配布資料 - 街角の数学 Street Wasan

数楽カフェ
2015.11.7
(第6回)
<街角の数学>
1.落書き帳「97. 蕎麦の実」より
千六百年代に二本松藩に仕えた磯村吉徳。その名は、
「二合田(にごうだ)用水」を設計
測量した和算家としてつとに知られています。また、その著書『算法闕疑抄』は、関孝
和の天才を引き出す原動力となった名著とも言われています。
その書に、正四面体の体積を問うものがあります。題して、「蕎麦形術」。
蕎麦の実をご存じの方はお判りでしょう。一粒の蕎麦の実から蕎麦粉がどれだけとれ
るかと考えると、切実なものがありますね。
さて、磯村は下の右側の図で「術」を示しています。ご覧のとおり、結論は一目瞭然
です。ただし、肝心の蕎麦の実は描かれていないことに注意してください。また、左右
の図はサイズが合っていません。
平成の高校数学教科書にも正四面体の体積は出てきますが、問題設定が違うためか、
編集者はここで示した方法には触れていません。
(三角錐としての高さを求め、直接計算
しています)しかし、四面体はそれを内包する六面体から切り出される、というものの
見方は重要です。
天高く、時まさに新そばの季節。香り立つ蕎麦をすすりながら、蕎麦形術を味わうこ
とにしましょう。「ユークリッド原論」で論じられた正多面体が日本の江戸時代を経て、
21 世紀の今も私たちを楽しませてくれています。
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2.落書き帳「97. 切篭形(立方八面体)」より
和算では、正多面体の角を切り落として辺長を揃えた立体(切頂多面体)を「キリコ」
(切篭、截篭)と呼びます。今回は、福島県内の算額にも登場した立方八面体をご紹介
します(福島県和算研究保存会編『福島の算額』より)。
【問題】
今有如図四角六面三角八面、混面截篭、
只云、面一寸、問積幾何。
答曰、積二歩三分五七有奇。
術曰、置十八個、開平方、以除面再乗冪、
一十之、得積、合問。
(西向村
佐久間簡治 撰)
術文を読み解くと、積(体積)は
10 × (面)
3
√18
ただし、面とは辺の長さのことです。
落書き「97」の経験から、私たちは「立方八面体の体積は、切り出す前の立方体の体
積の
であることを見て取ることができます。
また、立方八面体を八等分して積み替えると、元の立方体が復元されたかに見えます。
が、それは外見だけで、実際には内部に内接正八面体の「うろ」が出来ています。
右の写真は、「積み木インテリアギャラリー」
中川さんの木工作品です。説明文には、「東アジ
アでは古来魔除けとして知られる準正多面体」と
いう記述があります。檜の風合いと美しい木目が、
洗練された立体を引き立てていますね。
2
3. 落書き帳「65.ラッピング」より
正方形のグリーティングカードを、それに外接する正方形の包装紙で包んでみました。
(1)では、のりしろはできませんが、厚みのないカードの両面をピッ
タリ包み込みました。
(2)の方では、正方形の隙間ができてしまいました。その代わり、
「三
平方の定理」の証明図の一つになっています。
この包装紙を菱形に取り換えてみたのが、落書き帳「64」
(後述「参考」)
の図と見ました(右図)。正方形のカードに外接する菱形はこのタイプし
かありません。
これらは、いわゆる「裁ち合わせ」の話とも言えるでしょう。
(1)の裁ち合わせを立方体に応用してみると、菱形十二面体ができます。
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これは5種類ある「フェドロフの平行多面体」の一つとして有名ですが、学校数学では平
行多面体はほとんど取り上げられないため、正多面体ほどには知られていないのが現状です。
しかし、2006 年の中川宏さん(Gallery of Wooden Polyhedra</a)の発見をきっかけに、
5種類の平行多面体はたった1つの元素でできていることが証明され、その論文は海外でも
脚光を浴びました。証明者のお1人である佐藤郁郎さん(Ikuro's Home Page)は、平行多
面体をぜひ学校教育で取り上げてほしい、と訴えておられます。
「参考」~落書き帳「64. 手作りの封筒」より
バイクの音がしたので外へ出てみると、郵便受けに変わった封書が入っていました。
「暑中お見舞い申し上げます。体温を越える炎暑の中、いかがお過ごしですか。
さて、猛暑の夏を乗り切るには、算額問題に挑戦するのが一番。封筒の裏(の問題図)
をご覧ください」
【問題】(田村郡北移村
東鳥堂観音堂算額から)
正方形の内に、乾円4個と坤円1個が図のように
描かれている。
乾円の半径を5寸として、坤円の半径を求めよ。
(安達郡 八丁目村
菅原輪左衛門修照 撰)
これだけの手紙。宛名も差出人の名もありません。おそらく、この地域の全戸に届け
られたのでしょう。
【「街角の数学」の呟き】
この手紙の文字には見覚えがあるぞ・・・
あっ、もしかしたら、みよこ(345)さんかも!
次回をお楽しみに。またのご来店をお待ちしております。
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