第Ⅲ章 消費構造の変化 ○分析対象データ ※ 本章における分析対象データは総務省「全国消費実態調査(一般世帯)」である。 ※ 世帯消費に関する調査には、同じく総務省で毎月実施されている「家計調査」があるが、「調査サンプル 数が少ないこと」「岐阜県では岐阜市のみを調査対象としていること(全国消費実態調査(1999 年)では 岐阜県内 25 市町村を対象)」から、分析には「全国消費実態調査(一般世帯)」のデータを用いる。 ○分析対象期間 ※ 分析対象期間は、各年で調査項目がほぼ同様であり比較可能な 1984 年から最新の 1999 年のデータ を使用する。 ※ なおこの期間は、我が国が高度成長期を経て新たな経済・社会構造へと向かい始めた期間であり、特に 現在の経済・社会構造に大きな影響を与えた 1980 年初頭からの円高不況と、その後 1990 年頃までの バブル景気における消費構造との違いを分析するため、1984 年の調査年以降を対象として分析する。 27 1 「所得」構造の変化 1.1 年間収入額の変化 総務省「全国消費実態調査」により、1世帯当たりの全国平均の年間収入額を見てみると 1999 年は 前回調査の 1994 年を下回る結果となり、バブル景気崩壊後、家計においてもそれまでの右肩上がりだ った収入構造が大きな転換点を迎えた。全国平均と同様に大都市も 1999 年には 1994 年に比べて約 40 万円減額となっている 一方、岐阜県においては1世帯当たりの年間収入額は常に全国平均を上回っている。動態的な変化 を見ると、1994 年∼1999 年にかけては全国平均のような落ち込みは見られないものの、それまでの大 きな増加幅(5 年間で約+100 万円)はなく、微増(約+30 万円)に留まっている。 図表:年間収入額(全世帯平均) 9,000 8,000 7,590 年間収入額(単位:千円) 7,614 6,957 6,895 6,653 7,000 6,000 8,593 8,300 8,074 7,837 5,838 5,840 5,475 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 84年 89年 94年 全国 大都市 岐阜県 (※大都市は人口100万以上の市。以下、同様) 28 99年 1.2 年間収入額と世帯人数の関係 前頁のように、岐阜県の1世帯当たりの年間収入額は常に全国平均を上回っているが、これは下図 のとおり世帯人数の効果によるものである。世帯人数が多いほど、家計に収入をもたらす有職者数及 び収入額が増えることから、岐阜県を始めとして世帯人数が多い山形県、茨城県等も軒並み収入額が 多くなっている。 図表:「世帯平均人数(単身世帯除く)」と「年間収入額(全世帯平均)」との関係 (1999 年) 年間収入額(千円) 9000 富山県 福井県 石川県 岐阜県 神奈川県 茨城県 三重県 静岡県 奈良県 愛知県 埼玉県 東京都 8000 岡山県 島根県 山梨県 全国平均 兵庫県 香川県 年間収入額(千円) 千葉県 京都府 群馬県 徳島県 滋賀県 長野県 新潟県 栃木県 鳥取県 広島県 大阪府 7000 山形県 福島県 佐賀県 岩手県 秋田県 宮城県 和歌山県 福岡県 大分県 高知県 北海道 山口県 長崎県 熊本県 愛媛県 青森県 宮崎県 6000 鹿児島県 沖縄県 5000 3 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 世帯人数(人) 29 3.6 3.7 3.8 3.9 2 「貯蓄」構造の変化 2.1 貯蓄現在高の変化 全国平均の年間収入額は 1994 年をピークとして減少傾向にあるが、 その一方で貯蓄現在高は常に増 加傾向にある。1994 年から 1999 年にかけては約+140 万円と、それ以前の年間収入額の増加を背景と した増加幅(5 年間で約+400 万円)には及ばないものの、1994 年から 1999 年にかけての収入減少の なかで、こうした貯蓄増加は消費者心理の悪化を背景として節約型・倹約型の家計構造に変化してい ることを物語っている。 一方、岐阜県の貯蓄現在高は常に全国平均を上回る状況となっている。動態的な変化を見ると、全 国と同様で貯蓄現在高は一律的に増加し続けており、1999 年は 1984 年の約 2.5 倍に達する。 (その間 の年間収入増加は約 1.5 倍) 図表:貯蓄現在高(全世帯平均) 20,000 18,079 18,000 16,071 16,000 15,421 15,472 13,637 14,000 貯蓄額(単位:千円) 15,001 12,769 12,000 10,925 10,957 10,000 8,000 7,894 7,173 6,720 6,000 4,000 2,000 0 84年 89年 94年 全国 大都市 30 岐阜県 99年 2.2 貯蓄現在高と年間収入額の関係 前頁のとおり岐阜県の貯蓄現在高は全国平均を上回っているが、これは貯蓄の源泉である年間収入 額の規模と密接な関係がある。下図のとおり、都道府県別に貯蓄現在高と年間収入額との関係を見る と、これらには相関関係があることが明らかであり、岐阜県は全国のなかでも「世帯人数の多さによ り年間収入額が多く、さらにそれにより貯蓄現在高も非常に多い構造」となっている。 図表:「貯蓄現在高」と「年間収入額」との関係(全世帯平均) (1999 年) 年間収入額(千円) × 貯蓄現在高(千円) 21000 福井県 19000 東京都 香川県 17000 石川県 群馬県 愛知県 静岡県 京都府 岡山県 滋賀県 千葉県 奈良県 三重県 広島県 兵庫県 徳島県 栃木県 長野県 茨城県 大阪府 鳥取県 埼玉県 和歌山県 全国平均 新潟県 15000 貯蓄現在高(千円) 岐阜県 神奈川県 山口県 愛媛県 13000 高知県 山梨県 岩手県 大分県 福岡県 北海道 富山県 島根県 山形県 佐賀県 宮城県 福島県 長崎県 熊本県 11000 宮崎県 鹿児島県 秋田県 青森県 9000 7000 沖縄県 5000 5000 5500 6000 6500 7000 7500 年間収入額(千円) 31 8000 8500 9000 9500 2.3 貯蓄現在高の費目構造 全国平均の貯蓄現在高の費目構成比は、1989 年を境として大きなトレンドの変化が見られる。まず、 1984 年から 1989 年にかけてはバブル期の株価急騰及びそれまで株式に無縁だった世帯を含めた「財 テクブーム」を背景に、 「有価証券」の比率が拡大している。その後は、バブル景気の崩壊により、有 価証券の比率が減少傾向に向かう一方で、 「生命保険」及び安全性の高い「定期性預貯金」が伸びてお り、 「収入減少のなかで、倹約・節約志向の台頭による貯蓄拡大。さらに、貯蓄行動そのものにおいて も安全志向」という構造になっている。 岐阜県に関してもこうしたトレンドは同様に見られ、1989 年から 1999 年にかけては「定期性預貯金」の割 合が+7%となっている。また、各年のデータを全国平均と比較すると、岐阜県の特徴点は「全国よりも有価 証券の比率が低く、反面、定期性預貯金が高い構造」である。 図表:貯蓄現在高の費目構成比(全世帯平均) <全国> 100% 4.0 20.3 80% 3.5 3.9 15.8 3.0 11.6 25.6 その他 構成比(単位:%) 27.4 26.6 19.0 60% 有価証券 生命保険 22.2 定期性預貯金 通貨性預貯金 40% 48.8 42.0 47.7 48.8 20% 0% 7.9 6.6 6.1 9.3 84年 89年 94年 99年 <大都市> 100% 4.2 3.6 4.3 2.4 16.6 80% 27.1 23.0 34.4 構成比(単位:%) その他 25.0 60% 16.9 24.8 定期性預貯金 通貨性預貯金 40% 46.6 45.0 36.4 20% 0% 有価証券 生命保険 20.0 42.4 6.8 5.6 5.5 9.4 84年 89年 94年 99年 <岐阜県> 100% 3.2 3.1 15.8 18.4 3.2 12.5 80% 23.1 17.4 構成比(単位:%) 2.4 9.2 21.7 24.4 その他 有価証券 生命保険 60% 定期性預貯金 40% 通貨性預貯金 55.5 49.9 54.8 57.1 20% 0% 8.0 6.8 5.1 8.3 84年 89年 94年 99年 32 3 「消費」構造の変化 3.1 消費支出額の変化 全国平均の消費支出額は、年間収入額の変動とほぼ同じ趨勢をたどっており 1999 年には減少に転じた。 これは大都市でも同様の結果である。 一方、岐阜県は各年とも全国平均を上回る消費支出額となっているとともに、1994 年までは右肩上がりの 増加が続いていた。しかし、1999 年には年間収入額の微増を要因として、1994 年の消費支出額水準と変わ らない状況に止まっており、それまでの「収入増加を前提とした支出行動」が転換点を迎えた。 図表:消費支出額(全世帯月平均) 400 361.7 355.8 358.3 344.1 消費支出額(単位:千円) 350 335.1 341.2 317.6 316.0 305.2 300 282.9 264.4 260.6 250 200 84年 89年 全国 94年 大都市 岐阜県 資料:総務省「全国消費実態調査」 33 99年 3.2 消費支出額と世帯人数の関係 前頁のように、岐阜県の1世帯当たりの消費支出額は全国平均を上回っているが、これは下図のと おり世帯人数の効果によるものである。世帯人数が多い岐阜県と同様に茨城県や福井県なども支出水 準が高く、その反面、世帯人数の少ない鹿児島県、高知県、北海道などでは支出水準が低い構造とな っている。 図表:「世帯平均人数(単身世帯除く)」と「消費支出額(全世帯平均)」との関係 (1999 年) 410000 400000 富山県 390000 380000 茨城県 石川県 神奈川県 370000 360000 滋賀県 東京都 岐阜県 千葉県 埼玉県 350000 月間消費支出額(円) 福井県 兵庫県 340000 愛知県 山梨県 栃木県 長野県 新潟県 山形県 静岡県 三重県 宮城県 奈良県 岡山県 福島県 佐賀県 群馬県 香川県 全国平均 330000 広島県 320000 山口県 310000 大阪府 京都府 福岡県 大分県 北海道 徳島県 島根県 和歌山県 岩手県 秋田県 鳥取県 300000 愛媛県 290000 長崎県 高知県 280000 熊本県 鹿児島県 270000 青森県 宮崎県 260000 沖縄県 250000 3 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 世帯人数(人) 資料:総務省「全国消費実態調査」 34 3.6 3.7 3.8 3.9 3.3 消費支出額と年間収入額の関係 前頁の「消費支出額と世帯人数の関係性」以上に、下図のとおり、消費支出額と年間収入額の関係 性は明確にあらわれる。消費支出額の規模は年間収入額によってほぼ決定し、全国平均よりも年間収 入額の多い岐阜県は消費支出額も多い構造となっている。 図表:「年間収入額」と「消費支出額」との関係(全世帯平均) (1999 年) 5000 富山県 4800 4600 茨城県 石川県 神奈川県 4400 岐阜県 滋賀県 東京都 年間消費支出額(千円) 埼玉県 4200 千葉県 福井県 栃木県 山梨県 長野県 愛知県 兵庫県 新潟県 山形県 三重県 宮城県 香川県 静岡県 全国平均 岡山県 奈良県 4000 3800 山口県 福島県 佐賀県 群馬県 大阪府 京都府 広島県 徳島県 島根県 秋田県 岩手県 福岡県 和歌山県 大分県 鳥取県 北海道 3600 愛媛県 長崎県 高知県 3400 青森県 鹿児島県 宮崎県 3200 3000 5000 熊本県 沖縄県 6000 7000 年間収入額(千円) 35 8000 9000 3.4 費目別(10分類)消費支出構成比の変化 全消費支出額に占める主要費目(計 10 分類費目)の構成比は、下図のとおりである。 全国、大都市、岐阜県で比較すると、 「岐阜県では交通・通信の比率が全国・大都市より高く、住居 が全国より低い」 、 「大都市では住居の比率が高く、交通・通信及びその他消費支出が低い」という点 が、どの調査実施時点でも共通の特徴点である。 これら以外についてはそれほど大きな差は見られなく、この 10 分類費目で見る限りは、岐阜県は全 国平均とほぼ同様の消費構造であると言える。 これは、消費構造の差異に影響を与える「物価」 、 「行政制度(教育・医療・福祉・住宅・交通・通 信等) 」 、 「ライフスタイルや嗜好」が、日米間や日欧間と違って、国内ではマクロ的に見て各都道府県 間でそれほど大きく変わらないためである。 図表:消費費目別構成比(全世帯平均) ■1984年 35.0% 30.0% 全国 28.5% 29.2% 27.9% 大都市 岐阜県 24.8% 25.0% 23.0% 24.0% 20.0% 15.0% 12.5% 10.0% 10.0% 4.5% 5.0% 6.0% 6.0% 6.4% 6.3% 3.6% 6.9% 7.0% 6.7% 4.3% 4.0% 4.9% 8.7% 8.4% 8.6% 7.9% 3.9% 4.7% 3.5% 2.6% 2.5% 2.6% 0.0% 食料 住居 光熱・水道 家具・家事用品 被服及び履物 保健医療 交通・通信 教育 教養娯楽 その他の消費支出 ■1989年 35.0% 全国 30.0% 大都市 岐阜県 28.0% 26.5% 26.7% 25.8% 25.9% 25.0% 24.1% 20.0% 15.0% 10.5% 10.0% 4.7% 5.0% 6.3% 3.4% 5.1% 5.2% 4.9% 9.5% 11.3% 8.8% 9.0% 8.7% 7.0% 7.4% 6.8% 3.9% 3.7% 3.7% 4.8% 5.3% 4.9% 2.8% 2.7% 2.5% 0.0% 食料 住居 光熱・水道 家具・家事用品 被服及び履物 保健医療 交通・通信 教育 教養娯楽 その他の消費支出 ■1994年 35.0% 全国 大都市 岐阜県 29.0% 30.0% 25.0% 26.9% 24.5% 24.8% 23.9% 23.7% 20.0% 15.0% 10.6% 10.0% 7.7% 5.4% 3.8% 5.0% 5.6% 5.5% 5.2% 11.4% 3.7% 3.4% 3.5% 9.2% 9.7% 9.6% 9.5% 6.0% 6.3% 6.3% 5.3% 6.2% 2.9% 3.1% 2.9% 4.3% 0.0% 食料 住居 光熱・水道 家具・家事用品 被服及び履物 保健医療 交通・通信 教育 教養娯楽 その他の消費支出 ■1999年 35.0% 全国 大都市 岐阜県 30.0% 25.0% 27.3% 25.5% 24.0% 24.6% 23.3% 22.1% 20.0% 15.0% 11.7% 9.3% 10.0% 6.4% 6.0% 5.9% 6.0% 3.9% 5.0% 3.4% 3.0% 3.4% 5.1% 5.4% 5.2% 13.1% 10.6% 9.5% 10.0% 9.2% 5.0% 5.7% 5.4% 3.4% 3.3% 3.2% 0.0% 食料 住居 光熱・水道 家具・家事用品 被服及び履物 36 保健医療 交通・通信 教育 教養娯楽 その他の消費支出
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