技術資料 盤施工上の注意事項 2003年(平成15年)2月発行 2011年(平成23年)5月改正 一般社団法人 キャビネット工業会 盤標準化協議会 <はじめに> 電気の安定供給は社会活動の中で必要不可欠のものとなっており、その供給電路に は高い信頼性が要求されています。 このような状況の中で、盤は供給電路に広く使用されており、施工状態に起因する 盤内部への雨水侵入、使用環境に起因する湿気や汚損による絶縁低下、短絡事故によ る停電などの障害を起すケースが少なくありません。 電気工事の施工においては、「電気設備の技術基準」に従い、有資格者による工事 が基本となり、工事会社各社の施工標準図、施工要領や関係官公庁・団体などによる 施工図例集の利用が一般的となっています。 このような現状を踏まえ、一般社団法人 キャビネット工業会、盤標準化協議会では、 合同技術分科会を設置し、事故防止を目的に盤における具体的な事故例をまとめ、施 工後も安全にご使用いただくための提案として、この技術資料を作成いたしました。 長期間の安定した盤の使用に対しては、定期調査会社の点検を待つだけでなく、取 替えを含めた適切な点検、管理の実施が不可欠であり、設備所有者による定期的な点 検を希望いたします。 <目 次> 1.雨水などの侵入による事故 ・・・ 2∼3 2.特殊環境での設置による事故 ・・・ 3∼4 3.盤内への電線くずなどの落下による極間短絡事故 ・・・ 4 4.キャビネット取付けにおける変形 ・・・ 5 5.誤った仮設電源の接続による事故 ・・・ 6 6.短絡事故による、配線用遮断器性能の劣化 ・・・ 6 7.導電部の接続ねじ推奨締め付けトルク ・・・ 7 参考 JIS C 8480 「キャビネット形分電盤」 抜粋 4.使用状態 ・・・(最終ページ) 1 1.雨水などの浸入による事故 屋外に設置した盤では、長年の使用で発生した腐食個所などから雨水がキャビネット内に浸入し、内 部機器の錆による故障、絶縁の劣化、感電などの事故に至ることがある。 又、屋内に設置した盤の場合にも、浸水の事故が発生している。 屋内外に設置するいずれの場合でも、施工時や施工後の雨水などの浸入防止対策が必要である。 (a)階上(屋上)の防水処理不良により浸水。その水がケーブルを伝わり内部機器の電源側 端子部に滴下し、極間短絡事故に至った例。 水の浸入を防止する対策 天井より雨水がた れ、ケーブルを伝わっ てキャビネット内へ ケーブル ・ケーブルを持ち上げる。 ・引込み口を金属管施工・コーキング処理 とし、水、ほこり、虫などの浸入を防止 する。 ケーブル上部の水 道及びエヤコン配管 の結露により水滴が 落下することもある。 対策例 水滴落下を防止する対策 ・パイプ配管などの真下に電線、分電盤を 設置しないようにする。 (b)屋外(屋側)に設置したキャビネットに雨水が浸入し、事故に至った例。 引き込みケーブル 引込み個所 引き込みケーブル 錆 隙間にコーキング処理 隙間 ・引込みはキャビネット下部 から行い、入出線部にはコー キング処理を行う。 ・屋外に設置する場合、雨線 内であってもキャビネット は屋外用(保護等級IPX3以 上)を使用する。 ・建物へ取り付ける場合は、 水が浸入しないように隙間 にコーキング処理を行う。 ・電線管による場合、その最 下部には水抜き孔を設ける。 対策例 水抜き孔 2 (C)引込み線コネクタ部分からより線の内部に雨水が浸入し、スイッチ内部に浸水し事故に 至った例。 引込み線 引込み線 屋根 屋根 エントランス キャップ エントランス キャップ コネクタ コネクタ コネクタ部分からより線の内部 に雨水が浸入し、スイッチまで浸 入してくる。 対策例 スイッチへ コネクタの位置が最下点になるよ うに接続することにより、その部分 からより線の内部に雨水が浸入する スイッチへ ことを防止する。 2.特殊環境での設置による事故 JIS C 8480「キャビネット形分電盤」では、特殊使用条件を設定しており、この状態で使用される場合は、 使用者が製造者に対しあらかじめ連絡する必要がある。(最終ページ参考) 下記に特殊環境での設置のうち、結露及び塵埃について考慮事項、事故例を記載する。 (1)結露 結露は機器または盤壁面の表面温度が露点(結露の発生するときの温度)以下となったとき発生し、 周囲環境より以下の2種類に分類される。 ・冬型結露 外気温度の急低下による盤内壁面の結露 ・夏型結露 高湿度で暖かい空気が盤内に流入したときの機器・盤壁面の結露 また結露が発生した場合、金属腐食やトラッキング現象による電気的トラブルなどの原因となるため、 以下の適切な処置が必要である。 ・冬型結露 急激な温度変化を抑制するために換気孔を設ける。また、換気だけでは温度変化に追従 できない場合はスペースヒータにより露点を上げるか、急激な温度変化を抑制する必要が ある。 ・夏型結露 常時高温多湿の雰囲気に設置する場合は盤を密閉させ、盤内に除湿器を設置する必要が ある。 ※一般の屋外環境についても以下の処置が必要となる。 ・万一結露が発生した場合でも盤から水を吐出すために盤の下面部に水抜き孔を設ける必要がある。 ・自立盤については下部からの水蒸気の浸入を防止するために底板の入線用貫通孔にはコーキング処 理が必要である。 (2)粉塵 繊維工場、パン工場、木工工場など盤の設置場所に極端な粉塵が浮遊している場合にはその粉塵が導 電性物質・非導電性物質に関係なく、防塵形の盤を使用し、入出線部にも防塵処理を施す必要がある。 (非導電性物質は水分を含むと導電性となる恐れがある。) 3 (a)キャビネット下部への浸水が原因で発生する結露による事故 ・屋外壁掛タイプキャビネットを屋外に現場で自立施工した例 屋外壁掛タイプキャビネット を自立として使用 屋外自立タイプキャビネット キャ ビネット・ チャンネルベース・ 基礎の隙間に全て にコーキングし、 完全密閉された。 降雨時にキャビネッ ト内の地面が水浸 しとなった。 内部結露により、 めっき部品・溶融 亜鉛めっき鋼板に 白錆発生した。 換気孔 (排気用・フード付) 対策例 基礎 換気孔 (吸気用・フード付) ・換気ができるよう、換気 孔を設ける。なお、フー ドなどを取付け、雨水の 浸入を防ぐこと。 ・下部は、水が抜けるよう に水抜き孔を設けるか、 チャンネルベース・基礎 の隙間はコーキングしな いこと。 ・基礎には、水が流れるよ うに傾斜をつける。 基礎 ・入出線部はコーキング処 理をする。 (b)キャビネット下部への浸水が原因で発生する結露による事故 ・工場内、屋内自立タイプキャビネットを配線ピット上に設置した例 配線ピット内に雨水などの漏れにより、水溜 りが発生。内部結露により、めっき部品に錆が 発生した。 下部より高湿度の空気が浸入しないよう底板貫通 孔にコーキング処理する。 対策例 (C)浮遊するカーボン微粒子が銅バー部分に付着し、そのひげがウイスカー現象のごとく成長 し、極間短絡事故に至った例 浮遊するカーボン微粒子 隙間 ・防塵タイプ(保護等級IP 5X以上)のキャビネット を採用する。 ・キャビネットの防塵性能に 相当する取付、加工、配線 工事で施工する。 対策例 3.盤内への電線くずなどの落下による極間短絡事故 盤を空洞壁へ埋め込む工法では、配線を容易にするために上部のケーブル引込み開口部を大きく取 ることがある。この場合、使用環境の比較的良い事務室などでも、空洞壁内部の塵、虫、小動物などが 盤の内部に侵入することを防止するため、仕切り板及びコーキング材による開口部の閉鎖をする必要が ある。 また、キャビネットへの通線孔加工時、内部に切粉やゴミ がかからないよう養生などの処置をする 必要がある。 施工後は、切粉や電線屑のゴミは完全に除去することが必要である。 4 (a)間仕切り壁埋め込み分電盤で、ほこりによる短絡事故例 ケーブル PF管 軽量壁 キャビネット開口部 ・PF管工事とする。(電気設 備工事「施工要領」参照 ) 分電盤上部はケーブ ルを引き込むため、大 きな開口部があり、天 井まで空間になってお り、開口部の周りには くず・ごみが見られ、 これが盤内部に落下、 主幹バー又は分岐バー で短絡事故に至ったと 推察された。 ・施工後は、清掃を行い、特に 電線くずなどの除去に注意する。 ・入出線部はコーキング処理を行 い、防塵及び虫、小動物の侵入 防止を行う。 対策例 ・背面引込みなど入出線孔に直接 コーキング処理ができない場合 は、盤の背面にプルボックスな どを利用しコ−キング処理を行 う。 4.キャビネット取付けにおける変形 キャビネットの取付け方を誤ると、機器の破損、接触不良、漏電、及び短絡事故などの原因となる 場合がある。 取付けには次のような注意が必要である。 (1)キャビネットの壁面への取付けは、メーカー指定の取付け位置で行う。 これによらない場合は、取付けボルトの頭部又は先端の突出寸法を基板の折り曲げ寸法以内に し、機器類取付け基板に当たらないか十分確認する必要がある。 (2)取付け面の平面度を確認し、キャビネットのひずみがないように取付ける。 取付け後のキャビネットのひずみの原因として次のものが考えられる。 (ア)壁面の凹凸。 (イ)取付けボルトの締め付けの不均等。 (ウ)平坦度が確保されていない。 (a)基板裏面でキャビネットを取り付けていたボルト先端が基板を変形させた例 壁 ● 基板 ● 基板 取付ボルト 対策例 基板が変形し、不 具合の原因となった。 ● キャビネット ● 通常、キャビネット を固定する取付ボルト の位置は、基板裏面部 分を外すようにする。 施工上、基板裏面部 分に取り付ける場合は、 基板に当たらないか十 分確認する必要がある。 取付ボルトの頭部又は 先端の突出寸法を基板 の折り曲げ寸法以内と する。 キャビネット (b)壁面のひずみによるドアの開閉不良例(自立タイプの床面のひずみも同様) 壁面の凹凸による盤のひずみで、盤ドアが正 常な状態で閉じなくなった。 対策例 5 施工前に壁面が平坦であることを確認する。 取付面に凹凸がある場合はライナーなどで調整 して、取付ボルトを均等な力で締付ける。 5.誤った仮設電源の接続による事故 停電を伴う点検時や電気工事が完了していない状態で、負荷に電源を供給するため、主幹ブレーカ を切り負荷側端子に仮設電源を接続する場合が見受けられる。 主幹が単3中性線欠相保護付ブレーカで負荷側に単3電源を投入した場合には中性線が欠相すると、 異常電圧検出機能が働き、ブレーカの引外しコイルに電流が流れ続け加熱し故障に至ることがある。 ※単3中性線欠相保護付ブレーカは、単3回路の中性線が欠相し100V機器に異常電圧が印加され、 負荷機器の絶縁劣化や焼損から保護するため、異常電圧を検出して回路を遮断するブレーカである。 (a)誤った仮設電源の接続により、単3中性線欠相保護付ブレーカが焼損した例 (a)誤った仮設電源の接続により、中性線欠相保護付ブレーカが焼損した例 電源側 (電源供給なし) 単3中性線欠相保護付ブレーカ 主幹単3中性線欠相保 護付ブレーカの負荷側端 子に仮設電源を接続して 使用したところ、ブレー カ内部の引外しコイルが 焼損した。 内部結線 ○ ○ ○ 引外しコイル × × × 漏電・過電圧 表示ボタン ○ ○ ○ 仮設電源 対策例 (作業用電源と して接続) 過電流 引外し素子 テストボタン ブレーカ負荷側からの電 源供給を中止した。 ● 増幅部 ● ○ ○ ○ 負荷側 ● 検出リード線(白) (b)端子ねじ締付け不具合による、ブレーカが焼損した例 ブレーカの端子、銅バー接続ねじな どを使用し仮設電源を取り、作業終了 後元に戻す場合、端子ねじの締付けが 適正でなかったためブレーカの端子部 が焼損した。 ブレーカの負荷側端子、銅バー接続ねじなど、工場 出荷時に締付けたねじは適正トルクで管理されており、 原則として緩めるなどの作業はしない。 対策例 又、工事終了時にすべての導電部のねじを必ず増し 締めすると共に、定期的に増し締めをする。 6.短絡事故による、配線用遮断器性能の劣化 配線用遮断器の負荷側回路に短絡事故がおきた場合、その短絡電流の程度によって、遮断器の取 替えなどの処置をする必要がある。 配線用遮断器に短絡電流が流れた場合に、遮断器にどのような変化が起こるか、その一般的傾向 を下表に示す。((社)日本電気協会制定、電気技術規程、JEAC8701「低圧電路に設置する自動遮断 器の必要な遮断容量」より抜粋) 現実には、事故の際の短絡電流の大きさは判りにくいため、遮断器の取替えを薦めるものである。 遮断器に流れた短絡電流の程度 遮断器の変化 No.1 (定格遮断電流)の0.5倍以下 遮断器には実用上異常なく、引き続き使用を継続できる No.2 (定格遮断電流)の1倍 遮断器は若干損傷するが、一応通電できる。点検をして必 要に応じて取替えることが必要。 No.3 (定格遮断電流)の1.5倍 遮断器は損傷する。取替えを要する。 No.4 (定格遮断電流)の2倍以上 遮断器は破損する。堅牢な箱の中に収めてないものは危険。 又アーク時間が異常に延びて保護対象の電路を保護し得な いこともある。 6 7.導電部の接続ねじ推奨締め付けトルク 導電部の接続ねじは、下表の推奨締付けトルク範囲内で確実に締付けてください 導電部の接続ねじは、下表の推奨締付けトルク範囲内で確実に締付けてください ね じ の 呼 び 径 m m 締 付 け ト ル ク値 N・m 1.2∼1.6 M 4 M 5 *1 2.0∼2.5 3.0∼4.0 M 6 M 8 *2 5.5∼7.0 M 10 *3 13.0∼20.0 M 12 *3 40.0∼50.0 *1:M5ソルダレス端子は、1.6∼2.0 N・m *2:ドライバー以外の工具で締付けるねじは、8.0∼13.0 N・m *3:ドライバー以外の工具で締付けるねじに適用する。 ①締付けトルク値はJISC2811 工業用端子台、JISC2805銅線用圧着端子に決められているが、これら は温度試験をする為の条件としての値であり、推奨締付けトルクを決めたものではない。 ②上記の締付けトルク値は実作業や機器の端子構造に応じた強度を考慮した上で、十分な接触圧力を 確保できる締付けトルクの範囲とした。 ③機器の端子によっては過度の締め付けトルクで隔壁が割れたり、ねじ部の損傷が生じる可能性が ある。 7 参考 1. JIS C 8480 「キャビネット形分電盤」 抜粋 4.使用状態 JIS C 8480 「キャビネット形分電盤」では、盤の使用状態として以下のように規定している。 4.1 標準使用状態 4.1.1 屋内用分電盤の標準使用状態 屋内用分電盤の標準使用状態とは、次のいずれにも該当する状態をいう。 a)周囲温度は、最高40℃、最低−5℃を超えない範囲とし、かつ、その24時間を通じて測定した平均値は、35℃ 以下とする b)標高は、2000m以下とする。 c)周囲の空気のじんあい、煙、腐食性又は可燃性の気体・蒸気及び塩分による汚染は、無視できる程度とする。 d)相対湿度の範囲は、45∼80%とする。ただし、盤内部の結露は、通常発生しないものとする。 e)盤に対して、外部に起因する振動又は地震の影響は、無視できる程度とする。 4.1.2 屋外用分電盤の標準使用状態 屋外用分電盤の標準使用状態とは、次のいずれにも該当する状態をいう。 a)周囲温度は、最高40℃、最低−25℃を超えない範囲とし、かつ、その24時間を通じて測定した平均値は、35℃ 以下とする。 b)標高は、2000m以下とする。 c)周囲の空気のじんあい、煙、腐食性又は可燃性の気体・蒸気及び塩分による汚染は、無視できる程度とする。 d)盤外部の相対湿度は特に規定しない。ただし、結露が発生しても内部機器に影響がない程度とする。 e)氷雪は、無視できる程度とする。 f)雨水、温度変化及び直射日光を受けるものとする. g)盤に対して、外部に起因する振動又は地震の影響は、無視できる程度とする。 h)盤内部では、通常の屋内に近い状態が保たれているものとする。 4.2 特殊使用状態 次のいずれかに該当する場合を特殊使用状態とし、この状態で使用される場合は、使用者 が製造者に対しあらかじめ指定するものとする。 a)周囲温度、湿度、結露及び標高が4.1の規定を超える場合。 b)温度又は気圧の急変がある場合。 c)過度の水蒸気、油蒸気、煙、じんあい、塩分及び腐食性物質が空気中に存在する場合。 d)爆発性、可燃性その他有毒なガスがあるか、又は同ガスの襲来の恐れがある場合。 e)氷雪が特に多い場合。 f)強度の磁界又は磁界にさらされる場合。 g)異常な振動又は衝撃を受ける場合 h)車両などに取り付けて使用する場合。 2.参考文献 ・電気設備工事「施工要領」改定新版 日本電設工業協会発行 一般社団法人 キャビネット工業会 会員会社 盤標準化協議会 一般社団法人 キャビネット工業会 河村電器産業(株) 古川電装(株) タキゲン製造(株) (株)栃木屋 内外電機(株) 日東工業(株) パナソニック電工電路(株) ジョー・プリンス竹下(株) (株)タカチ電機工業 盤標準化協議会 河村電器産業(株) 日東工業(株) Ⓒ2011 盤標準化協議会 テンパ−ル工業(株) 内外電機(株) パナソニック電工電路(株) 第2版 平成23年5月発行
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