Te c h n i c a l Report 難燃性マグネシウム合金押出製品 Non-combustible Magnesium Alloy Extrusions (商品名:ノコマロイ) 上田 光二 経営管理室 難燃性マグネシウム事業化プロジェクト 1.はじめに 要約 軽量で強度が強く、リサイクル性に優れた地球環境に優 近年、地球環境保護や温暖化対策から、軽量性とリサ しい金属として注目を集めているマグネシウム合金を応 用し、構造材料として使用可能な難燃性マグネシウム合 金押出製品の実用化・製品化に成功し、鉄道車両用材料 燃焼試験で「不燃性」の認定を取得したので、その材料 特性、周辺加工技術、現状の実用化製品例等を紹介する イクル性に優れたマグネシウム合金が注目され、携帯機 器(携帯電話、ノートパソコンなど)や自動車等の輸送 機器において実用化が進んできている。しかし、マグネ シウム合金は非常に活性で燃えやすいために、製品とし て使用するのに適していなかったり、成形や後加工に特 とともに、将来の展開について紹介する。 別な設備や安全管理を行う必要がある。 そこで、 (株)ケーエステクノス・アルミ事業部では活 性な性質を抑えた難燃性マグネシウムに着目し、独立行 政法人・産業技術総合研究所と共同研究「難燃性マグネ シウム合金の熱間押出形材の製造に関する研究」を行い、 構造材料として使用可能な難燃性マグネシウム合金押出 製品の実用化・製品化に成功した。 2. 難燃性マグネシウム合金 難燃性マグネシウム合金は、通常のマグネシウム合金に <参考文献> 1)上野英俊・坂本満他「難燃性マグネシウム合金の開発」 まてりあ 第39巻(2000) 2)軽金属協会「アルミニウム技術便覧」カロス出版(1996) 3) (社)日本アルミニウム協会「アルミニウム統計表」 (平成 15年暦年) 4)日本マグネシウム協会「日本マグネシウム協会統計」 (2004) 5)小濱泰昭協力「浮上走行する高速列車エアロトレイン」 Newton12月号(2002) 6)東北大学・流体科学研究所・小濱研究室ホームページ http://www.ifs.tohoku.ac.jp/kohama-lab/top-j.html 近畿車輌技報 第11号 2004.11 ● 38● 図1 Ca添加量と発火温度の関係 カルシウムを添加することにより発火温度を200∼300℃ 上昇させている。 図1はカルシウム添加量の異なるマグネシウム合金 (AZ91:アルミニウム9%、亜鉛1%、残りマグネシウ ム)を1000℃の電気炉に入れ、その燃え出す温度を示し Mg Mg5Ca 図2 MgおよびMg5Caの表面酸化物組織 たもので、通常のマグネシウム合金(カルシウム添加量 が0%)では400℃を少し超えたあたりから発火するが、 図3 形材 図4 板 材 2%カルシウム添加のマグネシウム合金では発火温度が 1) 780℃以上になっていることが分かる。 表現を変えれば、通常のマグネシウム合金は溶解温度 領域で発火するが、難燃性マグネシウム合金は溶けて液 体の状態になってもすぐには発火しない。 これは、通常のマグネシウム合金は多孔質の酸化マグ ネシウム皮膜に覆われているため酸素の供給を遮断でき ないのに対し、難燃性マグネシウム合金では6∼20nm (ナノメートル=10億分の1メートル)という極めて薄く、 緻密で平滑な酸化カルシウム皮膜に覆われているため、 その保護作用により酸素と遮断され、発火しにくくなる 図5 棒 材 図6 管 材 ことによる。通常のマグネシウム合金と難燃性マグネシ ウム合金の表面組織を図2に示す。1) 3.難燃性マグネシウム合金押出製品 難燃性マグネシウム合金を押出加工した押出製品の一 例として、形材(図3) 、板材(図4) 、棒材(図5) 、管材(図 6) 、線材(図7)をそれぞれ示す。形材の形状・サイズ限 界を見極めるには、個別に細部の検討が必要であるが、当 社では直径140mmの外接円に収まる中実材や中空材が 一般的に生産可能である。また、板材は最大幅180mm× 板厚1mmや最小板厚0. 6mmの供給実績がある。また、 図7 線 材 線材では最小径3. 2mmの供給実績がある。 ● 39● Te c h n i c a l Report 4.鉄道車両用材料燃焼試験 近い将来、鉄道車両部品や車両構体へ適用することを 視野に入れて、 (社)日本鉄道車両機械技術協会において、 板厚0. 8mmの難燃性マグネシウム合金押出製品を供試 体として、鉄道車両用材料燃焼試験を受けている。判定 は「不燃性」の区分を取得している。 (試験番号:車材燃 試15-189K) 5.周辺加工技術 図8 パイプのTIG溶接 5. 1 接合 接合は、FSW(摩擦撹拌接合) 、レーザー溶接、TIG (タングステン イナート ガスシールド)溶接の3種類の 接合実績がある。外径20mm×肉厚1. 5mmの難燃性マ グネシウム合金パイプ材を突き合せて同じ材質の溶接棒 を用いて全周を電流値40Aの交流電源でTIG溶接したも のを図8に示す。今後は用途を特定した上で、開先形状 や溶接条件による継手効率の評価を深めていくことがテ ーマのひとつである。 5. 2 切断 溶けてもすぐには発火しないという難燃性能を生か 図9 パイプの冷間曲げ し、中空形材の板厚1. 2mmを出力4kWの炭酸ガスレー ザー切断機を使用して、高圧窒素をアシストガスとし、 出力3. 8kW、切断速度8m/分で量産品を切断している。 5. 3 曲げ 難燃性マグネシウム合金は通常のマグネシウム合金と 同様に結晶が最密六方晶構造であり、常温下では加工に よるすべり面をひとつしか持たないため、曲げ加工が難 しい金属である。しかし、事前に所定の熱処理を行えば パイプベンダーを用いて冷間で曲げ加工が行える。外径 図10 多軸ヘッド 20mm×肉厚1. 5mmの難燃性マグネシウム合金パイプ 材を、パイプ中心線の曲げ半径80mmの条件で、出力 140kg/cm2のパイプベンダーを用いて曲げたものを図 9に示す。 立つため開示する時期を指定されることが多い。以下に、 開示の許可を得ている製品の例を示す。 6.実用化製品 6. 1 高速道路ETC遮断機の阻止棒 高速道路のETC遮断機に取り付けられている阻止棒の 押出品という素材供給の立場上、エンドユーザ様の最 骨材に難燃性マグネシウム合金押出製品が多く使われて 終製品は開示されなかったり、競合企業に対して優位に 近畿車輌技報 第11号 2004.11 いる。アルミニウム合金製に比べて重量面で優位であり、 ● 40● C-FRP (カーボン繊維強化プラスチック)製に比べて価 格的に優位である。実際に、開閉速度をご覧いただけれ 8.まとめ ば、レーザー切断加工で押出品をさらに軽量化している 難燃製マグネシウム製の骨材の優位性を理解していただ 長期的には、2020年にアメリカで運行が計画されて けるであろう。 いる「エアロトレイン」 (三方が固体壁面に囲まれた凹型 6. 2 のガイドウェイ内を高速浮上走行する新交通システム) 多軸ボール盤の多軸ヘッド等 自動車関連の製造ライン内に配置された多軸ボール盤 (図11)のプロジェクトで、機体に難燃性マグネシウム の多軸ヘッドやバリ取り機ヘッドのハウジングに、難燃 合金の採用が構想されている5)6)ことを励みに、ケーエ 性マグネシウム合金押出製品が採用されている。 (図10) ステクノスの押出技術や近畿車輌グループの周辺技術を ロボットハンドに持たせて振り回す場合や、人手で着脱 蓄積し、関係先を含めた押出製品トータルのコスト低減 する場合に要求される軽量化に効果がある。また、ハウ を進めていきたい。 ジングの加工には旋盤での仕上加工があり、難燃性能が 通常のマグネシウム合金に比べて優位性を持っている。 7. 今後の展開 現在の軽金属の雄であるアルミニウム合金の工業的生 産が始まってから100年あまりであるが、その間に時効 硬化型合金、組織制御技術、分散強化合金、複合材料等 が開発され2)、用途にあった合金がリーズナブルな価格 (一部業界では値崩れを起こしている側面もある)で市場 図11 エアロトレインイメージ図 (東北大学HPを参考に当社で作図) に提供されるようになっている。特に、1960年代より サッシなど土木・建築用を中心にアルミニウム合金押出 材の生産が急増し2)、近年の国内生産量はアルミニウム 合金全体で400万トン/年間に達している。3) 一方、マグネシウム合金はまだ基本となる合金が開発 された段階で、国内総需要量は4万トン強/年間(アルミ ニウム合金の1%)であり、その中でも押出材等の展伸材 は800トン程度(マグネシウム合金全体の2%程度)であ る4)。 しかし、今後はアルミニウム合金の開発に要した期間 よりもさらに短い開発期間で400MPaの高強度を有する 合金、200℃程度の高温下でも強度を有する合金、熱処 理することにより600MPaの強度をもつ合金が開発され、 それらの合金に対応した各難燃性マグネシウム合金も開 発されていくものと考えている。 現在は、重量がアルミニウム合金の3分の2で、FRP と同程度という軽量面の特徴を生かした用途で押出製品 が採用されているが、高温強度の実現により輸送機器の 内燃機関への適用にも道が開け、時効硬化の実現により 航空機への適用にも道が開けてくると考えている。 ● 41●
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