岩盤崩落対策の検討事例について

全地連「技術e-フォーラム2009」松江
【30】
岩盤崩落対策の検討事例について
応用地質㈱
1. 概要
○ 村本
将司
門原
博幸
このため調査は双眼鏡による遠望目視観察に加えてレ
国道斜面で最大径約3mの岩盤崩落が発生した。崩落
ーザープロファイラによる精密測量と専門業者による特
した岩石は防護柵を越えて下方の国道まで到達したた
殊登攀調査(ロッククライミング踏査)を採用した。こ
め,直ちに通行止め措置を行った。この道路は重要な観光
の結果、崩落箇所周辺で3個の径5m~7m 程度の不安定岩
道路であり一刻も早い交通開放が求められる中,慎重な
塊を特定し対策を行う方針とした。
安全性判断と早急な対策工事が必要となった。このよう
な状況下で,レーザープロファイラや特殊登攀調査を用
いて迅速な崩壊発生機構の把握に努め,落石シミュレー
不安定岩塊
ションにより最適な対策工法の選定を行った。また、施
不安定岩塊
工においては,上部の不安定岩塊対策(除去工)と下部の
岩盤崩落発生箇所
崩落岩盤土砂撤去作業との同時施工となったため,無人
化施工技術を採用し安全を確保しながら早期車線開放を
実施することができた。ここで,調査・設計・施工までを
既設吹付モルタル
一貫して管理した岩盤崩落対策事例について紹介する。
崖錐堆積物
2. 岩盤崩落状況の把握
岩石崩壊が発生した箇所は,図-1に示す海岸沿いの国
国 道
道斜面で,海蝕崖急斜面が山側に迫っており周辺では落
石や崩壊が多く発生していた区間であった。
崩落した落石分布
図-2
岩盤崩落発生箇所
崩落斜面調査結果図
(2) 崩壊の原因と崩壊機構
岩盤崩落の原因について以下のように推定した。
・
地質的素因:壁面にやや斜交する2系統の高角流れ
盤節理(図-2 の節理面①,②)が発達し,楔状の崩壊
が発生し易い状況にあった。
・
落石防止柵工
緩み発達誘因:急崖部の長期的重力変形や地震によ
る緩みの発達と開口亀裂への植生進入,雨水浸透(風
化進行)により不安定化が進行した。
国 道
・
崩落直接誘因:崩落前2週間で総雨量200mm の降雨
があり,亀裂中で水圧が発生し不安定化が急激に進
行した。
3. 応急対策工法の検討
(1) 工法選定
応急対策工は,早期の交通開放を最重要の目標として
以下に示す上部不安定岩塊対策工(発生源)と斜面末端
最大規模の落石(3.0m×1.4m×1.8m)
図-1
岩盤崩落発生箇所と落石状況
での防護工対策(待受け)の同時施工を採用した。
①
工法の採用)
(1) 詳細調査
岩盤崩落は,高さ60m,傾斜約70°の塊状な凝灰角礫岩
②
確認できた。
(図-2参照)
斜面下方の落石捕捉ポケット確保を目的とした
崖錐堆積物掘削(無人化施工(新技術))
からなる岩盤斜面の遷急線直下から発生しており,路上
からの遠望で,発生箇所はさらに不安定な浮石の分布が
不安定岩塊の除去(安全で且つ早急に除去可能な
③
仮設防護柵工設置後に片側交互による交通開放
この結果,調査・設計・施工管理までを含め見積もら
れた当初40日よりも大幅に早い30日間での1車線開放
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を実現することができた。
また、並行して実施した岩塊除去施工時の落石軌道と
の対比を行うことで,より正確なシミュレーションを行
①不安定岩塊除去工
うことができた。
・不安定岩塊(破砕除去)
除去後の岩盤斜面は、一時的な安定確保を
目的としてロープネット工を設置する。
(2) 恒久対策工(新技術)
解析結果による対策工比較検討結果を図-5に示す。こ
れより,斜面末端部に落石防護擁壁工を設置することが
落石エネルギーを効果的に吸収可能で跳躍高に対しても
最も有利で且つ経済的であると判断した。また,緑化が可
能であること,補強土が変形することでエネルギー吸収
②落石防護ポケット工:無人化施工
H=55m
・岩塊除去工と同時作業となるため無人化施工
により施工
・上方からの小落石を防護ポケットにより
エネルギーを吸収する
性能にも優れることから「補強土防護擁壁工法」を採用
した(図-6参照)。
恒久対策工検討
採用工法
対策工選定
③仮設防護柵工
第1案
第2案
第3案
重力式擁壁工
落石防護擁壁工
平場ポケット+落石防護擁壁工
落石シミュレーション
・落石エネルギー算出(構造物規模設定)
・跳躍高さ照査(構造物高さ設定)
④仮設防護柵工設置後に1車線開放を行う
図-3
★発生源対策工
ロープネット工
★待受対策工
落石防護擁壁工
↓
補強土防護擁壁工法
(背面土砂は全て除去し平
場ポケットを形成する)
対策工標準断面図
対策工法比較検討
(2) 上部不安定岩塊対策工(除去工)
除去工法の選定は、経済性のみではなく,周辺岩盤への
影響が小さく,準備期間を含めて工事工期が短縮可能で
ある「破砕除去工(蒸気圧破砕薬剤)」を採用した。なお,
経済性・施工性・景観性・工期短縮
図-5
恒久対策検討結果フロー図
不安定岩塊除去工
岩塊除去工は対象岩塊のオーバーハング部や著しく不安
定な浮き石等の緊急的除去が必要な範囲に限定し,除去
後はロープネット工で予防する方針とした。
(3) 斜面末端での防護工対策工(新技術)
早期の交通開放を図るため,上部不安定岩塊除去工と
ロープネット工
並行して斜面末端部での落石防護工対策施工を実施する
条件で検討した。その結果,掘削工法は施工安全性を考慮
補強土防護擁壁工法(新技術)概要図
して「無人化施工技術」を採用した。
4. 恒久対策工法の検討
背面土砂除去工
恒久対策工は,除去後の岩盤斜面の予防工として計画
したロープネット工のワイヤーロープ間より抜け落ちる
50cm 径未満の落石を対象として検討した。
(1) 落石シミュレーション(DDA解析)
落石対策設計においては,不連続変形法(DDA解析)
補強土防護擁壁工
による落石シミュレーションを用いて,一般的な解析よ
りも地形形状・斜面状況を反映した落石挙動を予測した。
DDA解析
不安定岩塊
再現シミュレーション
岩盤崩壊時
の落石状況
落石シミュレーション
(落石エネルギー算出)
岩塊除去時
の落石軌跡
せることができた。
落石軌跡
《引用・参考文献》
対策計画位置
対比
図-4
恒久対策工標準断面図
辺社会への影響を最小限に抑え,国道の安全度を向上さ
パラメータ設定
落石シミュレーション結果
評価 → 妥当
図-6
上記対策工を早期に施工し2車線開放したことで,周
1) 落石対策便覧:社団法人日本道路協会,H12.6.
2) 落石対策便覧に関する参考資料-落石シミュレーション手法の
対策工法検討
背面ポケット
落石シミュレーション結果図
調査研究資料-:社団法人日本道路協会,H14.4.
3) ジオロックウォール設計・施工要領:ジオロックウォール工法協会