枝
海 飛沢 義隆
小野 裕
道 桑島 義勝
十 勝 浦幌町乳牛検定組合
釧 路 摩周湖乳牛検定組合
ブ
ロ
ッ
ク
氏名
所 属
関 高根沢 健 栃 木 県 芳賀牛群検定組合
東 高見澤 美香 長 野 県 JA長野八ヶ岳
北
陸 外内 和久
新 潟 県 新潟県01検定組合
兵 庫 県 三原第1検定組合
〃 浜中町乳牛検定組合
近 村上 隆英
畿 戸瀬 信一
根 室 上春別乳牛検定組合
中 馬野 善明
鳥 取 県 大山乳業農業協同組合
松永 修輝 宗 谷 歌登町乳牛検定組合
三宅 伸介
四
小川 和夫
国 那須 秀樹
台川 竜也 留 萌 幌延町乳牛検定組合
内山 武文
中谷 清
都道府県
又は支庁
網 走 清里町乳牛検定組合
〃 佐呂間町乳牛検定組合
東
北 須田 清隆 秋田県 秋田県乳用牛群検定組合
九 清水 栄宏
州 吉岡 悟
川西 輝行
奈 良 県 奈良県家畜保健衛生所
岡 山 県 おかやま酪農業協同組合
広 島 県 広島県乳用牛群検定組合
愛 媛 県 愛媛県第二酪農検定組合
福 岡 県 糸島地区乳牛改良検定組合
熊 本 県 熊本県乳用牛群検定組合
宮 崎 県 宮崎県中北地区乳用牛群改良検定組合
鹿児島県 大隈検定組合
第34回家畜人工授精優良技術発表大会
平成18年2月16日、東京都千代田区のJAビルにおい
NOSAI連の林敦久氏の二人が受賞されました。
て、(社)日本家畜人工授精師協会の主催により第34
藤山氏は、後継技術者を育てる場合に直腸検査技術
回家畜人工授精優良技術発表全国大会が「繁殖成績を
を感覚的に説明するよりも、膣内検査により視覚的に
向上させよう」を大会テーマに掲げ開催されました。
説明する方法が理解度を深めるのではないかと考えま
当日は、全国から約350名の技術者が集い、大変活況
した。
のある大会となりました。
そこで、発情徴候を膣内の状態により3+、2+なら
全国各支部から選ばれた12名の人工授精師と獣医師
びに+の3タイプに分類し(表1)、これら以外の状態
により、繁殖成績の向上に対して多岐に渡る充実した
の牛は授精対象から除外して、500頭へ授精を行いま
研究成果が次々と披露されました。栄えある西川賞は
した。その結果、初回授精の受胎率はそれぞれ85.5、
鹿児島県家畜人工授精師会連合会の藤山徹氏と、ちば
35.3および12.7%で、3+と2+の平均受胎率は74.3%と
6
●発表者の皆さんと平尾会長(中央)
とても高い成績となりました。この受胎率が、全国平
本原則であることを示され、私たちがつい見落としが
均の54.9%や鹿児島県平均の59.1%と比較すると、い
ちな項目について提供された話題に、多くの参加者が
かに高い成績であるかは一目瞭然であり、膣内状態が
高い関心を示しました。
2+以上であれば積極的に授精を行うべきであると発
表を結ばれました。
今回の発表大会では、地域に密着した人工授精業務
の中から見出した事柄を解析し、種々の工夫を重ねて
講評では、長年の経験から得た示唆に富む秘伝とも
実際に利用されている受胎成績向上対策が多く報告さ
いえる内容であり、後継技術者の良き教材になること
れました。参加した関係者にとっては、今後の人工授
と、若い人工授精師の範となる研究内容であることが
精業務の遂行に大いに役立つ内容が多々含まれていた
評価されました。
ことと思います。
林氏は、酪農家の発情発見方法や申告内容と、授精
今回発表されました12人の方々のさらなるご活躍を
師が授精時に判断基準としている外部徴候等の項目を
お祈りし、また、発表いただいた貴重なデータを参考
子細に検討して、適期授精を行う判断基準に関する検
に、それらが現場で活用されることを大いに期待して、
討を発表されました。
報告といたします。
819頭の調査を行った結果、酪農家の発情観察は搾
(家畜バイテクセンター 佐藤綾子)
乳や給餌時に行なわれていることが示されました。発
情発見率の向上として、現在の発見率を確認し、その
方法を再検討し作業時間の有効活用を図ることの大切
さ、さらに複数の発情徴候を観察して総合的な判断を
行う重要性が述べられました。とくに、受胎率に強い
影響をおよぼす項目として、人に寄ってくる、背を反
らすなどの挙動の変化も注意深く観察する項目である
ことを加えられました。酪農家の発情の稟告は、受胎
率に強く影響を与える事項であり、受胎率向上は生産
者と人工授精師の協力で成り立っていることを強調さ
れました。
講評では、複雑多項目にわたる県内データを組織的
に集めて解析した努力が評価されました。
優良技術発表後、東北大学大学院の佐藤衆介教授に
より「家畜の福祉と繁殖性について∼牛の繁殖を考え
る∼」と題した特別講演が行なわれました。家畜の福
祉という視点から、5つの自由(表2)が飼育管理の基
7
表1 藤山氏の発情徴候の分類
3+
・頻繁に乗駕され尾根部は擦り剥け、呼鳴している
・粘液が外陰部より漏出している
・子宮外口は拡張し、口腔がはっきり開いて見える
・全体的に充血して膣内はかなり湿潤している
2+ ・時々乗駕されるが、粘液は外陰部から漏出していない
また、膣鏡で開いても粘液は少なくやや湿潤しているが流出はない
・子宮外口は花冠状もしくはゆるく開いている
・充血は薄く膣内半分奥が充血している
+ ・乗駕されることはほとんどない
・粘液は鮮明(透明?)
さがなく、固め
・子宮外口部だけ充血し、湿潤度は弱い
(第34回家畜人工授精優良技術発表大会優良技術発表要旨P.26より引用)
表2 飼育管理の基本原則−5つの自由
1.
2.
3.
4.
5.
空腹及び渇きからの自由(健康と活力を維持させるため、新鮮な水及び餌の提供)
不快からの自由(庇陰場所や快適な休息場所などの提供も含む適切な飼育環境の提供)
苦痛、損傷、疾病からの自由(予防および的確な診断と迅速な処置)
正常行動発現の自由(十分な空間、適切な刺激、そして仲間との同居)
恐怖及び苦悩からの自由(心理的苦悩を避ける状況および取扱いの確保)
(第34回家畜人工授精優良技術発表大会特別講演要旨P.55より抜粋)