LAST TRIPS IN NEW ZEALAND 101

LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
1997 春
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
1.Waiau river one day trip
2.Clarence river solo kayakng expedition
3.Volcanic coast line solo seakayaking in Banks Peninsula
KANAGAWA UNIV.ADVENTURE CLUB 後藤寛明
LAST TRIPS IN NEW ZEALANDLAST TRIPS IN NEW ZEALANDLAST TRIPS IN NEW ZEALAND
謝辞
(株)A&Fの大瀬さん、中央大学探検部OBの別役さん、LytteltonのDavid&Maki,
Christchurch Canoe Clubの Peter&Russel,John Kirvy,Rainbow Adventuresの Pius Gobetti,
Clarence River Rafting のTony&Patricia、Jervis、Brian Betts、
Alan&Jan Atkinson。皆さんのおかげで学生生活最後の旅がドラマチックになった。
またいつかどこかでお会いできることを楽しみにしています。Thanks,mates!!
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LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
場所 New Zealand 南島
1.Waiau(ワイアウ)river (North Canterbury)
2.Clarence(クラレンス)river (Marlborough)
3.Banks Peninsula(バンクス半島)
(North Canterbury)
使用艇 フェザークラフト Kライト
* 荷物などを積んで、
デッキとハルの縫い目から約
1インチ下(約2.5cm)が水面にある状態。この状
態がKライトのパフォーマンスが一番良いと言われ
ている。
山脈の間からドラマチックに抜け
出し南太平洋に注ぐ
なぜ
クラレンスリバー
なのかというと
クラレンスリバーについて(概要)
クラレンスリバーはニュージーランド南島のMarlborough(マールボー
ロー)地区にあるNelson Lakes National Park(ネルソン・レイク国立公園)
の南山麓にあるSpenser Mts.(スペンサー山地)のBelvedere Peak(ベル
ヴァデア・ピーク)から流れを発し,3千メートル級の山脈であるINLAND KAIKOURA (インランド・カイコウラ山脈)とSEAWARD
KAIKOURA(シーワード・カイコウラ山脈)の間を蛇行しながら流れる。
途中には3つの主要のゴルジュや広大なファームランドを通り突然、山
脈の間からドラマチックに抜け出し南太平洋に注ぐ長さ271kmの川。水
源地はWaiau River(ワイアウリバー)の源でもある。
2mを超えるウェーブが連続している。
そして、ウェーブは時々ブレイクする。ま
るで海のような世界。
102
もう5,6年前になるだろうか、俺
の兄貴がワーキングホリデーでN
Zに滞在中にある旅をしたのがそ
もそもの始まりだった。彼は
Blenheim(ブレナム)からあの有名
なMolesworth Station(モールズワー
ス・ステーション)を経由して
Hanmer Springs(ハンマー・スプリ
ングス)まで行き、折り返しJack
pass
(ジャック・パス)
を超え別ルー
トで再びブレナムへ戻るという4
00kmものホースバックトレイ
ル(カウボーイのように馬の背中
に荷物を付けての旅)
を行った。夏
にもかかわらず降雪にあったり、
馬の世話からなにまで自分独りで
こなしながらのシビアな旅であっ
たそうだ。その時にクラレンスリ
バー沿いを通りハンマースプリン
グスに向かっている時のあの川の
美しさが頭から離れられなかった
という。
「あそこは絶対に下らなけ
ればならない川だ。
」それが彼の見
解だった。そして昨年の春に、
じゃ
あこの俺が下ろうじゃないのとク
ラレンスリバーの計画を実行しよ
うとしていたが、NZ出発前まで
には戻ってくると言われ修理に出
したカヤックがバンクーバー(B.
C.Canada)から戻ってこないとい
うトラブルが発生したためにNZ
には行ったがクラレンスリバーを
下ることができなかった。
(カヤッ
クは日本出発3日後に戻ってきた
らしい。
)そんな理由で2年がかり
の計画であるこの川旅は俺にとっ
て特別な意味を持つ旅なのだ。ま
た、彼が旅の途中でハンマースプ
リングスの浴槽で出会ったという
David&Makiの友人にクライスト
チャーチ・カヌークラブのカヤッ
カーがいるというので、彼らにコ
ンタクトをとり、そのカヤッカー
であるジョンを紹介してもらい、
ジョンやその他のメンバーから情
報を得ることができた。
日時1997年2月25日∼3月24日
「あそこは絶対に下らなけれ
ばならない川だ。
」
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クラレンスリバーのツーリングについて
クラレンスリバーの歴史
Pius(ピアス)という男が4WDの赤いジープに
乗ってやって来た。
「Hi Hello!!」と声をかけると、
「G'day、mate!!」とかなり陽気のいい奴。
マオリ族の伝承によるとWaiautoa(マオリ語でクラレンスリバー
を「ワイアウ・トア」と呼ぶ。
)と
その隣を流れるWaiau-uha(マオリ
語でワイアウリバーを「ワイアウ・
ウハ」と呼ぶ。
)はかつて別れてし
まった恋人同士であるといわれて
いる。
(クラレンスが男でワイアウ
が女。
)今日現在、ワイアウリバー
がクラレンスリバーと別れてし
まったことを悲しみ、冬の雪が暖
かい雨で溶け出し洪水が起きると、
それはワイアウの悲しみの涙が引
き起こしていると言われている。
マオリ族がクラレンスリバーの河
口に住み着いたのは今から750年
前で、クラレンスリバーはアムリ
平野への国内ルートとして使われ
た。一説によるとマオリ族が西海
岸への
(サザン・アルプスの山越え
の)ルートとしてAmuri pass(アム
リ・パス)とHarper pass(ハーパー・
パス)へのアクセスのためにクラ
レンスリバーを使用していたとい
うが、川の険しさを考えるとこの
説は一般的ではないように思える。
1894年にWellington(ウェリントン)
からLyttleton(リトルトン)への
ルート開拓のためにやってきた調
査隊の手記によれば「クラレンス
暴れ川として人々に
恐れられている。
104
リバーは深く危険な川だ。浅瀬を
渡ることさえも困難だ。
」と記され
ている。クラレンス峡谷が入植す
る移民者にとってカイコウラ地区
で最後の土地だと言われていた理
由は、不毛の土地、険しい峡谷、そ
して冬の厳しさであった。
現在ハイウェイ1ブリッジがあ
る右岸にはかつてアコモデーショ
ンがあり、また人々は渡し舟で往
来していた。橋の建設も行われて
いたが何度も洪水によって橋は流
されてしまった。そして現在でも
クラレンスリバーは暴れ川として
人々に恐れられている。
クラレンスリバーをラフトで始め
て降下したのは1960年代初頭と言
われている。移りゆく景色のすば
らしさ、そして河口まで道路もな
く、人も住んでいないためにチャ
レンジ精神を煽られるという理由
でニュージーランド国内でベスト
リバーの1つ言われ、シーズン中
には多くの人々が訪れる。また3つ
めのゴルジュにはニュージーラン
ド国内で最も長いラピッドがある
といわれ 50km 以上のホワイト
ウォーターが続く。ツーリングは
概ねAcheron River(アクロンリ
バー)の合流地点がスタート地点
となり、河口まで5日間で下る。ア
クロンリバーの合流地点は地震に
よってできた断層があることでも
有名だ。アクロンリバー合流地点
へのアクセスはクライストチャー
チからハンマースプリングスへ向
かい、ハンマースプリングスから
北へ向かいJack pass(ジャックパ
ス)を超えてMolesworth-Rainbow
road(モールズワース・レインボー
ロード)
にぶつかる。そしてそこを
右に曲がり、クラレンスリバー沿
いにMolesworth Ststion(モールズ
ワース・ステーション)
へ向けて15
キロ程行くと橋があり、そこがス
タート地点であるアクロンリバー
合流地点のすぐ上流である。ゴー
ル地点はハイウェイ1ブリッジ右
岸の約20m下流の所に小道が川ま
でおりているのでそこから上陸。
民家が一軒だけあり、カイコウラ
やブレナムなどの町まではヒッチ
ハイクするか、ラフト会社と前
もって打ち合わせをしてピック
アップしてもらうしかない。一般
に、水量は春に多く、
そして夏にか
けて次第に減水していく。ベスト
シーズンは9月∼12月中旬までで、
クリスマスから4月にかけては水
量が少なく降雨が続くと水量を取
り戻す。
また、
夏の終わりからイー
スター休暇後の2,3週間はサイクロ
ンがやってくることが多く、また
寒冷前線の動きも活発になる傾向
にあるために、この影響で川はか
なり増水する。これはニュージー
ランド国内全般にも言える。クラ
レンスリバーは直射日光によって
乾ききった不毛な大地や広大な
ファームランド、ゴルジュなどの
壮観な所を流れ、生死にかかわる
ような険悪な流れも多くないので
パドラーにすばらしい経験を与え
てくれる。北西の風はとても乾燥
し、山火事が発生するために焚き
火には気を付けたい。この風が吹
くと飛行機やヘリコプターも川沿
いに着陸することができなく、ラ
フトやカヤックなども飛ばされな
いようにしっかりと結んで置くべ
き。また、
北東の風がクラレンス峡
谷を吹き抜ける時は向かい風とな
りフネが進まないことがある。夏
といえども気象の急激な変化で降
雪にあうこともある。
パドラーにすばらしい経験を
与えてくれる。
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Third gorgeは浸食された断崖絶壁、そして崖
の崩壊によって形成された岩が多くのラピッ
ドをつくっている。
解説
トミーと俺
3つの主要なゴルジュを除けば
多くのキャンプ地がある。川の長
さ、難易度、
食糧の積載を考えると
リジットのカヤックやダッキー、
カナディアン・カヌーで下るパド
ラーはラフトによるサポートが必
要である。フォールディング・カ
ヤックの場合、荷物がたくさん積
めるタイプで回転性の高い頑丈な
フネを お薦めする。かなり遠隔地
なため小さなミスが重大な事故を
起こしうるためにリバーレス
キューの知識と実践、無線やフレ
アなどのレスキュー装備は携帯す
べき。特にゴルジュは狭くヘリコ
プターも入る事が困難なためス
タックなどを絶対に起こさないよ
うに気を付けたい。
また、
その他ト
ラブルが発生した場合両岸にある
どちらかの3千m級の山脈を数日
間かけて超えなければならないと Lake Tennyson(レイク・テニソン)
いうことを頭にいれたい。スカウ に流れ込み、そしてSt.James(セン
ト時の川歩きなどで骨折やその他 ト・ジェームス)とCrimea Ranges
のけがにも気を付けるべき。単独 (クリメア山脈)の間を流れる。こ
行はできるだけ避けるべき。念の の 辺 り は 冬 に は 雪 原 と な る 。
ため十分過ぎる程の食糧とザック Hanmer Range (ハンマー山脈)がク
を持つのも良いだろう。シーズン ラレンスリバーを東へと押し出す。
中はラフトのツアーも行われるた アクロンリバー合流地点より上流、
め、ソロで下りたい人はラフト会 そしてアクロンリバーは春先の雪
社に電話してツアー催行時を聞い 解け時のみのツーリングとなる。
て一緒に行動するほうが無難。無 クラレンスリバー全体的に言える
線はクライストチャーチのアウト ことはかなりのスピードで流れが
ドア・ショップでレンタル屋を紹 崖にぶつかっているということだ
介しているから是非ともレンタル ろう。以下3つの主要のゴルジュ
したい。ヘリコプターは S A R について説明する。
(Search andRescue)の場合は無料だ
が、ヘリ会社に頼むと飛行時間1分 (First gorge)
はアクロンリバー合流
あたり50ドルかかる。
地点から約27キロ下ったとこから
ベルヴァデア・ピークから流れを 始まる。左岸からDillon Riverが流
発したクラレンスリバーは一端 れ込む所から始まり、右岸から
Tinlin Creek が流れ込むあたりまで
続く。アクロンリバー合流地点か
ら時間にして約1 時間30 分後に
First gorge の中にある通称 ”The
Chute”(シュート、滑り台)に出会
う。
「シュート」の直前には川の中
央に巨石があり流れを2つに分け
ている。この岩は上流側が真平ら
な面を持つ岩なので張り付いたら
一貫の終わりだろう。岩のどちら
側を通るかは水量次第だがどちら
でも通れる。ちなみに張り付いた
場合、左岸にはアンカーポイント
がない。「シュート」は落差約
1m50cmの滑り台で通常はグレー
ド2。増水時には右寄りの岩が流
れを二分するがメインルートは左。
また増水時にはグレード3になる
がグレード3を超えることはない。
「シュート」はただの落ち込みだが
偵察は必要。アプローチは左岸か
ら。水量次第ではアプローチは困
難。
「シュート」は両岸の崖が非常
に狭まっている場所にあり、巨大
な岩がゴロゴロしているために、
スカウト時の歩行にも気を付ける
べき。ここでけがをすると大変な
事態になる。
「シュート」を下ると
ラピッドが 続くがこれといった流
れではない。Tinlin Creekが右側か
ら流れ込むとFirst gorgeは終わり川
は北ヘ向かって流れ、川は次第に
開けキャンプサイトに適した河原
がででくる。
(Second gorge)はやさしいラピッ
ドが続き、景色もすばらしい所。
特
に目立つラピッドはない。風光明
媚な断崖絶壁の中にラピッドが連
続する。右岸からPalmer Streamが
流れ込み、そこから約5キロ下り左
岸からGloster Riverが流れ込むあた
りからSecondgorgeが始まリ、Quail
Flat(クゥアイルフラット)の上流
2.5キロの左岸にあるSeymour or
Herring Streamの合流地点まで続く。
Second gorgeを抜け、クゥアイルフ
ラットに近づくにつれてpoplar(ポ
プラ)
の木やwillow(柳)
が多くなっ
てくる。流れも土手をえぐりポプ
ラや柳の根が流されストレーナー
を形成している。クゥアイルフ
ラットの前の河原とその背後にあ
るポプラの林はキャンプ地として
最適。クゥアイルフラットから川
が1本の水路となる。左岸よりRed
Hill Streamが流れ込むあたりから岩
が多く散在する流れとなる。渇水
期にはベストルートを選ぶために
スカウトが必要。グレード2の瀬
かなり遠隔地なため小さなミスが
重大な事故を起こしうる
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「シュート」
の直前には川の中央に巨石
がある。この岩は上流側が真平らな面
を持つ岩なので張り付いたら一貫の終
わりだろう。
が連続しRavine Hutまでホワイト
ウォーターが続く。Goose Flatに近
づいたら突如現れる2つの巨石に
注意したい。この岩は巨大なキー
パーホールを作り出している。
Stony FlatかRavine Huttの間は川の
勾配がきつく、岩の散在する長い
ラピッドでグレード3のホワイト
ウォーター。川がカーブしている
ところは流れが直接崖にぶつかる
のでかわすのも至難。Muzzle
Streamの流れ込みのあたりがこの
区間で一番の難所といえる。
(Third gorge)は左岸にあるRavine
Hutから約5キロ下ったところから
始まりMatai Flatの下流約1キロま
で続く。Third gorgeは別名Sawtooth
gorgeとも呼ばれ、浸食された断崖
絶壁、そして崖の崩壊によって形
成された岩が多くのラピッドをつ
くっている。右岸からJam Streamが
流れ込むところからクラレンスリ
バー最大の J a w b r e a k e r Rapid
(ジョーブレーカーラピッド、 グ
レード3)が始まる。瀬の落差は
5,6m。
流れの中にはたくさんの
巨石が隙間なく散在し、ザルに
なっている。渇水期に沈脱したり、
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下ろうとすると巨石に張り付いた
り、スタックする危険がある。増水
時には巨大なウェーブができる。
左岸のBranch Streamの流れ込みの
手前にあるNose Basher RapidはJawbreaker Rapidの次に難しいラピッ
ド。Jawbreaker Rapidの下流から
GibsonHutまでのその他のラピッド
は開けたところにあるため、比較
的安全。Matai Flat の下流約1キロ
から川は突然ドラマチックにゴル
ジュから抜け出す。Glen Alton
bridge(グレンアルトンブリッジ、
彼の首にロープをかけて、デッキの
ショックコードに挟んでおき、しばらく
の間俺の川旅に付き合ってもらうこと
にした。
大きな吊り橋)までは川が広がり
多くの水路があるためベストルー
トを選ぶこと。この区間は風の強
い時に砂嵐が起こることがある。
グレンアルトンブリッジからMiler
StreamとWharekiri Streamの合流地
点であるMiddle Hillから川の勾配
は再びきつくなり、ハイウェイ1
ブリッジまでホワイトウォーター
がコンスタントに続く。橋の右岸
はテトラポットや橋の橋脚の残骸
があるのでアプローチの際は気を
付けるべき。
(参考文献)
NEW ZEALAND'S SOUTH ISLAND RIVERS By Graham Egarr
NEW ZEALAND'S NORTH ISLAND RIVERS By Graham Egarr
CLASSIC NEW ZEALAND ADVENTURES
NZ Wilderness September 1997
Clarence River solo kayaking Expedition
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LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
乗客全員が酔っ払いなのだ。
John に出会う。
成田を飛び立ったAir New Zealand ラ山脈の上空を飛んでいき、しか
の直行便の機内は 殆どKiwi(NZ も快晴なために上空からクラレン
人)で一杯だった。直行便を10万 スリバーを偵察することができた
円台で手に入れることができた理 のだ。AKLから再び国内線でCH由は日本人が殆どいない便だから CHまで戻るときにも、飛行機は再
なのかのか。そんなはずありえな びカイコウラ山脈の上空を飛んで
い。Seatbelt fastenのサインが消えて いった。
すごい所を川が流れ、体が
しばらくすると、ワイン片手に 震えた。飛行機からは雪を被った
ビール飲みまくり、歌えや踊れや 3千m級の険しい山脈が2つ、緑
の機内大宴会が始まった。乗客全 の草原、そしてMt.Tapuaenuku(タ
員が酔っ払いなのだ。宴会は夜遅 プアエヌク山、2885m)やMt.Alarm
くまで続き,騒がしさの限度を超 (アラーム山、2877m)のキーン・サ
えていた。スチュワーデスが恐い ミットが見え、その山脈の間には
顔をして怒りながら注意してまわ クラレンスリバーが流れているの
ると、酔っ払い達(自分も含む)は が見えた。アクロンリバーの合流
急に睡魔に襲われ、そして機内は 地点もはっきり見え、ハンマース
初めて静けさを取り戻した。飛行 プリングスの小さな町の上空を越
機がChristchurch(クライスト え、飛行機はあっという間にCHチャーチ 以下CH-CHと称す。
)国 CH空港に着陸した。川の水量まで
際空港に着陸すると拍手喝采の嵐。 はさすがに分からないが、川の雰
コックピットまで聞こえたらしく 囲気を掴むことはできたのでなん
機長が「拍手をありがとう。
」とア かホッとしたような気がした。
ナウンスしている。自分の乗った 空 港 か ら シ ャ ト ル で 直 接
飛行機がCH-CH 経由Auckland LytteltonのDavid&Makiの家へ行っ
(オークランド 以下AKLと称す。
) た。しばらくの間、彼等の家に泊め
行きだとは知らなかった。自分は て欲しいと頼む。次の日は地図や
AKL から国内線のスタンバイチ 備品を買うためにCH-CHのアウト
ケット
(YHA会員証で 50%OFF)を ドアショップやカヤックショップ
ゲットしてCH-CHへ向かうつもり へ足を運び、川の情報収集をした。
でいた。だからCH-CHで降りたほ その日の夕方にCH-CHCanoe Club
うが金がかからない。CH-CH国際 のジョンの家に行き夕食を共にし
空港でスチュワートに「降ろして た。ジョンはカヤックを持って来
くれ!! 荷物も探し出してくれ。
」と いと言ってたのでザックを指差し、
頼む。しかし、
「何千個とある荷物 「これがカヤックだ。」と言うと。
の中からデバンニングするのは困 ジョンは驚き、芝生の広い庭で組
難だ」といわれ、AKLまで行き、国 み立てて見せてあげると。
「こんな
内線で再びCH-CH に戻るしかな カヤックは見たことがない。
」と言
かった。しかし、CH-CHからAKL う。突然、家の中に駆け込み、カ
までの飛行ルートは何とカイコウ ヌークラブのメンバーに電話を掛
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けまくっている。
「ヒロがすごいカ
ヤックを持ってきているんだ。今
すぐ早く見に来い。
」ジョンは負け
じと自分のカヤックや装備を見せ
てくれた。ヘルメットの改善すべ
き所とか、装備を使いやすいよう
に改造していたりとこだわりと工
夫がみえる。川下りの写真も見せ
てくれた。メンバー全員で振りチ
ンもろ出しの写真とかもあった。
その夜はウィークデイなので遅く
まで彼の家にはいなかった。
次の日、再びCH-CHの街へ装備
の買い出しと情報収集に。ラフト
ツアー会社であるRainbow Adventures(レインボーアドベンチャー)
に電話して、
「ハンマースプリング
スからアクロンリバー合流地点ま
で車で連れていって欲しい。
」と頼
む。夜遅くにジョンから電話があ
る。
「明日(日曜日)
、メンバーと一
緒にWaiau river(ワイアウリバー)
に行かないか。明日の朝7時に迎
えに行くから、自分のカヤックと
ランチを用意しておいて。
」
「次の
日にクラレンスへ行くのでカヤッ
クを濡らしたくないんだ。
」と言う
と、ジョンは
「メンバーがカヤック
を見たがっている。もちろんヒロ
にも会いたがっている。ワイアウ
はクラレンスへの良いプラクティ
スになるし、ランチを食べてから
帰る予定だからカヤックを乾かす
時間はあるよ。
」と。深夜、冷蔵庫
からハムやサラミ、
レタス、
チーズ
を探し、スライサーで黙々とチー
ズをスライスし、ランチのための
サンドウィッチを作り、ラップに
包んでおいた。
おまえのパドリングを見て
クラレンスへ行けるか
どうか判断する。
次の朝、ジョンが迎えにきた。
途
中、メンバーそれぞれの家へ寄り、
ワイアウリバーへと向かった。ワ
イアウまでの車中、景色は広大な
ファームランドの中を通った。
「今
日はおまえのパドリングを見てク
ラレンスへ行けるかどうか判断す
る。また明日もこの景色を見るだ
ろう。
」とジョンが言う。スタート
地点はハンマーリバーが流れ込む
所からでAmuri Gorge(アムリ・ゴ
ルジュ)の入り口である。準備し
て、出発するとすぐにアムリ・ゴル
ジュが始まり川から見上げると橋
が高い所にかかり、バンジージャ
ンプのお立ち台なんかも見える。
ゴルジュの中のウェーブでメン
バーはみんなサーフィンして遊ん
でいる。ジョンが色々なロールを
見せてくれる。「最近覚えたのは
バックロールだ。このロールは海
でスターン・ラダーでサーフィン
している時に沈した場合にすぐに
起きあがれるんだ。
」メンバーの1
人のRussel(ラッセル)は日本へ旅
行したことがあるらしく、日本で
覚えた数少ない言葉の中から、デ
カイ声で
「チンチーン」と言いなが
らウェーブに突っ込む姿は笑わさ
れた。グレード2だという瀬は結
構なホワイトウォーターで、日本
とのグレードの違いを知る。川の
両岸は緑のカーペットを敷き詰め
たような丘がどこまでも続いてい
るファームランドで羊が川へ水を
飲みにきたりしている。ランチの
後、しばらく行くとグレード3の
Shark Rapid(シャーク・ラピッド)
がある。
「この水量だとグレード2
+だろう。
」とラッセルの父である
Peter(ピーター)が言う。シャーク
ラピッドは川のど真ん中にサメの
歯のような先の尖った三角形の巨
石が流れを別けている。増水時は
かなり危ないというがグレード3
は超えないらしい。メインルート
は左で、増水すると右も通れると
いう。
ピーターが先に突っ込み、
俺
が続く。胸と頭に波のパンチを1
0発受けて抜けた。その他のメン
バーも続いてやって来た。メン
バーはシャークラピッドの最後の
ホールでロデオを楽しむ。シャー
クラピッドから下流は特に目立っ
た瀬もなく、のんびりと下りWaiau
Bridgeの左岸に上陸。
橋の右岸には
灌漑用の取水口があるので危ない。
ジョン達が車を取りに行っている
間、ピーターと2人きりだったの
でクラレンスリバーのことについ
て聞いた。
「クラレンスの瀬はワイ
アウよりもハードだよ。1人で行
かないほうがいい。クラレンスは
僻地に流れているから,トラブル
が起きたら助けることができな
い。
」帰りの車中で、
「ヒロ、おまえ
のパドリングはかなりグッドだ。
おそらくクラレンスは問題ないだ
ろう。もしおまえがKiwiだったら
絶対にクラレンスへは1人で行か
せない。でもおまえは日本人だし、
オレには止めさせる権利はない。
クラレンスリバーを下るためには
るばる日本からやって来たんだか
らな。ツアーもやってるからなる
べくツアーの人達と一緒に行動す
るほうがいいだろう。クラレンス
にはウサギもたくさんいるから、
ウサギ狩も楽しめるだろう。食糧
にもなる。デイビッドからウサギ
を取るワナの作り方を教えてもら
えよ。
」とジョンは俺にアドバイス
してくれた。
川は荒野を流れていく
ワイアウリバーのツーリングの次
の日、CH-CHからハンマースプリ
ングス行きのシャトルバスに乗り、
約2時間半後にハンマースプリン
グスのビジターセンターに着いた。
ビジターセンター内にあるレイン
ボーアドベンチャーのオフィスに
出向き、電話をした旨を伝えると、
30分後に車が来るとのこと。他
のツアー客がいるかどうかを尋ね
たところシーズンオフなのでクラ
レンスのツアーはやらないという。
1人で下るしかなかった。スーパー
で食糧を少し買い足し、カフェで
コーヒーを飲みながら車の到着を
待った。Pius(ピアス)という男が
4WDの赤いジープに乗ってやっ
て来た。
「Hi Hello!!」と声をかける
と、
「G'day、mate!!」とかなり陽気
のいい奴。
「荷物はここに。カヤッ
クはどこ?」と言うので、
「これだ」
とザックを指差すと「Amazing!」の
一言。荷物を積むとジープはすぐ
にダートに突入。ジャックパスを
超えるため山道をガタガタと進む。
道はかなり悪い。途中、雲の上を通
り、耳がプツプツしてきた。
かなり
の高さまで上った。
「ここがジャッ
クパスだ。これから下りになる
よ。」ジープは下り始め、霧のか
かった草原へ降りて来た。
「ここが
クラレンスリバーだ。アクロンリ
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この広い草原にいるのは
俺1人だけ。
バーの合流地点はもう少し先だ。
」
しばらく行くと霧が薄れ、広大な
草原の中をジープは進んだ。
「こん
な荒野を何十日もかけて馬旅をし
たのか。
」と俺の兄貴のことを思い
出した。途中、鍵のかかっている
ゲートを開けて通るというところ
を2,3個所過ぎ、目的地であるア
クロンリバーの合流地点に着いた。
荷物をおろし、ヘルメットに貼って
あったレスキュー3のシールを見
てピアスは「俺もテクニシャンだ。
オーストラリアでBrett Jones(ブ
レット・ジョーンズ)からインスト
ラクションを受けた。
」と言う。
「俺
もだ。
」と言うと、
「ブレットを知っ
ているのか?こんな山奥で彼の名
前を聞くなんて!!。
」とピアスは驚
く。
「悪いけれど、ホース・トレッ
キングのお客さんが待っているの
でもう行くよ。
」
「10日後にまた
電話で連絡するよ。もし電話がな
かったらDavid&Makiに連絡して
くれ。その時はレスキューを頼
む。
」と言い、ピアスに10$渡す
と「Thank you、Hilo.Good luck!!」と
言ってジープは去った。ジープの
エンジン音が次第に遠ざかるにつ
れて草原は静けさを取り戻した。
青い空の中に浮かぶフワフワとし
た雲はゆっくりと動いていた。あ
まりにも静かな草原なので雲が動
く時の音が聞こえるのではないか
と思った。遠くに飛ぶクマバチの
羽音もはっきり聞こえている。モ
ンゴルに行ったことはないが、モ
ンゴルのような景色。この広い草
原にいるのは俺1人だけ。俗世間
から抜け出し、やっと1人になれ
112
た開放感で一杯だった。スタート 気配を感じ、左岸の小さなエディに
地点は標高700m、そしてゴールは カヤックをいれた。そこはやはり
Highway 1 Bridge(ハイウェイワン 「シュート」だった。Johnから見せ
ブリッジ)
。草原は暑かったのでと てもらった写真と同じだった。落
りあえずスッポンポンになった。 差 約 1 m 5 0 c m の滑り台だった。
誰も俺を見る人はいない。カヤッ 「シュート」はゴルジュの中で最も
クを組み立て、荷物をパッキングし 狭いところで川幅が5mしかない。
た。GPSで現在地を確認しておく。 巨石がごろつき、歩くのも大変だ。
パンをかじって、すぐに出発した。 「シュート」の後、川がカーブして
流れは速く、水は暖かい。
カヤック いるのでスカウトできなかった。
は軽快に進んだ。出発してすぐに 「シュート」へ飛び込んでいった。
右岸の柳の根にぶつかりそうにな 大きなスプラッシュを浴びる。
り、すばやくかわす。しばらくする 「シュート」の後に曲がりくねるゴ
と玉砂利の美しい流れが続いた。 ルジュの中で突然現れる瀬に備え
両岸は開けた草原地帯で牛たちが て、リバース・ストロークで極力ス
しかし、
流れが早
水を飲みにきている。見知らぬ侵 ピードを殺した。
いやさしい瀬ばかりで1st
Gorgeは
入者である俺をじっとみつめてい
る。左に1681mのMt.Gordon,右 すぐに終わってしまった。地図を
に1506mMt.Grantがある地点を 読んで左岸にある2007mの山を見
通る。この2つの山はナビゲーショ つけ、それを目印とし、右岸の適当
ンには良い目印。Dillon Riverが左 な河原を見つけて、GPSで現在地を
岸から流れ込むところから 1 s t 再確認し、そこを1泊目のビバーク
Gorgeが始まるが、結局Dillon River 地とすることにした。
の流れ込みを気にしなくても1st
Gorgeが始まるのがわかった。徐々
に崖が両岸に現れ、そして狭く
なってくる。そろそろ「シュート」
があるはずだと思ったのでスピー
ドを落さえた。突然巨大な岩が目
の前に現れた。
「この流れのスピー
ドだとヤバイ。
」川がカーブしてい
るところで、岩は流れの中央にあ
り、その岩は流れを2つに別けてい
る。正面が真平らで幅3mはある。
張り付いたら一貫の終わりと思っ
た。岩の左は通れそうだが岩の陰
がどうなっているか分からないた
め、右から抜けた。
すると突然ゴル
ジュの幅が狭まり、
「シュート」の
1 羽の鴨と共に
2日目は左岸にDillon Cone(2017m)
があり、その山脈が左岸から一気
に立ち上っているのでナビゲー
ションしやすかった。天気も最高
だった。この悠久の地が永遠に続
いて欲しと願った。川の流れは清
冽で、60cmはあろうかというブラ
ウントラウトが悠々と泳いでいる。
流れは速いので、漕がなくてもカ
ヤックはどんどん進んで行く。早
瀬を下っていると、目の前にparadise duck(パラダイス・ダック)が
2,3羽川を下っている。彼等の後
を気づかれないように近づいた。
彼はいつも円らな瞳で俺を
見つめている。
1羽だけが俺の存在に気がつくと しながら川を下っていくにつれて
水中に潜った。何と彼は水中で翼 俺の心に迷いが湧き起こって来た。
を羽ばたいて泳ぎ、下流に向かっ 「こんなカワイイ瞳を持つ彼を食う
」羽を触っている
ているではないか。彼を追いかけ、 ことはできない。
水中から浮上してくるところを手 と彼はケガをしていることがわ
掴みにして彼を捕まえた。こいつ かった。だから簡単に捕まえられ
は今晩のオカズにしてやろう。 たのかもしれない。でもこのケガ
きっと大自然が育て上げたすばら だと命は短いな。きっとポッサム
しい肉とシャキシャキとした砂肝 か他の鳥に襲われるだろう。そう
を持っているに違いないと思いワ であればいっそのこと食べてし
クワクした。こんな所で新鮮な肉 まったほうが良いと思ったが、だ
が手に入るとは。焼き鳥はもちろ からこそ自然の摂理にまかせよう。
ん、スプリングオニオンを持ってき 短い命を仲間と一緒に暮らしたほ
ているので鴨鍋なんかもいいな。 うがより良いだろう。必要以上に
でもウジが涌く頃が一番美味いか 生き物を殺すことは良くない。自
ら肉を熟成させる必要があるなぁ。 分は食糧を持っているし、生き物
だからすぐ食べるのはもったいな を殺すためにクラレンスリバーに
だが、
不測の事
い。すぐに絞めるのは気が引ける 来たわけではない。
ので、彼の首にロープをかけて、 態が起きた時に彼は俺の命を少し
デッキのショックコードに挟んで でも繋げてくれるとも思えた。さ
おき、しばらくの間俺の川旅に付き らに迷いながら下る。2日目のビ
合ってもらうことにした。彼をど バーク地であるクゥアイルフラッ
うするか考えながら川を下り、そし トに上陸し、俺は彼の首から慎重
て結論を出した。
「もし食糧が不足 にロープを外し、抱きしめた後に
「飛んで
してしまったら彼の命を奪う。無 彼をそっと地面に置いた。
」彼
事に旅を終えることが出来たら彼 いくことができればいいなぁ。
をリリースする。
」彼と一緒に2nd はしばらくの間俺のそばから離れ
Gorgeに突入した。まるで「ニルス なかった。彼は覚悟を決めたのだ
それとも船酔いと、
ショッ
の不思議な旅」の逆バージョンの ろうか、
ような旅。彼はラピッドの手前で クコードに長い間挟まれていたた
「ギャーギャー」叫ぶ。彼にも恐怖 めに体がしびれてしまったのか。
がわかるようだ。大きなウェーブ 10分たっても彼はじっと俺を見
に乗り、水飛沫がバシャバシャと つめたまま動かなかった。また迷
かかると彼はさらに叫び声を大き いが生じるからはやく飛んでいっ
「短い間だったけど
くした。彼は不安を感じているに て欲しかった。
君と出会って良かった。
違いない。彼はいつも円らな瞳で
俺を見つめている。
瞳が「食べない 慣れないことさせて悪いことをし
」でも飛
でくれ」
と訴えている。俺は彼に話 た。さぁー。早く飛べよ。
ばなかった。俺は昼寝しようと横
し掛けたり、美しい羽を愛撫したり
になり、彼から目をそらした。する
と彼は
「ギャーギャー」
とわめきな
がら限りなく青い大空へ向かって
羽ばたいた。
「なんだ!飛べるじゃ
ないか。良かったなぁ。
」と安堵の
胸をなで下ろす。その直後、
「俺の
砂肝が飛んでいくー!!」
と心の中で
叫んだ。
やっぱり後悔した。
でも何
だか爽やかな気持ちになった。良
い事をしたように思えた。河原は
広く、空高く伸びたポプラの林の
間から木漏れ日が射し込む。
ファームの建物が見えるので柵を
乗り越え、トゲが痛いゴースのブッ
シュをかき分け、
丘を登った。クゥ
アイルフラットはここか。建物の
中には人影がなく、誰もいなかっ
た。建物の入り口には立派な角を
持った牛の頭の骨がぶら下がり、
地面には羊や牛の骨がバラバラに
なって転がっている。西部劇に登
場するようなファームだ。りんご
の木と桃の木を見つけたのでそれ
ぞれ5,
6個もぎ取った。りんごを
シャツで拭いて、かじりながらポ
プラの林のある河原を見下ろした。
太陽がジリジリと照り付け、
ファームの草原から陽炎が出てい
る。けれど吹き抜ける風は爽やか
だった。口に草をくわえながら草
原に寝そべって、そして目を閉じ
た。鳥たちのさえずりと風に揺れ
る木々の音が眠りを誘い、いつし
か意識が遠のいていった。心地よ
い眠りの後、口笛を吹きながら再
びポプラの林を目指して丘を降り
ていった。
113
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
「これは鴨をいじめた、自然から
俺に対する復讐なのだろうか。
」
学生生活最後で最悪の川下り
クゥアイルフラットから下流の川
沿いは柳やポプラの木が多くなっ
ていく。土手がえぐられて流され
た大木が多く、流れの中央にスト
レーナーを作っている。昨日まで
のすばらしい天気とは打って変わ
り、曇天の空で、雨が降ったり止ん
だりの不安定な天気。流れは次第
にきつくなってくる。マズルス
テーションはポプラの林の裏に隠
れており、煙が立ち上っている。
人
がいるようだ。しかし、マズルス
テーションの前はラピッドになっ
ているため岸に近づくことはでき
なかった。雲の隙間から雪を被っ
た鋭いサミットが見えた。アラー
ム山だろう。タプアエヌクの山頂
もその後から覗かした。次第に川
の色は茶色になり、いつしか濁流
になった。両岸からの支流の流れ
込む川が土石流のようだ。
「これは
ヤバイ。昨日かなりの雨が降った
ようだ。昨日まで暖かかった水は
かなり冷たい。
「雪がとけたに違い
ない。
」カフェオレのような濁流が
続いた。一番きついラピッドにさ
しかかった。頭から水を浴び、
胸に
冷たいボディーブローを何発も食
らわせられる。水中では岩がゴロ
ゴロと音を出して転がっている。
だんだん水位が上がっていくのが
わかる。エディに入って休もうと
してエディラインを横切ろうとし
た瞬間に、突然エディラインが高
く持ち上がり、その波にカヤック
は丸ごと飲み込まれ、ブレイスす
る暇もないまま瞬時にひっくり
返った。ロールのセットをしたが
114
乗り越えた。それ
濁流の中では目が見えなかった。 ウェーブと戦い、
水中でさかさまになったまま「あ からゴルジュは何度も曲がりくね
んな波が突然できるのはかなり危 り、現在位置を見失った。濁流は地
険な水量だ。
」と流されながら考え 図を見る暇さえも与えてくれいの
た。かなり冷静だった。
ロールは成 だ。ゴルジュには濁流の音だけが
功し、すぐにデッキの上の荷物が 反響している。張り付きそうな巨
流されていないかどうかチェック 岩があって避けきれそうになかっ
した。日本に帰国したら買い取る たので、左岸のエディにカヤック
予定で、後輩の佐羽が貸してくれ をいれて一呼吸いれてからフェ
しかし、
流れ
たビルジポンプが流されていたの リーグライドをした。
で追いかけて拾った。ほんの30 が速すぎるためフェリーグライド
秒程の出来事。上空を1機のヘリコ は失敗し、張り付くだろうと思っ
プターが低空飛行で頭のすぐ上を た。頭には岩に張り付く地獄絵図
飛び去っていく。流れはさらに が浮かんだ。これはいかん。一端
ハードになり、左岸にラバイン・ フェリーグライドしかけたまま再
ハットが見えたと思うと突然、砂 びエディに戻り、左岸からポーテー
嵐に襲われた。目を開くことがで ジをした「FRT(フェザークラフト
きない。砂嵐の風がウェーブの波 の カ ヤ ッ ク の 1 つ ) だ っ た ら
」どしゃ降りの雨の中、意気
頭を崩し、砂混じりの水飛沫で頭は なぁ。
消沈した。自分がこの先どうなる
ジャシジャシになった。岸に辿り
着けないままどんどん流され、3 のか不安だった。昨日の鴨が不安
「俺は鴨を自然に帰
rd Gorgeに吸い込まれていった。ゴ だったように。
してあげた。だから、どうか川よ。
ルジュに入ると、砂嵐はおさまり、
雨が激しくなってきた。寒かった。 俺の命を奪わないでくれ」と誓う。
とりあえずGibson Hut(ギブソン・ 「これは鴨をいじめた、自然から俺
ハット)
まで行きたかった。
緊急事 に対する復讐なのだろうか。」カ
態に備え、山越えのエスケープ ヤックのスピードをリバース・ス
ルートをギブソンハットから設定 トロークで極力押さえた。30分
していたからだ。ゴルジュの中の 後には日が落ちそうだった。はや
流れはかなりのスピードだった。 く岸に上がりたかった。暖かい飲
右岸から茶色の土石流Jam Stream み物が欲しかった。ギブソンハッ
(ジャム・ストリーム)がゴロゴロ トを見つけなければならない。し
現在位置を見失っている。
右
と音を立てて流れ込み、Jawbreaker かし、
Rapid(ジョーブレイカー・ラピッ 岸の土手が濁流でけずられている
ド)をスカウトする暇もないまま ところが見えた。その手前に上陸
一気に流され、ジョーブレイカー できそうな場所を見つけた。上陸
幸運にもそ
に突入してしまった。オーバーフ 後、あたりを見回した。
ローした高さ2mの岩の上を越え こはギブソンハットだった。急い
水面に着地。襲い掛かる巨大な でタープを張って体を乾かし、砂
そして、最後に水をゴクリ
と飲んで出発した。
ライフジャケットとスカノラック
のポケットの中には、カヤックを
失った時のことを考えて、ファー
ストエイドキットや非常食、サバ
イバルキット、財布などをしまっ
た。自分のこれまで培ってきた野
生の感と川下りの経験を生かし、
翌朝、タープに落ちる雨音と山羊
自分を信じた。
そして、
最後に水を
の群れに起こされた。ゴルジュに
ゴクリと飲んで出発した。
は濁流の轟音が轟いている。地面
ゴルジュは曲がりくねり、川がこ
は山羊とウサギの糞だらけだ。寒
の先どうなっている分からない。
くて寝袋から出られない。冬用の
スピードを落としてはいるがもの
寝袋なのに。吐く息が真っ白だ。
朝
次の日も雨だった。川の水量は昨 すごい速さだ。心臓がはちきれそ
食の後、
川の水量をチェック。昨日
うだった。カーブにさしかかると
日より増えたような気がする。曇
より増えている。辺りを散策した。
ギブソンハットはトタンの屋根が 天の空と寒さがそんな気にさせて きは川のインコースを通り、そし
吹っ飛び、崩壊していた。丘に登っ もいた。朝食の後にエスケープ て曲がりきるとフェリーグライド
て川を見下ろした。山火事の跡が ルートを確認しに行く。ギブソン・ で再びインコースへ逃げこみ極力
残っている。眼下には濁流だけが ストリームを溯り、パスを見つけ 流れの弱い所を通る。カヤックの
流れていた。下流は川がカーブし て山を900m登った。カヤックをギ バウ(舳先)を常に上流側、もしく
ていて、先がどうなっているか分か ブソンハットに置いて、ヘリで回 は横向きにしてカヤックをコント
らない。飲み水が少なくなったの 収しようという作戦の下見のため ロールし、いつでもフェリーグラ
でGibsonStream(ギブソン・スト に。しかし、道が悪く、時間がか イドできる状態のまま流された。
おそらく3,4日は 幸い、ゴルジュの中には激しいラ
リーム)
に行き、
浄水器で飲み水を かったために、
作る。川が濁っているので浄水器 かかるだろうという計算になった。 ピッドはなかったが、エディは強
のカートリッジが詰まり、何度も ハードな山超えは体力と食糧たく 力で洗濯機のようだ。そして突然、
カートリッジを掃除して飲み水を さん消耗する。それに山の天気は 川はゴルジュを抜け出した。空は
作った。濡れた薪を山のように集 難しいし、山で停滞させられれば 晴れあがり、どこまでも続く緑の
め、これ以上濡れないようにギブ 食糧はなくなる。逆に遭難するだ カーペットのように見えるファー
ソンハットのトタン屋根を被せた。 ろう。へたに動かないほうが身の ムランドが現れた。茶色に濁った
それに、
山登りはあまり好き 濁流と緑のカーペットのコントラ
着火材に火をつけ、濡れた薪をく ため。
べた。うまく火を起こせたので濡 じゃないし、川を下ったほうが絶 ストが美しい。一端開けた川は再
れた薪を乾かし、再びトタン屋根 対に早い。明日に水量が減ってく び狭くなり、目の前に吊り橋が見
えた。グレンアルトン・ブリッジ
の下にしまった。この作業に半日 れることを祈るしかない。
だ。この橋から下流に最後のホワ
費やす。風の吹く方角が何度も変
イトウォーターが待っている。も
朝には雨が止んでいた。
水量はあ
わった。タープを何度も張り変え
た。地図を見ると風がリサーキュ いかわらずだ。しかし、空は晴れ、 のすごいラピッドだった。2mを
レーションしそうな場所だったの 太陽が出てきたので士気を取り戻 超えるウェーブが連続している。
で、タープの高さを1mぐらいの した。下るなら今しかないと思っ そして、ウェーブは時々ブレイク
高さに落としてあらゆる方角から た。さっそく準備にとりかかった。 する。まるで海のような世界。
糖をたくさん入れた暖かい紅茶を
作ってすすった。やっとリラック
スすることができた。簡素な夕食
のあと、死んだように眠ってし
まった。
来る風をやり過ごした。
その晩、
寝
袋の中でいろいろなことを考えた。
友人やクラブの仲間、両親のこと、
どうやって河口まで辿りつくか。
考える時間は十分過ぎるほどあっ
た。こんなにまで考えたことは今
までなかった。
このまま数日間、
こ
こで水量が減るまで過ごせば食糧
が底をつくことは分かりきってい
た。そして山越えをするか川を下
り続けるか決断に迫られてもいた。
115
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
「ウォー!! お母ちゃんー!!」
」
「すぐそこに民家が一軒ある して、このガイドであるTony(ト
「ウォー!! お母ちゃんー!!」と叫び ど。
ながらそのウェーブに突っ込んで からそこで借りれるよ。」彼等と ニー)の家へ向かった。トニーの家
いく。このまま生きて帰れるのか もっと話がしたかったのでまだこ へ着くと、ここがおまえのベッド
という不安、そしてもう終わって こにいるかどうか尋ねたら、あと だといって家の前の離れを与えら
「家族を
しまう学生生活のことを思って感 5分したらブレナムのほうへ行く れ、家の奥へ案内された。
きわまり、泣きながら川を下った。 というので彼等にお礼を言って別 紹介しよう。妻のPatricia(パトレ
複雑な気持ちだった。
そして、
あっ れた。民家に行きピアスに電話を シア)に息子のJervis(ジョービス)
という間にハイウェイワンブリッ したが彼はいなかったため、無事 だ。彼はヒロだ。芝刈りをしてる時
ジに到着してしまった。約40キロ に下ったことの言づてをお願いし に出会った。ギブソンハットに3
を2時間で下る。あまりにも過酷で た。民家で電話代として2ドル置 日間も足止めさせられ、洪水のク
いていった。今日はどこに泊まる ラレンスを下ってきたクレイジー
ドラマチックな旅だった。
」その夜、リバーレスキューに
上陸して芝生の広場でカヤックや んだと聞かれ、河原でキャンプす だ。
装備品を広げ、しばらく腰を抜か ると答えるとペットボトルに水を ついてお互いに意見を交わし合う。
す。ピアスに電話するために電話 たくさん入れて手渡してくれた。 そして、信じられない事実を聞い
「ハイウェイワンブリッ
を探そうとしていたら、橋の下で 荷物を置いてある芝生に戻るとそ て驚いた。
老夫婦が車の中でランチを食べて こには1台の車があり、1人の男 ジから3キロ上流は、1ヶ月前の洪
「あれはおまえ 水でファームの土手が削られて有
いた。
突然、
涙をこぼしながら挨拶 が芝を刈っていた。
もなしに彼等にこう話した。
「ギブ のカヤックか?1人でクラレンス 刺鉄線の柵が流され、川を横切っ
ソンハットで3日間も足止めをく を下ってきたのか?」そうだと答 ているんだ。ファーマーも俺も頭
「信じられない。
俺はクラレ を悩ませている。回収するのにお
らい、こんな流れの中やっとここ えると
まで辿り着けたんだ。これが学生 ンスリバーでラフティングのガイ 金がかかるし、安全なツアーがで
生活最後の川旅なんだ。」声が上 ドをしている。こんな水量がここ きないからな。もし、オマエが沈脱
擦っていた。彼等は呆気にとられ 2,3日続き、ツアーは全部キャン して流されていたら,多分いまご
ていた。いきなりヒゲもじゃの別 セルしている。今日は川の下見と ろあの有刺鉄線にひっかかって,
けの分からないウェットスーツを 芝刈りを兼ねてやってきた。ここ 死体は見つからなかっただろう。
着た不潔な東洋人が突然目の前に の芝生はツアー終了後にバーベ 気が付かなかったか?」彼の話を
「水量が
現れ、泣きながら別けの分からな キューをするところで、D O C 聞いて背筋がゾッとした。
(Department
of
Conservation、国の環
多かったし、無我夢中で漕いでい
いことを言い出したのだから。続
いて「食糧が足りなくなって。タバ 境庁みたいなもの)の要請もあり、 たのでわからなかった。」と答え
「明日にその現場に連れていっ
コも川に流しちゃって。」という また見栄えがいいように芝刈りを た。
している。
今日はどうするんだ?」
てやろう。
」
と。彼等の目はやさしい目になっ
た。
「タバコを1箱あげよう。ライ 「とりあえずギアを乾かして、ヒッ 次の日、現場に連れていっても
ターはもってるか?」タバコに火 チハイクしてカイコウラに行き、 らったが、水量が多かったのでわ
彼の家に2日間お
をつけてもらった。
「どうだ。うま バックパッカーズかなにかに泊ま からなっかった。
」というと、
「俺はカイ 世話になった。
その間、
トニーは俺
いか。
」
「もう、最高だよ。
」そして彼 るつもりだ。
コウラに住んでいる。もしよかっ
を連れまわした。カイコウラのビ
等に謝った。
「ごめんなさい。すば
らしいランチタイムを取り乱した たらウチに来いよ。芝刈りはあと ジターセンターや写真家のBrian
、その他たくさんの
りして。
」
「全然気にしてないよ。
」 1時間したら終わるので、荷物を (ブライアン)
パッキングして待っててくれ。
」
そ
人の所に行き、
「ヒロは洪水のクラ
「ところで電話を探してるんだけ
116
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
泣きながら川を下った。
レンスを下ってきたクレイジーな
奴だ。
」と言い回った。そして、数
日後 D a v i d & M a k i の家がある
Lyttelton(リトルトン)へ戻った。
CH-CHに到着して、すぐにジョン
のオフィスへ行った。ジョンは俺
が1人で川を下らなければならな
かったことを残念がっていたが、
事情を説明すると、生還してきたこ
とをとても喜んでくれた。Makiは
「ヒロがクラレンスへ行ってから
CH-CH 周辺は大雨が続き、Fiji
(フィジー)をめちゃくちゃにした
サイクロンがNZ へ向かってきた
のよ。
」と言うのであった。
Volcanic coast line sea kayaking in Banks
peninsula
とが可能だ。そして、
フランス人入
植者の多い港町Akaroa(アカロア)
まで行く予定。クラレンスでカ
ヤックのフレームが壊れたが、さす
が港町とあって、金属加工や造船
技術をもつ職人にフレームの修理
を頼み、たったの10分、わずか2
ドルでフレームを直してもらった。
ある日の夕方、David&Makiに伝言
を残し、誰の見送りもないまま
ヨットハーバーから1人で出港し
た。東の風が強く、波はうねってい
た。向かい風の中を進む。5キロ漕
ぐのに2時間もかかった。途中、パ
ウア(アワビ)やマッスル(ムール
貝)を夕食のために拾う。
その日は
Camp bay(キャンプ・ベイ)に上陸
した。
キャンプ・ベイは静かな湾で
クラレンスリバーの旅を終えてか 波の音が心地良い眠りを誘ってく
ら1週間はDavid&Maki、そして娘 れたが、
突如、
韓国か日本のイカ釣
のKiriと共に過ごした。
彼等の家に り船が現れ、ものすごい光を発し
戻るとYukaという女の子が来てい たまま停泊しているため明るすぎ
た。彼女はワケありの人なのだが、 て寝付けなかった。次の朝、イカ釣
ここでは彼女のことは敢えて書か り船の姿はなかった。
キャンプ・ベ
ないことにする。みんなでPeel イを出るとすぐ外洋にでた。
Forestでトランピング(トレッキン
べた凪で天気は快晴で冷たい水の
グ)したり、
パブに飲みにいったり 中を進むのは気持ちがよかった。
して遊んだ。港では南極へ調査へ 向かって左の方向には遥か遠くカ
行って寄港したグリーンピースの イコウラ山脈が見える。かつてア
乗組員と話をしたりもした。事情 カロアハーバーやリトルトンハー
があってYukaがいなくなると寂し バーは噴火口で、その爆発によっ
くなった。クラレンスの旅の極度 てバンクス半島ができたといわれ、
の緊張感と疲労、そして余韻にひ 海岸線は赤茶けた溶岩で、たくさ
たっていた。Makiが「最後の旅な んの洞窟が海岸に見られる。
2,3
んだから、もっと遊ばなきゃ。
」そ の湾を通り過ごすと、海が荒れて
の言葉を受け、バンクス半島一周 きた。
風が冷たく、うねりは急に高
の旅を計画した。彼等の住むリト くなり、2mを超えた。サザリーだ
ルトンは港町なので、ヨットハー な。南極からの冷たい風をNZでは
バーから簡単にカヤックを出すこ サザリーと呼ぶ。気象の急激な変
化は海ではあたりまえだが、この
変わりようはちょっといつもとは
違うと思った。うねりは約3mの
高さになった。時々、波頭は崩れ、
沖で無理矢理サーフィンさせられ
た。今まで感じたことのない海
だった。
しかし、
巨大なうねりの中
でカヤックはすばらしい安定をみ
せている。風、そしてうねりのパ
ワー。海との一体感をダイレクト
に感じた。陸からカモメが偵察に
やって来る。目の前を通りすぎる
と、旋回してまた戻る。
俺を食べ物
と思っているのだろうか。進むご
とに何羽もやってくる。歓迎され
ているのか?そして、アザラシも
現れてきた。カヤックの傍に近づ
いてきた。ヒレを水面から出し、
踊っている。イルカのような柔ら
かさを持っているハイパロンの
hull(ハル)は警戒を与えないかも
しれない。Long Lookout Pointに近
づくと海はますます荒れた。なぜ
だか知らないがカヤックの安定が
悪くなっていることに気づいた。
右側にブレイスばかりいれている
自分は変だと思った。耳慣れない
音を聞いた。
「シュー」というかす
かな音。スポンソンからエアーが
リークしている音だった。冷たい
水と、横波のせいで右のスポンソ
ンからはエアーがあっという間に
抜けた。こんな荒れた海の中で抜
けるとは思いもよらなかった。荒
れ狂うLong Lookout Pointを気合で
漕ぎぬけ、Okains Bay
(オケインズ・
ベイ)に足早に逃げ込みサーフィ
ンして上陸した。上陸してスポン
ソンをすぐにチェックした。ホー
117
LAST TRIPS IN NEW ZEALAND
スとチューブの付け根からエアー
がリークしていた。スペアのスポ
ンソンを日本からもってくるべき
だった。旅を続けることは不可能
だった。上陸した所はキャンプ場
で、ウィークデイのため誰の人影
もなかった。どうやってリトルト
ンに戻ろうか考えた。
しかし、
老夫
婦が一組キャンプをしていた。カ
ヤックと荷物を運ぶのを彼等は手
伝ってくれた。妻のJan
(ジャン)は
「双眼鏡で海を覗いていたら、カ
ヤックが見えたの。
」その言葉を聞
いてうれしかった。夫のAlan(ア
レン)は「若い頃、カヤックによく
乗ってたんだ。このカヤックはす
ごいな。エスキモーのカヤックと
そっくりだな。」と。彼等は熱い
コーヒーを入れてくれた。このま
ま旅を続けることができないと説
明した。そして、
「アカロアまで連
れていって欲しい。
」と頼むと、
「な
ぜアカロアへいくの?」
「アカロア
からシャトルバスでCH-CH へ戻
り、CH-CH からリトルトンへ戻
る。」というと、「我々は L a k e
Ellesmire(エルズミア湖)の近くに
住んでいるが、久し振りにリトル
トンの美しい港が見たくなった。
リトルトンまで送ってあげよう。
」
次の日、キャンピングカーのソ
ファーでくつろぎながら、リトル
トンまでのドライブを楽しんだ。
そして、
彼等と別れた。
David&Maki
の家へ戻り、寒かったので暖炉の
傍で眠った。日本帰国の2 日前、
ジョンやその他の仲間たちととも
にしゃぶしゃぶパーティーをし、
しこたまビールを飲みまくり楽し
い時を過ごした。
そして日本に帰った次の日、大
学の卒業式へ出席したのだった。
「双眼鏡で海を覗いていたら、
カヤックが見えたの。
」
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