日本史A、日本史B 第3 問題作成部会の見解 日 本 史 A 1 問題作成の方針 試験問題は、これまで高等学校学習指導要領に準拠し、高等学校で使用する教科書を基礎として 作成することとしてきたが、今年度もこの方針を踏襲して作問することにした。 ① 問題数は、大問6問とした。第1問は、高等学校学習指導要領に対応して、「主題学習」に 即した問題とし、第3問・第5問は、「日本史B」の第5問・第6問と共通問題とした。 ② 設問数は、平成 21 年度試験以来、36 問から 34 問に減らして、受験者の負担を軽くしている が、本年度もそれを踏襲し、計 34 問とした。主題学習の第1問が計3問、幕末維新期の第2 問が計6問、近現代史の第3問~第6問を計 25 問とした。 ③ 国際的視野を反映させた出題となるよう、全体的に心掛けた。 ④ 高等学校教科書の主題学習の「歴史と生活」に配慮し、第1問は「生活文化や地域社会の変 化」に関連する出題とした。 ⑤ 政治史・経済史・文化史・対外関係史などの各分野から出題し、バランスを取るように心掛 けた。 ⑥ 文字資料・図版資料・地図・表・グラフを用いて、歴史事象とともに考えさせる作問を心掛 けた。 ⑦ リード文と設問との関連性、下線部と設問との関連性に留意した。 ⑧ 試験時間 60 分で解答できる問題になるよう留意した。 ⑨ 前年度に引き続き年代配列は6択としたが、難度が高くなりすぎないように配慮した。 2 各問題の出題意図と解答結果 第1問 高校生が校外学習などで訪れることの多い博物館に関する会話をリード文とし、歴史的 な物品を通じた新たな学びの楽しさや、文化財保存機関の重要性を理解させながら、電気製品 や雑誌文化、植民地、教育など幅広く日本近代史に関する知識を問うことを狙いとした。 問1 放送メディアや児童文化の雑誌について空欄補充形式で問い、近代文化の展開について の理解度を問う問題。空欄の前後のリード文をしっかり読めば解答は容易である。 問2 日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦によって獲得した植民地や権益について問うも の。講和条約の内容やその後の大陸経営に関する正確な知識を必要とする。 問3 高等教育の発展過程についての正確な知識を問うた正誤問題。特に選択肢Yについて は、大学令についての正確な理解を必要とし、少々難易度が高かったかと思われる。 第2問 幕末から明治初期にかけての、江戸幕府と明治政府の軍制整備に関する文章を読ませ、 政治・外交・経済・文化などに関して問うた。リード文Aでは、長崎海軍伝習所に関して説明 し、幕府と諸外国の関係や、伝習生の政治・経済活動、明治政府の経済・財政政策についての 設問に解答できるように作成した。 問1 伝習生のうち、政界や財界で活躍した人物の名を問う空欄補充問題で、基礎的な知識を 問うているため、容易に正解を導き出せる。 問2 近世後期におけるオランダとの関係の歴史的展開について問う年代整序問題で、幕末外 交史の流れを正しく理解しているかを確認している。 ―45― 問3 明治前期における新政府の経済・産業政策を問う問題で、屯田兵と通貨制度について基 礎的な理解を確認している。 リード文Bでは、徴兵告諭を史料として用い、明治政府の統治政策、明治期の文化、徴兵 制度の理念と内容、施行の影響についての設問に解答できるように作成した。 問4 明治初期の統治政策について、その展開過程と内容の理解を問う問題である。基本史料 に対する読解力と版籍奉還についての理解を確認している。 問5 明治期に西洋の影響を受けた日本人と、その作品名について問う正誤組合せ問題である が、田口卯吉については若干難しかったようである。 問6 徴兵制度の内容と、実施の影響について問う問題である。徴兵制やその忌避などについ て基本的な理解を確認した。 第3問 地域社会の様相の歴史的変化についての理解を問うことを意図し、明治期における電信 の発達に関するリード文を掲げ、官営とされた同事業の発達が、民間の積極的な関与や企業家 精神に支えられたものであったことを示しつつ、明治期の経済・社会・政治に関する基本的事 項への理解を問うた。 問1 明治期の経済状況、産業に関する基本的事項を問う空欄補充問題である。解答は比較的 容易であったと考えられる。 問2 明治期の社会・政治・経済・国際関係に関する基本的事項を問う正誤判定問題である。 標準的な難易度の問題であったと考えられる。 問3 明治期の法整備に関する基本的事項を問う正文選択問題である。多面的な知識を問う問 題であったため、やや難易度が高かったかと思われる。 問4 明治期の産業化とその影響につき、地理情報と関連付けた理解を問う地図問題である。 高等学校教員からは「標準的な問題」との評価を受けているが、長崎造船所についての知識 はやや難易度が高かったかと思われる。 第4問 明治・大正期の演劇について述べた文章を掲げ、演劇という文化的な営みが、政治や戦 争といった歴史的な出来事と密接な関係を持ちつつ展開したことを示し、政治・社会・文化・ 外交についての基本的事項を問うことを狙いとした。 リード文 A は、明治期の歌舞伎改良運動に関わった人々の活動を示すことを通じ、明治期 の政治・社会に関する理解を基礎的な知識を問うている。 問1 明治初期の士族について、士族反乱や秩禄処分の内容などの基本的事項の理解を問う問 題である。 問2 明治期の政党の展開過程について、基本的事項が全般的に理解されているかどうかを問 うた問題である。 リード文 B は、明治期に出現した新たな演劇の潮流に関わった人々の活動を通じ、明治期 の文化・政治・外交に関する理解を問うことを狙いとしている。 問3 明治期の演劇の新潮流と、文学史上の基本的な人名の理解について確認する設問であ る。 問4 史料の読解を通じ、国会期成同盟の国会開設・憲法制定に対する姿勢について問うた設 問である。 問5 明治期における日本と清国との外交上の出来事に関する年代整序を通じ、日清間の外交 関係の推移を理解しているかを確認する問題である。 第5問 大正期から昭和期にかけての音楽をテーマに扱った文章を掲げ、当該期の社会・外交・ 文化に関する基本的事項について出題した。音楽という身近な生活文化を通して、文化が社会 ―46― 日本史A、日本史B や政治、国際社会との関係性の中で展開していることが分かる設問にした。 リード文 A は、第一次世界大戦後の都市化と大衆化の中で、大衆文化としての音楽の発展 過程を概括するとともに、欧米への留学・滞在からその文化を接収し、日本へ伝えた人々につ いて言及した。 問1 第一次世界大戦後の外交に関する出来事の年代を問う設問。それぞれ基本的な事項であ るが、受験者の知識は不十分だったようである。 問2 大正期の女性及び文化について、基礎的な事項の理解を問う設問。教科書にもよく見ら れる図版でもあり、解答は容易だったと思われる。 問3 大衆文化を担った文化人について、作品名と単純に結び付けるのではなく、経歴・業績 全般にわたる基礎的な知識を問うた。 リード文 B は、戦時体制が進行する過程で、総力戦体制の厚生運動として音楽が利用され る側面、メディアの中で音楽が国家総動員に利用される側面に言及した。 問4 平時と戦時の男女別有業者人口を比較した表を読み取らせ、戦時体制が国民に及ぼした 影響を理解する設問。表から読み取れる内容と、戦時下の産業に関する知識とを組合せれ ば、解答はさほど困難ではない。 問5 戦時下の国民生活について、基礎的な事項の理解を問う設問。解答には占領期に関する 知識も求められる。 リード文 C は、占領軍による民主化の中で、大衆文化が復興し、大衆的な音楽が誕生する 過程を概観し、当時の政治や社会運動と強く結び付いていた、「うたごえ運動」についても 言及した。 問6 敗戦後の文化、政党について、基礎的な事項の理解を問う設問。誤答の選択肢が敗戦後 のものではないことはあまりにも明白であり、解答は容易だったと思われる。 問7 占領期の政治状況について、基礎的な事項の理解を問う設問。 問8 敗戦後の外交について、特にアメリカとの関係についての基本的事項の理解を問う設問。 第6問 戦後に首相を務めた芦田均(1887~1959)のライフヒストリーを掲げ、昭和の戦前から 戦後にかけての政治・経済・社会の動きに関する基本的な知識を問うた。 リード文Aは、戦前期の芦田の政治姿勢と関連付けながら、当時の政治・外交と軍の作戦行 動について説明し、文章を注意深く読むことで解答できるように配慮した。 問1 昭和初期における戦争と、学問・思想の弾圧について、基本的知識を問う出題。 問2 昭和初期の政党政治から日中戦争期までの、政治・外交の基本的知識を問う出題。 問3 日中戦争が勃発してからアジア太平洋戦争(太平洋戦争)開戦に至るまでの重要事件が 起きた場所について、地図上から選択する問題。 リード文Bは、芦田が敗戦後に政党政治の再建に乗り出してから、内閣総理大臣となり、 疑獄事件で退陣するまでの過程を扱いながら、占領期の政治・戦後の社会運動・日本経済の 動きなどを出題した。 問4 占領期の政治と労働運動に関する基本的知識を問う出題。 問5 戦後の社会運動に関する基本的知識を問う出題。看板・横断幕などの文字情報から、い つの時代の何を訴える運動の写真かを判断させようとした。 問6 戦後の日本経済についての基本的知識を踏まえ、敗戦直後の激しいインフレ→ドッジ= ラインを機とするデフレへの転化→朝鮮戦争以後の好況という展開の理解を確認する出題。 リード文Cは、首相を退任してから逝去するまでの経緯をまとめ、戦後の政党政治と外交 について問うた。 ―47― 問7 保守合同前後の政府・政党の動向についての基本知識を問うた。 問8 1950 年代のソ連と中国、アジア諸国との外交関係についての基本知識を問うた。 3 出題に対する反響・意見についての見解 高等学校教科担当教員からは、基本的な知識を問い全ての分野でバランス良く出題されていると 評価されたが、判別が容易な問題が多かったとも指摘されている。 また、史料・グラフ・地図・図版等を用いて「歴史的思考力」を問う出題は例年並みの出題数で あり、今後も重点を置いての出題が要望されている。ただ項目や分野を横断した幅広い思考・判断 を求める設問が、本試験より少なかったとも指摘されていて、一層の努力が必要と判断している。 教育研究団体からは、幕末期の出題が少ないなど、時代や出題形式のバランスについて問題点を 指摘され、配慮が求められた。また「日本史 B」との共通問題に、「日本史 A」の受験者にとって はいささか細かすぎる内容が含まれていて、難度が高くなっていることについて、「細かな事象や 高度な事項・事柄」からの出題についての作題への要望が出された。 次年度以降は、上記の意見を踏まえ、難易度について一層の配慮をして平均点が更に上がるよう に努めるとともに、これまで同様、史料・グラフ・地図・図版などを用いて「歴史的思考力」を総 合的に問う良問の作成に努力をしていきたい。 4 今後の問題作成に当たっての留意点 本部会は、作問上の留意点として以下の4点を挙げてきた。 ① 高等学校教育の範囲と水準を逸脱することなく、平均点を上げるため、標準的な問題を作成 するように一層心掛ける。 ② 高校現場での授業に配慮する。 ③ 問題領域や設問形式のバランスや文字資料・地図・表・グラフの適切な使用に留意しつつ、 「歴史的思考力」を問う問題を多く出題するように工夫する。 ④ 「日本史 B」との共通問題の難易度について更に配慮する。 今後もこれらの諸点に一層留意するとともに、難度が上がったと評価された点があるので、今回 御指摘いただいたことを踏まえて、問題作成を行いたい。 ―48― 日本史A、日本史B 日 本 史 B 1 問題作成の方針 試験問題は、これまで高等学校学習指導要領に準拠し、高等学校で使用する教科書を基礎として 作成してきたが、今年度もこれまでの方針を踏襲して作問することにした。 ① 問題数は、大問6問とした。第1問は、高等学校学習指導要領に対応して、主題学習に即し た問題、第2問は原始・古代、第3問は中世、第4問は近世、第5問・第6問は近現代とした 第5問、第6問は、「日本史 A」の第3問・第5問と共通問題とした。 ② 前年度までの方針を引き継ぎ、設問数は 36 問とし主題学習6問、前近代 18 問、近現代 12 問 とした。 ③ 国際的視野を反映させた出題となるよう、全体的に心掛けた。 ④ 高等学校教科書の主題学習の「歴史と生活」に配慮し、第1問は「生活文化や地域社会の変 化」に関連する出題とした。 ⑤ 政治史・経済史・文化史・対外関係史などの各分野から出題し、バランスを取るように心掛 けた。 ⑥ 文字資料・図版資料・地図・表・グラフを用いて、歴史事象とともに考えさせる作問に心掛 けた。 ⑦ リード文と設問との関連性、下線部と設問との関連性に留意した。 ⑧ 試験時間 60 分で解答できる問題を作成した。 ⑨ 前年度に引き続き年代配列は6択としたが、難度が高くなりすぎないように配慮した。 2 各問題の出題意図と解答結果 第1問 「座る」という行為をめぐる高校生二人の平易な会話を通じて、古代から近代に至る基 本的な歴史知識を問うた。設問に、椅子・学校・紙といった受験者にとって身近なテーマを含 み、生活や習慣などを手掛かりに歴史を考察することを意図した。図版資料の読み取りにも留 意した。 問1 宋に渡り、帰国してから曹洞宗を創始した道元と、来日した外国人であるイエズス会宣 教師についての基礎的知識を問うた。 問2 椅子型埴輪の出土という会話文の内容を踏まえ、古墳からの出土資料に関して、基本的 な埋葬構造や副葬品の違いを理解しているかを問うた。古墳と出土遺物との関係が、曖昧に 認識される傾向があったようである。 問3 会話文の主題である「座る」という行為をもとに、中世~近代の「座る」姿を示す図像 資料について、資料の読み取りと文化史・政治史の幅広い知識を問うた。 問4 「座る」ことと学校との関係に言及した会話文を受け、近代学校教育(明治~昭和)の 制度・政策の展開に関する基礎的知識を問うたもの。学童疎開の開始を、アジア太平洋戦争 (太平洋戦争)開戦時とする誤解が多かったようである。 問5 「座る」姿勢が身体にもたらす影響についての会話文から、中世~近代の身体・医療に 関わる生活史・文化史の知識を問うた。 問6 大正期以降にビラやポスターが豊富に用いられたことを踏まえ、それが用いられた三つ の運動・政策の時期について正しい順序を問う。図版資料の読み取り能力と 20 世紀の社会 運動・政治史の基礎的知識を問うた。 ―49― 第2問 「古代の戦争と軍事制度」をテーマとし、弥生時代から平安時代中期までを範囲とする リード文A・Bを作成した。設問はテーマに関わる問題を中心に政治・社会・文化を含むよう にし、形式も多様性に富むように心掛けた。 問1 原始古代の日本に関わる記述を持つ中国・朝鮮の史料名を問うた。基本的史料というこ ともあって、解答は容易であったと思われる。 問2 弥生時代の代表的遺跡の場所を地図上で正しく理解しているかどうかを問うた。著名な 遺跡を取り上げたこともあって、解答は比較的容易であったと思われる。 問3 律令国家の形成期に当たる7世紀の政治・文化に関して、基本用語をその内容とともに 正しく理解できているかどうかを問うた。 問4 古代国家にとって重要な軍事的課題であった蝦夷との関係に関して、基本的な歴史の流 れを正しく理解できているかどうかを問うた。三つの文章の時代間隔がやや狭かったこと で、解答に悩んだ受験者もいたのではないかと思われる。 問5 律令国家の変容が顕著になる9世紀の政治・文化に関して、基本用語をその内容ともに 正しく理解できているかどうかを問うた。公営田の設置場所が正しく理解されていなかった ように思われる。 問6 武士が中央に進出する最初のきっかけとなった承平・天慶の乱に関して、その内容を正 しく理解できているかどうかを問うた。平将門が国司として派遣されたと誤って理解してい る受験者がいたものと思われる。 第3問 中世における諸勢力の成長や列島各地の動向に関する基本的内容を、幅広く問うことを 狙いとしている。リード文 A は中世国家の成立過程に関わる内容で、関連して政治・文化・ 社会に関する理解を問うている。関連してリード文 B は中世後期の文化の特色に関する記述 で、関連して文化、政治、経済に関する理解を問うている。 問1 院政期の政治と文化の関連についての理解を問う問題で、造営事業や内乱についての基 本事項を空欄補充形式で出題した。 問2 中世の土地制度、地方支配の展開過程についての理解を問う問題で、荘園整理令、大田 文、惣村の地下請という基本事項を問うているが、年代整序形式の出題のため、やや難易度 が高かったと思われる。 問3 中世の武家政治の展開や武士社会の特質についての理解を問う問題で、正答選択形式で ある。 問4 建武政権期の政治と文化についての理解を問う問題で、史料と連歌に関する基本事項を 空欄補充形式で出題した。 問5 中世における幕府の経済政策についての理解を問う問題で、基本事項を該当しない時期 の誤文を選択する形式で出題した。 問6 中世の為政者と芸能文化の関連ついての理解を問う問題で、正誤判定形式の出題である。 教育研究団体からは「政治・文化史両方の分野にまたがる良問である」という評価を受けた。 第4問 近世日本の文化・経済について述べた文章を掲げ、江戸時代の文化と経済に関する当時 の社会の在り方と幕府の政策に対する基本的な知識を問うことを目的に作成した。 リード文 A では、大坂夏の陣ののち、経済の中心地として復興した大坂に着目し、大坂で は経済力をつけた商人等が文化の担い手となったことを述べた。これを通じて、当時の文化や 幕府の政策に関する設問に導いた。 問1 江戸時代の文化を担った人物や施設・機関についての基本的な知識を問う問題。高橋至 時(正答)と大槻玄沢(誤答)の判別が難しかったようである。 ―50― 日本史A、日本史B 問2 元禄期に活動した文化人とその事績の組合せを問い、元禄文化の特色を理解できている かを問うた。 問3 寛政期における幕府の文化・経済政策について、正文を選択する問題。用語の暗記だけ ではなく、その内容も合わせて理解できていないと解けない設問である。 リード文 B では、近世後期の農学者大蔵永常の『広益国産考』を史料として取り上げ、そ れを軸に幕府の貨幣・経済政策に関する設問を導いた。 問4 幕府の代表的な貨幣政策の年代整序問題。いずれも重要な施策であるが、やや難易度が 高かったと思われる。 問5 大蔵永常『広益国産考』を読解し、その内容について述べた文章の正誤を問う問題で、 史料の読解力を問うた 問6 幕末の絵図史料を提示し、その内容の理解を問う問題。正答を導くには、ええじゃない かや五品江戸廻送令といった知識が必要である。 第5問 地域社会の様相の歴史的変化についての理解を問うことを意図し、明治期における電信の発 達に関するリード文を掲げ、官営とされた同事業の発達が、民間の積極的な関与や企業家精神 に支えられたものであったことを示しつつ、明治期の経済・社会・政治に関する基本的事項へ の理解を問うた。 問1 明治期の経済状況、産業に関する基本的事項を問う空欄補充問題である。社会経済史の 基礎的知識で解答可能である。 問2 明治期の社会・政治・経済・国際関係に関する基本的事項を問う正誤判定問題である。 問3 明治期の法整備に関する基本的事項を問う正文選択問題である。多面的な知識を問う問 題であったため、やや難易度が高かったかと思われる。 問4 明治期の産業化とその影響につき、地理情報と関連付けた理解を問う地図問題である。 高等学校教科担当教員からは「標準的な問題」との評価を受けているが、長崎造船所につい ての知識はやや難易度が高かったと思われる。 第6問 大正期から昭和期にかけての音楽をテーマに扱った文章を掲げ、当該期の社会・外交・ 文化に関する基本的事項について出題した。音楽という身近な生活文化を通して、文化が社会 や政治、国際社会との関係性の中で展開していることが分かる設問にした。 リード文 A は、第一次世界大戦後の都市化と大衆化の中で、大衆文化としての音楽の発展 過程を概括するとともに、欧米への留学・滞在からその文化を接収し、日本へ伝えた人々につ いて言及した。 問1 第一次世界大戦後の外交に関する出来事の年代を問う設問。それぞれ基本的な事項であ るが、受験者の知識は不十分だったようである。 問2 大正期の女性及び文化について、基礎的な事項の理解を問う設問。教科書でもよく見ら れる図版でもあり、解答は容易だったと思われる。 問3 大衆文化を担った文化人について、作品名と単純に結び付けるのではなく、経歴・業績 全般にわたる基礎的な知識を問うた。 リード文 B は、戦時体制が進行する過程で、総力戦体制の厚生運動として音楽が利用され る側面、メディアの中で音楽が国家総動員に利用される側面に言及した。 問4 平時と戦時の男女別有業者人口を比較した表を読み取らせ、戦時体制が国民に及ぼした 影響を理解する設問。表から読み取れる内容と、戦時下の産業に関する知識とを組み合わせ れば、解答はさほど困難ではなかったと思われる。 ―51― 問5 戦時下の国民生活について、基礎的な事項の理解を問う設問。解答には占領期に関する 知識も求められる。 リード文 C は、占領軍による民主化の中で、大衆文化が復興し、大衆的な音楽が誕生する 過程を概観し、当時の政治や社会運動と強く結び付いていた、「うたごえ運動」についても 言及した。 問6 敗戦後の文化、政党について、基礎的な事項の理解を問う設問。誤答の選択肢が敗戦後 のものではないことはあまりにも明白であり、解答は容易だったと思われる。 問7 占領期の政治状況について、基礎的な事項の理解を問う設問。 問8 敗戦後の外交について、特にアメリカとの関係についての基本的事項の理解を問う設問 であるが、受験者の理解は必ずしも十分ではなかったと思われる。 3 出題に対する反響・意見についての見解 高等学校教科担当教員からは、基本的な事項・事柄について問う問題が多く、一見難しそうに見 える設問にも、リード文や設問文に正答を導くための配慮がなされていると評価された。 また、「時代ごとに区切らない主題を設定し追究する学習」に関わる工夫された出題が高く評価 され、身近な事象から歴史を考察させる授業と通底していて、重要だと判断された。こうした工夫 は出題を練る中で生まれるもので、今後とも部会として努力していきたい。 教育研究団体からは、時代に偏りがなく、近現代史からの出題比率も妥当であると評価され、出 題形式でも、史資料を活用した問題が多く、歴史を多面的に考察するという観点から評価できる、 との評価を受けた。 次年度以降は、上記の意見を踏まえ、難易度について一層の配慮をして平均点が上がるように努 めるとともに、これまで同様、史料・グラフ・地図・図版などを用いて「歴史的思考力」を総合的 に問う良問の作成に、一層の努力をしていきたい。 4 今後の問題作成に当たっての留意点 本部会は、作問上の留意点として以下の4点を挙げてきた。 ① 高等学校教育の範囲と水準を逸脱することなく、平均点を上げるため、標準的な問題を作成 するように一層心掛ける。 ② 高校現場での授業に配慮する。 ③ 問題領域や設問形式のバランスや文字資料・地図・表・グラフの適切な使用に留意しつつ、 「歴史的思考力」を問う問題を多く出題するように工夫する。 ④ 「日本史 B」との共通問題の難易度について更に配慮する。 今後もこれらの諸点に一層留意するとともに、難度が上がったと評価された点があるので、今回 の御指摘を踏まえて、問題作成を行いたい。 ―52―
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