慶應義塾大学(法学部) 佐藤拓磨先生のお薦め本 ――大学に入ったら読みたい本 no.5――― アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』(新潮文庫 1969年) 私が20歳前後の頃に読んだ本で最も思い出深いのは,カミュの一連の著作です。この本と次にあげ る『異邦人』は,ちょうど大学受験の年の秋に読みました。シーシュポスの神話とは,次のようなギリ シャ神話です。シーシュポスという人物が,神から罰を受けます。その罰とは,巨大な岩を山頂まで押 し上げるというものです。しかし,岩は山頂の少し手前まで来ると,その重みで再び転げ落ちてしまう のです。まさに果てしない苦行です。しかし,カミュは,シーシュポスは「幸福」だと言います。この ような絶望すべき状況に置かれていながら,なぜ「幸福」なのか…? この本は当時の私には難解で,なかなか読み進めることができませんでしたが,喰らいつくようにし て読みました。最後の章に到達したときの感動はいまだに忘れられません。 (日吉 B@958@Ca1@1-2) アルベール・カミュ『異邦人』(新潮文庫 1954年) 先に挙げた『シーシュポスの神話』と対をなす作品です。主人公が殺人を犯し,その動機を「太陽が 眩しかったから」と言うシーンが有名な小説ですね。『シーシュポス』を読まないでこちらを先に読む と,まったく理解できないかもしれませんが,『シーシュポス』とあわせて読めば著者の問題にしたい ことがなんとなくわかります。 文章が大変美しく,舞台であるアルジェの暑さ,乾燥,強烈な日差しが読みながら伝わってきます。 (日吉 B@958@Ca1@1-2) アルベール・カミュ『ペスト』(新潮文庫 1969年) 『異邦人』とならぶカミュの代表的な小説作品です。『異邦人』よりもこちらの方が読み易いので, カミュの作品を読んでみたい人はこちらから入るのも手かもしれません。 (日吉 アルベール・カミュ『転落・追放と王国』(新潮文庫 L@953@Ca1@1) 2003年) 本書に収録されている2編は,いずれもカミュの後期の作品です(「追放と王国」は短編集)。ここで は「転落」をお勧めしたいと思います。舞台はアムステルダム,アムステルダムの飲み屋を訪れたフラ ンス人旅行者にある男が話しかける,この男はかつてパリで弁護士をしていたと言う…話はこの男の 「語り」によって進んでいきます。「語り」の内容は懺悔なのですが,最後にどんでん返しが待ってい ます。大学1年生の頃に読んで衝撃を受けました。 なお,出版年次が2003年となっていますが,これは新訳版です。私が読んだのは旧訳版です。新 訳版が出たとき,ざっと見比べてみたのですが,なんと最後の一文の訳が明らかに違う!私も仕事柄, 論文等の翻訳をしますが,翻訳って本当に難しいですね。 (日吉 KL@953@IC6@1) フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』(岩波文庫(全4巻) ,1957年新潮文庫(全3巻) ,1978年光文社古典新訳文庫(全5巻) ,2006年-) カミュの作品の中でしばしばドストエフスキーについて言及があったことがきっかけで読みました。 読んだのは,本書のほか『白痴』, 『悪霊』 , 『罪と罰』といった長編です。それぞれ面白いのですが,そ の中から一つ選んで紹介するとすれば,やはり本書でしょう。ドストエフスキーの作品の集大成です。 ドストエフスキーというと,「長い」とか「難しそう」とか思うかもしれませんが,読んでみると意 外にドタバタ劇で面白く,内容も極めて刺激的です。ドストエフスキーの作品は,カミュの作品ととも に,私の当時の価値観を根底から揺さぶりました。こういう長編は時間のあるときでないと読めません ので,ぜひ日吉にいる間に読んでみてください。 (日吉 L@983@Do1@15-1∼) フランツ・カフカ『審判』 (岩波文庫,1966年) これもカミュつながりです。カミュの作品の中でカフカについても言及があったのがきっかけでいく つかの作品を読みました。中でも圧倒的に好きなのが本書です。印象的だったのは,作品中の世界にお ける「現実」と「非現実」の不明瞭性です。読んでいて,まるで白昼夢をみているかのような感覚にな ります。村上春樹の作品が好きな人には特にお勧めできるかもしれません。 (日吉 KL@943@IK3@2) ウンベルト・エーコ『フーコーの振り子』(文藝春秋,1993年/文春文庫,1999年) 著者は記号論の著名な学者です。エーコの小説作品では,むしろ『薔薇の名前』(東京創元社,19 90年)の方が有名ですが,あえてこちらを挙げました。本書はまるで壮麗な建造物のような作品です。 読破するのは大変ですが,読破したときに得られる達成感はたまりません。 話はテンプル騎士団の伝説をめぐって進んでいきます。少し前に,『ダ・ヴィンチ・コード』という 本がブームになりましたが,それを読んだ人はぜひ本書と読み比べてください。あまりのレベルの違い に驚嘆するに違いありません。 (日吉 B@973@Ec1@2-1、2-2) ここに掲載の図書は、日吉メディアセンターのほか塾内のメディアセンターでも所蔵しています。 OPAC で検索してみてください。 慶應義塾大学日吉メディアセンター ( IA(ラウンジ)展示 2009.4).
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