防食ライニングの目的 鉄筋コンクリート構造は 50 年以上の耐用を期待されているにもかかわらず、ポンプ場や終末処理場 では排水処理施設から生成する硫化水素に起因して、コンクリート構造物の腐食劣化が進むという大き な問題が生じてきたため、コンクリートを腐食環境から遮断する対策(防食工法)が必要となりました。 重要な事は、硫化水素による腐食を防止するために、まず、硫化水素生成の防止方法、気相拡散の防 止方法、硫化水素ガス処理方法等の硫化水素処理を行った上で、排水処理槽の防食ライニングを考慮す ることです。 硫化水素によるコンクリートの腐食劣化のメカニズム コンクリートの腐食劣化のメカニズムは一般に次のように説明されています。 ① 水が滞留するような箇所で嫌気性状態になると、下水中に含まれる硫黄化合物が硫酸還元細菌によ り還元され、硫化水素が生成される。 ② 硫化水素は水に対し溶解性の高い物質であるが、下水中の pH(7∼8)ではガス化しやすく、簡単に 気相中へ放散される。 ふくがい ③ 覆蓋または密閉された施設で換気の十分できない施設では、これらの硫化水素は、外部へ拡散され ることなく気相中で濃縮され、コンクリート壁面の結露中に再溶解し、そこで好気性状態で硫黄酸 化細菌により酸化され、硫酸が生成される。 ④ このように 2 段階の生物反応が進み、コンクリート表面で硫酸が濃縮され、pH が1∼2に低下し、 酸性度が高まるとコンクリートの主成分である水酸化カルシウムが硫酸と反応し硫酸カルシウムが 生成される。 ⑤ 硫酸カルシウムはさらにセメント硬化体中のアルミン酸三カルシウムと反応してエトリンガイトを 生成する。エトリンガイトは生成の際、結合水を取り込み、大きく膨張する。この膨張作用により、 コンクリートが崩壊する。 このような腐食のメカニズムからコンクリートを保護するために防食工法が必要不可欠となります。 そして、防食工法・仕様は経済性及び使用条件によって決定されます。 コンクリート腐食のメカニズム ③硫酸の生成 水槽モデル H22O S H2S+O H2S ○○○○○○○○ / ○○○○○○○○ // // ○○○○○ ○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○ H2S 硫黄酸化細菌 H2SO4 硫酸 H2S H 2S H2S ②拡散 / / ▽ / 硫化水素ガス 2− SO4 H2S H2S H2S 2― SO4 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 汚 泥 堆 積 層 // // ○・・・結露水 ① 硫化水素の発生 2− SO4 + 2C + 2H2O →硫酸塩還元細菌→ 2HCO3− + H2S ② 硫化水素の拡散 ③ 硫酸の生成 H2S + 4H2O → H2SO4+4H2 ④ コンクリートの腐食 −1)硫酸カルシウムの生成 Ca(OH)2 + H2SO4 → CaSO4・2H2O ⑤ コンクリートの腐食 −2) エトリンガイトの生成=コンクリートの強度劣化 3Ca(OH)2 + 3H2SO4 + 3CaO・Al2O3 + 26 H2O → 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32 H2O (エトリンガイト) コンクリート防食の種類 コンクリートの耐酸性を向上する技術は、防食技術として位置づけられ、コンクリート被覆工法とコ ンクリート材料あるいはコンクリート自体の耐酸を向上させる耐酸コンクリートなどがあります。 コンクリート被覆工法には、 1) コンクリート表面への塗布型ライニング工法 2) 工場製作等による耐食性成形シートをコンクリートに接着させる型枠工法や埋設型枠工法、 後貼り工法等のシートライニング工法 があり、現在のところ塗布型ライニング工法の実績が最も多く、コンクリート腐食環境が著しく厳 しく、将来の補修等が非常に困難な施設部位に関しては、シートライニング工法が採用されてきて います。 防食被覆材料は金属被覆材料、無機質被覆材料、有機質被覆材料に大別されますが、不均質材、 複合材であり保水性のあるコンクリートに対し、有効な防食被覆材料は有機質材料です。この中に は、有機質材料の補強材として無機質材料のガラスクロスやガラスマットを使用する FRP ライニ ングやセラミックパウダー入りエポキシ樹脂なども含まれます。 下水道施設の硫酸によるコンクリート腐食対策として採用されているコンクリート被覆工法を、 体系的に整理すると図のようになります。 コンクリート被覆工法 塗布型ライニング工法 <有機系ライニング材> ・エポキシ樹脂 ・ビニルエステル樹脂 ・ノンスチレン型 ビニルエステル樹脂 ・セラミックパウダー入り エポキシ樹脂 ・不飽和ポリエステル樹脂 ・変性シリコーン樹脂 ・ポリウレタン樹脂 ・ポリウレア樹脂 ・アクリル樹脂 等 <無機系ライニング材> シートライニング工法 型 枠 工 法 ・硬質塩化ビニル樹脂板 ・高密度ポリエチレン樹脂板 等 埋 設 型 枠 工 法 後 貼 り 工 法 ・ビニルエステル樹脂系 レジンコンクリート板 ・ビニルエステル樹脂系 FRP 板 等 ・ビニルエステル樹脂系 FRP 復層板 ・不飽和ポリエステル樹脂板 ・高密度ポリエチレン樹脂板 等 コンクリート被覆工法の分類
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