強制実施権のリバイバル - 東京大学大学院薬学系研究科・薬学部

強制実施権のリバイバル
○五十嵐 中・津谷 喜一郎
東京大学大学院薬学系研究科医薬経済学
【目的】
抗エイズ薬などの特許医薬品に対する「強制実施権」 ( compulsory licensing ) 制度に
ついては、医薬品アクセスに限らずさまざまな切り口から議論が続いてきた。
今回は、2001 年 10 月の薬史学会秋季年会での発表「1962 年キーフォーバー・ハリ
ス修正法の議論に始まる医薬品強制実施権の歴史」 の続報として、強制実施権をめぐる
2001 年以降のうごきを総括・報告する。
【方法】
(1) 書籍・雑誌からの文献情報、(2) e-drug mailing list を中心としたインターネット上
の電子情報検索、(3) 関係者へのインタビュー、による。
【結果】
1. 特許権と医薬品
日本や欧州諸国には「公衆衛生に資する医薬品には特許を認めない」との例外規定が
存在したが、米国にはこのような規定は存在しない。
米国では特許法のみならず、憲法 (1 条 8 節 8 項 ) 上にも特許権が規定されている。
しかしこれを「特許を重視する米国の姿勢の現れ」とするのは誤りで、実際の目的は連
邦議会に立法権限を与えるためであった。
2. 強制実施権の新たな争点
「バイオ特許」時代を迎え、今までの「不実施の場合の強制実施権」に加えて「利用
発明の場合の強制実施権」が問題になることが増えてきている。
3. 強制実施権の現状−南北対立を超えて−
2001 年 11 月の「TRIPS と公衆衛生に関する閣僚宣言 ( ドーハ宣言 )」と、ドーハ宣
言を受けた TRIPS 委員会報告に基づく 2003 年 8 月の WTO 一般理事会合意により、緊
急事態下で途上国が強制実施権を利用して医薬品にアクセスする手段が確保された。
一方で 2005 年 3 月 TRIPS に従う形でインドの特許法が改正され、医薬品に物質特
許が認められるようになった。直ちにインド製の安価なジェネリック薬の供給がストッ
プするわけではないが、今後開発される新薬など医薬品アクセスに及ぼす将来的な影響
が懸念されている。
【考察】
医薬品アクセスの問題は、特許権のみの議論では決して解決されない。長期的・総合的
な視野に立った上での解決策の提案が待たれる。
前回の発表
• 特許権と医薬品
 先進諸国 (除・米国) でも医薬特許に例外規定
• Kefauver-Harris amendments の真意
 「安全性」よりむしろ独占への攻撃
• 特許権と生きる権利との調和
 止揚をめざして…
発表テーマ
強制実施権って?
• 裁定手続きにより強制的に発生する実施権
• 特許権と医薬品
• 強制実施権の新たな争点
 不実施の場合の通常実施権
 利用発明実施のための通常実施権
 公共の利益のための通常実施権
• 強制実施権の現状
1
特許権と医薬品 (1)
• 日欧諸国 v.s. 米国
 例外規定の有無
• 米国の特許権規定
 憲法1条8節8項
「科学…の発展を助長せしめるために著作者および発明者に対し
て一定期間…排他的権利を与える」
特許権と医薬品 (2)
• 米国における憲法の意義
 憲法規定がなければ
連邦議会に立法権限無し (ex. 商標法)
 権限与えるために
憲法の規定
→先発明主義・「特許保護主義」とは無関係
 先発明主義・非否定的定義
強制実施権の新たな争点 (1)
• 「バイオ特許」時代の強制実施権
 上流を握られると身動き取れず…
• 遺伝子関連技術その他
• 解決へのアプローチは?
強制実施権の新たな争点 (2)
• アプローチ1: 「試験又は研究」
 特許法69条1項
「特許権の効力は、試験又は研究のためにす
る特許発明の実施には、及ばない。」
• アプローチ2: 利用発明の強制実施権
 EUの事例
1998年生物工学発明に関する欧州議会及び理
事会指令
強制実施権の現状 (1)
• 抗エイズ薬へのアクセス確保に向けて…
強制実施権の現状 (2)
• 2003年8月 ジュネーブ・WTO一般理
事会合意
• 2001年11月 TRIPSと公衆衛生に関す
る閣僚宣言 (ドーハ宣言)
 「国民の公衆衛生の保持は私的商業的利益に優先」
 強制実施権による国内生産への道筋
• 自国では生産できない場合も多いが…
 強制実施権発動により、自国内に医薬品供給
+
医薬品の生産能力が不十分な国へ輸出も可能
 TRIPs31条 (f)
「…加盟国の国内市場への供給のために許諾される」
2
強制実施権の現状 (3)
まとめ
• TRIPs: 途上国にも物質特許制度導入
 2005年まで10年の猶予
• 改正インド特許法
 医薬品に物質特許認める
 長期的に影響?
• 特許権と医薬品
• 強制実施権の新たな争点
• 強制実施権の現状
• 今後の課題
3