緑肥作物を利用した、 農薬のポジティブリスト対策

タキイ
緑肥作物を利用した、
農薬のポジティブリスト対策について
↑(京都府乙訓農業改良普及センター 小宅原図)
食品衛生法が改正され、平成18年5月29日より残留農薬
のポジティブリスト制度が始まりました。
験を行いました。平成17年度群馬県農林業関係機関成果発
表会で公表された結果によると、ナスの圃場で動力噴霧器
今まで、対象農作物や食品などに登録のない農薬には残
を使用した場合、圃場の境界から1m の地点まで飛散した
留基準がほとんどなく、それぞれの農作物に登録のある農
量(ドリフト指数)は、ソルゴー栽培区で3.3、何も栽培し
薬の使い方を守っていれば問題はありませんでした。しか
ない区で8.5と、半分以下になっています。また、圃場の境
し、今後は原則としてすべての農薬に残留基準値が設定さ
界から8m の地点でのドリフト指数は、ソルゴー栽培区で
れ、その基準をオーバーした農作物は流通が禁止されるこ
2.0、何も栽培しない区で3.2となっています(第1図)
。
とになります。
さらに、果樹園で散布力の大きいスピードスプレーヤを
今回定められる基準値の中には、0.01ppmという非常に
使用した場合、圃場の境界から1.5mの地点でのドリフト指
ほ
厳しいものもあり、近隣の圃場から飛散したわずかな農薬
数は、防風ネットだけの区で8.3、ソルゴー+防風ネット区
でも問題となる恐れがあります。農林水産省や各自治体、
で4.1となり、境界から7.5mの地点では、防風ネットだけの
農業団体、植物防疫協会などでは、農薬散布時の飛散(ド
区で4.9、ソルゴー+防風ネット区で1.9となります(第2図)。
リフト)を防ぐ対策の一つとして、生育量が多く、農薬の
このように、ソルゴーによるドリフト防止の有効性が確認
飛散を防止する効果の高いソルゴーなどを、圃場の仕切り
され、各地で試験・導入されています。
として栽培することをすすめています。
ここでは、タキイで特におすすめするソルゴーや、ほか
群馬県普及指導室では、実際にソルゴーを用いた実証試
第1図 露地ナス畑のソルゴーによるドリフト防止効果
(動力噴霧機による散布)
(群馬県普及指導室)
ド 10.0
リ
フ
8.0
ト
指
数
6.0
︵
感
4.0
水
紙
付
2.0
着
度
0.0
評
点
︶
1m
3m
5m
第2図 ナシ園の周囲に植栽された緑肥作物のドリフト防止効果
(スピードスプレーヤによる散布) (群馬県普及指導室)
ド 10.0
リ
フ
8.0
ト
指
6.0
数
︵
感
4.0
水
紙
2.0
付
着
0.0
度
評
点
︶
8m
圃場境界からの距離
ソルゴー
に利用できる緑肥作物の品種をご紹介しましょう(第1表)。
無処理
1.5m
3m
4.5m
6m
7.5m
圃場境界からの距離
ソルゴー+防風ネット
飼料用トウモロコシ+防風ネット
防風ネットのみ
第1表 農薬飛散防止作物(ドリフトガード作物)の特性
草丈
(m)
品種名
播種量
通常緑肥(o/10a) 条まき(n/m)
播種期
1.2∼1.3
1∼2
2条で1.8n 5∼8月
ソルゴー ラッキーソルゴー 2.0∼2.8
ソルゴー トウミツA号ソルゴー 2.5∼3.0以上
4∼6
2条で1.8n 5∼8月
1∼2
2条で1.2n 5∼8月
ソルゴー メートルソルゴー
暖地
えん麦
アムリ
1.0∼1.4
8∼10
2条で3∼4n
寒地
らい麦
ライ太郎
1.8∼2.5
8∼10
4条で6∼8n
暖地
9∼11月
3∼5月
8∼10月
4∼6月
8月中旬∼11月
3∼5月
寒地 5月∼9月中旬
播種
42
障壁として利用可能な時期
2006.タキイ最前線 秋号
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1
「メートルソルゴー」
草丈が1.2∼1.3mと低く、倒伏に強いソルゴーで
す。農薬の飛散防止効果だけでなく、ナスの障壁
作物としても注目されています。また、草丈の低
特 いことを利用して、ハウス内の緑肥にも利用され
性 ています。
子実が登熟するとタンニン成分を含んで茶色く
なり、鳥はあまり寄ってきません。そのため、作
3
「トウミツA号ソルゴー」
草丈は2.5∼3m以上にもなる極晩生のソルゴーです。茎が太く、大型品種
特
の中では倒伏にも強い品種です。草丈が高いので、大きな農作物への農薬散
性
布や、果樹園などにおけるスピードスプレーヤでの散布にも対応できます。
・播種適期は5∼8月。
・播種量は通常の緑肥では10 a 当たり1
利 ∼2kg。圃場の周囲に植える場合は、条
用
法 間60㎝の2条まきとし、株間は15∼20㎝
物が鳥のふんなどで汚れることも少なくなります。
を目安にします(2条の3∼5粒まきで
・播種適期は5∼8月。
は、種子量1m当たり1.2g)
。
・播種量は通常の緑肥では10a当たり1∼2kg。
障壁やドリフト防止などを目的として圃場の周囲
に植える場合は、条間60㎝の2条まきとし、株間
は10∼20㎝を目安にします(2条の3∼5粒まき
では、種子量1m当たり1.8g)
。
利 ナスの障壁作物と
用
法 して栽培する場合、
ソルゴーの花粉がナ
4
えん麦「アムリⅡ」
なか て
草丈1.0∼1.4mの中生品種です。 えん麦の中で
特
も茎葉がしっかりとしており、倒伏に強い品種で
性
す。茎数が多く、高い障壁効果があります。
・播種適期は、暖地で9∼11月、3∼5月。寒地
ことがありますが、
利 では8∼10月、4∼6月。
用
法 ・播種量は通常の緑肥で10a当たり8∼10kg。圃場の周囲に植える場合は、
これには、出穂した
条間60㎝の2条まき(2条では、種子量1m当たり3∼4g )とします。
スの表面に付着する
らその穂を切り取る
5
ことで予防します。
2
らい麦「ライ太郎」
草丈1.8∼2.5mの超極早生品種です。ら
「ラッキーソルゴー」
わ せ
草丈が2.0∼2.8mの、早生のスーダン型ソルゴー
です。初期生育が早いことが特長です。分けつ力
特 が強いので茎数が多く、障壁として威力を発揮し
性 ます。
吸肥力が強いため、圃場の塩類濃度を下げる
「ク
リーニングクロップ」としても利用されています。
・播種適期は5∼8月。
・播種量は通常の緑肥では10 a 当たり4∼6kg。
圃場の周囲に植える場合
利 は、条間60㎝の2条まき
用
法 とし、株間は10∼20㎝を
目安にします(2条の3
∼5粒まきでは、種子量
1m当たり1.8g)
。
い麦品種の中では特異的で、別名「時な
特 しらい麦」ともいわれています。九州農
1月27日まき(気温2.6℃)
性 試での試験では、
とえん麦野生種(右)
でも3週間で発芽し、4月22日には草丈 ↑ライ太郎(左)
97㎝に生育しています(第2表)
。
との生育の違い(8月10日まき、
9月30日撮影〈北海道〉
)。
・播種最適期は、暖地で8月中旬∼11月、3∼5月。寒地は5∼9月上旬。
利 ・播種量は通常の緑肥で10 a 当たり8∼10kg。らい麦は茎葉が細いので、
用
法 圃場の周囲に植える場合は、条間60㎝の 4 条まき(4条では、種子量1m
当たり6∼8g )とします。
第2表 時なしらい麦「ライ太郎」の発芽・生育特性(九州農業試験場・現九州沖縄農業研究センター)
(播種)
播種期
(月日)
4/30
5/27
6/24
7/26
8/26
10/ 4
10/28
11/26
12/24
1/27
2/24
3/25
平均
播種時の
旬平均気温
(℃)
14.5
20.7
24.7
28.8
26.3
18.2
17.5
8.9
6.4
2.6
3.4
9.9
(発芽特性)
(出穂特性)
(草丈・収量性)
発芽期 発芽 発芽まで 出穂期 出穂まで 出穂まで 刈取期 草丈 生草
日数 積算気温
収量
日数 積算気温
(月日) (日) (℃) (月日) (日) (℃) (月日)(㎝)(o/a)
5/ 3
3
55
6/ 3
34
649
6/ 7 90 210
5/29
2
40
6/21
25
564
6/26 58
90
6/27
3
74
7/24
30
779
7/26 37
ー
7/30
4
116
9/ 3
39
1,077
9/11 66
21
8/29
3
79
10/12
47
1,057 10/15 83 168
10/ 8
4
73
3/22 169
1,530
3/25 87 420
11/ 1
4
79
3/25 148
1,163
3/25 75 448
12/ 9 13
70
3/30 124
793
3/25 75 457
1/13 20
117
4/10 107
776
4/11 87 598
2/14 18
128
4/15
78
783
4/22 97 710
3/ 3
7
81
4/22
57
805
4/22 79 557
3/31
6
61
5/ 8
44
665
5/ 9 81 391
7
81
75
887
76 370
以上、状況に合わせてこれらの緑肥作物をご利用ください。
なお、第1・第2図に示されているように、緑肥作物だけで完全にドリフトを防止することはできません。農薬散布を行
う際は、風のない日や弱い日を選ぶことはもちろん、散布ノズルを細かすぎないものへ交換したり、できるだけ作物の近く
から散布したり、防風ネットを併用するなど、総合的に工夫しましょう。
2006.タキイ最前線 秋号
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