一口に産学連携と言っても、形態はいろいろです

産学連携~私の主張~
~その2;一口に産学連携といっても、形態はいろいろです~
【産学連携のいろいろな形態】
企業の方からよく、
「我が社は、○○年前から、○○大学と連携し、共同研究している。」
とか、「昔、産学連携したが、なかなかうまくいかなかった。」など、いろいろなお話をお
伺いすることがあります。そんな時、私は、決まって、その内容(テーマではなく、その
形態)を詳しくお聞きすることにしています。
このような場合、残念ながら、多く方からは、「詳しいこと(細かいことは)、よくわか
らない。」という回答が返ってきます。筆者は、これまでの経験の中から、『産学連携を成
功させる秘訣は、そのテーマにより、大学側の主体者と企業側の主体者を特定させ、テー
マにあった連携の形態と手法を、いかに、早く導き出すかだ。
』と主張します。
その中で、大学と企業のそれぞれの主体者の特定にあたっては、それぞれのマインドの
ベクトルが同じ方向を向いていることがもっとも大事であり、更に、企業の中では、経営
者と中核研究者の意思疎通が最大のポイントとなります。ただ、この話をはじめると長く
なりますので、これは、別の機会にさせて頂くとして、今月号は、産学連携の形態と手法
について、少し解説したいと思います。なぜなら、この選択ミスが、産学連携を思わぬ回
り道や迷い道に導いてしまう危険性があるからです。
産学連携のいろいろな形態
受託研究
共同研究
奨学寄付金
寄附講座
人材育成
インターンシップ
産学連携
技
術
指
導
研究員受入
特許使用
大
学
発
ベ
ン
チ
ヤ
|
・
共
同
事
業
化
【共同研究、受託研究、奨学寄付金(使途特定寄付金)の違い】
まず、共同研究、受託研究、奨学寄付金(使途特定寄付金)の違いです。
その違いがわかるように、以下のとおり、一覧表にしてみました。多くの企業関係者の皆
さんは、これらを全部あわせて、広義で産学連携といっているようです。ただ、これらは、
一つ一つ、別の制度で、それぞれの特色があるわけです。また、時代とともに、内容も変
更されており、法人化後は、大学ごとに、少しの差異はあるようですが、旧国立大学の場
合は、他の大学の様子を窺いながら、動いているケースが多いようで、もう少し各大学の
特徴が出てきて良いような気がします。
概
共同研究
要
特色及び注意
民間企業等の研究者と大学の教員と
まずは、共通の課題を見つけることが
が共通の課題について対等の立場で
大事です。最近では、国等の公募事業
行う研究です。民間等外部の機関から
に共同で応募するようなケースも出
研究者及び研究経費を受け入れるも
てきており、件数、金額とも、年々増
のと、研究経費だけを受け入れるもの
加しています。知財は、大学に帰属す
に大別されます。
るケースが多くなりますので、事前の
間接経費
10%
取り決めが大事です。
受託研究
民間企業からの受託を受けて大学の
簡単な実験、自社製品の性能試験など
教員が公務として行う研究です。一定
に適しているようです。通常だと、委
の研究等の依頼を受けその財源とな
託者の帰属すると考えられがちな知
る費用を受け入れ、その成果を委託者
財が、受託者である大学に帰属、また
に報告する義務を負います。
は、共有になることが多いので、最初
30%
の取り決めが大事になってきます。
奨学寄付金
学術研究や教育の充実などのために
寄付は民法上贈与行為となりますの
(使途特定
民間企業等や個人篤志家などから大
で、寄付者に対して大学側の義務は発
寄付金)
学に受け入れる寄付金です。奨学寄付
生せず、生じた知的財産権は大学に帰
5%
金により、
「寄附講座」
「寄付研究部門」 属するのが原則となります。研究目的
を開設することもできます。
がはっきりしたり、知的財産権の問題
が気になる場合は、
「委託研究」もし
くは「共同研究」が適切と思われます。
【包括的提携とは】
上記の3つの形態以外にも、広義の産学連携としては、技術指導やインターンシップ、
更には、大学発ベンチャー・共同事業化、知財のライセンスなど、様々な形態があります。
このため、産学連携を考える場合は、もっとも、適切なメニューを選び、また、それらを
うまく組み合わせることが大事になります。こうしたことから、産学連携のスタイルを、
個人的なものから組織的対応へと変貌させることが不可欠となってきており、その結果、
包括的連携契約が脚光を浴びているわけです。
包括的連携の初期段階の代表例としては、京都大学国際融合創造センターと異業種5社
との包括的産学融合アライアンスや、産総研と三菱化学の連携が有名であり、三菱重工業
や日立製作所などのように、企業戦略の一つとして、全国各地の複数の大学と包括的連携
を結んでいる大企業も見受けられます。最近では、全国の多くの大学で、包括的連携が展
開されており、連携相手も、製造業にとどまらず、情報・サービス業、地方自治体と、広
範囲にわたってきています。
九州大学でも、包括的連携が、組織対応型連携事業という名前で実施されており、今年
の5月1日現在で、22件の連携契約が締結されています。その相手は、企業(メーカー、
情報、サービス、銀行、公益、研究所等)、独立行政法人、団体、企業連合体、地方自治体
等、多岐にわたっており、連携の内容も、従来の共同・受託研究はもとより、文理融合研
究、受託教育、インターンシップ、共同事業等を含めたものになっています。
【ポイントは、時間、秘密、知財、それに信頼関係】
これまで述べたように、産学連携の形態はいろいろあり、テーマや内容にあった制度を
使用することが大事ですが、広義の意味での大学との共同研究を実施する際に、是非、押
さえておいて頂きたいことは、研究の費用はもちろんのこと、研究の時間(スケジュール
管理)、研究の秘密(契約による適切な情報管理)、研究の知財(研究から生じる成果の知
的財産権)の3点であります。
それに加えて、産学連携が個人的なものから、組織的なものに変貌する中で、組織間の
信頼関係はもとより、やはり、原点に戻って、個人と個人の間の信頼関係が産学連携の成
功のポイントであることは言うまでもありません。