(平成 28 年度)事業計画書 - 一般社団法人バイオ産業情報化

第 17 期(平成 28 年度)事業計画書
目
次
1.事業方針 .................................................................. 1
2.研究開発事業 ............................................................. 10
2.1.福島医薬品関連産業支援拠点化事業に係る研究開発業務 .................. 10
2.2.再生医療のための細胞システム制御遺伝子発現リソースの構築 ............ 12
2.3.体液中マイクロ RNA 測定技術基盤開発 .................................. 14
2.4.技術研究組合に係わる研究開発業務(次世代天然物化学技術研究組合) .... 16
2.4.1.次世代型有用天然化合物の生産技術開発 ............................. 16
2.4.2.IT を活用した革新的医薬品創出基盤技術開発 ........................ 16
3.調査企画 ................................................................. 18
3.1.調査企画 ............................................................ 18
3.2.国内外技術動向調査 .................................................. 22
3.3.バイオ関連基盤技術研究会 ............................................ 22
4.成果普及事業 ............................................................. 23
4.1.プロジェクト研究成果の普及・活用 .................................... 23
4.2.活動・成果の情報発信 ................................................ 24
1.事業方針
1.
平成 24 年末に発足した第二次安倍政権が第三の矢の成長戦略として打ち出した日本
再興戦略(平成 25 年 6 月)に基づき健康・医療分野においては次のような措置が講じ
られた。
①
健康・医療戦略本部の設置(平成 26 年 6 月)
②
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律及び
再生医療等の安全性の確保等に関する法律の施行(平成 26 年 11 月)
③
2.
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立(平成 27 年 4 月)
AMED の設立により健康・医療分野の研究開発は AMED とインハウス(理化学研究所、
国立がん研究センター、産業総合技術研究所等)分の予算で行われることになったが、
その推移をみると、平成 26 年度に大幅な伸びを示した後、平成 27、28 年度は微増と
なっている。
平成 28 年度においてはゲノム医療、脳とこころ、感染症及び難病関連の予算が増加
している。
医療分野の研究開発予算(当初予算)
AMED
(平成 25、26 年度は AMED 相当額)
インハウス
平成 25 年度
1,012 億円
(文 447、厚 402、経 163)
713 億円
(文 155、厚 476、経 81)
平成 26 年度
1,215 億円
(文 570、厚 476、経 169)
740 億円
(文 200、厚 455、経 85)
平成 27 年度
1,248 億円
(文 598、厚 474、経 177)
723 億円
(文 211、厚 429、経 84)
平成 28 年度
1,265 億円
(文 599、厚 478、経 185 等)
734 億円
(文 214、厚 430、経 90)
この他に内閣府に計上される「科学技術イノベーション創造推進費(500 億円)」の
うち 35%(175 億円)を医療分野の研究開発関連の調整費として充当見込み。
1
平成 28 年度予算の内訳
(1)医薬品・医療機器開発への取組
① オールジャパンでの医薬品創出
258 億円<AMED 215 億円、インハウス 43 億円>
② オールジャパンでの医療機器開発
146 億円
(2)臨床研究・治験への取組
革新的医療技術創出拠点プロジェクト
98 億円
(3)世界最先端の医療の実現に向けた取組
① 再生医療の実現化ハイウェイ構想
148 億円
② 疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト
114 億円 <AMED 89 億円、インハウス 24 億円>
(4)疾病領域ごとの取組
① ジャパンキャンサーリサーチ・プロジェクト
② 脳とこころの健康大国実現プロジェクト
167 億円
96 億円
③ 新興・再興感染症制御プロジェクト 82 億円<AMED 66 億円、インハウス 16 億円>
④ 難病克服プロジェクト
3.
122 億円
米国の状況をみると、NIH の予算は 2015FY 303.11 億ドル、2016FY 323.11 億ドル、
2017FY 331.36 億ドル(要求ベース)と増加しており、また、オバマ大統領は一般教
書 演 説 に お い て 昨 年 の Precision Medicine Initiative に 次 い で 本 年 は 新 た に
National Cancer Moonshot を打ち出した。
(1)Precision Medicine Initiative(PMI)
① 2015 年 1 月オバマ大統領が打ち出した PMI は以下のとおり。
予算(2016FY 2.15 億ドル)
NIH
1.3 億ドル
100 万人以上のボランティアからなる全米コホート研究
NCI
0.7 億ドル
がんドライバ遺伝子の同定
FDA
0.1 億ドル
規制の見直し
ONC(国家医療情報技術調整室)
500 万ドル
2
プライバシーの保護
② その後全米コホート研究の進め方について技術的、制度的等広範な観点から検討が
行われ、2015 年 9 月報告が取りまとめられた。
③ 2017FY においては全米コホート研究のために 1 億ドルが計上されている。
・米国人の多様性を反映した 100 万人以上のボランティアを募集する。
・電子カルテ情報、臨床サンプル等を集め、長期的かつ総合的に観察する。
・環境要因と遺伝的要因を統合して疾患毎の定量的なリスク評価を行う。
・通常行われている治療の有効性及び安全性の決定要因を明らかにする(ファーマ
コゲノミクス)。
・通常の疾患についてゲノム、cfDNA 等のシーケンスによりバイオマーカーを探索
する。
・モバイルヘルスを活用し、参加者の行動、外部環境、心機能等の身体の状況を把
握し、それらと健康状態との関連性について検討する。
・参加者は、自らの健康に関するデータにアクセスすることができる。
(2)National Cancer Moonshot(NCM)
① オバマ大統領が 2016 年 1 月の一般教書演説で打ち出した NCM は以下のとおり。
・バイデン副大統領が NCM を統轄する。
・5 年間で 10 年分の成果をあげる。
・データへのアクセスを促進し、研究者、医師間の協力体制を構築することにより、
がんの早期発見、予防、新たな治療方法を開発する。
・予算
(2016FY)
NIH
195 百万ドル
(2017FY)
NIH
680 百万ドル
FDA
75 百万ドル
DOD(国防総省)には別途予算措置(年間数千万ドル)
3
② 内容
・HPV のようなウイルスにより感染するがんの予防のためのワクチン開発
・低侵襲の早期発見手法の開発
・固形がんに対する免疫療法
・がん及び周辺の細胞のゲノム解析
・希少小児がんの研究
・研究、臨床データの共有
・ハイリスク、ハイリターンの研究に対する特別のファンド
・DOD 及び VA(退役軍人省)による退役軍人のがんの症例に関する研究
(3)薬剤耐性問題
欧米では抗生物質の多用による薬剤耐性問題が政治的にも大きな課題となっており、
特に英、米ではキャメロン首相、オバマ大統領のイニシアティプの下で包括的な政策
が打ち出されている。
2015 年 6 月、ドイツのエルマウで行われた G7 サミットの首脳宣言においても「抗
生物質の適正使用を促進し、基礎研究、疫学研究、感染の予防及び抑制の促進、並び
に新たな抗生物質、代替的治療、ワクチン及び迅速な患者の身辺での検査の開発に取
り組む」旨うたわれている。
2016 年 5 月伊勢志摩で行われるサミットでは我が国は議長国であり、感染症対策と
あわせて積極的な対応が求められている。
4
4.
このような内外の状況を踏まえ、JBIC としては、平成 28 年度において次のように対
応するものとする。
(1)研究開発プロジェクトの推進
AMED の発足により、文部科学省は基礎研究、厚生労働省は臨床研究、経済産業省は
産業応用研究という枠組みは維持しつつも、いずれも従前以上に早急な成果が求めら
れている。
特に JBIC に対しては産業界への橋渡しの役割が期待されていることから、既存のプ
ロジェクトについても企業との連携を一層強化する等より効果的な研究開発を行うこ
とが必要である。
① 「福島医薬品関連産業支援拠点化事業に係る研究開発業務」
東日本大震災から 5 年を経過し、本事業も新たな局面に入ることから、参画企業と
福島県立医科大学の各種情報等の橋渡し及び臨床材料の使用に関するルール作り、調
整等の中継ぎ支援並びに所要の調査、研究を一層加速する。
② 「再生医療のための細胞システム制御遺伝子発現リソースの構築」
基盤技術であるヒト遺伝子発現リソースとプロテイン・アクティブアレイ技術を用
い、細胞移植における細胞の品質管理及び移植患者の免疫応答モニタリングを行うこ
とにより、細胞移植の安全性を移植前から移植後まで全般にわたって支援する技術の
開発を進める。
③ 「体液中マイクロ RNA 測定技術基盤開発」
本プロジェクトは平成 26 年度から実施されており、国立がんセンターで得られた
13 種類のがんに係る血液をマイクロアレイにより解析し、その結果を診断装置の開発
に生かすことを目的としている。
JBIC は本プロジェクトにおいて、一部のサンプルについてエクソソーム中の miRNA
を次世代シーケンサーにより比較解析するとともに、プロジェクトにより得られた成
果を診断機器、診断薬開発に生かせるようユーザーフォーラムを運営する。
④ 「次世代型有用天然化合物の生産技術開発」
優れた医薬品候補になりうる天然化合物の安定的かつ効率的な生産を図るため、放
線菌、難培養微生物等の有用天然化合物の生合成遺伝子クラスターの取得及び異種発
現に関する技術開発を行う。
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⑤ 「IT を活用した革新的医薬品創出基盤技術開発」
高精度分子シミュレーション・ソフトウエア myPresto の更なる機能と予測精度の向
上、NMR 及び電子顕微鏡の活用によるタンパク質の立体構造の高精度な取得技術の開
発を行い、創薬基盤技術の有用性を実証する。
(2)調査・企画
① 個別化医療を目指した研究開発への取り組み
健康・医療戦略本部では今後のゲノム医療の在り方について検討を行うため「ゲノ
ム医療実現推進協議会」を設置し、同協議会は 2015 年 7 月以下の事項について中間取
りまとめを行った。
・医療に用いることのできる信頼性と質の確保された試料・情報の獲得・管理
・国民及び社会の理解と協力
・研究の推進(知見の蓄積・活用にむけた取組)及び臨床現場・研究・産業界の協
働・連携
・人材育成及び医療従事者への教育強化
現在、本中間とりまとめを踏まえ、
「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスク
フォース」において個別の課題について検討が行われている。
ゲノム医療実現化プロジェクト関連予算も平成 28 年度は 114 億円と大幅に増加して
いる。
JBIC では個別化医療について米国の事例を調査する等して技術的、制度的な問題を
検討して来たところであるが、個別化医療を行うに当たってはゲノム解析に加え患者
のがんの薬剤応答性を患者個人のがんのモデル系で解析することが必要であるとの観
点から、医療機関と連携しつつ、例えばオルガノイドを活用した総合的な評価システ
ムの検討を行う。
6
② Liquid Biopsy
− 特にエクソソームについて
低侵襲の Liquid Biopsy については血液中の miRNA、cfDNA、CTC、エクソソーム等
をマイクロアレイ、次世代シーケンサー、PCR、質量分析計等を用いて解析する様々な
手法があり、より効果的な手法を目指して国際的にも熾烈な競争となっている。
特にエクソソームについてはがんのマーカーとして活用しようとしているベンチャ
ー企業がファンド等から多額の出資を得て米国において治験を開始する等の動きがみ
られるが、最近はエクソソームががんの転移に大きな役割を果たしているという論文
も発表されている。
JBIC は、「体液中マイクロ RNA 測定技術基盤開発」プロジェクトにおいてエクソソ
ーム中の miRNA の解析を行っているところであるが、直径が数十から百ナノメーター
オーダーのエクソソームについては、正確に分離する技術が確立されているとはいえ
ず、エクソソームのみを単離する技術開発がエクソソーム研究の前提条件として求め
られている。
こうした観点から JBIC としてはエクソソームを Liquid Biopsy の対象として活用す
るための基盤技術開発について検討を行うこととする。
③ 天然物ライブラリーの活用
− 感染症及び薬剤耐性
天然物ライブラリーについては創薬支援ネットワークの枠組みの中で活用されてい
るが、大村智教授のノーベル医学・生理学賞受賞もあり、より積極的な活用を求める
声が強くなっている。
天然物については我が国では撤退する製薬会社が増えているが、世界的にみれば特
に感染症について天然物の活用を図る動きもある。
また、薬剤耐性問題について欧米では耐性菌に対して有効な抗菌薬の開発に特別の
インセンティブを与える等アカデミア、ベンチャーによる新たな抗菌薬の開発に積極
的に取り組んでいるが、我が国でも天然物の活用という観点から貢献できないか検討
を行うこととする。
7
④ ヘルスケア分野におけるビッグデータの取り扱い
モバイルヘルス、デジタルヘルス等ヘルスケア分野におけるビッグデータの活用に
ついて期待が高まり、新規参入する企業も増えているが、こうした動きを推進してい
くためには解決すべき課題も多く残されている。
ヘルスケア分野において取り扱われるデータは、個人の健康、医療等に関連したも
のが多く、それぞれのデータの性格に応じて法令等に基づいて適切に管理する必要が
ある。
個人情報保護法の改正の際には健康・医療分野に特に着目した議論は行われなかっ
たが、改正法成立後「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」にお
いてゲノムデータ、ゲノム情報及び遺伝情報の個人情報保護法上の取り扱いについて
検討が行われ、2015 年 12 月、ゲノムデータについては個人識別符号、ゲノム情報及
び遺伝情報については要配慮個人情報とする方向で報告がなされ、今後は個人情報保
護法の政省令、個人情報保護委員会のガイドライン及びゲノム倫理指針の見直し等に
より対応することとなった。
今般の個人情報保護法の改正は海外特に EU の個人情報保護規則案との整合性を確
保するために行われた側面があるものの、米国では NIH の資金を得て解析されたゲノ
ム情報については匿名化した上で他の研究者が活用できるようになっており、こうし
た欧米の状況を踏まえ、我が国のみが過剰規制にならないよう配慮する必要がある。
また、EU 特にドイツでは現在 200 以上ある電子カルテのシステムを統合し、患者、
医師の IC カード利用促進とあわせて、医療の電子化を図る動きがある等ヘルスケア分
野におけるビッグデータを活用するためのインフラ整備が進んでいる。
こうした内外の諸情勢を踏まえ、ヘルスケア分野におけるゲノム情報を含むビッグ
データについてセキュリティを確保しつつ適正な活用が図られるよう JBIC としても
検討を行うこととする。
(3)成果普及
JBIC 関連の研究開発プロジェクトの研究成果について、企業、アカデミア等におい
て一層活用されるよう努めるものとする。
特にヒトタンパク質発現リソース、天然物ライブラリー及び myPresto(分子シミュ
レーションシステム)の活用、普及に努めるものとする。
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JBIC プロジェクトの変遷、事業費推移を下図に示す。
研究課題
膜タンパク質等
構造解析
ヒトタンパク質
機能解析
H12
H13
H14
生体高分子
構造情報利用
技術開発
H15
H16
H17
H18
H19
生体高分子
立体構造情報解析
タンパク質機能
解析プロジェクト
H21
H22
H23
H24
H25
H26
H27
H28
創薬加速に向けたタンパク質
構造解析基盤技術開発
タンパク質
機能解析
・活用プロジェクト
機能性RNA解析
H20
化合物等を活用した生物
システム制御基盤技術開発
体液中マイクロ
RNA測定技術
基盤開発
機能性RNAプロジェクト
iPS細胞等幹細胞産業
応用促進基盤技術開発
幹細胞研究開発
JST山中iPS
細胞特別
プロジェクト
遺伝子発現解析技術を活用した
個別がん医療の実現と
抗がん剤開発の加速
橋渡し(TR)
促進技術開発
ヒトゲノム関連
データベース構築
バイオインフォマティクス
関連データベース整備事業
ゲノム情報
統合プロジェクト
再生医療実現拠点
ネットワークプログラム
福島医薬品関連
産業支援拠点化事業に
係る研究開発業務
統合データベース
SNPs
関連技
術開発
遺伝子多様性解析
標準SNPs解析事業
遺伝子多様性モデル解析
事業費合計(億円)
68.4
129.1
57.6
48.9
51.2
51.9
51.9
48.5
40.8
49.1
24.0
9.0
8.3
6.8
7.3
8.6
9.1
(見込み)
<参考:JBICが参画しているプロジェクト>
エピゲノム技術
研究組合
後天的ゲノム修飾のメカニズムを
活用した創薬基盤技術開発
1.9
プ ロ ジ ェク ト 費 ( 億 円 )
3.0
6.2
3.6
有用天然化合
物の安定的な
生産技術開発
次世代天然物化学
技術研究組合
2.6
次世代型有用天然
化合物の生産技術
開発
ITを活用した革新的医薬品
創出基盤技術開発
2.8
プ ロ ジ ェク ト 費 ( 億 円 )
3.9
8.0
8.0
8.0
8.0
(見込み)
9
2.研究開発事業
2.1.福島医薬品関連産業支援拠点化事業に係る研究開発業務
本事業は、福島復興事業の一環として、経済産業省の平成 23 年度補正予算を原資とする福島
県の復興基金を基に、県からの補助金による福島県立医科大学の事業として平成 32 年度までの
予定で実施されているプロジェクトであり、平成 19-23 年度に実施された NEDO「遺伝子発現解析
技術を活用した個別がん医療の実現と抗がん剤開発の加速」プロジェクトの実質的後継プロジェク
トである。
JBIC は平成 24 年に福島県立医科大学より公募された「研究開発業務公募型プロポーザル」にコ
ンソーシアムとして応募・提案し、平成 28 年 3 月までの期間における本事業の研究開発業務の一
部と成果活用・創薬等支援に関する業務を受託していたが、平成 28 年度も契約が更新されること
になり、下記の業務(概要)を受託することになった。
JBIC はこれまでの豊富な経験と実績を基に本受託業務の更なる推進を図り、本事業全体への貢
献度を高めることで今後も継続的に本業務を受託し、本事業目標を達成に導くための活動を展開
する予定である。
【平成 28 年度計画】
福島県立医科大学等で取得される臨床サンプル及び各種情報等を利用し、医療界と産業界を
円滑に橋渡しすることにより、本事業の目的である「検査・診断薬及び医薬品等の開発を多面的に
支援し、新規産業の創出及びそれに伴う雇用の創出を促進する」ことに向けて取り組む。
(1) 研究開発に関する業務
福島県立医科大学で調製した各種細胞・組織等(正常及び疾患由来のものを含む)、各種の刺
激を加えた細胞等及び動物実験(担がん動物の評価・化合物の安全性・薬理試験・疾患モデル
動物の評価等を含む)で採取した組織等の遺伝子発現プロファイルを包括的に取得・解析する。
また、各種細胞・組織等から疾患に関連する cDNA クローン等を体系的に取得し、それらを活用し、
新規生体材料・抗体等を作製する。さらに、疾患に関わる遺伝子の機能を複数・同時に評価する
システムを構築し、遺伝子発現プロファイルと合わせて新規疾患マーカー・疾患関連遺伝子等を
探索し、それらの遺伝子の機能解析を行う。
また、タンパク質の網羅的解析のためのプラットフォーム(抗原マイクロアレイ・逆相タンパク質マイ
クロアレイ)を構築し、臨床由来サンプル等を用いた体系的な解析データを取得する。
(2) 成果活用・創薬等支援に関する業務
参画企業群の連絡・調整と取りまとめ及び創薬開発支援拠点の実施体制を構築することにより、
参画企業と福島県立医科大学の各種情報等の橋渡し及び臨床材料の使用に関する各種手続き
等の中継ぎ支援を行い、本事業の成果を産業界へ円滑に橋渡しする。また、本事業の成果を事
業化し、産業界で有効に活用させるために必要な各種調査を行うとともに事業目的達成のための
提案を行う。
10
【実施体制図】
11
2.2.再生医療のための細胞システム制御遺伝子発現リソースの構築
本事業は、iPS 細胞等を使った再生医療の実現を目的とする、AMED 再生医療実現拠点ネットワ
ークプログラム(NWPG)の技術開発個別課題 20 課題の 1 つである。JBIC は分担研究機関として
平成 25 年度に本事業に参画し、代表研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所
(産総研)と共に以下に示す研究開発を実施している。
我々の基盤技術であるヒト遺伝子発現リソースとプロテイン・アクティブアレイ技術について、平成
27 年度の中間評価までに前者は細胞システム制御遺伝子約 1,500 種類を追加、後者は約 14,000
タンパク質/基板の高密度アレイ作製による高スループット化と、再生医療研究における機能的プ
ロテオミクス解析の実施体制が整った。これらを基礎に平成 28 年度から本事業終了予定の平成
29 年度までは、細胞移植における細胞の品質管理及び移植患者の免疫応答モニタリングと、細
胞移植の安 全性を移植 前から移植 後まで、全 般に渡って支援する技術の開発を重点的に進 め
る。
上記研究課題の推進にあたり、代表研究機関である産総研では主として各種検体を用いた評価
系の開発を進める。一方、分担研究機関である JBIC は産総研と共に今までに構築してきたヒト遺
伝子発現リソース及び網羅的なタンパク質発現技術を用いて、主としてプロテインアレイを用いた
解析に必要なクローン及びその発現タンパク質を作製すると共に、解析技術の最適化を進める。
また、上記リソースを元に平成 27 年度まで実施してきた NWPG 内研究機関からのリクエストに対
する遺伝子発現クローンの供給に加えて、遺伝子発現タンパク質の供給も開始し、疾患 iPS 細胞
等の再生医療研究の推進を支援する。具体的な研究項目は以下の通りである。
研究項目 1: プロテインアレイによる細胞移植の安全性評価(移植後の評価)
(1) プロテインアレイの検出効率の最適化
(2) プロテインアレイの性能評価
(3) 細胞移植の安全性評価
研究項目 2: プロテインアレイによる移植細胞の品質管理(移植前の評価)
(1) 細胞プロファイリングによる移植細胞の品質管理系の構築
(2) 血清成分を利用した非目的細胞亜集団の選別
(3) プロテインアレイ解析リクエストへの対応
研究項目 3: 疾患・再生医療関連遺伝子クローンリソースの提供
(1) 疾患・再生医療関連遺伝子クローンの供給
(2) 疾患・再生医療関連遺伝子発現タンパク質の供給
(3) 疾患・再生医療関連遺伝子情報のデータベース収載
12
【実施体制図】
13
2.3.体液中マイクロ RNA 測定技術基盤開発
本プロジェクトは、平成 26 年 6 月からスタートした新規の NEDO プロジェクトであり、血液中のマイ
クロ RNA の大規模解析を行い、乳がんや大腸がん等の 13 種類のがんと認知症の早期発見マーカ
ーの探索と実用化を実施し、医療の現場で使用できる次世代診断システムの技術開発を目指して
いる。
JBIC は、本プロジェクトの中で、ユーザーフォーラムの運営、及び臨床現場での使用に向けた検
査システムの開発業務を担当している。ユーザーフォーラムでは、プロジェクトの成果を製薬企業、
診断薬企業及び診断機器企業等の多くの企業に橋渡し、プロジェクト成果の実用化を推進する。
臨床現場での使用に向けた検査システムの開発では、プレシジョン・システム・サイエンス株式会社
(PSS)と共同で疾患組織由来エクソソーム中マイクロ RNA の抽出・精製及び解析を行う全自動検
査システムの開発を行い、JBIC は、エクソソーム捕捉のための抗体について調査、検証実験、及び
評価を行う。また、エクソソーム中のマイクロ RNA 等の核酸情報物質について、DNA マイクロアレイ
による解析結果を次世代 DNA シーケンサーを用いて比較・検証する業務を担当する。
【平成 28 年度計画】
平成 28 年度の計画は以下の通りである。
(1) ユーザーフォーラムの運営
①
プロジェクトの成果を製薬企業、診断薬企業及び診断機器企業等のユーザーフォーラム
参画企業に円滑に橋渡しを行う。
②
昨年度に引き続き、ユーザーフォーラム参画企業向けにプロジェクト成果の報告会を年
間 2∼3 回程度行うとともに、平成 27 年 2 月に開設したユーザーフォーラム専用ホームペ
ージを活用してプロジェクト進捗状況等を速やかに伝達する。
③
フォーラム参画企業から本プロジェクトに対する要望等をヒアリングし、その結果を研究
開発メンバーにフィードバックを行う。
(2) 臨床現場での使用に向けた検査システムの開発業務
平成 27 年度に引き続き、エクソソーム捕捉のための抗体について調査を行い、一般的な
エクソソーム表面抗原を捕捉する試薬を用いた、エクソソーム捕捉系の構築を行うための検
証実験及び評価を行う。
(3) 次世代 DNA シーケンサーを用いた比較・検証
平成 27 年度に引き続き、マイクロアレイにより取得されたマイクロ RNA 発現プロファイルの
データ検証を行うため、次世代 DNA シーケンサーを用いて小胞体に含まれるマイクロ RNA
を含む核酸情報物質の解析を行い、解析プラットフォーム間でのデータ差異について比較
検討を行う。
14
【実施体制図】
15
2.4.技術研究組合に係わる研究開発業務(次世代天然物化学技術研究組合)
JBIC は、次世代天然物化学技術研究組合の組合員として参加し、経済産業省プロジェクト「次
世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発(天然化合物及び IT を活用した革新的医薬品
創出技術)」に参画し、次の二つの研究開発テーマを実施している。
平成 25∼26 年度は経済産業省プロジェクトであったが、27 年度からは国立研究開発法人日本
医療研究開発機構(AMED)に移管されて事業を実施している。
2.4.1.次世代型有用天然化合物の生産技術開発
本事業では、我が国が強みとする微生物のライブラリーや、天然物化学に対する知識・ノウハウ
等を最大限に活用し、優れた医薬品候補となりうる天然化合物を安定的かつ効率的に生産するた
めの技術開発を行う。
具体的には、平成 24 年度までの NEDO プロジェクトで放線菌を用いて検証してきた有用天然化
合物の生合成遺伝子クラスターを取得し、異種発現を行う技術を、(1)更に高度化し、うまく発現で
きなかったケースにも対応できるようにするとともに、(2)これまでは培養が難しいために生産を断念
してきた難培養微生物や難培養海洋微生物由来の有用天然化合物に対しても生合成遺伝子クラ
スターの取得と異種発現を行うことを目的としている。
これにより、医薬をはじめ、農薬、機能性材料等の幅広い分野に活用できる天然化合物の生合
成研究開発を加速する。更に、「IT を活用した革新的医薬品創出基盤技術開発」とも連携すること
によって、画期的新薬の創出の期待ができるとともに、我が国のバイオ産業の競争力強化を図る。
2.4.2.IT を活用した革新的医薬品創出基盤技術開発
AMED の中間評価結果を受けて、平成 27 年度まで実施してきた探索的実証研究は、平成 28
年度より、以下の分担研究開発課題の中に、新たに「新 myPresto(革新的 in silico シミュレーショ
ン/スクリーニングソフトウェア)による探索的実証研究」を設けて実施する。
① 革新的 in silico シミュレーション/スクリーニングソフトウェアの開発
国産の IT 創薬のための要素技術を広く整備し、膜タンパク質にも重点を広げる。急速に進化
する計算機へ対応し、これまでの分子設計の経験を生かして創薬における実際の分子設計に
適した利便性の高いソフトウェア(新 myPresto)を国内の産業界に提供する。更に、X 線及び電
子線、NMR から得られたタンパク質・リガンド候補との複合体の構造情報を活用し、新規候補化
合物の合成及び活性評価を行い、有用性を実証する。
② 核磁気共鳴法(NMR)によるタンパク質の生理的条件下における動的立体構造取得技術の
開発
得られた成果を計算科学的アプローチに組み込むことにより、新 myPresto 開発に資する。更
に、これら技術要素に関わる手法をプロトコール化するとともに、NMR から得られた動的構造情
報を活用して、新 myPresto により新規のリガンド候補化合物を設計して、実際に合成及び活性
の評価を行い、新 myPresto から得られるヒット化合物の有用性を実証することによって、医薬品
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産業での普及を促す。
③ X 線及び電子線によるタンパク質及びその化合物複合体の精緻立体構造取得技術
基盤技術開発を更に進めると共に、これらの技術要素を組み合わせる事によって、創薬標的
タンパク質(脳浮腫や視神経脊髄炎などの)の立体構造を解析する。得られた成果を計算科学
的アプローチとの連携により、新 myPresto の開発に資する。これら技術要素に関わる手法をプ
ロトコール化することによって医薬品産業での普及を促す。
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3.調査企画
3.1.調査企画
(1)個別化医療を目指した研究開発への取り組み
個別化医療関連での米国政府の取り組みとして、2015 年一般教書演説において、オバマ大統
領 は、遺 伝 子 、環 境 、ライフスタイルに関 する個 人 間 の違 いを考 慮 した予 防 や治 療 法 、即 ち
Precision Medicine の研究開発を発表し、2016 年度予算として 2 億 1500 万ドル(260 億円弱)を
投じ、全米 100 万人コホート研究、より良いがん治療法の開発、プライバイシー問題への対応、規
制の近代化、及び官民連携を推進するとした。更に 2016 年には、がん分野での Moon Shot 計画
を発表した。 Moon Shot 計画とは、全米最大規模のがんセンターの一つである MD Anderson が
んセンター(テキサス州)が、がん治療に最大限の資源や能力を投入し、がん治療効果を飛躍的に
向上させようとする計画である。この Moon Shot 計画の基本的な方針は、がんドライバ遺伝子変異
等 のがんゲノム解 析 を利 用 し、より最 適 な治 療 方 法 を選 択 するということであり、個 別 化 医 療 や
Precision Medicine の考え方と同様である。米国政府の Moon Shot 計画についてはバイデン副大
統領指揮の下、米国政府を挙げた計画になる模様である。
国内でもゲノム医療実 現のための具体的な課 題を議論するため、健康 ・医療戦略 推進本 部の
「ゲノム医療実現推進協議会」に「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」(ゲノム
医療 TF)が設置されている。ゲノム医療 TF では、改正個人情報保護法におけるゲノムデータ等の
取扱いについて議論され、「ゲノムデータ」は、社会通念上、「個人識別符号」に位置づけられるも
のであり、「ゲノム情報」は、それ単体では医学的意味合いを持つものではないが、単一遺伝子疾
患、疾患へのかかりやすさ、治療薬の選択に関するものなどがあり「要配慮個人情報」に該当する
場合があるとし、今後検討すべき事項として、既にバイオバンク等で収集されている「ゲノムデータ」
の取扱いについて、個人情報の保護を図りつつ研究の推進という立場から検討することが必要と
の意見とりまとめを発表している。
JBIC では、海外における先進的な個別化医療への取り組み状況について、米国メイヨ-クリニック
やメモリアルスローン・ケタリングがんセンターの事例を調査してきた。米国では、特にがん分野やト
キシコゲノミクス関連でゲノム個別化医療が医療現場で実用化されてきているが、国内では上記ゲ
ノム医療 TF で議論はされているものの、医療現場での実施についてはまだ普及しておらず、関連
の研究開発も不充分である。
個別化医療(あるいは Precision Medicine)の研究開発と医療現場での実践には、患者からの病
巣組織の入手(biopsy)とそのがん組織のゲノムを含めた分子診断、更には、がんの薬剤応答性を
患者個人のがんのモデル系で解析することが必須である。この点について、JBIC ではオルガノイド
に注目し調査を行ってきた。オルガノイドとは、臓器やがん等の細胞を三次元的に培養して作らせ
た細胞集合体で、現在モデル系で使われている初代培養細胞やゼノグラフト(担がんマウス)に比
べ樹立確率が高く、臓器の組織構造を保持しているので薬剤の効果や副作用をより正確に調べる
のにも役立つという利点がある。2 週間程度の短期間で患者個人のオルガノイドを樹立でき、薬剤
の応答性を解析できるので、オルガノイドをがん個別化医療に応用し、有効な抗がん剤情報を患
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者へフィードバックすることが可能と考えられている。
JBIC では、改正個人情報保護法におけるゲノム情報の取り扱い等の制度面の調査を進めるとと
もに、個別化医療を実現するための研究開発に関して、オルガノイド等の新技術関連の調査・検
討を行い、プロジェクト化に向けた企画立案を進める予定である。
(2)Liquid Biopsy について
上記の個別化医療の項目に記載したように、個別化医療や Precision Medicine の実践には、ゲ
ノムを含 めた分 子 診 断 解 析 が必 須 である。Biopsy は侵 襲 的 であるが、血 液 等 体 液 採 取 (liquid
biopsy)による診断は低侵襲で biopsy と同等の検査ができる可能性がある。現在、マイクロアレイ、
次 世 代 シーケンサー等 様 々な分 析 プラットフォームを用 い、血 液 中 の循 環 がん細 胞 (CTC)や
cell-free DNA(cfDNA)、マイクロ RNA(miRNA)を解析し診断するという、liquid biopsy の技術開発
が進められている。
JBIC では、昨年度 liquid biopsy に関する JBIC バイオ関連基盤技術研究会を開催するとともに、
国際学会出席等の調査活動を行ってきた。また、AMED「体液中マイクロ RNA 測定技術基盤開発」
プロジェクトに参加し、miRNA を用いた liquid biopsy 関連の研究開発を実施してきた。
miRNA の診断マーカー研究開発に関連して、最近エクソソームが注目されてきている。エクソソー
ムとは細胞が分泌する細胞外小胞で、発見当初は細胞の不要物的な存在としか認知されず、その
機 能 や存 在 意 義 などは長 い間 不 明 であった。ところが、2008 年 にエクソソーム内 に mRNA や
miRNA を含む核酸物質が内包され、他の細胞へと受け渡されている可能性が示されるや否や、こ
こ数年の間に関連研究が一気に加速している。エクソソーム中の miRNA に関して、がん転移との
関連が示された論文が国立がん研究センター・落谷先生らのグループから報告され、またエクソソ
ー ム 表 面 の タ ン パク 質 が が ん の 転 移 先 を 決 め てい る と の 、 日 本 人 研 究 者 ら に よ る 研 究 成 果 が
Nature 誌で報告されている。このようにエクソソーム研究が急速に立ち上がっている一方、エクソソ
ーム自体の分離・分析、また表面や内包しているタンパク質や核酸分子の分析手法については確
立されていない。
JBIC では上記マイクロ RNA プロジェクトにおいて、エクソソーム分離と内包 miRNA 分析について
研究開発を実施しているが、エクソソームを分離・分析するための新たな技術開発及び測定機器
開発、エクソソームを利用したバイオマーカー探索、更に liquid biopsy 全般の新技術関連の調査・
検討を行い、プロジェクト化に向けた企画立案を進める予定である。
(3)薬剤耐性問題及び感染症対策として天然物ライブラリーの有効活用
欧米及びインド・中国では抗生物質の多用による薬剤耐性問題(AMR:Antimicrobial Resistance)
が大きな課題となっている。昨年の G7 首脳会議(サミット)でもこの問題が取り上げられ、「我々は、
抗生物質の適正使用を促進し、基礎研究、疫学研究、感染の予防及び抑制の促進、並びに新た
な抗生物質、代替的治療、ワクチン及び迅速な患者の身辺での検査の開発に取り組む。」と宣言
され、欧米では AMR に対する対策が進められている。米国では、耐性菌に対して有効な抗菌薬の
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開発促進のため、2020 年までに耐性菌に有効な抗感染症薬を 10 品目上市する「10 by 20」計画
が 2010 年に US 感染症学会により提言され、2011 年には感染症治療薬の開発を促進させる新し
い法律 GAIN 法(Generating Antibiotic Incentives NOW)が制定され、これに基づき新規抗菌薬
が開 発 されている。ヨーロッパでは、AMR を研 究 するアカデミア、ベンチャー企 業 に対 して IMI
(Innovative Medicines Initiative)や EU の中小企業対策等を通じて支援しており、製薬企業発の
ベンチャーで AMR に取り組む企業も多い。
我が国では、薬剤耐性問題は欧米や他のアジア諸国と比較してそれほど深刻な状況となってい
ないが、G7 サミットの宣言に対応した対策が必要であり、訪日観光客の急増等により海外との人の
往来が活発になり、薬剤耐性問題や新たな感染症(デング熱、ジカ熱、動物由来感染症等)が身
近な問題になる可能性もある。多くの抗菌薬を含む医薬品は天然物由来のものが多く、大村智先
生のノーベル賞受賞対象となったオンコセルカ感染症の治療薬であるイベルメクチンは、土壌に存
在する放線菌という天然物から作製されたものである。JBIC では、薬剤耐性問題や感染症対策と
して天然物の活用という観点から JBIC の天然物ライブラリーの活用を検討する。
(4)Drug Rescue(Drug Repositioning)への取り組み
医薬品開発のフェーズⅡやⅢの臨床試験において、薬効が認められなかったため開発が中断さ
れるケースは多々ある。このような薬剤はドロップ薬と呼ばれ、貴重な財産ではあるが企業の中で眠
っているのが実情である。Drug Rescue(DR)とはこのドロップ薬を再活用し、新たな薬効を探索する
ものである。
JBIC では、平成 24 年度より DR に関する調査や研究会の活動を実施し、国内の大学及び国立
研究機関等で新規薬効開発を行っている研究者の創薬シーズを製薬企業に紹介するバイオ関連
基盤技術研究会を開催し、アカデミア、臨床研究機関(ARO)と製薬企業との連携の可能性を検
討してきた。DR は国内製薬企業も注目しており、専門の担当部署を設置し DR に取り組んでいる
大手製薬会社が増えてきている。
米国 NIH では、その下部組織である NCAT(The National Center for Advancing Translational
Sciences)が総額約 1600 万ドルを拠出し、2013 年から 9 プロジェクト、2015 年から 4 プロジェクトが
実施されており、エストロゲンレセプターアゴニストの統合失調症治療薬への転換、抗炎症剤の 2
型糖尿病治療薬への転換等、DR 研究開発を進めている。これらは、治験あるいは治験を目指した
前 臨 床 研 究 で あ り 、 NIH は Late-Stage Repurposing と 呼 ん で い る が 、 こ れ ら に 加 え て
Early-Stage Repurposing と呼ぶ、既存薬やドロップ薬ライブラリーの新規薬効探索スクリーニン
グもサポートしている。即ち、NIH は NCATS Pharmaceutical Collection として既存薬 2500 剤とド
ロップ薬 1000 剤を集め、希少疾病用医薬品探索等のプロジェクトにおいて利用できるようにしてい
る。また、これらの薬剤ライブラリーの各薬剤の情報、即ち化合物構造、薬効や標的分子、認可・
承認状況、サプライヤー情報等は Pub Chem データベースに蓄積されており、スクリーニング結果
も収集されている。この薬剤に関する詳細情報は、今後順次公開していくとのことである。
以上のような Early-Stage Repurposing のための探索スクリーニングには、通常の創薬研究にもよ
く用いられている in vitro のアッセイ系を用いたハイスループットスクリーニング(HTS)が利用される
が、最近は培養細胞を用いたハイコンテントスクリーニング(HCS)・フェノタイプスクリーニングも活
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用されるようになっている。上記、個別化医療の項目に記載したオルガノイドは、初代培養細胞に
比べ樹立確率が高く、臓器の組織構造を保持し、より生体を反映した薬効スクリーニングの実施が
可能であり、DR 研究を含めた創薬応用が期待されている。
JBIC では、これまで実施してきた DR に関する調査や研究会の活動を踏まえて、更なる検討を行
うととも、HCS 関連のオルガノイド関連機器開発を含めた、DR 研究開発のプロジェクト化に向けた
調査、企画立案を進める予定である。
(5)会員企業のニーズに基づく新技術産業応用検討 WG による取り組み
JBIC では、バイオ関連分野の国内外での技術開発動向や先端的な技術を幅広く調査し、国内
及び欧米諸国の政策動向も踏まえて今後注目すべきテーマを取り上げ、会員企業を対象としたバ
イオ関連基盤技術研究会を定期的に開催し、今後取り組むべき方向性や産業応用の可能性につ
いて議論してきた。また、これらの調査結果は JBIC の会員専用ホームページに掲載し、会員企業
内での有効活用を図ってきた。
28 年度は、このような事務局独自のテーマ選定だけでなく、会員企業が興味を持っているテー
マを幅広く募集し、この中から多くの企業が興味を持っている共通のテーマを選択し、新技術産業
応用検討ワーキンググループ(WG)を立ち上げる。この検討 WG では、会員企業で興味を持つ研
究者が集まり、そのテーマに詳しいアカデミアの先生方や企業研究者を講師として招いて、技術的
な意見交換ができる場を設け、先端的な技術に対する理解を深めるとともに、技術的課題や産業
応用の可能性について議論する。このような議論を重ねることにより、企業間での共同実施体制の
構築や新規プロジェクト企画の可能性についても検討する。
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3.2.国内外技術動向調査
国内外の企業や専門家、研究機関等を訪問し、バイオ関連技術等に関する最先端の技術動向
(エクソソーム、オルガノイド等)や法規制動向(改正個人情報保護法等)の調査を進めるとともに、
国内外で開催される展示会やセミナー、学会等へ参加し、世界の動向、最先端技術等について
広く情報を収集する。
海外では、米国 BIO International Convention(6 月 サンフランシスコ/米国)及び BIO-Europe
(11 月 ケルン/ドイツ)への参加を予定している。
これらの調査結果及び最新の情報については、バイオ関連基盤技術研究会のテーマとして取り
上げ、JBIC 会員専用ホームページへの掲載や JBIC メールマガジンをとおして広く発信する。
3.3.バイオ関連基盤技術研究会
昨年度に引き続き、バイオ関連基盤技術における幅広い分野を対象としたバイオ関連基盤技術
研究会を定期的に開催する。本研究会は JBIC 会員企業が対象であり、会員企業の要望や提案
を取り入れて、バイオ関連分野の最新の研究内容、技術、動向等について企業やアカデミアより講
師を招き、今後の取り組むべき方向性や産業応用の可能性について議論できる会を目指す。
今 年 度 のテーマとして個 別 化 医 療 、ハイコンテントスクリーニングを含 めたオルガノイド関 連 、
Liquid Biopsy 等の検査・診断技術、研究機器開発を含めたエクソソーム関連、Drug Rescue 等に
ついて取り上げる予定である。
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4.成果普及事業
4.1.プロジェクト研究成果の普及・活用
(1)Glis1 及びヒトタンパク質発現リソース(HUPEX)
NEDO 「iPS 細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」プロジェクト(平成 21 年度∼22 年度)
及び JST「山中 iPS 細胞特別プロジェクト」(平成 23 年度)において、iPS 細胞を作成するための 4
つの転写因子の中で、腫瘍発生のリスクがある c-Myc に代わる新たな因子として、iPS 細胞に安全
かつ高効率に誘導することが出来る転写因子 Glis1 を見出し、機能解析を行った。これは、NEDO
「タンパク質機能解析・活用プロジェクト(平成 12 年度∼17 年度)」において開発したヒト完全長
cDNA を基盤とした HUPEX を用いて探索されたものである。Glis1 については、京都大学及び国立
研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と共同で特許出願し、iPS アカデミアジャパン株式
会社を通じて国内外へのライセンス活動を実施している。
HUPEX は、製品評価技術基盤機構(NITE)の NBRC (Biological Resource Center)に寄託し、
海外も含めて一般に広く提供している。また、大学等のアカデミアとは共同研究にて HUPEX を利
用した分化誘導因子の探索研究等を産総研と共同で推進している。
平成 25 年度に採択となった JST 再生医療実現化拠点ネットワークプログラム(平成 27 年度より
AMED)においては、再生医療に重要な細胞システム制御遺伝子クローンを約 1,500 種類作成し、
本リソースの拡充を進めている。新規クローンに関しては作製後一定期間が経過してからとの制限
付きではあるが、データベース、HGPD(Human Gene and Protein Database http://www.hgpd.jp/)
にてその情報を公開している。平成 28 年度以降も疾患・再生医療関連遺伝子クローンを中心に本
リソースの拡充を進め、随時情報を HGPD に収載し、HUPEX の国内外での普及に努める。
(2)天然化合物ライブラリー
NEDO「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発」プロジェクト(平成 18 年∼22 年度)
において製薬企業等から提供を受けたサンプルも含めて約 30 万の天然化合物ライブラリーを構築
した。この天然化合物ライブラリーは我が国に於ける創薬基盤の一つと位置づけられている。
この成果を継続して維持管理するとともに、民間企業及びアカデミアでの利用を推進するため、ラ
イブラリーを提供した製薬企業及び産総研と共同で次世代天然物化学技術研究組合を設立し、
天然化合物ライブラリーの利用促進を図っている。
今までの実績として民間企業 7 件、アカデミア 19 件があるが、今年度は、昨年度に引き続きベン
チャー企業も含めて広く製薬企業等に働きかけるのに加えて、AMED の創薬支援ネットワークや次
世代がんプロジェクトのようなアカデミアからの利用も広げてライブラリーの有用性を検証し、本成果
の普及に努める。
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(3)myPresto(分子シミュレーションシステム)
近年、IT 創薬への関心が増々高まっていることから、平成 28 年度も引き続き、myPresto を広く
利用できるようにするため、学会、BioJapan 等への展示、バイオインフォマティク関連企業及びベ
ンチャーとの連携等を通じて普及活動を行う。また、myPresto のクラウド環境での実行を実現する
ことで、より使い易く・より低コストでのサービスを可能とし、ユーザーの拡大を図る。
myPresto は、既に国内数社の製薬メーカー及び数十か所の国内外大学・研究機関、また創薬
以外の農業の分野でも採用されており、今後は、化粧品、食品、塗料等の分野でも適応可能であ
ることから、これら分野への拡大を図る。
4.2.活動・成果の情報発信
(1)研究成果報告会
研究成果報告会は、JBIC が実施しているプロジェクトの研究成果を報告する会であり、次世代天
然物化学技術研究組合と共同で開催する。昨年度は 3 年ぶりの開催であったが高い評価が得ら
れており、本年度も引き続き開催する。参加者は JBIC 会員企業をはじめ製薬、食品、IT、化学等
の企業や大学、公的研究機関等と幅広く、28 年度も更なる参加者の募集、運営方法、内容等に
工夫を重ね、研究成果を広く発信できるよう一層の充実を図る。
(2)展示会への出展
JBIC の活動紹介やプロジェクト研究成果の普及、バイオ関連分野の動向調査及び情報収集等
を目的として展示会や学会への出展、参加を行う。具体的には、国内では BioJapan 2016(10 月 12
日∼14 日、パシフィコ横浜)、CPhI Japan 2016(4 月 20 日∼22 日、東京ビッグサイト)への出展を
予定している。特に、BioJapan では昨年同様展示ブースを設け、展示ブース内の大型モニターや
パネル等を活用し、JBIC の活動紹介だけでなくプロジェクトの研究成果や会員企業によるミニプレ
ゼン、ソフトウェアのデモンストレーション等を合わせて実施する。
(3)ホームページ、メールマガジンによる情報発信
平成 23 年度にホームページを全面リニューアルし、掲載内容だけでなくデザイン面や機能面に
おいても充実を図ってきた。今年度も研究開発プロジェクトの活動内容や成果、関連するセミナー
やシンポジウム等の最新情報をタイムリーに掲載できるよう更なる改善を行う。
また、メールマガジンにおいては、ライフサイエンス分野における最先端の技術や研究内容、国
内外の動向等に関する最新情報等をメインに配信し、ホームページと連動させながら、情報発信を
行う。
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