結城紬染色生地見本帳の作成と新製品開発(第2報)

栃木県産業技術センター 研究報告 No.13(2016)
共同研究
結城紬染色生地見本帳の作成と新製品開発(第2報)
吉葉
光雄*
小嶋
一夫*
太田
仁美*
渡辺
智 文 **
Making Sample Books of Yuki-tsumugi Fabrics with Various Colors,
and New Product Development (2nd Report)
Mitsuo YOSHIBA, Kazuo KOJIMA, Hitomi OTA and Toshinori WATANABE
結 城 紬 の 色 に 対 す る 需 要 動 向 に 応 え る た め ,代 表 的 な 色 彩 に つ い て 色 無 地 の 染 色 生 地
見本帳を作成し,見本帳を活用した新製品開発を目標とした。今年度は見本帳の作成,
緯 糸 に 彩 度 ,明 度 で バ リ エ ー シ ョ ン を 持 た せ た 生 地 の 測 色 結 果 の 分 析 ,2 反 目 と な る 見
本生地の製織準備までを実施した。
Key Words: 結 城 紬 , 見 本 帳 , 染 色 , 流 行 色 , シ ミ ュ レ ー シ ョ ン
1
はじめに
2
結城紬は栃木県,茨城県で生産され,地域の伝統
2.1
研究の方法
見本帳作成方法の検討
的な産業として現在も地機で製織が行われている。
生地見本帳作成にあたっては,色数を多く確保す
従来は,藍をはじめとする落ち着いた色合いが多
るため,効率的な作業が求められることから,以下
かったが,近年は自分の色彩イメージに強いこだわ
の点について注意し作成を行った。
りを持つ消費者が増える傾向があり,結城紬以外に
1)見やすさ,取り扱いのしやすさに着目し,見本
も比較的明るく,表現豊かな色彩を持つ着物が多く
帳はA4縦とする。
見られる。このような市場の変化を受け,流通・小
2)通常はシート単体で完結するように経糸,緯糸
売筋や産地を直接訪れる消費者等から結城紬生地の
を 1 枚のシートに貼付するが,経糸は共通するシー
色見本の整備を求める必要性が増してきている。
トが多いため,枠付きの別シートとし,作業量を少
本研究では顧客の需要動向に的確に対応するため,
代表的な色彩について色無地の生地見本帳を作成す
なくする。
2.2
製織した生地の測色と評価
ることによって,色彩のニーズを確実にとらえ,ひ
生地見本を作成する上で,糸の彩度,明度が製織
いては結城紬産地の需要の拡大につなげることを目
した生地にどのように反映するかは,糸を染色する
的とした。
際に重要なポイントとなる。このため,前年度トヨ
シ マ ビ ジ ネ ス シ ス テ ム 社 製 4DBOX PLANS に よ る 製 織
シミュレーションの結果を参照し,赤を基本色とし
て 彩 度 ,明 度 の バ リ エ ー シ ョ ン を 持 っ た 糸 を 染 色 し ,
緯糸として使用して生地を製織した。
得られた見本生地や染色した糸は,ミノルタ製分
光 測 色 計 CM-1000 で 測 色 を 行 い , 結 果 を グ ラ フ 化 し
て評価を行った。
図1
見本帳生地の製織
*
栃木県産業技術センター
**
渡辺染色店
紬織物技術支援センター
図2
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製織した生地の測色
栃木県産業技術センター 研究報告 No.13(2016)
2.3
二反目の見本帳用生地の検討
3.2
緯糸の彩度,明度バリエーション
前年度から今年度にかけて作成した1反目の製織
経糸に原色である赤,黄,青色を,緯糸は赤色に
状況をもとに,2反目の見本帳生地製織条件及び染
ついて明度,彩度のバリエーションを持った糸(図
料について検討を行った。また,染料については,
4)で製織した部分について測色した結果は,図5
色相の豊かさや,彩度に優れる染料も候補とし,試
のとおりであった。測色については,生地であるこ
染を行って検討することとした。
と か ら 視 野 角 を 1 0 °と し , L a b 表 色 系 で 1 か 所
3回測定の設定とした。また,生地の部分は手つむ
3
3.1
結果及び考察
見本帳の作成
ぎ糸の特性上糸の太さに斑があることから,3か所
測定した結果の平均をとった。
2.1で示した条件を満たすために見本帳のパ
ターンを検討した結果,図3の通り作成した。図3
のア)には経糸のみを貼付し,生地見本に重ねて使
用する。同イ)には緯糸と製織した生地を貼付して
いる。この2枚を重ねることで生地見本として完成
する。この方法により,経糸は1枚だけ作成すれば
よく,作業の工数を抑制することができた。
図4
ア)経糸
緯糸の明度,彩度バリエーション
イ)緯糸と生地
ア)a-bプロット
ウ)重ね合わせたところ
図3
イ)L-bプロット
製織生地見本帳
図5
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製織した生地の測色結果
栃木県産業技術センター 研究報告 No.13(2016)
測色の結果を図5にプロットした。図5ア)から
4
おわりに
は製織した生地の色が確認できるが,測定値は左右
結城紬生地見本帳作成を目的として種々の検討を
にほぼ線状に並んでおり,緯糸の彩度の違いが生地
行い,昨年度から染色,製織を行った生地を用いて
に 反 映 し て い る こ と が こ の 図 か ら 読 み 取 れ る 。ま た ,
以下の通り見本帳作成や測色結果の分析等を行った。
図5イ)は縦軸に明るさ,横軸にb(緑-赤)をプ
( 1)効 率 的 に 作 成 で き る 見 本 帳 の 規 格 を 決 定 し ,昨
ロットした。赤の彩度,明度バリエーションで作成
年度製織した生地で見本帳を作成した。
した緯糸は,三角形状に並んでおり,染色がほぼ目
( 2)赤 を 基 本 に 彩 度 と 明 度 変 化 さ せ た 緯 糸 を 用 い て
的通り行われたことを示している。また,製織後も
製 織 し た 。こ の 生 地 を 測 色 し た 結 果 を グ ラ フ 化
三角形状の分布が確認できた。
し ,生 地 に ど の 程 度 反 映 す る か が 明 ら か と な っ
3.3
た。
二反目の見本帳用生地
1反目の製織では,基本的な色での生地見本作成
( 3)2 反 目 の 色 見 本 生 地 製 織 に 向 け た 検 討 を 行 っ た 。
を目的としたため,原色のほか緑,茶,紫等を選択
1 反 目 の 結 果 を 踏 ま え ,経 糸 色 数 や 染 料 に つ い
した。2反目は1反目と重複せず,また色相,彩度
て決定し,製織に向け作業を進めた。
で範囲の広い色を確保するため,酸性染料を選択肢
として試染を行い,経糸の候補とした(図6)。
今年度実際に製織した生地の測色による結果等を
また,製織条件についても再検討を行った。1反
参考にし,来年度引き続き見本帳の作成を進めるほ
目 は 幅 広 の 筬 ( 図 7 ) を 使 用 し , 4 2 cm間 に 7 色 の
か,耐光堅ろう度の確認,生地見本で得られた色彩
経糸を確保したが,見本帳の規格や今後予定してい
を活用した製品作りの可能性について検討を行う予
る堅ろう度等も考慮し,筬は変更せずに経糸を8色
定である。
とし,色見本の充実を図ることとした。
参考文献
1) 足 立 達 雄 ほ か : "色 染 化 学 2 "
2) 金 子 優 ,嶋 田 和 正 ,永 田 順 子 ,佐 々 木 和 也 ,清 水
裕 子 : "栃 木 県 産 業 技 術 セ ン タ ー 研 究 報 告 No.7",
63-65, (2010)
3) 吉 葉 光 雄 , 小 嶋 一 夫 , 太 田 仁 美 , 渡 辺 智 文 : "栃
図6
二反目経糸の染色
木 県 産 業 技 術 セ ン タ ー 研 究 報 告 No.12", 49-52,
(2015)
4) MdN編 集 部:"キ ー カ ラ ー で 探 せ る 配 色 見 本 ハ ン ド
ブ ッ ク ",エ ム デ ィ エ ヌ コ ー ポ レ ー シ ョ ン ,(2013)
図7
通常の筬と幅広の筬
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