『アフリカの農村開発プロジェクトの成功要因についての一考察 – ザンビアの参加型農村開発プロジェクトの成功要因にかかる調査から-』* 執筆者: 三好崇弘 *引用・転載は自由ですが、三好までご連絡ください。 [email protected] 1. 問題の所在 (1) アフリカの農村開発の課題 アフリカ諸国の発展は、途上国援助の最大の課題となっている。2015 年に向けたミレニアム開発目標で、貧困人口の半減や教育・保健の機会の拡 大を目指したが、折り返し地点を超えた段階の評価では、アジアや太平洋諸 国が飛躍的に改善をする中で、アフリカ、特にサハラ以南のアフリカ諸国の 多くは、目標値の達成が絶望視されている(1)。 その改善が大きく遅れている最大の理由として、アフリカ各国が抱える 農村人口の貧困が改善されていないことがあげられよう(2)。アフリカ各国は、 広大な国土に多くの農村人口をもち、その多くが教育や保健など政府からの サービスを十分に受けられず、また市場からも遠いために農業収入も低い状 態にある。 この問題を解決するために多くのドナーが農村開発への援助を続けて きた。60 年代から 80 年代までは大規模な灌漑施設やインフラ整備を中心に した援助が中心であったが、環境への影響やまたプロジェクト自体が住民の ニーズや能力と合致していないという批判やプロジェクト自体の持続性の 欠如があり(3)、その後「住民参加型」や「ローカルな適正技術」といった小 規模な参加型の支援(プロジェクト)が中心となっている。この住民参加に よる小規模の支援という概念については、批判がまったくないわけではない (4)が、現在のところアフリカの農村開発を進めるうえでの有力な方向性とな っている(5)。 一方で、住民参加型の小規模プロジェクトであれば常に成功するという わけではないことは想像に難くない。同じ住民参加型のアプローチを使った としても、さまざまな諸条件によって、その成否は影響を受けることは、多 くの参加型の農村開発のプロジェクトの評価においても指摘されていると ころである(6)。アフリカの農村開発プロジェクトにおける成功要因とは何か、 それは人為的にコントロールできるものなのか。農村開発において What(何 を行うか)よりも、how(どう行うか)が、つまりマネジメント上の課題に 視点が移ってきている(7)。 1 (2) 成功要因の把握の重要性 特に農村において住民参加型のプロジェクトを実施する場合、リスクは 通常よりも多いと考えられる。実施者は農民であり、通常はマネジメントの 訓練を受けているわけではない。またコミュニティーとしての人間関係や権 力構造なども影響してくるだろう。これらの内部的な条件だけでなく、農村 を取り巻く過酷な自然環境や政府のサービスや市場から遠いという外部環 境からも影響を受けることになる。このような過酷な条件の中で、何が成功 をもたらす要因となるのか、それを把握することは、住民参加型で農村開発 を行う際の緊急の課題といえよう。 しかし、現在のところ、途上国における農村開発プロジェクトの成功要 因についての研究は、一般のプロジェクトの成功要因の先行研究に比べると 数も少なく、また、個別のケーススタディに終始しているものが多く、質量 ともに拡充が必要である。 さらに成功要因が抽出されたとしても、それが実際の農村開発プロジェ クトを実施する上でどのような意味を持ち、具体的にどのようにしてプロジ ェクトを成功させていくのかということを示すことも重要である。 (3) 本論文の構成と狙い 本論文は、ザンビアで同一のアプローチで実施された 40 の住民参加型 農村開発プロジェクトの成功要因について横断的な調査を行い、その分析を 通じて、ザンビアのみならずアフリカで農村開発プロジェクトを成功させる ための具体的な教訓について明らかにすることを目的とする。 後に続く 2 節においては、先行研究について概観し、先行研究の抱える 問題点を指摘し、本論文が乗り越えるべき研究課題を整理する。3 節におい ては、ザンビアで実施されている「孤立地域参加型村落開発プロジェクト」 が支援している農村開発プロジェクトの 40 のプロジェクトに対する成功要 因についての調査結果について述べる。4 節においては、同調査の結果を多 面的に分析する。5 節においては、これまでの分析結果から得られた結論及 び農村開発プロジェクトへの教訓を明らかにする。 2. 先行研究 (1) 一般的なプロジェクトの成功要因についての諸研究 住民参加型農村開発プロジェクトの成功要因を考えるにあたり、先行研 究として最も充実しているのが、一般的なプロジェクトの成功要因に関する 諸研究である。プロジェクトマネジメントの分野では、この成功要因に関す 2 る研究は 1960 年代から活発に行われている(8)。80 年代になり、Pinto(9)らに よる一連の成功要因に関する研究が活発化するにつれ、さまざまなプロジェ ク ト の 成 功 要 因が 明ら か に な っ た 。そ の中 で も 代 表 的 なも のと し て 、 Pinto&Slevin(1987)は、成功要因として、 「トップマネジメントの支援」 「顧 客との相談」 「人員雇用」 「技術」 「顧客の許容度」 「モニタリングとフィード バック」 「コミュニケーション」 「問題解決」 「チームリーダーの性格」 「政治」 「環境」「緊急度」をあげている。これ以外にも多くの成功要因についての 研究(10)が基礎となり、プロジェクトマネジメントの分野では、PMBOK や APMBOK といった具体的なガイドラインの発展につながっている(11)。 一方で、プロジェクトの成功要因についての諸研究を批判的に概観した Belassi&Tukel(1997)によれば、成功要因についての研究は豊富であるが、 調査対象によって結論が大きくかわることもあり、一貫性を見出すことはで きないとしている(12)。それを克服するために、同じく、プロジェクトの成功 と成功要因の研究を概観した Jugdev & Muller (2005)によれば、プロジェク トの「成功」の定義が時代とともに変更されるようになり、その影響を受け て成功要因も変化していると指摘する。1970 年以前は、プロジェクトの成 功 と い え ば 「 Scope 、 Time 、 Cost 」 と い う 「 Iron-Triangle 」 ま た は 「Golden-Triangle」とよばれる伝統的なマネジメント上の成功であったも のが、その後プロジェクトから生み出される成果の「質」(Quality)の問題と なり、それが発展し「顧客の満足度」、そして今ではプロジェクトが与える より大きな「戦略上のインパクト」や「母体組織へのインパクト」にまで発 展している。その発展の中で、プロジェクトの成功要因も、伝統的なマネジ メントツールやプロジェクトマネージャーの資質といった視点から、コミュ ニケーションや関係者との関係づくり、トップマネジメントの支援といった 「ソフト」な分野に視点が広がってきている。 ソフトな分野に視点が広がってきているとはいえ、一般的なプロジェク トマネジメントの基本的な考えとしては、プロジェクトの成功要因の基本は Iron-Triangle(スコープ、タイム、コスト)の管理に関連するものであり、そ の上にコミュニケーションや関係づくりといったソフトな領域が重なって いる。(13) (2) アフリカにおける開発プロジェクトの成功要因についての諸研究 上記の一般的なプロジェクトマネジメントの成功要因に関する諸研究 では、その前提として、プロジェクトはすべて独立したものとはいえ、基本 的な概念や有効な要因やツールは普遍であるという考え方がある。よって、 まったく違ったプロジェクトや事例であっても、成功要因に関する諸研究が 3 同じ土俵で議論を重ねることができている。 しかし、アフリカにおける開発プロジェクトの多くが失敗しているとい う状況から、はたしてそのような普遍的なプロジェクトマネジメントの考え 方が正しいのかという疑問が提示された。ここでは、アフリカの特殊性とい う視点から、プロジェクトの成功要因についての諸研究を再考する。 Muriithi&Crawford(2003)は、西洋的な考え方が基礎となっているプロ ジェクトマネジメントが、アフリカでの国際開発プロジェクトに適用できな いことをウガンダ及びケニアの事例や既存の研究を活用して証明し、アフリ カの文化に合わせたマネジメントを説いた。具体的には、プロジェクトマネ ージャーの持つべき資質や技能として、政治家との関係づくりや、チームメ ンバーの家族への便益を考えたマネジメント、より多くの参加による計画プ ロセスなどをあげており、一般的なプロジェクトマネジメントの視点からみ れば、非合理に見えるマネジメントを提唱している。この非西洋的な視点と してのアフリカのマネジメント環境については、80 年代より、Dia(14)、など のアフリカのマネジメント研究が進んでおり、各論者がアフリカにおける西 洋的なマネジメントの非有効性を指摘している(15)。 一方で、興味深いことに、最近、アフリカ地域発の「アフリカ」と題し たマネジメントの実用書が多く発行されている。その内容は、アフリカ独自 のマネジメントというよりも、西洋的な基本的マネジメントを紹介している も の が 多 い 。 ( 16 ) 特 に 、 ア フ リ カ 地 域 出 身 の マ ネ ジ メ ン ト 研 究 者 た ち ( Waiguchu, Tiagha & Mwaura[1999] ) に よ る ”Management of Organizations in Africa”の中では、アフリカ各国が類似の文化を共有し課題 も多いことは認めながらも、「マネジメントの基本のアフリカへの適用は可 能であり、(中略)マネジメントの一般適用性を信条とすることから、マネ ジメントスキルの一方から他方への転用は可能である。」としている。その 著作の中では、アフリカ独自のマネジメントを求めるよりも、西洋的な合理 的マネジメントを紹介している。(17) Muriithi&Crawford(2003)のように、アフリカを「特殊」とみながら、 アフリカ独自のマネジメントを主張する研究者がおもに非アフリカ地域(欧 米諸国)の出身である一方で、アフリカの特殊性は認めながらもあえて前者が 否定する西洋的マネジメントを推奨するのがアフリカ地域出身の研究者で あるという、複雑な理論上(というよりもイデオロギー上のといったほうが良 いかもしれない)の対立構造が見えてくる(18)。これらの先行研究の多くでは データによる裏付けがなされずに議論がなされているため、このような対立 構造が解消されることはない。よって重要なのは事実及び数字に基づいた研 究であろう。 4 その意味で重要な研究として、Diallo&Thuillier(2004)があげられる。 同論文は、アフリカ地域における国際開発プロジェクトの現地のプロジェク トコーディネーター(プロジェクトマネージャー、実施責任者と同義)への 質問票調査(有効回答 93 名分)から、彼らが思い描くプロジェクトの成功 の概念を整理し、また彼らからみた母体組織の担当者、相手国の責任者、チ ームメンバー、受益者といった関係者(ステークホルダー)の成功の概念と のギャップについて分析した。その結果、各関係者グループごとに、成功概 念に関するギャップがあることを指摘し、それを克服するためには、各関係 者間でのコミュニケーションがもっとも重視されるものだと主張した。続く 研究では(Diallo&Thuillier(2005))、プロジェクトの成功要因としてのステー クホルダー間の信頼とコミュニケーションについて注目し、要因分析を通じ て、成功要因を抽出した。結論として、アフリカにおける国際開発プロジェ クトの成功要因としては、プロジェクトコーディネーターと母体組織の担当 者(タスクマネージャー)との信頼関係が最も重要であり、続いてチームメ ンバー内及びプロジェクトコーディネーターとの関係が重要であると証明 した。 三好(2008)においては、ザンビアにおける 5 つの国際開発プロジェクト の関係者(日本人専門家とザンビア人のカウンターパート)を対象に、プロジ ェクトの成功と成功要因に関する意識調査が実施された。そこでも、上記と 同様の結果、つまり、プロジェクトの関係者グループ間、特に国籍間(ここで はザンビア人と日本人)での成功及び成功要因に関する考え方の違いが浮き 彫りにされており、そのためにも相互理解を進める必要性が述べられている。 このように数は少ないが、データに基づくアフリカにおけるプロジェク トの成功要因に関する諸研究からは、アフリカの特殊性というものが理由で あるという結果はでておらず、それよりもステークホルダー間の交流や相互 理解が第一に必要であるという結果が出てきている。(19) (3) アフリカにおける農村開発プロジェクトの成功要因の先行研究 アフリカの開発プロジェクトでも、特に現場レベルにおける農村開発プ ロジェクトの成功要因を数値的にかつ包括的に研究した先行研究について はまだ確認されていない。参考となりえるのは、各ドナーによる農村開発プ ロジェクトの評価報告書の類である。ただし、これらの多くは要約にとどま り、詳細までは公開されておらず、またそもそもプロジェクトの正当性を証 明するために作成されたものも多く、学術的に議論するには至っていない。 また、アフリカに限らずにアジアでの農村開発プロジェクトの事例につ いても、ひとつの事例を丹念に追ったものはいつくか見受けられ、小国(2006) 5 などプロジェクト・エスノグラフィとしては高く評価されるものもある一方 で、それらは一事例にもとづいたものであり、その中から成功要因として抽 出するのは無理がある。 このように、途上国の農村開発プロジェクトの成功要因の学術的な研究 が少ない理由として、同じく国際開発プロジェクトのマネジメントの研究を 行った Khang&Moe(2006)(20)によれば、「社会開発など目標がはっきりしな い、計測できないものが多い。(中略)・・はっきりしないので、主観にとら われ、投入量や活動を計測して成功したとしている。」、「多くの関係者が複 雑にかかわっており、それぞれが違う考えを持っている。」、そして「マーケ ットのプレッシャーがなく、有効性の有無にかかわらず、プロジェクトが漫 然と続けられることも多い。」といった状況を指摘している。 (4) 先行研究から見えてくる課題 アフリカの農村開発プロジェクトの成功要因を考える上で、先行研究か ら見えてくる課題として、以下が指摘されるであろう。 ひとつは、ソフトな領域の成功要因の扱い方である。一般的なプロジェ クトマネジメントの研究でも、アフリカの開発プロジェクトに特化した研究 でも、「関係者間の交流」「信頼関係」といったいわゆるソフトな領域につい ての重要性が指摘されている。しかし、一般的なプロジェクトマネジメント においては、ソフト分野は「副次的」なものであり、主要因はタイム・マネ ジメントやコスト・マネジメントといったオーソドックスなものである(ここ ではソフトに対して「ハードな領域」と呼ぶことにする)。一方で、アフリカ の特殊性を意識したマネジメント研究では、そういったハードな領域(オーソ ドックスなマネジメント)を、「西洋的」として根底から否定しているものも 見受けられ、主張されるのはいわゆるソフトな領域が主となるマネジメント である。はたして、このソフトな領域のものは、主となるものなのか、副と なるものなのか。 二つ目は、このソフトな領域とハードな領域との関係性である。ソフト な領域が重要である、または反対のハードな領域が重要であるという結論と なったとしても、「ソフトかハードか」という二者択一の勝ち負けを決めた ところで、実践に結びつかない。その両者が主・副としてどのような関係性 にあるかを構造化して、具体的にそれをどう実践していくべきなのか、とい う示唆をしないかぎり、研究のための研究に終始してしまう。 三つ目の課題としては、そもそもの研究および報告書の数の少なさであ る。アフリカの農村開発がミレニアム開発目標の達成に必要不可欠といわれ ているにも関わらず、投資額やインパクトレベルの評価についての議論があ 6 る一方で、一つ一つのプロジェクトについての成功要因を総合的にかつ数値 的に評価したものはない。一般的な民間主導型のプロジェクトマネジメント の分野では豊富な研究がなされ、日々マネジメントのあり方について研究が 進む一方で、アフリカの農村開発ひいては国際開発プロジェクトの成功要因 については研究そのものの絶対数が少ないという事態は、今後の国際開発の 将来を考える上で根本的な課題となる。 議論を有効に積み重ねるためにも、本論文のようなアフリカにおけるプ ロジェクトマネジメントに関する学術的な調査を蓄積することが必要とな る。 3. 調査 (1) PaViDIA アプローチ 上述した課題に応えるためには、ひとつの事例ではなく、複数の事例か らサンプルを採ることが望ましい。その条件を満たしている事例(21)のひとつ として、ザンビアの 170 の村で実施されている、PaViDIA アプローチによ る農村開発プロジェクトがあげられる。以下、PaViDIA アプローチについて 簡単な説明を行う。 PaViDIA(パビィディアと発音)は Participatory Village Development in Isolated Areas の略である。その言葉が表すように、「孤立地域(Isolated Areas) 」 に 暮 ら す 人 々 の 住 む 「 村 (village) 」 を 対 象 に 、 そ の 「 開 発 (Development)」を村民及び関係者の「参加(Participatory)」で進めるとい う概念(考え方)である。 具体的な手法として、 「マイクロ・プロジェクト」という村落における小 規模事業を、農業・協同組合省(以下、農業省)の普及員の指導の下に村民全 員の参加により実施する。その経験から村の課題解決能力(Capacity)を強化 し、最終的には自立的な村(及び村民)を育成することを目的としている。 PaViDIA アプローチとは、PaViDIA という概念を「マイクロ・プロジェ クト」という具体的なツールを通して実施するための具体的な方法(手法)や 組織体制について纏めたものである。 PaViDIA アプローチを一連のプロセスとして説明すると以下のように なる。 7 図1 PaViDIA アプローチの実施サイクル ステップ 期間月 1 年目 2 年目 3 年目 1. 計画フェーズ (ア) 対象郡職員・普及員の研修 (イ) 対象村の選択 1.0 (研修日数は 7 日) 0.5-1.0 (ウ) 村ワークショップの実施 1.0 (エ) プロポーザル作成・選定 1.0-2.0 (実質日数は 3 日) 2. 実施フェーズ (ア) 村の準備 1.0-2.0 (イ) 事業の実施 12.0 (ウ) 継続・活用のための支援 24.0 3. 展開フェーズ (ア) 参加型評価 0.5 (イ) 再投資 12.0- (ウ) 通常普及業務への移行 12.0- (出所) 著者作成 マイクロ・プロジェクトは、村人が参加型で行う村の総合開発事業であ り、通常は 3~4 つの小規模事業で実施される。具体例としては、牛耕用の 牛の貸出事業、主食トウモロコシの製粉機事業、養鶏やヤギ等の小規模畜産 などがあげられる(22)。 マイクロ・プロジェクトの事業内容は多様であるが、マイクロ・プロジ ェクトの成功概念は 3 つのレベルに整理できる。一つ目はプロジェクトとし ての成功である。例えば製粉機事業であれば、製粉機の使用料を徴収して、 それを貯蓄することであり、養鶏やヤギであれば、その鶏やヤギの数を増や し、市場に売り、売上を貯蓄することである。その貯蓄が増えることで、プ ロジェクト規模を拡大したり、違う事業に投資したりすることでプロジェク トとして、継続していくことにある。二つ目は、住民への便益からみた成功 である。例えば製粉機事業では、製粉機が近くにできることで、労働負担(特 に女性や若年層(23))が減少し、その分他の活動に使うことができる。またヤ ギや養鶏であれば、同事業に参加することで、ヤギや鶏を参加者への便益と してもらうこともできる。また、事業収入からの貯蓄からマイクロ・クレジ ットが実施されることもある。三つ目は、住民の能力強化(キャパシティーデ ベロップメント)としての成功である。マイクロ・プロジェクトの経営を住民 自ら経験することにより、事業経営や経理などの実務能力を実施委員会のメ 8 後 ンバーはつけることができるし、住民が労働提供することは無償なので、村 の中で住民が協力するという経験を繰り返すことで、 「村(ムラ)」としての課 題達成能力も培うことができる。 マイクロ・プロジェクトはこのような多層にわたる成功概念を有してお り、実際は、すべてのレベルで成功または失敗するというものではなく、あ るレベルでは成功といえるが、ある部分では失敗であり、また時期によって その状況が大きく変化する。(24) この PaViDIA アプローチは、2002 年 6 月から JICA 支援でザンビアの 農業協同組合省により実施された「孤立地域参加型村落開発プロジェクト」 (通称: PaViDIA プロジェクト)により開発され、現在、ザンビアの約 170 村(対 象人口約 13 万人弱)において、マイクロ・プロジェクトが実施されている。 対象となる村は、基本的に同じ実施サイクルに基づいて、マイクロ・プ ロジェクトを実施している(25)。ほぼ同じ条件で同じアプローチで実施されて いるにも関わらず、下記に見えるように、いわゆるプロジェクトレベルの成 功の指標となる「財務状況」だけをみても、各村の達成度はばらばらである。 図2 3500 マイクロ・プロジェクトの各村の貯蓄額(チョングェ 2008 年 6 月) マイクロ・プロジェクトの各村の貯蓄額 USD 3000 2500 2000 1500 Saving 1000 500 Year of Micro Project Implementation (マイクロ・プロジェクト開始年) (出所) 著者作成 9 2004 2006 2005 2005 2004 2006 2005 2004 2005 2005 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2005 2005 2005 2005 2005 2005 2004 2005 2004 2004 2004 2005 2005 0 上記の図にあるのは、同地域(ザンビア国ルサカ州チョングェ郡の農村地 域)において同じ投資条件(一農家あたり 100 ドル、つまり 100 農家で 100 万 円の投資額)で、同じアプローチでマイクロ・プロジェクトを実施したにも関 わらず、このような違いがでてくるのはなぜだろうか。 この答えに答えるために PaViDIA プロジェクトでは、選んだ事業の違 い、民族・言語集団の違い、農家数の違い、村の数(合併村か単独村か)、な ど主に顕在的条件(外部者が認識できる条件)について調査を実施したが、こ れといった決定的な成功要因をみいだすことはできなかった(26)。 一方で、プロジェクトを実施する日本人専門家やザンビア人のプロジェ クトメンバーからは、関わる村民のリーダーたちの資質や村民との関係、さ らに農業普及員の関わりなど、顕在化していない要因がマイクロ・プロジェ クトの成功に影響を与えることは経験から実感していた(27)。 今回の調査では、これらの実施者の声を参考に、また前述の先行研究の 課題を鑑み、調査方法を下記に示すように「事前調査ワークショップ」と「ア ンケート調査」に分け、成功要因を多様な視点から把握できるようにした。 (2) 調査の方法 マイクロ・プロジェクトの成功要因を抽出するために、本調査では一般 のプロジェクトマネジメント研究で使われる、複数のプロジェクト実施者を 対象としたアンケート調査を実施した。 アンケート調査の場合、調査票の設問が非常に重要である。先行研究の 結果やプロジェクトに関わった日本人関係者の声も参考にした結果、通常の 成功要因のリストをそのまま並べるだけでは、ザンビアの村民が感じている 成功要因を見過ごす危険性もあると考えられた。 よって、アンケートの設問を考えるための先行調査として、マイクロ・ プロジェクトを実施している村から 3 つの村(チョングェ郡)を抽出し、村ご とに、マイクロ・プロジェクトの実施委員会のメンバー及びプロジェクトを 良く知る関係者(28)約 15 名を対象に、マイクロ・プロジェクトの成功要因に ついてのワークショップを実施した。 ワークショップでは、マイクロ・プロジェクトの成功要因を自由に議論 してもらい、その中から特に重要と思われるものをカードに書いてもらい、 それを前面に張り出して、さらに重要性について高いものは上に低いものは 下にという価値づけをしてもらった。 その結果、先行研究で指摘されているように、村民が考えるマイクロ・ プロジェクトの成功要因(29)は、「共同の精神」とか「村民間の愛」などのソ フトな要因の比重が大きいことが見受けられた。 10 図 3(1) 村民への事前ワークショップ結果の一例 (出所) 著者作成 図 3(2) 村民への事前ワークショップの様子 (出所) 著者撮影 11 この結果を受けて、成功要因のリストアップを行った。その結果、一般 的なプロジェクトマネジメントの先行研究では定番の「計画」 「ミッション」 「コントロール」 「リスクマネジメント」などのハードな成功要因よりも、 「人 間関係」「リーダーシップ」などのソフトな成功要因の枠を広げることとな った。 マイクロ・プロジェクトの成功要因の候補リストは以下のとおりである。 表1 マイクロ・プロジェクトの成功要因のリスト カテゴリー 要因 人間的要素/良い関係/信頼 参加/ 村民の取り込み SOFT FACTOR 規律/ ルール/ 規範 (ソフト要因) チームワーク/ 共同作業 リーダーシップ/ リーダー間の関係 ミッション/ 計画 管理/ 文書化による管理 HARD FACTOR 資源/ 予算 (ハード要因) アカウンタビリティ/ 透明性 情報 /関係者の情報交換 農業普及員(CEO)による支援 EXTERNAL FACTOR 郡農業職員による支援 (外部要因 1) その他外部組織による支援 自然環境 (外部要因 2) 社会・経済環境 コード* Human Factor (S) Participation (S) Discipline (S) Team Work (S) Leadership (S) Mission/Plan (H) Control/Document (H) Resource (H) Accountability (H) Info./Communication (H) CEO Support (E) District Support (E) Other Support (E) Natural Environment (E) Socio-Economic (E) (出所) 著者作成 *注: コードは、後述する分析の各グラフで共通で使用される。S、H、E は、各要因がどのカテゴリー(ソ フト要因、ハード要因、外部要因)に属するかを示している。 成功要因を大きく「ソフト要因」、 「ハード要因」そして「外部要因」に 分けた。ソフト要因とは、人間的な関係や、住民参加度、リーダーシップな ど、具体的または数値的にとらえられず、またツールとしても教えることの できない部分を示している。一方のハード要因とは、ソフト要因に対応する 概念であり、オーソドックスなプロジェクトマネジメントの教科書で各種ツ ールで教えられるようなものであり、具体的なものである。外部要因は、外 部の組織や人による支援というものと、もうひとつは自然や社会状況といっ た環境に分けられている。 12 アンケートでは、これらの要因(Factor)をさらに各 3 つの具体的なス テートメント(文章)に記述し、全部で 45 のステートメントがリストアッ プされた。そして、アンケートで恣意的な操作ができないように、それらを ランダムに配置した。 回答者はその一つ一つのステートメントに関して、マイクロ・プロジェ クトの成功(30)におけるその重要性を「Very」「Fair」「Little」「None」から 選択して評価する。さらに、すべてに「Very」をつけてしまい、差が見えな い危惧があるため、設問の最後に 45 のステートメント(文章)の中から、 最も重要と思われるステートメントを重要性の高いものから 5 つ選んでもら った。言い換えれば、最初の評価は個々の文章及び要因についての絶対評価 (absolute evaluation)であり、最後の選択は 5 つを強制的に選ばせるために、 結果的に相対評価(comparative evaluation)となる。このような二つの側面 から評価をすることで、より深い評価ができる。 調査対象は、PaViDIA のマイクロ・プロジェクトを実施した 40 村の村 (ルサカ州及び北部州)の村人及び関係者である。まず、プロジェクト実施者 として村人、特に村におけるマイクロ・プロジェクトの実施委員会のメンバ ー(31)である。さらに村民の実施委員会を技術的にさらにマネジメント部分で も補佐する役目である「農業普及員(32)」もプロジェクト実施者の一人として 考えられる。さらに農業普及員の直接的な上司であり、かつ各マイクロ・プ ロジェクトを横断的に監督する役目を負う「郡レベルの農業省職員」につい ても調査対象とした。 調査票は英語であり、また村人によっては識字率が低いこともあるため、 調査員が一つ一つインタビューしながら、調査票を記入する必要がある。さ らに PaViDIA のマイクロ・プロジェクトについて、十分な理解がないと、 アンケートでも違うイメージで答えてしまう危惧があったため、調査員は、 現地の言語を操れ、かつ PaViDIA の知識も豊富な農業普及員を活用した。 ただし、アンケート内容によっては、普及員に関連することもあるため、調 査地は、自分の普及サービスの対象村ではない、違う村に行って調査をして もらった。 (3) 調査のサンプル数 アンケートの結果、合計で 227 のアンケート用紙が回収された。その内、 村人は 200 名(1 村 5 名のサンプルで、全部で 40 村)であり、その他の関 係者は 27 名である。回答者の多くが男性になっているが、それはプロジェ クト実施委員会のメンバーの構成率が男性が多いためである。(33) 13 表2 カテゴリー 調査のサンプル数 役職 男性 中央委員長 中央書記長 中央会計係 副中央委員長 村人(プロジェク 副中央書記長 ト委員会メン 副中央会計係 バー) 委員 実施委員長 副実施委員長 副実施会計係 管財人 村長(女性) 村人 (一般) 副村長 キャンプレベル普及員 ブロックレベル普及員 郡農業職員 農業省 郡上級農業官 郡農業調整官 州上級農業官 農業研修学校校長 合計 女性 27 30 13 17 4 1 9 7 2 20 19 1 10 2 3 4 2 1 1 173 合計 1 2 17 5 5 2 4 1 7 6 4 54 28 32 30 22 4 1 14 9 6 小計 1 147 27 25 小計 1 53 14 2 3 4 2 1 小計 1 27 227 (出所) 著者作成 回答者はすべてマイクロ・プロジェクトについての知識を有しており、 また一般の村人といっても、村長やプロジェクトの管財人(Trustee)であ り、プロジェクト委員会のメンバー同様にマイクロ・プロジェクトについて の相当の知識を持っている関係者である。 14 4. 結果の分析 (1) 絶対評価による分析 マイクロ・プロジェクトの成功要因の各ステートメントについて、数値 化を行った。数値化は「Very」は 5 点、「Fair」は 3 点、「Little」は 1 点、 「None」は 0 点とし、その総合点(3 つのステートメント文章の点の合計) を出した。数式で示すと以下のようになる。 絶対評価: 各項目の総合点 = 文章 1 の点+文章 2 の点+文章 3 の点 この総合点の平均をとり、グラフ化して得点の高い順で並び変えたもの を以下の図に示す。 最も得点の高いものは、「農業普及員からの支援」であり、続いて「ミ ッション/計画」、「管理/文書化」、「情報の共有」、「アカウンタビリティ」と 続いている。驚かされるのは、最上位(農業普及員からの支援)以外の要因 は、いわゆるプロジェクトマネジメントで基本とされる要因で、本論文では ハード要因とカテゴリー化されたものが並んでいることである。事前の村人 とのワークショップでは成功要因の上位にならんでいた「人間関係」や「チ ームワーク」、 「リーダーシップ」等のソフト要因は、明らかにハード要因と 比較すると下になっており、事前ワークショップとはまったく逆転した状態 となっている。 なぜこのような逆転現象が起きるのか。その理由として、このアンケー トが各要因の絶対評価であるということがある。当初、危惧されたように、 アンケートの中には、すべての要因に「とても重要である」という評価をし たものも散見された。この場合に、回答者は必ずしも適当に答えているわけ ではなく、成功のためにはすべての条件がそろっていたほうがいないより良 い、と考えることもできる。つまり、個々の要因の絶対評価の場合では、 「な いよりもあったほうがよい」とすべての要因について肯定的な評価をするこ ともできる。その結果、ランキングといっても、それぞれの得点の差はあま りない。 15 図4 マイクロ・プロジェクトの成功要因(絶対評価) マイクロ・プロジェクトの成功要因 (絶対評価) CEO Support (E) Mission/Plan (H) Control/Document (H) Info./Communication (H) Acountability (H) Leadership (S) Team Work (S) Participation (S) District Support (E) Human Factor (S) Discipline/ Rule (S) Natural Envionment (E) Resource/Input (H) Other Support (E) Socio-Economic (E) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 (出所) 著者作成 さらに詳しく見るために、各回答者を 4 つのカテゴリー(プロジェクト 委員会の村人、それ以外の村人、農業普及員、郡・州農業職員)に分けて、 同様のランキングを行ったのが、次の図である。 郡・州農業職員以外のすべてのグループで、「農業普及員からの支援」 が最も上位にきている。郡・州農業職員は「ミッション/計画」がもっとも上 位にきているが、わずかな得点差で次点に「農業普及員からの支援」がきて いる。結果的に、各グループ別にみても、若干の差はあるものの、事前ワー クショップでは上位でなかったハード要因が、ソフト要因よりも高く評価さ れている。細かいところで見れば、プロジェクトの直接的な実施者であるプ ロジェクト委員会のグループが、二番目に重要視している要因が「管理/文書 化による管理」である一方で、一般村人にとっては二番目には「情報共有」 としているという差がある。 16 図5 マイクロ・プロジェクの成功要因(絶対評価: プロジェクト委員会 グループ別) 村人一般 CEO Support (E) Control/Document (H) Mission/Plan (H) Info./Communication (H) Acountability (H) Leadership (S) Team Work (S) Participation (S) District Support (E) Human Factor (S) Discipline/ Rule (S) Natural Envionment (E) Resource/Input (H) Other Support (E) Socio-Economic (E) CEO Support (E) Info./Communication (H) Mission/Plan (H) Control/Document (H) Leadership (S) Team Work (S) Acountability (H) Participation (S) Discipline/ Rule (S) Human Factor (S) District Support (E) Natural Envionment (E) Resource/Input (H) Other Support (E) Socio-Economic (E) 0 5 10 15 0 農業普及員 5 10 15 10 15 郡・州農業職員 CEO Support (E) Mission/Plan (H) Info./Communication (H) Control/Document (H) Acountability (H) Team Work (S) Participation (S) Natural Envionment (E) Leadership (S) Discipline/ Rule (S) Other Support (E) Human Factor (S) District Support (E) Resource/Input (H) Socio-Economic (E) Mission/Plan (H) CEO Support (E) Info./Communication (H) Acountability (H) Leadership (S) Participation (S) Team Work (S) District Support (E) Natural Envionment (E) Socio-Economic (E) Control/Document (H) Resource/Input (H) Discipline/ Rule (S) Human Factor (S) Other Support (E) 0 5 10 15 0 (出所) 著者作成 17 5 (2) 相対評価による分析 次に 45 の成功要因に関わるステートメントから、最も重要と思われる ものを 5 つ選び、順位付けをしてもらった。45 ある要因の中から 5 つを選 ばなければならないことから、回答者は相対的にどの要因が最も重要かとい うことを評価しなければならない。 その結果について、第一位から第五位まで、それぞれ 5 点から 1 点の点 数をつけて数値化し、その合計点をグラフ集計し、ランキングしたのが、以 下の図である。 図6 マイクロ・プロジェクトの成功要因(相対評価) マイクロ・プロジェクトの成功要因 ( 相対評価) 相対 評価) Other Support (E) Leadership (S) CEO Support (E) Team Work (S) Acountability (H) Mission/Plan (H) Human Factor (S) Info./Communication (H) Participation (S) District Support (E) Control/Document (H) Discipline (S) Resource (H) Natural Envionment (E) Socio-Economic (E) 0 50 100 150 (出所) 著者作成 18 200 250 300 350 400 450 500 一番目に選ばれたのは、 「その他の支援」である。これは、一見 奇異にみえるが、「その他の支援」の 3 つのステートメント(文章)の一つ に「国際協力機構(JICA)からの支援」というものがあるためである。事実、 その他の支援組織として、NGO や国家組織についても聞いているが、その ステートメントを選ぶものはほとんどおらず、JICA の支援に集中している。 これをどう解釈するべきであろうか。二つの解釈がある。ひとつは援助 プロジェクトにありがちなドナーへの依存が非常に強いためと解釈するこ とができる。ザンビアでは多くのドナーが援助プロジェクトを展開しており、 政府の支援よりも大きなプレゼンスになっている。特に政府のサービスが届 きにくい、農村部においては、住民からは、さまざまなプロジェクトが「JICA のプロジェクト」「UNICEF のプロジェクト」「World Vision のプロジェク ト」という通称で整理されまた実際に呼ばれている。 もうひとつの解釈として、このマイクロ・プロジェクトの特性である、 外部資金の投入ということがあげられよう。マイクロ・プロジェクトには、 一村約 100 万円の投資(元々は一農家 100 ドルの積み上げで、100 農家とし た場合)が村になされる。この投資金は、基本的に農業省でない、外部資金に 頼っており、その資金源は「JICA」であると住民からは理解されている。実 際は、JICA が直接投入するのではなく、JICA の技術協力プロジェクトであ る PaViDIA プロジェクトが仲立ちして、資金を日本大使館や WFP などの 外部から持ってくるのであるが、一般の住民にとって、そのような細かいこ とは理解されずに、ただ「JICA」と称されてひとくくりされている。つまり、 この外部資金がないかぎり、住民によるマイクロ・プロジェクトも実施され ないわけであり、JICA の支援というものが確固たる前提条件となっている。 さらに、ザンビアの農業省及び農業普及員は、PaViDIA プロジェクトが実施 される前にも存在していたわけであるが、マイクロ・プロジェクトが実際に 村にされるには、JICA の PaViDIA プロジェクトが実施されたことが要因で あり、マイクロ・プロジェクトの存在そのものの前提条件として理解されて いると考えられる。 成功要因として、次に挙げられているのが、 「リーダーシップ」である。 このリーダーシップは、オーソドックスなプロジェクトマネジメント技術で はない、ソフト要因のひとつである。さらに同じソフト要因としてカテゴリ ー化された「チームワーク」も第四位につけている。大きく全体をみると、 人間そのものを重要視するソフト要因が、「計画」や「管理」などのハード 要因よりも上位に位置づけていることがみてとれる。例えば、絶対評価では、 ランクが上であった「管理/文書化」などは、この相対評価では下のランクで あることも象徴的である。 19 このような絶対評価と相対評価との違いはどこから生まれてくるので あろうか。ひとつには、45 のステートメントから 5 つ選ぶということを強い られることによって、「最低限、必要不可欠のもののみ」が、この相対評価 では選ばれていることがあげられる。プロジェクトが成功するためには多く の要因/条件が必要である。もちろん全部が全部必要ということでもないが、 絶対評価のときには、極端にはすべて必要とすることができたが、この相対 評価では、5 つしか選べない。いわば、完全な不足・飢餓状態において、プ ロジェクトにとって、生存する必要最低限のものがここに選ばれているとい えよう。 ここで、各グループ別の相対評価のランキング結果を見てみよう。 20 図7 マイクロ・プロジェクの成功要因(相対評価: プロジェクト委員会 グループ別) 村人一般 Leadership (S) Team Work (S) Other Support (E) CEO Support (E) Human Factor (S) Acountability (H) Info./Communication (H) District Support (E) Mission/Plan (H) Participation (S) Control/Document (H) Discipline (S) Resource (H) Natural Envionment (E) Socio-Economic (E) Other Support (E) CEO Support (E) Team Work (S) Leadership (S) Info./Communication (H) District Support (E) Acountability (H) Participation (S) Mission/Plan (H) Human Factor (S) Control/Document (H) Resource (H) Socio-Economic (E) Discipline (S) Natural Envionment (E) 0 50 100 150 200 250 300 350 0 農業普及員 20 40 60 80 100 120 郡・州農業職員 CEO Support (E) Other Support (E) Participation (S) Mission/Plan (H) Team Work (S) Info./Communication (H) Control/Document (H) Leadership (S) Acountability (H) Human Factor (S) Discipline (S) Resource (H) District Support (E) Natural Envionment (E) Socio-Economic (E) Mission/Plan (H) CEO Support (E) Other Support (E) Acountability (H) Team Work (S) District Support (E) Info./Communication (H) Leadership (S) Resource (H) Socio-Economic (E) Human Factor (S) Participation (S) Discipline (S) Control/Document (H) Natural Envionment (E) 0 10 20 30 40 50 0 (出所) 著者作成 21 10 20 30 40 50 絶対評価では、グループごとに違いはさほど見出せなかったが、相対評 価では、図に明らかなように、大きな違いがでている。 まずプロジェクトの実施者であるプロジェクト委員会メンバーにとっ ては、もっとも重要なのは「リーダーシップ」であり、また「チームワーク」 である。「その他の支援」つまり JICA の支援も 3 位につけているが、それ よりも、自分らのリーダーとしての自意識と、またチーム内での関係を成功 のための要因として重視している。村人一般にとっては、「その他の支援」 つまり JICA からの支援が一位で、次にファシリテーターとしての農業普及 員からの支援を重視しており、若干、他力本願的である。が、続いては「チ ームワーク」が、「リーダーシップ」よりも前に出てきている。一方の農業 普及員では、「農業普及員からの支援」が第一要因としてでてきており、自 らの役割と重要性というものを重視している。続いては「その他の支援」つ まり JICA の支援であり、一方の「郡農業事務所からの支援」が低い位置に ランキングされていることと対照的で、農業普及員が外部者である JICA か らの支援というものを、自分の上部組織である郡農業事務所よりも、重視し ているかを示している。それに続くのは、 「(住民の)参加」であり、住民の参 加というところに普及員が意識を向けていることが分かる。最後に郡・州の 農業事務所の見方は、もっとも重要な要因は「計画」であり、また「説明責 任」も 4 位についており、オーソドックスな成功要因を重視しているところ がわかる。これは、通常、郡・州農業事務所は、村と直接関わることはなく、 農業普及員を通じて間接的に関わり、またその具体的なツールとしては、事 業計画書であることを考えると理解できる。ソフト面よりもハード面が上位 に入ってきており、郡・州事務所はいわゆる現場(村人や普及員)との感覚が 多少ずれていることが見受けられる。 5 つしか選択できないという極限の中で、各グループが自らの役割と責 任を意識した成功要因を選んでいる。 (3) 絶対評価と相対評価の統合分析 各成功要因について評価をおこなえる「絶対評価」の結果と、複数の中 から少数の成功要因しか選択できない「相対評価」の結果が大きく違うこと が確認された。その結果を総合的に分析するために、絶対評価結果と相対評 価結果をそれぞれ X 軸と Y 軸においた分散図を作成する。 この分散図の場合、X 軸(絶対評価指数)は右にいけばいくほど、プロジ ェクトの成功を高める成功のための完全なる十分条件であり、Y 軸(相対評価 指数)は上にいけばいくほど、プロジェクトの成功条件にとっては最低限必要 22 な必要条件として、高い評価を得ていることになる。 その図を下に示すが、各成功要因がある程度、集合して位置しており、 ひとつのグループを形成していることが確認される。それぞれにグループと しての番号をつけた。 これまでの議論を踏まえて、整理すると一般的に以下のように解釈でき るだろう。 図8 マイクロ・プロジェクトの成功要因(統合分散図) 450 Leadership (S) Other Support (E) 400 CEO Support (E) Team Work (S) グループ II グループ I 350 300 グループ III 相対評価指数 250 Acountability (H) Mission/Plan (H) グループ IV Human Factor (S) 200 Info./Comm. (H) Participation (S) District Support (E) 150 Control/Docum (H) グループ V 100 Discipline (S) Resource (H) Natural Envion. (E) 50 Socio-Econ (E) 0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 絶対評価指数 (出所) 著者作成 23 13.0 14.0 15.0 1) グループ I 絶対評価指数も高く、相対評価指数も高い。「リーダーシップ」、「チー ムワーク」及び「農業普及員からの支援」で構成される。これらは、プロジ ェクトの成功にとっては最低必要条件であるだけでなく、かつ十分条件とし ても高く評価されている要因である。プロジェクトの成功にとって、なくて はならないものである。 2) グループ II 絶対評価指数は低いが、相対評価は高い。「その他の支援」が入ってい る。これは前述したように「JICA からの支援」が相対評価で高く評価され ていたためである。このグループにある要因は、プロジェクトの成功にとっ て最低必要な条件であるが、必ずしもこれだけで成功しない。 3) グループ III 絶対評価指数は高いが、相対評価指数は低い。「計画」、「アカウンタビ リティ」、「情報提供/共有」及び「管理/文書化」といったオーソドックスな マネジメントに必須の成功要因(ハード要因)が並ぶ。このグループにある要 因は、プロジェクトの成功にとって、絶対に必要というよりも、その成功を 高めるために、あればあったほうが良いという要因である。 4) グループ IV グループ III と同じく、絶対評価指数は高いが、相対評価指数は低い。 グループ III よりも少し絶対評価指数が低く、「人間的な要因(人格)」、「住民 参加度」、 「郡事務所からの支援」など、ハード要因以外の要因によって形成 されているため、別グループとしてとらえることができる。このグループに ある要因はグループ III と同様に、プロジェクトの成功を高めるためには、 あればあったほうが良いという要因である。 5) グループ V 他のグループよりも、絶対評価指数、相対評価指数ともに低い。「自然 環境」「社会・経済環境」といった外部環境の要因や、「投入資源」、「規律」 などがある。 上記のように、絶対評価と相対評価という二つの面から構造的に成功要 因をグループ分けすることができる。 24 次に各グループのグラフを見てみよう。 プロジェクト実施委員会のメンバーは、「リーダーシップ」が突出して おり、それに「チームワーク」、続いて「農業普及員の支援」が右上、つま り非常に重要な要因として評価されている。村人一般では、「農業普及員の 支援」が突出しており、続いて「チームワーク」と「リーダーシップ」が重 要視されている。農業普及員にとっては、やはり「農業普及員からの支援」 が唯一無二の最重要要因であり、「リーダーシップ」はどちらかといえば、 上記のグループでは「V」、つまりあまり重要でない要因に近いことが非常に 興味深い。最後に郡・州農業事務所にとって、重要なのは「計画」であり、 続いて「農業普及員からの支援」である。 25 図9 マイクロ・プロジェクトの成功要因(統合分散図: グループ別) 350 120 プロジェクト 実施委員会 300 村人 一般 Leadership (S) Other Support (E) 100 CEO Support (E) Team Work (S) Other Support (E) Team Work (S) 250 CEO Support (E) Leadership (S) 80 200 60 District Support (E) Human Factor (S) Info./Comm. (H) Acountability (H) Participation (S) Mission/Plan (H) Human Factor (S) Control/Docum (H) Acountability (H) 150 District Support (E) Info./Comm. (H) Mission/Plan (H) Participation (S) 100 40 Resource (H) Control/Docum (H) Discipline (S) 20 50 Resource (H) Natural Envion. (E) Socio-Econ (E) Discipline (S) Natural Envion. (E) Socio-Econ (E) 0 0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0 8.0 9.0 10.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0 45 45 農業普及員 Mission/Plan (H) 郡・州農業事務所 40 40 CEO Support (E) 35 35 Other Support (E) 30 30 Participation (S) CEO Support (E) 25 25 Mission/Plan (H) Other Support (E) 20 20 Team Work (S) Acountability (H) Team Work (S) 15 15 District Support (E) Info./Comm. (H) 10 Leadership (S) Human Factor (S) Discipline (S) Control/Docum (H) Acountability (H) 10 Info./Comm. (H) 5 5 Resource (H) Resource (H) District Support (E) 0 Socio-Econ (E) 8.0 9.0 0 Natural Envion. (E) 10.0 Leadership (S) Socio-Econ (E) 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0 (出所) 著者作成 26 Human Discipline Factor (S) (S) 8.0 9.0 10.0 Control/Docum Natural(H) Envion. (E) Participation (S) 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0 全体を通していえることは、グラフの右上、つまり最重要で根本的に最 低限必要なものとしての成功要因は、グループによって大きく変化するが、 右中央から下、つまり重要であるが、根本的に重要性は低いグループに、 「情 報の共有」、 「管理/文書化」、 「アカウンタビィリティ」といった、この論文で はハード要因とされたオーソドックスなプロジェクトマネジメントの要因 が並んでいることである。 このことは何を意味するのであろうか。グラフ右上にあらわれる最重要 で根本的に最低限必要なものについては、プロジェクトの関係者が主に自分 の責任や存在意義に関わる成功要因を選んでいる。一方で、自分の責任や存 在意義に関わる成功要因のみでは、プロジェクトの成功を高めるためには不 完全であり、その中で重要視されているのは、「計画」「管理/文書化」「情報 共有」といった、いわゆるオーソドックスなプロジェクトマネジメントのツ ールやスキルと考えているのではないだろうか。言葉を換えれば、リーダー シップやチームワークといったソフトな要因というものは、プロジェクトを 成功に導く上で、プロジェクト必要不可欠ではあるが、それはプロジェクト における関係者各自の存在意義にも関わるという、根本的な要因という意味 であり、それだけで成功には結びつかないということにならないか。 5. 結論にかえて (1) 成功要因の構造化 ここまでザンビアの 40 の村落開発プロジェクトの関係者へのアンケー ト調査結果から、絶対評価と相対評価という二つの局面からプロジェクトの 成功要因を分析することで、各要因の性格の違いというものを見ることがで きた。ここでは、これまでの結果からひとつのプロジェクトの成功要因モデ ルを提示してみたい。 絶対評価と相対評価の統合分散図の分析から、各成功要因は一律に優劣 をつけるものではなく、それぞれ性質があり、また果たす役割も違うことが 理解された。マイクロ・プロジェクトの成功には以下のような構造化された 成功要因が必要である。 27 図 10 マイクロ・プロジェクトの成功要因の構造化 マイクロ・プロジェクトの成功 第二に重要、かつ 十分条件として の成功要因 自然・社会経済 環境 計画・管理・アカウンタビィリティ等 ハード要因 リーダーシップ、チームワーク等 ソフト要因 第一に重要、かつ 十分条件として の成功要因 農業普及員からの支援 外部からの支援 最低限に不可欠、 かつ根本的な 成功要因 ドナー(JICA)の支援 (出所) 著者作成 この成功要因モデルが意味しているところを述べると以下のようにな る。マイクロ・プロジェクトは、最初に投入資源を提供するドナー(ここでは JICA(34)と認識されている)がなければ始まらず、その実施のためには、プロ ジェクト実施者のリーダーシップやチームワーク、一方でそれを技術的にサ ポートする農業普及員が「根本的な要因」として必要不可欠である。それだ けでは根本的な要因が満たされたのみで、十分ではなく、まずはオーソドッ クスなマネジメントスキルとしての「計画」「管理」そして「アカウンタビ リティ」等を身につけ実践することが重要である。さらに、成功を高めるた めには、最終的には自然環境や社会・経済環境といった外部環境も重要であ る。 (2) 結果が意味すること このモデルは、ザンビアのマイクロ・プロジェクト以外の農業開発にも あてはめることができる。農業開発を始めるにはある程度の外部的な介入(こ れは資金だけでなく技術も含まれる)が、引き金としては必要である。その上 で重要なのは計画や管理体制といった目に見えるものよりも、実施者のリー ダーシップやグループ内でのチームワークの醸成が必要であり、またその実 施者グループを側面から支援するもの(ここでは農業普及員)の支援体制を作 28 ることが、「根本的」に必要となる。その根本的な要因が整った上で欠かせ ないのが、マネジメントスキルとしての、計画・管理や会計などの実践であ る。さらに、外部環境を十分に意識しながら、柔軟に計画を変更していくと いうことをすることで、農業開発を成功に導くということが可能となる。 この結果は一見、当たり前のことのようであるが、この成功要因の構造 化をしないままに、農業開発を進める場合がある。たとえば、リーダーシッ プなどのソフト要因が整っていないにも関わらず、マネジメント研修を実施 してハード要因を整えようとしても、根本的な要因が整っていないため、そ れは徒労に終わるであろう。反対に、参加型開発を進める場合、地域住民を 集めて、意識の醸成をするようなワークショップばかり繰り返しても、チー ムワークなどのソフト要因は整うかもしれないが、その上に実務上のスキル を身につけなければ、具体的な成果は出ないであろう。また、同じく住民の 中でいくらリーダーを育てても、それを側面からサポートする外部者がいな ければ、そのリーダーの実務能力が低い場合、または暴走した場合に、修正 することは難しい。この外部者の役割(35)というものが根本的な要因として見 出されたことは、今後の参加型農村開発を考える上で示唆となる。 (3) 今後の研究に向けて 今回はザンビアにおける 40 の参加型農村開発プロジェクトの成功要因 に係る調査であったが、アフリカの農村開発は無論ザンビアだけではないし、 また農村開発プロジェクトといっても、PaViDIA アプローチが代表というこ とでもない。その意味で、違うアプローチの農村開発プロジェクトを対象と した場合に、成功要因の構成が全く違う可能性も残ったままである。 さらに調査方法についても、今回は通常のプロジェクトマネジメントの 調査方法に従い、プロジェクト実施者のアンケート(及びインタビュー)を実 施したが、回答者は農村の農民がほとんどであり、アンケートの意義を十分 に理解し、また正確に答えられているのかという疑問もある。 よって、この調査結果がアフリカの農村開発を考える上で、どこまで一 般的な示唆につながるのかという点では、課題も多い。 しかし、そもそもアフリカの農村開発において、具体的かつ複数のプロ ジェクトを総監したような本調査のようなものは調査例も少ない。本調査の ような事例が増えることにより、より具体的かつ一般的な示唆に富んだ研究 につながると思われる。本調査がそのような研究への一助となれば幸いであ る。 29 (参考文献) Akinnus, D. 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The first section reviews the environment of rural development projects which failed to play an important role for development of African countries. This section points out scarcity of tangible studies on the success factors of the African rural development projects, and it asserts to increase the number of studies to provide concrete suggestions for practitioners working for African development issues. The second section reviews previous relevant studies from the area of general project management to more specific area of African rural development projects. From the retrospective reviews, this section points out some challenges of the previous studies which still linger on and need to be tackled by this study. The third section explains the research conducted for forty (40) rural development projects in Zambia which was conducted by following the same approach named “PaViDIA Approach”. stands for “Participatory Village Development in Isolated Areas”. PaViDIA The research conducted participatory workshops and a questionnaire-based survey with 225 important stakeholders of the projects in order to study success factors of the rural development projects. The fourth section analyzes the results of the research from multiple perspectives such as an absolute perspective, a comparative perspective and a comprehensive perspective. From the multiple perspective analysis, the paper identifies the important success factors such as “leadership”, “teamwork” and “external supports”, while orthodox success factors such as “documentation”, “mission/planning” etc. also play important roles but they play differently. The final section constructs “a success factor model for rural development projects” and it provides practical suggestions for success of similar rural development projects in Africa. 34 2008 年 5 月に開催された TICAD IV(アフリカ開発会議)において、国際開発の共通目標 である開発ミレニアムゴール(MDGs)は、アフリカ地域においては、達成はほぼ絶望的とい う見通しが発表されている。 (2) サブサハラ・アフリカの人口の約 7 割がいわゆる農村人口であり、人口 2 万人以上の町 にすんでいるのは人口の 3 分の 1 にすぎない。 (3) Chambers (1997) (4) Cooke, Bill & Kothari, Uma (2001) (5) たとえばザンビアでは、世界銀行の支援により 1500 名すべての普及員が「参加型普及 手法」の研修をうけており、現在でも、 「参加型」が普及アプローチの主流となっている。 。 (6) 評価報告書等 (7)アフリカにおける開発の根本原因として、 Jackson(2004)、Kuada (1994)、Carlsson(1998)、 Dia (1996)などのマネジメント論者はアフリカの制度などの特殊性を無視したマネジメン トの問題であると指摘している。 (8) Rubin& Seeling(1967) は、プロジェクトマネージャーの経験がプロジェクトの成否に与 える影響を電関し、結論としてあまり影響がないことを述べた。その後、Avots (1969)のフ ォロー的な研究によると、プロジェクトマネージャーの選択の失敗、プロジェクト終了の 不明確さ、及びトップマネジメントの支援の不足が失敗の原因として挙げられている。 (9) Pinto の各論文を参照。 (10) プロジェクトマネジメントにおける成功の概念の歴史については、Jugdev & Muller (2005)、Khang&Moe (2006)に詳しい。 (11) PMBOK を発行している PMI では、ガイドラインだけでなく調査研究誌も発行してお り、実践者である会員による先進的な研究発表の場を提供し、またその結果を常にガイド ラインに反映しているため、具体的なガイドラインとなっている。そのガイドラインはプ ロジェクトマネージャー達の共通言語となっている。マネジメント上の共通言語をもたな い国際開発の分野でも参考にするべきであろう。 (12) また、同論文は、これまでの研究は各要因が独立して扱われており、その複雑な要素間 の関係が考慮されていないとの批判をし、それを克服するために要素の関連をモデル化す るという試みを行っている。 (13) 多くのプロジェクトマネジメントの基本書籍を読めば、この Iron-Triangle に関する知 識群が主であり、副としてソフトな要因に関する知識が続くものが多いことがわかる。 (14) Dia[1996]は、 ”Disconnect Theory”を展開した。アフリカでのキャパシティービルデ ィングを技術的なものと制度的なものとに分けた上で、一般的にアフリカの場合はこの制 度的なものがアジアに比べて脆弱であるとしている。その原因は欧米各国による植民地政 策にあるとし、植民地以前の体制を無視した外から与えられた制度により市民社会と乖離 した国家制度の枠組みが作られたとしている。その結果、「国家と市民社会」、「フォーマル とインフォーマルな民間組織」そして「会社企業と社会文化」のそれぞれの両者が完全に 分断(“Disconnect”)された社会が形成されたという”Disconnect Theory”を展開してい る。 (15) アフリカのマネジメント研究者についての批判的概観としては、 三好(2008)に詳しい。 (16) 例えば、Kilimba J. (2006)、Okpara J.(2007)、Shonhiwa S. (2008)など、アフリカと 銘打ち、アフリカの特殊性を述べながらも、その解決の方向性は一般のマネジメントの教 科書にあるようなオーソドックスなものである。 (17) 本書は著作集であるのですべての著者が合理的なマネジメントを述べているわけでは ない。例えば、Mbigi, L (1997)は、アフリカ地域に特有の(友愛)Ubuntu に基づいたマ ネジメントの方向性を示している。 (18) これは筆者の仮説であり、果たしてこの出身地(アフリカ地域か否か)の違いにより、 (1) 35 主張が違うのか否かということは、さらに研究を進める必要があると思われるし、また研 究はその筆者の出身地や性格を問うよりも、その研究成果について是非を問うのが本来あ るべき姿である。しかし、筆者が文献調査を進める上で非常に興味深い傾向が見えたため、 ここに記述している。 (19) 但し、その意識のギャップがはたしていわゆるアフリカの特徴的な文化の問題であるの かどうかということは、上記の研究でもそこまで深めてはおらず、また研究数もすくない ことから、断言できない。 (20)国際開発プロジェクトの成功と成功要因について、ベトナムとミャンマーにおける、プ ロジェクトの関係者へのアンケート調査を元に論証を行った。プロジェクトを 4 つのフェ ーズからなるプロジェクトライフサイクルにわけているのが特徴である。成功の概念とし ては持続的な成果という項目がもっとも関係者感で重視されている。成功要因として、単 純なアンケート集計であれば、内部的資源(人材)が成功要因として重視されているが、より 複雑な回帰分析の結果、実際にはプロジェクト外とのコミュニケーションが重要であると の結果を得た。 (21) ここで「複数の事例」と言っているのは、後述する孤立地域村落開発プロジェクトとい う技術協力が支援した、170 の村ごとのマイクロ・プロジェクトの内の、40 の事例をさし ている。 (22) マイクロ・プロジェクト及びその母体プロジェクトである PaViDIA プロジェクトにつ いては、http://www.pavidia.org.zm/ を参照されたい。 (23) ザンビアの農村部では、メイズ(白トウモロコシ)の製粉の仕事は、女性や若年層の仕 事である。 (24) 同プロジェクトの技術協力の専門家として 4 年間の経験をもつ筆者の経験と他の日本人 専門家及びザンビア人カウンターパートからの聞き取りから、このような複雑かつ動的な 成功の状況が確認されている。 (25) ただし 170 村の中には投資金額や村の規模が違うものもある。 (26) プロジェクトに関わった日本人専門家への聞き取り調査より。 (27) プロジェクトに関わった日本人専門家およびザンビア人カウンターパートへの聞き取 り調査より。 (28) マイクロ・プロジェクトの実施委員会は村民であり、原則として村長は含まれない。た だし、村によっては村長が積極的にプロジェクトにかかわり、実施委員会のメンバーと同 等の知識や経験を有することもある。また実施委員会に入っていなくても、実質的なメン バーとなっている場合もある。ワークショップでは、これらの現状を考慮して、参加者は 実施委員会だけでなく、プロジェクトを良く知るものであれば参加者として認めた。参加 者の選択は村民自身が行った。 (29) このワークショップでは、マイクロ・プロジェクトの「成功」の定義に関する細かい議 論はせずに、参加者各人がそれぞれ考える「成功」を前提に成功要因を抽出した。もともと、 マイクロ・プロジェクトの成功の概念は、輻輳的(プロジェクトとしての成功と住民への裨 益という意味での成功、さらに村の結束力を高めるという意味での成功)であり、このこと は普及員から村民には日ごろ説明を受けているため、原則として成功の定義は共有されて いるという前提である。 (30) ここではマイクロ・プロジェクトの成功概念については、それが輻輳的(プロジェクト レベル、個々の住民レベル、村組織レベル)であるということが共有されているという前提 である。 (31) マイクロ・プロジェクトの実施委員会は、村長を除く、村人から選出される。よって、 アンケート回答者に偏りがあるが、プロジェクトの成功要因を答えるためには、プロジェ クトの内容について十分な経験がなくてはならないため、実施委員会メンバーに絞った。 (32) 農業普及員は、ザンビア政府の農業組合省(Ministry of Agriculture and Cooperatives) 36 の正式な職員であり、ザンビア全国で約 1500 名が農村地域に配置されている。PaViDIA アプローチは、農業組合省のアプローチとして開発され、農業普及員を「ファシリテータ ー」(農村開発の促進者)として位置づけ、村民がマイクロ・プロジェクトをスムーズに実 施できるように技術的(かつマネジメント面での)支援をすることになっている。 (33) 男性が代表権を握ることはザンビアでの村レベルのマネジメントでは一般的である。一 方で、会計など技術的な部分は女性が多い傾向にある。また、発言はしないが、女性の会 議等への参加度は高く、村で会議をすると 3 割から 4 割程度は女性がでてくる。村の男性 から聞いたところによると、彼女たちは発言しないかわりに、だれがどんな発言をしたか を良く聞いており、各人の家に入った時に、夫に対して「もっとこう言ってほしかった」 ということもあるらしい。 (34) これは PaViDIA のマイクロ・プロジェクトのような農民にとっては多額の資金を投入 するようなプロジェクトだけに言い当てるものであるという批判もあるかもしれないが、 一方でなんらかの開発プロジェクトでは起爆剤となる「何か」(資金だけではない、機材や 研修講師の投入も考えられる)が前提となるのではないか。この議論を進めるためには、費 用が全くまたはほとんど必要ないような農村開発プロジェクトとの比較が必要であろう。 (35) ここでいう外部者は必ずしもドナーや政府職員というものではなく、一般的な村人から かけ離れた人や組織であるという考え方もできる。例えば、掛谷・伊谷(2009)によれば、 このような「よそ者」・「変わり者」が、アフリカの村の自発的発展に大きな役割を担って いることを様々な例をあげて述べている。 37
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