高精度三次元レーザ切断加工システムの開発(第1報)

高精度三次元レーザ切断加工システムの開発(第1報)
(高精度三次元レーザ加工機の開発)
吉野 武美 *
長谷川 雅人 *
斉藤 博 *
Developement of 3-D Precision Cutting System of Laser
Takemi Yoshino
Masato Hasegawa
抄
Hiroshi Saito
録
従来のレーザ加工機では対応の困難な、カメラ、携帯電話、情報機器など高精度なプレス成形品の三次
元切断を実現することを目的に高精度三次元レーザ加工機の開発を行った。開発機はX、Y、Zの直動位
置決め駆動軸とC、αの回転姿勢制御軸で構成される一点指向の5軸機構とした。
1
緒言
そこで本研究ではこれらの高精度が必要とされ
高精度が必要とされるカメラ、携帯電話、携帯
るプレス成形品を±50μm以内の精度で三次元
情報端末などのプレス部品は 、プレス成形した後 、
切断できるレーザ加工システムを開発することを
金型によるトリミング、穴開けなどのプレス工程
目標とし、初年度は高精度三次元レーザ加工機の
を経て製品となる。しかしトリミング、穴あけな
開発に着手した。
どのプレス工程は、場合によっては数十工程を要
するため、納期、金型費の面で対応に苦慮してい
るのが現状である。
カラーモニタ
カラーCCDカメラ
集光
ユニット
光ファイバー
このようなことから金型を必要としないレーザ
冷却器
YAGレーザ
発振器本体
切断加工に対する要望が高まっているが、レーザ
の三次元切断は、人手によるケガキ、ティーチン
Z
軸Y
軸
グの工程を経る必要があり、納期、精度ともに要
ガス制御
ユニット
求を満たせないのが現状である。
当センターでは、現場でのケガキ、ティーチン
加工機本体
グをなくすため、プレス成形品の三次元 CAD の曲
面上に切断線を形成し、その CAD データを利用し
図1
制御盤
開発機の構成
て レ ーザ切 断加 工用 NC デ ータ を作成 する システ
ムを構築した。これにより従来より短納期で三次
2
開発機の構成
元レーザ切断加工が可能になった。しかし目標と
開発機は加工機本体、制御盤、レーザ発振器お
する高精度プレス成形品に対しては、①従来の三
よび冷却機、集光ユニット、ガスユニット等より
次元レーザ加工機では軸の回転等によりレーザ光
構成される。主なものについて以下に説明を加え
軸にブレが生ずる、②プレス成形品はスプリング
る。
バックや反り等があり必ずしも CAD 図面と一致せ
2.1
ず切断誤差が生ずる、等のため± 50 μ m という
要求精度を満たすことができなかった。
加工機本体
開発中の加工機本体の外観を図2、構成を図3
に示す。また加工機の仕様を表1に示す。コラム
は剛性を重視した門型構造とし、 A4 ノートパソコ
* 研究開発センター
ン程度のプレス成形品加工が可能である。
加工機本体の構造はX、Y、Zの直動軸(位置
制御)とC、αの回転軸(姿勢制御)で構成され
る一点指向の5軸機構とした。またC軸とα軸の
なす角度を 55 °とすることにより水平より 20 °
上 向 き の 加 工 を 可 能 と し た 。 市 販 の 三 次 元 YAG
レーザ加工機は、光ファイバーやガス配管、信号
ケーブルなどが加工ヘッドの回りに垂れ下がり加
工に支障をきたす場合が多いが、本開発機ではこ
れらケーブル類を加工アーム内に通すことにより
加工中の妨げとならない構造とした。
高精度加工を実現するためには加工機の振動特
性に注意を払う必要がある。特に構造上動剛性が
低いと考えられる旋回軸アームについて、有限要
素 法 ( FEM )に よ る 振 動 解 析 を 実 施 し た 。 α 軸 モ ー
タ設置部分に強制振動を与えた場合の周波数応答
を図4に示す 。 構成部材 ( 鋳物 ) 厚さが 10 、 20mm
の場合について解析した。
図2
高精度三次元レーザ加工機の外観
C軸
±370°
Y軸
Z軸
ワーク
加
工
点
X軸
図3
表1
ストローク
送り速度
駆動系
55°
20°
加工機本体の構成
(a)
板厚 10mm の場合
(b)
板厚 20mm の場合
加工機の仕様
名称
テーブル
α軸
±180°
項目
仕様
テーブルサイズ
630×630mm
高さ
700mm
搭載重量
500kg
左右移動量・X軸
800mm
前後移動量・Y軸
600mm
上下移動量・Z軸
300mm
旋回角度 ・C軸
±370°
旋回角度 ・ 軸
±180°
X,Y,Z軸
30,000 mm/min
C, 軸
180°/sec
駆動モータ
ACサーボモータ
駆動送り機構
ボールネジ方式
ガイド機構
リニアボールガイド
図4
有限要素法による周波数応答
表2
板 厚 10mm の 場合X、Z 方向のコンプ ライアン
スが大きく、周波数帯も 200Hz 以下に存在し、加
工 へ の 悪 影 響 が 想 定 さ れ る 。 20mm の 場 合 は コ ン
プライアンスのピークが 200Hz 以上の周波数帯に
移動するとともに、その値も減少する。このこと
はアーム部分の肉厚を厚くすると振動に対して有
利になることを示している。この結果を参考に、
開発 機ではアーム 鋳物部分の 肉厚を 15mm とし、
さらにモータを設置した筐体にはリブを配置する
LD励起レーザ発振器の仕様
項目
仕様
備考
レーザ媒質
励起光源
発振波長
最大定格出力
加工点最大出力
加工点出力安定度
ビーム品質
Nd:YAG
LD (レーザダイオード)
1064 nm
1100 W
1000 W
±3 %
50 mm・mrad
以下
0.3 mm
光ファイバーコア径
10 ~ 1000 W
ビームウェスト径
×広がり角(全角)
こととした。
1400
レーザ発振器は芝浦メカトロニクス社製のLD
(半導体)励起 Nd : YAG レーザ装置 LAL-220BA
で あ る 。 CW 発 振 で あ る が 、 波 形 制 御 ( 矩 形 波 、
三角波、正弦波、 80 ∼ 400Hz )も可能である。仕
様 を 表 2 に 示 す 。 高 ビ ー ム 品 質 ( 50mm ・ mrad 、
0.3mm コア径の光ファイバーが使用可能 )、省メン
テナンス(LD寿命 20000 時間 )、省電力(ランプ
14
ファイバ出力P(W)
2σ/P(%)
1200
1000
10
800
8
600
6
400
4
200
2
0
0
30
35
40
45
電流値(A)
励起方式の 1/3 ∼ 1/4、電気 - 光変換効率 12 % )、省
スペース等の特長を有する。また可変の減衰板を
12
ばらつき 2σ/P(%)
レーザ発振器
ファイバー出力(W)
2.2
図5電流値とレーザ光出力
レーザヘッド内に設けることにより、 1kW ∼ 10W
の間で± 3 %以内の安定度のファイバー出力が得
CCDカメラ
られるようにした。
集光ユニットより照射されたレーザ光の出力を
照明光
パワーメータによって測定した結果を図5に示す 。
500W 以上で出力は比較的安定することがわかる。
2.3
集光ユニット
レーザー光
光ファイバー
集光ユニットは光ファイバーによって導かれたレ
ーザ光をワーク面に焦点を合わせて照射し加工す
るためのものである。本開発ではビーム品質保持
のため、コア径 0.3mm 、 NA 値 0.15 の SI タイプの
光ファイバーを用いている。光ファイバー終端か
図6
集光ユニット
ら出たレーザ光は最初のレンズ群で平行光となり 、
ミラーによって 90 °方向を変えた後再びレンズ群
さらにレーザ光軸調整作業やノズル位置の調整
で 集 光 さ れ る ( 図 6 参 照 )。 集 光 倍 率 は 1 倍 で あ
作業を高精度かつ効率よく行うため、集光ユニッ
る。光ファイバー終端部に微動調整機構を設けレ
ト上面に CCD カメラを設置し、レーザ光と同軸に
ーザ光照射位置を微調整( X,Y )できるようにした 。
拡大観察できるようにした。また同軸に照明光を
また 対物レンズを 上下に 10mm 移動でき る構造と
投射できるようにした。
し 、 レ ー ザ 光 焦 点 高 さ ( Z )の 調 整 を 可 能 と し た 。
3
組立調整
大値y2を測定する。この結果からC軸の回転
本開発機を含む一点指向タイプの加工機は、レ
中心の位置は、
ーザ加工ヘッドの姿勢変化すなわちC軸およびα
yc=(( y1+y2)/2)+r
軸の回転角変化にかかわらず、加工点位置は変化
であることがわかる 。次にC軸を元の位置に戻し 、
しないことに特長がある。この特長を達成するた
α軸を 180 °回転させ、同様にボールのY軸方向
めの条件は、①C軸とα軸の2つの回転軸が延長
最大値y3を測定する。この結果からα軸の回転
線上で互いに交差すること、②レーザ光軸が①交
中心位置は、
点を通ること、の2つである。この条件に可能な
yα=(y1+y3)/2+r
限り近付けるべく組立調整を行った(図7参照 )。
したがってα軸のC軸との交差ずれは、
Δcα=yα−yc=(y3−y1)/2
である。
Δcαがゼロに近づくようにα軸の位置を調整し
C軸
た。その結果Δcα= 1.5 μmとなった。
3.2
α軸
レーザ焦点位置の調整
加工ヘッドが真下を向くようにα軸を動かし、
C軸とα軸の交点の高さに平板を置く(図9参
照 )。 次 に 平 板 表 面 に レ ー ザ 光 焦 点 が 合 う よ う に
対物レンズの高さを調節する。ここでわずかにレ
ーザ照射痕(窪み)ができる程度にレーザ光を照
射する。C軸を 180 °回転させた後、同様に2つ
目のレーザ照射痕を作る。C軸はこの2つのレー
ザ照射痕の中点を通る。従って2つのレーザ照射
図7
3.1
痕の中点にマーカを合わせ、新たにレーザ照射痕
C軸とα軸の交差誤差
を作り、さらにC軸を 180 °回転して作ったレー
2つの回転軸の位置合わせ
図8に示すようにC軸とα軸の交差点近傍に精
ザ照射痕と一致すればレーザ焦点はC軸上にある
度の良いベアリング用ボール(半径r)の中心が
ことになる。この点はα軸との交点になるはずな
来るように調整し、加工アームがX軸と平行にな
のでレーザ光軸はC、αの2軸の交点を通過する
る位置にC軸を合わせる。ヘッドが真下を向くよ
C軸
うにα軸を合わせる。テーブル上に変位センサを
設置しX軸およびZ軸を適当に動かせながら、ボ
ールのY軸方向最大値y1を測定する。次にC軸
を 180 °回転させ、同様にボールのY軸方向最
Z
Y
α軸
C軸
X
α軸
レーザ照射痕
測定
y1
図8
α軸
y2
y3
2つの回転軸の位置の測定
図9
レーザ焦点位置の調整
ことになる。実際の調整は、ずれが大きい場合に
で行うが、微妙な最終調整は光ファイバー終端部
位置の微調整で行う。
4
真直運動精度
真直誤差 (μm)
はレーザ加工ヘッドの取付角度やシム厚さの調整
加工機の真直運動精度を静電容量型変位計を用
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
いた反転法によって行った。その結果を図10に
Y軸
X軸
Z軸-X
Z軸-Y
0
200
400
600
各軸 移動距離 (mm)
示す。各軸の周期的な波はボールネジの振れ回り
図10
に起因するふらつきである。X軸は 770mm の測定
開発機の真直運動精度
範囲で 1 μm程度の真直運動精度であることがわ
かる。Y軸は 570mm の測定範囲で約 5 μmであっ
もに約 3 μmの真直運動精度であった。同じX、
Y、Z軸構造をもつ当センター所有の既存三次元
レーザ加工機と比較したものを図11に示す。開
発機の真直運動精度は既存機と比較して優れてい
真直誤差(μm)
た。Z軸は 290mm の測定でX軸方向、Y軸方向と
るものと認められる。
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
既存機
開発機
0
5
500
1000
位置(mm)
1500
まとめ
(a)
(1) 高精度三次元レーザ切断加工の実現を目的と
X軸
してレーザ加工機を設計、製作した。
(2) 加工機は一点指向の5軸機構とし、上向き加
(3) レーザ伝送用光ケーブルは加工アーム内を通
し加工中の障害とならない構造とした。
(4) 2つの回転軸の位置合わせ、およびレーザ光
位置調整を行う方法を確立し、レーザ光の高
精度な三次元位置決めが可能となった。
(5) X、Y、Z軸の真直運動精度は、 1 ∼ 5 μm
真直誤差(μm)
工も可能とした。
25
20
既存機
15
10
開発機
5
0
-5
0
200
400
600
800
位置(mm)
1000
1200
の範囲であった。
(b)
(6) 制御系については現在検討中である。
図11
Y軸
既存機と開発機の真直運動精度の比較