スライド - 米国の科学政策

米国科学技術関連政策の動向と
「第4期科学技術基本計画」への含意
遠藤 悟
ホームページ:http://homepage1.nifty.com/bicycletour/sci-index.htm
(「米国の科学政策」で検索いただけます。)
Eメール:endostr @ mb.infoweb.ne.jp
研究・技術計画学会 第28回 科学技術政策分科会
2008年11月12日
本講演は、講演者が趣味として開設している「米国の科学政策」ホームページ
に関連した個人の見解を報告するものです。
1
はじめに
・ 本講演は米国の科学技術政策について報告するものですが、日本におけ
る科学技術基本計画(第4期)を考えるうえで参考となるよう論点を整理し
ました。
・ 日本と米国の間には、研究や高等教育を取り巻く文化に大きな違いがあり、
米国の事例をそのまま取り入れることが日本の研究活動の改善に結びつ
かない場合も多くあります。従って本講演の内容は(日本が模倣すべき)
米国の好事例を列挙するものではなく、米国の事例を日本との違いにお
いて説明するものであることを御理解ください。
2
1.日米における科学技術政策の根拠(1)
種別
米国における例
日本における例
法律(包括)
・米国の技術・教育・科学における卓越性に関
する意味ある促進機会の創造法- America
Creating Opportunities to Meaningfully
Promote Excellence in Technology,
Education, and Science Act(アメリカ
COMPETES法、2007年)
・科学技術基本法(1995年)
・研究開発システムの改革の推進等による研
究開発能力の強化及び研究開発等の効率的
推進等に関する法律(研究開発力強化法、
2008年)
法律(個別)
・21世紀ナノテクノロジー研究開発法(2003
年)
・宇宙基本法(2008年)
法律(予算)
・商務・法務・科学歳出法他
行政部門のイニ
シアチブ
・米国競争力イニシアチブ- American
Competitiveness Initiative (ACI)(大統領
のイニシアチブ、2006年)
・科学技術基本計画(閣議決定、第3期は
2006年~)
審議会・委員会
(政府内)
・国際的な科学・工学連携:米国外交政策にお
ける優先事項及び国家のイノベーション活
動- International Science and
Engineering Partnerships: A Priority for
U.S. Foreign Policy and Our Nation's
Innovation Enterprise(国家科学審議会NSB、2008年)
・長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及
び推進方策について(科学技術・学術審議
会答申)(2002年)
・第3期科学技術基本計画に盛り込まれるべ
き学術研究の推進方策について(科学技術
・学術審議会学術分科会意見のまとめ)(
2005年)
アカデミー等
・強まる嵐の上に昇る:米国をより明るい経済
的未来へと活力を与え活用する- Rising
Above The Gathering Storm: Energizing
and Employing America for a Brighter
Economic Future(アカデミー、2005年)
・学術会議、工学アカデミー等の報告書
3
1.日米における科学技術政策の根拠(2)
米国においては、日本の科学技術基本法および科学技術基本計画と同様な位置づ
けにある政策根拠はない。米国の政策根拠は以下のように特徴づけることができる。
① 立法府による政策形成と行政府における政策形成が並存している。
法律は行政から独立した形で制定される。また、行政府においては大統領や機関の
長のリーダーシップにより様々な施策が実施される。
② 政策が実施される期間は、政権(大統領の任期)や議会の構成(2年間を単位)に
より左右される。
政権が変わることにより科学技術政策も変化する(ナノテクノロジー、ICTなど一貫性
のある施策も政権が変わる際には「看板のかけかえ」が行われることが多い)。また、
議会においても議員立法であるため議員の構成により政策が変化する。
③ 法律およびそれに基づく施策が必ずしも一貫性を持たない。
議員立法によること、授権予算は必ずしも歳出根拠を伴わないことから必ずしも一貫
性を持った形で政策が形成される訳ではない。
④ アカデミーが大きな影響力を持つ。
ナショナルアカデミーズ(科学アカデミー、工学アカデミー、医学機構、米国研究会
4
議)による政策提言が大きな役割を果たしている。
2.米国における科学技術政策の形成
2-(1)法律(予算を含む)
2-(2)研究開発優先順位設定
2-(3)行政におけるイニシアチブ等
5
2-(1)法律(予算を含む)
米国において法律は議員立法によるため、法案は議員により起草・提出される。
このため行政側の観点よりも選挙民の意向が反映されやすい。(行政側は、歳
出予算を除き、法律に根拠を求めることなく政策を実現させる場合が見られる)
① 歳出予算法
大統領予算教書に基づき、議会において予算決議を行った上で、歳出予算
法案(例:商務・法務・科学歳出予算法案、労働・健康福祉・教育歳出予算法案)
として審議される。審議過程においてイヤマークと呼ばれる特定のプロジェクト等
に対する追加が行われる場合がある。両院協議の上、大統領の署名により成立
する。
② 一般の法律(授権予算を含む)
議員立法により提出される法律。多数の法案が提出されるが、法律として
成立するものは一部である。法律に基づく施策のために授権予算が示される場
合があるが、必ずしも歳出予算との一貫性はない。
例:2002年国立科学財団授権予算法、アメリカCOMPETES法
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2-(2)研究開発優先順位設定(1)
FY 2009 Administration Research and Development Budget Priorities
大統領府の科学技術政策室長および管理予算室長から連邦政府各省・機関の
長に宛てられた文書
・American Competitiveness Initiative
・Interagency R&D Priorities
Homeland Security and National Defense
Energy and Climate Change Technology
Advanced Networking and Information Technology
National Nanotechnology Initiative (NNI)
Understanding Complex Biological Systems
Environment
Next Generation Air Transportation System
Federal Scientific Collections
Science of Science Policy
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2-(2)研究開発優先順位設定(2)
2008~2009年度予算案における省・機関を超えた優先プログラム(額はAAASによる分析)
・国土安全保障研究開発 2009年度予算案:55億ドル(対前年度比5億1200万ドル)
・ネットワーキング・情報技術研究開発 2009年度予算案:35億6600万ドル(前年度予算額比33億
7200万ドル)
・ナノテクノロジー研究開発 2009年度予算案15億3200万ドル(前年度予算額14億9700万ドル)
・気候変動研究開発 2009年度予算案20億1500万ドル(対前年度比1億7700万ドル)
・海洋研究
・バイオマス研究開発
注: 上記は省・機関を超えたプログラムであり、個々の省・機関の重点プログラムは含まれない。
備考: 2008年度研究開発予算総額:1430億6300万ドル(科学技術予算総額:619億2900万ドル)
参考:
科学技術基本計画「重点推進4分野」および「推進4分野」の予算:1兆7465億円(平成20年度)
重点推進4分野
ライフサイエンス:3315億円、情報通信:1613億円、ナノテクノロジー・材料:865億円、環境:1228億円
推進4分野
エネルギー:4598億円、ものづくり技術:356億円、社会基盤:3044億円、フロンティア:2446億円
備考:科学技術関係予算総額:3兆5708億円
(大学等の基盤的経費、科学研究費補助金等の基礎研究:1兆4720億円)
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2-(3)行政におけるイニシアチブ等
法律とは別に行政府において様々なイニシアチブ等に基づく事業が実施されている。
これらは研究開発優先順位と別のものとして実施されるものも多い。以下はそのよう
なイニシアチブ等の事例である。
・新たな発見の精神、米国の宇宙探査の大統領構想(A Renewed Spirit of
Discovery, The President's Vision for U.S. Space Exploration)
2004年1月にブッシュ大統領が発表。太陽系および太陽系外への無人・有人プログラ
ム、火星等への有人プログラム、技術知識基盤の形成、科学・安全・商業面における
国際的・商業的参加の拡大、の目標により宇宙研究開発の道筋を示す。また、予算教
書に反映される。
・NIHロードマップ
2003年9月にNIH Zernouni所長が発表。1)生物学に対する理解を深め、2)学際研
究を促進し、3)臨床研究を改善することにより医学研究成果を治療の進歩に結び付
ける、という三つの視点を統合的に進めることを目的とする。これに基づき
Director’s Pioneer Award等が実施される。
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3.主要な科学技術政策文書
3-(1)オーガスティンレポート
3-(2)米国競争力イニシアチブ
3-(3)アメリカCOMPETES法
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3-(1) オーガスティンレポート
「Rising Above The Gathering Storm: Energizing and
Employing America for a Brighter Economic Future(強ま
る嵐の上に昇る:米国をより明るい経済的未来へと活力を与え
活用する)」(2005年)
通称オーガスティンレポート。上院議員からの「21世紀の地球コ
ミュニティーにおいて米国が競争、繁栄、安全の面で成功するた
めに必要な科学技術活動の向上を目的として連邦政府政策形
成担当者採るべき10項目の優先順位に従い示される重要な行
動(アクション)は何か。また、いくつかの確固たる段階を経て、こ
れらのアクション実行するために用いることができる戦略はどの
ようなものか。」という依頼に対する報告書。
内容は、提言とそれに対応する行動(アクション)が示されている
がその項目は、提言A.米国民の才能プール、提言B.連邦政府
による基礎研究投資、提言C.有能な海外人材の獲得、提言D.
知的所有権、税制措置等、の諸点にわたっている。
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3-(2)米国競争力イニシアチブ
2007年度予算教書と併せて科学技術政策室(OSTP)国内政策
委員会から発表されたもので、予算教書において示された連邦
政府研究投資の増、研究開発税制措置、そして人材育成により
米国の世界における競争力を高めようとする政策を説明。
○ 経済成長のための科学技術基盤「イノベーションにおいて世
界をリードする」
○ 連邦政府の研究開発政策「米国競争力イニシアチブ研究」
国立科学財団、エネルギー省科学室、国立標準技術局研究
室研究予算および建設予算を2016年までに倍増
○ 研究開発減税
○ 才能と創造性において世界をリードする。
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3-(3)アメリカCOMPETES法
2007年8月9日成立の「 America Creating Opportunities to Meaningfully Promote
Excellence in Technology, Education, and Science Act。(米国の技術・教育・科学に
おける卓越性に関する意味ある促進機会の創造法)
タイトルI-科学技術政策室;政府全体にわたる科学(全米科学技術サミット、イノベー
ションに対する障壁の調査研究、国家イノベーションメダル、科学技術工学数学の日、
サービスサイエンスの研究、大統領イノベーション・競争力委員会、全国的な研究基
盤の調整、イノベーション促進研究に関する議会の意見、科学研究の成果の公表)
タイトルⅡ-航空宇宙局(航空、基礎研究推進他)
タイトルⅢ-国立標準技術研究所(授権予算他)
タイトルⅣ‐海洋大気プログラム
タイトルⅤ‐エネルギー省(教育、人材、授権予算、ARPA-E他)
タイトルⅥ‐教育(教師支援、数学、外国語他)
タイトルⅦ‐国立科学財団(授権予算、メリットレビュー、教育、ポスドク、学際研究、研
究成果の公開他)
タイトルⅧ‐一般的条項
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4.個別の政策
4-(1)K-12(幼稚園・初等中等教育)教育政策
4-(2)研究人材育成政策
4-(3)研究開発政策
4-(4)大学の運営基盤と高等教育政策
4-(5)民間企業活動に関する政策
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4-(1)K-12(幼稚園・初等中等教育)教育政策(1)
米国における幼稚園・初等教育・中等教育の特徴
① K-12教育の責任は基本的に連邦政府ではなく、州・地方にある。
② 教育課程、教育財政などが州、地方教育委員会、学区等の単位で
違いが見られる。
③ 連邦政府の施策は、奨学金、教員の能力向上等に限定。
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4-(1)K-12(幼稚園・初等中等教育)教育政策(2)
① オーガスティンレポート
・ 毎年4年間にわたる奨学金を授与することにより1万人の科学数学の教師を確保し、1千万人の
人々の心に対して教育を行う。
・ サマーインスティチュート、修士プログラム、先進プレースメント・国際バカロレア(AP and IB)ト
レーニングプログラムによる訓練教育プログラムを通し25万人の教師の能力を強化し、これにより
日々生徒に感動を与える。
・ 先進プレースメント・国際バカロレア(AP and IB)科学数学コースを履修する学生数を増加させ
ることによりパイプラインを拡充する。
② アメリカCOMPETES法
・ 教師認証を含む科学・技術・工学・数学、あるいは重要な外国語におけるバカロレア学位プログ
ラム
・ 技術、数学の教育における有望な実践
・ 小・中学校児童・生徒のためのプログラム「数学ナウ」、夏期教育プログラム
・ 中等学校生徒への数学技能、州の申請におけるピアレビュー、外国語連携プログラム
・ 中等教育卒業要件の21世紀における中等教育以降の活動の要求および幼稚園‐大学学部教
育データシステム支援に合わせた調整
・ 数学・理科連携ボーナスグラント
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4-(2)研究人材育成政策
米国における研究人材育成政策の特徴
① 米国社会における高い人材流動性を背景とした、多様なキャリアパス
② 研究機関・研究室移動を容易にする層の厚いリサーチユニバーシティのシステム
③ 連邦政府ファンディング機関による若手研究者支援プログラム
NSF Faculty Early Career Development (CAREER) Program
NIH Pathway to Independence (PI) Award、NIH Director’s New Innovator Award Program
④ 女性、マイノリティーに対する施策
ファンディング機関による支援に加え、アカデミー報告書などに基づく大学自身による改革
⑤ ポストドクターに関する政策
研究グループにおけるポスドクの地位の確立、各種フェリーシッププログラム、ポスドク自身に
よる連携等
参考:第3期科学技術基本計画
第3章 科学技術システム改革
1.人材の育成、確保、活躍の促進
(1)個々の人材が活きる環境の形成 ①公正で透明性の高い人事システムの徹底、②若手研究者の自
立支援、③人材の流動性の向上、④自校出身者比率の抑制、⑤女性研究者の活躍促進、⑥外国人研
究者の活躍促進、⑦優れた高齢研究者の能力の活用
(2)大学における人材育成機能の強化 ①大学における人材育成、②大学院教育の抜本的強化、③大
学院教育の改革にかかる取組計画の策定、④博士課程在学者への経済的支援の拡充
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4-(3)研究開発政策(1)
連邦政府による研究開発政策の特徴
① 「科学-限りなきフロンティア」に基づく民生研究活動への政府
の関与の歴史
② 大規模な国防研究開発活動(全研究開発予算のうち58%が国防
研究開発(AAAS分析))
③ 民間研究開発活動への多額の連邦政府支出(特に国防研究開
発)
④ 国防省(DOD)、国立保健研究所(NIH)、航空宇宙局(NASA)、
エネルギー省(DOE)、国立科学財団(NSF)等によるそれぞれ性
格を異にする研究実施・研究支援活動
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4-(3)研究開発政策(2)
① オーガスティンレポート
・7年間にわたる連邦政府の長期的基礎研究支出の毎年10パーセント増加
・「全米研究基盤調整室(5年間、年5億ドルの集中的な研究基盤基金の調整)」の設置
・連邦政府研究機関予算の8パーセント以上を(ハイリスク・ハイリターン)裁量的経費として配分
・エネルギー省内におけるARPA-Eの設置
② 米国競争力イニシアチブ
・米国競争力イニシアチブ研究:物理学および工学における基礎研究プログラム(国立科学財団、
エネルギー省科学室、商務省国立標準技術局)に対する連邦政府支援の10年間で倍増
・研究開発減税(基本理念のみ)
③ アメリカCOMPETES法(再掲)
・全米科学技術サミット、イノベーションに対する障壁の調査研究、国家イノベーションメダル、科
学技術工学数学の日、サービスサイエンスの研究、大統領イノベーション・競争力委員会、全国
的な研究基盤の調整、イノベーション促進研究に関する議会の意見、科学研究の成果の公表
・航空宇宙局(航空、基礎研究推進他)
・国立標準技術研究所(授権予算他)
・海洋大気プログラム
・エネルギー省(教育、人材、授権予算、ARPA-E他)
・教育(教師支援、数学、外国語他)
・国立科学財団(授権予算、メリットレビュー、教育、ポスドク、学際研究、研究成果の公開他) 19
4-(4)大学の運営基盤と高等教育政策(1)
・高等教育機関の設置形態と数(2005-2006年)
博士号授与機関
修士号授与機関
学士号授与機関
その他(短期大
学を含む)
計
公立機関
165
275
103
1150
1693
私立機関
93
363
534
1593
2583
計
258
638
637
2743
4276
米国には膨大な数の高等教育機関が存在するが、博士号を授与する機関の数は258である。
国立科学財団のグラントは、トップ50機関に半分以上、トップ100機関に約4分の3が配分されている。
・大学の歳入内訳(大学の性格別)
プリンストン大学(Princeton University)の収入(学生数:7334人、収入規模:11億9657万ドル)(2007-2008年)
投資収入
授業料
45%
受入れ研究費
19%
寄附金
18%
その他
10%
8%
カリフォルニア大学バークレイ校(UC Berkeley)の歳入(学生数:34,953人、歳入規模:17億ドル)(2006-2007年)
州交付金
授業料等
民間資金(15%)
卒業生・親
族・校友
33%
18%
約7%
財団
約5%
企業
約2%
その他
約1%
連邦政府
研究費
19%
その他
15%
注:米国の大学の財務状況については教育省に一応の統計が存在するが、大学毎の財務状況が大きく異 20
なることや、財務報告書書式が必ずしも統一されていないことなどから、国際比較は慎重に行う必要がある。
4-(4)大学の運営基盤と高等教育政策(2)
① 米国の大学は州・地方政府立あるいは私立であり、連邦政府は
大学の設置に責任を有しない。
② 数多くの高等教育機関が存在するが、高い研究水準を有する大
学は上位100~200の範囲である。国立科学財団は、厚い連邦政
府支援を受ける対象を現状の上位100大学程度から拡大する努力
をしている。
③ 米国の大学は一般に強固な財政基盤を持つ(資産、安定した寄
附金および事業収入、州立大学における州からの交付金等)。
④ 多くのリサーチユニバーシティにおける連邦政府のグラント・コント
ラクトは15~20%である(一般に州立大学においては州交付金、
私立大学においては資産・投資に基づく歳入が大学の財政の中で
大きな比重を占める)。
※ 大学の安定した運営基盤(私立大学の強固な財政基盤や強力な
州政府による州立大学支援)が、連邦政府による研究支援の効果を
高めている。
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4-(5)民間企業活動に関する政策
① オーガスティンレポート
・被雇用者が科学者・工学者への訓練のための(企業内あるいは大学における)継続教育を受け
ることを奨励するような連邦政府による税制措置を行う。
・現行の「みなし輸出」制度を改善する。
・21世紀の地球経済ための知的所有権保護を確実に行う。
・イノベーションにおける民間投資を奨励するため、より強力な研究開発税制措置を立法化する。
・米国に基盤を置いたイノベーションのための税制優遇措置を提供する。
・ユビキタスブロードバンドアクセスを実現させる。
② 米国競争力イニシアチブ
・民間部門における研究開発投資の促進
・知的所有権を保護する効果的制度
・企業家精神を刺激し奨励するビジネス環境
③ アメリカCOMPETES法
・イノベーションに対する障壁の調査研究
・サービスサイエンスの研究
・小企業育成、反競争的税制、見なし輸出、資本市場等に関する意見
(知的財産制度、税制等については、別の法案において立法化に向け審議)
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5.講演者による論点
5-(1)人材(国内人材・海外人材)の意味
5-(2)研究開発活動の地球規模化と米国の国際的地位
5-(3)大学の役割
5-(4)競争的研究資金の意味
5-(5)基礎研究に対する二つの政策
5-(6)研究者の科学技術政策形成への関与
5-(7)評価手法とユニークな発想の発掘のための政策
5-(8)研究者・研究機関に対するインセンティブ
5-(9)研究成果の公表に関する論議
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5-(1)人材(国内人材・海外人材)の意味
① 米国民の科学技術工学数学(STEM)水準の低下に対する危機感と幼稚園・
初等中等教育における教育の質の改善
② 米国民に対する科学技術分野のキャリアへの関心を高めるための政策
③ 米国の研究開発活動におけるアジアをはじめとする海外出身の人材の重要
性の認識
・ 1980年代には海外人材の重要性の認識は薄く、1990年代においても海外人
材の意義は肯定・否定両面の評価
・ 2000年代において米国民の教育水準の低下に認識とともに大学における海外
人材の重要性の認識が高まる。
・ 第二次世界大戦後の米国において大学は海外人材の獲得に必ずしも熱心で
はなく、政府による特に海外人材を意識した政策は余り見られない(大学等の研
究現場において海外人材が米国民と競争し現在の地位を獲得した)
④ 同時多発テロ後の外国人の研究活動へのアクセス制限に関する論議
参考:第3期科学技術基本計画 第3章 科学技術システム改革 1.人材の育成、確保、活躍の促進
(1)個々の人材が活きる環境の形成 ⑥外国人研究者の活躍促進
「・・・世界一流の研究者をはじめとする優秀な人材が、国籍を問わず数多く日本の研究社会に集まり、
活躍できるようにする必要がある。・・・」
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5-(2)研究開発活動の地球規模化と米国の
国際的地位
① 多くの政策文書が米国の卓越性の維持・強化の必要性を指摘
② 研究開発活動の地球規模化の意味
・研究・生産拠点の海外への移転(アウトソーシング、オフショアリングなど)に関
する問題
・米国で教育研究の経験を持つ者の出身国への貢献と米国における相対的な水
準の低下への懸念
③ 地球規模化の米国の国際的地位に与える意味
・研究開発の地球規模化は米国にとってプラスとなる見方(Innovate America!)も
あるが、「The World is Flat」などの影響により米国の卓越性に対する危機感の論
議が高まる(Is America Falling off the Flat Earth?)。
参考:第3期科学技術基本計画
第3章 科学技術システム改革
4.国際活動の戦略的推進
(1)国際活動の体系的取組
(2)アジア諸国との協力
(3)国際活動強化のための環境整備と優れた外国人研究者受入れの促進
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5-(3)大学の役割
① 教育(生涯教育を含む)をミッションとする多数の高等教育機関の存在
② 高等教育機関の確固とした財政基盤
③ 層の厚いリサーチユニバーシティの存在
100程度の卓越した研究能力を持つ大学と、それ以外の大学における高い研究能力
④ 独立した高等教育政策と学術研究政策と、その結果としての強力なリサーチユニ
バーシティの形成
州政府による強力な支援を受けた州立大学や強固な財政基盤を有する私立大学が
存在することにより、連邦政府の大学に対する政策は(教育省による高等教育施策と
は別のものとして)ファンディング機関による資金配分等に重点を置くことが可能となっ
た(米国独特のものであり、政府が国立大学に全面的な責任を持つ日欧諸国において
は学術研究政策と高等教育政策は不可分)。
⑤ 世界の優れた研究人材を獲得し育成する場としての大学(前述)
参考:第3期科学技術基本計画 第3章 科学技術システム改革
1.人材の育成、確保、活躍の促進 (1)大学における人材育成機能の強化
①大学における人材育成、②大学院教育の抜本的強化、③大学院教育の改革に係る取
組計画の策定
2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出 (2)大学の競争力の強化
①世界の科学技術をリードする大学の形成、②個性・特色を活かした大学の活性化
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5-(4)競争的研究資金の意味
一言に競争的研究資金と言われるが必ずしも研究開発資金は「競争的資金」と「非競争的資金」
に二分されている訳ではない。
① 「科学-限りなきフロンティア」に源を発する国立科学財団などに代表されるボトムアップによ
る支援システム
第二次世界大戦における国防研究の発展を民生研究においても継続的に実現させるため構想
された国立科学財団による研究者の自由な発想に基づく学術研究に対する支援。ボトムアップに
よる発想をピアレビューにより競争的に決定する。
② イヤマーク予算に対する概念としてのメリット評価により競争的プログラム
ブッシュ大統領は予算教書において、議会による特定のプロジェクトを指定した事業予算配分
(イヤマーク)を批判し、研究開発予算について以下の区分を設け競争的なプロセスにより支援が
行われるべきだとした。
「議会主導型研究」、「ユニークな本質を持つ研究」、「限定的な競争的選考に基づくメリット評価
による研究」、「競争的選考と内部評価に基づくメリット評価による研究」「競争的選考と外部(ピ
ア)評価に基づくメリット評価による研究」
③ 特定のミッションに基づく研究開発活動における競争的な意思決定
特定のミッションに基づくプロジェクトの支援については当該プログラムの特性に応じた競争的
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手順が採られている。
5-(5)基礎研究に対する二つの政策
基礎研究に対する支援は、NSF、DOE科学室、NISTの予算倍増に示さ
れるように米国の研究開発政策の核心的部分であるが、その理念は、
「探求型」と「目的型」に分けられると考えられる。両者は、目的、評価
手法等様々な面において性格が異なる。
① 探求型基礎研究支援
NSF、NIH、DOEなどのグラントを通した基礎研究支援で、いわゆる研
究者の知的好奇心に基づく自由な発想による研究を支援するもの。
② 目的型基礎研究支援
エネルギー省ARPA-Eなど社会的・経済的目標において大胆な発想
に基づくプロジェクトを支援するもの(いわゆるハイリスク・ハイリターン
研究)。
参考:第3期科学技術基本計画 第2章 科学技術システム改革
1.基礎研究の推進
2.政策課題対応型研究開発における重点化
(1)「重点4分野」及び「推進4分野」 (2)分野別推進戦略の策定
(3)戦略重点科学技術に係る横断的な配慮事項
①社会的課題を早急に解決するために選定されたもの ②国際的な科学技術競争を
勝ち抜くために選定されたもの ③国家的な基幹記述として選定されるもの
(4)分野別推進戦略の効果的な実施 ~ 「活きた戦略」の実現
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5-(6)研究者の科学技術政策形成への関与
米国における科学技術政策形成において見られる特徴のひとつに研究者
の直接的な関与がある。
① 研究バックグラウンドのある行政官の存在
② ロビイングによる立法プロセスにおける政策形成
③ ナショナルアカデミーズの役割
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5-(7)評価手法とユニークな発想の発掘のため
の政策
特に基礎研究・学術研究のグラントに関し、ピアレビューは最良の評価手法であることについては
広く一致した認識となっているが、革新的な発想の評価などにおいて改善の議論が行われている。
① ピアレビューの保守性に関する論議
グラント申請等において業績が重視されるなどにより、保守的な傾向が見られる可能性が指摘さ
れており、評価基準の改善などが検討されている。
② プログラムオフィサーの役割
プログラムオフィサー制度については、DARPA(および検討中のARPA-E)のようにプロジェクト全
般に関与するもの、NSFのようにボトムアッププログラムを積極的に支援するもの、NIHのように専
門家として管理運営に徹するものなど多様であるが、各システムに応じた改善が検討されている。
③ 研究分野の区分とトランスフォーマティブリサーチ
グラント申請・採択においては、そのマネジメントの必要性からも分野毎(例えばNIHのスタディセ
クション、NSFのsolicited program)に公募が行われているが、その枠組みを越えた発想についても
トランスフォーマティブリサーチといった概念により取り上げられるよう検討が行われている。
参考:第3期科学技術基本計画 第3章 科学技術システム改革
2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出 (5)研究開発の効果的・効率的推進
③評価システムの改革(改革の方向)、(効果的・効率的な評価システムの運営)、(政策目
標を踏まえた評価の推進)
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5-(8)研究者・研究機関に対するインセンティブ
グラント等が研究者、研究機関等に与えるインセンティブについても政府機関にお
ける大きな政策課題となっている。
① 間接経費とグラントの獲得
NSF、NIH等のグラントの間接経費は大学の管理運営において重要な財源となっ
ており、大学はその所属する教員がグラントを獲得することを強く求め、また、その
ための支援も充実している。
ただし、大学の教職員構成においてグラントを獲得し間接経費をもたらす者はテ
ニュアを獲得した教授、准教授が中心であり、大学は必ずしも全ての教員に対して
間接経費による貢献を求めているものではない(多くの教員は教育やアウトリーチ
活動により大学に貢献している)。また、大学は(研究資金以外の)安定した財務基
盤に支えられているため、研究資金獲得が効果的なインセンティブとして機能し、結
果として間接経費が大学財務の強化に結びつくと考えられる。
② NSFによる「申請・資金配分管理運営メカニズムの影響」の検討
NSFは「申請・資金配分管理運営メカニズムの影響(IPAMM)」ワーキンググループ
を設置し、そのグラントの管理運営全般に対する検討を行っているが、大学および
研究者へのインセンティブについても、研究者に対する関心の変化(採択率、配分
額等の変化に関する回帰分析等)や所属機関が研究者に対して与えるプレッシャー
等の点において検討を行っている。
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5-(9)研究成果の公開に関する論議
連邦政府研究資金の支援により実施された研究の成果(学術誌に掲載された論文)は無料で
公開されるべきという考えがあり、NIHにおいては2005年5月以降、支援を受けた研究者はその
成果をPubMed Central (PMC)に登録することとされた。(登録は学術誌刊行から一定期間を置く
こととしている。また、必ずしも全ての論文が登録されてはいない。)また、アメリカCOMPETES法
においては、NSFはその支援により行われた研究の成果(学術論文等)を財団のウェブサイトに
おいて公開すべきことが示されている。この背景には以下のような状況が考えられる。
① 納税者に対する説明責任
特にNIHに支援された研究成果の扱いについては、国民から大学(大学教員)と製薬産業を中
心とした企業の利益のための税金が使われているという批判が存在していたことから、これに対
応する施策が求められた。
② 安定した学術出版システムの存在
米国および欧州諸国に拠点を置く学術誌出版元による安定的な学術出版システムが存在する
ことにより、政府ファンディング機関による無料成果公開が可能となっていると考えられる。
③ 研究を発展させるための施策としての成果公開
バイ-ドール法施行以後の研究成果を知的財産として大学に帰属させることによる技術移転・
産業化の促進とは別に、広く無料公開することにより公的資金による研究の成果を効果的に発
展させるという考えを見ることができる。
参考:第3期科学技術基本計画 第3章 科学技術システム改革
2.科学技術振興のための基盤の強化
(2)知的基盤の整備 (3)知的財産の創造・保護・活用 (5)研究情報基盤の整備
(6)学協会の活動の促進
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