2010年 4月 区別したい借り物と本当の自分

人生の羅針盤
2010 年 4 月
豊かな人生を作る一言集
豊かな人生を作る一言集
[区別したい借り物と本当の自分]
某大手情報系企業で前代未聞のお家騒動が起きています。元社長が辞任は不当であったとし
て、訴訟を進めています。これまで報道されていることをまとめると、およそ以下のようにな
ります。
元社長は、密室で、虚偽の事実を提示され、弁明の機会も与えられず辞任を強要された、そ
して、これにより会社に不利益を与えたとして訴訟を進めています。すでに訴えを提出した取
締役復帰の地位保全については取り下げましたが、今後、会社への不利益発生については株主
代表訴訟としての準備を進めているとのことです。
一方、会社側は、当初、退任の理由を「病気療養のため」としていました。ところが、訴訟
が起きた時点で、
「取引関係を持つことはふさわしくない企業と関係を続けていたため」と訂正
するとともに、反論しています。退任の経過は、元社長が某経営統合プロジェクトで、反社会
的勢力とのつながりが疑われる投資ファンドと付き合っているとの情報が寄せられた。相談役
から注意をしたのにもかかわらず、その後も関係を継続していた。このため、社長としての適
格性に欠けていると判断し、自ら辞任をするように説得、元社長は了承したとのことです。密
室で辞任を強要した事実はないと主張しています。
事実関係は分かりませんが、常識的には考えられない訴訟です。特
に法律に触れているわけでもなく、差別的行為、パワハラやセクハラ
の行為とも違います。
(気持ちはわかりますが、具体的に不利益となっ
たものがよくわかりません。
)一般の会社では、当人が納得できない職
場やポジションの異動、退任はよくあることです。このような場合、
普通の人は新たな職場や環境に対する準備などに気持ちを向けます。
特別な事情がなければ、訴訟などを考える人はいません。
それでは、なぜ元社長は訴訟を考えるまでに至ったのでしょうか。
これは、
「社長」という特別な肩書への執着としか考えられません。全
ての権限が自分に集中している、周囲から圧倒的に敬われる、多くの
人がすり寄ってくるなど、
(当人の能力や人格とは別に)そのポジションから発生する特権や優
越意識が強く脳の中に刻み込まれてしまったのでしょう。退任してもそれが消えず、時計がそ
の時刻で止まっているのです。そして、
「もう一度、スポットライトを」という行動に走ったと
しか思えません。
この元社長ほど極端ではありませんが、会社の中で、過去の組織やポジションを引きずって
いる人を稀に見かけます。不本意ながら、親会社、本社から関連会社、支店などに移動した人、
会社を移った人などに多いようです。必要以上に、これまでの経歴を披露、あるいは前の会社、
職場ではこうだったと自慢げに話します。周囲から敬意のようなものを期待しているのかもし
れませんが、誰もそうは感じません。むしろ、孤立するだけです。自分の意欲も前向き、プラ
ス側に向きません。
筆者は、これまで大手情報通信機器メーカー、その関連会社、半ば公的な研究機関へ所属、
そして現在の独立自営と大きく 4 つの立場を経験しています。それぞれの立場によって、周囲
の人の反応、対応などは全く違います。特に、所属やポジションが変わった時、自分自身は何
一つ変わっていないのに、周囲の人の見る目や対応が、全く変わることを肌で感じました。び
っくりするほどです。如何に、多くの人は、相手を人物ではなく、その人の所属する組織やポ
ジションで判断しているかがわかります。
組織上の権限、周囲の人から受ける敬意などの多くは、その人自身ではなくポジションに対
してです。そして、そのポジションは組織から一時的に借用しているものです。いつか返却し
なければなりません。これに気付けば、自分がポジションにこだわること、他人をポジション
で見ることは、人間関係の築き方、努力の方向を間違えることがわかります。一方、ポジショ
ンとは別に、仕事を通じて得た本当の人間関係、純粋に努力して積み上げた実績や専門知識、
自身の著作物などは、決して借り物ではありません。組織から借用しているもの、自分自身で
作り上げたもの、この区別をわきまえなければなりません。
訴訟を進めている元社長は、過去のポジションでのやりがいなどを捨てさることができない
のでしょう。そして、そのポジションを奪った(と思っている)人たちへ、強烈な恨みとも思
えるような感情を向けてしまったようです。
(確かに、会社側にも大きな問題があります。
)た
だ、その怨念で最もダメージを受けるのは自分自身です。なぜなら、その怨念の真の原因は、
自分自身の中にあるのですから。
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