医療保護入院における家族等の同意に関する運用について 1.第33条1

【資料9】
医療保護入院における家族等の同意に関する運用について
1.第33条1項
家族等の同意
【事例1】35歳 主婦。
夜間急性錯乱状態を呈し、隣人が警察に通報し、保護されて救急輪番である
当院を受診した。当院へは初診で病歴等の情報もない。40歳の夫と二人暮ら
しで、挙児なし。最近転居してきたばかりとの事で、本人の両親、兄弟等の状
況について、隣人やマンションの管理人からは、情報が得られない。診察の結
果、自傷他害の畏れは無いと判断されるが、会社員の夫は、出張中ということ
が分かり、単身となる自宅へ帰すことは、適当ではない。
①
出張先の夫とは、電話連絡がついたが、すぐには来院できないと言う。こ
の際、電話連絡で入院同意が得られれば、医療保護入院は可能か?また、夫
本人であることを実証することが出来ないが、後日の確認で良いのか?
<回答>
「家族等」が遠方の場合等においては、電話連絡等によってその同意の意
思を確認し、追って同意書を提出していただく取扱いとして差し支えありま
せん。また、夫の本人確認については、常識的な範囲で行ってください。
②
出張先の夫とは、連絡がつかなかった。どのくらいの時間、連絡を取り続
けるべきか?
<回答>
当該精神障害者の病状にもよるため一概にはいえませんが、何度か連絡を取
ることを試みても連絡がとれない場合は、応急入院により対応してください。
③
結局、夫とは連絡がつかなかった。この場合、市町村長同意による医療保
護入院とすることは、可能か?
<回答>
家族等の存在を把握している場合については、当該者について市町村長同意
を含め医療保護入院を行うことはできません。
④
その場合、市役所の当直職員の口頭による同意で、入院は可能か?市町村
長の同意書の確認が必要か?
<回答>
③の回答のとおり、御指摘の場合は、市町村長同意を行うことはできませ
1
ん。なお、一般に、市町村長同意を行う場合、同意の依頼は電話等口頭で行
うことができ、市町村長の同意が行われた旨の連絡も口頭での連絡が可能で
す。ただし、その場合も、病院は、口頭依頼後に速やかに同意依頼書を市町
村長にあて送付し、市町村長は口頭での連絡後速やかに同意書を作成して病
院に交付することとなります。
⑤
家族等が存在することが分かっているので、応急入院とし、応急入院の指
定病院へ転送するのが妥当か?
<回答>
②でお答えしているとおり、御指摘の場合は応急入院により対応してくだ
さい。
※
なお、一般的には、本人や周囲の関係者に確認しても家族等の存在を把握
することができない場合には、市町村同意により医療保護入院を行うことが
できます。
【事例2】70歳 男性。
以前より市営住宅で単身生活を送っている。最近認知症の症状が出現して、
「火の始末ができなくて危険」
「ゴミ屋敷の状態になっていて、害虫が発生して
不衛生だし、臭気もひどい」との苦情が近隣より寄せられていたが、精神科医
療機関へは未受診であった。今日は、ボヤ騒ぎを起こし、市の担当者と民生委
員に付き添われて、受診。その際、受診を拒否して、暴言・暴力もみられた。
また老齢福祉年金受給中で、生活保護の対象とはなっていない。単身生活は困
難で、入院治療が必要と考えられる。
①
市の担当者も、家族等の状況については、把握できていないという。病院
として、家族等の存在確認は、どの程度までするべきか?この時点で、即座
に市町村長同意による医療保護入院とすることは、可能か?
<回答>
病院による家族等の存在の有無の確認については、本人からの聴取等により
確認できる範囲で確認いただくことで差し支えありません。病院側の調査の結
果家族等がいない又は意思を表示することができない場合、市町村長は住民票
等によりその確認を行った上で、同意の手続を進めることとなります。
②
ようやく市町村長同意による医療保護入院となって、10日が経過した時
点で、ひょっこり長男と名乗る人物が現れた。この人物の続柄等の確認は、
2
何をもって行うべきか?また、それは入院先の病院が行うべきか?
<回答>
当該医療保護入院自体は市町村長同意により成立しているので、長男と名乗
る人物について、医療保護入院の同意者としての続柄確認を行う必要はありま
せん。ただし、当該者が真に長男である場合は、入院中の本人に対する面会等
の制限について連絡する場合があることや、当該長男が退院等の請求権を有す
ること等の理由から、念のため続柄確認を行うことが望まれます。
③
長男と続柄を確認できたが、医療保護入院については、同意できないとい
う。この場合、そもそも市町村長の同意による医療保護入院は無効であると
解して、即座に退院に応じるべきか?それとも市町村長同意は、あくまでも
有効として、入院を継続する方針で、それを説明しても依然として反対の意
志を有する場合は、都道府県知事に対する退院請求について、教示するべき
か?
<回答>
長男の存在を把握したとしても、当該医療保護入院自体は市町村長同意によ
り成立しているものであり、医療保護入院の継続に特段の手続は必要ありませ
ん。長男が医療保護入院に反対する場合は、精神保健指定医の判断として当該
医療保護入院者を退院させるか、又は長男が都道府県知事若しくは指定都市の
市長に退院請求を行うこととなるため、退院請求ができる旨を長男に教示して
ください。
④
長男は、市町村長同意による入院に関する入院費の負担には応じられない
と言う。この主張は、適法な主張か?
<回答>
入院費については、本人又は扶養義務者が負担することとなっておりますが、
当該長男については、民法上の扶養義務の及ぶ限りにおいて、入院費の負担に
応じる必要があると考えられます。
【事例3】17歳 女子高校生。
両親は離婚調停が不調で訴訟中であり、母親、兄と3人暮らしをしている。
以前から「拒食症」の診断で、精神科クリニックで治療中であった。ここ数ヶ
月は病状が不安定で、学校は休みがちで、母親に対する暴力も出現していた。
拒食も強まり、身体的にも危険な状態に陥り、クリニックの医師より、当院に
入院の要請があった。本人は入院を拒否するため、母親には医療保護入院につ
いて説明を行い、同意が得られた。しかし別居中の父親に連絡を取ったところ、
3
同意が得られなかった。
①
既に成人している兄に、医療保護入院に対する同意を求めることは可能
か?
<回答>
当該兄による医療保護入院が可能です。ただし、民法上の親権の共同行使
の規定にしたがって、原則としては、未成年者の医療保護入院の同意は父母
双方の同意を要することとしています。
②
やはり親権者両方の同意が必要と解されるとして(母親と成人している兄
の同意ではダメ)、母親が離婚を申し立てている理由が、父親による虐待にあ
るような場合にはどうか?
<回答>
民法上の親権の共同行使の規定にしたがって、医療保護入院の対象者が未
成年者である場合には、原則として親権者である父母両方の同意を要するこ
ととしていますが、片方が虐待している場合等については、その例外として
取り扱って差し支えありません。
③
そもそも、両親の両方の同意が必要なのか?(家族等であれば、どちらか
一人で良いのではないか?)
<回答>
家族等のうちいずれかの者の同意があれば医療保護入院は可能です。ただし、
民法上の親権の共同行使の規定にしたがって、原則としては、未成年者の医療
保護入院の同意は父母双方の同意を要することとしています。
【事例4】85歳 女性。
以前より認知症の診断で当院での治療を継続している。夫は、会社を興し、
その経営にあたっていたが、10年前に急逝した。現在、本人は長男家族と同
居している。他に次男が居り、別に所帯をかまえている。認知機能の低下が著
しく、5年前に弁護士が後見人に選任された。今回徘徊、異食等の BPSD が著
しくなり、入院について、長男の同意を得たが、次男と後見人に連絡し判断を
問うと、どちらも「今回の入院には同意できない」と言う。
①
この場合、家族等の意見が一致していないが、同伴している長男の同意に
よる医療保護入院とすることが出来るのか?
<回答>
4
長男の同意による医療保護入院は可能です。ただし、その際、後見人の意見
に配慮いただくとともに、可能な限り、家族等の間の意見の調整が図られるこ
とが望ましく、必要に応じて次男及び後見人に対して医療保護入院の必要性等
について説明することが望まれます。
②
長男と次男が一緒に同伴してきて、家族等の間で入院について意見が一致
しない場合、入院は保留として帰宅してもらうことで良いのか?
<回答>
医療保護入院の同意についての家族等の間の判断の不一致を把握した場合
においては、可能な限り、家族等の間の意見の調整が図られることが望まれま
すが、指定医の判断として医療保護入院を行わないことも可能です。なお、法
律上は、長男の同意により医療保護入院を行うことも可能です。
③
付き添いした長男が入院に同意したので、医療保護入院の手続きに入った
が、その時点で、後見人の存在が分かった。手続きの前に後見人の意見を聞
くべきか?
<回答>
御指摘の場合には、トラブルの未然防止の観点からは、後見人の意見を聴く
ことが望まれます。
④
その時点で、後見人が同意しない旨表明した。長男の同意のみで、医療保
護入院とするのは、適当ではないのか?長男の同意で医療保護入院の手続き
を行った(この時点では、後見人の存在を管理者は把握していなかった)が、
翌日母親の入院を知った次男が後見人である弁護士を伴って来院し、次男、
後見人ともに入院には同意できないと表明した。
⑤
この場合にあっても、長男による医療保護入院の手続きは、あくまでも有
効なので、 後見人がどうしても同意できないのであれば、退院請求を行うよ
う説明してよいか?
<④及び⑤への回答>
長男の同意のみで医療保護入院を行うことは差し支えありません。御指摘の
場合の次男及び後見人に対しては、入院医療の必要性や手続の適法性等につい
て説明することが望まれますが、その上で、次男及び後見人が依然として反対
の意思を有するときは、都道府県知事(精神医療審査会)に対する退院請求を
行うことができる旨教示してください。
5
⑥
後見人の意見に配慮して、退院に応じるべきか?
<回答>
長男の同意による医療保護入院は適法であり、必ずしも退院に応じる必要
はありませんが、精神保健指定医の判断として、当該医療保護入院者を退院
させることは可能です。
6