疫学調査で用いられる薬剤感受性パターンの菌株間類似度解析の精度検証 琉球大学医学部附属病院検査部 丸尾 実可子, 上地 幸平, 仲宗根 琉球大学大学院医学研究科先進検査医学講座 山根 勇 誠久 【目的】 現在, 多くの医療施設において薬剤耐性菌による院内感染が問題視されている。 薬剤耐性菌の分布と菌株相互の関連性の解析には疫学手法からのアプローチが不可欠であ る 。 疫 学 手 法 の gold standard は 染 色 体 遺 伝 子 を 解 析 対 象 と す る pulsed-field gel electrophoresis (PFGE) であるが, 日常検査での実施は煩雑であり, 後方視的解析の限界 をもつ。薬剤感受性試験から得られる感性・耐性パターンは, 日常検査の結果から得られる 情報であり, 疫学解析にも用いられる。また, 平成 23 年度入院基本料の施設基準「感染情 報レポート」でも, 薬剤感受性パターンを病院疫学情報として把握, 活用するように明記し ている。我々は日常検査で測定された薬剤感受性試験の結果を自動分析する「MIC パター ン解析プログラム」を開発し, 院内感染対策に活用している。しかし, 薬剤感受性パターン を用いる疫学解析の精度は充分には検証されていない。今回, 分子遺伝学的手法のひとつ, rep-PCR 法を参照法に, 薬剤感受性パターン解析による菌株間類以度の精度を検証した。 【材料と方法】PVL 産生陽生の S. aureus 33 株 (MRSA 16 株, MSSA 7 株) を対象とした。薬 剤感受性試験は VITEK2 (シスメックス・ビオメリュー) を用い, グラム陽性球菌用カード (AST-P595) で MPIPC, PCG, ABPC/SBT, CEZ, IPM, AMK, GM, ABK, EM, CLDM, MINO, VCM, TEIC, FOM, LVFX, ST の 16 薬剤を測定した。MRSA の判定は MRSA-LA「生研」(デ ンカ生研) を用いた。MRSA については CLSI の基準に基づき, CEZ, ABPC/SBT, IPM を除く 13 薬 剤 を 解 析 し た 。 rep-PCR は DiversiLab (シ ス メ ッ ク ス ・ ビ オ メ リ ュ ー ) を 用 い , Staphylococcus kit で染色体 DNA の反復部分を増幅後, 専用装置により電気泳動, 検出, 遺伝 子タイピングの解析を行った。 【結果】rep-PCR で, 染色体遺伝子に 98%以上の similarity を示した菌株は 6 群 (A, B, C, D, E, F 群) に分類された。Similarity 98%以上で区分すると, 薬剤感受性パターンでの区分と完 全に一致したのは D 群の 2 株, E 群の 10 株中 9 株, C 群の 5 株中 2 株であった。A, B, F 群に 分類された 6 株の薬剤感受性パターンは相互に多様性を示した。Similarity 95%では C 群に 属する 2 株が E 群に帰属する判定となった。また, similarity 区分閾値を 90%に低下させる と 4 群 (A, B, C~E, F) に分類され, いずれの群も多様な薬剤感受性パターンを示す菌株が 帰属する判定となった。また, S, I, R のカテゴリー判定を用いた解析結果も, MIC 実測値を用 いた解析結果と大きな差異は認められなかった。 【考察】98%以上の similarity に判定される菌株の多くは薬剤感受性パターンも同一であっ た。しかし similarity の高い菌株でも多様なパターンを示す菌株も存在した。一方, 主集団 と異なるパターンを示す菌株はこれとは異なるクローンである可能性が高いと判定され た。薬剤感受性パターンによる疫学解析は, 一定の限界はあるものの, 安価で手軽な疫学情 報として使用可能であると結論された。
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