技術資料 盤施工上の注意事項

技術資料
Ⓒ 2011 盤標準化協議会 技術資料による
盤施工上の注意事項
1. 雨水などの進入による事故
屋外に設置した盤では、長年の使用で発生した腐食個所などから雨水がキャビネット内に侵入し、内部機器の錆による故障、絶縁
の劣化、感電などの事故に至ることがある。
又、屋内に設置した盤の場合にも、浸水の事故が発生している。
屋内外に設置するいずれの場合でも、施工時や施工後の雨水などの侵入防止対策が必要である。 (a)階上(屋上)の防水処理不良により浸水。その水がケーブルを伝わり内部機器の電源側端子部に滴下し、極間短絡事故に至った例。
水の侵入を防止する対策
天井より雨水がたれケーブル
を伝わってキャビネット内へ
・ケーブルを持ち上げる。
ケーブル
・引込み口を金属管施工・コーキング処理
とし、
水、
ほこり、
虫などの侵入を防止
する。
ケーブル上部の水道及び
エヤコン配管の結露により
水滴が落下することもある。
水滴落下を防止する対策
・パイプ配管などの真下に電線、分電盤を
設置しないようにする。
対策例
(b)屋外
(屋側)
に設置したキャビネットに雨水が侵入し、
事故に至った例。
引き込みケーブル
引込み個所
・引込みはキャビネット下部
から行い、
入出線部にはコー
キング処理を行う。
引き込みケーブル
錆
隙間にコーキング処理
・屋外に設置する場合、
雨線
内であってもキャビネット
は屋外用
(保護など級IPX3
以上)
を使用する。
隙間
・建物へ取り付ける場合は、
水が侵入しないように隙間
にコーキング処理を行う。
対策例
・電線管による場合、
その最
下部には水抜き孔を設ける。
水抜き孔
(C)引込み線コネクタ部分からより線の内部に雨水が侵入し、
スイッチ内部に浸水し事故に至った例。
引込み線
引込み線
屋根
屋根
エントランス
キャップ
エントランス
キャップ
コネクタ
対策例
コネクタ部分からより線の内部
に雨水が侵入し、
スイッチまで侵
入してくる。
スイッチへ
コネクタ
コネクタの位置が最下点になるように接続する
ことにより、
その部分からより線の内部に雨水
が浸入することを防止する。
スイッチへ
2. 特殊環境での設置による事故
JIS C 8480「キャビネット形分電盤」では、特殊使用条件を設定しており、この状態で使用される場合は、使用者が製造者に対し
あらかじめ連絡する必要がある。
下記に特殊環境での設置のうち、結露及び塵埃について考慮事項、事故例を記載する。
(1)結露
結露は機器または盤壁面の表面温度が露点(結露の発生するときの温度)以下となったとき発生し、周囲環境より以下の 2 種
類に分類される。
・冬型結露 外気温度の急低下による盤内壁面の結露
・夏型結露 高湿度で暖かい空気が盤内に流入したときの機器・盤壁面の結露
また結露が発生した場合、金属腐食やトラッキング現象による電気的トラブルなどの原因となるため、以下の適切な処置が必
要である。
・冬型結露 急激な温度変化を抑制するために換気孔を設ける。また、換気だけでは温度変化に追従できない場合はスペー
スヒータにより露点を上げるか、急激な温度変化を抑制する必要がある。
・夏型結露 常時高温多湿の雰囲気に設置する場合は盤を密閉させ、盤内に除湿器を設置する必要がある。
※一般の屋外環境についても以下の処置が必要となる。
・万一結露が発生した場合でも盤から水を吐出すために盤の下面部に水抜き孔を設ける必要がある。
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・自立盤については下部からの水蒸気の侵入を防止するために底板の入線用貫通孔にはコーキング処理が必要である。
(2)粉塵
繊維工場、パン工場、木工工場など盤の設置場所に極端な粉塵が浮遊している場合にはその粉塵が導電性物質・非導電性物質
に関係なく、防塵形の盤を使用し、入出線部にも防塵処理を施す必要がある。
(非導電性物質は水分を含むと導電性となる恐れがある。)
(a)キャビネット下部への浸水が原因で発生する結露による事故
・屋外壁掛タイプキャビネットを屋外に現場で自立施工した例
屋外自立タイプキャビネット
屋外壁掛タイプキャビネットを自立として使用
キャビネット・チャンネ
ルベース・基礎の隙間に
全てにコーキングし、
完 全 密 閉された。降 雨
時にキャビネット内の地
面が水浸しとなった。
換気孔
(排気用・フード付)
対策例
換気孔
(吸気用・フード付)
内部結露により、
めっ
き部品・溶融亜鉛めっき
鋼板に白錆発生した。
・換気ができるよう、換気孔を設け
る。なお、フードなどを取付け、
雨水の侵入を防ぐこと。
・下部は、水が抜けるように水抜き
孔を設けるか、チャンネルベース
・基礎の隙間はコーキングしない
こと。
・基礎には、水が流れるように傾斜
をつける。
・入出線部はコーキング処理をする。
基礎
基礎
(b)キャビネット下部への浸水が原因で発生する結露による事故
・工場内、屋内自立タイプキャビネットを配線ピット上に設置した例
下部より高湿度の空気が侵入しないよう底板貫通
孔にコーキング処理する。
配線ピット内に雨水などの漏れにより、水溜りが
発生。内部結露により、めっき部品に錆が発生した。
対策例
(C)浮遊するカーボン微粒子が銅バー部分に付着し、そのひげがウイスカー現象のごとく成長し、極間短絡事故に至った例
浮遊するカーボン微粒子
隙間
対策例
・防塵タイプ(保護等級IP
5X以上)のキャビネット
を採用する。
・キャビネットの防塵性能に
相当する取付、加工、配線
工事で施工する。
3. 盤内への電線くずなどの落下による極間短絡事故
盤を空洞壁へ埋め込む工法では、配線を容易にするために上部のケーブル引込み開口部を大きく取ることがある。この場合、使用
環境の比較的良い事務室などでも、空洞壁内部の塵、虫、小動物などが盤の内部に侵入することを防止するため、仕切り板及びコー
キング材による開口部の閉鎖をする必要がある。
また、キャビネットへの通線孔加工時、内部に切粉やゴミがかからないよう養生などの処置をする必要がある。
施工後は、切粉や電線屑のゴミは完全に除去することが必要である。
(a)間仕り壁埋め込み分電盤で、埃による短絡事故例
ケーブル
PF管
軽量壁
キャビネット開口部
分電盤上部はケーブ
ルを引き込むため、大
きな開口部があり、天
井まで空間になってお
り、開口部の周りには
くず・ごみが見られ、 改善例
これが盤内部に落下、
主幹バー又は分岐バー
で短絡事故に至ったと
推察された。
・PF管工事とする。(電気設
備工事「施工要領」参照) ・施工後は、清掃を行い、特に
電線くずなどの除去に注意する。
・入出線部はコーキング処理を行
い、防塵及び虫、小動物の侵入
防止を行う。
・背面引込みなど入出線孔に直接
コーキング処理ができない場合
は、盤の背面にブルボックスな
どを利用しコ−キング処理を行
う。
4. キャビネット取付けにおける変形 キャビネットの取付け方を誤ると、機器の破損、接触不良、漏電、及び短絡事故などの原因となる場合がある。
取付けには次のような注意が必要である。
(1)キャビネットの壁面への取付けは、メーカー指定の取付け位置で行う。これによらない場合は、取付けボルトの頭部又は先端
の突出寸法を基板の折り曲げ寸法以内にし、機器類取付け基板に当たらないか十分確認する必要がある。
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(2)取付け面の平面度を確認し、キャビネットのひずみがないように取付ける。取付け後のキャビネットのひずみの原因として次
のものが考えられる。
(ア)壁面の凹凸。
(イ)取付けボルトの締め付けの不均等。
(ウ)平坦度が確保されていない。
(a)基板裏面でキャビネットを取り付けていたボルト先端が基板を変形させた例
壁
基板
●
●
●
●
通常、キャビネットを固定する取付ボルト
の位置は、基板裏面部分を外すようにする。
施工上、基板裏面部分に取り付ける場合
は、基板に当たらないか十分確認する必要
がある。取付けボルトの頭部又は先端の突
出寸法を基板の折り曲げ寸法以内にする。
基板
対策例
取付ボルト
基板が変形し、不
具合の原因となった。
キャビネット
キャビネット
(b)壁面のひずみによるドアの開閉不良例(自立タイプの床面のひずみも同様)
壁面の凹凸による盤のひずみで、盤ドアが正
常な状態で閉じなくなった。
対策例
施工前に壁面が平坦であることを確認する。
取付面に凹凸がある場合はライナーなどで調整して
取付ボルトを均等に締め付けひずみの調整をする。
5. 誤った仮設電源の接続による事故 停電を伴う点検時や電気工事が完了していない状態で、負荷に電源を供給するため、主幹ブレーカを切り負荷側端子に仮設電源を
接続する場合が見受けられる。
主幹が単 3 中性線欠相保護付ブレーカで負荷側に単3電源を投入した場合には中性線が欠相すると、異常電圧検出機能が働き、ブ
レーカの引外しコイルに電流が流れ続け加熱し故障に至ることがある。
※単 3 中性線欠相保護付ブレーカは、単 3 回路の中性線が欠相し 100V 機器に異常電圧が印加され、負荷機器の絶縁劣化や焼損から保
護するため、異常電圧を検出して回路を遮断するブレーカである。
(a)誤った仮設電源の接続により、単3中性線欠相保護付ブレーカが焼損した例
電源側
(電源供給なし)
単3中性線欠相保護付ブレーカ
内部結線
主幹単3中性線欠相保
護付ブレーカの負荷側端
子に仮設電源を接続して
使用したところ、ブレー
カ内部の引き外しコイル
が焼損した。
対策例
仮設電源
○ ○ ○
引外しコイル
× ×
× ×
×
漏電・過電圧
表示ボタン
○ ○ ○
過電流
引外し素子
テストボタン
(作業用電源と
して接続)
ブレーカ負荷側からの電
源供給を中止した。
負荷側
●
増幅部
●
○ ○ ○
●
検出リード線(白)
(b)端子ねじ締付け不具合による、ブレーカが焼損した例
ブレーカの端子、銅バー接続ねじなどを使用し
仮設電源を取り、作業終了後元に戻す場合、端子
ねじの締付けが適正でなかったためブレーカの端
対策例
子部が焼損した。
ブレーカの負荷側端子、銅バー接続ねじなど、工場出荷時に締付けたねじは
適正トルクで管理されており、原則として緩めるなどの作業はしない。
又、工事終了時にすべての導電部のねじを必ず増し締めすると共に、定期的
に増し締めをする。
6. 短絡事故による、配線用遮断器性能の劣化
配線用遮断器の負荷側回路に短絡事故がおきた場合、その短絡電流の程度によって、遮断器の取替えなどの処置をする必要がある。
配線用遮断器に短絡電流が流れた場合に、遮断器にどのような変化が起こるか、その一般的傾向を下表に示す。(
(社)日本電気協会
制定、電気技術規程、JEAC8701「低圧電路に設置する自動遮断器の必要な遮断容量」より抜粋)
現実には、事故の際の短絡電流の大きさは判りにくいため、遮断器の取替えを薦めるものである。
遮断器に流れた短絡電流の程度
No.1
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遮断器の変化
(定格遮断電流)
の0.5倍以下
遮断器には実用上異常なく、
引き続き使用を継続できる
No.2
(定格遮断電流)
の1倍
遮断器は若干損傷するが、一応通電できる。点検をして必要に応じて取替
えることが必要。
No.3
(定格遮断電流)
の1.5倍
遮断器は損傷する。
取替えを要する。
No.4
(定格遮断電流)
の2倍以上
遮断器は破損する。
堅牢な箱の中に収めてないものは危険。又アーク時間
が異常に延びて保護対象の電路を保護し得ないこともある。