4.2.5 実践報告 「キャラクターをつくろう」 三重大学教育学部附属中学校 河俣 浩史 <はじめに> 知的財産とは 、優れた発明や 技術、デザイン、ブランド、さらに映画、音 楽などのコン テンツといった 有形、無形の情 報を含めたものである 。知的財産というとすぐに特許権、 実用新案権な ど の工業技術的創作物についての権利と し て の 産業財産権が思 い浮かぶが、 芸術的創作物についての権利としての著作権、著作隣接権も重要な知的財産といえる。 美術関係では 日本のアニメーションが世界的に有名 になり、日本の一つの 文化として確 固 た る 地 位 を 築 い て い る 。「 た か が 漫 画 」 と い う 時 代 が 長 か っ た の で あ る が 、 そ れ を 愛 す る 人 々 が 国 家 の 保 護 も な く 、 大 切 に 育 て て き た 結 果 世 界に 誇 れ る コ ン テ ン ツ と な っ た の で あ る 。 日 本 に お い て は ど う し て もア ニ メ ー シ ョ ン 、 漫 画 、 ゲ ー ム な ど の ソ フ ト 産 業 は 軽 視 されがちで、国 家としても軽んじてきた傾向があるが 、今後国家的に保護、 育成していこ うとする動きを 歓迎したい。ま た、キャラクターの も つ重要性も大いに認識 されてきてい る。美術科においてもそのような 視点から授業実践を試みた。 <授業実践> 本校の2年生 の選択授業において「キャラクターをつくろう」という実践 を行った。こ の 「 キ ャ ラ ク タ ー」 の 実 践 は 、 教 育 実 習 生 が 授 業 で 行 っ た も の を 母 体 と し て い る 。 私 が 以 前新任の頃、鳥 羽の中学校で美 術を教えた生徒が今 東 京でアニメーターと し て活躍してお り、そのキャラクターグッズも 町中でよく見かける。 そのような身近な実例 も交えながら 指導した。 授業計画 ①知的財産権、著作権についての 学習 ②キャラクターづくり ③キャラクターのまわり固め ④キャラクターを利用した作品づくり ⑤鑑賞 ① 「 知 的 財 産 権 、 著 作 権 に つ い て の学 習 」 に お い て は (1)知っているキャラクター をあげよう 生 徒 た ち の 知 っ て い る キ ャ ラ ク タ ー を あ げ さ せ て 列 挙 し て 導 入 と す る 。「 く ま の プ ー さ ん 」「 ハ ロ ー キ テ ィ ー 」「 ポ ケ ッ ト モ ン ス タ ー 」「 そ れ い け ! ア ン パ ン マ ン 」「 と っ と こ ハ ム 太 郎 」「 ス ヌ ー ピ ー 」「 機 動 戦 士 ガ ン ダ ム シ リ ー ズ 」「 ミ ッ フ ィ ー 」「 ワ ン ピ ー ス 」 「 ド ラ え も ん 」「 仮 面 ラ イ ダ ー シ リ ー ズ 」「 ミ ッ キ ー マ ウ ス 」「 N O V Aう さ ぎ 」 な ど が あげられる。それぞれのキャラクターについて感想や特徴をあげ、 発表させる。 ま た 、 朝 日 新 聞の 2 0 0 3 年 1 2 月 2 0 日 の 記 事 に キ ャ ラ ク タ ー に 関 す る 記 事 が 掲 載 さ れ て い た 。「 ア ニ メ や 絵 本 の キ ャ ラ ク タ ー が ビ ジ ネ ス の 世 界 で 活 躍 中 で す 。 人 間 の タ レントよりも頼 りになる、と引 っ張りだこになっています。企業にしてみれば知名度抜 群 、 安 く て 安 心 の 人 気 者 、 消 費 者 の ほ う も つ い 心 を 許 し て し ま う よ う で す 。( 大 野 さ え 子 )」 『 ワ コ ー ル は 自 社 製 品 の 新 キ ャ ラ ク タ ー を 発 表 し た 。 そ の 名 は 「 ぴ ち ょ ん く ん 」。 水 4.2.5-1 玉を擬人化したぴちょんくん、 実は新人ではない。 もとはダイキン工業の オリジナル。 湿 度 調 整 の 新 機 能 が 付 い た ル ー ム エ ア コ ンの PR で 、 0 0 年 5 月 か ら 活 躍 し て い る 。 最 初 は 脇 役 だ っ た 。 CM で は ビ ビ ア ン ・ ス ー さ ん が い る 部 屋 の エ ア コ ン か ら 出 て き て 、 ふ わふわと漂う役回り。制作の過 程のデッサンから偶然誕生した。 と こ ろ が 2 0 . 3 0 代 の 女 性 か ら 「 名 前 は ? 」「 グ ッ ズ は な い の ? 」 と 問 い 合 わ せ が 続 き 、イ ラ ス ト 入 り の 携 帯 用 ス ト ラ ッ プ が ネ ッ ト オ ー ク シ ョ ン で 1 万 円 で 売 ら れ て い た 、 という話も聞こえてきた。 こ ん な に 人 気 が あ る の な ら 一 本 立 ち さ せ ら れ な い か。 ス ー さ ん の 出 演 料 は 数 千 万 円 。 担 当 者 た ち は 集 ま り 、「 節 約 の ご 時 世 だ し 、 ぴ ち ょ ん の 力 を 信 じ て み よ う 」 と 意 見 が 一 致 し た 。 02 年 10 月 、 ス ー さ ん の 契 約 が 切 れ た の を 契 機 に 、 主 役 に 押 し 出 し た 。 そ れ が さらに他社の、 しかも肌着の宣伝役になるとは。思 わぬ抜擢に、ダイキン 東京支社広報 部 の 山 田 香 織 さ ん は 「 あ く ま で ダ イ キ ン の イ メ ー ジ を 伝 え る 役 割 だ っ た の で す が … 」。 専門誌「宣伝会議」の谷口優副編集長も「聞いたことがないケース 」と話す。 既に購買層の 女性の人気を得 ている。PRの即 効 性を見込めるうえ、契 約 料 は有名タ レ ン ト よ り 「 一 ケ タ 安 い 」 と い う 。』 こ の 記 事 を 導 入 と し て 使 用 し 、「 キ ャ ラ ク タ ー 」 が い か に 力 を 持 っ て い る か 、「 キ ャ ラ ク タ ー 」 が 自 分 の 著 作 物 と し て の 権 利 を 持 つ と い う意識を育てたい。 (2)著作権についての学習 著作権についての冊子から著作権について簡単に 学習する。これについては他教科に お い て も 学 習 し て い る 。( 略 ) ②「キャラクターをづくり」においては (1)身近なものからキャラクターをつ くろう。 まったく新しいキャラクターをつくり 出 す の は 難 し い の で 、 身近 な 物 か ら 発 想 し 、 そ れ を 擬 人 化 し て 新し い キ ャ ラ ク タ ーをつくることを課題とした。 まず、どのようなキャラクター なのか、 キ ャ ラ ク タ ー設 定 を お こ な っ た 。 生徒の作品からおもしろいキャラクタ ーをあげてみる。 作 品 1 《 ス パ ル タ 教 師 Y Z 。》:「 や か ん をもとにしている。数学教師で熱血教師 だ。指導に熱が入ってくると鼻から湯気 が出る。もっとがんばってくると頭のふ た が も ち あ が っ て く る 。」 作 品 1 《 ス パ ル タ 教 師 Y Z 。》 作 品 2 《 く る ま ち ゃ ん》 は か え る と 自 動車を合体 させたキャラクターであるが、 「 普 段 は ひ っ く り返 っ て カ エ ル の 顔 に な っ て か わ い く止 ま っ て い る 。 動 く 時 は も と に 戻 っ て 自 動 車 に な る 。」 作 品 3 《 か け っ こ え ん ぴ つ 》:「 鉛 筆 を キ ャ ラ ク タ ー に し た 。 人 の た め に 働 く が ん ば り屋さんの男の 子。いつでもどこでもがんばります 。たとえけずられても 、一生懸命走 4.2.5-2 ります。青ペン さんや赤ペンさんとも仲良しです。 人気者のシャーペンさんやけしゴム さんみたいに人 やノートが好き な気持ちは誰にも負 けません。いつもふでばこの中で使 っ て く れ る の を じ っ と 待 っ て い る の で す 。」 作 品 4 《 じ ょ う ろ く ん 》:「 と っ て も 働 き者でいつも花に水をやっているかわい い キ ャ ラ ク タ ー 。 雨 降 りの 時 は 水 を 体 に た め て い る 。 お 花 と 友 だ ち 。」 作 品 5 《 は り へ び & モ モ 》:「 は り が ヘ ビになっている。はりへびはいつも何か を縫っている。モモはカバンでできてい て空中を飛び回れる。はりへびはモモを 食 べ て し ま う の だ 。」 作 品 6 《 お っ さ ん た わ し 》:「 ひ げ ぼ う ぼうのたわし。台所にいる 。洗い方が悪 いと怒ってくる。ほっておくと毛が伸び てくるので時々カットしてやることが必 要 だ 。 と に か く オ ヤ ジ っ ぽ い 。」 作品7《はげおやぢでんきゅう(活動 中 )》:「 活 動 す る と 明 る く 輝 く キ ャ ラ ク タ 作品2《く る ま ち ゃ ん》 ー。怒っていないと暗くなってしまう。 蛍光灯に人気を奪われているので怒るこ と も 多 く な っ た 。」 生徒たちは身近なものからかわいい、 ユ ニ ー ク な キ ャ ラ ク タ ーを つ く り 出 し て くれた。 ③「キャラクターのまわり 固め」におい ては そ れ ら の キ ャ ラ ク タ ーの 周 辺 を 固 め る ためにまず 簡単な物語を作らせた。 ( 1 )「 物 語 を 作 ろ う 」 で 、 作 品 3 《 か け っ こ え ん ぴ つ 》:「 最 近 使 っ て も ら え な いえんぴつ君。ふでばこの 底でおもっき り 走 れ る 日 を 思 い な が ら、 青 ペ ン さ ん や 赤 え ん ぴ つ さ ん と そ の 日を 待 っ て い る 。 作品3《かけっこえんぴつ》 ある日シャーペンさんがけがをしてふで ば こ に 帰 っ て き た 。 そ う、 と う と う ぼ く の出番だ。ぼ く は一生懸命みんなのために走るんだ !!」といった物語を 作った。また 作 品 6 《 お っ さ ん た わ し 》:「 深 刻 で 、 性 格 が や ら し い 家 族 物 語 。 そ れ ぞ れ の 道 具 ( ほ う ち ょ う 、ま な い た な ど )が 家 族 に な っ て い る 。人 に い ち い ち 使 わ れ る 時 に 文 句 を 言 う 。」 ( 2 )「 ど ん な 仲 間 を 設 定 し ま す か 」と い う 課 題 で は 、作 品 3《 か け っ こ え ん ぴ つ 》:「 仲 間 は 赤 え ん ぴ つ さ ん ( 女 ) 青 え ん ぴ つ さ ん ( 男 ) シ ャ ー ペ ン さ ん ・ ・ ・人 気 者 、 家 = ふ で ばこ、敵=消し ゴムさん。同じ 家に住んでるけどシャーペンさんはえんぴつさんの敵で 4.2.5-3 も あ る 。」 な ど と 設 定 し て い る 。 作 品 1 《 ス パ ル タ 教 師 Y Z 。》:「 い つ も 頭 を か ん か ん たたいている国 語のフライパン 教師、すぐに切れる 理科のほうちょう教師 、など」と関 連してたくさんのキャラクター を生み出している。 ④「キャラクターを利用した作品 づくり」においては キャラクターをつくり出したあとはグループに分かれて活動を行っ た。 (1)キャラクターを使ってアニメーションをつくる。 これは生徒が 100シートの クロッキー帳を持っているのでそれを使っ てクロッキー 帳にアニメーションを制作させるものである。はじめにアニメーションの 動く理由を理 解させ、実際の簡単なアニメーションを 使 用 し て パ ラ パ ラ 漫 画 をク ロ ッ キ ー 帳 の 端に描いてみる。その後自分のキャラク ターを使っ て制作するものである。また、 ア ニ メ ー シ ョ ン を ビ デ オ撮 影 し て テ レ ビ に 再 生 し 、 そ れ を 全 員 で鑑 賞 す る と い う の も よ い と 思 わ れ る 。 生徒 の 制 作 し た ア ニ メ ー シ ョ ン は 短 い し 、動 き の 荒 い も の も 多 い の で 、 1 枚 の 絵 を何 コ マ 分 か 撮 影 し、ある程度の時間アニメーションが続 く よ う に し た い 。 自 分 の制 作 し た も の が 実際に動くのを見ることは 生徒たちにと っ て 大 変 刺 激 的 で 、感 動 的 で あ る だ ろ う 。 (2) キ ャ ラ ク タ ー を木 工 作 品 と し て完 成する。 作品4《じょうろくん》 電動糸鋸を使用してキャラクターを板 から切り出して置物にしたり、バッヂに し た り 、 パ ズ ル と し て 切り 抜 い た り し て 楽しんだ。電動糸鋸は数が限られており、 常に使用することができないのが欠点で あ る が 、 選 択 授 業 で 人 数が 少 な い の で 、 少し切り抜いてはサンドペーパーをかけ るとかの作業と交代したりとか、生徒同 士で譲り合うようにさせた 。最後はカシ ュー塗りを2、3回おこなって仕上げさ せたい。またポスターカーラーで着彩す るのも良い 。 (3) キ ャ ラ ク タ ー を使っ て漫 画 作 品に する。 作品5《はりへび&モ モ》 4.2.5-4 生 徒 の 間 で は 漫 画 制 作の 大 好 き な 生 徒 が多い。実際漫画家のようにペンを使用 することが上手な生徒もいるし、スクリ ー ン ト ー ン を 使 用 し て 作品 を つ く っ て い る生徒もいる。そのような 生徒にはキャ ラクターを4コマ漫画にしたり、ページ ものにしたりさせた。 ( 4 ) キ ャ ラ ク タ ー を 使 っ た 「絵 本 作 り」 「物語をつくろう」でつくったお話を 「絵本」として完成させる 。画用紙を切 っ て 両 面 テ ー プ で 貼 り 、し っ か り と し た 絵 本 に 仕 上 げ る 。表 紙 も ボ ー ル 紙 を 使 い 、 芯のある表 紙とした。 作品6《おっさんたわし》 キ ャ ラ ク タ ー を 利 用 し た作 品 作 り で は 他 にも様々な作品作りグループが考えられ るだろう。クッションにしたり、Tシャ ツにキャラクターを描いたり、カードゲ ー ム に し た り 、 R P G を設 計 し た り 。 そ れ ぞ れ の 個 性 と 意 欲 に 応じ た 広 が り が あ る。 ⑤鑑賞(略 ) < 感想と 反省> 生 徒 た ち は「 キ ャ ラ ク タ ー を つ く ろ う 」 と い う 授 業 に 楽 し く 取 り組 め た よ う だ 。 つくり出した自分のキャラクターを大切 にしているし、友だちのようでもある。 作品7《はげおやぢでんきゅう》 こ の よ う な 実 践 は 、 世間 に た く さ ん あ る キ ャ ラ ク タ ー に 目 を 向け さ せ 、 興 味 を も た せ 、 著 作 権 に つ い て大 切 に し て い こ うとする意識を 育てるものであると思われる。また、 そのキャラクターを利 用して商品開 発 し た り 、絵 本 を つ く っ た り と い う の は「 起 業 家 教 育 」の 初 歩 的 段 階 に な る と 考 え ら れ る 。 そうして制作さ れ た 作品を文 化 祭などで販売するのも 楽しいかもしれない。 ただ、選択授 業でできることであって、一 斉 指 導 としては、ど の よ う な 美術的な力、技 術 力、基礎・基 本が生徒たちの 身につくのか、 不明な部分がある。今 後、系統的に技能を習 得させていく プログラムを作り上げていきたい 。 4.2.5-5
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