排気ガスが植物に与える影響

平 成1 6 年 度「 知 の 交 響楽 」 第 4・5 楽 章 「 ゼミ Ⅰ・ Ⅱ 」
個 人 研究 論 文
排気ガスが植物に与える影響
目次
(1)
動機
(2)
推測
(3)
排気ガ スに 含ま れる 物質
(4)
マツの 葉に よる 大気 汚染度
(5)
ファイ トレ メデ ィエ ーショ ン
(6)
酸性雨 によ る影 響
(7)
考察
(8)
まとめ
(9)
参考文 献
熊本県立熊本高等学校2年 4室
カ テゴ リ ー №:8
ク ラス №: 0 1
吉本
カ テ ゴ リ ー名 称: 自 然科 学 系 統
カテ ゴ リ ー 顧問: 原 田 先生
( 1) 動 機
今 世界 中 で 問題 に な っ てい る 地 球 温暖 化 。 この 理 由 は 二酸 化 炭 素が 温 室 効 果ガ ス と し て
働 いて い る から だ と い われ 、 こ の 対策 の 一 つは 植 物 の 光合 成 が 担っ て い る 。
二酸 化 炭 素を 出 す 大 きな 原 因 の 一つ と さ れて い る の は自 動 車 によ る 排 気 ガス で あ る 。排
気 ガス に は 二酸 化 炭 素 のほ か に 窒 素酸 化 物 など の 有 害 物質 を 含 み、 人 体 に も悪 影 響 を 及ぼ
す と聞 く 。 それ で は こ れら の 物 質 は、 気 孔 から 吸 い 込 み光 合 成 を行 っ て い る植 物 に も 何か
影 響を 及 ぼ すの だ ろ う か。 も し 悪 影響 を 与 える の な ら ば、 そ れ はど の 程 度 のも の な の か。
そ のよ う に 疑問 を 持 ち 、排 気 ガ ス が植 物 に 与え る 影 響 につ い て 調べ る こ と にし た 。
( 2) 推 測
窒素 酸 化 物な ど の 物 質は 植 物 に とっ て も 有害 で あ り 、悪 影 響 を及 ぼ す 。 具体 的 に は 、光
合 成が 出 来 なく な っ て 枯れ る の が 早ま っ た り、 変 色 し たり す る と考 え ら れ る。 ま た 、 その
植 物を 食 べ た生 物 に も 何ら か の 影 響が 及 ぶ 。
( 3) 排 気 ガス に 含 ま れる 物 質
実際 排 気 ガス に は ど のよ う な 物 質が 含 ま れて い る の だろ う か 。
工 場 や 自 動 車 か ら 排 出 さ れ る 粒 径 ・デ ィ ー ゼ ル車 の 排 ガス や 工 場 のば い
PM
が 10 マ イ ク ロメ ー タ ー (100 分 の
煙 に含 ま れ 、呼 吸 器 疾患 や 肺 が んの 原
(粒 子状 物 質)
1mm)以 下 の 粒子 。物 質 の燃 焼 に 伴
因 にな る 。
っ て発 生 。
・ガ ン や 喘息 、 花 粉 ア レ ル ギ ーを 促 進
す る作 用 等
一酸化窒素・二酸化窒素などの総
称。
窒 素 酸化 物
燃 焼 温 度 が 高 く な っ た と き に 、 空 ・酸 性 雨 や 光化 学 ス モッ グ の 原 因と な
(N Ox)
気 中の 窒 素 が反 応 し て 発生 。
る。
燃 焼温 度 1000℃ 以 下 で はわ ず か し
・咽頭 痛 , め まい , 頭 痛, 吐 き 気 等
か 生 成 さ れ ず 、 1300 ℃ 以 上 の 高 温
に なる と 急 激に 増 加 。
・燃料 中 の 硫 黄分(S )が 燃 焼 す るこ と
に よ っ て、 空 気 中 の 酸 素 (O )と 結 合
硫 黄 化合 物
燃料に含まれる硫黄分が、酸素と
し 発生 す る 。硫 酸 を 大気 中 に ば ら撒 く
(S Ox)
反 応し て 発 生。
の と同 じ で 、酸 性 雨 の 原因 と な る 。
・気 管 支 炎, 胃 腸 障 害 , 結 膜 炎, 鼻 咽
頭 炎症 等
・自 動 車 が主 な 発 生 源 で 、 酸 素不 足 の
一 酸 化炭 素
(C O)
燃 料の 不 完 全燃 焼 が 原 因。
発 生を 招 く 。わ ず か でも 一 酸 化 炭素 中
毒 を起 こ す 危険 性 を 持 つ。
・頭痛 , 吐 き 気, め ま い, 全 身 倦 怠等
・気 温 が 上が る と 、 光 化 学 反 応に よ り
炭 化 水素
燃料の不完全燃焼が原因。未燃焼
光 化学 ス モ ッグ の 原 因 とな る 。
(H C)
ガ ソリ ン 。
植物が 息を する気 孔を 塞ぐた め光 合
成 がで き な くな る 。
・窒息 等
人 間 を 殺 し た り 健 康 に 害 を 与 え た り す る の が 「 エ ミ ッ シ ョ ン 」( 排 気 ガ ス ) と 呼 ば れ る
も ので あ り 、生 物 に 有 害な ガ ス の こと で あ る。 黒 煙 の 中に は 未 だ解 明 さ れ てい な い よ うな
毒 性を 持 つ 物質 が 多 数 含ま れ て い る。 ダ イ オキ シ ン に 匹敵 す る 毒性 の あ る 物質 も 発 見 され
て おり 、ダ イ オ キシ ン そ の もの も 排 出さ れ て い る。
「 ア ト ピ ー 性皮 膚 炎 や喘 息 、花 粉 症 を引
き 起こ す 要 因に も な っ てい る 」 と いう 学 説 は多 数 出 始 めて お り 、今 や 人 類 にと っ て 最 も身
近 かつ 危 険 な物 質 に な って い る 。
黒煙( P M)の 他 の排 気 ガ スは 、一 酸化 炭 素(C O )と燃 え 残 り の燃 料( HC )、そ して
窒 素酸 化 物 (N O x ) の三 つ 。 P Mを 除 く 排気 ガ ス 成 分は 、 ガ ソリ ン エ ン ジン に も 共 通す
る 。C O は 不完 全 燃 焼 した 時 に 発 生す る 物 質で 、 人 体 に極 め て 強い ダ メ ー ジを 与 え る 。練
炭 など の 暖 房が 一 般 的 だっ た 頃 、 一酸 化 炭 素中 毒 で 亡 くな る 方 も多 か っ た 。C O を 含 む空
気 を吸 う と 、体 内 に 酸 素が 回 ら な くな っ て しま う 。 エ ンジ ン 始 動直 後 に 出 やす く 、 C Oの
多 い排 気 ガ スを 吸 う と 脳細 胞 を 殺 す。 背 の 低い 子 供 は 排気 管 に 近い た め 特 に濃 い ガ ス を吸
い やす い 。
次 の< H C >は ハ イ ド ロカ ー ボ ン とい い 、 いわ ゆ る 燃 え残 り の 燃料 。 無 臭 のC O と 対 照
的 に激 し く 臭う 。 人 体 に有 害 で 、 アレ ル ギ ー疾 患 の 要 因に な っ たり 、 光 化 学ス モ ッ グ を発
生 させ た り する 。新 し い ガソ リ ン エン ジ ン の 中に は ほ ぼH C を 出 さな い タ イ プも 出 て きた 。
よく 話 題 に上 が る の が< N O x >。 ノ ッ クス と も 呼 ばれ る 。 太陽 光 線 を 浴び る こ と によ
っ て光 化 学 スモ ッ グ と なり 、 有 害 。都 市 部 の大 気 汚 染 の指 標 に なり 、 日 本 政府 は N O x濃
度 に対 し 神 経を と が ら せて い る 。 ただ N O xを 抑 え る とP M 濃 度が 上 が る とい う 相 関 関係
に ある の で 、N O x に 厳し い 日 本 は欧 米 と 比べ P M に 対し 甘 い 規制 で あ る 。
これらの排気ガ スはディ ーゼルエン ジンで人体 に有害でな いレベルま で落とす ことは
出 来な い 。 一方 、 ガ ソ リン エ ン ジ ンの 場 合 、い わ ゆ る 『平 成 1 2年 度 規 制 』を ク リ ア して
い れば 、 と りあ え ず 人 体に 与 え る ダメ ー ジ を無 視 出 来 るレ ベ ル まで 落 と せ る。 リ ア ガ ラス
に □一 つ の ステ ッ カ ー が張 っ て あ れば 1 2 年度 規 制 の 25 % 減 。□ 二 つ だ と5 0 % 減 。こ
の レベ ル が 理想 。 そ し て7 5 % 減 の□ 三 つ なら 、 交 通 量の 多 い 道路 上 の 空 気よ り ク リ ーン
で 、走 る と 空気 を 浄 化 して く れ る レベ ル で ある 。
( 4) マ ツ の葉 に よ る 大気 汚 染 度
マツ は 、 細長 い 葉 の 表面 に 散 在 して い る 気孔 が 陥 没 して い る ため 、 大 気 の汚 れ が た まり
や すく な っ てい る 。 し たが っ て 、 マツ の 気 孔を 調 べ る こと に よ って 大 気 汚 染の 度 合 い が分
か る。
マ ツの 気 孔 の図
← マ ツ の気 孔
●用 意 する も の
マツ の 葉 …自 宅 , 公 園, 道 路 の そば , 校 庭な ど
顕微 鏡 , スラ イ ド ガ ラス , セ ロ ハン テ ー プ, 顕 微 鏡 照明 装 置 や蛍 光 灯 な ど
●方 法
①マ ツ の 葉を , ス ラ イド ガ ラ ス にセ ロ ハ ンテ ー プ で 貼り 付 け る
② 顕微 鏡 で 観察 す る と きは 顕 微 鏡 照明 装 置 など で 上 か ら照 ら す
●結 果
(40倍)
( 4 0 倍)
黒い 点 が 気孔 に 詰 ま った 汚 れ で ある 。 こ れを 見 る だ けで も 、 大気 汚 染 が マツ に 与 え る影
響 が予 測 さ れる 。 影 響 の一 つ と し ては 気 孔 の詰 ま り に より 光 合 成が し に く くな る と い うこ
と であ る 。 右図 は 某 ガ ソリ ン ス タ ンド の 近 くに あ っ た マツ の 葉 であ り 、 黒 い点 の 大 き さを
見 ても 排 気 ガス の 濃 度 が高 い と 思 われ る 。
( 1 0 0倍 )
( 1 0 0倍 )
ちな み に これ が マ ツ の葉 の 1 0 0倍 図 で ある 。 左 図 が正 常 な マツ の 気 孔 で右 図 が 汚 れの
詰 まっ た マ ツの 気 孔 で ある 。 こ れ を見 て 分 かる こ と は 、マ ツ の 気孔 が 陥 没 して い る た めに
汚 れが 気 孔 の奥 に 入 り 込み 、 雨 や 風で は 取 り除 か れ に くく な っ てい る と い うこ と で あ る。
( 5) フ ァ イト レ メ デ ィエ ー シ ョ ン
① フ ァイ ト レ メデ ィ エ ー ショ ン と は
高速 道 路 など を 車 で 走る と 、 排 気ガ ス に まみ れ た 植 物が 真 っ 黒に な り な がら 「 元 気 に」
生 育し て い るの を よ く 見か け る 。 植物 が 排 気ガ ス を 「 好き 」 な のか 、 辟 易 して い る か は定
か で は ない 。 し か し 、 植 物 の 排気 ガ ス 浄 化 能( 二酸 化 窒 素 同 化 能)が 種 間 で 三 桁 も 異 な るこ
と を考 え る と 、植物 の 中 に は、
「 排 ガ ス を 好む 植 物 」も いる と 考 えて も お か しく な い か も知
れ ない 。 そ の様 な 植 物 は、 排 ガ ス 処理 や 大 気環 境 修 復 に大 い に 役立 つ だ ろ う。 最 近 、 植物
利 用に よ る 環 境修 復 技 術 はフ ァ イ ト レメ デ ィ エ ーシ ョ ン(Ph y toremediation )と呼 ば れ るよ
う にな っ た 。
② フ ァイ ト レ メデ ィ エ ー ショ ン 技 術 の現 状
物理 化 学 的ま た は 工 学的 な 環 境 修復 技 術 と比 べ て 、 ファ イ ト レメ デ ィ エ ーシ ョ ン 技 術の
利 点は 、安価 で あ る こと 、PA(pu blic acceptan ce)が 得易 い こ と、長 期間 に 渡 る(ま た 広 範囲
に 渡る) 環境 の「 修 復 ・保全 ・維 持 」に有 効 で あ るこ と 、な ど があ げ ら れる 。た と え ば 、広
範 囲に わ た る水 や 空 気 や土 の 中 に 含ま れ る 汚染 物 質 の 分解 、 除 去に は 、 植 物を 利 用 し た汚
染(化 学)物 質 分 解除 去 は 、時 間は か か る が安 価 な 確実 な ま た PA を得 易 い 方 法と し て 注 目さ
れ てい る 。ま た、100 年 単 位 で広 範 囲 の土 、水 、空 気の 環 境 の保 全・維 持(環 境 悪化 の 防 止)
に は、 植 物 は必 須 で 、 植物 抜 き に は環 境 保 全は 語 れ な い。 他 方 、欠 点 と し ては 、 効 果 が出
る のま で に 一般 に 時 間 がか か り 即 効型 で は ない こ と 、 集中 的 な 処理 に は 適 さな い な ど であ
る。
③ 植物 に よ る窒 素 酸 化 物の 分 解 代 謝
植物 は 窒 素酸 化 物 、 特に 二 酸 化 窒素 を 葉 の気 孔 か ら 吸収 す る 。そ し て そ れは 葉 細 胞 内で
還 元さ れ 、 アン モ ニ ア とな り 、 さ らに 有 機 化さ れ て 、 アミ ノ 酸 やタ ン パ ク 質な ど に 変 換さ
れ る。 二 酸 化窒 素 は 水 に溶 け て 、 硝酸 イ オ ンや 亜 硝 酸 イオ ン な どに な り 、 植物 の 葉 細 胞内
に 吸 収 され て 、 根 か ら 吸 収 さ れた 肥 料 中 の 硝 酸 イ オ ンと 同 じ よ う に 代 謝(還 元 同 化) さ れ、
還 元/ア ミ ノ有 機 化 さ れて ア ミ ノ 酸な ど の 構成 成 分 に なる 。つま り、植 物 は 二酸 化 窒 素 を窒
素 肥料 と し て利 用 す る 能力 を 持 つ こと に な る。 た だ し 、同 じ 種 内で 個 体 に よっ て 、 二 酸化
窒 素同 化 能 力に は 最 大 26 倍 の 差 異が あ る 。窒 素 酸 化 物の 代 謝 能が け た 違 いに 異 な る のは
い ろん な こ とが 原 因 で ある 。例 え ば 、窒 素 酸 化 物の 取 込 みの 違 い(気 孔 の 開度 や 抵 抗 、トラ
ン スポ ー タ ーの 効 率)、 取 り 込 んだ 窒 素 酸化 物 の 代 謝効 率 の 差異 な ど で ある 。
③ フ ァイ ト レ メデ ィ エ ー ショ ン 技 術 の鍵 と な る遺 伝 子
将 来の フ ァ イト レ メ デ ィエ ー シ ョ ンに お い て、 遺 伝 子 操作 は 限 りな い 可 能 性を 持 っ て い
る 。そ こ で 、遺 伝 子 操 作に よ る 植 物自 身 の 「汚 染 物 質 処理 能 力 」を 高 め る こと が ま ず 考え
ら れる 。 こ のた め に は 、植 物 細 胞 自体 の 基 礎的 な 生 化 学生 理 学 また は 分 子 生物 学 の 体 系的
な 発展 が 必 須 で ある 。 脱 ハ ロ ゲン 、 芳 香 環 開裂 、 重 金 属耐 性 、 蓄 積/無 毒 化(sequ esterin g)
に 関与 す る 遺伝 子 や そ の産 物 の 作 用メ カ ニ ズム な ど が 解明 さ れ れば 、 環 境 浄化 に 有 用 な遺
伝 子 が 発掘 さ れ る 可 能 性 が 大 いに あ る 。 ま た 、 前 述 の排 気 ガ ス( 二 酸 化窒 素) 処 理 能 力 の鍵
を 握る 遺 伝 子が 解 明 さ れる と 、 そ の遺 伝 子 の導 入 に よ り街 路 樹 など の 排 気 ガス 処 理 浄 化能
の 大幅 な 向 上が 期 待 で きる 。 さ ら に、 微 生 物由 来 や 動 物由 来 の 関連 遺 伝 子 の導 入 ・ 発 現に
よ る植 物 の 「処 理 能 力 」能 力 の 向 上も 大 い に可 能 性 が ある 。
植物 が 環 境と 接 触 す る場 は 根 圏 、茎 圏 、 葉圏 で あ る 。こ れ ら の場 に お い て植 物 は 程 度の
差 はあ る が 、外 生 ま た は内 生 微 生 物と の 「 共生 」 関 係 にあ る 。 そこ で 、 植 物の 「 化 学 物質
処 理能 力 」 を高 め る た めに は 、 植 物に 共 生 して い る 微 生物 の 同 能力 を 高 め るこ と や 、 さら
に 高い 能 力 を持 っ た 微 生物 と の 新 たな 共 生 関係 を 作 る など の 戦 略も 考 え ら れる 。
「 植 物 に共
生 して い る 微生 物 の 同 能力 を 高 め る」 に は 、例 え ば 、 根圏 で 芳 香族 化 合 物 や有 機 塩 素 化合
物 の分 解 に 関与 し て い る微 生 物 を 単離 ・ 同 定し 、 そ の 微生 物 の 遺伝 子 操 作 によ り 、 強 力な
根 圏微 生 物 を開 発 す る こと も 可 能 であ る 。 また 、 遺 伝 子操 作 を しな く て も 、能 力 の 高 い関
連 した 種 の 野生 株 を 供 給す る こ と も有 力 な 実用 的 な 方 法で あ る 。
微生 物 と 植物 の 共 生 関係 の 最 も 典型 的 な 例は マ メ 科 植物 と 根 粒バ ク テ リ アと の 関 係 やア
グ ロバ テ リ ュウ ム と 双 子葉 ・ 単 子 葉植 物 と の関 係 で あ る。 こ れ らの 関 係 が 開始 、 成 立 する
際 のシ グ ナ ル物 質 と し て、 フ ラ ボ ノイ ド や アセ ト シ リ ンゴ ン な どの フ ェ ノ ール 化 合 物 が注
目 され て い る。 こ の 作 用機 作 の 体 系的 な 理 解が 進 め ば 、上 に 述 べた 高 い 能 力を 持 っ た 微生
物 との 「 新 たな 共 生 関 係」 を 構 築 する こ と が可 能 と な る。
微 生物 で は 硝酸 は 異 化 的に 還 元 さ れ、
NO3-→NO2-→NO→N2O→N2
の 順 で 、脱 窒( 素) され る 場 合 が あ る 。 こ の代 謝 系 を そ っ く り 植 物で 発 現 で き れ ば 、 窒 素酸
化 物を 窒 素 と酸 素 に ガ ス変 換 す る 植物 の 育 成が 可 能 と なる は ず であ る 。
NO2-→NO の反
応や NO→N2O の 反応 を 触 媒 する 酵 素 は 、そ れ ぞ れ異 化 的 NiR(n itr ite redu ctase)お よび
NOR(n itric redu ctase) と 呼 ば れ る 。 ま た 、 N2O→N2( の 反 応 を 触 媒 す る 酵 素 は
N2OR(n itrou s ox ide redu ctase)と呼 ば れ る。脱 窒(素) 系を そ っ く り植 物 で 発 現さ せ る には 、
こ れら の 酵 素の 遺 伝 子 をま と め て 導入 す る 必要 が あ る が、 他 方 これ ら の 酵 素へ 電 子 を 供給
す る電 子 供 与体 の 供 給 シス テ ム を 確保 す る こと も 必 須 の条 件 で ある 。 そ の ため に は 、 これ
ら 酵 素 を細 胞 内 の ど の コ ン パ ート メ ン ト( プ ラ スチ ド 、 細 胞 質 基 質 、 膜結 合 型 な ど) で 発現
さ せる か が 重要 な 検 討 課題 で あ る 。
また 、 か りに そ の よ うな 植 物 が でき た と して 、 ど の 様に 維 持 する か に つ いて も 重 要 な検
討 すべ き 課 題で あ る 。こ の よう に 、
「 窒 素 酸化 物 を 窒素 と 酸 素 にガ ス 変 換す る 植 物 」と 一言
で 言っ て も 、直 ち に い くつ か の 基 本的 な 課 題が 山 積 み であ る 。
( 6) 酸 性 雨に よ る 影 響
酸性 雨 の 原因 は 車 や 工場 か ら 出 る排 気 ガ ス、 石 油 や 石炭 な ど を燃 や し た 時に 出 る 硫 黄酸
化 物(SOX)や 、窒 素 酸 化 物(NOX)が 元に な っ てい る 。 こ れら の ガ スは 空 気 中 に放 出 さ れ た後
長 い間 漂 っ てい る う ち に紫 外 線 な どの 影 響 で化 学 変 化 を起 こ し て、 硫 酸 や 硝酸 な ど 強 い酸
に なっ て 雨 に溶 け 込 む 。こ れ が 地 上に 降 り 注ぐ 酸 性 雨 とな る わ けで あ る 。
酸 性雨 は 植 物 にス ト レ ス を 与え 、 受 粉 や開 花 、 成 長に 影 響 を 及ぼ す 。 ま た、 落 ち 葉 や 動
物 の遺 骸 を 分 解し て 養 分 を 与え る 微 生 物を 減 ら し てし ま う こ とと 酸 性 雨 中和 の た め に 土が
ア ルカ リ 性 の ミネ ラ ル を 使 い果 た し て しま う こ と によ り 植 物 が栄 養 失 調 状態 に な っ て しま
う 。さ ら に 土 が強 い 酸 性 に 変わ る と 、 土を 構 成 し てい る 鉱 物 の中 か ら ア ルミ ニ ウ ム イ オン
が 溶け 出 し 、植 物 を 枯 死さ せ て し まう と い われ て い る 。
( 7) 考 察
これ ら の こと か ら 、 以下 の 三 つ の結 論 が 考え ら れ る 。
第一 に 、 マ ツは 排 気 ガ ス によ り 光 合 成不 全 を 起 こし て い る と いう こ と で ある 。 そ れ は、
マ ツの 気 孔 に 黒点 が 詰 ま っ てい る と い うこ と か ら 判断 さ れ る 。 また 、 黒 点 が排 気 ガ ス によ
る もの で あ る とい う 根 拠 は 、比 較 的 排 気ガ ス 濃 度 が高 い と 思 わ れる 某 ガ ソ リン ス タ ン ド付
近 のも の が 他の 場 所 の マツ よ り 大 きか っ た とい う こ と によ る 。
( ※ ただ し こ の 結論 は 気 孔が
陥 没し て い る マツ 等 の 植 物 のみ に あ て はま る こ と であ る 。 ほ と んど の 植 物 の気 孔 は 露 出し
ているので、 排気ガス などの物質 は雨や風 によって取 り除かれ てしまう ものと考え られ
る 。)
第二 に 、個 体 差 はあ る に し ても 植 物 は排 気 ガ ス の成 分 の 一 つで あ る 窒素 酸 化 物 を「 好 む」
と いう こ と で ある 。 こ の こ とは 、 科 学 的に も 証 明 され て お り 、 ファ イ ト レ メデ ィ エ ー ショ
ン 技術 の 基 本と し て 研 究が な さ れ てい る こ とか ら も 納 得で き る 。
第三 に 、 排 気ガ ス が 酸 性 雨と な る と その 悪 影 響 は絶 大 で 、 場 合に よ っ て は植 物 を 枯 死さ
せ てし ま う と いう こ と で あ る。 前 に も 述べ た と お り、 酸 性 雨 は 植物 に ス ト レス を 与 え 、土
の 養分 も 枯 らし て し ま うの で 植 物 にと っ て 極め て 危 険 であ る 。
( 8) ま と め
排気 ガ ス は 窒素 酸 化 物 な どの 人 体 に とっ て 有 害 な物 質 を 含 み 、当 然 植 物 にと っ て も 有害
で あろ う と 思 って 研 究 を 始 めた 。 し か しフ ァ イ ト レメ デ ィ エ ー ショ ン な ど の対 象 と な る排
気 ガス に 耐 性 を持 っ た 、 そ れど こ ろ か 排気 ガ ス を 「好 む 」 植 物 も存 在 す る とい う こ と が分
か り意 外 で あ った 。 排 気 ガ スが 酸 性 雨 とな ら な い かぎ り 植 物 に 与え る 影 響 は少 な い と 考え
ら れる が 、 排 気ガ ス に 含 ま れる 化 学 物 質な ど は 本 来自 然 界 に 存 在す る も の では な い の で、
生 態系 を 崩 す 原因 と な っ て いる の は 事 実で あ る 。 ファ イ ト レ メ ディ エ ー シ ョン 技 術 が 進ん
だ とし て も 、空 気 を 汚 さな い 努 力 を続 け る 必要 が あ る のは 言 う まで も な い こと で あ る 。
( 9) 参 考 文献
h ttp://www.miy azaki-c.ed.jp/su ki-j/rikah omepag e/rika2.h tm
ケ ニス 株 式 会社 ホ ー ム ペー ジ
「 遺伝 」1997 年 5 月 号(51 巻 5 号) p.23
森 川弘 道 『 排気 ガ ス を 好む 植 物 を 創る 』
森 川弘 道 、 入船 浩 平 『 植物 工 学 概 論』 コ ロ ナ社
岩 波洋 造 『 絵を み て で きる 生 物 実 験
徳 島酸 性 雨 を測 る 会
(1996)
Part2 』 講 談 社サ イ エ ンテ ィ フ ィ ック ,p.142
おは よ う と くし ま 1994 年 6 月 23 日 放送