衛星搭載降雨レーダに関する研究: TRMM/GPM降雨レーダ,合成開口降雨レーダ(PSAR) 卒業研究に関連して 島根大学 総合理工学部 古津年章 地球規模の降水分布観測が,衛星搭載降雨レーダにより実現され た.(1997年11月打上げ,熱帯降雨観測衛星TRMM) 問題点 ・空間分解能が数km:対流性降雨構造の把握が困難,また降水強 度推定にバイアス誤差をもたらす. ・Z因子から降雨強度などの物理量推定精度改善 ・レーダ自体の性能改善など 更なる科学的要求:降水粒子の識別,対流活動の強さ,上昇・下降 気流の推定. 次世代衛星搭載降水レーダに向けての基礎研究・・・ TRMM搭載降雨レーダ 飛行速度: 7.3 km/sec PR: 降雨レーダ TMI: TRMMマイクロ波観測装置 VIRS: 可視赤外観測装置 PR VIRS TMI 250 m 760 km 215 km 720 km 6∼50km 4km 2km 1 TRMM降雨レーダの構成 送受信系 固体電力 増幅器 アンテナ系 低雑音 増幅器 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ エレメント #1 ・ ・ ・ ・ 固体電力 増幅器 分 合 波 器 お よ び 移 相 器 同(冗長系) 信号処理系 (主系) 低雑音 増幅器 テコ レマ メン トド リ・ エレメント #128 TRMM降雨レーダの外観 アンテナ給電部 (128 素子) 2m 2m 2 TRMM降雨レーダにおける技術的チャレンジ ・距離が350kmと遠い。 ・距離が350kmと遠い。 → → 大きなアンテナ径(空間分解能) 大きなアンテナ径(空間分解能) → 大送信電力、低雑音化(感度) → 大送信電力、低雑音化(感度) ・地表面散乱強度 >> 降雨エコー強度 ・地表面散乱強度 >> 降雨エコー強度 (Kuバンド、1mm/hで 約百万対1) (Kuバンド、1mm/hで 約百万対1) → → 低サイドローブアンテナ 低サイドローブアンテナ → → 低レンジサイドローブパルス波形 低レンジサイドローブパルス波形 ・高速で移動する衛星からの「隙間の無い」アンテナ走査 ・高速で移動する衛星からの「隙間の無い」アンテナ走査 (0.6秒で215km走査、瞬時に走査基点へ移動) (0.6秒で215km走査、瞬時に走査基点へ移動) → → フェーズドアレイ方式 フェーズドアレイ方式 → → 高速かつ安定な位相制御 高速かつ安定な位相制御 ・雑音レベルの推定,フェージング誤差の軽減 ・雑音レベルの推定,フェージング誤差の軽減 フェージング雑音の軽減のメリットと方策 メリット: ランダム誤差の減少,実質的な感度 改善 方策:できるだけ多くの「独立サンプル」を平均 する.何回もパルスを送信.別の周波数で観 測.距離方向に加算.それらを組合わせる. より進んだ方式:アダプティブ走査・・・観測した い領域にエネルギを集中させる.如何に行う か?が問題. 3 空間分解能改善のメリットと方策 メリット: より詳細な降雨構造把握,降雨強度 推定精度の改善・・・ 重要なテーマ 方策:基本的には大きなアンテナを使う.アン テナパターンが正確にわかれば,信号処理に よる若干の改善は可能と思われる. 新しい(次世代に向けての)方式:合成開口降 雨レーダ.やや斜め入射の場合,地表面エコー と「un-focused SAR」でより現実的なシステム が可能か? TRMM 降雨レーダで測定した 海面「規格化レーダ断面積」の入射角特性 規格化レーダ断面積 (dB) 16 海面 無降雨, 2/14∼3/6 1998, 海面、無降雨、 2/14∼3/6 1998、18軌道 18 軌道 12 若干斜め入射時には,レー ダ断面積の分散が小さ い −> 地表面エコーの 減衰測定が比較的精度 よくできる.SARと同様の 原理で,空間分解能も実 質的に上げられる. 8 ARMAR ARMAR CAMPR CAMPR 4 0 -4 -8 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 入射角 (度) 4 通常の合成開口レーダ(SAR) Unfocused とは,衛星位 置による位相補正を行わ ない簡易方式.リアルタ イム処理可能.分解能は SARほどは向上しない. 合成開口長は, 衛星速度,波長, ドップラスペクトル に依存 PSAR観測の概念 TRMM-next の諸元では Lpsarは概ね 12∼18m PSAR分解能は 2σvR/U 実際のアンテ ナサイズ lh 実開口分解能 は λR/lh 5 SARとPSAR(合成開口降雨レーダ)の違い SARは,観測対象が 固定の仮定で受信信 号のドップラ周波数ト レンドを推定,マッチド フィルタ処理を行い, ビーム圧縮.地表面観 測を想定し,ファンビー ムを用いる.−>制限 が緩い. PSARは,観測対象が揺ら ぐ,3次元分布することで設 計が困難.−> ペンシルビー ムが必要.衛星進行方向 のビーム圧縮は,降水自体 の動きによる受信信号揺ら ぎの相関時間τdec (ドップ ラ周波数スペクトル広がり の逆数)内に制限. ドップラ速度SD:σvとすると, τdec = 波長/(2 σv ) システム設計の流れ システム設計条件 Focused 分解能 Unfocused 分解能 ② 降雨ランダム運動 影響評価 物理モデル 検討 ① シミュレーション プログラム作成 ③ etc 位相補正 (高機能・複雑) ④ ・感度 ・サイドローブ レベル ・A/Dサンプリング Unfocused (機能制限・簡易) PSARシステム設計 6 シミュレーション結果の一例 (合成開口長12m,実開口アンテナ長5m) -3 受信信号電力 -6 シミュレーション (dB) 理論値 レーダポジション (m) Unfocused処理の概念 L Luf 位相差 無視 できない hu Unfocused合成開口長 Lufm = λh 2 Lpsar h 位相差 無視 できる 開口長 π/4以内 分解能 L > Luf > L psar > Lreal X < X uf < X psar < X real T 7 PSARの面白い性質:雨滴粒径分布のスペクトル解析機能 − 焦点(ゼロドップラ)位置の粒子落下速度依存性 − 衛星進行方向 衛星の位置 VS θ Vsθ=Vs H θ X (D) = Vt (D) H ZのXスペクトル Zx (x) xT x ビームシフト量X xR Vt 雨域のにじみ(2σ) 雨滴直径対終端落下速度特性とPSAR映像 地上 12 雨滴により終端落下速度 が異なる. 高度3km Vt (m/sec) 10 雨滴によりドップラシフト トレンドが異なる.PSAR でフォーカスする位置が 異なる. 8 6 4 2 Comparison of Vt formulae 0 0 1 2 3 4 D (mm) 5 6 異なる雨滴は異なる位置 に映像化される. 降雨分布は単なるアンテ ナパターン重み付けとは 異なる広がりを持つ. 8 雨滴粒径分布と積分降雨パラメータ 雨滴直径:D,雨滴粒径分布:N (D ) 雨滴個数: N t = ∫ Dmax N (D ) dD 0 Dmax 4 D 2v D N D π 3 2 0 Dmax σ t D N D dD 0 降雨強度: R = ∫ ( ) 減衰係数: k = ∫ ( ) ( ) レーダ断面積:η = ∫ Dmax 0 σ b (D )N (D ) dD = π 4 K 5 2 Dmax λ レーダ反射因子 Z = ∫ Dmax 0 ( ) ( ) dD ∫0 D 6 N (D ) dD D 6 N (D ) dD 降雨粒子の粒径分布と ずれ距離 分布 ビームシフト量[m] 600 500 400 300 99年5月∼10月 回帰直線 99年11月∼12月 回帰直線 200 100 0 0 10 20 30 Zdb[dBZ] 40 50 60 9 降雨粒子の粒径分布と にじみ 分布 ビームにじみ量[m] 250 99年5月∼10月 回帰直線 99年11月∼12月 回帰直線 200 150 100 50 0 0 10 20 30 Zdb[dBZ] 40 50 60 位置ずれ検出のための「基準」:表面反射波減衰 R (mm/h), Z/3000, A(dB) Zpsar/3000 Rain rate Atten. 100 80 60 40 20 0 2 3 4 5 6 7 衛星進行方向距離 (km) 8 9 10 10 PSAR_Z(res:0.3km) Surface Att 30 25 20 15 10 97年9/04 5 0 3 3.5 Z因子と表面反射電 力にフェージング雑 音を加える.相関関 数最大位置から推定. 4 4.5 5 5.5 6 衛星進行方向距離 (km) PSAR(分解能0.3km)Zと表面反射波の減衰(dB) 970922 50 Z因子/3000, Atten.(dB) PSAR観測Z因子と 表面反射減衰によ る位置ずれ推定シ ミュレーション Z因子/3000, Atten.(dB) PSAR(分解能0.3km)Zと表面反射波の減衰(dB) 970904 40 35 PSAR_Z(res:0.3km) 40 Surface Att 97年9/22 30 20 10 0 PSAR(分解能0.3km)Zと表面反射波の減衰(dB) 990825 Z因子/3000, Atten.(dB) 35 99年8/25 30 4 4.5 5.5 6 6.5 衛星進行方向距離 (km) 7 7.5 PSAR_Z(res:0.3km) ・SDは15∼20m,平均値 は97年9月22日以外は計 算値とほぼ一致. Surface Att 25 5 20 15 10 5 0 2.5 3 3.5 4 4.5 衛星進行方向距離 (km) 5 5.5 シミュレーションにおける相関関数計算例 1999 8/25 Corr. coefficient 1 Date RMS誤差 0.8 0.6 0.4 97/09/04 15 m 97/09/22 15 m 99/8/25 24 m 100m -> 1.8 m/sec 0.2 0 2 3 4 5 Shift distance (m/100) 6 ガウス性誤差付加量 表面エコー 1dB 降雨エコー 0.5 dB 11 卒業研究について ・PSAR:システム設計ーー>詳細検討実施* 雨滴粒径分布の影響 Simulation1*−>航空機搭載レーダデータ利用 Cross-track分解能改善 −>表面参照法とPSARの複合方式 Unfocused方式の利用: 平成15年度卒業研究実施 ー>SIR-Cデータの処理? ・衛星搭載レーダにおけるアダプティブ走査: どのような 方式?その効果は?−−>最適化問題 12
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