No. 102 - 情報規格調査会

No. 102
2014 年 6 月
目
次
標準活動トピックス:
JTC 1/SC 40 の標準化活動概要 ............................................................................. 2
平野 芳行((独)情報処理推進機構)
最近の国際会議から:
JTC 1/SG on Big Data 会議報告..................................................................................... 6
伊藤 智((独)産業技術総合研究所)
SC 35(User interface)会議報告 .................................................................................. 8
関 喜一((独)産業技術総合研究所)
SC 37(Biometrics/バイオメトリクス)総会報告 .............................................................. 9
山田 朝彦((独)産業技術総合研究所)
わが社の標準化への取り組み:ソニー株式会社 .............................................................. 11
渡辺 雄三(ソニー(株))
声のページ:
情報配線に関する標準化活動について ............................................................................... 12
上村 郁應(NTT インテリジェント企画開発(株))
生体認証の標準化に携わって .......................................................................................... 12
福田 充昭((株)富士通研究所)
国際規格開発賞の表彰.............................................................................................. 13
2014 年 6 月以降 国際会議開催スケジュール ............................................................... 14
編集後記 ............................................................................................................... 14
<標準化トピックス>
JTC 1/SC 40 の標準化活動概要
平野 芳行((独)情報処理推進機構)
1.経緯
JTC 1/SC 40 は,2013 年 11 月の JTC 1 総会で,
新しく設立された専門委員会(SC)である.2012 年
春ごろに,南アフリカから JTC 1/WG 6(IT ガバナ
ンス)と SC 7(ソフトウェアエンジニアリング)の
WG 40(ガバナンスフレームワーク)を含むプロセ
ス・管理系のいくつかの WG を合わせて新 SC を設立
する提案があり,2012 年の JTC 1 総会では JTC 1
/WG 6 と SC 7/WG 40 のみを統合し,JTC 1/WG 8
(IT ガバナンス)を 1 年の期限で暫定的に設立する
決議がなされた.そして,2013 年の JTC 1 総会で再
度議論され,SC 7 の WG のうち,WG 25(IT サー
ビス管理)及び WG 27(IT を使ったビジネスプロセ
スアウトソーシング)が統合されて,SC 40(IT ガ
バナンス及び IT サービス管理)が設立された.本 SC
の総会が 6 月に開かれるまでの間は,電話会議を開催
して,その体制として,3 つの WG の設立とそこで扱
う案件の確認を行ったところである.
図 1 JTC 1/SC 40 の組織
3 つの WG の主査は現在募集中ということもあり,
活動内容については,各 WG が 2013 年度中に行っ
てきた内容及び関連した国内の活動について紹介す
る.
2.WG 1 の活動
WG 1 は,2012 年の JTC 1 チェジュ総会の決議の
結果として,
JTC 1 直下の WG としてきた JTC 1/WG
6 に SC 7 /WG 40 を合体させ,IT ガバナンス関係の
プロジェクトを統合して扱うグループとして JTC
1/WG 8(IT ガバナンス)として発足したものである.
セクレタリは,オーストラリア(Julia Dropmann,
その後 Jenny Mance に交代)で,1 年間の暫定のコ
ンビーナとして,Phil Brown(英国)が務めること
になった.IT ガバナンスの点では,活動場所が 1 つ
になったので動きやすくなった.
これまで独立した WG として活動してきたため,
国際会議は 2013 年 3 月にシドニー,2013 年 8 月に
東京で WG を開催してきた.度重なる体制の変更が
あったため,そのたびに WG を再構築・プロジェク
トの再確認をする必要があり,プロジェクトの進捗が
1 年以上遅延した.
WG 1 では、今回移管された以下の 5 つのプロジェ
クトを推進することになった.
a) 38500(組織のために適切な IT のガバナンス)
の改訂について,NP の再投票及び CD 投票で承認さ
れ,その後,技術的な修正が行われ,現在 DIS 投票
が承認された段階である.エディタは,J.Graham(オ
ーストラリア),コエディタとして平野(日本)が指
名されている.次回 6 月のシドニー会議で審議を行う
予定である.
この規格の適用対象は組織の経営陣(オーナー,取
締役会の構成員,経営者,パートナー,上級取締役及
びその他これらと同等の人)のため,組織内で効果的,
効率的及び受入れ可能な IT 利用に関する原則を規定
する.この規格は,組織によって使われる IT サービ
スに関係したマネジメントプロセス(及び意思決定)
のガバナンスに適用できる.
これらのマネジメントプロセスは,組織内の IT の
専門家もしくは外部のサービス提供者によって,また
は組織内の事業部門によって管理することが望まし
い.さらに,この規格は,経営陣への助言,情報提供,
支援などを行う人々(上級マネージャー,組織内で資
源を監視するグループの構成員,法律又は会計のよう
な外部の業務又は技術の専門家,IT 監査人など)へ
の指針を示す.
この規格は,公的及び私的な企業,政府機関並びに
非利益組織を含む全ての組織に適用できる.この規格
は,極めて小さい組織から巨大な組織まで,その IT
の利用の程度にかかわらず全ての組織に適用できる.
この規格では,まず IT ガバナンスのモデルを提供し,
6 つの原則とそれに基づいて,経営者が何をすべきか
について記載している.
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原則
原則 1
原則 2
原則 3
原則 4
原則 5
原則 6
タイトル
責任
(Responsibility)
組織内の個人及び部門は,IT の供給及び需要の両面の役割について,その責任
を理解して受け入れる.処置に責任を負う人は,その処置を遂行する権限をも
つ.
戦略(Strategy)
組織の事業戦略は,IT の現在及び将来の能力を考慮する.IT の戦略計画は,
その現在及び進行中の事業戦略の要求を満たす.
取得(Acquisition) IT の取得は,適切で継続的な分析を基礎として,明確で透明な意思決定による
正当な理由に基づいて行う.短期的及び長期的の両面で利益,機会,コスト及
びリスクを適切に均衡させる.
パーフォーマンス
IT は組織を支援し,現在及び将来の事業の要求に合うサービス,サービスレベ
(Performance)
ル及びサービス品質を提供する点で目的に適合する.
適合性
IT は,必須である全ての法律及び規制に適合する.方針及び実施は,明確に定
(Conformance) 義し,実施し,強制する.
人間行動(Human IT の方針,実施及び決定は,プロセスにおける人間の全ての現在及び発展する
Behaviour)
要求を含み,人間行動を尊重する.
表 1 良質な IT ガバナンスのための 6 つの原則
このモデルでは,ディレクタは次の 3 つの主要任務
を通じて IT を統制することが望ましいとしている.
・ IT の 現 状 及 び 将 来 の 利 用 を 評 価 す る
(Evaluate)
・ IT の利用を業務目的に確実に合うように計画
と方針の準備及び導入を指示する(Direct)
・ 計画に対するパフォーマンス及び方針に対す
る適合をモニターする(Monitor)
このモデルを示したのが図2である.
これをいかに方針決定して,企業の事業運営や IT の
運用に結びつけるかについてのガイドを示している.
この規格は,最近の企業の大きな不祥事に対して,
経営者の姿勢を示すものとして有益と考えている.
この WG では,
他に以下の規格化が行われている.
b) TS 38501(GIT-Implementation guide)は,
DTS の 3 か月投票が承認され,発行待ちの段階で
ある.
この TS は,ISO/IEC 38500(組織のために適切
な IT のガバナンス)を支援するために,運用する
プロセスの導入及び実施に関する取り組み方を示
し,付録としてチェックすべき項目の例を提供す
るガイドラインである.
c) TR 38502(GIT-Framework and Model)は,
DTR が承認され,2014 年発行された.
組織内の IT のガバナンスの原則と経営者がやる
べきことを決めた ISO/IEC 38500 の枠組みとモ
デルに関してより詳しい解説を加えるガイドライ
ン文書である.
図 2 IT ガバナンスのモデル
特に,この図 2 で,IT ガバナンスのモデルで評価
(Evaluate)- 指示(Direct)- モニター(Monitor)
の 3 つのアクションのサイクルが示された.
ここでは詳説しないが,「良質な IT ガバナンスの
ためのガイダンス」において,ディレクタが,表 1
に示す 6 つの原則に対して,評価 ‐ 指示 ‐ モニター
のレベルでどのように行動すべきかが示されている.
d) WD 30120 ( IT Audit-Audit Guideline for
Governance of IT)は,原田要之助[情報セキュ
リティ大学院大学]が韓国,ニュージランドと共
にエディタを務めており,シドニー会議前に提出
した 3rdWD について韓国のエディタとの間で,
合意が得られなかったため,旧 Scope に基づくダ
ブリン会議時点の 2ndWD に戻した上で PDTR の
ドラフトを準備し,3 か月投票にかけることで合
意された.
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e) CD 30121(Governance of Digital forensic risk
framework)は,CD が承認され,DIS 投票にか
けられる.
さらに,IT ガバナンスに関連して、2005 年から
2008 年にかけて経済産業省内の情報セキュリティガ
バナンス研究会を設置・検討され、「情報セキュリテ
ィガバナンス導入ガイダンス」が 2009 年に発表され
た.この成果を基に,情報セキュリティに関連した
SC 27/WG 1 の方で国際標準化を進めることになり,
ISO/IEC27014:2013 情報セキュリティガバナンス
枠組みとして発行された.ここでは,情報セキュリテ
ィ報告書の普及を進めようとしている.
3.WG 2(IT サービスマネジメント)の活動
WG 2 の元組織である SC 7/WG 25 は,
国際では,
コンビーナは Erin Casteel(オーストラリア),幹事
は Steve Tremblay(カナダ)で活動してきたが,新
体制では,現在コンビーナを募集中である.
国内では,主査は,平野の後任の八木隆氏(日立製
作所),及び,幹事は岡崎靖子(日本 IBM)で運用
を始めたところである.
IT サービスマネジメントについては,2006 年に英
国・BSI から迅速化手順で投票に係った BS 15000-1
及び-2 が承認され,ISO/IEC 20000-1 及び-2 とし
て発行され,標準化が始まった.その内容の完成度が
低いことから,早期改訂の動きが承認され,それに基
づいて設置された SC 7/WG 25 の活動が始まった.
そして,2012 年から 2013 年に ISO/IEC 20000-1
(サービスマネジメントシステム要求事項 )及び
ISO/IEC 20000-2(サービスマネジメントシステム
の適用の指針)として改訂版が発行された.また,TR
20000-3(適用範囲の定義と適用のガイド)が,2012
年 8 月に発行された.
元々,ISO/IEC 20000 シリーズは,英国政府が,
情報システムの調達,運用で,無駄を省き,費用面で
も合理的な運用を目指すために開発した ITIL(IT
Infrastructure Library)がベストプラクティスなの
に対し,ISO/IEC 27001 の ISMS と同様な PDCA に
基づくシステムで第 3 者認証に基づく制度により,外
部への信頼を保証できるようにするのが目的となっ
ている.その関係を図 3 に示す.
国際で,ITSMS(IT サービスマネジメントシステ
ム)の認証制度が実施されている.また,国内でも,
JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)
で,ITSMS 適合性評価制度として,180 組織以上の
認証実績がある.この認証制度により IT サービスマ
ネジメントの導入によって IT の無駄を省けるので効
率的,効果的な運用を図ることができる.
このサービスマネジメントシステム(SMS)の規格
ISO/IEC 20000-1 では,SMS を計画,確立,導入,
運用,監視,レビュー,維持及び改善するための,サ
ービスの提供者に対する要求事項を規定する.また,
ISO/IEC 20000-2 は,ISO/IEC 20000-1 に基づく
SMS の適用に関する手引を示す.この規格は,組織
が,ISO/IEC 20000 規格群の他の部及び別の関連規
格を参考にすることを含めて,ISO/IEC 20000-1 を
解釈し,それを適用できるようにするための例及び提
言を示す.
この ISO/IEC 20000 シリーズでは,全ての要求事
項は,汎用的であり,提供するサービスの形態,規模
及び性質を問わず,あらゆるサービス提供者に適用で
きることを意図している.サービス提供者がこの規格
への適合を宣言する場合には,サービス提供者の組織
の性質を問わず,以下の箇条 4~箇条 9 までのいかな
る要求事項の除外も認められない.
4 サービスマネジメントシステム(SMS)の一
般要求事項
5 新規サービス又はサービス変更の設計及び移
行プロセス
図 3 IT サービスマネジメントの構成
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6 サービス提供プロセス
7 関係プロセス
8 解決プロセス
9 統合的制御プロセス
この IT サービスマネジメントシステムに関係する情
報は,JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進
協会)
がその WEB サイト(http://www.isms.jipdec.
or.jp/)で情報公開をしており,そこを参照していた
だきたい.
また 20000-6 は,27001 に対する 27006 と同様
に認証機関のための要求事項を,ITSMS 向けに作成
したもので、WD 段階にある.
20000-8 は小企業向けに IT サービスへの適用を示
したものであり、NP を通った段階である.
イ ン ド か ら 提 案 の あ っ た ISO/IEC 20000-9
(20000-1 のクラウドへの適用の手引)が DTR 投票
中である.クラウドは IT サービスの一部との考え方
もあるので,詳細については,SC 38 と協力して進め
ている.
また,TR 20000-10(概念及び用語)は,カナダ
提案による 20000 シリーズの概念及び用語集である
が,2013 年 11 月に発行された.
TR 20000-11(20000-1 と ITIL のマッピング)
は,2ndWD の段階で,次回審議の予定である.
現在規格化が進められている ISO/IEC 20000 シリ
ーズは図4に示すとおりである.
SC 40/WG 2
― IT サービスマネジメント ―
・ISO/IEC 20000-1:2011 要求事項
・ISO/IEC 20000-2:2012 適用の手引き
・ISO/IEC 20000-3:2012 適用範囲の定義
・ISO/IEC TR 20000-4 プロセスリファレンスモデル
・ISO/IEC TR 20000-5 20000-1 を適用のための手引き
・ISO/IEC 20000-6
認証機関への要求事項
・ISO/IEC 20000-8
小組織向けのガイド
・ISO/IEC 20000-9
クラウドサービス向けのガイド
図 4 SC 40/WG 2 の規格
このように ISO/IEC20000 シリーズは拡大されて
きたが,これだけ多くなると,規格の必要性の観点で
一度整理する必要があると考える.
また,今後の大きな課題は,ISO のマネジメントシ
ステム規格がすべて共通フォーマットを適用するこ
とが推奨されており,ISO/IEC 20000-1 にも導入す
ることになったことである.この件は,スタディグル
ープ及び改訂作業を今後 4 年程度かけて進めること
にしている.
4.WG 3(ITES/BPO)IT を使ったビジネスアウ
トソーシング)
WG 3(主査:清水裕子[エイチアールワン],幹
事:近野章二[日立製作所])では,ITES/BPO (IT
Enabled Services /Business Process Outsourcing)
に関する規格の審議を行っている.
国内では 2011 年 5 月に国際に対応して SC 7/WG
27 小委員会を新設して検討を進めてきた.今回の組
織改編で,SC 40/WG 3 となった.
ITES/BPO の標準化は,インドからの提案であるビ
ジネスプロセスアウトソーソシング遂行に関して,サ
ービスプロバイダがなすべき作業を定めるもので,
2010 年度から検討が進められてきた.業務のアウト
ソーシングの方式は業務の種類によってどこまで標
準化ができるかが課題である.WG での審議の結果,
標準化をいくつかのパートに分けることになり,その
構成は以下のとおりである.
・ISO/IEC CD30105-1 プロセスリファレンスモ
デル
・ISO/IEC WD30105-2 プロセスアセスメントモ
デル
・ISO/IEC CD30105-3 測定の枠組み
・ISO/IEC WD30105-4 用語及び概念
・ISO/IEC WD30105-5 応用
WD となるまでに時間がかかったため、既に 3 年を
超える開発期間となっており,早い規格化が求められ
ている.
5.まとめ
SC 40 は,2013 年 11 月の JTC 1 総会で関連 SC
から一部の WG を移して立ち上がった SC であるため,
今度の 6 月の第 1 回総会で体制が確定することにな
る.本格的な活動は,それからである.現在 NP にし
ようとして中途半端のままになっている案件やスタ
ディグループで議論している案件が幾つかある.また,
日本からも新規テーマ(例えば,経済産業省のシステ
ム管理基準の国際標準化など)を提出していきたいと
考えている.
参考機関/文献
・日本 IT ガバナンス協会
http://www.itgi.jp/index.html
・情報セキュリティガバナンス導入ガイダンス
http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/do
wnloadfiles/securty_gov_guidelines.pdf
・JIPDEC/情報マネジメントシステム推進センター
http://www.isms.jipdec.or.jp/
・ITIL tSMF Japan
https://www.itsmf-japan.org/
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<最近の国際会議から>
■ JTC 1/SG on Big Data 会議報告
伊藤 智((独)産業技術総合研究所)
1. 開 催 場 所 : San Diego Supercomputing
Center(米国)
2. 開催期間: 2014 年 3 月 18~21 日
3. 参加国数/出席者数: 7カ国/30名
Convenor(Wo Chang),米国(14, SC34 Chair,
SC34/WG3 Convenor, SC38 Chair),英国(1),
日本(1: 伊藤智),韓国(7),中国(3),ドイ
ツ(2),シンガポール(1)
4. 概要
2013 年 11 月の JTC 1ペロスギレック総会にお
いて設立が決められたビッグデータに関するスタデ
ィグループの第1回目の会合が開催され,7 か国から
30 名が参加した.ワークショップが2日,スタディ
グループとしての会合が2日行われた.ワークショッ
プでは,NIST が中心に進める NBD-PWG(NIST Big
Data Public Working Group)における成果を中心に
約 20 件の講演が行われ,ビッグデータに関わるキー
テクノロジーについて議論を行った.スタディグルー
プとしての会合では,寄書に関する検討,ワークショ
ップで講演された内容のレビュー,スタディグループ
の成果としてのリポートの作成方法,今後の会合の進
め方等を議論した.次回は 5 月 13-16 日にオランダ
はアムステルダム大学で開催される.
5. ワークショップ
Convenor は,ビッグデータに関する様々な情報を
集めるために,米国,欧州,アジアの3か所でワーク
ショップを開催したいと考えていた.このワークショ
ップは ACM(Association for Computing Machinery
の略で,米国をベースとした計算機科学の国際学会)
の主催の形を取り,発表者の原稿はピアレビューによ
り論文誌に掲載される予定である.ワークショップ自
体は,JTC 1 スタディグループの会合とは独立してい
る扱いである.
今回のワークショップは,NBD-PWG での成果の紹
介から始まった.NBD-PWG は 2013 年 6 月から
NIST を中心に始められた活動であり,1. Big Data
Definitions, 2. Big Data Taxonomies, 3. Big Data
Requirements & Use Cases, 4. Big Data Security
& Privacy Requirements, 5. Architectures Survey,
6. Big Data Reference Architecture, 7. Big Data
Security & Privacy Architecture, 8. Big Data
Technology Roadmap の8つのドキュメントを創出
することが計画されており,現在も改変作業中である.
NBD-PWG 以外には,米国,欧州の企業,大学,研究
所からビッグデータに関連する技術や活動として,
JSON ( JavaScript Object Notation) , SDN
(Software Defined Network),DaaS (Data as a
Services),Metadata,ビッグデータの分類等が講演
された.
6. SGBD ミーティング
6.1 寄書への対応
今回の会合には8つの寄書が提出され,各寄書への
対応が検討された.
6.1.1 KNB Comments on the SGBD meeting
schedule, KATS
韓国からの寄書では,リポートの提出期限が 10 月
10 日なのに 7-8 月に会議が計画されていない,5 月
と 6 月の会議の間が 1 か月では寄書などの準備がで
きない,など会合スケジュールの不備について指摘さ
れた.Convenor はエキスパートからのインプットが
重要であり,SC 32 の会合と併設して 6 月にワーク
ショップを開催したいこと,および 7-8 月は夏季休
暇のために会議の調整が困難であることを述べた.結
論として,ワークショップおよび F2F 会合の日程は
変更しないが,7,8,9 月に遠隔会議を開催すること
となった.
6.1.2 KNB Comments on Use Case template
for the SGBD Report, KATS
ユースケースのテンプレートが提示された.会合中
に,NWIP テンプレートの項目とマージして,トピッ
クテンプレートという形で活用することとなった.標
準化の候補等も書き込むこととし,今後,SGDB リポ
ートに組み込みたい要素は,このテンプレートに記載
して提出することとなった.
6.1.3 KNB Proposal on the template of SGBD
report to JTC 1 Plenary, KATS
SGDB が JTC 1 に提出するリポートのスケルトン
が提示された.大筋合意され,このスケルトンを用い
ていくことになった.
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6.1.4 Liaison Agreement between TM Forum
and ISO JTC 1 SGBD; Peter De Jesus, TM
Forum
TM Forum からリエゾンとなることの要請が提出
された.しかし,スタディグループは1年の活動であ
り,他の標準化団体からの参加やインプットは自由に
行うことができるため,スタディグループとしてリエ
ゾンを結ぶ必要はない,と判断された.
6.1.5 Liaison Statement to ISO/IEC JTC 1
Study Group on Big Data, ITU-T SG13
ITU-T SG13 でビッグデータに関して検討中の内
容を韓国の Kanchang Lee が報告した.SGDB リポ
ートの関連標準化団体に関する項目に記載すること
となった.
6.1.6 Big Data Life Cycle Proposal, China
ライフサイクルの観点からビッグデータを見てい
くことを提案.
6.1.7 Big Data Quality Model Proposal, China
データ品質モデルがビッグデータでは重要である,
とのコメント.
6.1.8
Information
Storage
Reference
Architecture of Big Data, CESI & HUST, China
ビッグデータのためのストレージアーキテクチャ
を提案.
これら中国からの3件の寄書は,技術的なインプット
として,先に述べたトピックテンプレートに埋め込ん
で提出しなおすか,SGDB リポートへのドラフトテキ
ストとして再提出することが期待されることとなっ
た.
の SC では N 番号のみが使われている.M と N の区
別や N へ移行する方法などを,グループ内で理解す
るために 2 時間程度議論した結果,N 番号のみでド
キュメントを扱うことになった.
スタディグループから出していくリポートの種類
と作成方法についても長時間の議論を行い,枠組みを
決定した.スタディグループの最終アウトプットを
SGDB リポートと決め,これのエディタチームを韓国
(Kanchang Lee など)を含めて 6 名選出した.各会
合では minutes report, resolutions, 寄書への対応,
および SGDB リポートの更新版を作成する.
SGDB リポートの更新方法についても議論はなか
なか収束せず,最終的には多数決を行うことにもなっ
た.本会合の後,エディタチームから SGDB リポー
トの ver.0.1 が 2 週間で提出される.その後1週間,
本会合参加者からのインプットを受付け,コメントへ
の対応をエディタチームが行った版についてグルー
プによる voting を行い Freeze 版とする.Freeze 版
を各国等のレビューに回し,コメントを次の会合で議
論することとなった.この方法は,参加者の意向をき
ちんと入れていくことを担保するために選択された
が,非常に複雑であり,voting(実際には合意形成)
の方法が不明確であることや NB によるレビュー・コ
メントの期間が短いことなどが問題であり,韓国,日
本,Convenor は,よりシンプルな方法としてエディ
タチームからの ver.0.1 を直ちに各国のレビューに
回す方法を提案したが,否決された.
7. 今後の開催予定
・ 2014 年 5 月 13 日~16 日 Amsterdam(オ
ランダ)
・ 2014 年 6 月 16 日~19 日 北京(中国)
・ 2014 年 7 月 23 日 Teleconference
6.2 ワークショップレビュー
2日間に行われたワークショップで講演された内
容についてレビューし,SGDB リポートに組み込むか
どうかの議論を行った.合意として得られたことは,
NIST のドキュメントは取り入れる,技術の内容とし
て 手 法 は 入 れ る が 実 装 は 入 れ な い , Security &
Privacy,Provenance,Metadata は重要,などであ
る.
6.3 その他の議論
Convenor はこれまで活動してきた SC 29/WG 1
での手法を取り入れ,WG としての正式なドキュメン
トとする N 番号と,グループ内で承認が得られる前
のドキュメントに対する M 番号と,二種類の番号付
けを使用した.しかしながら,M 番号を使っているの
は,大量のインプットがある SC 29 だけであり,他
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■ SC 35(User interface/ユーザインタフェー
ス)会議報告
SC 35 専門委員会
委員長 関 喜一((独)産業技術総合研究所)
1. 開催場所: Autonomous University of
Barcelona,バルセロナ(スペイン)
2. 開催期間: 2014 年 2 月 10 日~13 日
3. 参加国数/出席者数: 9 カ国/24 名(+3
Skype)
議長(Khalid Choukri,フランス),セクレタリ
(Philippe Magnabosco,フランス),韓国(5),英国
(0+2),スウェーデン(2),ドイツ(2),カナダ(2+1),
スペイン(2),米国(0+1),フランス(4),日本(5: 関
喜一[産総研,HoD],山本喜一[慶大],池田宏明
[千葉大],野村成豊[日立],中野義彦[JBMIA])
4. 審議概要:
プロジェクトの通常の進行計画以外の事項及び日
本が主体になって進めているプロジェクトについて
述べる.
a) 今回は,幹事国の負担を減らすため,SC 会議とは
せず,WGs 会議という位置づけで行われた.今後,
通常年 2 回行われる国際会議のうち,夏の会議は
SC 会議,冬の会議は WGs 会議とする.
b) Project 13251 “ Information technology —
Collection of graphical symbols for office
equipment — Amendment 1 ” に つ い て は ,
2014 年 2 月 7 日〆で NP 投票が行われた結果,
賛成多数であったが,参加するエキスパートが 4
カ国しかなかったため,会議中にドイツ,中国,韓
国に協力を要請して,必要数の 5 カ国を確保し,
NP 採択となった.しかし,Amendment ではタイ
トルの変更ができないため,NP を破棄し,Minor
revision とすることとした.
c) 池田(千葉大)がプロジェクトエディを務めてい
る Project 17549-2 "Navigation with 4direction devices”は,2014 年 4 月 14 日~7 月
14 日の期間に投票が実施されることとなった.
d) 関(産総研)がプロジェクトエディタを務める
Project 30122-1 “Voice commands ― Part 1:
Framework and general guidance”は,2014 年
4 月 13 日~7 月 13 日の期間に DIS 投票が実施さ
れることとなった.
c) 関(産総研)がプロジェクトエディタを務める
Project 30122-2 “Voice commands ― Part 2:
Procedures for constructing and testing”は,
2014 年 3 月 7 日までに NP+CD 同時投票を開始
することになった.
d) 関(産総研)がプロジェクトエディタを務める
Project 30122-3 “Voice commands ― Part 3:
Translation
and
localization
of
voice
commands”はタイトルを変更し,投票予定は
Part 2 と同様.
e) 関(産総研)がプロジェクトエディタを務める
Project 30122-4 “Voice commands ― Part 4:
Management of voice commands registration”
は Part 1 と同様.
5. 今後の予定
2014 年 7 月 7 日~11 日 中国杭州
2015 年 1 月 19 日~23 日 モロッコ(マラケッシュ)
2015 年 7 月
米国またはデンマーク
2016 年 1 月
南アフリカ,インド,日本
6. その他
今回は,SC 会議ではなく WGs 会議という位置づ
けで初めて行われた会議であったため,Resolutions
の位置付けについて物議を醸した.最初は,SC 会議
ではないため Resolutions を発行しない予定であっ
たが,その後,各国からやはり何らかの方法で
Resolutions をまとめるべきであるとの意見が相次
いた.結局,会議後に各国の投票によって決議するこ
ととして Draft Resolutions を作成し投票によって承
認することとした.
また今回は,日本のエキスパートは 2 月 9 日に成田
を出発してバルセロナに向かう予定であったが,2 月
8 日に降った記録的な大雪の影響で飛行機が欠航と
なり,1 日遅れの 2 月 10 日出発となった.
このため,
初日 2 月 10 日の会議には参加することができなかっ
た.
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 8
■ SC 37(Biometrics/バイオメトリクス)総会
報告
SC 37 専門委員会
委員長 山田 朝彦((独)産業技術総合研究所)
4.2 SC 37 ロードマップ
2013 年 11 月のテレ会議及び今回の総会に提案・
議論されたロードマップは,本総会で承認され,SC
37 サイト及び Wikipedia に公開される.ロードマッ
プは 2014 年 7 月開催の WG 後に更新され,更新版
を上記両サイトにアップロードする.
1. 開催場所: ダルムシュタット(ドイツ)
4.3 SC 37SG(Special Group)再設置
2. 開催期間: 2014 年 1 月 20 日,21 日
SC 37SG を再設置して,次回総会まで,寄書を含
む JTC 1 のサブグループ(SWG など)への対応を実
施する.SG メンバは,Podio 委員長,各コンビーナ
など.山田も参加する.SG の ToR への寄書募集及び
追加の参加者募集を 2014 年 7 月 1 日まで実施する.
第 1 回会議は Purdue 大学で 7 月 11 日に開催される
(次回 WG 開催期間中).以後,テレ会議や WebEX
会議を開催予定.
3. 参加国数/出席者数: 14 カ国,11 リエゾン/29 名
議長(Fernando Podio,米国),セクレタリ(Lisa
Rajchel, ANSI), オーストラリア,カナダ,中国,
フィンランド,フランス,ドイツ 5,イタリア,日本
4(山田朝彦[産総研],浜壮一[富士通研],新崎卓[富
士通研],坂本静生[NEC]),韓国,ノルウェー,シン
ガポール,スペイン,英国(4),米国 4 (),リエゾン
(SC 17,SC 27,SC31,BioAPI Consortium,IBIA,
ILO,JTC1/WG7,SC 38,OASIS BIAS TC,CEN,
JTC 1 IT Vocabulary Maintenance Team)
前回 2012 年 7 月パリ総会の 17 ケ国,12 リエゾン
/38 名に比べ,減少.参加国で見ると,ポーランド,
ロシア,ウクライナが今回不参加(ロシアは WG にも
不参加),前回不参加のフィンランドが参加した.
4.概要
会議の議題は,以下のとおり.
・ 各コンビーナより,過去 1 年の WG 活動報告
(ウィンチェスター会議,ダルムシュタット
会議)
・ 各リエゾンからの報告
・ JTC 1 関連事項の審議
・ 今後の SC 37 会議日程
・ SC 37 ビジネスプランの更新
・ 次期 SC 37 委員長の承認
以下では,決議書に沿って,報告する.
4.1 SC 37 ビジネスプラン
今後の取組みとしては,設立当初から大きな変更は
ないとしつつ,業界及び市場ニーズに基づく標準作成
を基本戦略とすることを確認し,第 2 世代標準(デー
タ交換フォーマット,インタフェース,精度評価,デ
ータ品質)の作成を進め,ボーダーコントロールなど
の成熟市場に加え,ID 盗難対策としてのバイオメト
リクス適用の可能性,新しい分野への取組みとして,
DVI(Disaster Victim Identification)へのバイオメ
トリクス適用,監視カメラシステムの運用や精度評価
の標準を取り上げている.
4.4 オフィサー任命及び SC 37 委員長承認
オフィサーは従来と変更なし.
SC 37 委員長については,Podio の 3 年延長を SC
37 で承認し,JTC 1 の承認を求める.
4.5 WG 4 のタイトル及び ToR の変更
WG 4 タイトルを Technical Implementation of
Biometric Systems に変更する.
ToR は,
タイトルが示すバイオメトリクスのシステム
の技術実装に関するベストプラクティス・ガイダン
ス・実装要件などを開発するとしている.
4.6 CCTV の PJ
CCTV に関しては 2 件の NP(N5629 と N5630)
があり,N5630 については会議でオーストラリアが
賛成に転じて PJ が成立した.
2件の NP への投票コメントを検討した結果,ふた
つを統合し,以下のマルチパート PJ とすることにな
った.
・ ISO/IEC 30137: Use of biometrics in CCTV
systems
・ Part 1, Design and specification (WG 4)
・ Part 2, Performance testing and reporting
(WG 5)
・ Part 3, Data formats (WG 3)
Part 3 については,5 月 13 日までエディタ募集し,
7 月の会議で審議される.
4.7 リエゾン
CEN/TS 16428 Best practice for slap-ten print
capture に関するリエゾンステートメントを受け,
CEN/TS 16428 を CEN から SC 37/WG 4 に移行す
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 9
ることを合意した.ファストトラックまたは次回 WG
で NP(SC 37 から WG 4 へ委譲)を実施する.
ILO からのリエゾンステートメントを受け,以下の
内容のリエゾンステートメントを ILO に送付する.
ILO への謝意,WG 2 から WG 4 の活動内容紹介,
N5741 と同様のリエゾンステートメントの SC 17 へ
の送付を提起.
IEC/TC 3/SC 3C へ DIS 24779-9 に対する寄書へ
の返礼のリエゾンステートメントを送付する.
4.8 今後の会議予定
2014 年 7 月 7 日から 11 日,WG のみ,West
Lafayette, Indiana, USA
2015 年 1 月,WG と総会,未定(オーストラリア
で調整中)
2015 年 6 月 22 日から 26 日,WG のみ,Gjøvik,
Norway
4.9 次回の WG
WG 1 5 日間(WG 5 との 2 時間合同含む)
WG 2 7 月 7 日から 4 日間(WG 3・WG 4 と各
1/4 日合同,WG 1/3/5 と 30107 で合同)
WG 3 5 日間(WG 3 と 1.5 時間合同,WG 1/2/5
と 30107 で合同)
WG 4 2.5 日間(WG 5*/6 と重ならないことを要
望,WG 5/6 と 30124 で半日合同)
WG 5 3 日(合同を除く)
WG 6 3 日間(WG 4/5*と 30124 で半日合同,
WG 4 と重ならないことを要望)
*:WG 5 との合同は必要あれば
4.10 ISO/IEC への ISO/IEC 19794 シリーズ第 1
版継続出版要請
ICAO で ISO/IEC 19794 シリーズ第 1 版の使用が
終了する 2033 年までの,第 1 版の継続出版を
ISO/IEC に要請する(総会毎にリマインダーとして要
請).
4.11 SD 9 への BDB format type identifier の追
加要請
DNA,声,掌紋の BDB format type identifier を,
SD 9 に追記し,IBIA へ追加登録依頼する.
4.12 SC 17/WG 3 との連携のための SC 37 SG の
設立
4.13 SC 27 との連携のための SC 37 SG の設立
ToR は SC 27 と SC 37 で関係するバイオメトリク
スの PJ に関する議論であり,SC 27 及び SC 37 の議
長,WG コンビーナ,PJ エディタ,関連リエゾンオフ
ィサーが参加する.次回の総会までに 2 回の WebEX
会議を実施する.第 1 回は 4 月 28 日 14 時 UTC の
予定.追加の参加募集がある.
4.14 コメント処理テレ会議
以下の PJ のコメント処理テレ会議を 2014 年 9 月
3 日 13 時 CEST に実施する.ただし,ed コメントだ
けの場合は,会議は実施せず,WG 5 コンビーナとエ
ディタで処理する.
ISO/IEC DIS 29120-1,ISO/IEC DAM 19795-2
AMD,ISO/IEC DTR 29189
4.15 NB 及びエキスパートへの doc ファイルでの提
出要請
エディタの作業効率化のために,pdf ファイルだけ
でなく doc ファイルも提出することが要請された.
4.16 IBIA への要請
“ Vendor Unknown ” と い う Biometric
organization name の登録を要請する.企業以外の
大学などが,SC 37 国際標準のスキームに則って,試
作・動作確認を可能にするためのものである.
4.17 OASIS への要請
OASIS からのリエゾンステートメントに対して,
OASIS の PJ ” Best Practices in Biometrics
Performance Monitoring Programs” に賛同,クラ
ウドにおけるバイオメトリクスの PJ を提起した.
4.18 エキスパートコメントの提出
BD(Base Document),WD,SD へのエキスパ
ートからのコメント提出に当たっては,SD 10 の様
式を使うこと.
Directives の変更によって,BD,WD,SD へはエ
キスパートがコメントすることになる.これに伴い,
コメント番号部分は,SC 37 では,従来の NB と番号
の組から,NB とエキスパート識別子と番号の組とす
ることにした.エキスパート識別子は 2 文字で NB が
割り振る.
ToR は SC 17 と SC 37 で関係するバイオメトリク
スの PJ に関する議論であり,SC 17 及び SC 37 の議
長,WG コンビーナ,PJ エディタ,関連リエゾンオフ
ィサーが参加する.次回の総会までに 2 回の WebEX
会議を実施する.第 1 回は 4 月 29 日 14 時 UTC の
予定.追加の参加募集がある.
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 10
<わが社の標準化への取り組み>
ソニー株式会社
情報技術戦略小委員会
委員 渡辺 雄三(スタンダード&パートナーシップ部)
1.はじめに
デファクト,デジュール問わず,標準化全般を担当
する立場から,ソニーの標準化への取り組みと最近の
注力点をご紹介させていただきます.
2.ソニー株式会社について
ソニーは,液晶テレビ,ビデオカメラ,デジタルス
チルカメラ,ブルーレイディスクプレーヤー/レコー
ダー,DVD プレーヤー,家庭用オーディオ,カーオ
ーディオ,携帯型オーディオ,イメージセンサー,そ
の他の半導体,電池,オーディオ/ビデオ/データ記録
メディア,データ記録システム,放送用・業務用機器,
メディカル関連機器を扱っています.更に関連会社を
通じて,スマートホン,タブレット端末,ゲーム,音
楽,映画,保険,銀行などの事業も行っています.昨
今では特に,スマートホン,タブレット端末,ゲーム,
メディカル事業を重点領域として取り組みを強化し
ています.
3.ソニーの標準化組織と社内での取り組み
上述のように多岐に亘る事業展開を踏まえ,ソニー
からの標準化への参加は関係の深い事業部門,開発部
門からの参画が基本となっています.また,環境,品
質といった領域にはそれぞれの専門部隊が対応にあ
たっています.部門では対応しきれないテーマや上層
委員会への対応には,私たち,スタンダード&パート
ナーシップ部 Technology Standards Office が当た
っています.Technology Standards Office は,欧
州,米国,中国といった海外拠点をもち,各国の審議
団体を通じた意見提出,各地に拠点を持つ標準化フォ
ーラムへの参画も行っています.
当該標準化への関係が深い部門からの参画を原則
としている関係で,標準化に関わる部門,人数とも多
くなるために,その間の整合性確保が重要となります.
そこで,社内向けの標準化情報共有のためのホームペ
ージの開設,社内標準化代表者会議の開催,メーリン
グリストを使った情報共有を通じ,標準化に対する社
としての迅速な意思統一,意思表明を可能にしていま
す.
また,さまざまな組織・階層の社員が標準化に関係
する可能性が増してきており,標準化活動の重要性を
あらゆる社員が共通して理解しておく必要が出てき
ています.そのため,e-learning をつかった全社員研
修,全社員向けの標準化ニュースレター(電子メール
版)の配信,重要な標準化貢献に対する社長による表
彰等を通じ,全社的に標準化に対する意識を高める活
動に力を入れています。こうした活動を通じて,全社
員が誰でも,標準化をビジネスツールとして活用でき
るようにすることを目指しています.
4.情報規格調査会傘下での取り組み状況
情報規格調査会傘下では,SC 6,SC 6/WG 1,SC
7/WG 24,SC 7/WG 26,SC 22/C#,CLI,スクリ
プト系言語 SG,SC 23,SC 27,SC 27/WG 4,SC
29,SC 29/WG 11 などに参加しています.特に音
声・映像圧縮技術や近接無線通信技術に関わる規格化
に注力しており,第 1 種専門委員会では,SC 6 専門
委員会(通信とシステム間の情報交換)幹事,SC
6/WG 1 小委員会(物理層及びデータリンク層)主査,
SC 29 専門委員会(音声,画像,マルチメディア,ハ
イパーメディア情報符号 化) 幹事,SC 29/WG
11/AUDIO 小委員会(動画像符号化/音声)幹事,SC
29/WG 11/VIDEO 小委員会(動画像符号化/動画)
主査,SC 29/WG 11/SYSTEMS 小委員会(動画像符
号化/システム) 幹事に,第 3 種専門委員会では NFC
規格群 JIS 改正原案作成委員会 幹事に就任させてい
ただき積極的に活動しています.
また,技術委員会直下のインターネットオブシング
ス SWG 小委員会,
情報技術戦略小委員会にも参画し,
新しい技術分野での貢献の可能性の検討も行ってい
ます.
5.その他の標準化団体における取り組み
多岐に亘る事業展開を踏まえ,ソニーは,AV/IT マ
ルチメディア,放送,無線通信など,様々な分野での
標準化活動を行っています.活動範囲は,ISO,IEC,
JTC 1,ITU などの国際標準化団体,IEEE,Wi-Fi
Alliance,HDMI Forum などの標準化団体やコンソ
ーシアム,フォーラム,さらにさまざまな地域標準化
団体に及びます.
さらに昨今では,迅速に規格案をまとめ上げるため
に,SIG (Special Interest Group) と呼ばれる小規
模な団体を組織するケースが増えて来ています.こう
いった動きに対応するためには,様々なルートでの情
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 11
報収集と,迅速な意思決定が必要になってきます.そ
のため,これを実現する社内の環境の整備・構築と担
当者への権限移譲を進め,標準化への参画の機会を逸
することが無いよう体制作りを進めています.
6.おわりに
以下の URL にありますように,ソニーグループは,
お客様に感動を届けることを使命として掲げていま
す.
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/bemoved/
標準化の世界でも,どうすればお客様に感動を届ける
ことができるのか,より感動的な体験をしていただく
にはどうしたらいいのかを常に考えながら,日々の取
り組みを続けています.フォーマット戦争に名を連ね
ることが多いと言われるソニーですが,さまざまな標
準化団体での活動を通じ,今後も規格策定に継続的な
貢献を続けてまいります.引き続き,よろしくお願い
いたします.
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<声のページ>
情報配線に関する標準化活動について
上村 郁應(NTT インテリジェント企画開発(株))
”LAN 配線”と一般的に称されるオフィスビルやキャ
ンパス,データセンタ等で利用する情報配線システム
の標準化を担当する”ISO/IEC JTC 1 SC 25/WG 3 国
内小委員会”におよそ 15 年間参加させていただいて
いるが,これまでの活動に対し標準化貢献賞を頂戴す
ることができた.このような栄誉ある賞を頂戴できた
のも,情報規格調査会の事務局及び SC 25/WG 3 関
係者の皆様,並びに自社のサポートがあっての賜物で
あり関係各位には心から感謝している.
所属する小委員会では”ISO/IEC 11801”の制改定を
中心に取り組んでいるが,この規格では情報配線シス
テムのアーキテクチャや伝送性能及び機械的性能,ま
た性能試験方法などが規定されており,情報配線シス
テム構築のための教科書的な役割として,施工会社か
らメーカまで幅広い技術者に利用されている.
LAN や電話等の通信システム無くして企業活動は成
り立たない中,その伝送媒体となる情報配線システム
は企業のライフラインそのものである.また,情報配
線システムは建物内外に張り巡らせたケーブルによ
り構成されるがゆえに,更改には膨大な時間と費用が
必要となり,改修工事を容易く行うことはできない.
そのため数年から数十年先を見据えた次世代の通信
システムの利用にも耐えうるべく構築する必要性が
高い.そのような背景から情報配線システム構築の指
針となる ISO/IEC 11801 は非常に重要な規格である
と認識している.
私は企業ユーザに向けた情報配線システムの提案,設
計及び工事管理を主な業務としており,規格を利用す
る立場として参加させていただいているが,委員会活
動では,様々な企業や組織の異なる立場の方々と議論
ができるため貴重な経験をさせていただいている.自
身の仕事を持った上で参加することは難しいことで
はあると思うが,代えがたい経験を得ることができる
ため,できる限り多くの技術者の方に参加いただける
ことを期待するものである.
今後も標準化活動を通じ,規格の制改定のみならず,
関わる技術者,更には利用されるエンドユーザに対し
情報配線システムに対する意識を高めていただける
よう,微力ながら委員会活動のサポートができればと
考えている.
生体認証の標準化に携わって
福田 充昭((株)富士通研究所)
まず 2013 年度標準化貢献賞という栄誉ある賞を
いただきましたことについて御礼を申し上げます.こ
れも事務局や SC 37 関係者の皆様のお力添えによる
ものと心から感謝申し上げます.
私が SC 37/WG 2 に委員として参加しました
2005 年は,
まだ同時多発テロの記憶も生々しく残り,
世界的に個人認証に関する意識が高まり,また日本国
内では偽造キャッシュカードが社会問題化している
頃でした.そのような流れの中で,個人認証の切り札
として生体認証が図らずもクローズアップされてい
ました.また,手のひらや指の静脈を使った認証技術
が日本発の新しい生体認証技術として広く実用化さ
れ始めたのもちょうどこの時期です.そのような時期
に,生体認証の国際標準化に携わるということで,責
任とやりがいを感じることができました.
そ の 頃 す で に 規 格 審 議 が 進 ん で い た
BioAPI(ISO/IEC 19784 : 生 体 認 証 API) や
CBEFF(ISO/IEC 19785 : Common Biometric
Exchange Formats Framework)等に,静脈認証に
関する記述が抜けていたため,大至急国内委員会で提
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 12
案をまとめて修正提案を提出し国際会議で説明した
りと,かなり慌ただしく活動した頃が思い出されます.
この時点でなんとか規格に反映させることができた
ので,現在全世界の BioAPI や CBEFF に対応した生
体認証システムに静脈認証製品を適合させることが
できる様になり,実際に採用が進んでいることを思う
と,日本の国際的競争力を維持するための標準規格へ
の反映のタイミングの重要性を身に染みて感じます.
最近の WG 2 は BioAPI や CBEFF 等の主要規格の
発行が一段落し,それらの規格の改版や派生規格が主
体となってきたため,審議の進め方も徐々に変化して
きています.国際会議でも,かつてはアメリカが主導
していたのが,現在はドイツやスペインなど欧州が会
議を主導する傾向がみられます.アメリカ主導の頃の
「とにかく早く生体認証を活用できる様にしよう」と
いう視点から欧州主導で「生体認証そのものの安全性
の確保」へと視点が移ってきているようにも感じます.
例えば偽造物検知・生体データ盗難対策・プライバシ
ー確保の観点などがクローズアップされる傾向にあ
ります.
社会的気運により生体認証の標準化を急いだ時期
とは違い,成熟した技術として規格をブラッシュアッ
プする段階になり,規格に求められる精度もより高ま
ってきていると感じています.今後もより良い国際標
準の策定に貢献できるよう尽力していきたいと考え
ております.
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<国際規格開発賞の表彰>
国際規格開発賞は,当会に所属する Project Editor または Project Co-Editor の貢献に対して授与されるも
のです.受賞者は表彰委員会で審議決定し,受賞対象の規格が発行された後に授与されます.
加藤 重信
2014 年 3 月の受賞者
ISO/IEC TR 90006 (First Edition)
Information technology -- Guidelines for the application of ISO 9001:2008
to IT service management and its integration with ISO/IEC 20000-1:2011
(SC 7,2013-11-01 発行)
佐古 和恵(日本電気(株)) ISO/IEC 20008-2 (First Edition)
Information technology -- Security techniques -- Anonymous digital
signatures -- Part 2: Mechanisms using a group public key
(SC 27,2013-11-15 発行)
松尾 真一郎
ISO/IEC 20009-2 (First Edition)
((独)情報通信研究機構) Information technology -- Security techniques -- Anonymous entity
authentication -- Part 2: Mechanisms based on signatures using a group
public key(SC 27,2013-12-01 発行)
2014 年 4 月の受賞者
石川 俊一
ISO/IEC 25051 (Second Edition)
((一社)コンピュータソ Software engineering -- Systems and software Quality Requirements and
フトウェア協会、アシュリ Evaluation (SQuaRE) -- Requirements for quality of Ready to Use Software
オン・ジャパン(株))
Product (RUSP) and instructions for testing(SC 7,2014-2-15 発行)
込山 俊博(日本電気(株))
新崎 卓
((株)富士通研究所)
2014 年 5 月の受賞者
ISO/IEC 19794-8/AMD1 (Second Edition)
Information technology -- Biometric data interchange formats -- Part 8:
Finger pattern skeletal data -- AMENDMENT 1: Conformance testing
methodology(SC 37,2014-3-15 発行)
IPSJ / ITSCJ NL102 2014.6 13
<2014 年 6 月以降 国際会議開催スケジュール>
JTC 1
SC 2
SC 6
SC 7
SC 17
SC 22
SC 23
SC 24
SC 25
SC 27
SC 28
2014-11-15/20
2014-10-03
2014-10-20/24
2014-06-16/20
2014
2014-09-08/09
2014-09-09/10
2014-08-18/22
2014-09-19
2015-05-11/12
2014-06-24/25
Abu Dhabi, UAE
Colombo,Sri Lanka
London,UK
Sydney,Australia
Spain or Germany
Madrid,Spain
Boulder,US
Seattle,US
中国
Sarawak,Malaysia
Berlin,Germany
SC
SC
SC
SC
SC
SC
SC
SC
SC
SC
29
31
32
34
35
36
37
38
39
40
2014-07-12
2014-06-23, 27
2014-06-13
2014-09-22, 26
2014-07-07, 11
2014-06-27
2015-01
2014-10-06/10
2015 Spring
2014-06-20
札幌,日本
Delft,Netherlands
成都,中国
京都,日本
杭州, 中国
Oslo, Norway
Norway
Sao Paulo,Brazil
France
Sydney,Australia
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<編集後記>
ボーダレスの現代においては,企業の事業活動はグ
ローバル展開を抜きにしては語れない状況にありま
す.また,人口の減少が確実な日本の国内市場だけを
相手にしていては,事業の拡大は見込めないことも事
実です.こうしたグローバル展開を行う上では,標準
化戦略も視野に入れておく必要があります.自社製品
のインターフェースを公開して,それが国際標準とな
れば,そのインターフェースに準拠した自社製品をい
ち早く市場に投入することができ,大きな先行者利得
を得ることが可能です.従って,標準化活動は,経営
戦略に直結する重要な企業活動の一つであると言う
ことができます.
しかしながら,こうした企業活動にとって重要な標
準化戦略を立案し,その活動を担うべき人材を組織的
に,また体系的に育成している企業は少ないのではな
いでしょうか.その多くは,開発技術者が自ら開発し
た技術の展開の延長で標準化に取り組んでいるとい
う場合がほとんどではないかと思います.技術的な視
点も必要ですが,本来は企業にとっては経営的な視点
で標準化活動を行うべきでしょう.もちろん,各企業
の経営戦略論よりも技術論で議論したほうが標準化
の場での合意が取りやすいという側面があるのかも
しれませんが,何十年も標準化に携わり高度なスキル
もありながら,経営や事業への貢献という面での評価
があまり得られず,必ずしも処遇が高くないというケ
ースが多いのではないでしょうか.
標準化に携わる人材に求められるスキルという意
味では,もちろん担当する技術に精通していることも
必要ですが,それ以上にコミュニケーション能力や調
整能力が大きな役割を果たすと思います.技術そのも
のの良し悪しとそれを他者に理解してもらうことも
必要ですが,各国の利害や思惑を踏まえ落とし所を探
るといったスキルも求められます.こうしたスキルは,
教え込むといった類のものではなく,もっぱら経験を
積むことによって身に付くものですので,標準化人材
の育成は長期的にかつ戦略的に取り組んでいくべき
ものだと思います.そのためには,標準化による事業
遂行上の具体的なメリットを経営層も含めて理解し
てもらう努力が必要です.標準化の成果やその効果を
幅広く知っていただくために,本 NEWSLETTER が
その一助となれば幸いです.
発
行
人
一般社団法人 情 報 処 理 学 会
情報規格調査会
広報委員会
〒105-0011 東京都港区芝公園 3-5-8
機械振興会館 308-3
Tel: 03-3431-2808
Fax: 03-3431-6493
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