A B - 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクスHP

VOL31NO.4/2008
日本心脈管作動物質学会
ISSN 0911-4637
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総 編 集 長 平 田 結喜緒(東京医科歯科大学大学院分子内分泌内科学)
ベ ー シ ッ ク 編 集 長 岩 尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科分子病態薬理学)
インフォマティクス編集長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス)
ゲ ノ ミ ク ス 編 集 長 辻 本 豪 三(京都大学大学院薬学研究科ゲノム創薬科学)
ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院循環器内科学)
編集委員 (ABC 順)
江頭健輔,藤田浩,藤田敏郎,福田 昇,古川安之,林 晃一,林登志雄,平田恭信,
平田結喜緒,飯野正光,池田宇一,今泉祐治,伊藤 宏,伊藤正明,伊藤猛雄,岩尾洋,
松原達昭,松崎益徳,三浦総一郎,宮内 卓,村松郁延,永井良三,永田博司,中木敏夫,
中村真潮,中尾一和,成瀬光栄,錦見俊雄,大橋俊夫,岡村富夫,大内尉義,大柳光正,
島田和幸,末松 誠,高橋和広,高橋克仁,武田和夫,田中利男,谷口隆之,辻本豪三,
山崎峰夫,柳沢輝行,吉村道博,由井芳樹
学会案内
第38回日本心脈管作動物質学会
会 期: 平成21年2月6日(金)
会 場: 岡山大学創立五十周年記念館
〒700-8530 岡山県岡山市津島中1-1-1
TE L 086-252-1111(代表)
参 加 費:事前参加登録 ¥4,000 (平成20年11月15日締切)
大学院生 ¥2,000(学部生無料)
(当日) ¥5,000
大学院生 ¥2,000(学部生無料)
※事前参加登録ご希望の方はメールにてご登録下さい.
詳細はお申込み方法をご覧下さい.
●日本心脈管作動物質学会研究奨励賞
一般演題の中から選考により学会賞を数名(40歳未満)に贈呈致します.
多数のご応募をお待ちしております.
会 長:川 博 己
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 創薬生命科学専攻
先端薬物療法開発学講座 臨床薬学分野)
【お問合せ先】
事 務 局:〒700-8530 岡山県岡山市津島中1-1-1
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 創薬生命科学専攻
先端薬物療法開発学講座 臨床薬学分野
第38回日本心脈管作動物質学会事務局 座間味義人
笹井あゆみ
TEL:086-251-7970 FAX:086-251-7970
E-mail:[email protected]
URL: http://www.pharm.okayama-u.ac.jp/system/conf/jscr38/
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●プログラム
1.シンポジウム
「血圧調節・血管機能に関する新知見・新技術」
演者: 老化シグナルと心血管制御メカニズム:
南野 徹(千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学)
血管周囲神経リモデリングとアンジオテンシン受容体の役割:
芳原成美(岡山理科大学理学部生命化学科薬理学,岡山大学大
学院医歯薬学総合研究科)
血流による血管トーヌス調節:
安藤譲二(東京大学大学院医学系研究科医用生体工学講座シス
テム生理学)
血管トーヌス制御におけるTRPC3/NCX1共役系の役割:
喜多紗斗美(福岡大学医学部薬理学)
生体内分子イメージングでみる血管と慢性炎症:
西村 智(東京大学大学院医学系研究科循環器内科学)
座長:岩本隆宏(福岡大学医学部薬理学)
安藤譲二(東京大学大学院医学系研究科システム生理学)
2.特別講演
「アドレノメデュリンとPAMPの基礎と新たな可能性」
演者:北村和雄(宮崎大学 医学部内科学)
座長:川博己(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
3.ランチョンセミナー
演者:佐田政隆(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部循環器内科学)
座長:玉置俊晃(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部薬理学)
4.一般演題
●事前参加登録方法
第38回日本心脈管作動物質学会ホームページ
(http://www.pharm.okayama-u.ac.jp/system/conf/jscr38/)の「参加申し込み」
よりE-mailにて受付いたします.
参加ご希望の方は,件名に「第38回日本心脈管作動物質学会事前参加登録」本
文に氏名 所属名 住所 電話番号 メールアドレスをご記入のうえ,
送信して下さい
登録完了後,事務局より確認メールをお送り致します.
参加費は学会当日,受付にてお支払い下さい.なお,事前参加登録をされた方
は,事務局からの確認メールを印刷したものをご持参下さい.また,大学院生,
学部学生は身分を確認いたしますので,学生証を提示して下さい.
参加費:事前登録 ¥4,000(平成20年11月15日締切)
大学院生¥2,000(学部学生無料)
当 日 ¥5,000
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大学院生¥2,000(学部学生無料)
●演題申込み方法
メールで受付を致します.詳細につきましては第38回日本心脈管作動物質学会
ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.pharm.okayama-u.ac.jp/system/conf/jscr38/)の
「演題申し込み」をご覧下さい.2008年10月1日(水)より演題募集受付可能と
なります.
演題の受領および採否につきましては,メールでお知らせ致します.
※日本心脈管作動物質学会研究奨励賞をご希望の方は,事前参加登録完了の方に
限ります.抄録末尾に,学会賞希望と筆頭演者の生年月日をお書き下さい.
●事前参加登録及び演題受付期間
受付開始日:平成20年10月1日(水)
受付終了日:平成20年11月15日(土)
【お問合せ先】
〒700-8530 岡山県岡山市津島中1−1−1
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 創薬生命科学専攻
先端薬物療法開発学講座 臨床薬学分野
第38回日本心脈管作動物質学会事務局 座間味義人
笹井あゆみ
TEL:086−251−7970 FAX:086−251−7970
E-mail:[email protected]
●注意事項
学会の演者は全て本会会員に限りますので,未加入の方は下記の入会申込書類
請求先にご連絡下さい.
必要書類をお送りします.また,今年度会費未納の方は年会費4,000円をお支払
い下さい.
【入会申込書請求先】
〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174番地
三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野
日本心脈管作動物質学会事務局
TEL:059−231−5411 FAX:059−232−1765
E-mail:[email protected]
http://server.typepad.jp/sinmyaku/
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会 場 及 び 交 通
岡山大学創立五十周年記念館 〒700-8530 岡山県岡山市津島中1−1−1
TEL:086-251-7057
岡山大西門
バス停
岡山大学筋
バス停
岡山駅西口
バス停
会場へのアクセス
●岡山空港からお越しの方
札幌,東京,鹿児島,沖縄(那覇)からの航空便があります.
*空港リムジンバス2,3番乗り場から乗車
岡山空港から中鉄バス「岡山市内方面」行に乗車,所有時間約22分.
「岡山大学筋」で下車,徒歩約7分.
料金660円
●JR岡山駅からお越しの方
*バス
JR岡山駅西口から岡電バス「岡山理科大学」行に乗車,
「岡大西門」で下車
して徒歩約1分.
JR岡山駅(東口)前から岡電バス「岡山大学・妙善寺」行に乗車,
「岡大西
門」で下車して徒歩約1分.
JR岡山駅(東口)前から岡電バス「津高営業所」行に乗車,「岡山大学筋」
で下車して徒歩約7分.
※JR岡山駅(東口)前からの2路線は市内を廻るため時間がかかります.
― 4 ―
*タクシー
JR岡山駅東口または西口からタクシーで約7分.
*JR
JR津山線「法界院」駅で下車して徒歩約10分.
*岡山まで山陽自動車道利用
岡山ICで降り,岡山市内方面へ国道53号線を直進,右手に岡山県総合グラ
ンドの木々が見え始めたら約600メートルで岡山大学筋交差点があります.左
折して直進し,岡山大学構内の最初の信号を左折して直ぐの右方向事務局棟
の次の建物が会場です.誠に申し訳ありませんが,岡山大学創立五十周年記
念館では,利用者用駐車場がございませんので,公共交通機関を利用してお
越しください.
(大学構内に無断で駐車されますと,パーキングロックされます.
)
宿 泊 案 内
期間/平成21年2月6日(金)
会場/岡山大学創立五十周年記念館
開催にともないまして,全国各地から本学会に参加されます皆様に,会場周辺ま
たは学会割引(*印)が可能な宿泊施設を紹介させていただきます.その他にも岡
山市内には多くのホテル等がございますのでご利用願います.大変申し訳ございま
せんが各自で宿泊の手配をお願い致します.
*岡山ロイヤルホテル
※宿泊のご予約をされる場合に,岡山大学の学会関係で宿泊することをお伝え下
さい.
特別割引(シングル¥5,750)が適用されます.
〒700-0028 岡山県岡山市絵図町2−4
JR岡山駅西口より徒歩で約15分,お車で約5分.会場まで徒歩で15分またはタ
クシーで5分.
TEL:086−255−1111 FAX:086−254−0777 フリーダイヤル:0120−115549
URL:http://www.orh.co.jp/
*岡山全日空ホテル
※宿泊のご予約をされる場合に,岡山大学の学会関係で宿泊することをお伝え下
さい.
特別割引(シングル¥10,400【朝食付¥12,250】
,ツイン・ダブル¥18,400【朝食付
¥22,100】)が適用されます.
〒700-0024 岡山県岡山市駅元町15−1
― 5 ―
JR岡山駅西口より徒歩で約1分.会場までは岡山駅西口からのアクセスを利用.
TEL:086−898−1111 FAX:086−898−1200
URL:http://www.anahotel-okayama.com/index.html
*ホテルグランヴィア岡山
※宿泊のご予約をされる場合に,第38回日本心脈管作動物質学会に出席の旨をお
伝え下さい.特別割引(シングル¥10,500【朝食付¥12,500】,ツイン¥15,000
【朝食付¥17,000】)が適用されます.
〒700-8515 岡山市駅元町1番5
JR岡山駅東口より徒歩で約1分.会場までは岡山駅東口または西口からのアク
セスを利用.
TEL:086−234−7000(代表)
FAX:086−234−7099
URL:http://www.granvia-oka.co.jp/index.php
岡山リーセントカルチャーホテル
〒700-0011 岡山県岡山市学南町1丁目3−2
JR岡山駅西口より徒歩で約15分,お車で約5分.会場まで徒歩で10分またはタ
クシーで5分.
TEL:086−253−2233 FAX:086−253−2233
URL:http://recent-culture.5star-e.net/
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《日本心脈管作動物質学会の入会および会員の継続について》
1.年会費:4,000円
2.期 間:加入(会費納入)した年の12月31日まで.
3.機関誌:「血管」を年4回送付します.本年度は1号が学会抄録号となります.
4.総 会:年1回開催します.学会の演題申込者はすべて本会会員に限ります.
5.入会手続き:本学会入会希望者は,学会HP内の各種届出用紙より,入会申し込み用紙をダウン
ロードし,必要事項を記入した用紙をメールまたはFax(059−232−1765)にて事務局までご送付
ください.折り返し必要書類をお送りします.
6.会員の継続手続き:継続用紙にご記入の上,Fax(059−232−1765)にて事務局まで御送信くだ
さい.さらに,下記郵便口座あてに年会費4,000円をお払い込みください.
郵便振替口座:00900−8−49012
加入者名:日本心脈管作動物質学会
7.雑誌送付先などに変更が生じた場合はすみやかに事務局までお知らせください.
《「お知らせ」の掲載について》
本誌では,「血管」に関連した学会および学術集会(国内外,規模の大小は問いません.
)の案内を,
無料掲載いたします.ご希望の方は,締切日までに原稿を事務局へお送りください.
(締切日等は事務
局へご確認ください.)
〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174番地
三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野
日本心脈管作動物質学会事務局
FAX 059−232−1765
T E L 059−231−5411
http://server.typepad.jp/sinmyaku/
[email protected]
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― 8 ―
血管
VOL.31 NO.4 2008
JAPANESE JOURNAL OF
CIRCULATION RESEARCH
編集・刊行/日本心脈管作動物質学会
■学会賞受賞論文
左室拡張不全の病態におけるRhoキナーゼ経路の重要性
−ダール食塩感受性高血圧ラットにおける検討−
福井 重文,福本 義弘,鈴木 潤,佐治 賢哉,田原 俊介
杉村 宏一郎,縄田 淳,加賀谷 豊,下川 宏明………………………………105
脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討
多田 智洋………………………………………………………………………………111
■若手研究者による最新海外情報
サイクリックGPM特異的ホスホジェステラーゼ5(PDE5)による心肥大,
リモデリングの調節
瀧本 英樹………………………………………………………………………………119
■世界の研究室便り
ボストン留学記
浅海 泰栄………………………………………………………………………………127
― 9 ―
Japanese Journal of Circulation Research
VOL.31 NO.4 2008
JAPANESE JOURNAL OF
CIRCULATION RESEARCH
■Young Investigator Research Awards
Long-term Inhibition of Rho-kinase Ameliorates
Diastolic Heart Failure in Hypertensive Rats
Shigefumi Fukui, Yoshihiro Fukumoto, Jun Suzuki, Kenya Saji,
Shunsuke Tawara, Koichiro Sugimura, Jun Nawata, Yutaka Kagaya,
Hiroaki Shimokawa……………………………………………………………………105
Enhanced Pulsatile Pressure Accelerates Vascular Smooth Muscle Migration
Tomohiro Tada………………………………………………………………………111
■Recent
Advances in Circulation Research
Modulation of cardiac hypertrophy and remodeling by cyclic
GMP-specific phosphodiesterase
Eiki Takimoto …………………………………………………………………………119
■Research
Laboratories over the World
My diary of Boston life
Asaumi Yasuhide ……………………………………………………………………127
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血管Vol.31 No.4 2008
クリニカル
日 本 心脈 管 作 動 物 質 学 会 研究奨励賞受賞論文
1
左室拡張不全の病態におけるRhoキナーゼ経路の重要性
−ダール食塩感受性高血圧ラットにおける検討−
福井 重文,福本 義弘,鈴木 潤,佐治 賢哉,田原 俊介,杉村 宏一郎,縄田 淳,加賀谷 豊,下川 宏明
東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野
モデリングや1,ラットのアンジオテンシン負荷モデ
はじめに
ルにおける心血管の肥大といった病態に関与している事
心不全は長らく,心室の収縮障害および心拡大と関連
を示してきた2.しかしながら,Rhoキナーゼ経路が拡張
した病態と見なされてきた.しかしながら,これまでの
不全の病態に関与しているかどうかという点については
多くの研究により心不全は収縮障害のない患者,とりわ
未だ解明されておらず,またRhoキナーゼ経路の抑制が
け高血圧性心疾患のような心室収縮性が保たれた患者に
果たして拡張不全の病態を改善するのか否かといった点
おいても発症してくる事が分かってきた.このような状
についても解明されていない.以上から我々は最近,上
態は,いわゆる収縮不全に対して拡張不全と称されてい
述の確立された拡張不全の動物モデルであるダール食塩
る.現在では,拡張不全は心不全症状のある患者のおよ
感受性高血圧ラットを用いて,高血圧性心疾患に起因す
そ半数を占め,かつその予後も収縮不全と同程度に不良
る拡張不全およびその拡張機能障害の病態におけるRho
である事が明らかとなっている.左室拡張機能障害を規
キナーゼ経路の役割について検討したので概説する3.
定する主な因子としては,増大した心筋のスティッフネ
スと延長した弛緩が挙げられる.
この内,
心筋のスティッ
方 法
フネスは心筋間質の線維化や左室肥大などにより規定さ
今回,我々は生後7週齢のダール食塩感受性高血圧雄
れるものであり,代償性の左室肥大から心不全症状を伴
ラットに8%の高食塩食投与を開始し,無作為に以下の
う拡張不全への進行において重要な役割を果たす事が知
3群に分け実験を行った;未治療の拡張不全群(DHF)
,
られている.しかしながら,拡張機能障害の出現から拡
低用量ファスジル治療群(選択的Rhoキナーゼ阻害薬,
張不全に至る詳細なメカニズムは未だ不明なままであり,
30mg/kg/day)お よ び 高 用 量 フ ァ ス ジ ル 治 療 群
かつその有効な治療法も確立されていない状況である.
(100mg/kg/day).その後17週齢まで10週間の介入を
これまでの研究で,生後7週齢から8%の高食塩食を
行った.週齢が同じコントロール群として,同じくダー
投与されたダール食塩感受性高血圧ラットは高血圧性心
ル食塩感受性高血圧雄ラットに実験期間を通して0.5%
疾患に起因する拡張不全の確立された動物モデルである
の普通食を投与した.収縮期血圧の測定は,tail cuff
事が報告されてきている.なぜなら,左室の拡大がなく
systemを用いて2週間毎に行った.また,低用量および
左室収縮性が保たれているにもかかわらず,心不全症状
高用量のファスジルの投与を行うために,予備実験の飲
を呈してくるためである.
水量を参考に飲水中に含ませるファスジル濃度の調節を
Rhoキナーゼは,血管平滑筋細胞においてその接着や
行った.さらに,我々はこれまでの研究で上記の用量の
増殖,あるいは過収縮といった機能に重要な役割を果た
ファスジルをラットに投与した際の血中濃度を測定し,
している事が知られている.我々は,これまでの研究で
その血中濃度がヒトに投与した場合の臨床的治療域に入
Rhoキナーゼ経路の活性化がマウス心筋梗塞後の左室リ
る事を確認した.
心エコー検査は,7,11,13,17週齢において10MHz
のプローベを用いて施行した.実際の測定は,ケタミン
* 東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野
(〒980−8574 仙台市青葉区星陵町1−1)
塩酸塩(50mg/kg,腹腔内投与)とキシラジン塩酸塩
(10mg/kg,腹腔内投与)による全身麻酔下に自発呼
吸下で行った.左室乳頭筋レベルにおけるM−mode短軸
― 105 ―
左室拡張不全の病態におけるRhoキナーゼ経路の重要性 −ダール食塩感受性高血圧ラットにおける検討−
像から,心室中隔壁厚(IVST),左室後壁厚(LVPWT)
,
ナ ー ゼ の 器 質 と な るERM(ezrin,radixin,moesin)
左室拡張末期径(LVDd)および左室収縮末期径(LVDs)
familyのウエスタンブロッティング法を行った.実際,
を測定した.左室内径短縮率(LVFS)は以下の計算式
リン酸化ERMとtotal ERMの発現をそれぞれの抗体で
/LVDd]x100.
により測定した;LVFS=
[
(LVDd−LVDs)
測定し,その比を左室局所のRhoキナーゼの活性と定義
また,心尖部四腔断面像からカラードップラー法による
した.
僧帽弁流入血流の評価として,拡張早期血流波(E)
,心
房収縮期血流波(A)およびその比(E/A比)を測定し
結 果
た.
高食塩食を10週間投与したDHF群,DHF+低用量ファス
血行動態の評価として,17週齢の心エコー検査終了後
ジル群およびDHF+高用量ファスジル群では,17週齢に
同じく全身麻酔下に,2Fのミラーカテーテルを右総頚
おいてコントロール群に比して顕著にかつ同程度の高血
動脈から挿入し,逆向性に左室へ挿入した.得られた左
圧を呈した(Table1)
.
室圧と心電図をコンピューターシステムに取り込む事に
未治療のDHF群では,心エコー上コントロール群に比
より,左室拡張末期圧(LVEDP),peak positive dP/
して11週齢から17週齢にかけて左室壁厚が進行性に増大
dtおよびpeak negative dP/dt,さらには左室弛緩能の
した(Figure1)
.これに対して高用量のファスジル投
指標となるτ
(タウ)の測定を行った.
与群では左室壁厚の増大が有意に抑制された(Figure1)
.
心 筋 ス テ ィ ッ フ ネ ス の 定 数(myocardial stiffness
また,LVDdとLVFSは実験期間を通して4群間で有意差
constant,MSC)として,左室圧の計測と心エコーでの
なく同程度であったが,この事は4群全てにおいて左室
左室M−modeの計測を同時に行う事により以下のように
収縮性が保たれていた事を示していた(Figure1).未
測定した.まず,左室壁局所にかかるwall stress(σ)
治療のDHF群においては,E/A比が11週齢から13週齢
を以下の計算式により測定した;σ=PD/4H,ここで
にかけて一旦有意に低下し(遷延弛緩障害パターン)
,そ
Pは左室圧,Dは左室短軸径,Hは対象部位の壁厚を示し
の後17週齢において再び増加した(拘束性障害パターン)
ている.そして,拡張期のwall stress(σ)が最小とな
が,これは拡張不全の発症に伴うLVEDPの高度の上昇を
るポイントから拡張末期のポイントまでの間におよそ15
示唆している.これに対して今回のファスジルによる治
ポイントプロットし,以下の指数関数式で近似する事に
療は,前者の弛緩障害については改善効果を示さなかっ
より;σ=Cexp[Kln(1/H)]
,得られた定数Kを対象
たが,最終的な17週齢での拘束性障害パターンへの移行
部位のMSCとして測定した.MSCは心室中隔(IVS)お
を防ぐ効果を示した(Figure1)
.
よび左室後壁(PW)それぞれについて測定した.
LVEDPは17週齢においてコントロール群に比して未
上記の血行動態的評価が終了後,左室重量と肺重量を
治療のDHF群において有意に高かったが,ファスジル治
それぞれ測定した.前者は左室肥大の指標であり,後者
療により有意に改善した(Table1).また左室収縮性の
は左心不全に伴う肺うっ血の指標とした.その後左室乳
良い指標であるpeak positive dP/dtは,4群間で同程
頭筋レベル以下の心尖部側組織を10%ホルマリン溶液で
度であり,この結果は上記の心エコーの結果と一致して
24時間固定し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色と
いた.それに反して,左室弛緩能の良い指標であるpeak
シリウスレッド染色を行った.HE染色により心筋細胞の
negative dP/dtとτは,いずれもコントロール群に比し
横径(cross−sectional diameter,CSD)を測定し,また
て未治療のDHF群で有意に障害されており,これらの2
シリウスレッド染色からコンピューター解析法により心
つのパラメータに関しては今回のファスジル治療により
筋 間 質 の 線 維 化(percentage area of interstitial
改善効果は得られなかった(Table1).一方で拡張機能
fibrosis)を定量化した.
障 害 の も う 一 つ の 重 要 な 規 定 因 子 で あ る,心 筋 の ス
残りの左室の一部を用いて,左室局所の1型コラーゲ
ティッフネス(MSC)は心室中隔と後壁の両方において
ンと3型コラーゲンの発現をウエスタンブロッティング
未治療のDHF群で有意に増大していたが,ファスジル治
法により評価し,その比(collagen type/ ratio)
療により用量依存的に改善した(Figure2).この事は
をコラーゲンのphenotype shiftの指標とした.
ファスジルによる長期治療が心筋自体の硬さを改善した
また,左室局所の酸化ストレスの評価のために残りの
事を示している.
左 室 の 一 部 か ら 凍 結 切 片 を 作 製 し,dihydroethidium
左室重量体重比および肺重量体重比の両方ともコント
(DHE)染色を行いコンピューター解析法により左室局
ロール群に比して未治療のDHF群で増加しており,この
所のスーパーオキサイドの産生を定量化した.
事はDHFに伴う左室肥大とうっ血性心不全(肺水腫)の
左室局所のRhoキナーゼの活性を測定するため,Rhoキ
存在を示している(Figure3).ファスジルによる治療
― 106 ―
血管Vol.31 No.4 2008
Table1
6CDNG
㪞㫉㫆㫌㫇㩷
㪚㫆㫅㫋㫉㫆㫃㩷
㪛㪟㪝㩷
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㪈㪉㪇±㪈㪈㩷
㪈㪉㪌±㪈㪎㩷
㪈㪉㪐±㪉㪈㩷
㪈㪈㪎±㪈㪇㩷
㪈㪎㩷㫎㪼㪼㫂㫊㩷㫆㪽㩷㪸㪾㪼㩷
㪈㪋㪈±㪈㪈㩷
㩷 㩷 㪉㪉㪍±㪊㪈㪁㪁㩷
㩷 㩷 㪉㪈㪋±㪉㪈㪁㪁㩷
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A
B
Figure2
Figure1
A
A
B
Figure3
B
Figure4
― 107 ―
左室拡張不全の病態におけるRhoキナーゼ経路の重要性 −ダール食塩感受性高血圧ラットにおける検討−
A
C
は血圧に影響することなく,左室肥大およ
び肺水腫の状態を有意に改善した
(Figure3).また,
心筋細胞の横径
(CSD)
はコントロール群に比して未治療のDHF
群おいて有意に増大していたが,これもま
たファスジル治療により有意にかつ用量依
存的に改善した(Figure4)
.さらに,左室
間 質 の 線 維 化(percentage area of
interstitial fibrosis)もまた未治療のDHF群
B
D
で有意に増加していたが,ファスジル治療
により用量依存的に抑制された
(Figure5A,B).
ウエスタンブロッティング法により評価
し た 左 室 局 所の1型コラーゲンと3型コ
ラーゲンの発現の比(collagen type/
Figure5
ratio)は,コントロール群に比して未治療
のDHF群 で は 有 意 に 増 加 し て い た
A
(Figure5C,D).この事は拡張不全の進
展に伴って左室局所においてコラーゲンの
phenotypeが3型から1型へシフトした事
を示している.これに対して,ファスジル治
療群ではそのコラーゲンのphenotype shift
が有意に改善された(Figure5C,D)
.
次 に,dihydroethidium(DHE)染 色 に
B
より評価した左室局所のスーパーオキサイ
ドの産生は,コントロール群に比して未治
療のDHF群において有意に亢進していた
が,ファスジル治療により有意に改善した
(Figure6).
さらに,左室局所のRhoキナーゼ活性は,
Figure6
コントロール群に比して未治療のDHF群
において有意に亢進していたが,ファスジ
B
A
ル治療により有意に改善した(Figure7A,
B).重要な事として,
左室局所のRhoキナー
ゼ活性と,心室中隔および左室後壁につい
てそれぞれ求めた心筋のスティッフネス
(MSC)との間に強い相関関係を認めた(R
=0.74,左室後壁,R=0.63,中隔,P<0.
001) (Figure 7C,D)
.この事は拡張不
C
D
E
全の病態における局所のRhoキナーゼ活性
と心筋の硬さとの密接な関係を示唆してい
る.左室局所のRhoキナーゼ活性はまた,
上記のDHE染色により得られた酸化スト
レスの程度とも有意な相関関係を示した
(Figure7E).
Figure7
― 108 ―
血管Vol.31 No.4 2008
局所のRhoキナーゼの活性化の程度とは強い相関関係を
考 察
示していた.さらにファスジルによるRhoキナーゼ経路
以上の結果から,
(1)Rhoキナーゼの活性化が動物モ
の長期の抑制は,左室肥大と間質の線維化を改善し,そ
デルにおける拡張不全の発症に関連しており,
(2)Rho
の結果心筋スティッフネスの増大を改善した.以上から,
キナーゼ活性の程度は拡張不全の病態において重要な左
Rhoキナーゼ経路の活性化は,左室肥大と線維化を介し
室のスティッフネスと良く相関し,
(3)ファスジルによ
て心筋スティッフネスを増大させる事により,高血圧性
るRhoキナーゼ経路の長期抑制がその血圧降下作用とは
心疾患に起因する拡張不全の病態において重要な役割を
独立して拡張不全の病態を改善する事が新たに明らかと
果たしている事が示された.
なった.
活性化されたRhoキナーゼ経路は,血管平滑筋細胞に
上述したようにダール食塩感受性高血圧ラットに生後
おいてmyosin phosphataseを阻害する事によりその過
7週齢から8%の高食塩食を投与した場合,明らかな心
収縮を引き起こしている.本研究では直接示す事は出来
不全症状を呈した後左室収縮性が保たれたまま死亡する
なかったが,血管平滑筋細胞における機序と同様な機序
事が,これまでに確立されている.これまでの多くの研
を介してRhoキナーゼの活性化が直接心筋細胞に作用し,
究がこの拡張不全モデルを用いて,ACE阻害薬やアンジ
その過収縮を引き起こし,心筋のスティッフネスの増大
オテンシン受容体拮抗薬(ARB)がその降圧作用とは独
に一部関与している事が推察される.また,Rhoキナー
立して左室肥大や線維化を改善すると報告をしている.
ゼ 経 路 は 炎 症 性 細 胞 の 浸 潤 やtransforming growth
これらの事はレニンーアンジオテンシン系(RAS系)が
factor−β1(TGF−β1)といった炎症性サイトカインの
拡張不全の病態において重要な役割を果たしている事を
産生にも関与している事が知られている.さらに,我々
示唆している.これに加えて本研究により,高血圧性心
はこれまでの研究でマウス心筋梗塞モデルにおいて活性
疾患に起因する拡張不全の病態においてRAS系だけで
化されたRhoキナーゼが炎症性サイトカインの発現を亢
なくRhoキナーゼ経路もまた重要な役割を担っている事
進させる事により,心筋梗塞後の左室間質の線維化に関
が示された.
与している事を示してきた.これらに加えて,我々は本
拡張機能障害の主要な規定因子は,弛緩障害と増大し
研究でRhoキナーゼの活性化が拡張不全に伴う左室局所
た心筋スティッフネスである.本研究の拡張不全モデル
のコラーゲンの3型から1型へのシフトにも関与してい
において,左室拡張機能障害は初期の段階(11週齢から
る事を示した.さらにそのコラーゲンのphenotype shift
13週齢)では主に弛緩障害が原因とされ,その後の心不
は,以前の研究で同じ拡張不全ラットにおいて心筋ス
全期(17週齢)では増大した心筋スティッフネスが原因
ティッフネスの増大を引き起こす事が示されている.以
である事が知られている.前者のメカニズムは高血圧に
上から,Rhoキナーゼ経路の活性化は心筋のスティッフ
より起こる代償性の左室肥大とカルシウムハンドリング
ネスの増大を初めとする左室のリモデリングにおいて重
を担うタンパク質(SERCA2aやphospholambanなど)
要な役割を果たしている事が明らかとなった.
の異常が主因とされている.それに対して後者のメカニ
酸化ストレスは,さまざまなメカニズムすなわち心筋
ズムは代償性肥大に引き続いて起こる過剰な肥大と心筋
細胞や内皮細胞の障害,心筋細胞のアポトーシスや壊死
間質の線維化が主因とされ,結果として増大した心筋ス
の亢進,あるいは細胞外マトリックスのリモデリングな
ティッフネスは代償性の左室肥大から心不全症状を呈す
どを介して,心不全の増悪に寄与する事が知られている.
る拡張不全の病態への進行を引き起こす.本研究では,
また,これまでの研究では同じ拡張不全ラットにおいて,
ファスジル治療は前者の左室弛緩障害については改善し
増加したreactive oxygen species(ROS)の産生が左室
なかったものの,後者の心筋のスティッフネスを有意に
へのマクロファージの浸潤を促進させる事が示されてい
改善した結果,うっ血性心不全の発症を防ぐ効果を示し
る.我々はまたこれまでの研究で,ラットのアンジオテ
た.このように,拡張不全の病態においてRhoキナーゼ
ンシン負荷モデルにおいて誘導された心血管の肥大に
の 活 性 化 は,弛 緩障害よりもむしろ増大した 心 筋 ス
おいて,Rhoキナーゼ経路の活性化がNAD(P)H oxidase
ティッフネスに関連しているように考えられる.
の活性化を介して酸化ストレスの亢進に関与する事を示
増大した心筋スティッフネスは,主に心筋の肥大と間
してきた.本研究ではさらに,ファスジル治療により高
質の線維化により惹起されると考えられている.本研究
血圧性心疾患に起因する拡張不全の病態において心筋局
では,未治療のDHF群は著明な左室肥大と間質の線維化
所の酸化ストレスが有意に改善された.それと同時に左
を呈し,結果心筋スティッフネスの増大へと至ったと考
室局所のRhoキナーゼ活性の程度と酸化ストレスとの間
えられる.さらにその心筋スティッフネスの程度と左室
に有意な相関関係が認められた.以上から,本研究の高
― 109 ―
左室拡張不全の病態におけるRhoキナーゼ経路の重要性 −ダール食塩感受性高血圧ラットにおける検討−
血圧性心疾患に起因する拡張不全モデルにおいてもRho
キナーゼ経路は酸化ストレスの亢進に関与している事が
Reference
1.Hattori T,Shimokawa H,Higashi M,Hiroki J,Mukai Y,
示された.
Tsutsui H,Kaibuchi K,Takeshita A.Long−term inhibition of
Rho−kinase suppresses left ventricular remodeling after
臨床的観点から
myocardial infarction in mice.Circulation.2004;109:2234−
本研究の結果は,心筋局所のRhoキナーゼの活性化が
心筋のスティッフネスの増大や拡張不全の発症に関与し
2239
2.Higashi M,Shimokawa H,Hattori T,Hiroki J,Mukai Y,
Morikawa K,Ichiki T,Takahashi S,Takeshita A. Long−
ていて,さらにヒトにおいても拡張不全の病態において
term inhibition of Rho−kinase suppresses angiotensin −
重要な役割を果たしている事を示唆するものであった.
induced cardiovascular hypertrophy in rats in vivo:effect
以上から,今後の研究でヒトにおいてRhoキナーゼ阻害
on
薬の臨床的有用性や安全性を十分確認する必要はあるも
のの,拡張不全に対する新たな治療戦略となりうると考
endothelial
NAD
(P)
H
oxidase
system. Circulation
Research.2003;93:767−775
3.Fukui S,Fukumoto Y,Suzuki J,Saji K,Nawata J,Tawara
S,Shinozaki
えられた.
T,Kagaya
Y,Shimokawa
H.Long−term
inhibition of Rho−kinase ameliorates diastolic heart failure in
hypertensive rats.Journal of Cardiovascular Pharmacology.
2008;51:317−326
― 110 ―
血管Vol.31 No.4 2008
ベーシック
日 本 心脈 管 作 動 物 質 学 会 研究奨励賞受賞論文
2
「脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討」
多 田 智 洋
東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野
.はじめに
.方 法
高血圧は,動脈硬化の発生および進展において重要な
この研究は,東北大学大学院医学研究科で行なわれて
危険因子である1).いくつかの臨床試験において,血行動
いる倫理委員会にて承認を得て,行なわれた.
態因子のひとつである脈圧(pulsatile pressure)が心血管
疾患の独立した因子であることが報告されている2)−3).
1)平滑筋細胞の単離と培養
脈圧とは脈幅をもち経時的に変化する圧であり,平均圧,
本研究ではラットから大動脈平滑筋細胞を単離培養し
脈圧,脈波数によって規定される.フラミンガム研究に
実験を行った.200gのWistar ラットの胸腹部大動脈を,
おいて,血圧に関連した心疾患の予後と脈圧が有意に相
ペントバルビタール麻酔下で取り出した.10%ウシ血清
4)
関することが示されている .In vivo研究において,定
を含むDMEM液にて,5% CO2を含む37度のインキュ
常圧(変化しない一定の圧)よりも,このような脈圧が
ベータ内で継代培養を行い,5代から10代までの細胞を
リモデリングに大きな影響を与えることが報告されてい
実験に使用した.これらの細胞は,α−アクチン抗体で
るが5),現在のところ,脈圧の動脈硬化に与える影響と
免疫染色し,平滑筋細胞であることを確認した.
その機序はまだ十分に解明されていない.
一方,血管平滑筋細胞の増殖と遊走は,動脈硬化の発
2)圧負荷装置(図1)
生と進展に重要な役割をもつ.細胞遊走を制御する因子
負荷圧による平滑筋細胞の遊走能を評価するために,
の一つとして,機械的ストレス(mechanical stress)が
わ れ わ れ は 血 管 内 バ ル ー ン パ ン ピ ン グ 装 置(Intra−
挙げられる.実際,以前のわれわれの研究において,定
aortic balloon pump,IABP)とボイデンチャンバーを
常圧により平滑筋細胞の遊走能が亢進することを報告し
組み合わせることで実験を行った.ガラス瓶の中に,細
6)
ている .しかしながら,脈圧の平滑筋細胞の遊走能にあ
胞をいれたボイデンチャンバーをいれ,さらに保湿のた
たえる影響についてはまだ十分な解明がなされていない.
めにガラス瓶の底には十分量の蒸留水を入れた.内腔を
細胞が遊走する機序については,いくつかの系が解明
もつ細いガラス棒をシリコン栓に貫通させ,そのシリコ
されつつある.Small G蛋白,Rhoキナーゼ,アクチン結
ン栓でガラス瓶の口を塞ぎ閉鎖回路とした.ガラス棒は
合蛋白などが知られ,いくつかの経路では細胞内カルシ
ゴム管でIABPおよび,圧センサーと接続した.IABPか
7,
8)
.
らの送気により,この閉鎖回路内の圧が上がることによ
今回,われわれは,独自に作製した圧負荷装置とボイ
り,ボイデンチャンバー内の溶液を介して,細胞に一律
デンチャンバーを用いて大動脈平滑筋細胞に様々な脈圧
に全方向から圧を負荷することができる.IABPからの送
を負荷することで,細胞遊走能に対する脈圧の影響を検
気量および送気時間を変更することで,様々な圧負荷を
9)
つくりだすことができた.同様の回路をつくり,送気を
ウムによる制御が関与していると報告されている
討したのでここに報告する .
行わないことで,これをコントロールとした.送気と脱
気の時間は一定であり,基本頻度は毎分60回とした.
*東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野
(〒980−8574 仙台市青葉区星陵1−1)
実験を開始する前に,予備実験として次のことを確認
している.圧負荷による遊走能は,われわれの実験系に
おいては,6時間でほぼプラトーに達していた.また,
― 111 ―
「脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討」
圧負荷6時間後では,細胞のviabilityが下がらないこと
は低い平均圧(90/0mmHg)よりも有意に遊走能が亢
をトリパンブルー染色により確認した.
進していた.また,平均圧を同じとして脈幅を変化させ
た場合,より大きな脈幅において遊走能が亢進していた.
3)ボイデンチャンバー
さらに,同じ脈幅,同じ平均圧において,圧負荷の頻度
ボイデンチャンバーを用いて細胞遊走能の検討を行っ
を変えて比較したところ,低頻度(毎分40回)よりも,
た.使用したボイデンチャンバーには8μmの穴(pore)
高頻度での圧負荷(毎分120回)によって細胞の遊走能は
が開いている.チャンバーの膜の上面にfibronectinを
亢進していた.
コーティングし,その上に細胞浮遊液を挿入した.チャ
ンバーの膜の下には,5%ウシ血清を含むハンクス溶液
2)細胞内カルシウム濃度と遊走能の検討(表2)
を置いた.細胞を膜に接着(adhesion)させた後,前述
圧負荷による細胞遊走能の亢進の機序を考えるために,
のような装置を用いて,チャンバー全体に圧負荷を行っ
われわれは細胞内カルシウム濃度の変化について注目し,
た.負荷時間は6時間とし,37度のインキュベーター内
検討を行った.細胞内のPhospholipase(PLC)の阻害薬
で行った.負荷終了後に,チャンバー膜の上面の細胞を
であるU−73122により,細胞の遊走は完全に抑制された.
綿棒できれいに拭き取ったあとに,膜をギムザ染色する
細胞内のカルシウムはカルモジュリンと結合し,作用す
ことで,膜の下面への遊走した細胞を検出し,評価した.
ることが知られている.そこで,カルモジュリンの阻害
各種薬剤による遊走能の変化をみるために,圧負荷を
薬(W−7)を用いたところ,圧負荷のない条件下での遊
する1時間前に薬剤を添加し,その後圧負荷を行い,薬
走能への変化はみられなかったが,圧負荷のよる遊走能
剤の効果の評価を行った.
の亢進が抑制された.このことから,圧負荷による遊走
能の亢進には,細胞内カルシウムの関与が重要であるこ
4)細胞内カルシウム測定
とが考えられた.
圧負荷による細胞の遊走能の機序を調べるために,細
胞内カルシウム濃度の検討を,Fura−2/AMを用いた蛍
3)細胞内カルシウムストアにおけるIP3感受性レセプ
ターとリアノジンレセプターの関与(表3・4)
光顕微鏡にて行った.細胞にFura−2/AMを導入し,リ
ンスした後に細胞の入ったフラスコに圧を負荷した.細
さらに,われわれは,Fura−2/AMを用いて,細胞内
胞内カルシウム濃度は,Xenonランプを用いて,波長
カルシウム濃度の変化を検討した.細胞内カルシウム濃
340nmと380nmの二波長励起法で計測し,F340/F380の
度は,340nm励起時と380nm励起時の波長の比によって
比をもって,細胞内カルシウム濃度の変化の検討を行っ
検討を行った.定常圧,脈圧それぞれで比が上昇し,細
た.ボイデンチャンバーでの遊走能の変化の検討と同様
胞内カルシウム濃度の上昇が起こっていることが示され
に,圧負荷1時間前に各種薬剤を添加し,それらの効果
た.
の検討を行った.
細胞内カルシウム動態に関与するものとして,細胞内
カルシウムストアが存在する.そのストアからのカルシ
5)解 析
ウムの放出には,2種類のレセプターの関与が知られて
実験はすべてtriplicateで行った.データは,平均値±
いる.一つは,IP3感受性レセプターであり,これは,
標準誤差で表し,unpaired t−testもしくはANOVAで検
2−APBおよびxestospongin Cにより阻害される.もう
定を行った.カルシウム濃度については,同一細胞での
一つのレセプターは,リアノジンレセプターと呼ばれ,
検討であるため,paired t−testで検定を行った.解析は
これはある濃度のリアノジンにより阻害されることが知
SPSS 11.0Jを用い,P<0.05をもって有意とした.
られている.
はじめに,2−APBを用いて細胞の遊走能の変化を検
.結 果
討したところ,圧負荷なしの条件では遊走能に変化はみ
1)脈圧による遊走能への影響(表1)
られなかったが,圧負荷時の遊走能亢進は抑制された.
脈圧(平均圧,脈幅,脈波数)による効果を調べるた
この際の細胞内カルシウム濃度の変化を検討すると,細
めに,IABPを用いて様々な圧の負荷を行った.
胞内カルシウム濃度は,圧負荷なしの条件では変化なく,
まず,定常圧との比較を行ったところ,定常圧(180mmHg)
圧負荷時には上昇が抑制されていた.この二つの結果は
と比較して,脈圧(180/90mmHg)では,有意に細胞
矛盾せず,圧負荷により,細胞内カルシウム濃度の上昇
の遊走能が亢進していた.次に,同じ脈幅で平均圧を変
し,その結果細胞の遊走能は亢進する.その機序には,
えて比較したところ,高い平均圧(180/90mmHg)で
細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出が関与し
― 112 ―
血管Vol.31 No.4 2008
ていることを示している.この結果をサポートするように,
ンにより制御する機序が知られている10).しかしながら,
同じくIP3感受性レセプターを阻害するxestospongin
機械的ストレスによる遊走能についてはまだ十分解明さ
Cによっても全く同様の結果が得られた.しかし一方の
れていない.機械的ストレスは,pressure(圧)
,shear
レセプターであるリアノジンレセプターの阻害では遊走
(ずり応力)
,stretch(引き延ばし)からなる.本研究
能,細胞内カルシウムに変化がみられなかった.このこ
では,脈圧による平滑筋細胞の遊走能に直接影響を与え
とから,圧負荷による細胞内カルシウムの上昇には,IP3
ることを初めて報告した.
感受性レセプターを介した,細胞内カルシウムストアか
本研究において,平滑筋細胞の遊走能は,脈圧の構成
らのカルシウム放出が重要であると考えられた.
因子である,平均圧,脈幅,脈波数のおのおのの増強に
よって,亢進がみられた.これらの結果は,いくつかの
4)L−typeカルシウムチャネル拮抗薬とアンジオテンシ
ンtype−1受容体阻害薬(表5)
臨床研究でみられる,高い収縮期血圧だけでなく,大き
な脈幅や高い心拍数もまた高血圧患者の予後に影響を及
最後に,臨床的濃度におけるカルシウム拮抗薬とアン
ぼすことと矛盾しない11).これらの結果はまた,平滑筋
ジオテンシンtype−1受容体阻害薬の効果について,検
細胞が圧の大きさだけではなく,負荷される圧の形も認
討を行った.
識している可能が示唆された.これらをまとめると,脈
L−typeカルシウムチャネル拮抗薬であるazelnidipine
圧という機械的ストレスにより平滑筋細胞の遊走能が制
の臨床濃度での効果を検討したところ,圧負荷を行わな
御されていることがわかった.
い条件下での遊走能には影響がなかったが,圧負荷時の
細胞遊走能の亢進は有意に抑制していた.この点と矛盾
2)細胞内カルシウムと遊走能
せずに,細胞内のカルシウム濃度の変化も抑制されてい
定常圧,脈圧はともに細胞内カルシウム濃度を上昇さ
た.
せ,薬剤によりこの上昇を抑制すると,圧負荷により起
次に,アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬である
こる遊走能の亢進が抑制された.このことから,細胞内
olmesartanについて検討を行った.Olmesartanはアンジ
カルシウムシグナリングが,圧負荷による遊走に重要な
オテンシン受容体の阻害によりさまざまな生体内での作
役割を果たすことが示された.この遊走能の亢進は,
用を持つことが知られているが,今回の我々の実験系に
,カルモジュリンの阻害(W−7)
PLC の阻害(U−73122)
おいても次のような結果をもたらした.Azelnidipineと
によっても抑制された.PLC はG蛋白結合レセプターの
同様に,圧負荷時においてのみ,細胞の遊走能亢進を抑
ようないくつかのレセプターにより活性化される.PLC
制した.しかし,興味深いことに,この際に細胞内のカ
の活性化は,IP3のup−regulationをおこし,IP3が細胞
ルシウム濃度には有意な変化がみられなかった.
内カルシウムストアのレセプターに結合することにより
細胞内カルシウムストアからのカルシウムの放出を起こ
す.増加した細胞内カルシウムはカルモジュリンと結合
.考 察
し,細胞遊走に寄与する.本研究の結果と合わせ考える
本研究において,次の点が新しく示された.平均圧,
と,細胞内カルシウムシグナリングが圧負荷による遊走
脈幅,脈波数により規定される脈圧により,ラット大動
能亢進の機序の一つであることが示された.
脈平滑筋細胞の遊走能は亢進し,その機序にはIP3感受
細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出には,
性レセプターを介した細胞内カルシウムの増加が関与し
IP3感受性レセプターとリアノジンレセプターの二種類
ている.さらに,L−typeカルシウムチャネル拮抗薬であ
の関与が知られている12).以前に,vortexによる機械的
るazelnidipine,アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬
ストレスがTHP−1細胞の接着を亢進させ,その機序に
であるolmesartanは,圧負荷による遊走能の亢進を抑制
はIP3の関与することが報告されている13).本研究にお
した.このことは,これらの薬剤が,単なる降圧作用だ
いて,圧負荷による細胞内カルシウム濃度の上昇には,
けではなく,直接的に細胞動態に影響を及ぼすことで,
IP3感受性レセプターを介した細胞内カルシウムストア
抗動脈硬化作用を持つ可能性を示した.
からのカルシウム放出が関与していることを示した.細
胞内カルシウムの増加は,細胞膜のチャネルを介した細
1)動脈硬化における平滑筋細胞遊走の役割
胞外カルシウム流入を起こす刺激となる.これらのこと
平滑筋細胞が中膜から内膜側へ遊走することは,動脈
より,圧負荷によるIP3感受性レセプターを介した細胞
硬化の進展において重要な役割を果たす.このような遊
内カルシウムストアからのカルシウム放出は高血圧にお
走は,PDGF,アンジオテンシンといったサイトカイ
ける動脈硬化進展に重要な役割を示すことを示唆してい
― 113 ―
「脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討」
る.
一方で,アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬によ
平滑筋細胞を含めたさまざまな細胞のシグナル伝達に
る遊走能への影響は複雑である.先に述べたように,脈
おいてカルシウムがsecond messengerとして重要であ
圧による遊走能亢進はPDGFやアンジオテンシンと
14)
ることが知られている .さまざまなagonistによるレセ
いった因子によるものに似ていた.アンジオテンシン
プターの活性により,細胞外シグナルが細胞内の蛋白,
type−1受容体がmechanosensorであるという報告がさ
たとえばG蛋白,PLC系,PI3系などの活性化への伝達
れているが19),我々のデータではカルシウム動態に変化
される.その細胞外から細胞内シグナル伝達へのリレー
なく,アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬により遊
役としてカルシウムが重要な役割を果たす.生体内のサ
走能が抑制されている.アンジオテンシンtype−1受容
イトカインであるPDGFやアンジオテンシンIIもまた細
体はカルシウムシグナル伝達系のみならずいくつかの情
胞内カルシウムを介し細胞の遊走を起こすことが知られ
報伝達系の上流に位置する.たとえば,Rho−kinaseはア
15)
ている .PDGFによる細胞遊走能の亢進は,PLCの活性,
ンジオテンシンtype−1受容体の下流に位置することが
細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出,カルシ
示され20),われわれの以前の研究においても,定常圧に
ウムーカルモジュリン経路によるとされている16).われ
よる平滑筋細胞の遊走能の亢進にはRho−kinaseが関与
われの実験結果を検討すると,このようなアンジオテン
していることを報告している.アンジオテンシンtype−1
シンやPDGFによってもたらされる遊走能の亢進に似
受容体の阻害はこのような多くのシグナル系の抑制をも
ているように思われた.
たらすため,olmesartanによる抑制効果はカルシウム動
われわれは以前に定常圧による細胞遊走能の検討を行
態とはおおよそ独立したものである可能性がある.
ない,その機序にはRho−kinaseの関与があると報告した6).
現在までにstretchによる平滑筋細胞のシグナル伝達に
4)臨床応用
ついては知見が得られ,インテグリン,イオンチャネル,
本研究により,脈圧は細胞内カルシウム伝達の抑制を
17)
receptor tyrosine kinaseの関与が知られている .しか
介して,平滑筋細胞の遊走能を亢進することが示された.
しながら,圧刺激によるシグナル伝達についてはまだ十
脈圧は,より高い平均圧,より大きな脈幅,より頻回な
分わかっていない.われわれの負荷装置において,理論上
刺激であるほど,遊走能の亢進をもたらす.カルシウム
細胞にはほとんどstretchがかからない.このことから,ま
拮抗薬,アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬は,降
だ不明の機械刺激を感受するセンサー(mechanosensor)
圧作用という間接的にだけでなく,平滑筋細胞の遊走抑
の存在が考えられる.それは単なる圧の感知だけではな
制という直接的な抗動脈硬化作用を持つ可能性が示され
く,たとえば負荷直後の弛緩も感知しているのかもしれ
た.脈圧は,高血圧性心血管疾患の治療における重要な
ない.180mmHgの定常圧より180/90mmHgの脈圧にお
治療ターゲットとなりうることが示唆された.
いて遊走能が亢進しており,そのような負荷圧と弛緩を
センサーが感知し,結果として,より大きな脈幅や刺激
.謝 辞
本研究の御指導を戴きました東北大学内科病態学講座
頻度により遊走能が亢進する可能性がある.
循環器病態学分野 下川宏明教授および縄田淳講師に深
3)L−typeカルシウムチャネル拮抗薬とアンジオテンシ
謝いたします.
ンtype−1受容体阻害薬
本研究において,azelnidipineとolmesartanはともに圧
負荷による遊走能亢進を抑制した.しかしながら,その
機序は違いがあり,azelnidipineは細胞内カルシウム濃度
の上昇抑制とともに遊走能の抑制が起こっているが,一
方でolmesartanはカルシウム動態には影響を与えなかっ
た.
L−type カルシウムチャネルは,細胞外からのカルシ
ウム流入を制御するが,これは細胞内カルシウムストア
からのカルシウム放出がtriggerとなる18).Azelnidipine
による圧刺激による遊走能の亢進は,L−typeカルシウム
チャネルレベルでの細胞外からのカルシウム流入による
ものと考えられる.
― 114 ―
血管Vol.31 No.4 2008
IABP
ⴊ࿶⸘
mmHg
180
0
䉧䊤䉴↉
⴫䋱
⴫䋱
ᐔṖ╭⚦⢩
䊗䉟䊂䊮䉼䊞䊮䊋䊷
ㅍ᳇
䉟䊮䉨䊠䊔䊷䉺
図1.圧負荷装置
P<0.05
%
300
B
200
150
100
50
0
C
ቯᏱ࿶
180
150
100
50
200
150
100
200
150
100
50
50
0
90/0
180/90mmHg
P<0.05
%
300
250
250
200
⣂࿶
180/90 mmHg
C
%
300
250
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
250
P<0.05
P<0.05
%
300
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
A
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
⴫䋱
0
0
170/130
40
120/ಽ
180/90mmHg
190/110mmHg
表1.圧負荷と遊走細胞数
脈圧と定常圧(A),平均圧(B)
,脈幅(C),刺激頻度(D)による平滑筋細胞の遊走の変化.圧をかけない条件下をコントロールとして,
⴫䋳
比較検討.n=7.
300
B
B
%
300
P<0.05
250
200
150
P<0.05
100
50
A
A
P<0.05
%
1.2
200
NS
150
100
0
vehicle
U-73122
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
vehicle
U-73122
⣂࿶
180/90 mmHg
P<0.05
1.3
250
50
0
B
1.3
F340/F380 Ყ
A䌁
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
⴫䋲
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
⴫䋱
࿑䋱
1.2
P<0.05
1.1
1.1
1.0
1.0
0.9
0.9
0.8
W-5
W-7
W-5
0.8
0
W-7
180
ቯᏱ࿶ (mmHg)
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
⣂࿶
180/90 mmHg
90/0
180/0
⣂࿶ (mmHg)
表2.細胞内カルシウム動態に影響を与える薬剤の効果検討
表3.細胞内カルシウム濃度の検討
U−73122(PLC阻害薬),W−7(カルモジュリン阻害薬)の効果
検討.圧をかけない条件下をコントロールとして,比較検討.n=7.
W−5はW−7のnegative control.
F340/F380比による細胞内カルシウム濃度の検討.定常圧(A)
および脈圧(B)による検討.n=7.
― 115 ―
「脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討」
⴫䋴
P<0.05
1.3
NS
1.0
1.0
0.9
vehicle
2-APB
vehicle
2-APB
%
250
XeC
vehicle
%
250
200
XeC
vehicle
⣂࿶
180/90 mmHg
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
P<0.05
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
NS
100
50
250
P<0.05
NS
2-APB
vehicle
100
50
2-APB
NS
NS
100
50
0
vehicle
⣂࿶
180/90 mmHg
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
Ry
⣂࿶
180/90 mmHg
%
150
0
vehicle
vehicle
200
150
0
Ry
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
200
150
1.0
0.8
vehicle
⣂࿶
180/90 mmHg
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
1.1
0.9
0.8
0.8
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
1.2
1.1
0.9
B
P<0.05
F340/F380 Ყ
1.1
NS
NS
1.3
NS
1.2
F340/F380 Ყ
1.2
F340/F380 Ყ
1.3
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
A
XeC
vehicle
XeC
vehicle
⣂࿶
180/90 mmHg
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
Ry
vehicle
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
Ry
⣂࿶
180/90 mmHg
表4.平滑筋細胞遊走におけるIP3感受性受容体とリアノジン受容体
細胞内カルシウム濃度の変化(A)と遊走細胞数(B)の検討.n=7.
P<0.05
⴫䋵
200
P<0.05
%
1.31.2-
150
NS
F340/F380 Ყ
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
A
100
50
0
NS
1.11.00.90.8-
vehicle
vehicle
vehicle
azelnidipine
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
vehicle
azelnidipine
azelnidipine
⣂࿶
180/90 mmHg
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
P<0.05
200
%
F340/F380 Ყ
ㆆ⿛⚦⢩ᢙ 䋨䋦䋩
1.2-
NS
150
100
50
0
NS
1.3-
B
azelnidipine
⣂࿶
180/90 mmHg
1.1-
NS
1.00.90.8-
vehicle
olmesartan
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
vehicle
olmesartan
⣂࿶
180/90 mmHg
vehicle
olmesartan
䉮䊮䊃䊨䊷䊦
0 mmHg
vehicle
olmesartan
⣂࿶
180/90 mmHg
表5.L−typeカルシウムチャネル拮抗薬とアンジオテンシンtype-1受容体阻害薬
L−typeカルシウムチャネル拮抗薬Azelnidipine(A),アンジオテンシンtype−1受容体阻害薬
Olmesartan(B)の影響の検討.n=7.
― 116 ―
血管Vol.31 No.4 2008
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platelet−derived
smooth
growth
muscle
cell
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「脈圧による平滑筋細胞における遊走能の変化の検討」
― 118 ―
血管Vol.31 No.4 2008
クリニカル
若 手 研究 者 に よ る 最 新 海 外情報
1
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5(PDE5)
による心肥大、リモデリングの調節
瀧 本 英 樹
ジョンズホプキンス大学医学部 循環器科
らの中でPDE5は血管平滑筋における発現が多く,シル
はじめに
デナフィルをはじめとするPDE5の阻害薬は勃起保全
筆者は2001年7月より米国,メリーランド州にある
の治療薬として広く使われてきた.また最近では肺高血
Johns Hopkins大学 Division of Cardiologyに在籍して
圧にも有効であることが明らかになっている2).これま
おり,Dr.David A Kass教授(心臓生理学)の研究室
で心臓においては,PDE5発現の検出が他の臓器(肺な
で,サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5に
ど)に比べて困難であったこと,またPDE5阻害薬が健
よるサイクリックGMPの調節と,その心機能,心肥大,
常人の安静時心機能に殆ど影響を及ぼさないことなどか
リモデリングにおける役割について研究してきた.本稿
ら,心筋細胞にPDE5は存在しない,もしくは存在して
ではわれわれが既に報告した結果に最新の知見を加えて
も機能していないと考えられていた1).しかし,近年に
紹介する.
なって,われわれを含むいくつかの研究グループより,
様々な心疾患モデル動物(心肥大,ドキソルビシン心筋
症,心筋梗塞,心虚血再灌流,ジストロフィン異常に伴
背 景
う心筋症)において,シルデナフィルが心病態を改善す
サイクリックGMPはグアニル酸シクラーゼにより
ることが報告され,心臓における役割が明らかになりつ
GTPから生成される細胞内セカンドメッセンジャーで
つある3−7).われわれのグループはイヌ心臓で,PDE5
あり,様々な細胞内生理作用を有している.サイクリッ
阻害薬がカテコラミンβ刺激による強心作用を減弱する
クAMPがエピネフリンやグルカゴンの作用を仲介する
ことを報告し,PDE5が心臓において機能していること,
のに対し,サイクリックGMPは心房性ナトリウム利尿ペ
さらに免疫染色を用いてPDE5が心筋細胞内のZ帯に存
プチド(ANP)や一酸化窒素(NO)の細胞内メディエー
在することを初めて報告した8).その後われわれは心機
ターであることが知られている.前者では細胞膜ANP受
能のみならず,心肥大,リモデリングがPDE5−サイク
容体(natriuretic peptide receptor−A;NPRA)の細胞
リックGMP経路によってどのように調節されるかとい
内グアニル酸シクラーゼドメインを介し,また後者は細
うことに着目して研究を進めている.以前よりNO,ANP
胞質可溶型グアニル酸シクラーゼを刺激することにより
といったサイクリックGMPの産生刺激,あるいはサイク
サイクリックGMPが生成される.サイクリックGMPや
リックGMP自体が心筋細胞の肥大反応を抑制すること
サイクリックAMPといったサイクリックヌクレオチド
は報告されていた9).われわれはシルデナフィルによっ
は組織特異的なホスホジエステラーゼ(PDE)によって
てPDE5を阻害し,サイクリックGMPの分解を抑えるこ
分解される.現在までにPDE1∼PDE11まで11のアイソ
とで,心肥大やリモデリングが効果的に抑制されること,
ザイムが同定されているが,サイクリックGMPを特異的
また同時に心機能も改善されることを,マウス心肥大∼
1)
に分解するものとしてはPDE5,6,9がある .これ
心不全モデルを用いて初めて明らかにした3).さらに,
既に確立した心肥大に対しても治療効果が認められるか
どうかを検討した.また分子生物学的手法(shRNAによ
*ジョンズホプキンス大学医学部 循環器科
(720 Rutland Avenue,Ross 850 Baltimore,MD 21205,,USA)
るPDE5遺伝子発現抑制)を用いてPDE5の細胞内分布
及びPDE5抑制による心肥大抑制効果を検証した10).
― 119 ―
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5
(PDE5)
による心肥大、リモデリングの調節
に転写後,特異的一次抗体にて解析を行った3,10).特異
方 法
的一次抗体は以下のとおり.
動物モデル
PDE5,Thr202/Thr204−phospho−ERK,ERK,
Signaling
心肥大∼心不全モデル(圧負荷:Transverse Aorta
Ser9−phospho−GSK3β,GSK3β(Cell
Constriction or TACモデル)3):マウスは10−12週齢の
Technology)
雄C57BL6(Jackson Laboratory)を用いた.イソフル
calcineurin(BD Transduction Laboratory)
レン吸入麻酔,人工呼吸器管理で開胸の後,横行大動脈
を7−0プロリン糸,27ゲージ針を用いて結紮した.シ
ラット培養心筋細胞からの全RNAはTRIzol(Invitrogen)
ルデナフィルは一日100mgの混餌経口投与をプロトコル
にて抽出し,定量RT−PCR反応はSyberGreenを用い,
に従い,手術後0日,もしくは3週目より3週∼6週間
GeneAmp 5700(Applied Biosystems)にて行った10).
投与した.
特異的プローブの配列は以下のとおり.
アデノ随伴ウイルス(AAV−2/9)導入10):イソフ
−ATGCAGAAGCTGCTGGAGC
Rat BNP(Forward 5’
ルレン吸入麻酔,人工呼吸器管理のもと開胸後,上行大
−CTTCTGCCCAAAGCAG
TGATA−3’,Reverse 5’
動脈,肺動脈をクランプ(15−30秒)し,心尖部より30
)
CTTGAACT−3’
ゲージ針を用いて1x1011GCのウイルスPBS溶液を注入
病理組織
した.解析は術後6週目に行った.
心臓組織を10%ホルマリンで24時間固定の後,パラ
心エコー検査,侵襲的心カテーテル検査3)
フィン包埋し,4umの切片を作成.HE染色, PAMS−H
心エコー検査はSONOS−5500(アジレントテクノロ
染色をおこなった3).
ジー),13MHzプローブを用いて,マウス覚醒下に行った.
Mモードエコーから収縮末期,拡張末期左室内径,左室
免疫組織化学
壁厚,LV massを計測した.
心筋細胞をアセトン,エタノール(1:1)固定の後,
心カテーテル検査はウレタン(750−1000mg/kg,i.p.
)
,
0.005%サポニンで膜透過処理を行った.一次抗体(抗
エトミデート(5−10 mg/kg,i.p.)
,塩酸モルヒネ
PDE5A)で一晩,蛍光2次抗体 (Alexa 488 or 546)
(1−2mg/k,i.p.)で麻酔の後,人工呼吸器管理下
で1時間インキュベートし,共焦点レーザー顕微鏡にて
に開胸,心尖部より1.4Frのミラーカテーテル(SPR
観察した10).
839)を左室内に挿入留置した.左室内圧,左室容積をコ
ンピュータに接続して圧容積曲線を描出,解析ソフトウ
PDE5酵素活性測定
エア(WinPvan)を用いて解析した.
PDE5の活性はシルデナフィルで抑制されるcGMP−
PDE活性として蛍光偏光アッセイ法(Molecular Probe)
新生仔ラット心筋細胞培養と心肥大刺激,アデノウイル
を用いて測定した10).
スの感染10)
生後1日目のSprague Dawleyラットより胸骨切開に
て心臓を摘出,Krebs−Henseleit バッファー内でmince
結 果
の後,コラゲナーゼ,トリプシン処理で細胞を単離,90
PDE5阻害薬による心肥大,リモデリングの抑制効果
分の前培養の後,DMEM培養液(10%血清添加)中で24
圧負荷(TAC)によりマウス心臓は経時的に心肥大,
時間培養した.24時間後に無血清の培養液に変更後,ア
リモデリングを起こすが,手術直後からのシルデナフィ
デノウイルス感染(25−50M.O.I.
)を行った.心肥
ル投与はこの圧負荷による心重量の増加(心肥大)を有
大刺激には24−48時間のフェニレフリン(20μM)もし
(Figure1A).心エコー検査所見からも
意に抑制した3)
くはエンドセリン1(0.01−0.1μM)を用いた.
圧負荷による心肥大,左室内径(LV−Dd)増加と収縮
力(FS)の低下といったリモデリングの経時的進展がシ
タンパク(ウエスタンブロット)解析,mRNA(RT−PCR)
ルデナフィル投与により抑制されていることが示されて
解析
いる(Figure1C).病理組織所見でも,心筋細胞サイズ,
マウス心臓組織,新生仔ラット培養心筋細胞からのタ
間質線維化の増加がともに抑制されていた(Figure1B).
ンパクはLysis Buffer(Cell Signaling Technology)を
さらに一旦確立した心肥大に対する効果をみるために
用いて抽出,SDSPageにて分離し,ニトロセルロース膜
TAC術後3週で病態が確立した時点からシルデナフィル
― 120 ―
血管Vol.31 No.4 2008
A
B
Heart Weight /Tibia Length
(mg/cm)
vehicle
Sham
sildenafil
Sham
3wk TAC
3wk TAC
9wk TAC
9wk TAC
250
vehicle
*
200
sildenafil
*
150
100
50
0
Sham TAC 3W TAC 9W
C
sham
vehicle
TAC 3W
vehicle
TAC 9W
vehicle
LV- Dd
(µm)
FS
(%)
*
6.0
80
*
*
4.0
*
60
40
2.0
20
0
0
Sham
sham
sildenafil
TAC
3W
Sham
TAC
9W
TAC
3W
TAC
9W
TAC 9W
sildenafil
TAC 3W
sildenafil
Figure1
(A)圧負荷による経時的(TAC3週,9週)な心重量(Heart Weight / Tibia Length)の増加はシルデナフィルによ
り有意に抑制された.
(B)PAMS−H染色像.経時的な心筋細胞のサイズの増加,線維化(黒)の進展はシルデナフィルに
より抑制されていた.(C)覚醒下マウス心エコー所見.Mモード(左)とパラメータ(右).*p<0.05.
A
Sham
3W-TAC
9W-TAC
B
9W-TAC
+delayed SIL
Heart Weight /Tibia Length
(mg/cm)
150
*†
*
*
100
50
Sham (N=5)
LV-Dd
(mm)
TAC (N=9)
LV mass
(mg)
5.0
TAC+dSIL (N=10)
*
4.0
200
*
100
*
*
6
9
Sham TAC TAC TAC
3W 9W 9W
+
delayed SIL
FS
(%)
80
300
0
*
40
*
3.0
0
0
3
6
9
(wks)
3
3
6
9
(wks)
(wks)
Figure2
確立した心肥大に対するシルデナフィルの効果.
(A)心エコー検査より得られたMモード(上)とパラメータ(下).TAC3
週目からシルデナフィルを投与した場合(+delayed SIL)にも左室の拡張末期径の増加,LV massの増加,心機能の低下
は抑制される.*p<0.05 vs TAC.
(B)心重量.*p<0.05 vs sham,+p<0.05 vs TAC3W and TAC9W+delayed SIL.
― 121 ―
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5
(PDE5)
による心肥大、リモデリングの調節
B
A
TAC 3W
200
150
100
50
0
0
20
0
40
20
40
0
20
200
150
100
50
0
0
40
20
40
LV volume (˩O
LV peak-pressure
(mmHg)
200
*
*
150
*†
200
tau
(msec)
*
Sham TAC TAC
3W 3W
+
SIL
†
20
40
60
tau
(msec)
†
*
200
50
0
0
0
Sham TAC TAC
3W 3W
+
SIL
†
4
100
2
*
6
*
100
100
Sham TAC TAC
3W 3W
+
SIL
*
150
100
0
0
dP/dt ip
(s-1)
LV peak-pressure
(mmHg)
200
6
4
50
60
LV volume (˩O
dP/dt ip
(s-1)
300
TAC 9W + delayed SIL
TAC 9W
TAC 3W + SIL
LV pressure (mmHg)
LV pressure (mmHg)
Sham
2
0
0
Sham TAC TAC
9W 9W
+
Delayed SIL
Sham TAC TAC
9W 9W
+
Delayed SIL
Sham TAC TAC
9W 9W
+
Delayed SIL
Figure3
圧容積ループによる心機能解析.
(A)TAC0日からのシルデナフィルの効果.コントロール(Sham)とTAC3週におけ
る代表的なループを示す(上).下段はPVループ解析で得られた左室最大収縮期圧および収縮(dP/dt/ip)と拡張(tau)
のパラメータ.シルデナフィル治療(+SIL)では収縮・拡張ともに有意な改善が認められる.*p<0.05 vs sham,+p<
0.05 vs TAC3W.
(B)TAC3週目からシルデナフィルを6週間投与した場合(+delayed SIL)の代表的なループ(上)
とそのパラメータ(下).この場合にも左室の拡張末期径の増加,LV massの増加,心機能の低下はシルデナフィルによって
抑制されている.*p<0.05 vs sham,+p<0.05 vs TAC9W.
A
Cn
4
3W-TAC 3W-TAC+ SIL
A.U.
Sham
*
2
†
Cn
0
Sham
p/t-GSK 3E
3W-TAC 3W-TAC+ SIL
2
A.U.
p-GSK 3E
t-GSK 3E
p-ERK
t-ERK
p/t-ERK
2
*
†
A.U.
Sham
TAC-3W TAC-3W
+
SIL
1
*
†
1
0
0
Sham TAC TAC
3W 3W
+
SIL
Sham TAC TAC
3W 3W
+
SIL
Cn
Sham
9W-TAC
+
9W-TAC delayed SIL
Cn
8
*
6
A.U.
B
*
†
4
2
GAPDH
0
Sham
TAC-9W
TAC-9W
+
delayed SIL
Figure4
シルデナフィルによる心肥大シグナルの抑制.
(A)TAC3週.ウエスタンブロットによるCnのタンパク発現,GSK3βお
よ びERKの リ ン 酸 化 の 解 析.ブ ロ ッ ト(左)お よ び そ のquantificationの 結 果(右).*p<0.05 vs sham,+p<0.05 vs
TAC3W. (B)TAC3週目からシルデナフィルを6週間投与した場合のCnの発現.*p<0.05 vs sham,+p<0.05 vs
TAC9W.
― 122 ―
血管Vol.31 No.4 2008
EmGFP
CMV promoter
BGH
5’ miR flanking
region
shRNANeg
shRNAPDE5a
(mp/ug)
12
M
O
I=
25
M
O
I=
50
M
O
I=
25
M
O
I=
50
U
ni
nf
ec
te
d
B
PDE5 activity
PDE5A-gene
silencing sequence
A
PDE5A
3’ miR flanking
region
P<0.001
8
4
0
control
shRNAPDE5
AAV-DsRed-shRNA
C
Figure5
(A)PDE5 shRNA コンストラクト.
(B)アデノウイルスを用いたラット新生仔心筋細胞への導入.抗PDE5抗体によるウエスタンブ
ロットではM.
O.
I.
=50でタンパク発現はほとんど検出されなかった(左).PDE5活性は10%以下に減少していた(右)
.
(C)アデノ随伴ウ
イルス(AAV)を用いた成体マウス心臓へのPDE5 shRNA導入.DsRedによって赤く観察されるウイルス導入細胞(左,中)は抗PDE5抗
体(緑)で検出されない(右)
.一方,赤く観察されないウイルス非導入細胞(左,中)は抗PDE5抗体(緑)によってstriated patternに染
められる(右).
B
A
P< 0.05
P<0.001
2
Normalized 3H-leucine
Incorporation
BNP/GAPDH mRNA
ratio arbitrary unit
3
NS
1
0
Phenylephrine
-
+
+
+
+
AdV-GFP
-
+
-
+
-
+
-
+
+
+
+
AdV-shRNAPDE5a
Sildenafil
P<0.05
NS
1.2
0.8
0.4
ET1
(PM)
0
0
0.01
0.1
AdV-gfp
0
0.01
0.1
AdV-gfp-shRNADE5
Figure6
PDE5遺伝子発現抑制による心肥大反応の抑制.
(A)BNP mRNAの発現.PDE5 shRNA を導入し(AdV−shRNAPDE5)
PDE5遺伝子発現を抑制するとGqアゴニスト(phenylephrine)によるBNP mRNA発現の増加が抑えられる.この程度はシ
ルデナフィルを単独で投与した場合(sildenafil)と同等であり,遺伝子発現抑制した細胞に対してはシルデナフィルの影響
は認められなかった(AdV−shRNAPDE5 + sildenafil)
.
(B)ロイシン取り込みによるタンパク合成の評価.エンドセリン1
(ET1)によって用量依存性にロイシン取り込みは増加するが,PDE5 shRNAを導入すると,この取り込みはほとんど抑
えられた.
治療を開始し,心エコー検査で心機能,心肥大を経時的
することを示している.
に解析した.シルデナフィル非投与群では経時的なLV
massの増加,左室内径(LV−Dd)の増大,心機能(FS)
心機能に及ぼす影響
の低下が認められたのに対し,シルデナフィル投与群で
われわれはシルデナフィル治療が心機能に及ぼす影響
はこれらの進展が有意に抑制されていた(Figure2A).
を観血的に圧容積ループを得ることにより詳細に解析し
これらエコーの結果は最終的な心重量の測定により確認
た3).それぞれの群で前負荷を変化させて得られた典型
された(Figure2B)
.これらの結果は,シルデナフィル
的な圧容積ループを図に示す(Figure3A 上)
.左室収
によるPDE5阻害が病態初期に心肥大形成を抑制する
縮期圧(LV peak−pressure)は圧負荷心で著明に上昇し
だけでなく,病態の中∼後期においてもその進展を抑制
ていた.TAC手術直後よりシルデナフィルを3週間投与
― 123 ―
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5
(PDE5)
による心肥大、リモデリングの調節
した場合,収縮期圧に影響なく,収縮(dPdt/ip)
,拡張
れわれが抗PDE5抗体を使って報告してきたタンパク
(tau)の パ ラ メ ー タ に 有 意 な 改 善 が 認 め ら れ た
発現,免疫組織化学の結果を裏付けるものである.
(Figure3A下).さらに一旦確立した心肥大(TAC3
週目)に引き続きシルデナフィルを6週間投与した場合
PDE5遺伝子発現抑制による心肥大抑制効果
でも,心機能の有意な改善が認められた(Figure3B 上,
次にわれわれはPDE5遺伝子発現を抑えることで,心
下)
.これらのことから,シルデナフィルは心機能を改善
筋細胞の肥大反応が抑制されるかどうかを調べ,シルデ
しつつ,心肥大およびリモデリングを抑制していること
ナフィルによる薬理学的阻害と比較検討した10).ラット
が示された.
新生仔培養心筋細胞をエンドセリンで24∼48時間刺激す
ると心肥大のマーカー遺伝子であるBNP mRNAの発現
心肥大シグナルの制御
が上昇し,タンパク合成(ロイシンの取り込み)の亢進
次にシルデナフィルによるサイクリックGMP調節が,
が観察される(Figure6A,B).PDE5のshRNAを導入
心肥大のシグナルをどのように制御しているかを,主要
しPDE5遺伝子発現を抑えると,エンドセリン刺激による
な心肥大カスケードであるカルシニューリン(Cn)
,グ
BNP mRNAの発現は50%以上抑制された(Figure6A)
.
リコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β),ERKに
シルデナフィルでも同程度のBNP発現抑制が認められ
11)
関して ,タンパク発現量,リン酸化(活性化)をウエ
た(Figure6A)が,PDE5遺伝子発現を抑制した心筋
スタンブロット法で調べることにより検討した.圧負荷
細胞に,さらに加えてシルデナフィルを投与してもBNP
3週の肥大心ではCnの発現増加をはじめ,GSK3β,
発現抑制の程度は変わらなかった(Figure6A).この結
ERKのリン酸化が観察された.シルデナフィルをTAC手
果はPDE5遺伝子発現を抑制することで心肥大反応が
術直後より投与した心臓では,これらのカスケードはす
抑制されること,そしてシルデナフィルによる心肥大抑
べて有意に抑制されていた(Figure4A)
.これらの経路
制効果はオフターゲット効果でなく,心筋細胞に存在す
の中でもとくにカルシニューリンは病的な心肥大に中心
るPDE5活性を阻害した効果であることを示している.
11)
的な役割を果たしていることが報告されているが ,こ
BNP発現と同様に,タンパク合成(ロイシンの取り込み)
の経路は一旦確立した心肥大(TAC3週)をシルデナ
も,PDE5shRNAに よ っ て 有 意 に 抑 制 さ れ た
フィルで6週間治療した心臓においても抑制されていた
(Figure6B).
(Figure4B).
結 論
PDE5の心筋細胞発現
われわれのグループは,心筋細胞にPDE5が存在する
cGMP特異的ホスホジエステラーゼ(PDE)5は心筋
ことをmRNA発現と,抗体を使ったタンパク発現(ウエ
細胞に存在し,
心肥大反応を調節している.
シルデナフィ
8, 12)
.
ルは心筋細胞のPDE5活性を特異的に阻害することに
われわれはさらにPDE5のshRNAを作成し(Figure5A),
より,心肥大を抑制している.心肥大抑制の詳細なメカ
心筋細胞でPDE5遺伝子発現を抑制することにより,抗
ニズムは明らかではないが,カルシニューリンの抑制が
PDE5抗体の特異性,またPDE5の細胞内分布を検証し
関与しており,マウス圧負荷モデルにおいて,シルデナ
た10).作成したPDE5shRNAをアデノウイルスに組み込
フィルによる心肥大,リモデリングの抑制は心機能の改
み,ラット新生仔心筋細胞に導入したところ,ウイルス
善を伴っている.
スタンブロット法)
,免疫組織化学により示してきた
導入2日後にはタンパクは抗PDE5抗体を用いたウエ
ス タ ン ブ ロ ッ ト 解 析 で 検 出 さ れ ず(50M.O.I.)
(Figure5B 左)
,またPDE5活性も90%以上低下して
考 察
いた
(Figure5B 右)
.次にPDE5のshRNAをDS−Red
サイクリックGMPが心肥大反応を抑制することは,こ
で標識しアデノ随伴ウイルス(AAV)に組み込んだもの
れまでに幾つかのグループから報告されている.例えば
を,成体マウスの心臓にin vivo遺伝子導入した.ウイル
一酸化窒素(NO),心房性利尿ペプチド(ANP)はそれ
ス導入6週後に心筋細胞を単離し,免疫染色をおこなっ
ぞれ異なるグアニル酸シクラーゼを介してcGMPを産生
たところ,ウイルスが導入された細胞(赤)は抗PDE5
するが,ともにラット新生仔培養心筋細胞で,Gqアゴニ
抗体で染色(緑)されないことが確認された(Figure5C).
スト刺激による肥大反応を抑制することが報告されてい
これらの結果は,心筋細胞において確かにPDE5タンパ
る9).またANP受容体欠損マウスはベースラインで心肥
ク及び,活性が存在していること,そして,これまでわ
大が認められるのみならず13),圧負荷をかけると心肥大
― 124 ―
血管Vol.31 No.4 2008
反応の増悪が認められる14).逆にANP受容体グアニル酸
も,その欠損マウスや変異マウスを用いて解析をすすめ
シクラーゼを過剰発現させたモデルでは圧負荷による心
ており,心筋細胞におけるサイクリックGMPのシグナリ
肥大反応が抑制される15).我々のデータはこれらcGMP
ングネットワークをさらに解明していきたいと考えてい
産生経路の刺激ではなく,cGMP分解経路であるホスホ
る.
ジエステラーゼを阻害することで,効果的に心肥大反応
を抑制することができることを示している3).シルデナ
フィルをはじめとするホスホジエステラーゼ5阻害薬は
既に勃起不全や肺高血圧の治療薬として広く使われてい
るため,ヒトの心疾患に有効であれはそのインパクトは
文 献
大きい.現在,米国立衛生研究所(NIH)主導によりヒ
1.Omori K,Kotera J.Overview of PDEs and their regulation.
ト心不全への有効性を調べるために臨床試験が進められ
ている.
Circ Res.2007;100:309−27.
2.Kass DA,
Champion HC,Beavo JA.Phosphodiesterase type
サイクリックGMPが心肥大を抑制する機序は,下流の
5:expanding roles in cardiovascular regulation.Circ Res.
サイクリックGMP依存性キナーゼ(PKG)によるものと
2007;101:1084−95.
考えられている.FiedlerらはアデノウイルスによりPKG
3.Takimoto E,Champion HC,Li M,Belardi D,Ren S,
を新生仔ラット心筋細胞で過剰発現させると,カルシ
Rodriguez ER,Bedja D,Gabrielson KL,Wang Y,Kass DA.
ニューリンの活性化を抑えてGqアゴニストによる心肥
Chronic inhibition of cyclic GMP phosphodiesterase 5A
大反応が抑えられることを報告している16).我々のマウ
prevents and reverses cardiac hypertrophy.Nat Med.2005;
ス圧負荷モデルにおいても,PDE5阻害薬投与によって
11:214−22.
カルシニューリンの活性化が抑えられており,in vivo
でも同様の機序が存在していると考えられる.最近,
4.Fisher PW,Salloum F,Das A,Hyder H,Kukreja RC.
Phosphodiesterase−5 inhibition with sildenafil attenuates
Tokudomeら はGq抑 制 タ ン パ ク で あ るRGS4
cardiomyocyte apoptosis and left ventricular dysfunction in
(Regulator of G protein Signaling 4)がANPによる
a chronic model of doxorubicin cardiotoxicity.Circulation.
心肥大抑制に重要であり,これがカルシニューリンを介
2005;111:1601−10.
17)
していることを報告している .すなわちRGS4はPKG
により活性化される,ANP膜受容体(NPRA)の欠損マ
5.Salloum FN,Ockaili RA,Wittkamp M,Marwaha VR,
Kukreja RC.Vardenafil:a novel type 5 phosphodiesterase
ウス心臓では心肥大が認められるが,カルシニューリン
inhibitor reduces myocardial infarct size following ischemia/
が活性化しており,この活性化はRGS4を心臓に過剰発
reperfusion injury via opening of mitochondrial K(ATP)
現することにより抑えられ,同時に心肥大の改善が認め
channels in rabbits.J Mol Cell Cardiol.2006;40:405−11.
られた.血管平滑筋ではRGS2がPKGによって活性化す
ることが知られているが18),我々の未発表データでは心
6.Salloum FN,Abbate A,Das A,Houser JE,Mudrick CA,
Qureshi IZ , Hoke NN , Roy SK , Brown WR , Prabhakar
筋細胞においてRGS2もPKGによる心肥大抑制に重要
S,Kukreja
RC.Sildenafil(Viagra)attenuates
ischemic
であることが示唆されている.さらに我々の未発表デー
cardiomyopathy and improves left ventricular function in
タではカルシニューリン経路を抑えることだけが,PKG
mice.Am J Physiol Heart Circ Physiol.2008;294:H1398−
による心肥大抑制の機序ではないことも示唆されている.
406.
7.Khairallah M , Khairallah RJ , Young ME , Allen BG ,
おわりに
Gillis MA,Danialou G,Deschepper CF,Petrof BJ,Des
われわれの研究室では心臓におけるサイクリック
signaling prevent cardiomyopathic changes associated with
GMPとPKGの制御,またその心肥大,心機能調節の機序
dystrophin deficiency.Proc Natl Acad Sci U S A.2008;
について研究を進めている.PDE5過剰発現マウス,
105: 7028−33.
Rosiers
C.Sildenafil
and
cardiomyocyte−specific
cGMP
PDE5欠損マウスも作成,解析中であり,PDE5による
サイクリックGMP制御と,生理的役割に関して,その詳
8.Senzaki H,Smith CJ,Juang GJ,Isoda T,Mayer SP,
細がより明らかになるであろう.またサイクリックGMP
Ohler A,Paolocci N,Tomaselli GF,Hare JM,Kass DA.
Cardiac
phosphodiesterase
5(cGMP−specific) modulates
の下流,さらにはその調節を受けていると考えられる
beta−adrenergic signaling in vivo and is down−regulated in
PKG,RGS2,カルシニューリンといった分子に関して
heart failure.FASEB J.2001;15:1718−26.
― 125 ―
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5
(PDE5)
による心肥大、リモデリングの調節
9.Calderone A,Thaik CM,Takahashi N,Chang DL,Colucci
18.Tang KM,Wang GR,Lu P,Karas RH,Aronovitz M,
WS.Nitric oxide,atrial natriuretic peptide,and cyclic GMP
Heximer SP,Kaltenbronn KM,Blumer KJ,Siderovski DP,
inhibit the growth−promoting effects of norepinephrine in
Zhu Y,Mendelsohn ME.Regulator of G−protein signaling−2
cardiac myocytes and fibroblasts.J Clin Invest.1998;101:
mediates vascular smooth muscle relaxation and blood
812−8.
pressure.Nat Med.2003;9:1506−12.
10.Zhang M,Koitabashi N,Nagayama T,Rambaran R,Feng
N,Takimoto E,Koenke T,O'Rourke B,Champion HC,Crow
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effects of PDE5A in cardiac myocytes.Cell Signal.2008
Aug 26.
11.Frey N,
Olson EN.Cardiac hypertrophy:the good,the bad,
and the ugly.Annu Rev Physiol.2003 65:45−79.
12.Takimoto E,Champion HC,Belardi D,Moslehi J,Mongillo
M,Mergia E,Montrose DC,Isoda T,Aufiero K,Zaccolo M,
Dostmann WR , Smith CJ , Kass DA . cGMP catabolism
by
phosphodiesterase
5A
regulates
cardiac
adrenergic
stimulation by NOS3−dependent mechanism.Circ Res.2005;
96:100−9.
13.Knowles JW,Esposito G,Mao L,Hagaman JR,Fox JE,
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receptor A−deficient mice.J Clin Invest.2001;107:975−
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14.Holtwick R,van Eickels M,Skryabin BV,Baba HA,
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Pressure−independent cardiac hypertrophy in mice with
cardiomyocyte−restricted
inactivation
of
the
atrial
natriuretic peptide receptor guanylyl cyclase−A.J Clin
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15.Zahabi A,Picard S,Fortin N,Reudelhuber TL,Deschepper
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cardiomyocytes
inhibits
the
hypertrophic
effects
of
isoproterenol and aortic constriction on mouse hearts.J Biol
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16.Fiedler B,Lohmann SM,Smolenski A,Linnemuller S,
Pieske B,Schroder F,Molkentin JD,Drexler H,Wollert
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by cGMP−dependent protein kinase type I in cardiac
myocytes.Proc Natl Acad Sci U S A.2002;99:11363−8.
17.Tokudome T,Kishimoto I,Horio T,Arai Y,Schwenke DO,
Hino J,Okano I,Kawano Y,Kohno M,Miyazato M,Nakao
K,Kangawa K.Regulator of G−protein signaling subtype 4
mediates
antihypertrophic
effect
of
locally
secreted
natriuretic peptides in the heart.Circulation.2008;117:
2329−39.
― 126 ―
血管Vol.31 No.4 2008
クリニカル 世界の研究室便り
浅 海 泰 栄
ボストン留学記
Molecular Cardiology, Boston University School of Medicine
(Kenneth Walsh lab)
2008年1月よりアメリカマサチューセッツ州ボストン
市にあるボストン大学に留学している浅海泰栄です.こ
ちらに来て早や9ヶ月が経ちました.生活にも慣れ実験
も本格的になり英語ができないことを含め必死にもがい
ているところですが,今の環境や生活状況についてお話
したいと思います.
ボストン市は多くの諸先生方が留学のため滞在してい
ることに加え,大リーグのボストンレッドソックスに松
坂選手や岡島選手が在籍することもありご存知の方も多
いと思います.ボストンはアメリカ合衆国の学問の都で
あり,ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学と
いった有名大学もあり多くの学生達であふれている町で
す.また町を少し離れると多くの観光スポットにも恵ま
ラボミーティングでのスナップ
れています.現在在籍するボストン大学医学部はボスト
前列中央がKenneth Walsh教授、左隣が筆者
ン市の南側に位置しています.メインキャンパスのある
チャールズリバーキャンパスからバスで30分位かけて
スドクが現在非常に多いのですが,これまでも多くの日
シャトルバスを使って通勤する毎日です.
本の諸先輩方が活躍してきたラボです.ラボのメンバー
現在所属する私達のボス,Kenneth Walsh教授ですが
にも恵まれ,国籍問わずおのおのが優秀であり仕事を進
大変多忙な方です.月の半分以上出張のためラボを不在
めていく上で大変頼もしい方々が揃っています.
にすることも多々ありますが,ラボメンバーの仕事の状
当ラボの現在の研究テーマは大きく分けて3つありま
況を常に把握することに気を配られ,ラボミーティング
す.1つは細胞の生存因子として重要なAktシグナリ
でのプレゼンテーションのみならず短期間にて定期的に
ングの心血管系における解析,2つめはアディポネクチ
Walsh教授と直接研究の内容をDiscussionすることによ
ンを中心とした糖・脂質代謝関連分子の心血管系におけ
り,漫然と実験をするのではなく仕事の方向性を常に明
る解析,最後に自己免疫疾患における心血管疾患発症の
確にさせることに力を注いでいるように思います.また
機序の解明にあります.現在所属するラボメンバーのお
Walsh教授の中では個々のポスドクたちの仕事を個人の
のおのがこれらの内容を発展させています.現在私は主
オリジナリティを重視する意識がはっきりしているよう
に前者のプロジェクトに関わっており,日々実験をして
に思います.そのためポスドク個々の仕事が重複するこ
います.原稿を作成している今丁度,ボストンは短い夏
となく,ラボ全体でポスドク達が自由にかつ協力し合い
を終え,秋を迎えたところです.上記の如く良い環境で
仕事を進めて行くことが出来るのではないかと思ってい
すが,ラボミーティングやボスとのDiscussionでは厳し
ます.現在日本人がassistant professorの大内乗有先生
い質問や要求も多く,改めて実験の世界の厳しさも味
を筆頭にポスドク5人,アメリカ人のポスドク1人,大
わっているところです.
学院生が3人(アメリカ人,ギリシャ人,中国人1名ず
今回アメリカに滞在する機会を得て,改めて自国のこ
つ),テクニシャン3名で構成されています.日本人のポ
とを振り返る機会ができるようになったことは貴重な経
験かと思います.日本に居たころは漠然とアメリカにあ
*Molecular Cardiology, Boston University School of Medicine
(710 Albany Street,Boston,MA 02118)
こがれていましたが,今アメリカ社会の一部に触れ日本
の社会全体改めて考えるようになったと思います.こう
した経験を日本に戻った際には生かしていければと思う
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ボストン留学記
今日この頃です.
最後に今回の渡米の機会を与えていただいた東北大学
循環器病態学 下川宏明教授,東北大学卒後研修セン
ター 加賀谷豊教授,また渡米を支援していただいてい
る万有国際科学振興財団に感謝申し上げます.
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編 集 後 記
今回の投稿論文は学会研究奨励賞受賞論文2編と海外からの若手研究者による独創的な研究
成果が掲載されている.いずれの筆者も循環器内科に所属して精力的に基礎研究をやられた成果
である.しかしこれからの日本の医学部卒業生が果たして国際的に評価を受けるような基礎研究
を遂行できるのであろうか,大変危惧を抱いている.2004年に卒後研修必修化に加えて,国立大
学の法人化という大きな時代の波が押し寄せた.大学病院では診療実績を上げるため研究に割く
時間を削り,必死に診療に従事して来た結果,精神的にも肉体的にも疲弊して,研究のモチベー
ションが低くなってきている.事実ここ数年間の国立大学の研究実績が低下していると報じられ
ている.加えて若手医師は研修終了後,専門医を目指して後期研修や専門研修を条件の良い市中
病院に留まる人が増え,大学の基礎講座はおろか臨床講座の研究室も敬遠する風潮があると聞い
ている.若手医師が研究に興味を持ち,待遇と環境条件を優遇できるようインセンティブを持っ
てもらえる制度創りが必要であろう.今年は過去最高の4名もの日本人ノーベル賞受賞者が出た
快挙の年でもある.しかし2名は若くして日本を離れて米国籍とのこと,このままでは医学分野
の多くの優秀な基礎研究者も国外へと頭脳流失にもなりかねない.改めて国内での若手研究者の
リクルートと育成する土壌創りが重要な課題である.
(YH)
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日本心脈管作動物質学会会則
第11条 会長は理事会の推薦により,評議員会の議決を
第1章 総 則
第1条 本 会 は 日 本 心 脈 管 作 動 物 質 学 会(Japanese
経て選ばれ,総会の承認を得るものとする.会
Society for Circulation Research)と称する.
第2条 本会の事務局は,三重県津市江戸橋2−174,
長は総会を主宰する.
第12条 理事会は会長を補佐して会務を執行し,庶務,
三重大学医学部薬理学教室内に置く.
会計その他の業務を分担する.理事長は理事会
の互選により選出され,本会の運営を統括する.
第13条 会計監事は理事より互選により選出し,会計監
第2章 目的および事業
第3条 本会は心脈管作動物質に関する研究の発展を図
り,会員相互の連絡および関連機関との連絡を
査を行う.
第14条 本会には,評議員をおく.評議員は正会員中よ
保ち,広く知識の交流を求めることを持って目
り選出し,理事会の推薦を経て評議員会で議決
的とする.
し,総会の承認を得るものとする.理事長がこ
第4条 本会は前条の目的を達成するために次の事業を
れを委嘱する.評議員は評議員会を組織し,本
行う.
会に関する重要事項を審議する.
1. 学術講演会,学会等の開催
第15条 編集委員は機関誌“血管”
(Japanese Journal
2. 会誌および図書の発行
of Circulation Research)を編集し,本会の
3. 研究,調査および教育
学術活動に関する連絡を行う.なお,編集に関
4. 関係学術団体との連絡および調整
する事項は,事務局にて決定する.
5. 心脈管作動物質に関する国際交流
第16条 役員の任期は会長は1年,理事長,理事,会計
6. その他本会の目的達成に必要な事業
監事および編集委員は2年とする.ただし再任
は妨げない.
第17条 役員は次の事項に該当するときはその資格を
第3章 会 員
第5条 本会会員は本会目的達成に協力するもので次の
失う.
通りとする.
1.定期評議員会時に満65歳を過ぎていた場合
1.正会員
2.3年間連続で,役員会等を正当な理由なく
2.賛助会員
して欠席した場合
3.名誉会員
第6条 正会員の会費は年額4,000円とする.
第5章 会 議
第7条 賛助会員は本会の目的に賛同し,かつ事業を維
第18条 理事会は少なくとも年1回理事長が招集し,議
持するための会費年額100,000円(一口)以上を
長は理事長がこれに当たる.
第19条 総会および評議員会は毎年1回これを開き,次
納める団体または個人とする.
第8条 名誉会員は理事会で推薦し,評議員会の議決を
の議事を行う.
経て総会で承認する.名誉会員は会費免除とす
1.会務の報告
る.
2.会則の変更
第9条 本会に入会を希望するものは,所定の手続きを
経て,会費を添えて本会事務局に申し込むもの
3.その他必要と認める事項
第20条 臨時の総会,評議員会は理事会の議決があった
とする.原則として2年間会費を滞納したもの
時これを開く.
は退会とみなす.
第6章 会 計
第4章 役員および評議員
第21条 本会の事業年度は毎年1月1日より始まり,12
月31日に終わる.
第10条 本会は次の役員を置く.
1.会長 1名
第22条 本会の会計は会費,各種補助金及び寄付金を
2.理事 若干名(うち理事長1名)
もって充てる.
3.会計監事 若干名
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日本心脈管作動物質学会賛助会員
アクテリオンファーマシューティカルズジャパン株式会社
デザイナーフーズ株式会社
旭化成ファーマ株式会社
デリカフーズ株式会社
アステラス製薬株式会社
日本新薬株式会社
エーザイ株式会社
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
第一三共株式会社
バイエル薬品株式会社
武田薬品工業株式会社
萬有製薬株式会社
田辺三菱製薬株式会社
株式会社ポッカコーポレーション
《50音順》
― 132 ―
日本心脈管作動物質学会役員
名誉会員
毛利喜久男
中川雅夫
山田和生
田 中 利 男 (理事長)
岩尾 洋
平田結喜緒
寒川賢治
下川宏明
松岡博昭
辻本豪三
第38回会長
川崎博己
理 事
監 事
評 議 員
〈基礎〉 〈臨床〉 平田恭信
玉置俊晃
浅野正久
萩原正敏
今泉祐治
伊東祐之
寒川賢治
南野直人
森田育男
中田徹男
西 山 成
曽我部正博
鈴 木 光
玉置俊晃
筒井正人
吉栖正典
長谷部直幸
福 田 昇
平田恭信
市来俊弘
石光俊彦
伊藤隆之
小林直彦
丸山征郎
三浦総一郎
中尾一和
錦見俊雄
楽木宏実
島本和明
島田和幸
高橋克仁
吉栖正生
朝
服
石
岩
川
光
元
成
大
佐
高
田
上
山 部祐
井邦
本隆
崎博
山勝
村 宮 橋俊
藤靖
井真
中利
田陽
純
一
明
宏
己
慶
成
周
夫
史
司
男
一
馬場明道
五十嵐淳介
石川智彦
岩 尾 洋
増田弘毅
三輪聡一
村松郁延
西田育弘
岡村富夫
末 松 誠
高倉伸幸
谷口隆之
牛首文隆
古川安之
飯野正光
伊藤猛雄
金出英夫
松村靖夫
宮田篤郎
中木敏夫
西村有平
佐々木泰治
菅 原 明
多久和陽
辻本豪三
柳澤輝行
服部良之
檜垣實男
平田結喜緒
池田康夫
伊 藤 宏
岸 幸 夫
児玉逸雄
丸山一男
室原豊明
成瀬光栄
小川久雄
佐田政隆
澤田昌平
下門顕太郎
武田和夫
藤 田 浩
東 幸 仁
廣岡良隆
今西政仁
伊藤正明
北村和雄
河野雅和
松岡博昭
永井良三
成 瀬 達
大内尉義
佐々木 享
渋谷正人
下川宏明
矢田豊隆
藤田
平田
堀 石橋
伊藤
倉林
上月
松崎
永田
野出
大柳
笹栗
七里
下澤
吉村
敏
健
正
敏
貞
正
正
益
博
孝
光
俊
眞
達
道
郎
一
二
幸
嘉
彦
博
徳
司
一
正
之
義
雄
博
(ABC順)
事 務 局
〒514-8507 三重県津市江戸橋2−174 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野内
TEL 059−231−5411, FAX 059−232−1765
― 133 ―
会長
第1回研究会
横山育三
第2回研究会
藤原元始
第3回研究会
岳中典男
第4回研究会
毛利喜久男
第5回研究会
藤原元始
第6回研究会
岳中典男
第7回研究会
山本国太郎
第8回研究会
毛利喜久男
第9回研究会
土屋雅晴
第10回研究会
横山育三
第11回研究会
日高弘義
第12回研究会
三島好雄
第13回研究会
東 健 彦
第14回研究会
恒川謙吾
第15回研究会
戸 田 昇
第16回学会
塩野谷恵彦
第17回学会
野々村禎昭
第18回学会
河合忠一
第19回学会
平 則 夫
第20回学会
杉本恒明
第21回学会
安孫子 保
第22回学会
外山淳治
第23回学会
千葉茂俊
第24回学会
中川雅夫
第25回学会
室田誠逸
第26回学会
猿田享男
第27回学会
矢崎義雄
第28回学会
田中利男
第29回学会
竹 下 彰
第30回学会
岩 尾 洋
第31回学会
平田結喜緒
第32回学会
荻原俊男
第33回学会
藤田敏郎
第34回学会
辻本豪三
第35回学会
松岡博昭
第36回学会
玉置俊晃
第37回学会
下川宏明
日本心脈管作動物質学会誌
血管 第31巻4号
2008年12月31日発行
発行人 田中利男
三重大学大学院医学系研究科
発行所 日本心脈管作動物質学会事務局
〒514-8507 三重県津市江戸橋2−174
三重大学大学院医学系研究科
薬理ゲノミクス分野内
TEL 059−231−5411
FAX 059−232−1765
http://www.jscr.medic.mie-u.ac.jp
薬理ゲノミクス分野
印刷所 合資会社 黒川印刷
〒514-0008 三重県津市上浜町2−11
― 134 ―
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総 編 集 長 平 田 結喜緒(東京医科歯科大学大学院分子内分泌内科学)
ベ ー シ ッ ク 編 集 長 岩 尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科分子病態薬理学)
インフォマティクス編集長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス)
ゲ ノ ミ ク ス 編 集 長 辻 本 豪 三(京都大学大学院薬学研究科ゲノム創薬科学)
ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院循環器内科学)