NGN 環境下の新たなデータ通信方式の検討とその標準化動向 - Hi-HO

画像電子学会
The Institute of Image Electronics
Engineers of Japan
年次大会予稿
Proceedings of the Media Computing Conference
NGN 環境下の新たなデータ通信方式の検討とその標準化動向
Standardization of new data communication method under NGN environment
-電話番号で行うコンテンツファイルの転送-
-Forwarding of contents file that does by telephone number-
大畑 博敬†
Hironori OHATA†
笹野 潤‡
会森 潔*
Jun SASANO‡
Kiyoshi EMORI*
†NTTサ イ バ ー ソ リ ュ ー シ ョ ン 研 究 所 †NTT Cyber Solution Laboratories
‡東芝テック株式会社 ‡TOSHIBA TEC CORPORATION
*コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 *Konica Minolta Business Technologies, Inc.
E-mail: †[email protected], ‡[email protected], *[email protected]
1.
はじめに
NGN( Next Generation Network) は , 従 来 の 電
NGN の デ ー タ 通 信 に つ い て
2.
2.1.
NGN の 概 要
話 網 が も つ 信 頼 性・安 定 性 を 確 保 し な が ら ,IP ネ ッ ト
ワークの柔軟性・経済性を備えた,次世代の情報通信
アナログ信号にて行っていた電話回線交換は,音
ネットワークであり,従来の電話網が提供している音
声通話を主体としていたが,サービスの多様化により
声通信に加え,ハイビジョンも可能な映像通信,高速
音声以外の情報の交換および通信の要望がでてきた.
なデータ通信など大容量の通信を提供する.発信者,
そ の 分 か り 易 い 例 が フ ァ ク シ ミ リ 通 信( FAX 通 信 )で
着信者を特定する電話番号を使って音声,映像,デー
あ る .FAX 通 信 は 符 号 化 さ れ た 画 像 信 号 を 電 話 の 回 線
タ通信を提供するためセキュリティが高いネットワー
交換網を使って相手に送信することになるため,符号
ク で あ る . ま た , NGN は 新 た な サ ー ビ ス を , 誰 も が
化された画像信号を回線交換網で伝えるために符号を
自 由 に 創 造 で き る よ う に , UNI ( User-Network
音響信号(モデム信号)に変換して音声通話と同じ通
Interface),NNI( Network-Network Interface),SNI
話回線を使って相手に送信していた.
( application Server-Network Interface) と い う 3
その後,回線交換を行うネットワークの伝送系,
つのインターフェースを提供するオープンなネットワ
中継系は効率化のためディジタル化されて行ったが,
ークであり,世界中の通信事業者を中心に企業も加わ
交換機と利用者宅間のアクセス系はアナログ信号によ
り技術検討やサービスの創造および提供を進めてきて
る 伝 送 の ま ま で あ っ た た め FAX 通 信 や デ ー タ 通 信 は
い る .日 本 で は NTT が 2008 年 3 月 か ら「 フ レ ッ ツ 光
符 号 化 さ れ た 情 報 を 音 響 信 号 に 変 換 し て 9600bps や
ネ ク ス ト 」と 称 し て NGN サ ー ビ ス を 開 始 し ,「 ひ か り
14400bps な ど の ス ピ ー ド で 送 信 を 行 っ て お り ,よ う や
電話」サービスではまず音声と映像の通信サービスを
く ,1980 年 頃 に ア ク セ ス 系 ま で デ ィ ジ タ ル 化 し ,音 声
提 供 し ,2010 年 5 月 か ら「 デ ー タ コ ネ ク ト 」と 称 し て
や映像,データなど多様なメディアの通信を可能にす
デ ー タ 通 信 サ ー ビ ス の 提 供 を 開 始 し , NGN の デ ー タ
る ISDN( Integrated Services Digital Network:総 合 デ ィ
通信を使った新たなサービスの提供は多様化していく
ジ タ ル 通 信 網 ) の 提 供 を 開 始 し た . ISDN は , 音 声 帯
こ と が 考 え ら れ る . NGN の デ ー タ 通 信 の 利 用 す る こ
域 3.4kHz の 音 声 信 号 を デ ィ ジ タ ル 化 し た 際 に 必 要 な
とで,電話番号を使って音声,映像通信中に高速なデ
通 信 容 量 で あ る 64kbit を 基 本 と し た 回 線 交 換 網 で あ る .
ータ通信が可能となるが,データ通信を行う端末間で
1 回 線 ( 1B) の 通 信 ス ピ ー ド は 64kbps で あ っ た .
はデータ通信方式の規定がなければデータ通信を行う
同時にインターネットが普及し始めてその利用者
ことはできない.そこでデータ通信を利用したサービ
も増え,そのインターネットを利用するために利用者
ス例を挙げてサービスを実現するためのデータ通信の
宅からインターネット接続ポイントまでを電話回線を
方式検討と標準化について述べる.
使って接続していた.当初はアナログ回線でモデム信
号( 9600bps や 14400bps 程 度 の 速 度 ) に よ り 通 信 を 行
っ て い た が , ISDN の 提 供 開 始 に よ り 通 信 速 度 は 一 気
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に 64kbps に 向 上 し た .
接 続 は SIP( Session Initiation Protocol)を 使 っ て い る .
インターネットの提供サービスの発展は凄まじく,
各通信事業者や各インタネットプロバイダ,各サービ
インターネット利用者からの要望も多様化し,画像や
ス提供事業者等の異なるネットワークと相互接続して
動画の提供に加えより高精細に,処理速度や通信速度
サ ー ビ ス を 提 供 す る た め , 国 際 的 に ITU-T( 国 際 電 気
はより高速に等,高度化に向けて一気に進んだ.その
通 信 連 合 電 気 通 信 標 準 化 部 門 )な ど で 標 準 化 さ れ た イ
高度化されたインターネットで提供しているアプリケ
ンターフェースやプロトコルを使用している.
ー シ ョ ン を 利 用 す る た め に ISDN( 1B:64kbps) 以 上 の
通 信 速 度 の 要 望 が 求 め ら れ ,2000 年 頃 か ら ,よ り 高 速
の
ADSL
(Asymmetric
Digital
Subscriber
2.2.
データ通信を追加
Line) や
FTTH(Fiber To The Home)の 提 供 が 開 始 さ れ た . こ の
NTT で は ,2008 年 3 月 か ら「 フ レ ッ ツ 光 ネ ク ス ト 」
ADSL や FTTH を 使 っ た イ ン タ ー ネ ッ ト へ の 接 続 は イ
と 称 し て NGN サ ー ビ ス を 開 始 し , 電 話 番 号 に よ る 通
ンターネット接続ポイントまで電話番号で接続する従
信に関して「ひかり電話」と称してまず音声と映像の
来 の 方 法 と は 異 な り , IP( Internet Protocol) 技 術 を 使
通 信 サ ー ビ ス を 提 供 し た .IP 技 術 の 発 展 に よ り 通 信 速
って接続している.
度 は ISDN 時 代 よ り 遙 か に 上 が り , 64kbps か ら
そ の 後 ,イ ン タ ー ネ ッ ト で 利 用 し て い る IP( Internet
100Mbps 以 上 の 通 信 速 度 を 提 供 し て い る .音 声 通 信 は
Protocol) 技 術 を 使 っ て 音 声 信 号 を 送 る VoIP サ ー ビ ス
従 来 の 音 声 帯 域 3.4kHz 帯 域 以 上 の 帯 域 の 高 音 声 に よ
も 提 供 さ れ , 各 イ ン タ ー ネ ッ ト 接 続 業 者 の 050 電 話 や
る音声での通話を可能とし,映像通信はハイビジョン
NTT の ひ か り 電 話( 0ABJ)の 電 話 サ ー ビ ス が 提 供 さ れ
で の テ レ ビ 電 話 を 提 供 し て い る . NGN の 特 徴 か ら ,
た が ,050 や 0ABJ の 電 話 番 号 で 利 用 す る 音 声 電 話 ,テ
例えば電話番号で相手に発信し,音声による通話を行
レ ビ 電 話 通 信 と IP 技 術 を 使 っ て 通 信 を す る イ ン タ ー
っている同じセッションに映像を追加削除することが
ネットなどのデータ通信は別セッションとなってしま
可能である.
い , ISDN が 目 指 し た , 音 声 , 映 像 , デ ー タ な ど の 多
様なメディアを扱うサービスの提供は,このように音
声電話,テレビ電話通信は電話サービス,データ通信
はインターネットを利用して提供するようになった.
実際,電話で通話をしながらお互いにインターネット
を利用して電子ファイルを交換するなどよく見かける
シーンである.
近 年 , IP 技 術 は 急 速 に 発 展 し , 音 声 通 信 や テ レ ビ
電話などの映像通信の提供においても,伝送遅延時間
など回線交換と変わらない品質が確保できるようにな
ってきた.音声,映像通信によるコミュニケーション
図 1
NGN の セ ッ シ ョ ン イ メ ー ジ
系サービスとインターネットで提供しているアプリケ
ーションのデータ系サービスを統合して提供すること
更 に , 2010 年 5 月 か ら 「 デ ー タ コ ネ ク ト 」 と 称 し
で提供サービスの多様化を目指して分かり易くより便
て,ひかり電話の音声,映像通信に加えて電話番号に
利な新しいサービスを提供するために,通信事業者を
より相手に接続してデータを送受信するデータ通信サ
中 心 に 企 業 も 加 わ り NGN:次 世 代 ネ ッ ト ワ ー ク の 検 討
ービスの提供を開始した.これにより,音声による通
を 進 め , NTT で は 2008 年 3 月 に 「 フ レ ッ ツ 光 ネ ク ス
話を行っている最中にデータ通信を追加削除すること
ト 」 と し て NGN の サ ー ビ ス 提 供 を 開 始 し た .
が可能である.例えば音声通話中に相手に資料を共有
NGN の 特 徴 は ,
するために電子ファイルを送ること等が可能となった.
(1) 電 話 や デ ー タ 通 信 ,テ レ ビ 放 送 な ど 統 一 的 に サ
従来の電話で通話をしながらお互いにインターネット
ービスを提供
を利用して電子ファイルを交換するなどよく見かける
(2) QoS 制 御 に よ る End to End 通 信 の 品 質 を 保 証
シーンが,わざわざインターネットに接続する必要な
(3) 異 な る 通 信 事 業 者 間 で 利 用 者 に サ ー ビ ス を 提
く電話だけで簡単に利用できるようになった.もちろ
供するシームレスな通信を提供
(4) 利 用 者 に ア プ リ ケ ー シ ョ ン サ ー ビ ス を 提 供
等がある.
NGN は IP 技 術 を ベ ー ス に 実 現 し て お り ,電 話 の 呼
ん,音声通話をしていなくてもデータ通信だけを電話
番号を使って利用することも可能である.
音声や映像通話中にその同じ通話の中でデータ通
信が可能となったことで新たな利用例が想定される.
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そ の 利 用 例 を 事 項 ( 2.3項 ) で 述 べ る .
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本人にファイルとしてセキュアに送ることができる.
添削されたレポートを講師と生徒でお互いに見ながら
2.3.
データ通信の利用例
間違った箇所や分からない箇所をアドバイスすること
ができる.
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 す る こ と で 相 手 に は 電 話
番号でセキュアに接続することができ高速なデータ通
信が可能となったことから実現が容易となったサービ
スが多数ある.例えば,
(1) 通 話 中 の デ ィ ジ タ ル カ メ ラ 画 像 送 信
通話しながらディジタルカメラ画像を相手に送信する
ことができ,画像の説明や希望する画像の追加送信が
会話をしながらできる.
図 2
(2) テ レ ビ 電 話 中 の 資 料 共 有
通信教育の利用イメージ例
会議で必要な文書や画像を双方の画面に同期して表示
することができ,タッチペンなどで追加記入を共有す
2.3.2. 利 用 イ メ ー ジ 2( 在 宅 勤 務 )
ることで,資料の強調点や着目点を容易に共有するこ
とができる.
コールセンターの受付などお客様からの電話を自
(3) カ ラ ー FAX
宅 で 受 け , 商 品 デ ー タ や お 客 様 デ ー タ な ど を NGN の
アナログ電話回線では白黒画像が一般的であったが,
データ通信を利用してコールセンターのサーバ等にア
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 す る こ と で ,高 精 細 な 大 容 量
クセスして閲覧する.お客様からコールがあったとき
デ ー タ が 短 時 間 で 送 信 可 能 と な り ,カ ラ ー 画 像 の FAX
のみ利用することで通信費が抑えられ,電話番号によ
送信に最適である.
りセキュアな通信が可能である.
(4) 大 容 量 文 書 送 信
最 近 の 文 書 フ ァ イ ル は 容 量 2Mbyte を 超 え る 文 書 も 珍
し く な い . ISDN で は 伝 送 に 長 時 間 か か っ た 文 書 も 短
時間で相手に送ることができる.
(5) テ レ ワ ー ク
インターネットを利用した場合はセキュリティに心配
が あ り ,VPN を 設 置 す る と 高 額 と な っ て し ま う .電 話
番号でセキュアに必要な時間帯だけ接続でき高速なデ
ータ通信を利用してテレワークができる.
(6) 遠 隔 操 作
相手が機器の操作に不慣れであっても送信側から動画
等のデータ送信及び機器操作を制御することで受信側
図 3
の相手は操作せずに見たい情報を見ることができる.
在宅勤務の利用イメージ例
(7) リ モ ー ト メ ン テ ナ ン ス
高 機 能 化 す る 通 信 機 器 , OA 機 器 の メ ン テ ナ ン ス の 情
2.4.
データ通信の利用方法
報量は大きくなり通信に時間がかかる.インターネッ
トを利用する場合はファイアウォール越えが困難とい
ISDN の 提 供 に よ り ア ナ ロ グ 信 号 に よ る 通 信 か ら デ
っ た 問 題 が あ る .NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し 電 話 番 号
ィジタル信号による通信に移行した際,電話番号によ
で接続してセキュリティを確保しながら高速なメンテ
り発信して相手と呼を接続した後,音声信号を符号化
ナンスができる.
して送信し,受信側で受信した信号を複合化して元の
な ど が 言 え る .次 に 具 体 的 な 利 用 イ メ ー ジ を 紹 介 す る .
音声信号に戻す処理が必要となった.符号化の方式は
多数あり,符号化で使う方式と復号化で使う方式は同
2.3.1. 利 用 イ メ ー ジ 1( 通 信 教 育 )
じにする必要があるため使用する方式について相手と
呼 を 接 続 す る 際 に 交 換 す る 必 要 が あ る .NGN で も 同 様
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 す る こ と で 電 話 番 号 に よ
に 電 話 番 号 を 使 い 相 手 に SIP に よ り 呼 接 続 を 行 う . 音
り発信し,相手を確認した後にレポートの添削資料を
声 , 映 像 , デ ー タ 通 信 開 始 す る こ の 呼 接 続 の 際 に SDP
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( Session Description Protocol)の m 行 に 使 用 す る メ デ
ィア種別とコーデックおよびデータの通信方式,a 行
にパラメータ等を記載して交換する.
図 4
データ通信利用時に課題
インターネットを利用する際にブラウザでファイ
ル を http( Hypertext Transfer Protocol)を 使 っ て ダ ウ ン
ロ ー ド す る こ と が あ る . こ の http を NGN の デ ー タ 通
表 1
NGN で 利 用 可 能 な メ デ ィ ア , コ ー デ ッ ク 等
信で使うにしても,どちらの端末がサーバ側として動
作し,もう一方がクライアントとして動作すればいい
例 え ば , 音 声 通 信 を 行 う 場 合 は , m 行 の media 部 に
か ,フ ァ イ ル を 送 る 際 に ,POST す れ ば い い の か ,GET
「 audio」,a 行 に「 PCMU」を 記 載 す る .音 声 周 波 数 帯
す れ ば い い の か 等 の 手 順 が 何 ら 決 ま っ て な い .つ ま り ,
域 7kHz の 高 音 質 で の 音 声 通 信 を 行 う 場 合 は , m 行 の
データ通信を開始しただけでは端末間でファイル等の
media 部 に「 audio」,a 行 に「 PCMU-WB」を 記 載 す る .
データの送受を行うことはできないのである.
デ ー タ 通 信 を 行 う 場 合 は , m 行 の media 部 に
「 application」を 記 載 し ,fmt 部 に デ ー タ の 通 信 方 式 を
記載する.a 行に通信方式のパラメータを記載する.
3.
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し た フ ァ イ ル 転
送の実現検討
つまり,データ通信を行う場合は端末間で使用するデ
ータ通信の方式を指定することになる.
NGN の デ ー タ 通 信 を 使 っ た サ ー ビ ス の 一 例 と し て ,
実際にファイルを送るサービスの実現に向けて,ファ
2.5.
データ通信利用時の課題
イ ル を 送 信 す る 手 順 を 検 討 し た .2.5項 で も 説 明 し た が ,
ま ず は イ メ ー ジ し 易 い FAX 通 信 を 例 に 考 察 す る .FAX
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し て 2.3項 の 利 用 例 を 実 現
の 利 用 例 と し て , FAX 機 器 か ら FAX 情 報 サ ー バ な ど
す る た め に は ,NGN で 呼 接 続 を 行 っ た 後 に ど の よ う な
に 発 信 し て 資 料 を 取 得 す る FAX 情 報 サ ー ビ ス と し て
手順でデータを交換するかの取り決めが必要である.
の 利 用 例 と ,FAX 機 器 同 士 で 資 料 を 送 り 合 う 利 用 例 が
例 え ば , イ メ ー ジ し 易 い FAX 通 信 を 例 に 考 察 す る と ,
あ り , FAX 通 信 に は 3 つ 通 信 形 態 が あ る .
作成した資料を相手に送り印刷することになるが,
(1) FAX 情 報 サ ー バ か ら 資 料 を 受 信 す る
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 す る 場 合 ,作 成 し た 資 料 の 電
(2) 発 呼 側 か ら 着 呼 側 に 資 料 を 送 信 す る
子ファイルを相手に送ってプリントアウトの指示をす
(3) 着 呼 側 か ら 発 呼 側 に 資 料 を 送 信 す る
ることになる.しかしながら,どのようにして電子フ
こ こ で は ま ず ,分 か り 易 い 接 続 形 態 (2)の 発 呼 側 か ら 着
ァイルのファイル名を伝えればいいのか,ファイルの
呼側に資料を送信する通信形態について検討する.
タイトルはどうやって通知すればいいのか,ファイル
送信の開始タイミングはいつなのか,など決まってな
い.
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らは全てコンテンツファイルと称する.
送信側端末からコンテンツファイルを送信する際
に,受信する端末がそのコンテンツファイルを扱うこ
とができるのか受信側端末の能力を確認する必要があ
る.受信側端末が扱えるコンテンツファイルでなけれ
ば転送したコンテンツは何ら意味がない.このため能
力を確認するため端末間で能力確認のフェーズが必要
である.
次に,コンテンツファイルを転送する前に,その
コンテンツファイルのファイル名,ファイルサイズを
送信側端末から受信側端末に通知するジョブ生成のフ
ェーズが必要である.
その後,実際にコンテンツファイルを転送するコ
ンテンツ送信フェーズとなる.
図 5
FAX 通 信 の 接 続 形 態
こ の 3 つ の フ ェ ー ズ の 手 順 に よ り , NGN の デ ー タ
通信でコンテンツファイルを転送する事が可能となる.
通 信 形 態 (2)で は 作 成 し た 資 料 を ス キ ャ ン し て 画 像
信号に符号化して相手に送り画像信号を復号化してプ
リントアウトすることになる.符号化した画像信号を
相手に送るために相手に呼接続した後,画像信号を音
響信号に変換して通話路内を送ることになる.相手へ
の呼接続をアウトチャネル,呼接続後の通話路をイン
チャネルと称する.アウトチャネルでの呼接続後,イ
ンチャネルでは画像信号を相手に送るために端末間で
通信速度など相手端末の能力を確認するための能力確
認を行って画像信号を送信することを音響信号で行っ
て い る .こ れ は ,G3FAX の 手 順 で あ り ,T.30 に て 勧 告
さ れ 標 準 化 さ れ て い る . 全 て の G3FAX は こ の T.30 に
従 っ て い る た め ,異 メ ー カ の FAX 端 末 で あ っ て も 相 互
通信が可能である.
で は ,NGN の デ ー タ 通 信 を 使 っ た 場 合 を 考 察 す る .
図 6
コンテンツを転送する際のフェーズ
ま ず ア ウ ト チ ャ ネ ル で SIP に よ る 呼 接 続 を 行 う . 呼 接
続した後のインチャネルでは,作成した資料の電子フ
ァイルを電子ファイルのままの状態で相手に転送した
方が画像品質などの劣化がなく効率がよい.電子ファ
以上で,コンテンツファイルを転送する基本の動
作手順が可能となった.
次に,受信したコンテンツファイルの扱いについ
イルを転送するために,端末間で扱えるファイルサイ
て の 動 作 だ が ,プ リ ン ト ア ウ ト す る か 保 存 す る か 更 に ,
ズ,ファイルフォーマット,タイトル等の能力を確認
プリントアウトする場合は用紙サイズや枚数など送信
する端末間での能力確認を行う必要がある.その後,
側から指定する等の利便性を向上することが考えられ
電子ファイルを転送することになる.そして受信側端
る.これらのコンテンツファイルの扱いについての指
末では受信した電子ファイルをプリントアウトする.
示情報は,そのコンテンツファイルを転送する際に行
つまり大きく分けると,電子ファイルを転送する動作
う能力確認フェーズやジョブ生成フェーズで一緒に情
と受信した電子ファイルをプリントアウトする動作の
報通知することが妥当である.しかし,コンテンツフ
2 つとなる.
ァイルを転送する機能を搭載する機器やアプリケーシ
まず初めに,電子ファイルを転送する方式につい
て検討する.
ョンは様々あり仕様もそれぞれであるため,一律に同
様に指定することはできない.そこで,コンテンツフ
電子ファイルのフォーマットは複数ありテキスト
ァイルを転送する際の能力確認フェーズやジョブ生成
ファイルや写真などの画像ファイル,また文書作成ア
フェーズのオプションとして通知し,同じ機器同士ま
プリ-ケーションで作成したファイル等がある.これ
たは同じアプリケーション同士など同じ仕様であるこ
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とが確認して指示ができるようにした方がよい.
NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し て コ ン テ ン ツ フ ァ イ ル
の転送を可能にする方式を持った機器やアプリケーシ
ョ ン が 多 数 存 在 す れ ば デ ー タ 通 信 が 普 及 し ,音 声 通 信 ,
映像通信が普通に利用されている様にデータ通信を利
用したコンテンツファイルの転送も普通に使われ,多
様なサービスが提供されることが期待できる.このた
め,コンテンツファイルを転送するようなコンテンツ
転送手順を標準とするために標準化に向けて活動を開
始した.
4.
コンテンツ転送の標準化動向
図 7
TR-1038 の 構 成
コンテンツファイルの転送とファイルの扱いにつ
い て 共 通 の 手 順 で 転 送 で き る 方 式 と し て 3項 で 述 べ た
本編では,コンテンツファイルを転送するための
接 続 形 態 (2)の コ ン テ ン ツ 転 送 手 順 に 加 え て ,接 続 形 態
基本手順が記載されていて,本基本手順を搭載するこ
(1),(3)に つ い て も 実 現 検 討 を 行 い ,標 準 化 に 向 け て 活
と で NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し 端 末 間 で コ ン テ ン ツ
動を行っている.
ファイルの転送が相互接続できるようになる.転送す
NGN の デ ー タ 通 信 は 大 容 量 の デ ー タ 通 信 が 安 価 に
利 用 で き る .NTT の「 デ ー タ コ ネ ク ト 」サ ー ビ ス で は ,
るファイルは機器やアプリケーションで自由に選択し
て転送することができる.
例 え ば 1Mbps の 転 送 速 度 を 安 価( 2 円 / 30 秒 )で 利 用
本編を利用してコンテンツファイルを転送する際
できる.大容量のデータ通信を頻繁に行う企業間通信
に,本編を搭載した機器やアプリケーション間で転送
で は 専 用 線 の 方 が 安 価 で あ る が ,FAX の よ う に 不 特 定
したコンテンツファイルの扱いなどを送信側,受信側
多数との通信を行う場合には従量課金の方が経済的な
端 末 間 で 指 示 を 行 い た い こ と が あ る . 現 在 の TR-1038
場合が多い.
で は ,そ の よ う な 規 定 を ANNEX と し て 規 定 し て お り ,
こ の コ ン テ ン ツ 転 送 手 順 は TTC( 一 般 社 団 法 人 情
現 在 は ANNEX A と ANNEX B を 規 定 し て い る .
報 通 信 技 術 委 員 会 : THE TELECOMMUNICATION
ANNEX A で は 転 送 す る コ ン テ ン ツ フ ァ イ ル の 扱 い
TECHNOLOGY COMMITTEE) メ デ ィ ア 符 号 化 専 門 委
について特に画像ファイルに特化した属性情報を相互
員 会 内 で 2009 年 頃 か ら 検 討 が 進 め ら れ , 2.3項 で 述 べ
に 交 換 す る 機 能 が 追 加 さ れ て い る . こ れ は カ ラ ー FAX
た よ う な 利 用 例 を 30 近 く 検 討 し て 各 種 プ ロ ト コ ル の
の実現に向けてコンテンツファイルの送受信を容易に
優位性の検討を重ねた結果,現在,各装置がほぼ標準
行うことができるように構成されている.
と し て 利 用 で き る よ う に 実 装 し て い る HTTP や SOAP
ANNEX B で は 通 信 機 器 の リ モ ー ト メ ン テ ナ ン ス に
メッセージを用いることで機器への実装への障壁を下
特化した属性情報を容易に交換することができるよう
げ る こ と も 考 慮 し て ,3項 で 述 べ た コ ン テ ン ツ 転 送 手 順
に構成されており,これまで遠隔での操作が困難であ
を 可 能 と す る 方 式 を 検 討 し ,2010 年 12 月 に TTC の 技
ったネットワーク機器の遠方からの監視,修理に有効
術 書 ・ TR-1038 と し て 制 定 さ れ た .
な情報の収集及び修理手順情報の配信機能等が盛り込
TR-1038 は 現 在 ,コ ン テ ン ツ フ ァ イ ル を 転 送 す る 基
本の手順を規定する本編と,オプション規定である
ANNEX A お よ び B か ら 構 成 さ れ て い る .
まれている.
今 後 も , 必 要 に 応 じ て ANNEX を 追 加 し , TR-1038
を実装した機器やアプリケーション間の相互接続を担
保して行く.
標準化については今後更に,有効性の詳細検証,
課 題 の 抽 出 と 解 決 ,実 用 化 製 品 の 検 証 等 を 経 て TTC で
の 国 内 標 準 で あ る JJ 化 ,そ し て ,国 際 勧 告 で あ る ITU-T
勧告化等に向けて活動を行う.
な お , 本 稿 の 著 者 は TTC メ デ ィ ア 符 号 化 専 門 委 員
会にて,本コンテンツ転送手順の検討および技術レポ
ートを作成したメンバーである.
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5.
年次大会予稿
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まとめと今後の展望
文
本 稿 で は NGN 環 境 下 で 提 供 さ れ る 新 た な デ ー タ 通
信を使った利用例とそのデータ通信方式の検討と標準
化動向について紹介した.本稿で紹介したコンテンツ
フ ァ イ ル の 転 送 方 式 は ,NTT 東 日 本 ,NTT 西 日 本 か ら
ひかり電話用のソフトフォンとして提供している「ひ
か り ソ フ ト フ ォ ン 」や NTT 西 日 本 の ビ ジ ネ ス 機 器 商 品
で あ る フ ァ イ ル 転 送 装 置 「 FN-1000」 に 搭 載 さ れ て い
る.本稿で紹介したコンテンツファイルを転送するデ
ータ通信方式が機器に搭載され利用者が音声,映像通
信 に 加 え て NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し た 通 話 を 普 通
に 使 え る よ う に 普 及 に も 努 め て い く .ま た ,NGN の デ
ータ通信はデータ通信単独でも利用可能である.例え
ば , カ ラ ー FAX や 遠 隔 監 視 , リ モ ー ト メ ン テ ナ ン ス ,
必要なときに必要な時間だけ拠点間のデータ通信を行
うなど利用用途は広い.
NGN の デ ー タ 通 信 を 使 っ た サ ー ビ ス 提 供 は ま だ 発
展途中である.本稿ではコンテンツファイルを転送す
るサービスとその方式について紹介したが,今後更に
魅力ある新しいサービスを創造し,その実現に向けて
方式検討および標準化を行う.
今 回 の NGN の デ ー タ 通 信 を 利 用 し た コ ン テ ン ツ 転
送方式により音声,映像通話中に資料や写真を送り,
お互いに見ながら会話が出来るようになる.
図 8
送信したコンテンツを指し示す
次の要望としてお互いに見ている資料や写真の中
で特に見て欲しい部分を指し示したいなどが出てくる.
お互いに資料や写真を送り合いながら会話を行う協調
作業的なシーンも想定される.コンテンツを受信した
側では,受信したコンテンツを家族など複数で見るこ
とも想定され,家庭内などで受信したコンテンツを家
庭内の大画面テレビに転送でできるなどコンテンツを
自由に扱う検討も行っていく.
献
[1] ITU-T Y.2001: General overview of NGN ,2003
[2] TTC 一 般 社 団 法 人 情 報 通 信 技 術 委 員 会
http://www.ttc.or.jp
[3] ITU-T T.30 一 般 交 換 電 話 網 に お け る 文 書 フ ァ ク シ
ミ リ 伝 送 手 順 Procedures for document facsimile
transmission in the general switched telephone
network
[4] TTC 技 術 レ ポ ー ト TR-1038 NGN 環 境 下 の
SOAP/HTTP を 利 用 し た コ ン テ ン ツ 転 送 シ ス テ ム
http://www.ttc.or.jp/cgi/document-db/docdb.cgi
[5] NTT 東 日 本 フ レ ッ ツ 公 式 ペ ー ジ ,
http://flets.com/
[6] NTT 西 日 本 フ レ ッ ツ 公 式 ペ ー ジ ,
http://flets-w.com/
[7] 総 務 省 「 NGN の 標 準 化 ・ 相 互 接 続 へ の 取 り 組 み
について」
[8] NTT 東 日 本
ひ か り ソ フ ト フ ォ ン
http://flets.com/hikaridenwa/softphone/
[9] NTT 西 日 本
ひ か り ソ フ ト フ ォ ン
http://flets-w.com/hikaridenwa/softphone/
[10] NTT 西 日 本 フ ァ イ ル 転 送 装 置 ( FN-1000 )
http://flets-w.com/solution/kiki_info/product/multifu
nction/fn1000/
[11] 倉 橋 孝 雄 , 松 本 猛 , 大 畑 博 敬 , 秦 泉 寺 浩 史 , 阿 部
匡 伸“ NGN 環 境 下 に お け る コ ン テ ン ツ 転 送 方 式 に
関 す る 検 討 ”, 画 像 電 子 学 会 第 26 回 VMA 研 究 会