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消防組織法、消防法

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消防組織について
1
消防の組織を理解するには、消防組織法、消防法、地方公務員法、地方自治法、
市町村の条例を理解することです。
2
その理由は、公務員は字のごとく、公(おおやけ)の仕事をする人であり、日本
国 憲 法 の 第 15 条 第 2 項 で 、 す べ て 公 務 員 は 、 全 体 の 奉 仕 者 で あ っ て 、 一 部 の 奉 仕
者ではないと定められています。これは国民の税金から給料をいただき、国民のた
めに働き、事業を行うからです。そのため給料、身分など全てのことについて、法
により定められることになります。
消 防 職 員 は 、地 方 自 治 法 で 定 め ら れ て い る 普 通 地 方 公 共 団 体( 市 町 村 、都 道 府 県 )
又 は 特 別 地 方 公 共 団 体 (「 特 別 区 」「 地 方 公 共 団 体 の 組 合 」「 財 産 区 」「 地 方 開 発 事 業
団」の四種類)の「消防事務」に従事するために任命され、労働の対価として報酬
をもらっていることから、地方公務員法に定める地方公務員であり、さらに、同法
に規定される一般職に該当するため、一般職の地方公務員として定義され、地方公
務員法が全面的に適用されます。
このように地方公務員として、地方公務員の義務、及び服務規定が全面的に適用
されるだけでなく、さらに、消防組織法に定義される消防の任務を実現するため、
消防組織法に記載される服務規程を遵守しなければなりません。
3
消 防 組 織 法 と は 、 消 防 の 任 務 範 囲 、 消 防 責 任 を 市 町 村 が 負 う こ と 、消 防 機 関 の 構 成 、
などについて規定しています。この消防の任務は第 1 条で定めています。
第 1 条 消 防 は 、そ の 施 設 及 び 人 員 を 活 用 し て 、国 民 の 生 命 、身 体 及 び 財 産 を 火 災 か ら 保
護 す る と と も に 、水 火 災 又 は 地 震 等 の 災 害 を 防 除 し 、及 び こ れ ら の 災 害 に よ る
被害を軽減することを任務とする。
こ の 条 文 で 、消 防 は 火 災 の 防 御 だ け で な く 災 害 の 防 除 も そ の 任 務 と さ れ 、本 条 を 根 拠
と し て 、火 災 以 外 の 救 急 や 救 助 、又 は 行 方 不 明 者 の 捜 索 な ど が 消 防 任 務 の 範 囲 に 含 ま れ
る事となります。
(消防本部及び消防署)
第十条
消防本部及び消防署の設置、位置及び名称並びに消防署の管轄区域は、条
例で定める。
2
消防本部の組織は市町村の規則で定め、消防署の組織は市町村長の承認を得て
消防長が定める。
(消防職員)
第十一条
消防本部及び消防署に消防職員を置く。
2
消防職員の定員は、条例で定める。ただし、臨時又は非常勤の職については、
この限りでない。
(消防長)
第十二条
2
消防本部の長は、消防長とする。
消防長は、消防本部の事務を統括し、消防職員を指揮監督する。
(消防署長)
第十三条
2
消防署の長は、消防署長とする。
消防署長は、消防長の指揮監督を受け、消防署の事務を統括し、所属の消防職
員を指揮監督する。
(消防職員の職務)
第十四条
消防職員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する。
(消防職員の任命)
第十五条
消防長は、市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承
認を得て消防長が任命する。
2
消防長及び消防署長は、政令で定める資格を有する者でなければならない。
(消防職員の身分取扱い等)
第十六条
消防職員に関する任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱いに
関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法(昭和二十五
年法律第二百六十一号)の定めるところによる。
2
消防吏員の階級並びに訓練、礼式及び服制に関する事項は、消防庁の定める基
準に従い、市町村の規則で定める。
自治体消防(消防責任を市町村が負う)
第 6 条 で は 、 消 防 責 任 を 負 う の は 市 町 村 と さ れ て い ま す 。 そ し て 、第 7 条 で は 、 消
防 は 市 町 村 長 が 管 理 し 、 第 9 条 で は 、消 防 機 関 ( 消 防 本 部 ・消 防 署 ・ 消 防 団 ) は 市 町
村が設置することが規定されています。
戦 前 、消 防 は 警 察 の 一 部 門 と さ れ て い ま し た が 、戦 後 は 、消 防 の 重 要 性 や 警 察 の 必
要 以 上 の 肥 大 化 防 止 な ど が 勘 案 さ れ た 結 果 、消 防 組 織 法 上 に 自 治 体 消 防 が 規 定 さ れ
ました。
4
消 防 法と は 、火災 から 国民 の生 命な ど を守 るた めに 制定 され た 法律 で 、消 防車 の
出 動 に よ る 火 災 現 場 の 消 火 活 動 を は じ め 、日 ご ろ の 火 災 予 防 や 消 防 設 備 な ど に 関 す
る事項を定めています。
具 体 的 に は 、規 模 の 大 き な 建 物 で 階 段 が ひ と つ し か な い 場 合 、避 難 は し ご や 緩 降 機
な ど の 避 難 器 具 を 用 意 し て お か な け れ ば な り ま せ ん 。ま た 、防 火 管 理 者 を 選 任 し 、防
災 計 画 を 作 成 す る こ と な ど を 義 務 づ け て い ま す 。こ の 他 に も 、避 難 経 路 を 確 保 す る た
め 、階 段 や ろ う か な ど に 荷 物 を 置 き っ ぱ な し に す る こ と を 禁 止 し た り 、消 防 隊 員 の 消
火 ・救 助 活 動 に 支 障 が 出 な い よ う に 、建 築 物 の 構 造 に つ い て 定 め る 建 築 基 準 法 と と も
に 、火 災 に よ る 被 害 を 最 小 限 に 食 い 止 め る た め の 規 定 が 並 び ま す 。こ れ ら の 義 務 に つ
い て 重 大 な 違 反 が あ れ ば 、命 令 や 指 導 と い っ た 形 で 行 政 処 分 を 行 い 、早 期 に 改 善 す る
よう求めることができます。
第一条
この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財
産を 火災 から 保護 する と とも に 、火 災又 は 地震 等の 災害 に因 る被 害 を軽 減し 、
もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。
9
救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する
場 所 に お い て 生 じ た 事 故( 以 下 こ の 項 に お い て「 災 害 に よ る 事 故 等 」と い う 。)又
は政令で定める場合における災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令
で定めるものによる傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要
があるものを、救急隊によつて、医療機関(厚生労働省令で定める医療機関をい
う 。)そ の 他 の 場 所 に 搬 送 す る こ と( 傷 病 者 が 医 師 の 管 理 下 に 置 か れ る ま で の 間 に
お い て 、 緊 急 や む を 得 な い も の と し て 、 応 急 の 手 当 を 行 う こ と を 含 む 。) を い う 。
5
地方自治法とは、地方(ある国の中に存在する地域)の運営について、国からの
関与によらず、地方の住民の意志に基づき行うことを定めた法律のことをいいます。
日本国憲法で規定された「地方自治の本旨」を具体的に実現させる法律で、地方
公共団体の主要機関(執行機関として長をはじめとした役員と半独立の地方行政委
員 会 、立 法 機 関 と し て 地 方 議 会 )を 設 定 、さ ら に「 住 民 自 治 」を 確 保 す る た め の「 直
接請求権」
( 直 接 住 民 が 条 例 の 制 定 や 改 正・ 廃 止 、議 会 の 解 散 や 議 員・ 首 長 ・ 主 要 公
務員解職請求(リコール)などを求めることができる権利)を定めています。
6
地方公務員法とは、地方公務員の職、任免、服務、労働関係など、地方公務員の
身分取扱に関する基本的な事項を定めた法律です。地方公務員一般職すべてに適用
されますが、特別職の地方公務員については、法律に特別の定めがある場合を除き
適用されません。基本的には国家公務員法に準拠した内容となっていますが、給与
条例主義をとること、地方公務員に対する労働基準法の一部適用を規定しているこ
となど、両者の間には大きな相違点もあります。
7
市 町 村の 条 例と は 、国が 制定 する 法 律 に対 し 、地 方公 共団 体(都 道 府県 およ び市
町村など)が法律の範囲内で制定できる法令のことです。条例は各地方公共団体が
独自に定めるものですから、その名称や内容はまちまちで、都道府県によって「あ
ったりなかったり」もします。
8
消防の沿革・組織
日 本 の 消 防 制 度 は 、江 戸 時 代 の 定 火 消 か ら は じ ま り 、東 京 府 の 内 務 省( 消 防 事 務 )、
警視庁をへて、府県警察部の特設消防署となりました。そして戦後に連合軍総司令
部 の 指 令 に よ っ て 、 警 察 か ら 分 離 す る こ と と な り ま し た 。「 昭 和 22 年 12 月 23 日 法
律 第 226 号 」と し て 消 防 組 織 法 が 公 布 、翌 1 948 年 か ら 消 防 組 織 法 が 施 行 さ れ 、消 防
の責任はすべて市町村とする自治体消防が誕生しました。
消防業務は、地域及び住民と密着した行政であることから、市町村が責任をもつ
自治体消防の体制となったものです。
消防組織法では、第1章総則に消防の任務を、第2章に国家機関として消防庁の
設置、第3章に自治体の機関として市町村の消防本部を規定しています。
9
消防組織の成り立ち
市町村は、当該区域における消防事務を円滑にそして十分果たすために、消防本
部 ・消 防署 ・消防 団の 全部 又 は一 部を 設置( 消防 組織 法 9 条 )しな けれ ば なり ませ
ん。一定規模以上の自治体については、消防本部及び消防署の設置が義務付けられ
て い ま す 。( 消 防 組 織 法 10 条 )。 よ っ て 、 自 治 体 に よ っ て は 消 防 本 部 が な く 、 消 防
団のみのところもあります。
消防本部の設置、位置、名称は市町村の条例で、組織については市町村の規則で
定めるとし、消防本部には階級を有する消防吏員及びその他の職員(あわせて「消
防職員」という)を置き、消防職員の定数は条例で定めるとしています。消防本部
の長は消防長で、消防長は市町村長が任命し、消防長以外は市町村長の承認を得て
消防長が任命することとなっています。
消防本部が市町村の消防事務全般を統括する上位機関に対し、消防署は消防本部
の下部機関として消防署長により統括され、管轄区域内の火災予防、警戒、鎮圧、
その他の活動に必要な施設人員、機械を有する第一線の実働機関となります。
10
組合消防とは
市町村がその事務の一部を共同処理するため、組合を結成し消防の事務を市町村
の 一 部 事 務 組 合( 全 部 事 務 組 合 に 対 比 し て い う )で 処 理 す る 方 法 の こ と で す 。
(地方
自 治 法 284 条 1 項 )
11
消防団とその役割
(1)消防団の組織・団員
消防団は地域の住民で構成され、火災や水災などに対する消防活動や火災予防啓
発活動などを任務にして、消防隊と連携し活動しています。消防団は消防組織法 9
条 に 規 定 さ れ る よ う に 、 市 町 村 に お け る 消 防 機 関 の ひ と つ で す 。 同 法 18 条 か ら 23
条に、消防団の設置、組織などが規定されています。
消防団の組織は、団本部、分団、部及び班で構成され、消防団長は消防団員の推
薦によって、市町村長が任命します。
消防団員は一般的に非常勤消防団員と呼ばれ、常勤消防団員(消防団常備部にお
いて常時出動体制をとっている)と区別されます。非常勤消防団員は、地方公務員
法 3 条 3 項 5 号に規定されるように、特別職に属する地方公務員となります。その
ことから市町村の条例で、消防団員に関する任用、給与、分限、懲戒、服務、その
他の身分取扱いについて細かく定められています。
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消防という職場の特性
(1)
階級制度がある
消 防 職 員 の う ち 消 防 吏 員 に つ い て は 階 級 制 度 が 定 め ら れ て い ま す ( 消 組 法 14
条 の 4・ 2 項 )。
階級は上位から、消防総監、消防司監、消防正監、消防監、消防司令長、消防
司令、消防司令補、消防士長、消防副士長、消防士の階級があり、自治体の規模
に 応 じ 、具 体 的 に は 市 町 村 に お い て 、
「 消 防 吏 員 の 階 級 準 則 」で 規 定 さ れ て い ま す 。
自治体間においても階級の上下があるわけです。また、消防吏員服制準則(昭和
42年消防庁告示第1号)に準拠して、階級章が定められています。
消防職員には、火災その他の災害が発生した場合に、直ちに出動して多くの人
員と装備が一体となって迅速かつ効果的に災害の防御と住民の生命財産の保護に
努める使命があり、上司の指揮の下、統制のとれた部隊行動を執ることが必要で
あることから、階級制度は必要不可欠なものであるとされています。
(2)
交替制勤務と休日
消防職員の勤務体制は、毎日勤務と交替制勤務に大別されます。毎日勤務は予
防業務や一般庶務などに従事しており、他の自治体労働者の勤務形態と変わりま
せん。週休日、祝日等を含めて暦日どおりの休日が原則としてとれます。
交替制勤務の場合は、職務上、常時即応体制をとることが必要なことから、1
日24時間、1年365日を通じて誰かが仕事に就くことが予定されており、暦
日どおりの休日はとれません。
搬送と医療体制
1
初期・第二次・第三次救急医療体制
消防機関による救急業務と救急告示病院制度として、救急搬送と救急診療のシス
テムが備わったが,増え続ける交通事故による重度外傷や多発外傷患者に対応でき
る施設は,全国でもごくわずかであった。また,救急搬送の対象に想定していなか
った疾病救急の増加も著しく,重症傷病者の
たらい回しが大きな社会問題になる
な ど ,救 急 告 示 病 院 制 度 だ け で は 対 応 で き な い こ と が 明 ら か と な っ た 。そ こ で 「 救 急
医 療 懇 談 会 」の 報 告 を 受 け , 救 急 告 示 病 院 制 度 に 加 え て , 昭 和 52 年 か ら 初 期 ・ 第 二
次・第三次救急医療機関の3層構造と救急医療情報センターからなる救急医療体制
の 計 画 的 整 備 が 始 ま っ た 。 こ れ は 「 限 ら れ た 医 療 資 源 の 効 率 的 活 用 」と い う 発 想 に 基
づいている。
2
救急医療体制の一元化
救急告示病院制度と初期・第二次・第三次救急医療体制が並存した結果,輪番制
の第二次救急医療機関でありながら救急告示病院でない施設が現れ,救急隊による
搬送を受け入れないなどの混乱が一部に生じた。このような混乱をなくし,住民や
救急隊にわかりやすい制度にするために救急医療体制の一元化を図る必要性が指摘
さ れ た (救 急 医 療 基 本 問 題 検 討 会 報 告 書 , 平 成 9 年 長 こ れ を 受 け て 平 成 10 年 よ り ,
救 急 医 療 体 制 を 初 期 救 急 医 療 機 関 (在 宅 当 番 医 , 休 日 ・ 夜 間 急 患 セ ン タ ー ), 第 二 次
救 急 医 療 機 関 (精 神 科 救 急 を 含 む 24 時 間 体 制 の 「救 急 病 院 」, 病 院 群 輪 番 制 病 院 お よ
び 有 床 診 療 所 ) ,第 三 次 救 急 医 療 機 関 (救 命 救 急 セ ン タ ー )な ら び に 救 急 医 療 情 報 セ ン
ターを体系的に整備し,かつ都道府県の医療計画に記載することが定められた。
3
初期・第二次・第三次救急医療機関
救 急 医 療 体 制 基 本 問 題 検 討 会 報 告 書 を 受 け , 平 成 10 年 以 後 , 従 来 の 救 急 告 示 病
院 制 度 と 初 期・第 二 次・第 三 次 医 療 体 制 を 一 元 化 し ,救 急 医 療 機 関 を 初 期・第 二 次 ・
第三次に機能分化させて医療計画を策定することが決められた。それぞれの機能区
分は以下の通りである。
(1)
初期救急医療機関
「外 来 診 療 に よ っ て 救 急 患 者 の 医 療 を 担 当 す る 医 療 機 関 で あ り ,救 急 医 療 に 携 わ
る こ と を 表 明 す る 医 療 機 関 」と 定 義 さ れ て い る 。具 体 的 に は ,在 宅 当 番 医 ,休 日 ・
夜間急患センターをさす。
(2)
第二次救急医療機関
「入 院 治 療 を 必 要 と す る 重 症 救 急 患 者 の 医 療 を 担 当 す る 医 療 機 関 」 と さ れ て い る 。
具 体 的 に は , 精 神 科 救 急 を 含 む 24 時 間 体 制 の 救 急 病 院 , 病 院 群 輪 番 制 病 院 お よ
び有床診療所をさす。
(3)
第三次救急医療機関
「第 二 次 救 急 医 療 機 関 で は 対 応 で き な い 複 数 の 診 療 科 領 域 に わ た る 重 篤 な 救 急
患 者 に 対 し ,高 度 な 医 療 を 総 合 的 に 提 供 す る 医 療 機 関 」 と 定 義 さ れ ,具 体 的 に は 救
命救急センターがこれに相当する。
●休日・夜間急患センター:地域住民の急病患者の医療を確保するために,地方公共
団体が整備した初期救急医療機関で,休日は午前8時から午後6時まで,夜間は午
後6時から翌日午前8時までの診療が行われていることが多い。
●救急病院:医療計画で入院が必要な重症救急傷病者を収容する第二次救急医療機関
と位置づけられ,つぎの基準を満たすことが求められている。
①
救急医療について相当の知識および経験を有する医師が常時診療に従事してい
ること。
②
X線装置,心電図,輸血および輸液などのための設備,その他救急医療を行う
ために必要な施設および設備を有すること。
③
救急医療を要する傷病者のために優先的に使用される病床または専用病床を有
すること。
④
救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し,かつ,傷病者の搬入に適し
た構造設備を有すること。
●救命救急センター:医療計画で第三次救急医療機関と位置づけられた病院で,つぎ
の基準を満たすことが求められている。
①
重篤な救急患者を,つねに必ず受け入れることができる体制をとること。
②
ICU, CCU な ど を 備 え , 常 時 , 重 篤 な 患 者 に 対 し 高 度 な 治 療 が 可 能 な こ と 。
③
医 療 従 事 者 (医 師 , 看 護 師 , 救 急 救 命 士 な ど )に 対 し , 必 要 な 研 修 を 行 う 体 制 を
有 す る こ と 。平 成 15 年 度 よ り ,病 床 数 が 1 0 床 規 模 の 新 型 救 命 救 急 セ ン タ ー が 設
置 さ れ て い る (従 来 は 概 ね 30 床 )。
●高度救命救急センター:救命救急センターに収容される患者のうち,とくに広範囲
熱傷,指肢切断,急性中毒などの特殊疾病患者を受け入れる。
4
周産期の救急医療体制
産科,未熟児などの領域に関する救急傷病者については,診療の専門性や特殊な
診 療 機 器 を 要 す る こ と か ら ,一 般 の 救 急 診 療 体 制 で は 必 ず し も 適 切 に 対 応 で き な い 。
そのため,周産期の救急医療に関しては,周産期母子医療センターの整備が進めら
れている。総合周産期母子医療センターは,原則として三次医療圈に1ヵ所程度,
地域周産期母子医療センターは,総合周産期母子医療センター1ヵ所に対して数カ
所の割合で整備が進められ,当該医療機関による周産期医療ネットワークが形成さ
れている。
5
医療計画と救急医療体制
救急医療提供体制については,都道府県ごとに,前述の通り,初期・第二次・第
三 次 の 役 割 分 担 に 基 づ い た 体 系 的 な 整 備 が 進 め ら れ て い る が , 平 成 18 年 に 行 わ れ
た医療法改正において,救急医療を医療計画上に重点的に位置づけ,地域における
連携体制の構築が図られることになった。
6
救急搬送システム
(1)
救急業務の制度化
昭 和 38 年 に 消 防 法 が 一 部 改 正 (第 2 条 第 9 項 の 追 加 )さ れ ,市 町 村 消 防 機 関 に よ
る救急業務が法制化された。この背景には交通事故が急増しつつあった当時の社
会事情がある。これを反映し救急搬送の対象者は,おもに事故による傷病者に限
られていた。また救急隊の業務は,あくまでも傷病者の医療機関などへの搬送で
あり,搬送中の応急手当は緊急やむを得ないものとして行うとされていた。昭和
61 年 の 消 防 法 改 正 で , 救 急 業 務 に は 「傷 病 者 が 医 師 の 管 理 下 に 置 か れ る ま で の 問
に お い て ,緊 急 や む を 得 な い も の と し て ,応 急 の 手 当 を 行 う こ と を 含 む 」こ と が 明
記された。さらに,救急業務の対象が事故その他の事由による傷病者にまで拡大
され,救急隊が急病人をも含む救急患者一般を搬送することになった。具体的に
は ,災 害 に よ る 事 故 な ど に 準 ず る 事 故 そ の 他 の 事 由 の 範 囲 は 「屋 内 に お い て 生 じ た
事故又は生命に危険を及ぼし,若しくは著しく悪化するおそれがあると認められ
る症状を示す疾病」
( 消 防 法 施 行 令 第 42 条 )と さ れ た 。こ れ に 伴 い ,救 急 告 示 医 療
機 関 も 事 故 に よ る 傷 病 者 だ け で は な く ,救 急 患 者 一 般 を 受 け 入 れ る こ と に な っ た 。
しかし,搬送中の応急手当は緊急避難行為ともみなされる位置づけであった。こ
の 背 景 に は , 医 師 法 の 制 約 (医 師 に よ る 医 業 の 独 占 )と 救 急 隊 員 の 医 学 的 知 識 や 技
術の不足があった。
(2)
救急救命士制度の発足
重症傷病者の救命率を向上させるためには病院前救護の高度化が欠かせないと
の認識が高まり,救急隊員の教育拡充や応急処置の規準化が図られるとともに,
病院前救護の充実,とくに院外心肺機能停止の治療成績の改善を目的として,平
成3年4月救急救命士法が成立し,救急救命士も病院前救護を担当するようにな
った。
従来の救急隊員が緊急避難的に搬送中に応急処置を行っていたのに対し,救急
救 命 士 は 国 家 資 格 と し て 「救 急 救 命 処 置 」 を 業 と し て 行 う こ と が 認 め ら れ た 点 で 質
的 に 異 な る 。た だ し ,救 急 救 命 士 の 行 う 「救 急 救 命 処 置 ]は あ く ま で も 「診 療 の 補 助 ]
であり,原則的には医師の指示に基づいて行われるべきものである。とくに特定
行 為 (除 細 動 ,静 脈 路 確 保 ・輸 液 ,気 道 確 保 )に つ い て は 医 師 の 具 体 的 な 直 接 指 示
に基づいて行うことが定められている。
救 急 救 命 士 の 病 院 前 救 護 に お け る 活 動 が 一 般 化 す る に つ れ て ,「 指 示 体 制 の 確 立
や症例研究の実施などといった救急救命士の活動条件の整備,気管挿管の実施,
救急救命士の判断による除細動の実施,心肺停止前の静脈路の確保,昇圧剤等の
薬 剤 投 与 な ど の 特 定 行 為 の 範 囲 の 拡 大 が 必 要 で あ る 」と 行 政 監 査 で 指 摘 さ れ た の
を受けて,前述のメディカルコントロール体制の整備が進められた。
このメディカルコントロール体制の下に十分な教育・訓練を受け,一定の条件
を 満 た し た 救 急 救 命 士 に 対 し て は ,包 括 的 指 示 (事 前 に 示 さ れ た 手 順 内 で あ れ ば 個
別の事例ごとに改めて医師に具体的な指示を求めなくてもよい。行為までの時間
が 短 縮 で き る 効 果 が あ る 。)に よ る 除 細 動 (平 成 15 年 4 月 実 施 ),気 管 挿 管 (平 成 16
年 7 月 実 施 ),薬 剤 (エ ピ ネ フ リ ン )投 与 (平 成 1 8 年 4 月 実 施 )を 行 う こ と が 認 め ら れ
て い る 。 気 管 挿 管 の み 認 定 者 1, 993 名 , 薬 剤 投 与 の み 認 定 者 201 名 , 気 管 挿 管 ・
薬 剤 投 与 両 方 の 認 定 者 397 名 が す で に 生 ま れ て い る (平 成 18 年 4 月 1 日 現 在 )。
(3)
メディカルコントロール
平 成 13 年 , 救 急 業 務 高 度 化 推 進 委 員 会 よ り , 「傷 病 者 搬 送 途 上 に お け る , 救
命効果の向上を目指し,救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置の質を向上
させ,救急救命士の処置範囲の拡大等救急業務の更なる高度化を図るために,
救急救命士に対する医師の指示体制,救急救命士を含む救急隊員に対する指
導・助言体制を高度化,救急活動の医学的観点からの事後検証体制の充実及び
救急救命士の再教育体制の充実を図ることが適切であり,これら3つを主眼に
お い た 環 境 整 備 を 早 期 に 進 め る 必 要 が あ る 」と の 指 摘 が な さ れ た 。 こ れ を 受 け ,
メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル 体 制 の 構 築 が 全 国 で 進 め ら れ , 平 成 16 年 に は 都 道 府
県メディカルコントロール協議会と地域メディカルコントロール協議会が全県
にて設置された。
(4)
ドクターカー
救急隊員の応急処置や救急救命士の救急救命処置が拡充されてきたとはいえ,
医療行為の制約がない医師には及ばないことが多い。医師がドクターカーで現
場に直接おもむけば,すぐにより高度な治療ができる。しかし,全国のすべて
の救急車に医師を同乗させるためには膨大な数の医師が必要であり,現実には
不可能である。そこで救命救急センターにドクターカーを配置し,重篤な救急
傷病者についてのみ救急隊員の要請に応じて出動する方式が採用された。その
運用に関しては,人口密集地域と過疎地域で大きく事情が異なり,それぞれの
地域でさまざまな試行が繰り返されているのが現状である。
(5)
ヘリコプターによる救急搬送
離島や洋上救急を除いて,わが国では救急傷病者の搬送手段はもっぱら救急
自動車に依存し,救急医療システムもこれを前提として構築されてきた。しか
し,全国で高速自動車道が整備されてきたとはいえ,高速自動車道へのアクセ
スや渋滞を考えれば,救急車による搬送距離には限界がある。また,高度な救
急医療を提供できる医療機関を全国に設置することは現実には不可能であり,
救急医療の地域格差を埋めることはむずかしい。この観点より,欧米諸外国で
早くから行われてきたヘリコプターによる救急傷病者の搬送が強く求められて
き た 。 こ の 要 請 に 応 え る べ く , 平 成 10 年 消 防 法 施 行 令 第 44 条 (救 急 隊 の 編 成
及 び 装 備 の 基 準 )が 改 正 さ れ ,消 防 防 災 ヘ リ に よ る 傷 病 者 の 搬 送 が 法 制 化 さ れ た 。
ま た ,平 成 12 年 に 内 閣 の 内 政 審 議 室 に 設 け ら れ た 「ド ク タ ー ヘ リ 調 査 検 討 委 員
会 ]に お い て ,ド ク タ ー ヘ リ 事 業 の 実 施 を 強 く 期 待 す る 報 告 書 が 取 り ま と め ら れ ,
平 成 13 年 度 よ り , 厚 生 労 働 省 に お い て ド ク タ ー ヘ リ 導 入 促 進 事 業 が 始 め ら れ
た 。 平 成 18 年 4 月 1 日 現 在 ,消 防 防 災 ヘ リ コ プ タ ー は 全 国 で 7 0 機 配 備 さ れ ,
平 成 17 年 の 年 間 救 急 出 動 件 数 は 2 ,492 件 ,ド ク タ ー ヘ リ は 9 県 10 機 が 運 用 さ
れ ,4,0 96 件 の 出 動 を 行 っ て い る 。い ず れ も 年 々 そ の 出 動 件 数 を 増 や し て い る 。
7
救急医療情報システム
適切な救急業務を行うためには,救急医療機関の稼動状況をリアルタイムで把
握することが不可欠である。この観点から,各都道府県で全県を対象とした救急
医 療 情 報 セ ン タ ー (広 域 災 害 ・ 救 急 医 療 情 報 シ ス テ ム )が 整 備 さ れ て い る 。
救急医療機関から救急医療情報センターにリアルタイムで,診療科別医師の存
否 ,診 療 科 別 の 手 術 お よ び 処 置 の 可 否 ,病 室 の 空 床 状 況 (診 療 科 別 ,男 女 別 ,集 中
治 療 室 な ど の 特 殊 病 室 ,そ の 他 )な ど の 情 報 を 送 り ,救 急 医 療 情 報 セ ン タ ー は こ れ
らの情報をもとに医療施設,消防本部および住民からの問い合わせに対して,受
け入れ施設の選定,確認または回答を適切に行うこととされている。また災害時
には広域災害モードを用いて,医療施設状況,傷病者転送要請,医薬品などの備
蓄状況,受け入れ傷病者状況,ボランティアの提供および状況の情報収集と提供
が救急医療情報センターによって行われるよう整備が図られている。
救急病院等を定める省令
(昭和三十九年二月二十日厚生省令第八号)
最終改正:平成一九年三月三〇日厚生労働省令第三九号
消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第二条第九項の規定に基づき、救急病院
等を定める省令を次のように定める。
(医療機関)
第一条
消防法 (昭和二十三年法律第百八十六号)第二条第九項 に規定する救急
隊により搬送される傷病者に関する医療を担当する医療機関は、次の基準に該当す
る病院又は診療所であつて、その開設者から都道府県知事に対して救急業務に関し
協力する旨の申出のあつたもののうち、都道府県知事が、医療法 (昭和二十三年
法律第二百五号)第三十条の四第一項 に規定する医療計画の内容(以下「医療計
画 の 内 容 」 と い う 。)、 当 該 病 院 又 は 診 療 所 の 所 在 す る 地 域 に お け る 救 急 業 務 の 対 象
となる傷病者の発生状況等を勘案して必要と認定したもの(以下「救急病院」又は
「 救 急 診 療 所 」 と い う 。) と す る 。 た だ し 、 疾 病 又 は 負 傷 の 程 度 が 軽 易 で あ る と 診
断された傷病者及び直ちに応急的な診療を受ける必要があると認められた傷病者
に関する医療を担当する医療機関は、病院又は診療所とする。
一
救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事している
こと。
二
エ ツ ク ス 線 装 置 、心 電 計 、輸 血 及 び 輸 液 の た め の 設 備 そ の 他 救 急 医 療 を 行 う た め
に必要な施設及び設備を有すること。
三
救 急 隊 に よ る 傷 病 者 の 搬 送 に 容 易 な 場 所 に 所 在 し 、か つ 、傷 病 者 の 搬 入 に 適 し た
構造設備を有すること。
四
救急医療を要する傷病者のための専用病床又は当該傷病者のために優先的に使
用される病床を有すること。
2
前 項 の 認 定 は 、当 該 認 定 の 日 か ら 起 算 し て 三 年 を 経 過 し た 日 に 、そ の 効 力 を 失 う 。
(告示)
第二条
都道府県知事は、前条第一項の申出のあつた病院又は診療所であつて、同
項各号に該当し、かつ、医療計画の内容、当該病院又は診療所の所在する地域にお
ける救急業務の対象となる傷病者の発生状況等を勘案して必要と認定したものに
ついて、救急病院又は救急診療所である旨、その名称及び所在地並びに当該認定が
効力を有する期限を告示するものとする。
2
都 道 府 県 知 事 は 、救 急 病 院 又 は 救 急 診 療 所 が 前 条 第 一 項 各 号 に 該 当 し な く な つ た
とき又は同項の申出が撤回されたときは、その旨並びにその名称及び所在地を告
示するものとする。
神奈川県
神奈川県の医療制度
○ プ レ ホ ス ピ タ ル・ケ ア に お け る 救 急 救 命 士 が 実 施 す る 医 療 行 為 の 質 を 確 保 す る 観 点
から、神奈川県メディカルコントロール協議会と県内5地区に各地区メディカルコ
ントロール協議会が設置されています。プレホスピタル・ケアにおけるメディカル
コントロールとは、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間に、救急救命士が
医行為を行う場合、その医行為を医師が指示又は助言・指導及び検証してそれらの
医行為の質を保障する体制を意味します
○ 初 期 救 急 医 療 に つ い て は 、市 町 村 等 が 地 域 医 師 会 の 協 力 を 得 て 行 う 休 日 夜 間 急 患 診
療 所 ( 医 科 46 箇 所 、 歯 科 23 箇 所 ) や 在 宅 当 番 医 制 で 対 応 し て い ま す 。
○ 二 次 救 急 医 療 に つ い て は 、休 日・夜 間 に お け る 診 療 を 病 院 群 輪 番 制( 14 ブ ロ ッ ク )
の 当 番 病 院 で 実 施 し て い ま す 。 ま た 、 救 急 告 示 病 院 は 167 か 所 ( 平 成 20 年 2 月 1
日現在)となっています。
○ 三 次 救 急 医 療 に つ い て は 、大 学 病 院 を は じ め と す る 12 か 所 の 救 命 救 急 セ ン タ ー で 、
24 時 間 体 制 で 高 度 ・ 専 門 的 な 医 療 を 提 供 し て い ま す 。
○ 初期から三次までの救急医療体制では対応が難しい耳鼻咽喉科及び眼科救急患者
に対応するため、県内を6ブロックに分け、休日急患診療所及び在宅当番医制によ
る休日救急システムを本県独自に実施しています。
○ 市町村と連携し救命救急センターへの患者搬送システムとしてドクターヘリコプ
タ ー を 、平 成 14 年 7 月 か ら 東 海 大 学 医 学 部 付 属 病 院 に 配 備 し て い ま す 。平 成 19 年
9月から、高速道路における運用が開始されています。
○ 神 奈 川 県 総 合 医 療 会 館 内 に 神 奈 川 県 救 急 医 療 中 央 情 報 セ ン タ ー を 設 置 し 、医 療 機 関
と 消 防 本 部 等 を オ ン ラ イ ン で 結 び 患 者 の 搬 送 に 必 要 な 情 報 の 提 供 を 24 時 間 体 制 で
行なっています。
精神科救急医療体制
○ 急 な 発 症 や 症 状 の 悪 化 に よ り 早 急 に 適 切 な 精 神 科 医 療 が 必 要 な 場 合 、ま ず 、か か り
つけ医に相談することを原則としています。
精神科救急医療体制としては、外来対応の初期救急から、入院治療が必要な二次
救急、自傷他害のおそれのある場合の警察官通報を、県と横浜市及び川崎市が協調
し 、 県 内 の 精 神 科 医 療 機 関 の 協 力 を 得 て 実 施 し て い ま す 。 症 状 に 応 じ 365 日 24 時
間体制で対応しています。
ア 平日昼間の体制
・ 平 日 昼 間 の 精 神 科 救 急 医 療 の 相 談 は 、保 健 福 祉 事 務 所 を 窓 口 と し 、医 療 機 関 の 紹 介
など相談援助を行っています。また、自傷他害のおそれのある場合の警察官通報も
保健福祉事務所が窓口となり、精神保健福祉法に基づく通報等の受理及び調査を行
い、全県4ブロック体制で輪番制の協力病院において診察を行っています。
イ 平日夜間・深夜・休日の体制
・ 本 人 、家 族 等 か ら の 相 談 は「 精 神 科 救 急 医 療 情 報 窓 口 」で 対 応 し 、全 県 体 制 で 、必
要に応じて、輪番制の当番診療所や当番病院を紹介しています。また、自傷他害の
おそれがある場合の警察官通報は「警察官通報受付窓口」で受理及び調査を行い、
基幹病院または輪番制の準基幹病院において診察を行っています。
ウ 精神科救急における身体合併症患者の受入体制
・ 精 神 科 救 急 医 療 に よ り 入 院 し 、更 に 身 体 疾 患 に お い て 積 極 的 な 治 療 が 必 要 な 場 合 の
受入体制を整備し、適切な医療の提供と精神科救急医療システムの円滑な運用を図
っています。(身体合併症転院受入病院)
協 力 病 院 36 病 院
基幹病院 7病院
当番診療所 9カ所
当 番 病 院 41 病 院
身体合併症転院受入病院 3病院
準 基 幹 病 院 21 病 院
小児医療対策
(1) 小児の健康状態の相談
・ 夜間における子どもの体調の変化や症状に関し、保護者等が判断に迷った場合に、
電話により看護師等が必要な助言や医療機関等の案内を行なう、『かながわ小児救
急 ダ イ ヤ ル 』 を 平 成 17 年 7 月 1 日 か ら 実 施 し て い ま す 。
( 2 ) 小 児 救 急 医 療 体 制 ( 平 成 19 年 時 点 )
・ 初 期 救 急 ( 比 較 的 軽 症 の 救 急 患 者 の 医 療 )に つ い て は 、 県 が 支 援 す る 14 か 所 を は
じめとした休日夜間急患診療所等で対応しています。
・ また、二次救急(緊急手術や入院を必要とする小児救急患者の医療)については、
全 県 14 ブ ロ ッ ク 体 制 で 輪 番 制 の 当 番 病 院 等 で 対 応 し て い ま す 。
・ そ し て 、三 次 救 急 医 療( よ り 高 度 で 特 殊 ・専 門 医 療 が 必 要 な 重 症 の 小 児 救 急 患 者 へ
の医療)については、神奈川県立こども医療センターと救命救急センターで対応し
ています。
周産期医療対策
(1) 周産期医療協議会の設置
・ 周 産 期 に お け る ハ イ リ ス ク 患 者 に 対 し て 、医 療 機 関 等 の 協 力 を 得 て 、妊 娠 、出 産 か
ら新生児に至る総合的な診療体制を確保し、もって母親と胎児・新生児の生命の安
全と健康を守ることを目的として周産期医療協議会を設置しています。
(2) 周産期医療体制
・ 県内の分娩を取扱う施設数は、本県の調査結果では、減少が見られます。
分娩取扱い施設数の推移(各年4月1日時点)
施
設 平 成 15 年 平 成 18 年 平 成 19 年
病
院
74
73
67
診療所
80
58
55
助産所
27
29
31
計
181
160
153
出 典 「 産 科 医 療 及 び 分 娩 に 関 す る 調 査 」 神 奈 川 県 ( 平 成 18 年 3 月 、 平 成 19 年 5 月 )
・ ま た 、高 度 な 診 療 を 要 す る リ ス ク の 高 い 分 娩 を 扱 う 医 療 機 能 と し て 、ハ イ リ ス ク 周
産 期 救 急 患 者 に 適 切 な 医 療 を 24 時 間 体 制 で 提 供 す る た め 、 総 合 周 産 期 母 子 医 療 セ
ンター(※)を整備するとともに、搬送先医療機関を確保するために、周産期救急
医療システムを構築しています。
※ 総合周産期母子医療センター
M F I C U ( 母 体 ・ 胎 児 集 中 管 理 治 療 室 Maternal Fetal Intensive Care Unit の
略 ) と N I C U ( 新 生 児 集 中 管 理 治 療 室 Neonatal Intensive Care Unit) を 備 え 、 妊
娠中毒症、合併症、切迫早産など母体や胎児におけるリスクの高い妊娠に対する医療
及 び 高 度 な 新 生 児 医 療 等 を 24 時 間 体 制 で 行 う こ と が で き る 施 設 で す 。
【 総 合 周 産 期 母 子 医 療 セ ン タ ー 】 ( 平 成 20 年 2 月 現 在 )
県立こども医療センター・北里大学病院・東海大学医学部付属病院・横浜市立大学附
属市民総合医療センター
メディカルコントロール
すべての救急傷病者に対して医師が現場まで出向いて対応することは,わが国の現
状では非現実的であり,救急隊員が,医師の代わりに現場で傷病者の観察・判断と必
要な処置を行わなければならないことになる。そのためには,救急隊員が傷病者の重
症 度 ・ 緊 急 度 を 適 切 に 観 察 す る 「眼 」や 「 耳 」と , 確 実 な 処 置 が で き る 「手 」 を も つ こ と が
必要になる。これらの応急処置のなかには医行為に相当するものも含まれており,法
的にも医師による指導監督が求められることになる。そこで,医師には救急隊員への
教育のほかに
リアルタイムでの指示・指導・助言が,また事後における救急隊活動の適否の判断
などを行うことが要求される。このように救急隊活動全般に対して,これを医学的に
ふ か ん・監 修 し ,救 急 隊 活 動 の 「質 の 管 理 」を 行 う シ ス テ ム を 「メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル
体 制 」と い う 。言 い 換 え れ ば ,プ レ ホ ス ピ タ ル ケ ア に お い て 救 急 隊 員 が 傷 病 者 に 提 供 す
る
医 療 サ ー ビ ズ の 「品 質 管 理 」を 行 う シ ス テ ム と い う こ と に な る 。
一 般 的 に 「品 質 管 理 」に あ た っ て は ,ま ず 計 画 を 立 て (Plan),そ れ に 従 っ て 実 行 し( Do),
そ の 結 果 を 確 認 し (Chec k),必 要 に 応 じ て 修 正 す る (Ac tion)と い う , PDCA サ イ ク ル "
が 用 い ら れ る 。メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル に お け る 一 連 の 作 業 に も , 活 動 基 準 と な る プ ロ
ト コ ー ル の 作 成 や 教 育 (Plan),実 際 の 現 場 活 動 や 医 師 の 指 示 ・指 導 ・ 助 言( Do),事 後
検 証 (Chec k),フ ィ ー ド バ ッ ク と 再 教 育 (Ac tion),と い う サ イ ク ル を 当 て は め る こ と が
でき,これを通して救急隊活動の継続的な品質管理と品質改善が行われるのである。
1
種類
メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル 体 制 の 因 子 と し て は ,「 指 示・指 導・助 言 」,「事 後 検 証 」,
「再 教 育 」 の 3 つ が あ る 。 メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル は 直 接 的 メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル
と,間接的メディカルコントロールの2つに人別される。
<直接的メディカルコントロール>
(オ ン ラ イ ン メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル )
医療機関の医師,あるいは消防本部に待機する医師が,電話や無線などにより救
急現場,または搬送途上の救急隊員と直接に情報の交換を行い,救急隊員に対して
観察,処置,病院選定などに関する指示,または指導・助言を与えることである。
救急現場において救急隊員に直接,口頭で指示,指導・助言などを与える場合もこ
れ に 含 ま れ る 。 こ れ は 医 師 に よ る 「具 体 的 指 示 」に 代 わ る も の で あ る 。
<間接的メディカルコントロール>
(オ フ ラ イ ン メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル )
救急現場および搬送途上における観察・処置や搬送方法に関するプロトコールの
策定,救急活動記録に基づく救急隊員活動の医学的な検証とフィードバック,病院
実 習 な ど の 教 育 カ リ キ ユ ラ ム の 作 成 と 実 施・評 価 ,症 例 検 討 会・研 究 会 な ど の 実 施 ・
参加など,事前・事後において行われる救急隊活動にかかわる施策,評価,教育の
ことをいう。
2
医師による指示・指導・助言
救 急 現 場 に 出 動 中 の 救 急 隊 員 が , そ の 「 眼 」や 「耳 」 で 得 た 情 報 を リ ア ル タ イ ム に 医
師に伝え,指示,指導・助言を得ることにより,医師の側からみれば,より早期か
ら傷病者に対する医療の提供を行おうとするものである。救急救命士法では,救急
救命処置のなかの特定行為については医師の具体的指示が必要と定めており,この
場 合 ,交 信 に よ る リ ア ル タ イ ム の 医 師 の 指 示 は 必 須 で あ る 。そ の た め に は ,24 時 間
365 日 こ わ た っ て 救 急 隊 員 と 医 師 と が 直 接 交 信 で き る 体 制 を 整 備 す る こ と と , 救 急
隊員が適切に傷病者の情報を伝達できる能力を備えていることが要求される。
前者の体制整備には,地域のメディカルコントロール協議会の資質や,メディカ
ル コ ン ト ロ ー ル に か か わ る 医 師 の 地 域 の 救 急 医 療 (プ レ ホ ス ピ タ ル ケ ア を 含 む )に 対
する認識がきわめて重要である。具体的には地域のメディカルコントロールを担当
す る 医 療 機 関 に は ,救 急 現 場 か ら の 連 絡 を 受 け る
ホ ッ ト ラ イ ン "が 設 置 さ れ ,医 師
がこの回線に即応するシステムが必須である。特定行為の実施のさいに求められる
医 師 の 「具 体 的 指 示 」は , 単 な る 「許 可 」で あ っ て は な ら な い 。
3
プロトコールの作成と遵守
(1)
プロトコールとは
病院前救護におけるプロトコールとは,傷病者に影響を与える行為に関してそ
の手順を文書化したものであり,医学的に正しいことが証明されたものである。
通常用いられるマニュアルや指針と違って,傷病者に直接関係する処置などにつ
いて医学的根拠に基づく,いわば医師による指示書の意味合いももっている。救
急の現場では救急隊員,救急救命士などが行う医行為に対し,直接医師から指導
や指示を受けることは困難な状態にある。そのためにあらかじめ必要な処置や行
動を明確にしておくことが必要であり,プロトコールの求められるゆえんでもあ
る。
プロトコールは簡素化してアルゴリズムやフローチャートのかたちで表現され
ることが多い。
救急医療機関の分布や機能,道路条件,メディカルコントロールにかかわる医
師の状況など地域差がある可能性がある。そのためにプロトコールは,各地域の
メディカルコントロール協議会が各地の救急医療事情に応じたものによって策定
すればよいこととされている。
(2)
プロトコールに基づく行動
救急隊員が傷病者に提供する医療の質を保つためには,救急隊員活動の内容を
「標 準 化 」 す る こ と が 大 切 で あ る 。 経 験 に 則 っ た 活 動 だ け に 頼 ら ず , 医 学 的 根 拠 に
基 づ く 一 定 の 活 動 基 準 (プ ロ ト コ ー ル ) を も つ こ と に よ り , 普 遍 性 の あ る 標 準 的 な
プレホスピタルケアが実践されることになる。後述する事後検証作業もこのプロ
トコールに基づいて行われることが望ましい。定められたプロトコールに従った
救急活動を実施するかぎり,救急隊員活動の質は一定のレベルで保証される。医
療機関側と消防機関側が同一のプロトコールを共用することは,両者間の救急医
療連携をより密にする。プロトコールは医師による指示書でもある。プロトコー
ルを遵守することは医師の包括的指示下にあることをも意味する。もっとも実際
の救急活動において,プロトコールに合致しない事案に遭遇したさいには,オン
ラインメディカルコントロールによる補完が行われなければならない。
4
事後検証
救急隊員活動記録票は事後検証を進めるための重要な情報源であり, 医師の診療
記 録 "や
看 護 師 の 看 護 記 録 "に 相 当 す る も の で あ る 。 検 証 を 担 当 す る 医 師 は こ こ に
記載される情報をもとに,救急隊員の活動を医学的見地から評価する。正確な記載
がない場合には事後検証は形骸化し,救急活動の質の保証は不可能となる。オンラ
インメディカルコントロールにおける傷病者情報の正確な伝達と同様,オフライン
メディカルコントロールにおける救急隊員活動記録票の正確な記載は,メディカル
コントロール体制の実行に欠かすことができない事柄である。
救急隊員活動記録票は,検証医や地域のメディカルコントロール協議会によって
様式が作成されることになる。心肺停止と心肺蘇生の事例については,ウツタイン
様式に基づいた記録が参考にされる。心肺停止や重症外傷などは重要な検証対象に
なるが,より幅広い検証対象が設定されることが望ましい。事後検証では,項目に
沿って救急隊員活動が評価される。プロトコールに則った活動が行われていたか否
かは評価のうえで重要であり,とくに,禁忌事項に抵触していた場合には指摘のう
え指導,再教育がなされることがある。同様の事実が頻回に生じるときは,プロト
コールに問題があるとしてプロトコールの改訂が検討される。これらの作業が
PDCA サ イ ク ル "を 成 立 さ せ る こ と に な る の で あ る 。
5
教育・研修
教育・研修には,さまざまな機会が利用される。事例検討会,救急医学・救急医
療に関する学会や研究,全国救急隊員シンポジウム,各県症例検討会,実技訓練へ
の 参 加 な ど で あ る 。 JPTEC プ ロ バ イ ダ ー コ ー ス , ACLS コ ー ス な ど も , 研 修 の 場
として全国に広まっている。
病院実習は教育・研修のなかでもとくに重要である。病院実習では,搬送されて
く る 傷 病 者 の 診 療 に 医 師 , 看 護 師 と と も に か か わ る こ と に よ り , 医 療 従 事 者 "と し
ての自覚を得ることができ,救急隊員としてのモチベーションを長く,高く保つこ
とにも役立つと思われる。また,傷病者の観察や判断,処置,情報伝達などの日常
の救急活動を第三者の立場からみることによって,医療機関が求める救急活動を考
える機会にもなる。視点を変えることがみずからの業務を客観的に評価する姿勢を
育むのである。患者に直接接して,患者について理解する場としての価値も高い。
適切な実習のカリキュラムや到達目標,評価方法が作成されていると実習効果は高
まる。
救急活動の基本
1
救急活動の基本は、安心・安全・沈着冷静・確実・迅速ですが、その根底に人に対
する思いやりの心を持ち、患者の立場になって、患者に今何をすべきかを考え、それ
を 患 者 に 対 し 行 う こ と と 、救 急 隊 の 活 動 の 基 本 は 3 人 の た め 、そ の 3 人 が 心 を 一 つ に
し、協力しながら行うことが重要です。また、各地域のメディカルコントロールで定
めた各種のプロトコールに従い救急活動を行うことが基本です。
1
そくいん
こころ
じん
はし
惻隠 の 心 は仁 の端 なり(孟子)
「惻隠の情」
いま、よちよち歩きの子供が井戸に落ちそうになっているとしよう。それを見た通
りがかりの人は、誰でも我を忘れて走りより、その子を助けようとするに違いない。
それは別に、子供を救ってその親とお近づきになりたいと考えるからではない。世間
の人にほめてもらうためでもない。また助けなければ非難されるということが怖いか
ら で も な い 。そ れ は 人 が だ れ で も「 か わ い そ う だ 」と 思 う 心 を も っ て い る か ら な の だ 。
「人に対する同情、思いやりの心が仁につながる」と孟子はとき、それを惻隠の心
は仁の端と述べた。
他人のことをいたましく思って同情する心は、やがては人の最高の徳である仁に通
ずるものであり、人間の心のなかには、もともと人に同情するような気持ちが自然に
備わっているため、自然に従うことによって徳に近づくことができる。
惻隠:人の困っているようすをかわいそうに思うの心
仁:仁は人と人が親しむという意味で、他者への親愛の情である。
2
三人分
相田みつを
三人分の力で頑張れば、どんな苦しみにも耐えられるはずだ
三人分の力でふんばれば、どんなに険しい坂道でも超えられるはずだ
三人分の力を合せれば、どんなに激しい波風でもなんとか乗り切れるはずだ
そして
三人分の力を合せれば、少なくとも人並みぐらいの仕事はできるはずだ
例え、わたしの力は弱くとも・・・・・・
救急活動の基本
2
救急活動の基本原則は,傷病者の救命を主眼とし,苦痛の軽減や症状悪化の防止を
図るために観察および必要な処置を行い、すみやかに傷病状態に適応する医療機関へ
搬送することである。
救急隊員は,傷病者や家族などの立場になっていたわりと思いやりの心をもち,不
安 感 や 焦 燥 感 の あ る 傷 病 者 と 家 族 ,ま た 衆 人 環 視 の 中 で 行 動 す る こ と を 自 覚 し ,沈 着 ,
冷静に行動しなければならない。
消防法第 2 条第 9 項
救急業務とは、災害により生じた事故若しくは屋外若しくは公衆の出入する場所に
お い て 生 じ た 事 故( 以 下 こ の 項 に お い て「 災 害 に よ る 事 故 等 」と い う 。)又 は 政 令 で 定
める場合における災害による事故等に準ずる事故その他の事由で政令で定めるものに
よる傷病者のうち、医療機関その他の場所へ緊急に搬送する必要があるものを、救急
隊 に よ つ て 、医 療 機 関( 厚 生 労 働 省 令 で 定 め る 医 療 機 関 を い う 。)そ の 他 の 場 所 に 搬 送
すること(傷病者が医師の管理下に置かれるまでの間において、緊急やむを得ないも
の と し て 、 応 急 の 手 当 を 行 う こ と を 含 む 。) を い う 。
1
救急隊と救急車
(1)
救急隊の編成
消防法施行令第四十四条
救 急 隊( 次 条 第 一 項 に 定 め る も の を 除 く 。)は 、救 急 自 動 車 一 台 及 び 救 急 隊 員 三 人
以上をもつて、又は航空機一機及び救急隊員二人以上をもつて編成しなければなら
な い 。た だ し 、救 急 業 務 の 実 施 に 支 障 が な い も の と し て 総 務 省 令 で 定 め る 場 合 に は 、
救急自動車一台及び救急隊員二人をもつて編成することができる。
2
前 項 の 救 急 自 動 車 及 び 航 空 機 に は 、傷 病 者 を 搬 送 す る に 適 し た 設 備 を す る と と も
に、救急業務を実施するために必要な器具及び材料を備え付けなければならない。
3
第 一 項 の 救 急 隊 員 は 、次 の 各 号 の い ず れ か に 該 当 す る 消 防 職 員 を も つ て 充 て る よ
うにしなければならない。
一
救急業務に関する講習で総務省令で定めるものの課程を修了した者
二
救急業務に関し前号に掲げる者と同等以上の学識経験を有する者として総務
省令で定める者
「救 急 業 務 実 施 基 準 」 に お い て は , 救 急 救 命 士 の 資 格 を 有 す る 隊 員 お よ び 消 防 学 校 の
教 育 訓 練 の 基 準 に お け る 救 急 科 (250 時 間 ) を 修 了 し た 隊 員 ( 有 資 格 者 救 急 隊 員 ) を も っ
て救急隊を編成するように努めることとされている。
(2)
①
救急自動車
標準型救急自動車
高規格救急自動車
2
交信と出動
(1)
通信体制
通 信 体 制 は , 消 防 本 部 の 管 制 (消 防 指 令 室 ), 救 急 隊 , 医 療 機 関 な ど を 結 ぶ 無 線
通信網などからなっており,迅速な救急活動を実施するうえで必要不可欠なシス
テムである。また,地震などの大規模災害発生時においてライフラインに障害が
発生した場合にも,救急活動に支障が出ることがないようなシステムとなってい
る。
(2)
ア
救急隊が行う通信
現場即報
①事故の概要,②傷病者の状況・人数、③群衆の動静・二次災害発生危険,④救
助活動および応援隊の必要性有無,⑤その他救急活動上必要な事項などの情報
応 援 要 請 (他 隊 要 請 , 医 師 要 請 )
イ
① 消 防 隊 数 (救 急 隊 ,消 防 隊 ,救 助 隊 な ど )と 任 務 ,② 要 請 の 理 由 ,③ 必 要 資 器 材 ,
④医療や警察機関が必要とする情報など
ウ
指示要請
①傷病者の性別・年齢、②事故概要,③傷病者の観察結果,④既往症などの情報
を簡潔に医師に伝達したうえで指示を得る。
エ
助言要請
傷病者に対する応急処置や搬送先医療機関選定の判断について,救急隊のみでは
判断が困難な場合に,救命救急センターなどの医師と直接連絡をとり医学的見地か
らの助言を受けるものである。
オ
現場報告
①バイタルサインおよび出血,②損傷部位・程度,③性別・年齢,④傷病者が複
数 の 場 合 は そ の 総 数 (推 定 含 む )⑤ 事 故 の 形 態 ・事 故 内 容 な ど で あ る 。ま た ,二 次 的
事項として,①事故などの発生要因および自動車,器物などの損傷状況,②応急処
置の実施内容,その後の傷病者の状態,③救助活動などが伴う事故ではその状況と
経過,④搬送先医療機関の選定,⑤そのほか救急活動上必要な事項などの情報
(3)
出動指令
① 出 場 場 所 , ② 事 故 の 概 要 ,③ 傷 病 者 の 状 態 , ④ 症 状 , ⑤ 受 傷 部 位 , ⑥ 主 訴 ,⑦ 性
別 , ⑧ 年 齢 ,な ど の 救 急 活 動 上 必 要 と 思 わ れ る 内 容 を 簡 潔 に 把 握 す る 。
原則として救急事故の発生場所にもっとも近い救急隊に出動の指令を下す。
キ
口頭指導
① 心 肺 蘇 生 法 ,② 気 道 確 保 ・ 異 物 除 去 ,③ 止 血 法 ,④ 熱 傷 手 当 ,⑤ 指 肢 切 断 手 当 な
どの応急手当に関する指導を行う。
3
初期評価と対応
(1)初期評価の意味
初期評価は、傷病者を中心とした周囲の状況を把握する環境観察と傷病者の状
態を把握する傷病者観察に分類される。
現 場 到 着 時 に は ,環 境 観 察 か ら 開 始 し ,二 次 災 害 の 危 険 性 ,事 故 内 容 (受 傷 機 転
な ど ),傷 病 者 の 人 数 ,受 傷 状 況 ,受 傷 部 位 や 活 動 障 害 と な る 衆 人 の 動 向 ,傷 病 者
の搬送経路などを簡潔に把握し,消防隊・医師・警察機関などと連携が必要と判
断される場合は,早期に応援要請し組織的な活動体制を確立する。
傷病者観察は,傷病者に近づきながら離れた場所からの視認によって行う場合
と傷病者に接触してから行う場合とに分けられ,迅速に傷病者の観察を行い重症
度・緊急度を判断する。
(2)
ア
各種救急現場の評価
火災
火災の規模や燃焼物の特性などで発生する傷病者の状況は異なる。また,火災に
よる傷病者は,熱傷,各種ガス中毒,転倒・転落・墜落による創傷を負い重症化を
きたしている場合が多い。火災の種別によっては,多数の傷病者の発生や,危険物
による有毒ガスなどの蔓延も生じる。とくに,ガス爆発などは瞬時に現場の状況が
変化するため,二次災害発生の危険性が高く、傷病者、関係者,救急隊員などに対
する安全管理に配慮する。
イ
交通事故
高速道路,軌道敷内などで発生した交通事故においては,二次災害が発生する危
険が高い。高速道路においては交通規制の状況,軌道敷内においては列車の運行状
況を確実に把握し,安全管理体制を確立して活動する。二次災害発生の危険性のあ
る現場では,傷病者を安全な場所へ移動してから応急処置を開始する。また,傷病
者が複数発生している場合や救急隊や関係者のみでは現場における安全確保が困難
な場合は,応援隊、警察官などを早期に要請し、連携した活動を実施する。
ウ
救助事故
車両や大型の機械などに傷病者が挟まれ,救急隊のみでは傷病者を救出できない
場合は,救助隊などを要請する。救助活動時には,事故車両からの危険物の流出状
況,機械の操業状況などの把握が必要となる。必要に応じて警察官や関係者と連携
し,救助にさいして医療行為が必要となる場合は,早期に現場に医師の出場を要請
する。
エ
急病
一般住宅や事業所においては,狭隘な階段や廊下,家具などの障害物があり,搬
送や応急処置に支障をきたすことがあるため,活動スペースの確保に配意した環境
観察を実施する必要がある。また,大型のショピングセンターや駅舎などの公衆が
多く出入りする場所で傷病者が発生した場合は,衆人の行動に対する現場統括が必
要になる。このような場合には,消防隊が早期に応援し,効率的な救急活動が実施
できる体制を確保する。
オ
ガス漏洩事故
ガス漏洩事故では,ガスの特性によってさまざまな中毒症状が生じる。しばしば
粘膜刺激症状を訴える傷病者が多数発生するほか,ガスが可燃性の場合,爆発によ
り二次災害が発生する危険性が高い。また,ガスの種類,漏洩箇所,漏洩範囲を特
定することがむずかしく,活動に必要な情報については,関係者から入手する必要
がある。
傷病者の救護にあたっては,消防隊と連携し二次災害の発生防止に留意
し活動する。
(2)
二次災害の防止
救 急 活 動 は 、 救 急 出 動 か ら 帰 署 (所 )ま で の 安 全 が す べ て 確 保 さ れ て , そ の 目 的
が達成されるものである。各種救急現場の特性を考慮し,状況に応じた安全管理
体 制 を 早 期 に 確 保 す る と と も に ,ど の よ う な 状 況 下 に お い て も ,傷 病 者 ,関 係 者 ,
協力者などの安全確保を最優先しなければならない。
救 急 隊 員 は ,救 急 現 場 に 潜 ん で い る さ ま ざ ま な 危 険 を 早 期 に 察 知 す る と と も に ,
二次災害の発生が予測される場合には早期に応援隊を要請することになる。
4
傷病者の観察
救急隊員が行う観察の項目については,
「 救 急 隊 員 の 行 う 応 急 処 置 の 基 準 」に 定 め ら
れている。
(1)
状況聴取
救急現場においては,限られた時間のなかで,傷病者,関係者,現場に居合わ
せ た 救 助 者 (バ イ ス タ ン ダ ー )な ど か ら 傷 病 者 の 主 訴 , 現 病 歴 , 既 往 症 , 服 用 薬 の
有無,かかりつけ医療機関などの救急活動に有用な情報の聴取を行い,救急現場
の全体像を把握して,救急隊の具体的な行動方針を立てる必要がある。
観 察 は 傷 病 者 を 視 認 で き た 地 点 か ら 開 始 す る 。傷 病 者 に 近 づ き な が ら ,大 出 血 ,
嘔吐,四肢の変形の有無など,生命に危険を及ぼす所見をいち早く把握する。ま
た,高エネルギー事故では,脊髄保護の観点から,傷病者が不用意に体を動かさ
ないよう傷病者の正面から接近するなどの配意も必要である。
(2)
主訴と主症状
症状は,傷病者本人が訴える自覚的症状と,救急隊員などの第三者が傷病者を
観察して得られる他覚的症状に分類される。
救急現場においては,傷病者はさまざまな症状を呈するが,救急隊員が応急処
置や医療機関選定を行ううえで重要な判断要素となる主訴や主症状を明らかにす
ることが重要である。
(3)
バイタルサインとその評価
バイダルサインは数値でとらえることが可能であるために,傷病者の状態を客
観的に評価することができ,正確な情報の伝達も可能である。救急現場では,呼
吸,脈拍,血圧を正確に把握し,傷病者を評価する。
ア
呼吸
呼吸の有無,回数,様式,呼吸音などを観察する。呼吸が感じられないな場合は
人工呼吸が必要であり,呼吸の性状に異常があれば,人工呼吸や酸素投与などが必
要となる。
イ
脈拍
脈拍は,心臓から全身に送り出された血液の拍動を,動脈が体表近くを走る部位
で観察する。通常は橈骨動脈で触知するが,ここで拍動が触知できない場合や弱い
場合は,上腕動脈,大腿動脈,総頸動脈で触知する。脈拍は強弱,回数ばかりでな
く,リズム,左右差,上下肢差などについても確認する。総頸動脈で脈拍を触知で
きない場合は,胸骨圧迫心臓マッサージに着手する必要がある。
エ
血圧
血圧は傷病者の循環状態を知るうえで重要な指標であり,平常血圧との差,また
左右差や上下肢差は重篤な疾病の所見である場合がある。また,ショック状態の進
行,心疾患などが疑われる傷病者の循環状態を把握する場合などにも血圧の測定は
有用である。
(4)
重症度と緊急度の判断
重 症 度 と 緊 急 度 の 判 断 は ,発 症 の 経 緯 ,受 傷 機 転 ,傷 病 者 因 子 (年 齢 ,既 往 症 な
ど ),バ イ タ ル サ イ な ど を 基 に 実 施 し ,重 症 度 や 緊 急 度 が 高 い と 判 断 し た 場 合 に は ,
高度な医療処置が可能な救命救急センターなどを選定する。意識清明で,バイタ
ルサインも安定しているような場合においても,安易に軽症と判断してはならな
い。外傷においては受傷機転,熱傷においては熱傷面積と部位,中毒においては
中毒物質の摂取量や経過時間が重症度と緊急度を判断するうえで重要な指標とな
る。また,傷病者のパイダルサインは,時間ともに変化するため,重症度と緊急
度の評価については,医師が引き継ぐまで継続して実施しなければならない。傷
病者のパイダルサインが変化して初期の重症度と緊急度の評価に修正を加える場
合には,その結果に応じて搬送する医療機関の選定も修正する必要がある。
5
二次評価と応急処置
(1)
二次評価の意味
災害の種別や規模によっては,傷病者に対する初期評価が十分にできない場合
があり,また,傷病者の状態も時間とともに変化する。そのため,傷病者の初期
評 価 を 終 了 し ,ス ト レ ッ チ ャ ー や 救 急 自 動 車 内 に 収 容 後 ,二 次 評 価 (詳 細 観 察 や 継
続 観 察 )を 行 い ,実 施 し た 処 置 の 評 価 や 新 た な 処 置 の 実 施 に つ い て 判 断 す る 必 要 が
ある。
(2)
応急処置の実施
初期評価と二次評価の結果に基づき,傷病者に必要な応急処置を判断し実施す
る 。救 急 隊 員 が 現 場 で 実 施 で き る 応 急 処 置 の 内 容 に つ い て は ,「救 急 隊 員 の 行 う 応
急 処 置 等 の 基 準 」に 定 め ら れ て い る 。
救急隊員による応急処置には,つぎのような基本原則がある。
①短時間に行うことができ,効果をもたらすことが客観的に認められている応
急処置を実施する。
②傷病者の状態から,応急処置を行わなければ傷病者の生命が危険であり,ま
た,その症状が悪化すると認められる場合に応急処置を実施する。
③傷病者を医療機関に収容し,医師の管理下におくまでの間に応急処置を実施
する。
(3)
状態の変化と対応
傷病者の状態は時間の経過とともに刻々と変化する。体位変換時やストレッチ
ャー収容時などに容態の変化が起こりやすい。救急現場においては,傷病者の初期
評価にとらわれることなく,継続的な観察を実施し,迅速に容態の変化に対応する
ことが重変である。
6
搬送方法と搬送先医療機関の選定
(1)
搬送の種類と方法
初期評価と応急処置を行い,傷病者を各種のストレッチャーを活用して救急自
動車内に収容する。搬出路が狭い場合は,簡易担架や徒手による搬送を行う。搬
送は傷病者にとって大きな負担となる行為である。呼吸,循環の管理に十分配意
して継続的な観察を行うとともに転落防止などの安全管理に配意して活動する。
(2)
医療機関の選定
医療機関の選定は救急活動のなかで重要な要素である。その基本原則は,傷病
者をその症状に適応したもっとも近い医療機関に搬送することであるが,重症
度・緊急度に応じて,あるいは必要とされる医療処置によって臨機応変な判断が
必要になる。傷病者などから特定の医療機関への搬送を依頼された場合には,傷
病者の症状,搬送時間などから総合的に判断する。
救 急 隊 は 医 療 機 関 の ① 診 療 科 目 , ② 空 床 数 , ③ ICU, CCU, 救 命 救 急 セ ン タ ー
などの状況を事前に把握しておく必要がある。必要により医師に助言を求めて医
療機関を選定する。
(3)
医療機関への情報提供
傷病者を医療機関に搬送するにあたっては,電話などにより傷病者の①年齢・
性別,②現病歴,③主訴,①観察結果,③既往症,かかりつけ医療機関,⑥応急
処置の内容,⑦到着時刻などを医療機関に伝達しておく。
(4)
医師への引き継ぎ
医療機関に到着後は,傷病者をすみやかに医師の管理下におき,傷病者の観察
結果,応急処置および症状経過などを医師に伝達する。また,傷病者の所持品に
ついても医師,看護師などに確実に引き継ぐ。
7
搬送における留意点
(1)
交通事故の防止
救急自動車の交通事故は,傷病者の容態に悪影響があるとともに,心理的にも
大きな動揺を与えることとなるため,救急隊員は安全管理を最優先し,交通事故
防止に努める必要がある。
交 通 事 故 が 発 生 し た 場 合 は , 「道 路 交 通 法 」に 規 定 さ れ て い る 運 転 の 停 止 , 負 傷
者の救護,道路における危険防止,警察官への通報などの交通事故の場合の措置
を行うとともに,応援要請を行う必要がある。
(2)
在宅療法継続中の傷病者
近年,在宅で医療処置を継続している傷病者からの救急要請もみられるように
な っ て き て い る 。救 急 隊 は 傷 病 者 が ど の よ う な 医 療 処 置 を 在 宅 で 継 続 し て い る か ,
または,救急要請に至った原因などを把握したうえで,救急活動を行う必要があ
る。必要な場合には主治医などに処置の内容について助言を求めるとともに必要
により医師を要請する。
(3)
死亡者の取り扱い
救急隊は,傷病者が明らかに死亡している場合または医師が死亡していると診
断した場合は,傷病者を搬送しないことを原則とする。しかし,救急現場におい
て は 「明 ら か に 死 亡 し て い る 」 と 判 断 し が た い 場 合 が 多 く , 死 亡 の 確 徴 が な い か ぎ
りは,必要な処置を行いつつ医療機関に搬送する。
(4)
ア
他の関係機関との連携
医療機関との連携
地域において救急医療体制の問題点や課題などを協議する場を設け,つねに両者
が運携体制の構築と強化に努めることが重要である。
イ
警察との連携
交通事故,加害事故などで警察機関と運携して活動する必要がある場合には,警
察官を現場に要請する。また,傷病者や関係者などが救急隊に危害を加える恐れが
ある場合や傷病者が自己を傷つける可能性がある場合には,警察官に安全の確保を
依頼する。消防法では消防隊員と警察官は互いに協力をしなければならないこと,
救急隊員は救急業務の実施に関して警察官と密接な運絡をとることが定められてい
る。救急隊員は警察官より早く犯罪現場などに到着することが多く,その場合,救
急活動に支障をきたさない範囲で現場保存などに協力することが望ましい。傷病者
の倒れている位置と状態,着衣や血液付着の状況,創傷の部位・程度や凶器などに
ついては活動記録に残し,所定の求めに応じて情報を提供する。
ウ
保健所との連携
感染症の傷病者を搬送した場合は,保健所と連携をとり,消毒方法,業務継続の
可否についての指示を受ける。
8
活動の記録
(1)
救急活動記録
「救 急 業 務 実 施 基 準 」に お い て は , 救 急 隊 員 は , 救 急 活 動 を 行 っ た 場 合 は , 救 急
活動記録票を作成することとされている。また,傷病者を医療機関に収容した場
合は,その事実を確認する医師の署名などを受けるとともに,医師から,傷病名
程度などの所見を聴取し,救急活動記録票に記載しておくものとしている。救急
活動記録票は,救急隊が行った一連の救急活動を記録するためのものであり,検
証の資料となるほか裁判資料として使われる場合もあり,救急隊員が作成するさ
いには,正確性・客観性が求められる。
(2)
救急活動記録票の取り扱い
救急活動記録票の記載内容は,個人情報にあたるため,その取り扱いには十分
注意をはらう必要がある。文書の管理については,地方公共団体ごとの条例に従
う。捜査機関などから,救急活動記録票の記載内容についての照会があった場合
は,条例などに定められた正規の手続きにより行う必要がある。
(3)
救急救命処置録の記載と保存
「救 急 救 命 士 法 」に は , 救 急 救 命 士 は , 救 急 救 命 処 置 を 行 っ た と き は , 遅 滞 な く
救急救命士法施行規則に定められた事項について救急救命処置録に記載しなけれ
ばならないとされている。また,救急救命処置録の保管については,5年間保存
しなければならないとある。
(4)
ウツタイン様式に基づく記録
ウツタイン株式とは,心肺停止症例をその原因,倒れたときの目撃者の有無,
バイスタンダーによる心肺蘇生の有無,医療機関収容後の予後などについて国際
的 に 統 一 さ れ た 基 準 で 分 類 し , 記 録 す る た め の ガ イ ド ラ イ ン で あ る 。 平 成 17 年
1 月 か ら 全 国 の 消 防 本 部 で ウ ツ タ イ ン 様 式 に 基 づ く 心 肺 停 止 (心 肺 蘇 生 ) の 集 計 処
理が開始されており,収集された記録に基づき,救急救命士が行う救急救命処置
の 効 果 な ど を 検 証 し ,プ レ ホ ス ピ タ ル ケ ア の い っ そ う の 充 実 が 図 ら れ る こ と な る 。
救急現場活動の流れ
問
題
救急救命士の救急現場における観察・救命処置は、人的・物的・法的・環境的な
面において困難な面が多い。
1
患者接触まで
(1)
第一報
救急患者に関する情報がしばしば不十分・不正確であることは、救急現場の
宿命である。
救急隊員にとっての第一報は通信指令からの内容であり、パニツクに陥りが
ちな市民からの情報のため不正確な場合が多い。したがって救急救命士は、質
の低い第一報に基づいて、資器材と心の準備を整えつつ現場へ向かう必要かお
る。
(2)
人と物を準備する
救急隊員は、出場中に必要と推測される資器材を準備し、それを搬出する必
要がある。また、搬出したものは必ず持って戻らねばならない。状況によって
は搬出した資器材が足手まといになり、患者搬送が遅れ、肝心の観察がおろそ
かになる危険性さえある。マンパワーの確保のためには消防隊同時出勤の選択
肢があるにせよ、資器材の準備・搬出の判断は難しいものがある。
(3)
周囲の安全確認
救急現場は常に二次災害の恐れをふくんでおり、周囲の安全確認から活動力
が始まるのは救急隊員の専門性である。また安全確保のために消防隊・救助隊
との協働が必要な状況もある。
(4)
感染防御
患 者 か ら の 分 泌 物 、特 に 血 液 を 介 し て の 感 染 に 関 し て は 、現 場 も 病 院 も 同 様 に
危 険 で あ る 。手 袋 ・マ ス ク・ゴ ー グ ル な ど を 各 自 着 用 し 、自 分 を 守 る 癖 を 付 け る
ことは重要である。現在のところ救急救命士が投与する薬剤はプレフィルドシ
リンジのアドレナリンのみであるが、針刺し事故は手袋をしていても生じうる
ことは認識しておく必要がある。
2
患 者 接 触 と CPA に 対 す る 活 動
救 急 救 命 士 は 患 者 接 触 時 に 、通 信 指 令 か ら CPA の 可 能 性 情 報 を 受 け て い て も 、一
か ら の 観 察 、す な わ ち 気 道 開 通 ・呼 吸 運 動 ・頸 動 脈 触 知 ・意 識 の 有 無 の 確 認 を 要 求 さ
れ る 。 活 動 に 際 し て は 、 気 候 ・天 候 ・ 明 る さ ・ ス ペ ー ス ・ 屋 内 か 屋 外 か な ど 、 多 く
の 条 件 が か か わ っ て く る 。 救 助 隊 と の 協 働 が 必 要 な 場 合 も あ る 。 CPA と 判 断 し た
な ら ば 、 CPA プ ロ ト コ ー ル の 包 括 的 指 示 ( オ フ ラ イ ン ・ メ デ ィ カ ル コ ン ト ロ ー ル )
下 の 部 分 に 従 っ て 、 直 ち に CPR を 開 始 す る 。
(1)
①
包括的指示下の活動
窒息に対する対応
現場到着時に意識があり、ハイムリック法が必要な場面は多くはないが、意識
の な い 場 合 は CPR を 施 行 し な が ら の 喉 頭 鏡 と マ ギ ー ル 鉗 子 を 用 い た 異 物 除 去 と
なる。そして現場では患者の体位、術者の位置・スペースなどの条件が悪い場合
が多い。
②
BVM換気
現場では平坦なスペース、患者の頭側のスペースの確保が難しく、顔面や口腔
内の汗、吐物、血液なども除去しにくく、換気を妨げる要因が多い。また、移勤
しながらの十分なマスクフィットや適切な換気は至難の業である。
③
胸骨圧迫
絶え間ない有効な胸骨圧迫のためにはマンパワーが必要である。現場の救急隊
は基本的に3名のみで救急車への搬入、特に階段を下ろすといった悪条件下の作
業を行う必要がある。また、道路狭隘などでは救急車まで到達する間の条件が悪
い。機関員が運転にたずさわる実働人員は2名となる。救急車は振動する。この
ように条件が悪い中で、それでも最大限の胸骨圧迫を目指すことが要求される。
解 決 策 と し て 、消 防 隊 同 時 出 動 が 大 き な 鍵 と な る 。ま た 、自 動 心 マ ッ サ ー ジ 器 を 有
効 に 利 用 す る 必 要 が あ る 。胸 郭 圧 迫 説 を 取 り 入 れ た AutoPuls は 絶 え 間 な い 有 効 な
胸骨圧迫に有用である可能性があり、特に救急隊員による搬送中の使用は将来の
選択肢の1つと言われている。
④
除細動
現場での除細動は、パッド装着までにいくつかのハードルが存在する。水辺や
雨天時の屋外の場合、患者をどこまで移動させるかの判断が要求される。女性の
場 合 や 周 囲 の 人 目 の 状 況 に よ っ て は 、着 衣 裁 断 が た め ら わ れ る 可 能 性 が あ る 。し か
し CPA に 限 れ ば 、状 況 に か か わ ら ず た め ら う こ と な く 裁 断 す る 必 要 が あ る 。 胸 壁
が濡れている場合は乾いた布で拭きとる必要がある。このように現場における活
動では考慮すべき留意点が多い。
(2)
①
具体的指示下の活動
病院連絡
救急救命士は具体的指示の取得と患者搬送のため、病院連絡する必要がある。
短時間での要点を外さない報告が要求されるため、強い集中力が必要である。現
場活動が理路整然としていれば、電話による報告も理解しやすく、指示医師が具
体的指示を出す根拠の決定も容易である。
②
器具を用いた気道確保
救急救命士は、器具を用いた気道確保実施の判断と器具の選択について具体的
指示を得る必要がある。その判断のためには、BVM換気の程度、予想される搬
送所要時間、階段などの悪い搬送条件、吐物逆流の危険性などを併せて考える必
要がある。
気管挿管の難易度を決める周囲の条件として、平坦なスペース、患者の頭側の
スペース、屋内外、天候、口腔内の血液・腫物などがあり、よい条件で気管挿管
できる現場はない。
外 傷 患 者 の 気 道 閉 塞 に 対 し 、現 場 の 救 急 救 命 士 は 全 脊 柱 固 定 下 に 直 ち に 搬 送 す
る。頚椎損傷が疑われる病態は気管挿管の対象外とプロトコールに定める地域が
多いし、現実問題として難易度が高い。
エアウェイスコープミは気管挿管をやさしく実施するために工夫された機器で
あり、ファイバースコープを内蔵し、ブレードの先端部分からの画像を小画面で
直視しつつ、ブレードに彫られた溝をガイドとして挿管チューブを進める。条件
が悪ければ悪いほど有用性が増す機器であるから、将来的にはプレホスピタルに
おける有力な選択肢である。
③
静脈路確保
CPA 患 者 に 対 す る 末 梢 静 脈 路 の 確 保 は 、困 難 な 場 合 が 多 い 。現 場 で は 静 脈 路 確
保を困難にする暗さや振動の因子があり、また清潔操作を病院内と同じレベルで
完璧に行うのは至難の業である。法的に許される選択肢は末梢静脈のみであり、
大 腿 静 脈 で 試 み る こ と も で き な い 。 現 場 に お け る CPA に 対 す る 静 脈 路 確 保 は 、 こ
れらの困難性を克服して初めて実用に耐えうる行為となる。
④
アドレナリン投与
救急救命士は一次ABCDで自己循環再開を得られない場合、次の行動の判断
を迫られる。すなわち現場での自己循環再開を目標としてアドレナリン投与に進
む か 、現 場 で の 自 己 循 環 再 開 を あ き ら め 一 刻 も 早 い 病 院 到 着 を 目 指 す か の 判 断 で
あ る 。社 会 復 帰 症 例 の 大 部 分 が 病 院 前 自 己 循 環 再 開 症 例 で あ る 事 実 か ら 考 え る と 、
選 択 は 前 者 に な る 。し か し 、患 者 の 状 態 、救 急 救 命 士 の 能 力 、周 囲 の 状 況 、地 理 的
条件などから、後者の選択がふさわしい場合もある。
⑤
患者・家族への説明、接遇
現場では、騒然とした環境と、救急救命士への信頼度の問題などから、困難な
作 業 と 思 わ れ る 。 し か し 、処 置 の 高 度 化 を 含 め て 住 民 に 質 の 高 い サ ー ビ ス を 行 い 、
それを理解してもらうために、今後さらに重要性を増していく項目である。患者
と家族の立場に立ってわかりやすく説明することが基本であり、状況に応じたセ
リフをあらかじめ準備しておくのもよい方法である。但し、同じ言葉で説明して
も接遇の善し悪しにより相手の受け取り方は大きく異なる。視線の配り方、声の
トーン、立ち居振る舞いなどのすべてが係わってくる。周囲を興奮させない雰囲
気は、自信をもった活動によりもたらされるのも事実である。
3
呼吸・循環を認める場合の活動
(1)
生命的危機を念頭においた観察
C P A で な い 場 合 の 気 道 ・呼 吸 ・循 環 ・ 意 識 の 観 察 (生 理 学 的 評 価 )は 、致 命 的 処 置
を 優 先 し て 迅 速 に 実 施 す べ き か 否 か の 判 断 に 直 結 す る 。 外 傷 の 場 合 は JPTEC の
初 期 評 価 に あ た る 。初 期 評 価 で ロ ー ド & ゴ ー に 該 当 し た 症 例 の 17% が 最 終 的 に 死
亡していたとの報告もあり、その重要性は強調し過ぎることはない。また、初期
評価の重要性は外傷に限らず内因性疾病を含むすべての病態に当てはまる。
①
気道
気 道 狭 窄 は シ ー ソ ー 呼 吸 、胸 骨 上 窩 の 陥 没 、い び き 様 呼 吸 、ゴ ロ ゴ ロ 音 な ど を 視
診することによって判断できる。
②
呼吸
聴診により得られる情報は確かに多い。しかし現場では騒音や救急車の振動に
より、聴診所見の判断は必ずしも容易でない。一方、視診による呼吸数、深さ、
パターンの観察は、現場でも実施可能であり重要な所見をもたらす。触診でわか
ることに皮下気腫、胸郭の動き、呼気延長があり、これらも現場で取れる有力な
観 察 所 見 で あ る 。触 診 と 聴 診 に つ い て は 脱 衣 ま た は 着 衣 裁 断 の 判 断 が 必 要 で あ る 。
視診によりおおよその重篤性を判断し、引き続いて脱衣または着衣裁断の説得を
行う手順が必要な場合もある。
③
循環
橈骨動脈触知により得られる情報は多い。頻脈は何かを回数で補っている証拠
であり、現場でも簡単に取れる重要な所見である。脈の強さ、調律の不整も重要
である。強さと間隔の両者が不規則な脈は絶対性不整脈と呼ばれ、それだけで心
房細動を疑うことができる。爪床リフィリングクイムや末梢冷感も重要な所見で
あるが、環境温度や浸水の有無などによる評価の限界は知っておく必要がある。
モニターを装着した段階で、心電図波形、心拍数、経皮的酸素飽和度、血圧の
情報が得られる。脈の触れやすさと血圧が必ずしも一致しない場合も、ここで発
見される。パルスオキシメーターでは、波形を拾わないこと自体が末梢循環不全
の重要な評価である。現場における五感を働かせた観察は重要であるが、加えて
モ ニ タ ー を 用 い れ ば さ ら に 病 態 把 握 が 可 能 と な る で 、迅 速 な 装 着 を 心 が け る べ き
で あ る 。 重 篤 と 判 断 し た な ら ば 、AED パ ツ ド を 装 着 す る こ と も で き る 。
④
意識レベル
患者接触から病院到着までの意識レベルの変化を継続的に観察することは、病
態 の 緊 急 性 を 評 価 す る う え で 極 め て 重 要 で あ る 。 救 急 現 場 で は 、 JCS と GCS の
両者で意識レベルを評価することが多い。特殊な道具を必要とせず、多くの時間
を要することなく評価が可能である。
⑤
外表面の重大所見および体温
特 に 外 傷 の 場 合 は 重 要 な 観 察 項 目 で あ る 。観 察 の 際 に は 着 衣 裁 断 が 必 要 と な る 。
現場において簡単に承諾しない患者数はさらに多い。推定される重症度と周囲の
状況を総合的に判断し、必須であると判断したならば強く説得すべきである。
熱射病や偶発性低体温のような環境による傷害の場合、熱感や冷感が重要な所
見 と な る 。 体 温 測 定 部 位 と し て 腋 窩 温 、 鼓 膜 温 の 選 択 肢 が あ る が 、環 境 温 度 な ど に
より左右されることは重要である。
(2)
①
生命維持を念頭においた処置
気道確保
現場の救急隊員は、呼吸のある患者に対して法的に許されている用手気道確保
とエアウェイまでを用い、最大限良好な気道の状態を保ちつつ搬送することが要
求される。
一 方 、声 帯 ま た は 気 管 に 原 因 が あ る 重 度 の 気 道 狭 窄 に 対 し て は 、医 療 機 関 で は 最
優 先 し て 緊 急 気 管 挿 管 が 行 わ れ る 。ア ナ フ ィ ラ キ シ ー 、急 性 喉 頭 蓋 炎 、気 道 熱 傷 、
頸 部 外 傷 な ど が 代 表 的 な 原 因 で あ る 。救 急 救 命 士 は CPA に 陥 る ま で 気 管 挿 管 を 許
さ れ な い の で 、 医 師 に よ る 気 管 挿 管 ま で の 時 間 を 最 低 限 に す る 方 策 (迅 速 な 搬 送 、
現 場 へ の 医 師 要 請 、ド ッ キ ン グ 、直 近 医 療 機 関 で の 緊 急 気 管 挿 管 な ど )を 選 択 す る
必要が生じる。
②
酸素投与
現 場 で 施 行 可 能 な 有 力 な 処 置 で あ る 。 マ ス ク に よ る 投 与 か 、補 助 呼 吸 の 必 要 を 念
頭 に お い て BVM を か ざ す か 、 ま た は 実 際 に BVM を 用 い て の 補 助 換 気 を 行 う か
を判断する必要がある。
③
静脈路確保
救急現場においては、救助中の外傷事案、熱射病、アナフィラキシー、熱傷な
ど、重症度と予想搬送所要時間によっては、静脈路確保と急速輸液が病態の悪化
を抑える症例が多数存在するが、救急救命士の処置として法令がそれを許してい
ない。
④
BVM に よ る 補 助 呼 吸
気道狭窄、呼吸不全、心不全、意識障害などの中に、医療機関に到着後、直ち
に 気 管 挿 管 ・人 工 呼 吸 を 必 要 と す る 重 症 度 ・緊 急 度 の 症 例 が あ る 。 救 急 救 命 士 は
CPA に 陥 る ま で は 器 具 を 用 い た 気 道 確 保 が で き な い の で 、 経 鼻 ・経 口 エ ア ウ ェ イ
ま で を 用 い 、 最 大 限 の BVM 換 気 を 行 い つ つ 搬 送 す る こ と が 要 求 さ れ る 。 但 し 気
管 挿 管 を 行 わ な く て も 、 BVM を 用 い て 呼 吸 運 動 に 同 期 さ せ た 適 切 な 補 助 呼 吸 を
行 う こ と に よ り 、 低 酸 素 を 改 善 し CPA へ の 悪 化 を 防 ぐ こ と が で き る 症 例 も あ る 。
(3)
疾病を念頭においた観察および情報収集
生命的危機を念頭においた観察で該当する所見を認めない場合は、特定の疾病
や病態を念頭において、さらなる観察や情報収集をする余裕ができる。
①
診断
疾病は原則として診断がつかなければ治療できない。診断のために診察と検査
を進めることが、医療機関で医師が行う診療の骨組みである。しかし、現場にお
ける救急救命士の活動は骨組みが異なる。能力・機器・条件のどれをとっても、
現場で救急救命士が疾患の診断をすることは危険である。診断したつもりで、例
え ば 「め ま い = メ ニ エ ー ル = 耳 鼻 科 」と い っ た 短 絡 を 生 じ て し ま う と 、 結 果 的 に 脳
梗塞の治療が遅きに失してしまうような重大な事態を招きかねない。可能性を挙
げることが重要であり、1つの疾病・病態に決めつけることを診断と勘違いして
はならない。
②
鑑別診断
鑑 別 診 断 に 挙 が ら な か っ た 疾 病 は 、診 断 に 至 ら な い か 遠 回 り し て 診 断 が 遅 れ る 。
医療機関において鑑別診断を挙げる作業は、医師の能力のうちの大きなウエイト
を占める。さらに医療機関での診断学の特徴は、治療を急ぐ緊急な疾病から優先
して考える点にある。バイダルサインを揺るがす所見がない場合も、疾病として
急を要する順に考えていく必要がある。
救 急 救 命 士 の 活 動 に お い て も 、鑑 別 診 断 の 可 能 性 を 挙 げ る 作 業 は 重 要 で あ る 。1
つの通報内容や患者の訴えから1つの疾病に決めつけて、それで診断が終わった
と勘違いするのが最も危険である。次に生じうる容態変化への対応が遅れ、また
病院選定を大幅に狂わせる危険性があるからである。
③
準緊急的疾病を頭におく
急性心筋梗塞を鑑別診断の第一候補に挙げながら、心臓カテーテル検査ができ
ない病院に搬送する救急救命士はまずいない。冠動脈形成術が早期に行われる必
要があるからである。
脳 梗 塞 に 対 し て 、 t-PA(組 織 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー タ ) の 静 注 を 用 い た 血
栓溶解療法が近年広く行われている。適応症例の割合は多くはないが、治療効果
があがった場合は、その後の活動度や社会生活が劇的に改善される。救急救命士
は鑑別診断として脳梗塞を疑わせる症状を聴取し、所見を観察し、可能な限り速
やかに血栓溶解療法が可能な病院に搬送すべきことを知っておく必要がある。緊
急的治療に時間の制約がある疾病を疑う能力は、プレホスピタルの段階の方が医
療機関よりも重要である可能性がある。
④
情報収集
情報収集は、診断に至るプロセスとして医療機関でも極めて重要である。現場
においても、鑑別診断を挙げるためにできるだけ多くの情報を収集するのが望ま
しい。特に現場でしか収集できない情報として、多量の薬包の発見・収集、現場
の出血量の評価、吐血・喀血の性状などの観察がある。これらの作業は医療機関
の医師には実施不可能であり、救急隊員の専門性と位置づけられる。
(4)
搬送
救 急 隊 の 現 場 活 動 に は 必 ず 搬 送 が 組 み 込 ま れ る こ と が 、病 院 と の 大 き な 相 違 点
である。迅速な搬送が占める優先順位の判断、時間短縮と安静保持の優先順位の
判断、適切な処置と体位管理の考慮などがかかわってくる。
搬送中に最も重要なのは、患者から目を離さず継続観察を行い、容態の変化を
見逃さないことである。外傷患者の血圧と心拍数、中毒患者の意識レベル、呼吸
不 全 に お け る S p02 心 疾 患 患 者 の 心 電 図 波 形 な ど が 、 救 急 隊 に よ る 搬 送 中 の タ イ
ミ ン グ で 急 変 す る こ と が 多 い 。虚 血 性 心 疾 患 に お け る 心 室 細 動 の 発 生 や 、脳 動 脈 瘤
破裂における再破裂は、予後に直接関与する重大な変化である。病態を考慮し、
起こりうる容態変化を常に念頭におきつつ継続観察を行うことが要求される。
(5)
病院連絡
CPA 以 外 の 病 態 に お い て も 、病 院 連 絡 を 行 い オ ン ラ イ ン 指 示 ・指 導 ・助 言 を 受 け
ることは重要である。救急救命士が理路整然とした観察を行っていれば、電話に
よる相談も理解しやすく質問の論点もはっきりし、指示医師は適切な対応を取り
やすい。
一方の指示医師の対応も重大である。実際に見ていない患者に関して、救急救
命士からの情報を適確に聴取して整理するためには、強い集中力が必要である。
正しい指示・指導・助言を行うためには救急患者の治療ができるだけでなく、地
域の救急救命士の能力、救急搬送体制、医療機関の地理的分布や能力などの幅広
い知識と経験が要求される。
病院連絡は救急救命士と指示医師の間のキャツチボールであり、それぞれが担
当する守備範囲をお互いにまっとうして初めて成り立つ。顔の見える関係が重要
となる所以である。
全身所見の観察
救急傷病者の病状は,一刻を争って救命処置を行い,救命救急センターなどへ搬送
しなければならないものから軽症のものまでさまざまである。したがって救急救命士
には,傷病者の全身状態を素早く観察し,緊急度や重症度が高いか否かを短時間に判
断する能力が要求される。傷病者の生命に危険が及んでいる,あるいは急速に重篤な
状態に陥る可能性があると判断されたならば,ただちに酸素投与など必要な処置を開
始する。そして,これらの処置を行いながら,観察を実施・継続する態度が必要であ
る。観察のみに時間をかけすぎて救命のチャンスを失ってしまうような事態は避けな
ければならない。
全身観察の基本は視覚・聴覚・嗅覚・触覚による生体情報の収集である。加えて,
傷病者自身や関係者あるいは警察などから聴取する現病歴,受傷機転,既往歴なども
きわめて重要な情報である。傷病者の状態は時々刻々と変化するので,医師に引き継
ぐまで観察を継続しなければならない。問診のポイントは,いつから,どのような症
状 が 発 生 し ,ど の よ う な 経 過 で 現 在 に 至 っ て い る か を 要 領 よ く 聞 き 出 す こ と で あ る が ,
問診自体が傷病者の負担とならないよう配慮する必要がある。
1
外見の観察
(1)
体位
体 位 に は , 立 位 , 坐 位 (起 坐 位 ) , 仰 臥 位 , 腹 臥 位 , 側 臥 位 な ど が あ る 。 立 位 の
傷病者は一般に呼吸や循環が安定している。気管支喘息またはうっ血性心不全に
伴う肺水腫の傷病者では,仰臥位になると呼吸困難が強くなるため,坐位をとっ
ていることがある。これを起坐呼吸と呼び,通常は低酸素血症を伴っている。ま
た ,胃 ・十 二 指 腸 潰 瘍 穿 孔 な ど に よ る 汎 発 性 腹 膜 炎 の 傷 病 者 で は ,動 く と 痛 み (体
性痛) が増強するので,仰臥位や側臥位のままじっとして動かないことが多い。
こ れ に 対 し て 胆 石 症 や 尿 管 結 石 で は , 激 し い 痛 痛 発 作 ( 内 臓 痛 )に よ り 七 転 入 倒 し
ているのが特徴である。意識障害のある傷病者において,疼痛刺激により除皮質
硬直や除脳硬直をみるときには重症度がきわめて高い。
(2)
歩行
自力で起立や正常な歩行が可能な傷病者かどうかを観察する。ただし,臥位や
坐位の患者を不用患に立たせたり歩かせるのは,時に危険を伴うので注意しなけ
れ ば な ら な い 。と く に ,腹 水 や 出 血 な ど に よ り 循 環 血 液 量 が 減 少 し た 傷 病 者 で は ,
起立させることにより血圧が低下してショック状態となる可能性がある。
片麻痺のある傷病者では,歩行時に麻痺側の足が伸展し,つま先が垂れている
ことが多い。患側の足を前に出すときには,股関節を中心に外側に半円を描くよ
うにして,つま先で地面を引きずって歩く。脳血管障害の後遺症でみられること
が 多 く , 痙 性 歩 行 (片 麻 痺 ) と 呼 ば れ る 。 ま た , 両 下 肢 に 痙 性 の 対 麻 痺 が み ら れ る
傷 病 者 で は は さ み 足 歩 行 が 認 め ら れ る (痙 性 対 麻 痺 歩 行 )。
パーキンソン病では,膝を曲げ,前傾姿勢で小刻み歩行がみられ,通常,第一
歩を踏み出すのが困難で,身体が前方に傾くので,歩きはじめると次第にかけ足
のようになり,止まれと命じても急には止まれないのが特徴である。
一定時間歩くと下腿の筋肉が痛んだり疲労感が強くなって歩行が困難になる状
態 を 間 欠 性 跛 行 と い い ,下 肢 動 脈 の 慢 性 閉 塞 性 疾 患 (閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 ,バ ー ジ ャ
ー 病 )や , 腰 部 脊 柱 管 狭 窄 症 (椎 回 板 ヘ ル ニ ア , 脊 椎 す べ り 症 な ど ) に 伴 う 馬 尾 神
経の圧迫のさいにみられる。
(3)
栄養状態
栄養状態も身体の異常を示す指標の1つである。栄養不良な傷病者では,眼球
が陥凹して頬がこけ,肋間・鎖骨上席は陥凹して頭部か細く,鎖骨が突出してい
る。種々の慢性消耗性疾患や悪性疾患では,脂肪組織や筋組織が減少し,皮膚は
光沢を失い色も汚くなって,いわゆる悪液質と呼ばれる外見を呈する。
(4)
顔貌・顔色・表情
意識障害,ショックや高熱を伴う傷病者では無表情顔貌や虚脱様顔貌を,また
激しい疼痛や呼吸困難などでは苦悶様顔貌を呈する。心疾患や腎疾患により顔面
の浮腫があると眼瞼の浮腫を伴うことが多く,浮腫状顔貌と呼ばれる。
いわゆる血の気のない顔つきは顔面蒼白と呼ばれ,皮膚血管内の血流量減少や
血色素量減少によるものであり,循環血液量減少性ショック,心原性ショック,
高度の貧血などのさいにみられる。顔面紅潮は肉体的または精神的興奮あるいは
発熱のさいにみられ,皮膚血流の増加を意味する。
(5)
会話・態度・感情
会話にみられる思考の内容が現実に即してまとまりや関連性が保たれているか,
傷病者の態度が協力的であるか,幻覚や妄想がないかをみる。また,不安・抑う
つ,多幸的でないか,演技的,おおげさすぎないかを観察する。
落ちこんでいる顔貌で,無表情,しわのある額,ゆっくりとした単調な話し方
といった所見は抑うつ状態を疑わせる。無反応で情動反応がほとんどないときに
は感情鈍麻と表現する。逆にすぐに泣いたり笑ったりするときには情動不安定と
表現する。脳動脈硬化症を基盤とした疾患では感情の動揺が多く,怒ったり泣い
たりしやすいのが特徴である。不潔でだらしない身だしなみをしている傷病者で
は,うつ病,認知症,アルコール依存症,薬物濫用などの可能性がある。
(6)
呼気臭の異常
代謝異常では,呼気の臭いが傷病者の状態を反映することがある。糖尿病性ケ
ト ア シ ド ー シ ス で は 呼 気 に ア セ ト ン 臭 (甘 酸 っ ぱ い 臭 い )が す る 。 重 篤 な 肝 機 能 不
全,すなわち劇症肝炎や肝硬変に伴う肝性昏睡では呼気は特有な臭気を帯びてい
る 。 「 腐 っ た 卵 と ニ ン ニ ク の 混 ざ っ た 臭 い 」 , 「カ ビ が は え た よ う な 嫌 な 臭 い ] な ど
と形容され,これらを一般に肝性口臭といい,予後不良の徴候である。
アルコール臭は通常のアルコール飲用者でも認められるが,昏睡状態でこの臭
いがあれば,昏睡となる前にアルコールを摂取したことが推測される。
(7)
行動
錯乱,凶暴,あるいは意味不明の行動がみられる場合には,脳血管障害,アル
コール中毒,覚せい剤や麻薬の中毒,既往の精神疾患,人格異常などの存在を疑
わなければならない。このような場合には自損や傷害の危険性があるので,注意
をはらう必要がある。
(8)
失禁
着衣の鼠径部,会陰部,殿部を観察し,尿や便の失禁があるかどうかをみる。
意識がある傷病者で失禁が認められれば,一時的に意識消失をきたした可能性を
考慮しなければならない。
(9)
皮膚の状態
皮膚の観察では,色調,温度,湿度,腫脹,緊張度,圧痛,発疹,出血斑,点
状出血や創傷などに注意する。
皮膚や口唇,爪床が紫青色を呈するものをチアノーゼといい,低酸素血症,シ
ョック,先天性心疾患,心臓弁膜症などでみられる。重度の貧血を伴っている傷
病者では,低酸素血症をきたしてもチアノーゼを呈さないことがあるので注意し
なければならない。皮膚や眼球結膜が黄色を呈するものを黄疸といい,肝・胆道
疾患や溶血性疾患などでみられる。
発 汗 は 皮 膚 の 汗 腺 か ら 汗 を 分 泌 す る 現 象 で あ る 。体 温 調 節 の た め の 発 汗 は 手 掌 ・
足の裏を除いた全身の皮膚にみられ,精神的ストレスやショックに伴う発汗は手
掌・足の裏・脇に現れる。
皮膚に触れたときに熱感が観察されれば,感染症などの発熱性疾患や熱中症,
あるいはアレルギー反応を疑わなければならない。熱中症で発汗による体温調節
機能が障害されると,皮膚の乾燥を伴った著しい高作温が認められる。逆に、末
梢の皮膚が冷たくなるのは循環血液量減少性ショックや心原性ショック,あるい
は偶発性低体温である。皮膚の湿度や緊張度は体水分の過不足を示唆する重要な
徴 候 で あ る 。皮 膚 が 乾 燥 し て し わ が 生 じ ,緊 張 が 低 下 す る の は 脱 水 の 特 徴 で あ る 。
これに対し,体液過剰やうっ血性心不全で浮腫があるときには皮膚の緊張が良好
であり,皮膚の薄い高齢者では皮膚が光沢を帯びてみえることもある。一般に腎
臓疾患に伴う場合は早朝から認める顔面や手の浮腫が多く,心臓疾患に伴う場合
は,夕方から夜にかけて増強する下肢の浮腫が多い。
発疹には,丘疹,膨疹,水疱,膿疱,紅斑などがあり,さまざまな発疹性感染
症,アレルギー反応,薬剤の副作用などでみられる。紅斑と呼ばれる発疹は出血
斑と異なって,ガラスなどで圧迫することにより赤い色が退色するのが特徴であ
る。
皮下に出血をきたし,皮膚が紫色を呈するものを紫斑といい,針頭大以下の大
きさの点状出血と,それ以上の大きさの斑状出血に分けられる。これらの出血斑
は 血 小 板 減 少 症 や 毛 細 血 管 の 脆 弱 性 ,あ る い は 播 種 性 血 管 内 凝 固 症 候 群 巾( DIC)
に伴ってみられ,ガラスなどによる圧迫により退色しない。
(10)
損傷
体 表 面 に 判 創 , 切 創 , 射 創 (銃 創 ), よ く 創 , 挫 創 , 打 撲 , 擦 過 傷 , 皮 下 血 腫 な
ど鋭的または鈍的外力による創傷がないかどうか観察する。交通事故や労働災害
のような明らかな受傷状況と異なり,児童虐待や高齢者虐待,あるいは家庭内暴
力 (ド メ ス テ ィ ッ ク バ イ オ レ ン ス : D V )で は , 傷 病 者 に 最 初 に 接 触 し た 救 急 救 命
士などの観察が事件解決への糸口になることがある。
外傷を受けたのち,創部周囲に発赤・腫脹・熱感・疼痛・圧痛を認めるときに
は,創からの細菌感染が周囲に波及した蜂高識炎を疑う。このさい,皮膚を指で
圧迫して波動を触れる場合には膿瘍と判断し,切開・排膿手術の可能な医療機関
への搬送を考慮する。また,これらの急性炎症所見に加え,皮膚を手掌で軽く圧
迫 し た と き に 握 雪 感 や 捻 髪 音 が 観 察 さ れ れ ば 皮 下 気 腫 と 判 断 し ,ガ ス 壊 疸 (ガ ス 楽
生 菌 に よ る 感 染 症 )を 疑 う 。
(11)
出血
外傷では,どの部位にどの程度の出血を伴っているかを判断することがきわめ
て重要である。外出血ではその判断は比較的容易である。とくに動脈性出血では
急激に循環血液が失われるため,迅速な止血処置を行わなければならない。腹腔
内 出 血 ,胸 腔 内 出 血 ,後 腹 膜 出 血 な ど の 内 出 血 の ほ か ,消 化 管 出 血 (吐 血 や 下 血 ),
性器出血などでは,出血しているか否か,出血の程度はどの程度かを判断しにく
いことがあるので注意しなければならない。
(12)
変形
四肢など骨格系に変形がみられる場合は,骨折や脱臼を疑う。ただし,頭蓋骨
陥没骨折による頭部変形,顔面骨骨折に伴う顔面変形,フレイルチェストに伴う
胸部変形,脊椎骨折に伴う背部変形,骨盤骨折に伴う骨盤変形は見落としやすい
ので注意する必要がある。
2
バイタルサインなどの観察
バ イ タ ル サ イ ン は 生 命 徴 候 と も 呼 ば れ ,通 常 は 呼 吸 (数 ),脈 拍 (数 ) ,血 圧 ,体 温 を
い う が , 意 識 (レ ベ ル )を 加 え る こ と も あ る 。 数 値 で 表 す が , 性 状 (た と え ば 呼 吸 の 様
式 ,脈 拍 の 強 弱 な ど )を 合 わ せ て バ イ タ ル サ イ ン と 呼 ぶ こ と も あ る 。こ れ ら は ,呼 吸
や循環など生命の維持に必要な人体の生理的機能が,どの程度障害されているかを
端的に表す指標として必要不可欠である。いずれも具体的な数値で表すことができ
るので,救急現場で傷病者の情報を客観的に評価できるばかりでなく,指令室や医
師との間における情報伝達を正確に行うという点においてもきわめて重要な指標で
あ る 。バ イ タ ル サ イ ン か ら ,傷 病 者 の 重 症 度 を 短 時 間 に 判 断 で き な け れ ば な ら な い 。
(1)
呼吸数と呼吸運動の異常
呼吸の観察には,気道の開通状態,呼吸の有無と性状,呼吸数,呼吸の型およ
び左右差,呼吸様式,異常呼吸などが含まれる。
ア
呼吸の有無と性状
最初に気道が開通しているかどうかを観察する。意識があり,声が出せる場合
は気道は開通している。意識障害のある傷病者では,用手的気道確保を行ったの
ちに呼吸を観察する。呼吸の有無の確認には,救助者の頬部を傷病者の鼻や口に
近づけ,胸郭の動きを目で見ながら呼吸音を耳で聞き,呼気の流れを頬の皮膚で
感じる(
見 て , 開 い て , 感 じ る " 観 察 )。 こ れ ら 3 つ の 観 察 を 同 時 に 行 い , い ず れ
も認められないときには呼吸停止と判断する。
心停止前後にみられるあえぐような動きは死戦期呼吸と呼ばれる。死戦期呼吸
は呼吸機能停止と判断する。正常な呼吸運動が認められる傷病者では,呼吸の状
態を観察する。正常呼吸では吸気に比べて呼気が長く,とくに意識することなく
楽に呼吸しているのが観察される。自覚症状としての呼吸困難や他覚的徴候とし
て の 努 力 性 呼 吸 (苦 し そ う な 呼 吸 )が み ら れ る と き に は , な ん ら か の 異 常 事 態 が 起
こっていると考えなければならない。
イ
呼吸数
1 分 間 の 呼 吸 回 数 を 呼 吸 数 と い い , 成 人 で 14 ∼ 20/ 分 で あ る 。 女 性 の ほ う が 男
性 よ り も や や 多 い 。 新 生 児 で は 40 ∼ 60/ 分 で あ り , 呼 吸 数 は 年 齢 と と も に 減 少 す
る。呼吸数が増加した状態を頻呼吸といい,酸素化障害や代謝性アシドーシスな
どが誘因となる場合がある。また,健康人でも恐怖や興奮時など精神的に不安定
な状態でみられる。この場合,頻呼吸が続けば血中二酸化炭素分圧が低下して呼
吸 性 ア ル カ ロ ー シ ス と な り , 手 足 が し び れ て 痙 攣 し た り 硬 直 し た り す る (「過 換 気
症 候 群 ] と い う )。 発 熱 時 , と く に 小 児 で は 頻 呼 吸 が み ら れ る 。 徐 呼 吸 は 呼 吸 数 が
減 少 し た 状 態 で あ り , 麻 薬 中 毒 (モ ル ヒ ネ 中 毒 な ど )や 頭 蓋 内 圧 先 進 (脳 血 管 障 害 ,
頭 部 外 傷 , 脳 腫 瘍 な ど )で み ら れ る 。
ウ
呼吸の型,左右差
呼吸の型には胸式呼吸と腹式呼吸があり,普通は両者が混在している。胸式呼
吸はおもに肋間筋による呼吸であり,腹式呼吸は横隔膜による呼吸である。新生
児や乳児は肋骨の走行が水平に近く,かつ肋間筋が発達していないので横隔膜に
よる腹式呼吸をする。成人男性では胸腹式呼吸をしているのに対して,女性では
胸式呼吸が主体である。また,高齢者になると肋軟骨が骨化して胸郭が拡張しに
くくなるため,腹式呼吸が目立つようになる。
横隔膜の動きが障害されると呼吸は胸式呼吸となる。腸管ガスの増加や腹腔内
に 多 量 の 液 体 貯 留 (腹 水 , 腹 腔 内 出 血 ) が あ る と , 横 隔 膜 が 挙 上 し , そ の 動 き が 制
限されて胸式呼吸がみられるようになる。これに対して,横隔膜のみが動いて肋
間筋が動かなければ腹式呼吸となる。下部頸髄損傷では,横隔神経は障害されず
に肋間神経が麻痺するため,典型的な腹式呼吸が認められる。
健康人では呼吸運動に伴って両側胸郭は左右同時にかつ均等に動く。したがっ
て胸郭運動の非対称性や非同時性は,胸郭または胸腔内に異常があることを示し
ている。異物や喀痰により一側の気管支が閉塞し無気肺となると,患側胸郭の動
きが健側に比べて小さくなる。また気胸や血胸,胸水でも患側の胸郭運動が小さ
くなり,呼吸音も減弱する。そのほかに横隔神経麻痺,胸膜癒着,重篤な肺炎や
肺腫傷などでも患側の胸郭運動は小さくなる。
エ
呼吸様式,異常呼吸
浅 く て 速 い 呼 吸 (「 浅 表 性 呼 吸 」 と い う ) は , 血 胸 , 気 胸 , 多 発 肋 骨 骨 折 , 間 質 性
肺炎,肺線維症など,肺活量が低下しているときにみられる。浅くて力の弱い呼
吸 は ,肺 切 除 後 ,胸 郭 形 成 術 後 ,神 経 ・ 筋 疾 患 (筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 ,筋 ジ ス ト ロ
フ ィ ー な ど )で み ら れ る 。口 す ぼ め 呼 吸 は 慢 性 肺 気 腫 や 気 管 支 喘 息 の 傷 病 者 に 特 徴
的であり,末梢気道の狭窄により,吸った息を通常のスピードで呼出できないた
めに,口笛を吹くようにして,少しずつ息を吐き出している呼吸である。
舌根沈下,喉頭浮腫,気道異物などにより上気道の狭窄や閉塞が起こると,吸
気時に胸部が下がって腹部が膨らみ,一方,呼気時には胸が上がって腹部が下が
る ,い わ ゆ る シ ー ソ ー 呼 吸 を 呈 す る 。ま た ,吸 気 時 に 甲 状 軟 骨 が 下 方 に 動 き(「 気
管 牽 引 」と い 引 ,同 時 に 胸 骨 上 窩 ,鎖 骨 上 窩 や 肋 間 の 陥 凹 が 認 め ら れ る (「陥 没 呼 吸 」
と い う 」。こ の 場 合 は 吸 気 性 の 呼 吸 困 難 で あ り ,吸 気 は 延 長 し ,吸 気 時 に 喘 鳴 が 聴
取 さ れ る 。意 識 障 害 の あ る 傷 病 者 で い び き 呼 吸 が み ら れ る 場 合 は , 舌 根 沈 下 に よ る
気道狭窄・閉塞の可能性を考えなければならない。
中枢神経系が障害されると種々の呼吸パターンの異常が認められる。呼吸中枢
の 感 受 性 が 低 下 し た と き や 脳 の 酸 素 欠 乏 状 態 の と き に は 「チ ェ ー ン ー ス ト ー ク ス
呼 吸 」が み ら れ る 。 こ れ は 周 期 性 呼 吸 と も 呼 ば れ , は じ め に 小 さ い 呼 吸 が 起 こ り ,
次第に深く大きな呼吸となり,そしてまた徐々に小さな呼吸となってしばらく無
呼 吸 と な る も の で , 無 呼 吸 の 持 続 時 間 は 10 ∼ 20 秒 程 度 で あ る 。 橋 出 血 で は , 換
気 量 が 正 常 の 1. 5∼ 4 倍 で ,呼 吸 数 が 規 則 的 に 増 加 し た 深 く 力 強 い 呼 吸 (「中 枢 性 過
換 気 ]と い う )が み ら れ る こ と が あ る 。中 枢 神 経 系 が 高 度 に 障 害 さ れ る と ,「ビ オ ー
呼 吸 」と 呼 ば れ る 不 規 則 な 周 期 性 呼 吸 が 出 現 す る 。こ れ は 深 さ が 一 定 し な い 促 迫 呼
吸 と 無 呼 吸 を 交 互 に 繰 り 返 す 呼 吸 で あ る が , 無 呼 吸 の 時 間 は 1 0∼ 3 0 秒 で ま ち ま
ち で あ る 。脳 幹 損 傷 や 脳 幹 梗 塞 な ど ,呼 吸 中 枢 で あ る 延 髄 が 高 度 に 障 害 さ れ る と ,
呼 吸 運 動 が ま っ た く 不 規 則 な 「失 調 性 呼 吸 」が み ら れ る 。 こ れ は 生 命 の 危 機 が 切 迫
していることを示す徴候である。
糖 尿 病 性 ケ ト ア シ ド ー シ ス や 尿 毒 症 の さ い に は ,呼 吸 の 数 も 深 さ も 増 加 す る 「ク
ス マ ウ ル 呼 吸 ]が 認 め ら れ る 。重 篤 な 代 謝 性 ア シ ド ー シ ス を 呼 吸 性 に 代 償 し よ う と
する生理的反応である。
「奇 異 呼 吸 」は , 重 篤 な 胸 部 外 傷 に 伴 う フ レ イ ル チ ェ ス ト の さ い に 認 め ら れ る 。
多発肋骨骨折や胸骨骨折により,胸壁の一部が周囲との連続性を失った結果,吸
気時に陥凹し,呼気時に突出するという,正常とは逆の呼吸運動である。この場
合は,多発肋骨骨折による激しい疼痛のほかに,肺挫傷や血気胸の合併によって
重篤な呼吸不全を呈することが多い。
心 停 止 前 後 に み ら れ る「 下 顎 呼 吸 」,
「 鼻 翼 呼 吸 」,「あ え ぎ 呼 吸 」な ど は 「 死 戦 期
呼吸」といい,すみやかな心肺蘇生が必要な状態である。下顎呼吸は吸気時に下
顎を動かして空気を飲み込むような呼吸であり,顎の動きのみであり胸郭はほと
んど動かない。鼻翼呼吸は,吸気時に鼻翼が広がり呼気時に鼻翼が縮まる呼吸で
あ り ,や は り 胸 郭 が ほ と ん ど 動 か な い 。あ え ぎ 呼 吸 は ,深 い 吸 息 、 と 速 い 呼 息 が 数
回続いたあとに無呼吸となる呼吸である。いずれも生命に危険が差し追っている
状態を示す。
(2)
脈拍数とリズム、脈の大きさ
心臓が収縮して血液を駆出することにより動脈圧は変化するが,それを体の表
面近くを走る動脈で拍動として触れるのが脈拍である。通常は傷病者の手掌を上
に 向 け , 手 関 節 近 く の 橈 骨 動 脈 上 に 観 察 者 の 2 指 (示 指 , 中 指 )ま た は 3 指 (示 指 ,
中 指 ,環 指 )の 指 腹 を 当 て て 観 察 す る 。脈 が な か っ た り ,細 く 弱 い と き に は 観 察 者
白身の脈を誤って観察することがあるので注意しなければならない。通常は左右
差が認められないが,大動脈疾患や鎖骨下動脈より末梢の血管疾患の可能性があ
るときには,両側の橈骨動脈を同時に触知して脈の強さを比較することが大切で
ある。
観 察 に 当 た っ て ば 、 ま ず 脈 拍 数 と 調 律 (リ ズ ム )に 注 目 す る 。 つ い で 脈 拍 の 大 き
さ ( 拍 動 の 振 幅 ), 緊 張 度 を 観 察 す る 。 切 迫 し た 状 況 で は , 傷 病 者 の 橈 骨 動 脈 の 緊
張度のみで血圧のおよその見当をつけなければならない場合もある橈骨動脈が触
知されないときには大腿動脈や総頸動脈などを調べる。
なお,頻脈・徐脈という用語は動脈の触知もしくは動脈圧モニターで観察され
る脈拍数であり,頻拍・徐拍は心電図上の心拍数と定義される。
ア
脈拍数
1 分 間 の 脈 拍 の 数 で あ り 、通 常 ,15 秒 間 脈 拍 数 を 数 え 、そ れ を 4 倍 し て 脈 拍 数
を 求 め る 。た だ し 不 整 脈 が あ る 場 合 に は 、3 0 秒 間 数 え て 2 倍 す る ほ う が よ い 。パ
ルスオキシメータを用いると脈拍数が表示されることがある。しかしながら,傷
病者に最初に接したとき,いたわりながら橈骨動脈をやさしく触れることは,傷
病者を安心させ,落ち着かせるうえでも効果的である。
脈 拍 数 の 正 常 値 は 健 康 成 人 で 60∼ 80/分 で あ り , 小 児 で は よ り 多 く , 高 齢 者 で
はより少なくなる。精神的興奮時など交感神経が興奮しているときには脈拍数が
多くなり,副交感神経が興奮すると脈拍数は少なくなる。心拍数と脈拍数は通常
一致するが,ある種の不整脈があると脈拍数のほうが少なくなることがあり,こ
れを脈拍欠損という,心拍はあっても心拍出量が不十分なために末梢動脈に脈波
が伝わらないために起こる現象である。
a.
頻脈
成 人 で 1 00/分 以 上 の 脈 拍 数 の も の を 頻 脈 と い う 。低 酸 素 症 ,貧 血 ,心 不 全 , 大
量出血,甲状腺機能亢進症などで頻脈がみられる。発熱時には脈拍数は増加し,
体 温 が 1 ℃ 上 昇 ご と に 8 ∼ 10/ 分 程 度 多 く な る と い わ れ る 。こ れ ら は 洞 性 頻 脈 で あ
り,規則正しい脈として触れる。甲状腺機能亢進症では体温に比してより頻脈と
なる場合が多い。発作性上室性頻拍,心室頻拍などでは高度の頻脈となり、緊急
の治療が必要な場合がある。一般に,時間の経過とともに脈拍数が増加している
のは危険な徴候である。発熱を伴わない傷病者で頻脈が認められるときには、重
篤な病変が隠れていることがある。腹腔内出血などの出血性病変では、出血量が
増加し循環血液量減少が署明となってきていることを疑わせるものである。
b.
徐脈
脈 拍 数 が 6 0/ 分 以 下 を 徐 脈 と い う 。 洞 機 能 不 全 症 候 群 , 洞 房 ブ ロ ッ ク , 房 室 ブ
ロック,頭蓋内圧亢進,甲状腺機能低下症,脊髄損傷,有機リン中毒,抗不整脈
薬 中 毒 , 著 名 な 低 酸 素 症 な ど で 徐 脈 が み ら れ る 。 高 度 の 房 室 ブ ロ ッ ク で は , 40/ 分
以 下 の 徐 脈 と と も に 意 識 消 失 発 作 (失 神 )や 痙 攣 を 起 こ す こ と が あ り ,こ れ を 「ア ダ
ム ス ー ス ト ー ク ス 症 候 群 」と い う 。
イ
調 律 (リ ズ ム )
正常では脈拍は一定のリズムで触知され,これを整脈という。これに反して脈
拍の間隔が一定ではないものは不整脈と呼ばれる。上室性または心室性期外収縮
では,規則正しい脈拍のなかに突然脈が入るのが観察される。また,心房細動を
有する傷病者では,まったく不規則な脈拍が持続的に観察され,これを絶対性不
整脈と呼ぶ。
ウ
脈の大きさ
脈圧が大きいと脈拍の振幅が大きくなり,触診している指は高く持ち上げられ
るように感じる。脳卒中など頭蓋内圧亢進時や,高熱などでみられる。逆に脈圧
が小さく振幅が小さいときには脈拍が小さく触知される。出血や脱水などにより
循環血液量が減少したときや心不全などにみられる。
a.
交互脈
強い脈と弱い脈が交互に,規則正しく繰り返している脈を交互脈という。血圧
計のマンシェットを巻き,強い脈と弱い脈の中間の圧に調節すると,1拍ごとに
コロトコフ音が聴かれるので確認される。発作性頻脈の発作中に出現し,重症心
不全の徴候でもある。二段脈と異なりリズムの不整はない。
b.
奇脈
健康人でも呼吸の周期によって脈拍の大きさはわずかに変化するが,通常はこ
れを観察することはできない。呼気時に脈拍が大きくなり,吸気時に小さくなる
場 合 は 病 的 で あ り , 「寄 脈 」と 呼 ば れ る 。 寄 脈 は 心 タ ン ポ ナ ー デ や 心 膜 炎 に 伴 っ て
みられる。
エ
脈の緊張度
傷病者の橈骨動脈を触診するさいに,動脈の上に当てた3指のうち,中枢側の
指を圧迫し,末梢側の指で脈拍を触れることにより観察される。弱い力で圧迫し
ても拍動が触れなくなってしまうときには,緊張が弱いと表現する。反対に強い
力で圧迫しても拍動が消失しない場合には,緊張が強いと表現する。高血圧や動
脈硬化を伴う傷病者では緊張が強く,また低血圧やショックの傷病者では緊張は
弱い。
(3)
体温
体温を測定するための方法としては,直腸検温法,口内検温法,腋窩検温法,
鼓膜検温法などがあるが,救急現場で実施可能なのは腋窩検温法と鼓膜検温法で
ある。腋窩検温法には通常,平型水銀体温計が用いられるが,最近では電子体温
計の普及が進んでいる。部位ごとの体温を比較すると,直腸温や鼓膜温かもっと
も 高 く 腋 窩 温 は も っ と も 低 い 。し か し な が ら そ の 差 は 通 常 1 ℃ 以 内 で あ る 。な お ,
高 齢 者 で は 中 心 部 体 温 ( 直 腸 温 )と 体 表 温 度 (腋 窩 温 )の 差 が 大 き い こ と が あ り ,注 意
が 必 要 で あ る 。正 常 体 温 に は 個 人 差 が 大 き い が ,成 人 の 目 安 と し て は 3 7.0℃ を 超
え る と 異 常 と み な す 。小 児 の 正 常 体 温 は 水 銀 体 温 計 に よ る 腋 窩 温 で お よ そ 36 .5∼
37.5℃ ま で の 間 で あ る 。
一 般 に 3 7.0∼ 37.9 ℃ を 微 熱 ,38.0 ∼ 38.9c C を 中 等 熱 ,39.0 ℃ 以 上 を 高 熱 と 呼 ぶ 。
多くの場合は,その日の最高の体温をもって発熱の程度を判断する。発熱が起こ
っ て も 最 高 の 体 温 は ほ ぼ 40. 0∼ 4 0.5 ℃ ま で で ,41.0 ℃ 以 上 に な る こ と は ほ と ん ど
な い 。高 熱 が 起 こ る 前 に は 悪 寒 (さ む け )や 振 戦 (ふ る え )を 伴 う こ と が あ り (「悪 寒 戦
慄 」と い う ), 急 性 感 染 症 や 輸 血 の 副 作 用 な ど で み ら れ る 。
(4)
血圧
血圧とは動脈の内圧を意味する。全身の細胞,組織にどの程度の量の血液が供
給されているかを測定することはむずかしいため,末梢組織の潅流圧の指標とし
て血圧が測定される。医療機関内では動脈内にカテーテルを留置し,観血的に動
脈圧の測定を行うこともあるが,通常はマンシェットを用いた間接法により測定
される。
血 圧 の 正 常 値 は ,成 人 で 収 縮 期 血 圧 (最 高 血 圧 10 0∼ 1 30mmHg ,拡 張 期 血 圧 (最
低 血 圧 )50∼ 8 0mmHg ,脈 圧 30 ∼ 40mmHg で あ る 。女 性 は 男 性 よ り も 5 ∼ 10mmH g
く ら い 低 い 。 40 歳 以 上 に な る と 年 齢 と と も に 動 脈 硬 化 が 進 み , 血 圧 は 多 少 上 昇
する傾向にある。
血 圧 が 正 常 よ り も 高 い も の を 高 血 圧 と い う 。一 般 に は ,収 縮 期 血 圧 が 140mmHg
以 上 , 拡 張 期 血 圧 が 90mmH g 以 上 を 高 血 圧 と 呼 ぶ 。 急 激 な 血 圧 上 昇 は 中 枢 神 経
系や循環系に異常をきたし,脳出血,くも膜下出血,高血圧性脳症,急性大動脈
解離などを引き起こす。
血 圧 が 正 常 よ り も 低 い も の を 低 血 圧 と い う 。一 般 的 に は 虚 脱 な ど の 症 状 が あ り ,
収 縮 期 血 圧 が 9 0mmHg 以 下 , あ る い は 平 時 の 収 縮 期 血 圧 が 150mmH g 以 上 の 場
合 に 6 0mmH g 以 上 血 圧 が 低 下 し た 場 合 を シ ョ ッ ク と 呼 ぶ 。 シ ョ ッ ク の 定 義 は 末
梢循環不全とそれに伴う病態をさすが,血圧からみたものである。
血 圧 の 低 下 は , ① 循 環 血 液 量 の 減 少 (出 血 , 熱 傷 , 脱 水 ), ② 心 収 縮 力 の 低 下 (急
性 心 筋 梗 塞 , 急 性 左 心 不 全 ), ③ 心 外 閉 塞 ・ 拘 束 に よ る も の (心 タ ン ポ ナ ー デ , 緊
張 性 気 胸 ), ④ 末 梢 血 管 抵 抗 の 減 少 (ア ナ フ ィ ラ キ シ ー , 敗 血 症 , 脊 髄 損 傷 )な ど に
分類される。たとえば,大量出血による循環血液量の減少や心筋梗塞による心収
縮力の低下はいずれも心拍出量を減少させ,血圧は低下する。緊張性気胸では高
い胸腔内圧により心臓に戻ってくる血液量が減少し,血圧は低下する。脊髄損傷
では細動脈の緊張が失われて末梢血管抵抗が減少し,血圧は低下する。
血圧の左右差は急性大動脈解離や大動脈炎症候群などでみられる。また,慢性
動 脈 閉 塞 症 (閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 お よ び バ ー ジ ャ ー 病 )や 大 動 脈 縮 窄 症 で は 上 下 肢 の
血圧に差がみられる。
(5)
意識状態
呼 吸 , 循 環 (脈 拍 , 血 圧 )の つ ぎ に 行 う の が 意 識 レ ベ ル の 評 価 で あ る 。
意識障害のない場合は傷病者自身から発症の状況を聴取することは可能である
が,中等度以上の意識障害がある場合には,家族や関係者から,普段の生活状態
や既往歴とともに意識障害発生時の状況を聴取する。既往歴として,糖尿病,高
血圧,肝臓疾患,腎臓疾患,精神疾患はないか,血糖降下薬や睡眠薬などの内服
薬を常用していないか,などを確認する必要がある。原因が明らかでない意識障
害傷病者では,急性中毒の可能性も考慮に入れておかなければならない。意識障
害発生時の情報はとくに重要であり,発症の状況が突然かまたは緩徐か,誘因と
考えられるできごとはなかったか,痙攣や嘔吐を伴っていなかったか,発症後に
容体の変化はなかったか,なども簡潔に聴取しておくことが大切である。
高度な意識障害を伴う傷病者では,嘔吐や舌根沈下により気道の狭窄や閉塞を
きたすことがあり,用手的または器具を用いた気道確保が必要になる。
ア
意識障害の評価法
意 識 障 害 の 評 価 法 と し て は , ジ ャ パ ン コ ー マ ス ケ ー ル (JCS , 3-3-9 度 方 式 と も
い わ れ て い る )と グ ラ ス ゴ ー コ ー マ ス ケ ー ル (GCS)が よ く 用 い ら れ て い る 。
a.
ジ ャ パ ン コ ー マ ス ケ ー ル ; JCS(3-3-9 度 方 式 )
意識清明を
0"と 表 現 す る 。
意識障害があっても開眼している場合にI桁の意識障害と呼ぶ。名前・生年月
日の答えられないものを
3 ", 今 ど こ に い る の か ,今 何 時 ご ろ か な ど が わ か ら
な い ,い わ ゆ る 失 見 当 識 が あ る も の を
きりしないものを
2 ", す べ て 答 え ら れ る が 今 ひ と つ は っ
1 "と 表 現 す る 。な お , 見 当 識 と は ,時 間 , 場 所 , 人 に 関 す る
認識ができることであり,今日は平成何年の何月何日といえるか,それができな
ければ季節はいつか,今いるところがどこであるといえるか,家族を判別できる
か,などを質問により確認し,見当識の有無を判断する。
閉眼しているが,呼びかけや痛み刺激で覚醒する傷病者はⅡ桁の意識障害と呼
ぶ。普通の声で呼びかけると開眼するものは
眼するものは
るものは
10" , 大 き な 声 で 呼 び か け る と 開
2 0" , 強 い 痛 み 刺 激 を 加 え な が ら 呼 び か け る と か ろ う じ て 開 眼 す
30"と 表 現 す る 。
痛み刺激で覚醒しない傷病者はⅢ桁の意識障害と呼ぶ。痛み刺激の加えられた
部分に上肢や下肢をもってきて払いのけようとしたり,引っ込める動作がみられ
るものは
10 0", 痛 み 刺 激 を 加 え る と 少 し 四 肢 を 動 か す か , 除 脳 硬 直 あ る い は 除
皮質硬直の姿勢をとるものは
ものは
200", 痛 み 刺 激 を 加 え て も 全 然 動 き の み ら れ な い
300"と 表 現 す る 。
な お , い ず れ の 群 に 属 す る も の で も , 不 穏 状 態 (restlessness)で あ れ ば
尿 失 禁 (inc ontinenc e)が あ れ ば
R ",
I , 無 動 性 無 言 症 (akinetic mutism)や 失 外 套 症
候 群 (apallic sy ndr ome)の よ う に 自 発 性 喪 失 状 態 で あ れ ば
A "を 付 加 す る 。 た と
え ば , 30-RI"の ご と く で あ る 。
なお,I桁の意識障害で,失語症や気管切開などにより,上述のような応答が
できない場合には,もっとも重症な
3 "と 判 断 す る 。
b。 グ ラ ス ゴ ー コ ー マ ス ケ ー ル (GCS)
グ ラ ス ゴ ー コ ー マ ス ケ ー ル (GCS )は 意 識 レ ベ ル を 開 眼 (E),言 語 に よ る 応 答 (V ) ,
運 動 に よ る 応 答 ( M )の 3 要 素 で 表 現 す る 方 法 で あ る 。 す な わ ち , そ れ ぞ れ の 要 素
を 独 立 し て 判 定 し ス コ ア (点 数 ) を つ け , 各 項 目 の 合 計 点 で 評 価 す る 。 最 低 3 点 ,
最 高 15 点 で あ り ,計 1 3 段 階 の 意 識 レ ベ ル が 区 分 さ れ る 。深 昏 睡 が 3 点 て ,意 識
清 明 が 15 点 に 相 当 す る 。 気 管 挿 管 や 気 管 切 開 が な さ れ て い て 言 葉 に よ る 応 答 が
得られないときには,3要素の加算ができないという大点があるが,諸外国では
意 識 障 害 の 評 価 法 と し て GCS が 一 般 的 に 用 い ら れ て い る 。
JCS
O "は GCS 合 計 点 15 点 に 相 当 し , JCS
300"は GCS 合 計 点 3 点 に 相
当する。
イ
意識障害の特殊型
a.
せん妄
軽度ないし中等度の意識混濁に精神的な興奮が加わった状態をいう。錯覚,幻
覚,妄想がつぎつぎと現れ,大声をあげたり,暴れたりする。これは脳の機能が
比較的急性に障害されたときに出現する。たとえば発熱時,中毒,代謝障害など
で起こる。夜間のみにせん妄が起こるのを夜間せん妄といい,脳動脈硬化か進ん
だ高齢者に起こりやすい。
b.も う ろ う 状 態
もうろうとして全体的な判断力が欠けている状態である。この間のことはあと
で思い出せないことご多い。
(3)
ア
神経学的所見の観察
瞳孔
意 識 障 害 時 に は 瞳 孔 の 大 き さ , 左 右 差 (瞳 孔 不 同 の 有 無 ), 対 光 反 射 に つ い て 観
察 す る 。 正 常 の 瞳 孔 は 正 円 で あ り , 大 き さ は 2.5∼ 4. 5mm の 範 囲 に あ る 。 瞳 孔 の
左右の大きさが異なるものを瞳孔不同といい,動眼神経麻痺や頸部交感神経麻痺
などでみられる。
通常,散大している側の動眼神経に障害を有することが多い。すなわち,散大
している側の頭蓋内に血腫や浮腫が存在することを示唆している。対光反射は瞳
孔に光を入れたときの瞳孔の収縮をみるものであり,収縮がみられないときは対
光 反 射 な し ( 欠 如 )と 表 現 す る 。 ま た , 収 縮 の 速 度 が 遅 い の も 異 常 を 示 唆 す る 所 見
である。光を入れた側の瞳孔が収縮する直接対光反射とともに,反対側の瞳孔も
収縮する間接対光反射についても観察するのが望ましい。瞳孔の左右差や,対光
反射の異常を認めた場合,意識障害の原因が脳にある可能性が高い。
(2)
眼位、角膜反射、睫毛反射
意 識 障 害 と と も に 左 右 の 眼 球 が 一 側 を 向 く こ と を 「 共 同 偏 視 」と い い , こ れ も 頭
蓋内病変を疑わせる所見である。
角膜反射は脳幹反射の1つで,こよりなどで角膜に触れたときに迅速に閉眼す
る反射をいい,これがみられない場合には,三叉神経や顔面神経の麻痺,橋障害
が疑われる。
睫 毛 反 射 は ,睫 毛 (ま つ げ )に 触 れ た と き に ま ば た き す る か ど う か を み る も の で ,
意識障害の程度を観察するのに用いられる。
(3)
脳神経症状
人 体 に は 12 の 脳 神 経 が あ り , こ れ ら は 外 界 の 情 報 を キ ャ ッ チ し た り , 生 体 の
恒常性を維持したり,さまざまな筋の運動機能を調節するなど,重要な役割を担
っている。
I.嗅神経:前頭蓋底骨折や脳挫傷などに伴って嗅神経が損傷されると,嗅覚が消失
する。
Ⅱ.視神経:障害の部位によって症状は異なる。視神経交叉部より前方の障害では一
側 眼 の 全 盲 を ,視 神 経 交 文 部 で の 障 害 で は 両 耳 側 半 盲 (両 眼 と も 耳 側 が み え
な い )を , 視 神 経 交 叉 部 よ り 後 方 の 障 害 で は 同 名 半 盲 (両 眼 と も 同 じ 側 が み
え な い )を き た す 。傷 病 者 に 視 力 障 害 や 視 野 狭 窄 の 有 無 を 尋 ね る こ と に よ り
観察する。
Ⅲ.動眼神経:動眼神経が障害されると眼瞼下垂,
複視,外斜視,瞳孔散大などが
出現する。
Ⅳ .滑 車 神 経 : 滑 車 神 経 が 障 害 さ れ る と , 複 視 や 下 外 方 視 障 害 が 出 現 す る 。
V . 三 叉 神 経 : 三 叉 神 経 が 障 害 さ れ る と 顔 面 の 知 覚 障 害 と 咀 嚼 筋 (咬 筋 , 側 頭 筋 な ど )
の麻痺が起こり,角膜反射は消失する。
Ⅵ .外 転 神 経 : 外 転 神 経 が 障 害 さ れ る と , 内 斜 視 が 出 現 す る 。
Ⅶ .顔 面 神 経 : 顔 面 神 経 の 障 害 で は 前 額 部 の し わ が 消 失 し , 開 眼 障 害 か ら 兎 眼 と な り ,
患 側 の 鼻 唇 溝 は 浅 く な っ て ,患 側 口 角 か ら の 流 混 (よ だ れ )が 観 察 さ れ る 。
傷病者に口笛を吹かせてみるのも判断に有用である。突然に発症した顔
面神経障害は,脳卒中を疑わせる他党所見としてはきわめて重要な観察
項目である。なお,顔面神経は舌の前2/3の部分の知覚にも関与して
いる。
Ⅷ。聴神経:聴神経が障害されると難聴やめまいが出現する。
Ⅸ .舌 咽 神 経 : 舌 咽 神 経 が 障 害 さ れ る と , 舌 の 後 方 1 / 3 の 味 覚 が 消 失 す る 。
X.迷走神経:おもに胸腹部内臓を司る神経である。迷走神経の一部である反回神経
が障害されると,声帯の運動が麻痺して嗄声が出現する。
Ⅺ .副 神 経 : 副 神 経 が 障 害 さ れ る と , 肩 を 掌 上 す る こ と が で き な く な る 。
Ⅻ .舌 下 神 経 : 舌 下 神 経 が 障 害 さ れ る と , 舌 の 偏 位 や 萎 縮 が み ら れ る 。
(4)
運動機能
ア
運動麻痺
運動麻痺は,運動中枢から筋線維までのどこかに障害があって,随意的な運動
が で き な い 状 態 を い う 。運 動 麻 痺 は ,そ の 程 度 に よ り 完 全 麻 痺 と 不 完 全 麻 痺 (不 全
麻 痺 )に 分 け ら れ る 。上 位 運 動 ニ ュ ー ロ ン の 障 害 を 中 枢 性 麻 痺 と い い ,下 位 運 動 ニ
ューロンの障害による末梢性麻痺と区別される。上位運動ニューロンの障害に伴
う症状は錐体路症状と呼ばれる。上肢,下肢の運動機能を観察し,その結果は徒
手筋カテストに従って報告する。
単麻痺:上下肢のうち一肢だけが麻痺している状態をいう。外傷による引き抜
き損傷や腕神経叢損傷で,片側上肢の弛緩性麻痺としてみることが多い。
片麻痺:身体一側の上下肢にみられる運動麻痺である。脳出血や脳梗塞など脳
内病変でみることが多く,その障害部位としては内包付近がもっとも多い。脊髄
が原因での片麻痺はまれであるが,頸髄損傷におけるブラウンーセカール症候群
で認められる。軽度の片麻痺の有無をみるには上下肢のバレー徴候を調べるのが
よい。両腕の手掌を上にして前方に水平に挙上し,閉眼してそのままの位置を保
つと,麻痺側の上肢は回内し,次第に落ちてくる。
ドロッピングテストは運動麻痺を客観的に観察する方法である。仰臥している
傷病者の両側上肢を持ち上げ,急に離すと麻痺側の上肢は健側の上肢よりもすみ
やかに落下する。下肢においては,膝の下に検者の腕を入れて支えて,下腿をそ
れぞれ持ち上げて落下させる。やはり,麻痺側のほうが健側よりも早く落ちる。
対 麻 痺 : 両 側 下 肢 (ま た は 両 側 上 肢 )の 麻 痺 を い い , 脊 髄 の 障 害 ・ 損 傷 (下 部 頸 髄
損傷,胸髄損傷,横断性脊髄炎など)によるものが多い。急性期には弛緩性麻痺
を呈し,次第に頸性麻痺となる。
四肢麻痺:上下肢が両骨けに運動麻痺を示す場合をいう。脳幹部障害や頸髄損
傷で認められる。
交叉性麻痺:顔面を含めた脳神経の麻痺側と四肢の麻痺側が違うときには交叉
性 片 麻 痺 (以 前 は 交 代 性 片 麻 痺 と い わ れ て い た )と 呼 ば れ , 脳 幹 部 に 病 変 が あ る と
きの所見である。
イ
反射
反射には正常で認められる反射と病的反射がある。正常で認められる反射で重
要 な の は , 深 部 反 射 (腱 反 射 , 筋 伸 展 反 射 ) で あ り , 亢 進 し て い る か , 減 弱 し て い
るかを観察する。深部反射が消失しているときは異常であると考えなければなら
ない。一方,バビンスキー反射などの病的反射の出現は異常であり,中枢性麻痺
のさいに認められる。
ウ
運動失調
運動失調は協調運動の障害により起こる。協調運動とは,ある動きを円滑に行
うために多くの筋肉が調和を保って働くことをいう。運動失調の原因となる障害
部 位 と し て は 小 脳 と 脊 髄 後 索 が あ り ,い ず れ の 障 害 で も 失 調 性 歩 行 が 観 察 さ れ る 。
小脳由来の運動失調は,手を思うように使えなくなったり,起立,歩行が障害さ
れるのが特徴であり,典型的な傷病者では酔っ払い歩行と呼ばれる不安定な歩行
が観察される。言語もとぎれとぎれとなる特有な構語障害を呈する。また,脊髄
の後索が障害されると,下肢を中心とした運動失調が出現し,著明な歩行障害を
呈する。小脳性振戦は,指の振戦が目的物に近づくほど著明となるのが特徴であ
り , 「 企 図 振 戦 」 と 呼 ば れ る 。 な お , 大 脳 や 前 庭 ( 迷 路 )の 障 害 の ほ か , 末 梢 神 経 障
害でも運動失調は起こる。
(5)
知覚
知覚は,表在知覚と深部知覚に分けられる。表在知覚は皮膚,粘膜の感覚であ
り , 痛 覚 , 温 度 覚 (温 覚 , 冷 覚 ) , 触 覚 が こ れ に 属 す る 。 深 部 知 覚 は 骨 膜 , 筋 肉 ,
関 節 な ど か ら 伝 え ら れ る 感 覚 で あ り , 振 動 覚 , 関 節 覚 (位 置 覚 , 運 動 覚 )な ど が こ
れに属する。
表在知覚の障害は,鈍麻,消失,あるいは過敏と表現する。皮膚の知覚神経の
支配領域を知っておくことは,脊髄損傷などにさいして損傷部位の判断に有用で
ある。鎖骨上部は第4頸髄神経,乳頭は第4胸髄神経,心窩部は第6胸髄神経,
腰 部 は 第 10 胸 髄 神 経 , 鼠 径 部 は 第 1 腰 髄 神 経 が 支 配 し て い る 。 そ の ほ か に 異 常
知覚があるか否かも観察する必要がある。深部知覚は手指や足趾をつまんで,ど
の 指 (趾 )を つ ま ん で い る か を 尋 ね , さ ら に 動 か し て 指 趾 が ど ち ら を 向 い て い る か
尋ねて観察する。
(6)
髄膜刺激症状
髄膜炎やくも膜下出血などにより,髄膜が刺激されたさいに出現する症状であ
る。項部硬直,ケルニッヒ徴候,ブルジンスキー徴候などがある。くも膜下出血
では,血液が異物として髄膜を直接刺激するため,同時に激しい頭痛や嘔吐を伴
うことが多い。
ア
項部硬直
傷病者の枕を取り,検者の手を傷病者の項部に当てて頭部を持ち上げ,前屈さ
せるようにする。正常では傷病者の下顎は前胸部につくのに対し,頭部の前屈に
抵抗を示し,頭部と胸部が一緒に持ち上がるとき,項部硬直ありと判断する。
イ
ケルニッヒ徴候
傷病者を仰臥位とし,一側の膝を屈曲位にして下肢を股関節で腹側に曲げ,直
角位にまで持ってきたところで膝関節を伸ばそうとするとき抵抗があって十分伸
びないときにケルニッヒ徴候陽性と判断する。
ウ
ブルジンスキー徴候
両下肢を伸ばした状態で仰臥させ,頭部を持ち上げ頭部を屈曲させたとき,股
関 節 と 膝 関 節 に 自 動 的 な 屈 曲 が 起 こ り ,膝 が 持 ち 上 が っ た な ら ば 陽 性 と 判 断 す る 。
(7)
失語症と構語障害
発語に関する筋や末梢神経に異常がなく,高位中枢神経系の障害による言語障
害 を 失 語 症 と い う 。 言 語 中 枢 は 右 利 き の 人 で は 95 % 以 上 が , 左 利 き の 人 で は 70
∼ 80 % が 左 大 脳 半 球 に あ る と い わ れ て い る 。自 発 言 語 の 障 害 が 運 動 性 失 語 で あ り ,
前頭葉の運動言語中枢の障害による。言語の理解が障害されるのが感覚性失語で
あり,側頭葉から頭頂葉にある聴覚言語中枢の障害による。失語症とは異なるも
の に , 構 語 障 害 (構 音 障 害 )と 呼 ば れ る 言 語 障 害 が あ る 。 こ れ は 発 語 に 関 す る 筋 肉
や神経の障害によって起こり,ろれつが回らない,あるいはうまくしゃべれない
状態である。
突 然 に 発 症 し た 失 語 ,構 語 障 害 は ,脳 卒 中 の 可 能 性 を 強 く 疑 わ せ る 所 見 で あ る 。
局所所見の観察
1
観察法の基本
(1)
視診
まず傷病者の全体をみて大まかな状況を把握する。ついで必要に応じて毛髪を
よけたり衣服をはだけ,隠れている部分の観察を行う。皮膚の色調,付着物,創
傷,変形,発疹,出血などから局所の異常を判断すると同時に生体内部の異常を
類推する。
(2)
触診
手指または手掌を皮膚に当て,皮膚の弾力,緊張度,温度や湿潤程度,動脈拍
動の状態などを観察する。触診によって骨の異常可動性や軋轢音が認められれば
骨折と判断され,握雪感や捻髪音が認められれば皮下気腫と判断される。胸郭の
骨折が疑われる傷病者では胸部の触診が,また腹痛や腹部外傷の傷病者では腹部
の触診がきわめて重要である。
(3)
聴診
聴 診 器 を 用 い て ,胸 部 で は 呼 吸 音 ,心 音 ,血 管 性 雑 音 を ,ま た 腹 部 で は 腸 雑 音 (グ
ル 音 ),血 管 性 雑 音 を 聴 取 す る 。慢 性 腎 不 全 で 血 液 透 析 施 行 中 の 傷 病 者 で は ,前 腕
部の内シャント造設部で血管性雑音を聴取することができる。
(4)
打診
右または左の手掌を傷病者の患部に当て,中指の近位指関節をもう一方の手の
示指と中指の先端で数回軽く叩いたときに発生する音の性質から,生体内の異常
を 判 断 す る 方 法 で あ る 。胸 部 で は 気 胸 (鼓 音 ) ,血 胸 ま た は 胸 水 貯 留 (濁 音 ),腹 部 で
は イ レ ウ ス (鼓 音 ), 腹 腔 内 出 血 ま た は 腹 水 (濁 音 )の 観 察 に 用 い る 。
(5)
所見の表現
視 診 の 所 見 は ,腫 脹 ,変 形 ,色 調 異 常 ,創 や 出 血 の 状 態 な ど を み た ま ま に 表 現 す る 。
触診所見も同様であるが,軋轢音や握雪感といった特液的な所見は適切な医学用
語で表現する。聴診所見のうち,呼吸音では湿性ラ音や乾性ラ音,心雑音では収
縮期雑音や拡張期雑音や連続性雑音,血管性雑音ではその部位,グル音は亢進ま
たは減弱などについて観察し,活動記録に記載する。
2
頭部・顔面・頸部の観察
顔面の浮腫は,腎不全やネフローゼ症液群などでみられ,眼瞼腫脹から始まり顔
面全体に及ぶ。眼瞼がたるみ,鼻,下口唇が厚く大きくなり,ぼんやりした浮腫状
の 顔 貌 を 呈 す る 場 合 に は 甲 状 腺 機 能 低 下 症 (粘 液 水 腫 )の 可 能 性 が あ る 。 一 方 , 皮 膚
に光沢を伴い,眼球が突出して目つきが鋭く感じられる場合には甲状液機能亢進症
(バ セ ド ウ 病 )が 疑 わ れ る 。 逆 に 眼 球 が 陥 凹 し て い る 場 合 に は ホ ル ネ ル 症 候 群 が 疑 わ
れ る 。 浅 黒 い 皮 膚 (メ ラ ニ ン 色 素 の 沈 着 に よ る ) を 呈 し , 無 関 心 な 表 情 を し て い る の
はアジソン病の特液といわれている。頬が膨らみ,顔全休が丸くなっているのは液
月様顔貌といい,クッシング病やクッシング症液群でみられる。顔面の両頬に蝶の
形をした紅斑がみられれば,膠原病の1つである全身性エリテマトーデスの可能性
が あ る 。 意 識 は 明 瞭 で あ る の に 表 情 が 乏 し く , 能 面 様 を 呈 す る 傷 病 者 (仮 面 様 顔 貌 )
では,パーキンソン病やパーキンソン症候群が疑われる。やせて眼が落ち込んで凹
み,顔がこけて鉛色の顔色を呈するものをヒポクラテス顔貌と呼び,悪性腫瘍の末
期 (悪 液 質 )な ど で み ら れ る 。
眼瞼結膜は下眼瞼を指で軽く引き下げて観察し,貧血や充血の有無,あるいは点
状出血の程度を判断する。また眼球結膜については,黄染の程度から黄疸の有無や
程度を判断する。眼の充血には結膜充血と毛様充血がある。結膜充血は結膜炎やま
れには頸動脈海綿静脈洞瘻でみられ,眼球結膜と眼瞼結膜の両方が充血し,角膜よ
り遠くなるほど強い。一方,毛複充血は急性緑内障や角膜,強膜,ぶどう複の炎症
でみられるもので,角複に近くなるほど強く,眼瞼結膜には充血がない。急激な複
力 低 下 , 眼 痛 や 頭 痛 , 虹 複 症 (電 灯 の 周 囲 に 虻 の よ う な 輪 が み え る こ と ), 悪 心 ・ 嘔
吐があり,角膜混濁,瞳孔散大,結膜充血がみられる複合には急性緑内障発作であ
る 可 能 性 が 高 い 。ま た 高 齢 者 な ど の 白 内 障 で は 水 晶 体 (レ ン ズ )の 混 濁 が 認 め ら れ る 。
眼球の上下左右への動きが正常か,それとも制限があるかをみる。このさいに眼
複 の 有 無 に つ い て も チ ェ ッ ク す る 。動 眼 神 経 (お よ び 滑 車 神 経 ,外 転 神 経 )に 障 害 が
あ れ ば 眼 球 運 動 に 制 限 が 生 じ て 斜 視 と な り , 複 視 (物 が 二 重 に み え る )を 訴 え る 。 斜
複 に は 眼 球 が 内 側 に ず れ て い る 内 斜 複 と ,外 側 に ず れ て い る 外 斜 視 が あ る 。た だ し ,
先天性斜複の多くは複視を訴えない。両側の眼球とも同側をみつめるようになって
いるときには共同偏視という。
眼瞼下垂は,動眼神経麻痺,ホルネル症候群,重症筋無力症などで認められる。
ま た ,末 梢 性 顔 面 神 複 麻 痺 で は 麻 痺 側 の 眼 を 閉 じ る こ と が で き な く な り (閉 眼 障 害 ),
いわゆる兎眼となる。
頭 部 外 傷 傷 病 者 で は 頭 部 の 観 察 が き わ め て 重 要 で あ る 。 頭 部 の 「こ ぶ 」 は 通 常 頭 皮
下血腫と呼ばれるが,帽状腱膜下血腫であることが多い。指で真ん中を押すと凹む
ために陥没骨折と間違えやすく,注意が必要である。閉鎖性の頭蓋骨骨折は外から
観 察 で き な い こ と が 多 い が , ブ ラ ッ ク ア イ や 鼻 孔 か ら の 髄 液 漏 (髄 液 鼻 漏 ) が み ら れ
れ ば 前 頭 蓋 底 骨 折 が , ま た バ ト ル 徴 候 や 耳 か ら の 髄 液 漏 (髄 液 耳 漏 ) が み ら れ れ ば 中
頭蓋底骨折がそれぞれ疑われる。頭部外傷後に拍動性眼球突出が出現し,眼球周辺
に 血 管 雑 音 が 聴 取 さ れ る 場 合 に は ,内 頸 動 脈 と 海 綿 静 脈 洞 と の 間 に 瘻 孔 (頸 動 脈 海 綿
静 脈 洞 瘻 )を 形 成 し て い る 可 能 性 が あ る 。
胸部が大きな外力で一定時間圧迫されたのち,意識障害とともに眼瞼結膜の点状
出血,眼球結膜の浮腫,舌の腫脹などがみられれば,上大静脈領域の還流障害によ
る外傷性窒息と判断される。
外 傷 後 日 数 が 経 っ て か ら , 口 が 開 か な く な り ( 開 口 障 害 ), 顔 面 筋 が 痙 攣 し て 笑 っ
た よ う な 顔 (痙 笑 )を 呈 す る 傷 病 者 は , 破 傷 風 に 罹 患 し て い る 可 能 性 が あ る 。
外頸静脈は通常,仰臥位では認められることがあっても坐位では認められない。
出血や脱水で循環血液量が減少し,静脈圧が低下しているときには,仰臥位でも頸
静脈が観察できなくなる。反対に半坐位や坐位でも外頸静脈の怒張が認められたな
らば,緊張性気胸,右心不全,うっ血性心不全,心タンボナーデなどを疑う必要が
ある。
頸部の触診では,甲状腺の位置と大きさとともに,皮下気腫や気管偏位の有無に
つ い て 観 察 す る 。 甲 状 腺 の 腫 大 (お よ び 眼 球 突 出 )を 認 め た な ら ば , 甲 状 腺 機 能 亢 進
症 (バ セ ド ウ 病 )や 甲 状 腺 の 腫 瘍 を 疑 う 。
3
胸部の観察
(1)
胸郭
胸骨部分が前方に突出した形の胸郭を鳩胸といい,逆に胸骨部が身体内方に
陥没したように凹んでいるものを漏斗胸と呼ぶ。胸郭の前後径が増加して水平
断面が楕円形から円形に変わったものをビール樽状胸郭と呼び,慢性閉塞性肺
疾患でみられる。
脊柱が後方に突出したものを後彎といい,その高度なものを亀背と呼ぶ。亀
背は高齢者や胸腰椎の圧迫骨折傷病者でみられ,胸部背面が突出してつねに
前傾した姿勢となる。また脊柱が側方に彎曲したものを側彎という。
胸部や頸部の皮膚にみられるクモ状血管腫は肝硬変の判断に役立つ。そのさ
い,男性に女性化乳房を伴うこともある。
左前下胸部で心尖拍動がみられるか否かを観察する。健康人では痩せている
場合を除けば心尖拍動がみられることはまれであるが,心疾患を有する傷病者
ではみられることがある。
一 側 胸 郭 の 拡 大 は 緊 張 性 気 胸 で み ら れ ,呼 吸 の さ い に 患 側 の 動 き が 減 弱 す る 。
一 側 胸 郭 の 縮 小 は 肺 の 萎 縮 (陳 旧 性 肺 結 核 な ど ) , 無 気 肺 , 胸 郭 形 成 術 後 な ど で
みられる。
(1)
呼吸音
聴診器を使用しなくとも呼吸に伴ってヒーヒー,ゼーゼーと聞こえる音は喘
鳴と呼ばれる。喉頭や気管など,上気道の狭窄では喘鳴を伴った吸気性呼吸困
難を呈し,気管支喘息など,下気道の狭窄では喘鳴を伴った呼気性呼吸困難を
呈する。
呼吸音の観察は聴診器を用いて坐位または仰臥位で行い,呼吸音および肺雑
音を聴取する。呼吸困難を訴える坐位の傷病者では背部の聴診も重要であり,
呼吸音の聴取は左右交互に行うのが原則である。
ア
正常呼吸音の変化
a.
呼気延長
気管支に狭窄があることにより空気の呼出障害があることを示すもので,気
管支喘息など閉塞性肺疾患で認められる。
b.
呼吸音の減弱
胸腔内に液体が貯留する血胸・胸水,空気が貯留する気胸,肺の一部が虚脱
する無気肺では,それぞれ患側の呼吸音が減弱する。呼吸筋麻痺や気管支喘息
で呼吸停止が切迫しているときには,呼吸音は両側性に減弱ないし消失する。
肺気腫でも両側性に呼吸音は減弱している。
イ
副 雑 音 (肺 雑 音 )
副雑音は呼吸運動に伴って生じる異常呼吸音であり,肺内から発生するラ音
がおもな音である。ほかには胸膜摩擦音などがある。
a.
ラ 音 (ラ ッ セ ル 音 )
連 続 性 ラ 音 ( 乾 性 ラ 音 ): 気 管 支 の 狭 窄 に よ り 生 じ る 音 で あ り , 主 と し て 呼 気
時に聴取される。比較的太い気管支が粘稠な喀痰などにより狭窄をきたしたと
き に は 低 音 性 連 続 音 (い び き 音 )が 聴 取 さ れ る 。 よ り 細 い 気 管 支 の 狭 窄 で は 高 音
性 連 続 音 (笛 声 音 )が 聴 取 さ れ , こ れ は 気 管 支 喘 息 で 聴 取 さ れ る こ と が 多 い の で
喘息性呼吸音ともいわれる。
断 続 性 ラ 音 ( 湿 性 ラ 音 ): 持 続 性 の 短 い 不 連 続 な ラ 音 で あ り , 主 と し て 吸 気 時
に聴取される。末梢気道や肺胞に液体があるときにそこを空気が通過するさい
に生じる音である。粗い断続性ラ音は気管支壁に張った液体膜や水泡が気流に
より破裂する音であり,肺水腫,肺炎,気管支炎などで聴取される。一方,細
かい断続性ラ音は捻髪音とも呼ばれ,呼気時に閉塞した細い気道が吸気により
再開放するさいに発生する音であり,肺線維症などで聴取される。
b.
その他の副雑音
胸 膜 摩 擦 音 : 胸 膜 炎 に お い て , 炎 症 (滲 出 性 炎 症 )に 伴 い 線 維 素 が 析 出 ・ 沈 着
し,胸膜面が粗くなった場合には,呼吸音とともに雑音を呈するようになる。
こ の 音 を 胸 膜 摩 擦 音 と い う 。靴 底 の 軋 む よ う な 音 や 雪 を 握 る よ う な 音 (キ ユ ッ キ
ユ ッ , ギ ユ ッ ギ ユ ッ )が 多 い 。
(3)
心音
心音とは,心臓が収縮と拡張を交互に繰り返す自動運動のさいに,体表から
聴取される音である。僧帽弁と三尖弁が閉鎖することにより発生するI音,大
動脈弁および肺動脈弁が閉鎖することにより発生するⅡ音,血液が左心房から
左心室内へ流入することにより生じるⅢ音,心房が収縮することにより生じる
IV 音 に 分 け ら れ る 。聴 診 器 に よ る 観 察 で は 通 常 ,I 音 と Ⅱ 音 を 聴 取 で き る こ と
が多い。心周期のうちで収縮期は拡張期に比して短いために,聴診ではI音と
Ⅱ音の間隔は短く,Ⅱ音とI音の間隔は長い。心膜炎や心タンポナーデなど,
心嚢内に液体が貯留する病態では,心音は減弱する。
心雑音は弁などの異常により,心拍動に伴って発生する音であり,I音とⅡ
音 の 間 で 聞 か れ る 収 縮 期 雑 音 (僧 帽 弁 閉 鎖 不 全 , 大 動 脈 弁 狭 窄 な ど ) , Ⅱ 音 と I
音 の 間 で 聞 か れ る 拡 張 期 雑 音 (僧 帽 弁 狭 窄 , 大 動 脈 弁 閉 鎖 不 全 な ど ) , Ⅱ 音 を 中
心 と し て 漸 増 漸 減 す る 連 続 性 雑 音 (動 脈 管 開 存 症 ,動 静 脈 瘻 な ど )に 分 け ら れ る 。
心臓弁膜症や先天性心疾患などの傷病者では,心雑音の部位や特徴が病態を判
断するうえでの参考になる。
4
腹部の観察
(1)
腹部の分画(場所の表し方)
腹 部 は 4 分 画 (右 上 腹 部 , 右 下 腹 部 , 左 上 腹 部 , 左 下 腹 部 )ま た は 9 分 画 (心 痛
部または上腹部,右季肋部,左季肋部,臍部,右側腹部,左側腹部,下腹部,
右下腹部または回盲部,左下腹部)に分けられる。腹部になんらかの異常所見
が認められた場合には,それが腹部のどの部位に認められるのかを表現する。
(2)
視診
腹部の輪郭は平坦,陥凹,膨隆などと表現される。腹部膨隆を呈する原因と
し て , 肥 満 , 腹 水 , 鼓 腸 (消 化 管 内 に ガ ス が 貯 留 し て い る 状 態 ), 宿 便 , 胎 児 ,
悪性腫瘍があげられる。大量の腹水貯留による腹部膨隆は,仰臥位で前面が平
ら で 側 腹 部 へ の 膨 隆 が 特 徴 的 で あ る (蛙 腹 ) 。 こ れ に 対 し て , 卵 巣 腫 瘍 や 妊 娠 に
よる腹部膨隆は腹壁前面が突出するのが特徴である。
臍周囲に青色∼紫青色の出血斑がみられるものをカレン徴候と呼び,側腹部
に同様の出血斑を認めるものをグレイーターナー徴候と呼ぶ。いずれも後腹膜
出血が体表から観察されたものであり,重篤化した急性出血性膠炎にみられる
所見である。腸閉塞などで,腸管が著明に拡張するとともに蠕動か異常に亢進
し,腸管運動が腹壁を通して肉眼的に認められるとき蠕動不穏という。またや
せた人では臍周囲に腹部大動脈の拍動がみえることがある。腸管などの脱出が
あると腹壁の一部が膨隆する。鼠径部に出現する鼠径ヘルニア,手術部位に出
現する腹壁瘢痕ヘルニア,臍部に出現する臍ヘルニアなどがある。進行した肝
硬 変 の 傷 病 者 に み ら れ る 腹 壁 静 脈 怒 張 は 臍 周 囲 か ら 放 射 状 に み ら れ ,こ れ を 「メ
ズ サ の 頭 」 と 呼 ぶ 。メ ズ サ と は ギ リ シ ャ 神 話 に 出 て く る 女 性 で あ り ,頭 髪 が ヘ ビ
で,みる人をひとにらみで石に変えたといわれる。また,下大静脈が閉塞した
傷病者では,下腹部から上腹部にかけて拡張・怒張した静脈がみられる。さら
に妊娠中や妊娠を経験した女性のほか,クッシング症候群の傷病者では下腹部
に皮膚線条がみられることがある。
(3)
触診
腹部の触診は指先に力を入れるのではなく,手掌全体を使って,やさしく,
腹部全体を順々に観察する。その目的は,肝・脾腫大の有無と性状,腹部腫瘤
の 有 無 と 性 状 ,腹 部 の 圧 痛 お よ び 筋 性 防 御 (デ フ ァ ン ス )や 反 跳 痛 (ブ ル ン ベ ル グ
徴 候 )の 有 無 ,波 動 の 有 無 を 観 察 す る こ と に あ る 。触 診 に さ い し て は ,傷 病 者 の
膝関節を屈曲させ,腹壁の緊張をとった状態で行う。また腹部を圧迫する場合
には,はじめは軽く行い,次第に圧迫を強くしていくようにするとよい。腹痛
を訴える傷病者では,疼痛のない部位から触診を開始し,疼痛部位を最後に観
察することが大切である。
健康人では触診しても肝や脾は確認できないが,肝硬変や脾腫瘍などで肝腫
大や脾腫大をきたすと触知できることがある。肝が触知されるときは,右肋骨
弓下に何横指ほど触れるかを観察するとともに,辺縁の性状,硬度,表面の凹
凸の有無を観察することが望ましい。肝硬変では近縁が鈍となり,表面は硬く
て顆粒状や結節状を呈する。
腹部に腫瘤を触知した場合には,その存在部位,大きさ,形状,硬さ,表面
の状態,可動性の有無,拍動の有無などについて観察する。腹痛または腰痛を
訴えてショック状態を呈し,触診にて拍動性の腹部腫瘤を触知した場合には,
破裂性腹部大動脈瘤を疑わなければならない。また,女性の下腹部腫瘤では妊
娠の可能性についても考慮しておく。
大量の腹水や腹腔内出血があると,触診にさいして波動を感ずる。一方の手
掌を側腹部に当て,他方の対側の側腹部を手の第2∼4指先端で軽くかつ鋭く
叩くと,触診手に波の動きが伝わる。
腹部を限局的に圧迫したときに疼痛が出現するものを圧痛といい,急性虫垂
炎のさいにみられるマックバーネー圧痛点がよく知られている。腹膜炎による
体性痛では,腹部に圧迫を加えている間ずっと圧痛が持続するのに対し,腸管
の痙攣や伸展による内臓痛では,腹部を圧迫することにより痛みが軽減するこ
とがある。
(4)
聴診
腹 部 の 聴 診 は 聴 診 器 を 腹 壁 に 当 て ,右 上 ,左 上 ,右 下 ,左 下 の 4 領 域 で 行 う 。
そ の 目 的 は 腸 蠕 動 音 (ダ ル 音 , 腸 雑 音 )や 血 管 性 雑 音 の 有 無 お よ び 程 度 を 観 察 す
ることにある。腸蠕動音は腸内容物と空気が腸内を動いている音であり,健康
人 で は 必 ず 聴 こ え る も の で あ る 。汎 発 性 腹 膜 炎 や 後 腹 膜 血 腫 な ど の 傷 病 者 で は ,
麻痺性イレウスをきたして腸雑音が減弱ないし消失する。逆に,機械的イレウ
ス な ど ,腸 管 に 通 過 障 害 (閉 塞 )が あ る と 当 初 は 腸 管 蠕 動 が 亢 進 し ,「カ ラ ン ,コ
ロ ン ]と 表 現 さ れ る 高 調 の 金 属 音 が 聴 取 さ れ る 。腹 部 大 動 脈 瘤 が あ る と ,そ の 部
位に一致して血管性雑音を聴取することがある。
(5)
打診
腹部打診の目的は腹腔内の液体または空気の貯留状態ならびに腸管内ガスの
量 を 観 察 す る こ と に あ る 。健 康 人 で は 胃 内 お よ び 結 腸 内 に ガ ス が 存 在 す る た め ,
この部では鼓音を呈し,肝・脾の部分では濁音を呈する。腸閉塞などで消化管
内ガスの量が著明に増加すると,腹部膨隆とともに腹部全体で鼓音が観察され
る。また,消化管穿孔により腹腔内に大量の遊離ガスが貯留した場合にも腹部
の鼓音が観察される。一方,大量の腹水貯留や腹腔内出血では腸れる。陰茎の
持続勃起は脊髄損傷を示唆する所見である。悪心,嘔吐,腹痛といったイレウ
ス症状を呈する傷病者では,嵌頓ヘルニアの可能性もあるので,鼠径部から会
陰部にかけての観察が重要である。鼠径ヘルニアでは,鼠径靭帯の上から男性
では陰嚢に,女性では会陰に向かって膨隆する腫瘤を認める。大腿ヘルニアは
高齢女性に多く発生し,鼠径靭帯の下に突出する腫瘤が特徴的である。下着を
十分下ろして観察しないと見逃す危険がある。小児において不機嫌,啼泣,嘔
吐などがみられたときには,鼠径ヘルニア嵌頓の有無を見落とさないようにす
る。
6
四肢の観察
四肢では,変形,腫脹,色調異常,温度異常,運動および知覚異常の有無などに
ついて観察する。観察に当たってば,衣類を除去しなければならない場合もある。
心房細動を有する傷病者や動脈の粥状硬化を伴う傷病者では,心大血管内に形成
された血栓が遊離して血流に乗り,急性四肢動脈閉塞をきたすことがある。この場
合には,激烈な患肢の疼痛とともに,四肢冷感および蒼白,脈拍触知不能,知覚異
常,運動麻痺が認められ,緊急手術の適応である。閉塞性動脈硬化症や閉塞性血栓
血 管 炎 (バ ー ジ ヤ ー 病 )な ど で は , 患 肢 の 疼 痛 に 加 え , 末 梢 動 脈 拍 動 消 失 , 皮 膚 潰 瘍
形成,皮膚壊死などの所見を認める。
急な経過で起こる一側下肢の著明な腫脹は,深部静脈血栓症によることが多い。
不用意に患肢を動かすと血栓が遊離し,致命的な肺血栓塞栓症をきたすことがある
ので注意する。また,乳癌術後の女性が患側上肢の浮腫を訴えたり,直腸癌や子宮
癌術後の傷病者が下肢の浮腫を訴える場合にはリンパ浮腫が疑われる。
四肢の浮腫は右心不全やうっ血性心不全でみられ,とくに下肢の脛骨前面や足背
に強いのが特徴である。皮膚を指で圧迫し,指圧痕が残るようならば浮腫ありと判
断する。これに対し,粘液水腫による四肢の浮腫では指圧痕が残らない。
四肢の疼痛,しびれ感,冷感,色調異常などを訴える傷病者では脈拍の観察が重
要である。通常,上肢では橈骨動脈,下肢では足背動脈の脈拍を観察するが,橈骨
動脈が触れなければ肘動脈を,足背動脈が触れなければ大腿動脈を触れてみる必要
がある。こうすることにより,どの部位から末梢の動脈血流が障害されているか判
断することができる。
外傷傷病者の観察では,骨折,脱臼,靭帯損傷,捻挫,血管損傷,神経損傷,筋
損傷,皮膚および皮下組織損傷の有無について注意深く観察しなければならない。
骨 折 が あ る と き に は , 疼 痛 , 腫 脹 ,変 形 , 皮 下 出 血 斑 ,異 常 可 動 性 ,轢 音 (骨 折 端 が
互 い に 触 れ て コ ツ コ ツ と 音 が す る )が 認 め ら れ る 。脱 臼 で は ,関 節 の 疼 痛 ,変 形 ,運
動 制 限 ,他 動 運 動 の さ い の 弾 力 性 固 定 ,異 常 位 置 に お け る 骨 頭 の 触 知 が 観 察 さ れ る 。
また,捻挫では,疼痛,圧痛,関節の腫脹,皮下溢血,運動制限などがみられる。
四肢の観察では末梢神経麻痺の有無も観察する必要がある。橈骨神経麻痺では下
垂 手 ,尺 骨 神 経 麻 痺 で は 鷲 手 ,正 中 神 経 麻 痺 で は 猿 手 が 起 こ る こ と が 知 ら れ て い る 。
下肢の腓骨神経麻痺では足趾の背面困難が観察される。
四肢が倒壊した建物の下敷きになり,軟部組織が長時間圧挫されて筋組織の壊死
を き た し た 傷 病 者 (挫 滅 症 候 群 ) や , 筋 組 織 の 腫 脹 や 内 出 血 な ど に よ り , 筋 膜 内 圧 の
著 明 な 上 昇 を き た し ,循 環 障 害 に よ っ て 筋 組 織 の 壊 死 を き た し た 傷 病 者 (コ ン パ ー ト
メ ン ト 症 候 群 )で は ,ミ オ グ ロ ビ ン 血 症 ,ミ オ グ ロ ビ ン 尿 症 ,高 カ リ ウ ム 血 症 ,急 性
腎不全を合併する。きわめて重篤かつ緊急性の高い病態である。
7
手指、足趾、爪の観察
手指や足趾の観察では,腫脹,熱感,変形,圧痛,色調異常,皮膚潰瘍や壊死の
有無に注意する。
指節間関節が変形している傷病者では関節リウマチを,ばち指を呈する傷病者で
は慢性肺疾患や先天性心疾患を,スプーン状の爪をしている傷病者では鉄欠乏性貧
血が疑われる。足関節内顆部の皮膚潰瘍は下肢静脈瘤に,また足趾の壊疸と足背動
脈・後 脛 骨 動 脈 の 拍 動 消 失 は 閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 や バ ー ジ ヤ ー 病 に し ば し ば 合 併 す る 。
母 趾 の つ け 根 に 有 痛 性 で 発 赤・腫 脹 を 伴 う 結 節 が 観 察 さ れ た 場 合 に は ,痛 風 を 疑 う 。
爪床は、末梢循環を観察するのに有用であり,爪を軽く圧迫し,これを解除する
こ と に よ っ て 爪 床 が ピ ン ク 色 に 戻 る 時 間 ( 毛 細 血 管 再 充 満 時 間 )が 2 秒 以 内 で あ れ ば
正常であり,2秒以上かかるのは末梢循環不全と判断する。これを爪床圧迫テスト
(ブ ラ ン チ テ ス ト )と い う 。
血圧について
血 圧 測 定 の 場 合 、左 右 で 測 定 す る と 測 定 値 が 違 う と 聞 い た の で す が 、本 当 て す か ? ま
た 、 ど ち ら が 正 し い 値 で し ょ う か ?そ れ か ら 座 位 と 臥 位 で は ど う 違 い ま す か ?
血圧とは血管内圧(血液が脈管に及ぼす圧)をいい、一般には動脈圧を指し間接法
で測定する。上腕動脈の側圧を間接的に測定した値として表し、心収縮の最大になっ
た時の圧に相当する圧を収縮期血圧、心拡張期の最低の内圧に相当する圧を拡張期血
圧と呼ぶ。
間接法はマンシェットの中に空気を挿入して測定するが、マンシェットの幅が狭く
な る と 血 圧 は 高 め に な る た め 、 W H O ( 世 界 保 健 機 関 ) で は 幅 14c m、 上 腕 を 一 周 す
る長さを推奨している。測定時は運動・食事・精神的影響などないように心がけるの
が原則である。
正常でも左右の血圧に多少の差はあるが、病的な状態も含め左右差を生じる理由は
下に示したようなことが考えられる。左右どちらの血圧が正しいかというようなこと
はなく、左右上腕で多少の差があって、どちらか一方のみ測定する場合は右上腕が推
奨 さ れ て い る 。こ れ は 大 動 脈 狭 窄 が し ば し ば 左 鎖 骨 下 動 脈 起 始 部 よ り 中 枢 に あ る た め 、
上腕のみで高血圧がみられるためである。繰り返して測定する場合は同一側を比較す
る。座位と臥位では座位か高く出るが、降圧剤を服用していると立位で低くなる人も
いる。
上肢血圧左右差を生じる状態
(1)測定誤差
マンシェットの幅・空気・体位・肘の位置
(2)軟部組織の違い
肥満・痩せ・筋肉の発達・萎縮
(3)大動脈の異常
大動脈瘤・狭窄・奇形
(4)動脈の閉塞
大動脈炎・バージヤー病・ベーチェット病・動脈硬化
(5)腫瘍
肺腫瘍・縦隔腫瘍・甲状腺腫瘍
(6)神経疾患
頸 椎 症 ( 交 感 神 経 の 1 側 障 害 )・ 片 麻 痺 ・ 脊 髄 空 洞 症
接遇のポイント
人間というものは、すばらしいもので、自分の考えを持ち、行動を起こすこと
ができ、また相手に伝える「言葉」という手段を兼揃えている他の動物には類を
見ない生き物です。
しかし、時としてその言葉が相手を悲しましたり、怒らせるといった人間関係
を悪くする状況を作ってしまうこととなります。そういった意味でも、言葉ひと
つで、相手を不快な気持ちにさせたり、不信感を抱かせる行動をとったりするこ
とは、できかげりさけなければなれません。
そこで、人間関係をよりスムーズに行なう(接する)にはどうしらいいのかを
次のようにまとめてみました。
1
初対面の人との接し方について
(1)挨拶をしっかりする
(2)相手の人の目線にあわし話をする
(3)話をするとき語尾を強くしていわず柔らかく言う
(4)笑顔で接する
2
人との接し方で必要な事
(1)言葉づかい
(2)聞く態度・話す態度
(3)笑顔
3
是非守っていただきたい事柄
救急現場とは,確定診断をつけ、最終治療を行う場所ではありません、まず
患者・家族の気持ちを思い遣ることが重要です。
①
身だしなみに注意しましょう
a.清 潔 な 服 装
b.患 者 さ ん に 触 れ る 手 指 に は 要 注 意
c.強 い 香 り の 整 髪 剤 , 食 べ 物
②
自己紹介を忘れずにしましょう
初対面で不安いっぱいの患者・家族に対して、まずは簡潔に自己紹介をする
の が 社 会 人 と し て の 常 識 で す 。時 候 の あ い さ つ も 、は じ め ま し て も 要 り ま せ ん .
「平塚消防、海岸救急隊の松田です、どうされましたか?」これだけで結構で
す、必ず実行しましょう。
③
視線をできるだけ話を聞く人と同じ高さにしましょう
態 度 、物 腰 を 言 っ て い る の で は あ り ま せ ん 。物 理 的 な 視 線 の 高 さ の こ と で す 、
あなた自身がふとんに横になっているときに、奥さんに横に立ったまま話しか
けられた場合と、傍らに座って話しかけられた場合を考えてみてください、上
から声が降ってくるのは、何とも威圧的に思えてしまうものです、病人の横に
寝そべって、手枕で質問をしろとは言いません。できるだけ物理的な視線の位
置を同じにするよう努力しましょう。
④
プライバシーに留意しましょう
屋外はともかく、仕事とはいえアカの他人の家に、しかも時には他人は入れ
ない寝室へと、とんでもない時間帯に入っていくことも多いでしょう。玄関の
掃 除 を し 、部 屋 を 片 づ け 、寝 室 に 掃 除 機 を か け 、こ ざ っ ぱ り し た 洋 服 に 着 替 え 、
化粧までして救急隊員を迎えてくれるお宅が多いとは思われません。
⑤
家族の方々への思い遣りの気持ちを忘れないようにしましょう
ど ん な 人 で も 誰 か に と っ て は 、特 に 家 族 に と っ て は か け が え の な い 個 人 で す 。
軽はずみな言動に注意し、常に家族の心情を思い遣る気持ちを忘れないように
したいものです。
次に救急現場での接遇で何が必要なのかを再確認を兼ねて、考えて頂きたいと
思います。
例題
子供の熱傷でのトラブル
子供が味噌汁をかぶり、熱がって泣いていたので、
母親に「かわいそうに、子供の手が届くところに置くなんて、非常識ですよ」
と言うと、そばにいた父親が、
「 そ ん な 事 、言 わ れ な く と も 分 か っ て い ま す よ ! 早 く 病 院 に 連 れ て 行 っ て く れ ! 」
とぶ然として言った。
母親は声を出して泣き出した。
1
きっかけは何か
救 急 隊 員 の 会 話 か ら 、傷 病 者 の 身 上 に か か わ る 詮 索 や 、過 失 の 有 無 に つ い て 、
中傷の言葉を聞いた。
2
派生する問題点
救急隊員から詮索、中傷されたという意識が強く働き、救急隊員に対する不
信感を持ち、隊員の言動を必要以上に注意深くみるようになる。ささいなこと
でも感情的な不平不満となり、プライバシーの侵害や越権行為だ等の苦情や投
書の問題に発展する。
3
正しい接遇要領
救 急 隊 員 は 、不 安 感 と 焦 燥 感 に あ る 家 族 や 、衆 人 の 中 で 行 動 す る こ と か ら 、隊
員の一言、一句が関係者や家族に与える心理的影響は大きい。特に第三者の行
為が絡んだ事故の場合は、以後の補償問題にも影響を与えることとなるので、
十分注意する必要があります。このことを深く認識し、傷病者や関係者の立場
と心情を理解し、思いやりのある言動に心がける必要があります。
親は誰に言われなくても「あの時○○しておけばよかった。全く私の不法意
で、子供にこんな痛い思いをさせてしまった。どうか早く治ってくれますよう
に……」と神にも折る気持ちで、自分を責めているのです。
何事につけ、過ちを自覚し、後悔しているところへ、追い打ちをかけるよう
に非難めいた発言をすると、反感を買うばかりで、何らプラスすることはない
ものです。特に子供の場合、家族等関係者に対する発言は特に慎重な配慮を要
し、非難や指導よりも「大変でしたね。でも、先生や看護婦さんが一生懸命に
治 療 し て く れ て い ま す か ら 、そ の イ ス に で も か け て 、心 を 落 ち 着 か せ て 下 さ い 」
等、温かい思いやりのある励ましの言葉が必要です。
救急隊員の接遇要領
サ イ レ ン と 供 に 救 急 車 内 で は 、患 者 も そ の 家 族 も 不 安 で な ら な い 状 況 だ と 言 え
ます。そんな中で、救急隊員は患者のバイタルをとるため、サチレーションを指
先につけ、腕をまくり上げ血圧を測ったりし、時には心電図をとるため患者の胸
部に、ビトロードパッドをつけたり、瞳孔を見るため、ペンライトで覗いたりす
る。これらは皆、大事なことなのですが、患者もその家族も一つ一つその動作に
なにをされているんだとさらに不安をつのらせてしまいます。
そこでその不安を少しでも和らげるために、やさしく一声をかけ「血液の中の
酸 素 の 量 を 測 る 機 械 で 、痛 く も な ん と も な い で す か ら 」
「ちょっと脈をとらせてく
だ さ い 。」「 右 腕 で 血 圧 を 測 り ま す よ 。」「 目 を 見 せ て く だ さ い 。 光 を 入 れ ま す か ら
少 し 眩 し い で す よ 。」 と 、
患 者 の 事 を 考 え て 、『 言 葉 』 を か け る や さ し さ が 必 要
だと思います。
ま た こ ん な 例 も あ り ま す 。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
神戸新聞
平成12年1月9日
『城崎にて』
救急車って、思ったよりも乗り心地悪いもんだな。頭のどこかでそんなことを
考えていた。温泉好きのわが家。昨年末、湯巡りを楽しみに城崎へやってきた。
ところが、3才の息子の体中に発疹(ほっしん)ができ、全身に広がった。熱も
あ る 。そ う 言 え ば 1 1 月 ご ろ 、保 育 園 の 掲 示 板 に「 水 ぼ う そ う が 流 行 し て い ま す 」
と貼ってあった。宿の客室係の方が気を利かせて、救急車を呼んでくれた。豊岡
の病院までの15分。救急隊員の方は、いつもと違う雰囲気に緊張した息子の心
を解きほぐすように声をかけてくれた。聴診器を当てるときも、手で温めてくれ
る細かい心遣い。とんだハプニングになったが、城崎の人の温かさが身にしみる
思い出深い旅になった。おかげで大事に至らず、家の中でエネルギーを持て余し
ている息子と共に新年を迎えられた。
『言葉』をかけるだけでなく、聴診器を手で温めるという患者への気配り、な
かなかできるものではありません。こういった行動こそが、患者は安心感をもっ
てくれるのではないかと思います。
ぜひ、みなさん方これからも、患者から信頼される、好感の持てる救急隊員
になっていただきたいとおもいつつ、
[ 接 遇 ]に つ い て の 話 を 終 わ ら せ て い た だ き
ます。
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