目の新聞 -池袋眼科医院ニュース・レター№22- 肥満は現代病の一つといえます。脂肪を蓄えることで飢餓に備える人体のメカニズムが反乱を起こしている、といえなくもありません。 目の健康もこうしたことと無関係ではありません。 メタボリック・シンドロームという言葉はすっかり定着したようです。 それは、2005 年に日本臓器学界等が作成した脂質代謝異常、血圧異常、糖代謝異常を含む生活習慣病の診断基準なのですが、太り気味 の人間をからかう時の常套句のようになっています。 日本の場合、腹回りが男性で 85cm以上、女性が 90cm以上で内蔵脂肪が過剰に蓄 積されていると考えられていますが、一体何が問題なのでしょうか。 脂肪が過剰に蓄積されることで、基礎代謝の低下、すなわち体を動かすエネルギーの効率が悪くなるばかりでなく、高血圧、高血糖となって、 さまざまな循環器への負担が大きくなってくるのです。 つまり、病気への第一歩を踏み出しているということです。 ■高血圧は眼底出血、高血糖は網膜剥離に 例えば、中性脂肪。これが多くなると、血管内のコレステロールが沈着しやすくなり、動脈硬化を起こします。 動脈硬化は自覚症状がなく、かなり悪化してからでないと発見できません。 血液はドロドロ状。 血管は細く、硬くなって血栓を生じやすくなるので、脳内で血管が詰まると、脳梗塞となります。 生命が助かっても、身体の麻痺など大きな後遺症が残ります。 高血圧が伴うと、血管には常に大きな圧力がかかります。 脳内の細い血管が破れると脳出血です。そして、網膜の末梢血管も細いので、眼底出血を起こしやすい状態にあります。 出血の程度によっては、視力が急激に低下することもあります。 閉塞性動脈硬化症になると、手足などの血管が詰まり、しびれやむくみとなって現れます。 最悪の場合、足を切断しなくてはなりません。 腎臓の機能を阻害する腎不全も珍しくはないのです。 そして、血糖値の高いのは、腎臓の機能を低下させます。 体中の老廃物を濾過する腎臓が機能しなくなると、人体に必要なたん白を摂り込むことができなくなります。 いわゆる糖尿病です。 網膜の細い血管は糖尿病による影響を最初に受けやすく、出血をきたしやすくなります。 その障害は、硝子体出血となり、経過によっては網膜剥離に至ります。つまり、失明です。 糖尿病は神経を冒すことも多いので、自律神経を障害することも少なくありません。 手足のしびれ、立ちくらみから始まって、異常発汗、食欲不振といった身体機能の不全が続くのです。 ■無理なダイエットは危険 不規則な食生活、ストレス、飲酒、運動不足。こういったものがメタボリック・シンドロームの原因とされています。 しかし、太っているために歩くのは億劫になり、遅くまで仕事をするので食事は夜中近く。 不満がたまる。酒に走る。どう考えても生活を改善することなどできそうもありません。 決心をしてダイエットを始めます。 結果を早く出すために極端な食事制限をし、過激な運動を行なう。まったく危険な行為です。 すでに多くの臓器に負担をかけているうえに、運動で負荷をかけることになります。 必要な栄養素を摂らないダイエットは身体機能を損ねるだけでなく、リバウンドの原因にもなります。 肥満は怖い。しかし、 「痩せなければいけない」という呪縛からは逃れたほうがいいでしょう。 低カロリーでうまい食事は何か、散歩以外に楽しくできる運動はないか、という具合に楽しむべきなのです。短い時間でも毎日運 動する。要は、続けることのできるスケジュール化なのです。 診療予約 パソコン・携帯電話からは・・・・・ http://www.ike-eyedr.com/ 一般電話(音声ガイドでの予約)からは・・・・・0570-003303(メッセージが流れたら) 4181 (コンテンツ番号) シャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイルが眼科医だった(であろうとした)ということをご存知でしょうか。 ドイルによる自伝『わが思い出と冒険』(新潮文庫)によると 1859 年生まれの彼は、父親の病気(アルコール依存症と言われています)もあっ て、貧困生活を送りますが、1876 年にエディンバラ大学医学部に入学します。 当時の医療状況を S・J・ライザー『診断術の歴史』(平凡社)から説明しておくと、17 世紀以来、医師は治療をしませんでした。 診断と処方だけ。手術や瀉血(悪い血を抜くのです)といった治療は医師よりも格下と見なされていた外科医にまかされていました。 19 世紀に入ってこの関係は改善されましたが、医療の徒弟制度の名残りはまだあり、ドイルも医学生のかたわら開業医のアシスタントに励 むのです。 その後、ドイルは医師免許を取得し、イギリス西端の都市プリマスで開業します。この頃(1882 年)初めて短編が雑誌に掲載もされています。 この頃の医学界をもう一度見てみると、1850 年にヘルマン・ヘルムホルツが網膜を直接見ることのできる検眼鏡を開発しています。 それまで目の前に黒い影がちらつく飛蚊症の治療法として「ヒルによる吸血、下剤」(『診断術の歴史』)といったものに替わって、正しい対処 法を考える契機となったのでした。 そして、1882 年には、コッホが結核菌を発見します。 細菌という概念が医学に登場してきたのです。 1890 年ドイルは、コッホが行なう結核の治療実験を見るために大陸に渡ります。 実験そのものは満足のいくものではありませんでしたが、旅行中にロンドンの開業医と親しくなり、ドイル自身もロンドンに出ることを考えるの です。 その時に勧められたのが眼科医でした。 目の屈折異常をていねいに診てくれる医者はいない。検眼鏡のことも思い浮かべたでしょう。 3 ヵ月のウィーン留学の後、ロンドンで開業しますが、まったくのあてはずれ。 患者は一人も訪れず、ドイルは文筆業に精を出します。 19 世紀のヴィクトリア朝時代、阿片は薬局で買えましたし、毒薬の知識も黎明期にありました。 ホームズの背景にある医学はなかなか興味深いものがあります。 角膜は空気中から直接酸素を取り込んでいます。 コンタクト・レンズを装用すると、それが妨げられることになり、角膜は酸素不足に陥ります。場合によっては、むくみや角膜障害を起こすこと があります。 現在のハードコンタクト・レンズは角膜より一回り小さく、酸素を通す機能に優れていますが、ソフトコンタクト・レンズ(SCL)では角膜をすべて 覆ってしまい、角膜への酸素供給が十分に行なわれません。 近年、この酸素不足を解決する酸素透過率の高い SCL が登場しています。 まず、'05 年、30 日間終日装用の定期交換レンズ「O2 オプティクス」が、'07 年には 2 週間終日装用の定期交換レンズ「アクヴュー(オアシス) 、(アドバンス)」、さらに 1 週間連続装用の「ピュアビジョン」が発売されています。 この 4 種はシリコーンハイドロゲルレンズといって、それまでの SCL とは違う素材で作られています。 これは、酸素を多量に通し、水とはなじまないシリコーンと水となじみやすい含水性のハイドロゲルを混合させたものなのです。 酸素透過性を高めるためにシリコーンに親水性高分子を組み込んだり、レンズの表面をプラズマコーティング処理を施して水になじみやすく しているのです。 また、たん白質の付着が少なく、潤い感に優れたレンズもあります。 酸素透過性が高い、汚れにくい、乾燥にも強い、目に優しい SCL だと考えられていますが、日本で発売されて 2,3 年しか経過していません。 すべての人に適合するか、分からないのです。実際、最初に発売された「O2 オプティクス」で角膜障害をきたす例もありました。誰にも適合す る夢のレンズはまだ先のようです。 池袋眼科医院 〒233-0002 横浜市港南区上大岡西 1-18-13 TEL045-842-0380 2002 年 10 月1日発行 発行者:池袋信義 編集:池袋春次 ☆☆
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