意識障害の評価ブース 目標 1)意識レベルの評価について、各スケールの長所・短所を知る 2)Glasgow Coma Scale(GCS)を用いて意識レベルを評価できる 3)Emergency Coma Scale(ECS)を用いて意識レベルを評価できる 合意事項 本邦には、意識レベルの評価方法にまで言及しているマニュアル類がほとんど存在せず、 各自がそれぞれの解釈で意識レベルの評価を行い、他医療従事者へ評価方法を伝授してい るのが現状である。 このセッションでは、多くが誤解している点や間違えやすい点をふまえて、意識レベルの 評価方法について一定の基準を提示することで、受講者が各スケールを用いて意識レベル をより客観的に評価できることを目標とする。 意識レベルの評価方法も、自己流を伝授する場でないので、一定の手順を提示するよう指 導者は注意すべきである。 (解釈について意見が分かれる点についても、コースとして一定の基準を提示する。) 1)意識障害スケールに対する解釈の多様性 臨床経験のある医療従事者では、自己流の意識レベルの判定(ときには誤解にもとづく) を長期にわたっておこなっているため、こちらが推奨する方法をスムーズに受け入れにく いことがある。 ・いきなり体をゆすりながら大きな声で呼びかけるのが、意識”レベル”の確認法 →これは、意識の有無/3桁or2桁以上?の確認法 ・よびかけて開眼すれば、JCSは1桁 ・会話してみてそれなりにはっきり応答できれば、意識レベルは清明 2)覚醒 話しかけたり体に触れたりしない状態で、覚醒の3徴候(自発的な開眼・発語または合目 的動作)の有無を観察する ECSにおける覚醒の定義は、”開眼・発語・合目的動作のいずれか一つでもある状態”。 (JCSでは、覚醒を明らかに定義していない。ただし、JCS2桁では開眼の有無を判定の根 拠としている) 合目的動作とは?→「ボタンを外す、掛ける」「はっきりとある部分に手をもって行き掻 く」「指を曲げたり、伸ばしたりする」などをみれば、合目的と判断していいだろう(太 田富雄,2003)。ゆえに、痛み刺激で痛みの部位に手をやるのは2桁とせず3桁の100Lにな る。 3)見当識 見当識とは?→ICF(国際生活機能分類、WHO)によれば、”自己、他者、時間、周囲環境 との関係を知り確かめる全般的精神機能”とあり、見当識には、時間・場所・人に関する 見当識機能があり、「人に関する見当識機能」は、自己の同一性(アイデンティティ)と 、身近にいる他者を認識する精神機能とされている。 時間・場所・人の認識に異常がなければ「見当識あり」とする。 時間-(例)「今、何月ですか」 ×「生年月日を教えてください」 場所-(例)「ここはどこかわかりますか」 人- (例)「私が誰かわかりますか」「一緒に来たこの人は誰ですか」 ※ECSにおいては、自己の認識を人の見当識には含まない(自分の名前が言えても、人 の見当識ありとしない) ※GCSにおいては、人の見当識の評価方法として”自分の名前を言わせる”と解説され ているものが多い(Laura A lacono,2005など)。 運動性失語では見当識の有無を評価することが困難であり、ECS1桁で発語がない場合は 見当識を評価せずECS2(見当識なし、または発語なし)を選択してよい。 たとえば、日にちが1日でもずれていたら見当識なしとするような厳密なものではない。 必要なら追加の質問をして、見当識に異常があるかを評価する。 4)刺激による覚醒の評価 無刺激で覚醒なら「覚醒している(ECS1桁)」、刺激により覚醒なら「覚醒できる(ECS 2桁」、痛み刺激でも覚醒しなければ「覚醒しない(ECS3桁)」 無刺激→呼びかけ→痛み刺激 と、与える刺激を一つづつstep upしていく。(AVPU・GCS ・ECSに共通) JCSを正確に評価する場合、無刺激→普通の呼びかけ→大きな声の呼びかけ→体を揺さぶ る→痛み刺激 と、多数のstepを踏む必要がある (肩を叩く程度では、痛み刺激ととらず呼びかけの一部ととらえる考え方もある) ”無刺激で15秒以上覚醒が保てれば「覚醒している」と判断する”(金芳堂,脳神経外 科8版,p.181)は、ひとつのめやすとして有用である。 (これと矛盾しないよう、刺激で覚醒する患者を表現するとき、刺激がなくなったら徐々 に閉眼し15秒以内に覚醒の徴候を無くすようふるまう) 5)従命 従命の評価は、NIHSSに準じた2段階命令(例:手を握って→開いて)による方法や、「 指を二本出して」などやや複雑な動作をさせることを推奨する。 自分の手を握らせる方法は、握力・運動麻痺の確認方法としては適切だが、把握反射を従 命と誤認してしまう可能性があるため、従命を評価する方法としては推奨しない。 突然大声で命令したり、命令と同時に体に触れたりすると、反射による運動の可能性を否 定できない。 命令に応じて動作できることはM6であるが、音声刺激を同時に行っていることになるので 、「覚醒している(ECS1桁)」とはみなせない。 6)痛み刺激 付き添い・家族がいれば、痛み刺激を加えることの了承をとる ECS1~10又は「命令に従う(M6)」の場合、意識レベルの評価のため痛み刺激を与える必要 はない。痛み刺激は、意識レベル評価のためのルーチン項目ではないことに注意 痛み刺激を何度も繰り返さなくていいように、EとMを同時に観察する。模擬患者は、痛み 刺激に対してEとMを同時に表現する必要がある とくにSAHでは痛み刺激により再破裂をおこす危険があることを認識する。 「疼痛部へ(M5)」≒「痛みの部位に四肢を持っていく、払いのける(100L)」 「逃避する(M4)」≒「引っ込める(脇を開けて)または顔をしかめる(100W)」(ECSでは 「顔をしかめる」が入っていることに注目) →反射に準じて手をサッと引っ込める、体 幹をビクッとくねらせるなどすばやく動作すること 除皮質姿勢:肩関節を内転(脇が閉まる)、肘・手関節・手指を屈曲する。下肢は伸展・ 内転、足は底屈 除脳姿勢:上肢は進展、内転、内旋し、下肢は除皮質と同様 痛みを与える部位について、コースとして特定の部位を推奨はしない。受講者が普段やっ ている痛み刺激の方法を否定しないよう注意する。それぞれの部位について、特徴や制限 を考察することを目的とする。 (ECSの評価法では、胸骨部を手拳で圧迫・四肢の爪部を鈍的に圧迫といった方法が提示 されており、痛み刺激に加えて呼びかけを繰り返すことが記載されている。) 麻痺側は避ける。感覚障害の有無が不明な場合は複数箇所の左右ともに痛み刺激を与える 。 手指爪床の圧迫:手を引っ込めた場合「逃避する(M4)」の可能性があるが、肢位によって は「異常屈曲(M3)」との区別が難しいことがある。(ECSでは脇を閉めているかどうかで2 00Fと100Wを判断する)。上肢への痛み刺激のみでは「疼痛部へ(M5)」の可能性が残る。 胸骨の摩擦:四肢以外では「逃避する(M4)」の評価が難しい。疼痛により胸部に手をやっ た場合、「異常屈曲(M3)」と「疼痛部へ(M5)」の区別が難しいことがあり、別の部位の痛 み刺激を併用する。 多くの場合爪床と胸骨への痛み刺激を併用することで、痛み刺激に対する反応(M5~M2)は 評価可能と考えられる。 「まったくなし(M1)」と判断するためには、胸骨や四肢のほか、脳神経領域である顔面( 三叉神経)への痛み刺激も併用する。 外傷で頸椎損傷を否定できていない症例では、頭頸部の痛み刺激による反応で頸部の安静 が保てないことがあり注意が必要。 「異常屈曲(M3)」と区別し、「疼痛部へ(M5)」と判断するために「痛み刺激を上眼窩に与 え、手が左右正中を越え、鎖骨より上まで至ること」を条件としている文献もある。 7)GCSにおける言語反応 V5・V2・V1は比較的容易に評価可能(有意発語がなく発声があるものがV2、発声すらない ものがV1)だが、本邦ではV4・V3について多様な解釈が行われているようである。 V4とV3の評価区分: 原典(Teaddale and Bryan,1974) -V4:confused conversation(混乱した会話) -V3:inappropriate words(不適切な言葉) V4については、conversational, but confused(会話はできるが混乱している)との意味 であるとの解釈が複数の文献でみられる。でたらめな語・感嘆語のみで会話が不可能であ る場合がV3である。つまり、会話ができるか否か(conversational or not)でV4とV3を区 別する。 (word(単語)に注目して、単語のみ発する(文章としてのまとまりがない)ならV3・二 語文以上を発すればV4との考え方もある。) (「混乱した会話」は、「混乱していて会話できない」ではない) →受講者の理解を助けるため、模擬患者がV3を表現する場合は「会話の成立しない一語」 で反応する。会話の成立する一語による返答(質問に「知らない」「うるさい」)や会話 の成立しない文章での反応は避ける。 VT(挿管中)の表現は比較的普及しているが、その他にも様々な表現があり、典拠が不明 なことも多い。 8)ECSにおける開眼の定義 原則は覚醒の3徴候であり、これらで判断するのは最終手段。 自発的瞬目=自発的な覚醒(ECS1桁) 睫毛反射=刺激による覚醒(ECS2桁) 昏睡のとき、目が開いていても睫毛反射がなくECS3桁ということはしばしばある (ECS3桁の設定でも、模擬患者の睫毛反射は生じてしまうので、評価者が睫毛反射をみ たら指導者からフォローする必要あり) 進行例 このセッションでは(主にECS・GCS)意識障害の評価方法のみを取り扱う。 模擬患者を準備し、受講者による意識障害の評価とフィードバックを繰り返す。 スタッフは、模擬患者とプレゼンターをローテーションする。このため、子ブース1つで 最低2人のスタッフが必要。 やむを得ず1人で行う場合は、初め模擬患者を演じ、なれてきたら途中から受講者に模擬 患者を演じてもらいプレゼンターとなる。 1)プレゼンターが患者(傷病者)の想定を付与する 2)受講者のなかから評価者を指名し、GCS(またはECS)をとってもらう。 必要に応じてプレゼンターが誘導する。 意識レベルの評価に集中してもらうため、 「バイタルサインに問題はありません」/「他の人が補助換気をしています」 (病院前の外傷症例では)「他の隊員が頸椎保護をしています」 などと説明してから評価してもらう。 3)プレゼンターと評価者が1対1とならないよう、 適宜、他の受講者からも意見を聞きつつ進行する。 4)同様に、もう一方の意識レベルも評価してもらう。 5)受講者全員に対してポイントを解説し、質問を受け付ける。次の症例へ。 進行上の注意点 ・意識レベルは定義が不確実な部分も多く、解釈によって同じ症例でも違うスコアと評価 することを否定はできない。プレゼンターは「今の症例のGCSは~です」といった表現よ り、「GCS~と設定した症例でした」など、他の評価を容認する余地を残した表現が望ま れる ・想定を詳しく説明しすぎると、評価者が覚えきれず評価に集中できないことも懸念され る。想定は、病歴の概略や片麻痺、バイタルの異常など要点にしぼる。 ・GCSでは、EVM個々の点を記録する。GCSの合計点を聞くことの意義は乏しく、「合計は 何点ですか」といった質問で評価者に計算をさせない。 ・模擬患者が反応を間違えた場合、プレゼンターは極力訂正することなく間違えた反応に あわせて進行する。 ・各スケールの長所と短所を知り、複数のスケールでで評価できることを目的としている 。いずれかの意識レベルを推奨していると受け取られないように注意。「○○科はGCSを 使うことが多い」といった説明も地域による違いがあり適切でないことが多い。 剱脳卒中(ISLS/PSLS)コース Based on cons. Ver.β(071215) updated080401
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