T病院(仙台)の建物・設備における故障・不具合に関する調査研究 Study on Failures and Troubles at Building and Building Services of T-Hospital in Sendai その2 故障・不具合の発生件数に関する分析 Part2 Analysis on Number of Occurrence of Failures and Troubles 酒井 祐貴* 須田 翔吾* 高草木 明** 須藤 美音*** Yuki Sakai Shogo Suda Akira Takakusagi Mine Sudo Keywords:Hospital Facility,Failures&Troubles,Occur 病院,故障・不具合,発生 3.故障・不具合の構成要素別件数 図 4~図 12 に、各設備の故障・不具合の構成要素別件数を示 す。 図 4 の空調設備においては、空気調和機の故障・不具合が一 番多く、配管やダクトの故障・不具合は 10 件未満にすぎない。 図 5 の給排水衛生設備では衛生器具が最も多く、次いで、排 水による故障・不具合が多い。給水や給湯には故障・不具合が 少ないことが分かる。 *東洋大学 **東洋大学理工学部建築学科 教授 博士(工学) ***名古屋工業大学大学院 助教 博士(工学) 0.0229 0.02 故障・不具合発生件数 [件/1000m²・日] 2.発生件数の原単位 T 病院における各設備の故障・不具合発生の原単位を図 1 に 示す。なお、原単位の定義は前報で示した通りである。空調の 原単位が大きく目立っている。防犯設備、防災設備、機械設備 の原単位は小さく、 故障・不具合の発生は少ないことがわかる。 T 病院は 1979 年に竣工しており、 30 年余りが経過しているが、 改修工事が適宜行われており、建築部位においての故障・不具 合は頻発しているという状況ではない。 階別の原単位を図 2 と図 3 に示す。図 2 は空調設備・給排水 衛生設備・ボイラ設備・電気設備を、図 3 では防犯設備・防災 設備・建築系医療用設備・建築部位・機械設備・その他をまと めたものである。階ごとの床面積により、図 1 と同様の方法で 階別の原単位を求めた。全体的に見て、1 階と 3 階の原単位が 大きくなっている。1 階には外来などがあり、人の出入りが激 しい為だと思われる。3 階は手術室がある。 建築系医療用設備では地下 1 階の原単位が大きい。医療用ガ スの不足警報が多発していた。場所は医療ボンベ室で、地下 1 階にこれがあるため、原単位を大きくしている原因である。な お、 「その他」とは、テレビやプリンターなどの電化製品や案内 看板などの故障・不具合である。 0.025 0.0151 0.015 0.0161 0.0088 0.01 0.0074 0.0054 0.0050 0.005 0.0022 0.0004 0.0002 0 空調 衛生 ボイラ 電気 防犯 防災 医療 建築 機械 その他 図 1 故障・不具合発生原単位(T 病院) 0.025 空調 衛生 ボイラ 電気 5F RF 0.020 故障・不具合発生件数 [件/1000㎡・日] 1. 研究の背景と目的 本報ではT病院の故障・不具合の発生件数に着目し分析する。 故障・不具合の発生件数について設備毎の原単位、 階別原単位、 設備構成要素毎の発生件数、発見種別、発生件数の月平均、曜 日毎の相違などを調べることにより、病院施設での適切な運営 や維持・管理への基礎資料を提供することを目的とする。 0.015 0.010 0.005 0.000 B1F 1F 2F 3F 4F 図 2 階別故障・不具合発生原単位(空調・衛生・ボイラ・電気) 図 6 のボイラ設備は、ボイラ本体(主にバーナー)の故障・ 不具合が多いのが特徴で、他は件数に差がない。重油タンク、 真空ポンプは切替作業が含まれている。 図 7 の電気設備の故障・不具合は、コンセント・配線が最多 で、次いで照明、ブレーカーとなる。蛍光管の取り換えはデー タから除外した。 「照明」は、主に安定器や照明器具である。弱 電設備のマイク・放送機器は故障・不具合がごく少ない。 図 8 の防犯設備では、故障・不具合の件数が 19 件と少ない。 この中で感知器・警報が多い。ここでの鍵とは、電気錠のこと Department of Architecture,Faculty of Science and Engineering,Toyo Univ. Professor, Toyo Univ., Dr.Eng. Assistant Prof., Nagoya Institute of Technology, Dr.Eng. 0.020 防犯 防災 医療 建築 機械 その他 発生件数[件] 0.018 故障・不具合発生件数 [件/1000㎡・日] 0.016 0.014 0.012 0.010 80 70 60 50 40 30 20 10 0 70 48 31 30 19 17 13 2 0.008 0.006 0.004 図7 電気設備の要素別故障・不具合発生件数 0.002 6 0.000 1F 2F 3F 4F 5F RF 図 3 階別故障・不具合発生原単位 1200 970 発生件数[件] 1000 4 4 3 4 4 2 2 1 800 0 596 600 5 5 発生件数[件] B1F 400 200 115 9 4 0 図 8 防犯設備の要素別故障・不具合発生件数 60 51 図 4 空調設備の構成要素別故障・不具合発生件数 1000 915 発生件数[件] 900 発生件数[件] 50 800 40 12 1 0 600 500 400 300 100 図 9 防災設備の要素別故障・不具合発生件数 151 200 96 29 37 給水 給湯 189 200 0 排水 167 衛生器具 700 620 600 発生件数[件] その他 図 5 給排水衛生設備の要素別故障・不具合発生件数 発生件数[件] 18 16 20 10 700 27 30 150 100 66 35 50 10 500 17 18 37 48 19 0 400 300 217 200 106 227 144 図 10 建築系医療用設備の要素別故障・不具合発生件数 100 0 軟水器 重油タンク その他 真空ポンプ ボイラ 図 6 ボイラ設備の要素別故障・不具合発生件数 であり、一般的な鍵は建築部位とした。図 9 の防災設備では、 排煙ダンパーやスプリンクラー(例えばヘッドカバー脱落)な ど防火・防煙に関するものが多い。次いで多いのは、避難や誘 350 314 25 月平均件数[件] 発生件数[件] 300 250 200 129 150 100 50 32 12 64 55 38 65 12 0 20 15 10 5 0 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 空調 図 11 建築部位の構成要素別故障・不具合発生件数 衛生 ボイラ 電気 図 14 故障・不具合の月平均発生件数 (空調・衛生・ボイラ・電気・防犯) 25 22 8 7 月平均件数[件] 発生件数[件] 20 15 12 10 5 6 5 4 3 2 1 1 0 0 その他 エレベータ 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 コンベア 防犯 建築 図 12 機械設備の故障・不具合発生件数 導に関するものである。 図 10 の建築系医療用設備では、医療用ガスが多く、次いで ベッドの付属機器の故障・不具合が多い。医療用ガスとは酸素 ガス、窒素ガス、笑気ガスであり、データとしては、このガス の不足(警報)によるものである。補充であるから不具合とは いえない。他病院2)ではナースコールの故障・不具合が多かっ たが、T 病院では 7 位(19 件)に留まった。 図 11 の建築部位では扉の故障・不具合が最も多い。これら は扉の開閉不良、フランス落としの不具合などが多い。鍵の故 障・不具合も扉に分類した。外構、天井などは、故障・不具合 の発生が少ない。凡例中の漏水とは、配管からの水が漏れによ り壁や天井に補修の必要が発生したものを指す。 「壁」や「床」 の項は漏水以外での原因により補修の必要が生じたものを指す。 717 287 70 40 72 19 19 図 12 の機械設備では、搬送設備であるコンベアの故障・不 具合が多く、次いでエレベータの故障・不具合が多い。 4.発見種別 保全記録データには、故障・不具合をどのようにして発見し たかが記入されていた。その内訳を図 13 に示す。凡例中の申 告は医師や患者からの連絡を受けて発見したもの、発見はメン テナンス員が巡視や点検の際に発見したもの、警報は機器の警 報によるものである。全設備において申告が最も多く、建築部 位においては 9 割を申告による発見が占める。発見ではボイラ 設備や防災設備が比較的多い。建築系医療用設備では、発見に 1 1 11 11 184 118 354 医療 その他 図 15 故障・不具合の月平均発生件数 (防災・医療・建築・機械・その他) 13 100% 80% 防災 機械 6 8 52 134 5 割合 60% 40% 3 17 923 4309 293 636 15 354 677 929 386 17 79 20% 0% 全設備 空調 衛生 ボイラ 電気 申告 防犯 発見 防災 警報 図 13 故障・不具合の発見種別の割合 医療 建築 機械 その他 全設備 16% 空調 15% 14% 衛生 17% ボイラ 防犯 13% 医療 17% 建築 機械 13% その他 12% 10% 17% 16% 16% 3% 15% 60% 金 10% 9% 6% 4% 10% 4% 5% 26% 13% 木 6% 16% 50% 水 9% 5% 19% 18% 17% 火 6% 7% 20% 16% 40% 月 10% 13% 7% 42% 15% 30% 11% 13% 13% 15% 20% 7% 5% 12% 9% 6% 8% 9% 15% 13% 17% 0% 13% 15% 19% 9% 11% 14% 14% 13% 11% 15% 12% 17% 14% 15% 16% 13% 12% 17% 21% 防災 13% 15% 13% 13% 13% 15% 15% 17% 電気 14% 15% 土 11% 70% 日 9% 5% 80% 7% 90% 100% 祝 図 16 故障・不具合の発生曜日割合 5.月と曜日及び日による相違 5.1 月変化のパターン 図 14 に空調設備、給排水衛生設備、ボイラ設備、電気設備、 防犯設備、図 15 に防災設備、建築系医療用設備、建築部位、 機械設備、その他の 11 年間の月平均故障・不具合発生件数の 変化パターンを示す。空調設備が 9 月に故障・不具合が少なく なっているのが分かる。このパターンは昨年報告した他の病院 の場合とやや異なる。ボイラは暖房シーズン後の3月に増加し ている。 給排水衛生設備では、特徴が見られない。 図 15 に示したパターンは個々の設備区分毎のデータ数が少 なく特徴が把握できないが、既報2)に示したパターンと同様 10 月に少ないという点が共通する可能性がある。 5.2 発生曜日 図 16 に故障・不具合の発生曜日の割合を示す。ボイラ設備 は日曜日に故障・不具合の発生割合が高い。これは真空ポンプ の切り替え作業が日曜日に行われているからである。防災設備 では、土曜日の故障・不具合発生割合が高い。ボイラ設備、防 災設備では、土曜日・日曜日・祝日の故障・不具合発生割合が 高いことが特徴であった。防犯設備はデータの数が少ない為、 グラフの結果が有意とは言えない。 5.3 日による発生件数のばらつき 一日に発生する故障・不具合は、多い日もあれば少ない日も ある。図 17 は、一日に発生する件数の分布である。全く発生 しない日が最も多く、一日一件がこれに次いでいる。これらの 差は小さい。以降、2 件/日、3 件/日と、徐々に度数が少な くなる。一日に発生する最多は 13 件であった。この度数分布 は、 当然ながら建物の規模によって異なる。 大規模な場合には、 一日の発生件数が少ない場合の度数が小さくなる。この図は中 規模病院の場合の例で、これは保全業務に要する稼働を検討す る資料になると考えられる。 1400 1200 1311 1238 1000 度数[日] よるものはごく僅かである。警報による発見では、防災設備、 建築系医療用設備、機械設備が多くを占める。建築部位では警 報による発見は少ない。 これらの発見種別は、設備の特徴が顕著に表れている。建築 部位の場合、申告によるものが 9 割を占めているが、人間の出 入りなどから、故障・不具合を発見することが多い。逆に建築 部位では警報があるものが少ないのである。防災設備では、火 災報知機の誤報や、異常を知らせる警報の機能が備わった機器 が多いため、警報によるものが多い。建築系医療用設備も同じ である。 825 800 600 467 400 233 141 200 61 32 16 7 4 6 9 10 11 12 13 0 0 1 2 3 4 5 7 8 3 1 1 件数[件/日] 図 17 一日に発生する故障・不具合件数の度数分布 結論 本研究は仙台市にある T 病院の保全記録データをもとに、病 院施設における適切な運営や維持・管理の基礎資料提供を目的 として、故障・不具合の発生件数について分析を行なった。 T 病院の故障・不具合発生件数の設備別の原単位、階別の原 単位を求め、どの設備が故障・不具合を多く発生しているか、 階別用途と故障・不具合の発生件数の関係を調べた。また、各 設備構成要素別の故障・不具合を調べた。さらに、月と曜日、 および日による相違として、それぞれの月変化パターンや、発 生曜日、 一日に発生する故障・不具合件数の度数分布を示した。 参考文献 1)須藤美音,酒井祐貴,須田翔吾,高草木明:T 病院(仙台)の建 物・設備における故障・不具合に関する研究 その 1 調査対象 概要と全体的分析,日本環境管理学会大会 2013,学術梗概 集,2013 年 2)須藤美音,高草木明,千明聰明:病院施設における保全記録デー タに基づく保全特性の把握,日本建築学会計画系論文集,第78 巻, 第 638 号,pp.203-211,2013.1
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