成瀬正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル ギターを演奏する人なら誰でも憧れるスーパー・ギタリスト。彼らがスーパーである所以は、その華麗なるテク ニックだけではありません。ギター本体やアンプ・セッティング、そしてエフェクターなどによって作られるギ ター・サウンドそのものが魅力的であるからこそスーパーなのです。Reason 4 にはそうしたギター・サウンド をシミュレートするためのギアが豊富にそろっています。本セミナーでは、スーパー・ギタリストたちのサウン ド・メイクをアナライズしつつ、それを Propellerhead の Reason 4 によって再現することを試みてみましょ う。 第 4 回:Char ( 2008 年 11 月 28 日 ) 「Smoky」 スーパー・ギタリストのサウンドをアナライズし、シミュレートにチャレンジする本コーナー。もし“日本を代表するギ タリストは?”というアンケートがあったならば、必ずやトップ・グループに入っている、いや、長年に渡って入り続け ている殿堂的ギタリスト、Char! 日本ロック・シーンのカリスマですよね。今回は、その Char の代表曲である「Smoky」 を取り上げましょう! 「Smoky」には、セルフ・カバーである『Black Shoes』収録バージョンや、PYCHEDELIX バージョン、また『U.S.J』 での「Smokey」(スペルが違う! “違う曲”と言った方がいいかな……)などもありますが、ピックアップするのは、 もはや歴史的名盤である1st アルバム『Char』 (1976 年)に収録されたオリジナル・バージョンです。この曲では、シ ャープなカッティング・サウンドや歪ませたリード・サウンドといった、それぞれに魅力的ないくつかのギター・サウン ドを聴くことができますが、今回チェックするのは CD タイム 2′28″∼3′33″にわたって延々と聴かせてくれる、 うねるようなカッティング・パートです。 “Em7(9)→Dm7(9)”のコード進行が繰り返される部分ですね。今聴いても刺 激的で Cool!なこの曲、このサウンド、シミュレートにチャレンジしてみましょう。 ■ムスタングによる独特なサウンド まずは原曲のサウンド・アナライズです。カッティング・サウンドは、今回着目した間奏部分以外に、イントロから歌の 後ろまでを固めるバッキングでのカッティング・サウンドがあります(っていうか、曲的にはこちらがメイン)。そこでの サウンド(バッキング)と、チェックする間奏部でのサウンド(カッティング・ソロ)のサウンドを比べると、ソロの方 にウネリを加えるエフェクトが掛かっていることが分かるほかに、音が若干太いことに気付くと思います。弾いている内 容は同じようでも、セクションによって音がかなり違うことがあるんですよね。 では、使用楽器∼機材を、判明している情報を元に推測していきましょう。ギターはフェンダーのムスタング! 特に日 本では、Char の使用で有名になった、いや Char のシグネーチャー・ギターみたいなモノだ、なんて声さえ聞こえてきそ うなギターですよね。90 年代では、カート・コバーンという、また別のカリスマが使用していましたが……。 さて、話を戻して、 “Char の使用で有名∼”、つまり Char 以外ではあまり使われていなかったギターなのですが、変な言 い方になるかもですが、やはり使われない理由があったのでしょう。比較的にシェイプが近い、同じフェンダーのストラ トキャスターに比べると、レンジが狭く(特に低音域が弱い!)、サステインも短いなどといった、サウンド面で劣ってい ると取られかねない一面がありました。しかし、特にロックで使われるエレクトリック・ギターとは不思議なモノで、ハ イファイ的な観点では劣っているとしても、それが 1 つの魅力的な個性になることがあります。ムスタングも、Char と いう名手にコントロールされることで、他のギターでは生み出せない個性的かつ魅力あふれるサウンドを弾き出したワケ です。前述したのとは逆に、魅力ある高音域、ワイルドに暴れるサウンド、なんて表現されたりもしますよね! 次はエフェクターとアンプ。音が軽く潰れて揃った感じから、コンプレッサーの使用も考えられますが、これはチューブ・ アンプのナチュラルな歪みによる圧縮だと思います。 “歪み”とは言っても本当に軽いもので、クリーン∼クランチの間く らい。優しくピッキングすれば純粋なクリーンで、強くピッキングすると軽∼く歪むってくらいです。アンプはロー・ゲ インなフェンダー系のチューブ・アンプ。恐らく、フェンダーのデュアル・ショウマン辺りではないかと言われています。 セッティングは、音がキンキンしないように、中音域を強調していると思います。そしてエフェクターで唯一使われてい るのがフェイザー。音をウネらせるモノですね。機種は特定できないのですが、ペダル・タイプのアナログ・フェイザー だと思われます。そのフェイザーを、アンプのセンド/リターンでもミックス時にでもなく、アンプの前(つまり歪む前!) に接続し、掛け録りをしたのでしょう。セッティングは深めでスピードは遅め。メインのバッキング・パートより音が太 く感じるのは、アナログ・フェイザーの使用によるところが大きいのではないかと思います。アナログ・エフェクターで は、ローファイでありながらそのように音を太く感じさせるような、 (ある意味)マジカルな音質変化が与えられることが あるんですよね。 あとちなみにな補足。リードでの歪みは、アンプ単体による歪みではなく、ファズかオーバードライブといったペダル・ エフェクトを付加したものだと思われます。 ■ストラト・サウンドをイコライジング! さあ、シミュレートです。NN-XT(サンプラー)を立ち上げて基本となるギター・サウンドを探します。……が、やはり というかナンというか、手持ちの音源にはムスタングをドンピシャでうたっているパッチがありませんでした。そこで、 ストラトのサウンドである“Strat Edge”を NN-XT で選び、さらに直後に MClass イコライザーを接続し、この2台 でギター・サウンドを形成することにしました。 MClass イコライザーでは、とりあえずロー・カットをオンにした上で、ロー・シェルフで低音域を減らしてしまいます。 加えてハイ・シェルフで高音域も削り、サウンドからハイファイ感をなくします。そして、そのままではアタックのトー ンが弱い感じだったので、3.5KHz 辺りをブーストしてクセを与えました。 ギターができたら次はギターとアンプの間にあるペダル・エフェクターとして、PH-90(フェイザー)を組み入れます。 ウネリを深く与えながらも、フィードバックは少なくして全体的には軽く。SYNC ボタンでテンポに同調させることも可 能ですが、それだと綺麗過ぎてアナログ的ではないのでやめておきましょう。スピードは遅めが雰囲気です。 そして次にアンプ。アンプによるナチュラルな歪みを付加するために、フェイザーの後に、本来ディストーション・ユニ ットである Scream 4 をつなぎます。”TUBE”を選択し、歪みは低∼くします。そのようにするとレベルが下がるので、 マスターを上げてバランスを取ります。さらに、Scream 4 内蔵のイコライザーでローを少しカットしてムスタングらし さを強調、また、レゾナンスを加えてアンプのナチュラルな共振を感じさせるようにしましょう。 以上が、基本的なサウンド・メイク。さらに RV-7(リバーブ)を加えてナチュラルなアンビエンスを演出すると Good です。 ■セッティングの確認 接続順は“ギター→イコライザー→フェイザー→アンプ→リバーブ”、つまり“NN-XT→MCrass Equalizer→PH-90→ Scream 4→RV-7”となります。 MCrass Equalizer LO CUT をオン。次に LO SHELF で 350Hz 辺りから下をカットし、HI SHELF で8kHZ 辺りから上もカッ トし、元の音からハイファイ感を奪う。PARAM で 3.5kHz 周辺をブーストし、アタック感を与える。 PH-90 FREQ は 60 ほど、WIDTH は 90∼100 ぐらいにして深くウネらせる。SYNC はオフで、RATE は 20 辺り で緩やかに、F.MOD は 80 辺りに設定する。フィードバックは少なめで 20∼30 辺りで調節。 Scream 4 “EasyFuzz”を選び、 “TUBE”に設定。DAMEGE CONTROL(歪みの量)は上げても9時辺りで、CONTOUR と BIAS は特にいじらずに 12 時に。イコライザーは LO を下げて(-10)、低域のコシを減らしてしまう。BODY の RESO と SCALE を 12 時辺りにして、箱鳴り感を演出する。最後に、DAMEGE CONTROL が低い分、 MASTER を上げて音量を稼ぐ。 RV-7 リバーブ・タイプは“Small Room”を選択。DRY/WET は 10 時の辺りに設定。ホールのように大きい場所 ではない狭い空間だけれど、程よく響いている感じをイメージ。 では、ここまでの接続と設定を、Reason 4のパネルで図示しておきましょう(図 1/図 2)。 図1 フロント・パネル 図2 リア・パネル 今回のセッティングからフェイザーを外し、イコライザーでよりシャープな音色に設定すれば、バッキング・メインのカ ッティング・サウンドもシミュレートできます。是非お試しを! ■MIDI プログラミングについて あと、MIDI でフレーズを入力する場合は、打ち込みのスキルも重要! ピッキングのダウン or アップを考慮し、ダウン なら低い音から(低音弦側から)、アップなら高い音から(高音弦側から)鳴るようにタイミングを調節し、さらにダウン 側を強く、アップ側を弱くといったように、微調整を積み上げるとかなり似てくるハズです! それと、音程になってい ないブラッシング音のシミュレートも必要ですよね。これは、ノートはその前後のコード・サウンドと同じで良いので、 音程が分らないほどに短いゲート・タイム、また強さも控えめにしてアタック音だけを感じさせるようにすると、シミュ レートできます。 以上、慣れないうちは大変に手間のかかることだとは思いますが、さまざまな技が交錯し、より微妙なニュアンスの加わ るリード・フレーズに比べたら、格段にシミュレートしやすいのがバッキングだとは言えると思います。バッキング・サ ウンドは、楽曲に活用するにもフレキシブルですしね。フレーズの打ち込みが巧くいくと、音色のシミュレートもより生 きてきます! 頑張ってチャレンジしてみてくださいね!
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