CQ ham radio 1988 年 4 月号 275~279 頁 久しぶりの実験用電源 久しぶりの実験用電源 アマチュア無線をはじめエレク トロニクスの実験で必ず必要にな るのが、実験用電源です。工作好 きのあなたのシャックにも、きっ と実験用電源があることでしょう。 さて、このジュニア製作教室で も過去に何回か実験用電源を作っ てきましたが、私の“雑誌記事検 索システム”で検索してみたら、 ここ数年、実験用電源の製作をし ていないのに気がつきました。 そういえば、私が現在愛用して いる実験用電源は本誌 1973 年 1 月号で発表し、後に「アマチュア の IC 応用製作」 (CQ 出版社刊) に収録した“0~20V、1A 実験用 電源”で、もう 15 年も前に作っ たものです。 その後、1976 年 2 月号や 1984 年 9 月号でも実験用電源を作りま したが、今月は久しぶりに実験用 電源を作ってみたいと思います。 なお、前にお話した私の現用中 の実験用電源は今でも何の不自由 もなく働いてくれているのですが、 もっとこうしたいと思うこともあ ったので、いくつか工夫を取り入 れてみることにします。 April 1988 実験用電源の計画 実験用電源の計画 では、0~1V、1A 実験用電源の 計画を立ててみることにしましょ う。 まず、今までの実験用電源でい ちばん苦労したのは、電流ブース ト用のトランジスタを外付けにし なければならないことと、このト ランジスタの放熱のことでした。 ちなみに、前に紹介した“0~ 20V、1A 実験用電源”では、電流 ブースト用として PCmax 100W 級の 2SD111 を用意し、ここでは 最大 22W の電力が消費されるた め、大きな放熱器を用いました。 そのために、ケースの後面は放熱 器のオバケのようになってしまっ たものです。 そんなこともあって、今回はな んとか電流ブースト用のトランジ スタを使わずに済むようにしてみ ることにしました。 実験用電源を作るときにはまず レギュレーターIC 選びから仕事 が始まりますが、今回は使い慣れ ている LM317 を使うことにしま した。この LM317 は出力電圧可 変の 3 端子レギュレーターで、な んと 1.25~37V にわたって出力 電圧を可変できます。また、出力 電流も 1.5A まで取り出せます。 そこで、この LM317 で実験用 電源を作るとどうなるかを調べて みたのが、第 1 図です。 まず、 (a)は設計の基本となる 値を決めてみたものです。出力電 圧は最大 15V としましたから、そ 275 の範囲は 1.25~15V です。 一方、LM317 の最小入出力電 圧差は 2V は必要で、余裕をみて これを 5V にすると、入力電圧は 20V ということになります。 このように各部の値がそろった ところで、1A の出力電流を取り 出したとき LM317 で発生する電 力損失を調べてみたのが(b)で す。なお、出力電圧 1.5V で 1A も の電流を取り出す機会があるかど うかは疑問ですが、一応最悪ケー スのサンプルとしてこのような条 件を選んでみました。 276 結果は、ご覧のように 18.5W も の電力損失が発生し、LM317 に 無限大の放熱器を取り付けても放 熱しきれません。ちなみに、今回 使用する LM317T の PCmax は 15W(Tc=25℃)です。 そこで、工夫をしてみることに します。 第 2 図は、LM317 で発生する 電力損失を減らす方法の一つとし て考えてみたものです。 このやり方の原理は簡単で、出 力電圧に応じて LM317 への入力 電圧を 2 段階に切り替えてやろう というものです。こうすると、第 1 図のように出力電圧が 1.5V のと きには LM317 の入力電圧は 10V となり、このときの入出力電圧差 は 8.5V ですから LM317で発生す る電力損失は 8.5W と半減します。 これなら、電流ブースト用のトラ ンジスタを付けなくても、LM317 だけで放熱できます。 ちなみに、LM317 で発生する 電力損失が最も大きくなるのは、 入力電圧が高いほうに切り替わっ た直後の出力電圧 10V のあたり で、このときには 10W ほどの電 力損失が LM317 で発生します。 でも、これもなんとか放熱できる でしょう。 つぎは、出力電圧をゼロからに したいということです。これはナ ショナル・セミコンダクターのデ ータブックにそのやり方が第 3 図 (a)のように示されており、簡 単にできます。その考え方を、 (b) に示しておきます。これを見ると、 出力電圧固定の 3 端子レギュレー ターで出力電圧を高くする場合の 手段としてやる、ゲタをはかせる 方法と同じであることがわかりま す。ただし、この場合には出力電 圧を下げるのですから、マイナス 電圧のゲタとなっています。 最後は、出力電圧をディジタル 表示してみたいということです。 これは、 「トランジスタ技術」誌の 広告を見ていたら、よい DVM(デ ィジタル・ボルト・メーター)を 見つけました。 それは、ゼベックの XE-1231 というもので、第 1 表のような仕 様のものです。本器で使えそうな ものには LCD 表示の XE-1231 と LED 表示の XE-1211 があります が、XE-1211 は消費電流が多いこ とと、エスカッションがついてい ない、といったことがあったので、 これは見送り、今回は XE-1231 (写真 1)を使ってみました。 XE-1231 は小型にまとまって CQ ham radio 部分の回路です。なお、LM317T おり、LCD の表示も見やすくなり はプリント板には取り付けません ます。なお、第 1 表でわかるよう が、回路図の中に入れてあります。 に、XE-1231 は基本的には小数点 まず、第 2 図で示した電圧検出 固定のフルスケール 1.999V の をしているのが、M51204 のコン DVM です。本器ではこれをフル パレーターです。M51204 は第 5 スケール 19.99V の DVM として 図に示したようなもので、出力は 使う関係で、実際の使用にあたっ オープン・コレクタになっていま てはちょっとした工夫が必要です。 す。出力電源は 60mA まで取り出 せますから、40mA ほどで働く 実験用電源の作り方 実験用電源の作り方 G2E リレーを直接駆動できます。 では、今までの計画を基に、実 M51204 でリレーが切り替わる 験用電源を作ってみることにしま 基準電圧を作り出しているのは、 しょう。 D2 の 8.2V のツェナー・ダイオー 第 4 図が 0~15V、1A 実験用電 ドです。ここは第 2 図のところで 源のうち、プリント板の上に作る は 10V と説明しましたが、コンパ April 1988 レーターの電源電圧が 12V しか なく、場合によっては 10V くらい まで下がることもあるので、8.2V としました。 基準電圧を 8.2V にした理由は、 もう一つあります。それは、この 電圧でリレーが切り替わりますか ら、基準電圧は出力電圧としてよ く使う 6V とか 9V、12V といった 値からなるべくはずしておくのが 無難です。8.2V なら、まあまあと いったところでしょう。 つぎに、第 3 図のようにして出 力電圧をゼロからにするには、マ イナスの電源が必要です。 これは、 電源トランスの巻線に余分があれ 277 ば話は簡単ですが、今回使った電 源トランスにはそれがなかったの で、DC-DC コンバーターを使っ てみました。 これはタムラ製作所の DC コン バーターNAN-0505(写真 1)と いうもので、亜土電子のパーツ売 場で見つけたものです。 NAN0505 は第 5 図に示したようなも ので、+5V を加えると-5V が得 られます。 DC-DC コンバーターは、本誌 1987 年 3 月号の“R-MODEM2 の製作”のところで TDK のもの を使いましたが、 TDK のものでい えば RZC05N35 がやはり+5V 278 入力で-5V 出力となっています。 さて、出力電圧のディジタル表 示用の DVM(XE-1231)はフル スケールが 1.999V でしたから、 これを 19.99V にするには 10 分の 1 の分圧器が必要です。R1 と R2 がその分圧器で、本器では 0.5% のものを使いましたが、もし精度 の高いものが入手できなければ 5%の 9.1kΩと 1kΩでがまんする よりしかたありません。でも、実 用上はそれでも十分でしょう。 では、プリント板の組み立てに 必要な部品を集めましょう。第 2 表が部品の一覧で、本誌や「トラ ンジスタ技術」誌の広告を見れば 入手できる部品ばかりです。 第 6 図が、プリント・パターン です。プリント板の加工が終わっ たら、部品を取り付けて組み立て ておきましょう(写真 2)。 プリント板の組み立てが終わっ たら、ケースの中に収めます(写 真 3)。使ったケースは、前身の CQ ham radio “0~20V lA 実験用電源”でも使 った鈴蘭堂の T-2N で、電源用の ケースとしてはちょっと弱いので すが、大きさがぴったりなので今 回も使いました。 第 7 図に示したのが、0~15V、 1A 実験用電源の全体のつなぎ方 です。 まず、放熱器の大きさを決める 放熱設計からやってみましょう。 とりあえず、周囲温度を 50℃まで と考え、LM317 で発生する電力 損失を 10W、熱抵抗(接合部-ケ ース間)を 6℃/W として、放熱器 April 1988 に要求される熱抵抗を計算 (「ハム のトランジスタ活用」p.34 参照) してみると、3.6℃/W ほどになり ます。 実際には、熱抵抗がこの 3.6℃ /W より小さい放熱器を選べばよ く、今回使った水谷の EF(74)-70 は推定で 3℃/W ほどです。なお、 放熱器に LM317T を取り付ける ときには、絶縁板を忘れずに入れ なければなりません(写真 4)。 つぎに、出力電圧調整用の VR には A カーブのものを使ってみま した。これは、0~6V あたりの出 力電圧の低いところでの調整をや りやすくしようと思ったからです。 A カーブのものを使った結果、12 時の位置での出力電圧は約 3V と なっています。 なお、A カーブの VR が入手で きなければ B カーブのものでもか まいません。 電源トランスは 0-9-18V、2A というものがほしかったのですが、 ぴったりのものがなかったので第 7 図のように 1 次側の 110V のタ ップを使うことによって、ほぼこ れを実現しています。 電源トランスの 2 次側の電流は 交流出力電流で示されており、直 流として取り出せるのはその 60 ~70%ほどです。本器は実験用電 源ということもあって、余裕をみ て 2A のものを選びました。した がって、短時間であれば整流器の W02 や LM317T の限界である 1.5A 近くの電流が取り出せます。 DVM(カタログでは DPM とな っている)の XE-1231 は前にもお 話したように小数点の位置が固定 で、フルスケール±1.999V の電圧 計なので、19.99V の電圧計として 使うには小数点の位置が問題です。 そこで、XE-1231 には小数点の位 置を変えたものが用意されており、 今回使ったのは小数点を 2 桁目 (写真 5)に移した XE-1231-2 と いうものです。 第 3 表が、第 7 図の組み立てに 必要な部品の一覧です。このうち、 放熱器は“ストアーミズタニ” (☎ 03-253-8953)、電源トランスは “ ノ グ チ ト ラ ン ス 販 売 ”( ☎ 03-253-9521 )、 ゼ ベ ッ ク の XE-1231-2 は“明和電気㈱”(☎ 03-255-6581)で求めました。 * * * さて完成した結果ですが、リレ ーの切り替えもうまくいき、ディ ジタルの電圧表示もバッチリでし た。今までの実験用電源にはお休 みを与え、これからはこの新しい 実験用電源にがんばってもらおう と思っています。 279
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