2010年10月 日本の未来を不安に思う理由

人生の羅針盤
2010 年 10 月
豊かな人生を作る一言集
豊かな人生を作る一言集
[日本の未来を不安に思う理由]
2010 年 10 月、日本人としては嬉しいニュースが飛び込んできました。今年のノーベル化学
賞に日本人の鈴木章・北海道大学名誉教授、根岸英一・米国パデュー大学特別教授のお二人が
受賞されたとのことです。
鈴木先生(80 歳)が受賞のインタビューで、淡々と話した中に印象的な言葉がありました。
それは、
「最近、理科系に進む学生が少なくなっているのは嘆かわしいと思う。資源のない日
本では、知識や人で生きるしかない。何歳まで生きられるかわからないが、若い人の役に立つ
ことをしたい。
」です。
近年、日本の自然科学系のノーベル賞受賞者は増加しています。世界の中でも存在感を示し
ています。これは、日本が戦後一貫して科学技術に力を入れてきたことによります。それが、
基礎研究の分野では、ノーベル賞受賞の増加に、産業技術の分野では、モノづくりの強固な土
台に結び付きました。
ところが、近年、日本では、若者の理系離れが急速に進んでいます。
その若者の理系離れの影響なのでしょうか、大学や企業の研究・技術開発の現場では、残念
ながら、
(失礼な表現ですが)能力の低下が進んでいるように感じます。中には、基礎レベルの
物理現象も理解していないのではと感じる人もいるほどです。(ごく一部の人です。
)やはり、
目指す人の数が減少するということは、残念ながら、全体的に能力の低下に繋がることになる
のでしょう。
ただ、向上心、熱意、努力などがあれば、若い時期での能力の問題は克服できます。むしろ、
これからの日本の深刻な不安は、全く、別のところにあります。
その深刻な不安とは、努力しない人たちの増加です。
自分自身で調べる、やってみるなどではなく、外部の機
関、識者などから、そっくり教えてもらう、あるいは、
大変なことは外部に押しつけるなどばかり考えている人
たちです。特に気になるのは、若者を指導する立場にあ
るはずの 30 代後半、40 代の人(中には 50 歳間近の人)
に、多く見かけるようになったことです。しかも、ひど
い場合は、仕入れたことをそのまま若者に、先生にでも
なったかごとく、講義(?)などをしています。
このような人たちは、おそらく 30 代後半、40 代になるまで、自分自身の努力により技術や
ノウハウを築き上げた経験がないのでしょう。その背景には、尊敬できる指導者を持てなかっ
たことがあります。このため、最も効率的とされる、指導を受けながら自分を高めるというや
り方を知らないのです。
ノーベル賞受賞者には、共通点があります。ひとつは、人並み外れた努力をしていること、
もうひとつは、良い指導者に恵まれ、しかもその指導者を尊敬していることです。その指導者
の教えを自分自身の努力で展開、偉大な功績をあげています。
努力する、学ぼうとする姿勢なくして、指導者との出会い、ましてや、結果が出ることもあ
りません。
先日、テレビで、料理研究家の辰巳芳子さんを取り上げた番組を目にしました。85 歳という
高齢でありながら、精力的に活動しています。食は生命の源であるという信念で、食と料理の
研究、啓蒙活動を行っています。強い信念で取り組んでいるため、その活動、言葉には凄味が
あります。
辰巳先生の講習会には、申し込み者が殺到、抽選になるそうです。そんな講習会のあるシー
ンが映し出されていました。ごく普通の講習会の場面が続いた後、辰巳先生が、
「前回、話した
ことをやった人は?」と問いかけたところ、誰一人、手をあげませんでした。その後は、辰巳
先生の憤慨した表情がアップに・・・。
(この受講者達は、お金を払って受講しています。しか
も、幸運にも抽選に当った人達です。)
言われたことをやらないのであれば、何のために受講しているのでしょうか。自分の手は汚
さずに、言葉で教えてもらうことだけ、都合よく吸収しようとしているのでしょうか。それで
は、高齢の辰巳先生が必至の思いで伝えようとしていることを体得できるはずがありません。
技術者の世界に限らず、日本全体が、努力軽視、そして合理的(?)という旗印の下に、平
気で他者の努力を踏み台にしようとしているのでしょうか。鈴木先生、辰巳先生は、いつまで
も・・・。
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