博士学位論文要旨 医療領域における臨床心理士の役割に関する研究

平成 25 年度
武庫川女子大学大学院
博士学位論文要旨
医療領域における臨床心理士の役割に関する研究
臨床教育学研究科臨床教育学専攻
長井
直子
目次
はじめに
問題と目的
序章
第1章
医療領域における臨床心理士
第1節
臨床心理士とは
第2節
臨床心理士の職務
第3節
医療領域における臨床心理士の現在の活動
第4節
医療におけるプライバシーの保護について
第5節
まとめ
第2章
臨床心理士の役割についての医師へのアンケート調査
第1節
調査の目的
第2節
方法
第3節
結果
第4節
考察
第5節
まとめ
第3章
臨床心理士の役割についての事例研究
第1節
事例研究の目的
第2節
事例の分類
第3節
事例紹介
第4節
まとめ
第4章
総合考察と今後の臨床心理士の在り方
第1節
総合考察
第2節
今後の臨床心理士の在り方
引用文献
謝辞
1. はじめに
これまでわが国において臨床心理士の医療領域での活動は、臨床心理士が主として精神
科のある病院に所属し、あるいは精神科医療機関と連携し、精神科医の依頼や指示に基づ
いて行う活動が中心であった。そして、臨床心理士の活動は、その精神医学的な診断を支
援する形での心理検査や心理療法、カウンセリングを実施するといったことが主な活動で
あった。そのため、臨床心理士自身や一般社会において、臨床心理士自らが、医療領域に
おいて精神科に所属しないで、あるいは、精神科と連携することなく活動する領域に関心
が払われてこなかった。しかしながら、社会やその中での人間関係が複雑化したことで、
心理的ストレスが高まるなど様々な問題が生じ、医療を受ける対象者が増加してきた。精
神科の治療を要する患者だけでなく、がんなどの身体疾患患者、不安から医療を受ける人
や小児の発達面の問題を抱える人が増えてきており、心理的ケアを必要とする対象者が広
がってきている。筆者もこのような社会的要請の流れから、臨床心理士として 2009 年から
公立総合病院に勤務している。
医療領域において臨床心理士が専門職と位置づけられ、その専門性を十分に発揮するに
は、経験を積み、理解されるよう日々の臨床心理実践活動を継続する必要がある。その活
動を有用なものとするためには、臨床心理士自身が自身の専門性、および役割を認識でき
ている必要がある。本研究では、本研究における「役割」とは何かを捉え、今後の医療領
域における臨床心理士の役割について検討を行うこととする。
問題と目的
わが国の医療領域における臨床心理士の活動において、以下の 3 つの点が問題となる。
第一に問題となる点は、他の医療職との協力関係についてである。第二に問題となる点は、
臨床心理士の職務、特に専門性についてである。第三に問題となる点は、臨床心理士への
役割期待である。この 3 つの問題から、わが国の医療領域における臨床心理士の活動につ
いて以下を目的とした。
本論の目的は、医師への調査研究と事例研究に関する実証データをもとに、医療領域に
おける臨床心理士と他の医療職との協力関係、職務の専門性、臨床心理士への役割期待を
明らかにし、今後期待される新たな臨床心理士像を提示することにある。本論は、心理学
における役割理論の検討や、役割理論検証を目的とした研究ではない。しかし、本論は、
「役割」という視点から、臨床心理士という職に携わっている者が、実証的データに基づ
-1-
いて上記のような検討を行うため、
「 役割」について、本論の視点を明確にする必要がある。
そこで、序章において「役割」について述べる。
序章
「役割」とは、元々社会学の概念であるが、心理学において役割は、理論として、また、
理論の検証のための操作概念として取り扱われてきている。心理学では、社会的な状況で
の人の心理、行動が問題となるため、多くの心理学研究者は、役割を「社会的役割 (social
role) 」としてとらえている。本研究では、これらの役割論をもとに、以下の 3 つの視点
から、本論における臨床心理士の「役割」をとらえることとした。
1. 臨床心理士が医療領域において占める位置:臨床心理士と他の医療職との協力関係につ
いて
本論では、日本臨床心理士資格認定協会が認める有資格者としての臨床心理士(以下、
臨床心理士と略記)が、現在のわが国における医療領域で職務を行うとき、どのような位
置を占め、他の職務者、とくに医療職の人とどのような指示、命令、服務、協力関係にあ
るかを第一の視点として、その役割をとらえる。第一の視点においてとくに大切なのは、
臨床心理士と他の医療職との協力関係である。具体的には、現在の医療においてとくに重
視されているチーム医療のなかで、臨床心理士がいかなる役割を担うかである。
2. 臨床心理士が医療領域において果たす機能:臨床心理士の職務について
本論では、臨床心理士が、医療領域においてどのような内容の職務を行い、そしてそれ
が医療領域にどのように機能し、貢献しているかについて検討を行うことが本論の第二の
視点である。
3. 臨床心理士が医療領域において果たす職務への期待:臨床心理士への役割期待について
臨床心理士が、医療領域における活動を行う時に、他の医療職から期待される役割とは
何か。臨床心理士の役割期待の中で特に大切なのは、患者と、家族の基本的人権を尊重し、
さらに、患者、家族のみならず、親戚、友人、学校や職場の人など患者、家族を取り巻く
周囲の多くの人々や環境があることを踏まえたこころのケアである。このことは、臨床心
理士への役割期待の基本にあると言えるが、他の医療職からの期待を知り、それをどのよ
うに今後の医療の貢献に役立てるかということを第三の視点に、臨床心理士の役割をとら
える。
-2-
第1章
医療領域における臨床心理士
本章では、医療領域における臨床心理士について、その職務、倫理綱領、成り立ちなど
を論じ、日本の臨床心理士の役割について検討した。そして、現在の医療領域における臨
床心理士の活動について文献研究を中心に考察を行った。
第1節
臨床心理士とは
日本においては、臨床心理的援助を行う専門職は、心理カウンセラー、セラピスト、心
理療法士、心理相談員など様々な名称で呼ばれており、国家資格は存在していない。ここ
でいう臨床心理士とは、財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定を受けている「臨床
心理士」のことをいい、臨床心理士には専門職としての高い倫理観 が求められている。
第2節
臨床心理士の職務
平成 21 年度版臨床心理士関係例規集「臨床心理士資格審査規定」第 11 条には、“臨床
心理士は、学校教育法に基づいた大学、大学院教育で得られる高度な心理学的知識と技能
を用いて臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助及びそれらの研究調査等の業
務を行う”と明記されている。
第3節
医療領域における臨床心理士の現在の活動
臨床心理士は、医療に限らず、各領域において様々な活動を行っている 。これまで、医
療領域における臨床心理士の活動について、木南・高澤 (2007) が、精神科医療における
臨床心理士の独自性、専門性について考察している。長井・森本・野村・佐々木・本多 (2013)
は、心理的問題を抱えた乳がん患者 20 名を対象に、臨床心理士の介入の効果について報告
している。医療における臨床心理士の役割や協働については、長井・橋本・井澤・山田・
本多・内藤・井谷・佐々木 (2010) が、膵臓がんと診断された軽度知的障害を伴う 40 歳代
女性への臨床心理士の専門職としての介入が、患者・家族の精神的安定およびスタッフ教
育に一定の効果をもたらした事例を示しているなど、数多くの研究が進められてきている。
このように近年、医療領域においては、臨床心理士の専門職としての役割に対する様々
な要求と期待が増える傾向にある。それとともにその役割自体が多様化している。医療職
が患者の心理カウンセリングや心理検査の必要性を感じ、臨床心理士に依頼する場合もあ
れば、患者が直接、心理ケアを望む場合もある。その依頼を受け、臨床心理士は、構造化
-3-
された面接を行ったり、心理検査を行ったりするという関わり方がある。
その一方で、橋本 (2005) が、NICU に子どもが入院経験のある家族へのアンケートから、
臨床心理士には、特別な依頼をしなくても、「さりげなく」「そっと」アプローチしてほ
しいと望む声が大きいことを明らかにしたが、NICU や身体症状の重い患者、緩和ケア病棟
においては、その場にいて、さりげなく関わることや、ベッドサイドで手を握りながら思
いを傾聴することが患者へのこころのケアにつながるなど、構造を決めすぎない柔軟な対
応も、医療領域で臨床心理士が活動する際に大切な視点であるといえる。
そして、臨床心理士が、患者と十分な信頼関係を築くために、なにより大切であるのは、
プライバシーを保護し、守秘義務を守ることである。患者が安心して気持ちを打ち明け、
語れるような場を提供出来得るかが、その後の臨床心理的支援が有用になるか否かに大き
な影響を与えるものと考える。
第2章
臨床心理士への役割についての医師へのアンケート調査
第1節
調査の目的
臨床心理士の採用が広がり、医療領域において活動の範囲が拡大した反面、それぞれの
範囲における臨床心理士の活動内容が多岐にわたることもあって、臨床心理士の医療領域
における専門職としての役割が明確ではないという点が問題となってきた。
中島・岩満・大石・村上・宮岡 (2012)
が指摘するように、臨床心理士がこのような分
野における自らの役割を明示していくだけでなく、医療チームのリーダーであり、依頼す
る立場である医師が、心理職を医療領域においてどのように位置付け、さらに、心理職に
対しどのような期待を持っているのかを知ることも、今後臨床心理士が医療領域において
有用な活動を行っていく上で重要であると考え、医師への調査を実施した(長井,投稿中)。
これまで、中島他 (2012) が、精神科、心療内科医に対するアンケート調査を行ってい
るなど診療科に限定した研究は行われている。しかし、小児科、外科、内科を含めた様々
な診療科を対象に、臨床心理士に対するニーズを調査し、診療科間で比較した研究は筆者
の知る限り見あたらない。本研究では、臨床心理士と連携の多い精神科医のみならず、内
科、外科、小児科、その他の診療科の 140 名もの医師によって、臨床心理士の役割や期待
についての調査協力が得られた点が特徴である。
本調査研究の目的は、これまで序章で述べた役割論をもとに、「臨床心理士と他の医療
-4-
職との協力関係について」、「臨床心理士の職務について」、「臨床心理士への役割期待
について」の 3 つの視点をふまえ、以下の 2 点とした。
(1) 医療領域における臨床心理士の役割について、医師がどのような認識を持ち、臨床
心理士に期待し、要望しているか基本となるべき点を明らかにする、
(2) 臨床心理士の役割について、診療科によってどのような共通点と相違点があるかを
明らかにする。
第2節
方法
1. 対象者
筆者の勤務する診療科目に精神科を持たない大阪府下の総合病院を含めた、大阪府下の
総合病院 4 病院、大学病院 1 病院、精神科単科病院 4 病院、小児科単科病院 1 病院の計 10
の医療機関に勤める医師を対象に、質問紙調査を実施した。 事前に、依頼文を郵送または
持参し、協力の許可を得られた上記 10 医療機関に配布した。その結果、最終的に 8 医療機
関の協力を得て、それら医療機関に勤務する計 140 名の医師から直接または郵送による方
法で質問紙が返却され、回収率 36.8%の有効回答を得ることができた。
2. 調査期間
調査期間は、2012 年 9 月~10 月末までであった。
3. 倫理的配慮
依頼文には、調査の目的、プライバシーの配慮および情報の取り扱いについて、また学
術誌に発表する可能性のあることを明記した。質問紙の返送をもって研究協力の同意を得
たとみなした。本調査の実施については、八尾市立病院倫理委員会、及び、武庫川女子大
学倫理委員会における承認を得た。
4. 質問紙の構成
調査項目の構成と内容は、これまで論じてきた以下の 3 つの視点を基本とし、①回答者
の属性を問う質問、②医師が臨床心理士に求める役割についての質問、および、③自由記
述、の 3 つの項で構成した。
第3節
結果
1. 対象者の属性
対象者の所属科としては、小児科 31 名、精神科 25 名、内科 24 名、外科 31 名、その他
-5-
29 名である。対象者の年齢は、20 歳代 14 名、30 歳代 46 名、40 歳代 41 名、50 歳代 27 名、
60 歳代 10 名、不明 2 名であった。所属病院の形態としては、総合病院 104 名、精神科単
科病院 24 名、小児科単科病院 10 名、その他 2 名であった。所属病院における臨床心理士
の人数は、なしが 5(人)、1 名が 89(人)、2 名以上が 43(人)、不明が 3(人)であった。
2. 医師が臨床心理士に求める役割について
表 1 に示すように、30 質問項目について、各医師の各質問項目評定値について、5 診療
科間に違いがあるか否かについて、1 要因分散分析を行い、有意差が認められた項目につ
いて、各科間で Tukey の HSD 法を用いて多重比較を行った(有意差はいずれも 5%水準以上)。
以下、1~3 群ごとに結果を示す。
表1
医師が臨床心理士に求める役割について
診療科
小児科:31名 精神科:25名 内科:24名 外科:31名 その他 注2 : 29名 全体:140名
有意差検定(5%水準以上)
科間分散分析
下位検定
1 臨床心理士と他の医療職との協力関係について
(1) チーム医療において重要であると考える
(2) 主治医との連携を行うこと
(3) 医師に患者の医療に役立つ情報を伝えること
(4) 医療チーム内で連携をとること
(5) 医師のコンサルテーションに応じること
(6) 医師以外の医療職との連携を行うこと
(7) 医師以外の医療職に患者の医療に役立つ情報を伝えること
(8) 精神科との連携を行うこと
(9) 医師以外の医療職のコンサルテーションに応じること
(10) 医師の治療方針に従うこと
4.77(0.50)
4.61(0.56)
4.42(0.56)
4.48(0.68)
4.32(0.60)
4.35(0.55)
4.35(0.61)
3.97(0.84)
4.13(0.72)
3.87(0.81)
4.72(0.46)
4.52(0.71)
4.52(0.77)
4.28(0.79)
4.36(0.76)
3.84(0.94)
3.96(1.17)
4.40(0.76)
3.84(1.03)
3.88(1.09)
4.38(0.58)
4.46(0.66)
4.33(0.64)
4.29(0.86)
4.13(0.68)
4.21(0.88)
4.21(0.78)
4.29(0.75)
4.00(0.78)
3.54(0.93)
4.26(1.10)
4.39(0.80)
4.32(0.75)
4.35(0.71)
4.19(0.70)
4.42(0.67)
4.13(0.96)
4.16(0.82)
4.03(0.75)
3.65(0.91)
4.45(0.69)
4.41(0.63)
4.55(0.63)
4.45(0.74)
4.52(0.63)
4.41(0.73)
4.45(0.74)
4.34(0.61)
4.31(0.81)
3.90(1.08)
4.51(0.73)
4.48(0.67)
4.42(0.67)
4.38(0.74)
4.31(0.68)
4.26(0.77)
4.23(0.87)
4.22(0.77)
4.07(0.82)
3.77(0.96)
F(4,135)=2.819 ,p<.05
小児科>外科
F(4,135)=2.728 ,p<.05
精神科<外科、その他
(11) 臨床心理士と連携することがある
4.32(1.14)
4.56(0.51)
2.25(1.42)
2.77(1.60)
3.14(1.70)
3.42(1.60)
F(4,135)=14.270 ,p<.01
小児科>内科、外科、その他
精神科>内科、外科、その他
診療科
小児科:31名 精神科:25名 内科:24名 外科:31名 その他 注2 : 29名 全体:140名
有意差検定(5%水準以上)
科間分散分析
下位検定
2 臨床心理士の職務について
(1) 心理的問題を抱えた患者の心理カウンセリングを行うこと
(2) 患者が抱えている心理的問題を把握すること
(3) がん患者の心理カウンセリングを行うこと
4.71(0.46)
4.55(0.57)
4.23(0.72)
4.60(0.65)
4.60(0.58)
3.80(1.22)
4.71(0.46)
4.54(0.51)
4.58(0.50)
4.55(0.68)
4.48(0.63)
4.65(0.60)
4.52(0.63)
4.38(0.68)
4.41(0.73)
4.61(0.58)
4.50(0.59)
4.34(0.83)
F(4,135)=4.921 ,p<.01
(4) 心理検査を行うこと
4.52(0.13)
4.88(0.67)
3.92(0.12)
3.71(0.21)
3.90(0.17)
4.17(0.08)
F(4,135)=10.052 ,p<.01
(5) 家族の心理ケアを行うこと
(6) 遺族の心理ケアを行うこと
(7) 臨床心理的支援が必要な患者をスクリーニングすること
4.32(0.60)
4.10(0.65)
4.13(0.76)
3.80(1.04)
3.40(1.15)
3.44(1.19)
4.25(0.68)
3.96(0.75)
4.17(0.64)
4.13(1.02)
3.87(1.20)
4.10(0.79)
4.28(0.75)
4.07(0.88)
4.03(0.73)
4.16(0.84)
3.89(0.97)
3.99(0.86)
(8) 精神科の診療が必要な患者をスクリーニングすること
3.58(0.84)
3.04(1.10)
3.71(0.75)
3.74(1.00)
3.79(1.01)
3.59(0.97)
(9) 臨床心理士の仕事内容を知っている
4.06(0.73)
4.28(0.74)
3.21(1.18)
3.10(1.27)
3.17(1.28)
3.56(1.17)
(10) 医療職への心理的ケアを行うこと
(11) 医師の治療までの導入面接を行うこと
3.48(0.81)
3.45(0.96)
3.16(1.14)
2.84(1.28)
3.50(0.66)
3.33(0.64)
3.42(1.03)
3.48(1.09)
3.62(1.01)
3.41(0.98)
3.44(0.95)
3.32(1.03)
3 臨床心理士への役割期待について
(1) 守秘義務意識を持つこと
(2) 患者・家族との守秘義務を医療職と協同して守ること
診療科
小児科:31名 精神科:25名 内科:24名 外科:31名 その他 注2 : 29名 全体:140名
4.90(0.30)
4.84(0.37)
4.88(0.34) 4.68(0.54)
4.93(0.26)
4.84(0.38)
4.84(0.45)
4.84(0.47)
4.75(0.44) 4.65(0.55)
4.83(0.47)
4.78(0.48)
(3) 医師として、臨床心理士の必要性を感じている
4.77(0.50)
4.88(0.33)
4.04(0.75)
4.10(1.08)
4.28(0.80)
4.41(0.81)
(4) 臨床心理士の専門性を明確にすること
(5) 医療職に臨床心理学の知見について説明すること
(6) 医療の知識を学ぶこと
(7) 臨床心理士の専門性にこだわりすぎないこと
(8) 臨床心理学に限定した専門用語を使用しないこと
4.42(0.67)
4.19(0.65)
4.16(0.58)
3.94(0.73)
3.90(0.90)
4.32(0.75)
4.12(0.78)
4.16(0.80)
3.72(0.79)
3.24(1.20)
4.25(0.79)
4.04(0.62)
3.96(0.69)
3.63(0.97)
3.67(0.96)
3.90(0.79)
3.97(0.80)
3.81(0.95)
3.74(0.93)
3.77(0.84)
4.00(0.89)
4.10(0.72)
4.28(0.88)
3.66(0.81)
3.83(1.00)
4.17(0.80)
4.09(0.71)
4.07(0.80)
3.74(0.84)
3.70(0.99)
注1 1 そうではない 2 まあそうではない 3 どちらともいえない 4 まあそうだ 5 そうだ
注2 麻酔科、耳鼻科、眼科、泌尿器科、産婦人科、口腔外科、研修医
-6-
F(4,135)=3.323 ,p<.05
精神科<内科、外科、その他
小児科>外科、その他
精神科>内科、外科、その他
精神科<小児科、内科、外科
F(4,135)=10.052 ,p<.01 精神科<その他
小児科>内科、外科、その他
F(4,135)=7.548 ,p<.05
精神科>内科、外科、その他
有意差検定(5%水準以上)
科間分散分析
下位検定
F(4,135)=7.352 ,p<.01
小児科>内科、外科
精神科>内科、外科、その他
第3節
結果と考察
1. 臨床心理士と他の医療職との協力関係について
チーム医療における重要性については、診療科により有意差がみられたが、全科におい
てこの群の項目得点は高い傾向にあり、医師は臨床心理士を活用し、医療の中に役立てよ
うという認識を高く持っているということが明らかになった。このことから、医師は、医
療領域において、臨床心理士が専門職として有する資質と技能に着目して、その独自性と
重要性を十分に認識していると考えられる。そして、臨床心理士の活動から得られた患者
自身やその家族関係といった患者に関連した様々な情報を自らの医療活動に有効活用しよ
うと考えているのではないかと思われる。
一方で、臨床心理士が「医師の治療方針に従うこと」については、全診療科において中
程度の評定値しか認められなかった。この結果から、医師は、臨床心理士に対して、治療
方針に従うことにそれほど重点をおいてはいないのではないかと思われる。臨床心理士は、
医師からの治療方針を尊重しながらも、臨床心理士としての資質と技能を用いて独自性を
発揮していくことが期待されているということが推察される。これに対し、医師は臨床心
理士を自らの治療に役立てようという認識は持っているものの、具体的にどのような 形で
活用すれば良いのか戸惑いがあるとも見ることができる。これは、 医療領域における臨床
心理士の役割が十分認識されずに、医師の治療方針の中に組み込まれていないのではない
かと考えられるため、臨床心理士が自ら医療領域の中でできることとその限界を明確にし
ていくことが課題であるといえる。
2. 臨床心理士の職務
医師の臨床心理士の職務に対する認識では、その職務の中でも最も基本的専門職務であ
る心理カウンセリングを行うことやこころの問題を把握することに対して、医師もしっか
りと認識していることが明らかになったといえる。
自由記述では、患者の不安に対する相談に乗ること、医師では不十分の患者のこころの
ケアに従事することの要望や医療者側だけでなく患者への理解を促すことの 重要性を指摘
する意見も寄せられた。今後は、臨床心理士も個別 カウンセリングだけではなく、臨床心
理士の職務が広く理解されるよう、自らの役割を積極的に見いだす努力を怠らないことが
必要である。そして、そのためには、臨床心理士の職務内容を、医師をはじめとした医療
職へ理解されることが必要であるとともに、患者の心理的問題を把握する前提として、そ
の患者との信頼関係を築くことが不可欠である。
-7-
「心理検査を行うこと」については、小児科、精神科の評定値が他の診療科よりも高か
った。これは、小児科や精神科においては、医師が患者の病名診断や治療法の参考として
心理検査結果を利用することが日常的になされており、心理検査を行うことが臨床心理士
の業務として確立し、そのことを医師が認識・理解しているためと考えられる。心理検査
の実施は、臨床心理査定の一種であり、臨床心理士に必要とされる基本的専門職務の中の
一つである。本調査の自由記述において、小児科・精神科以外の診療科の医師からは、「心
理検査で得られた結果の詳細なフィードバック」を求めるというコメントや、「必要時に
おける高次脳機能検査」の実施を望むというコメントが寄せられていた。このように、精
神科や小児科だけでなく、臨床心理士による心理検査の実施に対して潜在的に必要性を感
じ、期待を持っている診療科が多く存在すると想定される。今後は、心理検査の実施が多
い精神科や小児科だけではなく、全診療科の医師に、心理検査の有用性とその限界を示し
ていくことが課題である。
臨床心理士の医療領域における役割として十分確立されていない分野の一つに、医師を
含め医療に携わる医療職の心理ケアに対する介入という問題もある。医療領域における医
療職の心理的負担の大きさに関しては、長谷川・小塩、斉藤 (2009) が、医師の労働スト
レスとその要因に関する調査から、過重労働の問題を提起している。本調査の中では、「医
療職への心理的ケア」については、それほど高いニーズは認められなかったが、医療職に
対する心理的ケアは、よりよい患者支援につなげるためにも必至であると考える。臨床 心
理士が医療者の心理的ケアに介入することによって、より質の高い医療の提供や患者の健
康保持向上に貢献できるかは今後の課題であるといえる。
3. 臨床心理士への役割期待について
臨床心理士という専門職に対する役割期待として、医師が、臨床心理士の必要性、専門
性、また守秘義務などの倫理的配慮についてどのような認識を持っているかを調査した。
まず、臨床心理士が職務を遂行するにあたり、「守秘義務意識を持つこと」は、専門的職
業倫理としても最大限に尊重されなければならないことであり、 日本臨床心理士会倫理規
定第3条に基づいた倫理綱領が設けられている。本調査においても、医師が、臨床心理士
に対し、守秘義務を守り患者のプライバシーを尊重することが非常に重要であるという認
識を強く持っていることが明らかになった。
次に、「医師として臨床心理士の必要性を感じている」 については、精神科、小児科に
おいて高い結果を得られたが、これは連携の機会が多いか否かという診療科の特徴による
-8-
ものと思われる。本論では、第 3 章にその実践例を述べているが、外科、内科、その他の
診療科の医師からも必要性をより認識してもらえるように臨床心理士自ら働きかけていく
ことが課題である。医療領域において勤務する臨床心理士は、幅広い視点で柔軟に対応す
ることが求められているといえよう。
さらに、臨床心理士は医師から「医療知識を学ぶこと」も望まれているということが明
らかとなった。現在、活動領域が広がった医療現場の中で臨床心理士が活動するにあたり、
前提となる基礎的な医療知識がないと他の医療職と共通理解が得られないことも多い。
穂積 (2004) は、摂食障害で心理士にカウンセリングを受けていた小児が、小児科を受
診した時はすでに手遅れになっていたという厚生労働省の研究を挙げ、医療現場で働く以
上、医学的基礎知識の習得は絶対に必要であると指摘しているように、医療領域における
臨床心理士の活動をより有用なものにしていくためには、医療知識を獲得していくことは
もはや不可欠だと考える。
第4節
まとめと今後の課題
全科に共通して、「心理的問題を抱えた患者への心理カウンセリングを行うこと」につ
いては高いが、小児科医・精神科医からは、心理検査の実施に高い期待が寄せられている
ことがわかった。これは、臨床心理士と連携する機会の多い診療科であるという実情が反
映されているものと考えられるが、心理検査の有用性については、今後全診療科の医師に
明示していくことが課題である。一方で、連携する機会の少ない内科医・外科医からは、
がん患者に対するカウンセリングが望まれていることが明らかとなった。このように、医
療領域における臨床心理士の職務には、各診療科に特有なものと全診療科に共通するもの
とが明確に分かれており、臨床心理士は、この特有性と共通性をふまえて、医師と連携し
ていく必要がある。
今後の課題として、より詳細な調査を行うとともに、同じ診療科でも患者の状況(急性
期、慢性期、末期がん患者など)や医療形態によって求められるものが違うことを踏まえ、
その相違に柔軟に対応した資質と技能を高めていくことが必要となる。また、一般社会で
心理的ケアが必要な人が、病気に罹患し、医療が必要になった時に臨床心理士がどのよう
に活動し、医師と連携していくかという課題もある。
一般に、臨床心理士が行う心理カウンセリングと、医師、特に精神科医が行う精神的治
療の違いについての認識が曖昧であるという現状もある。役割の違いを示していくことも
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大切であるが、臨床心理士と医師の働きが相互補完関係となり、より患者や家族にとって
有益な医療を提供でき得るということを示していくことが重要だと思われる。そのために
は、臨床心理士が自らの資質と技能を高め、その能力と実績を示すことはもちろんのこと、
そのための基礎的条件となる医療領域において勤務する臨床心理士数の確保や勤務体制の
整備、その職務に対する評価の方法あるいは費用負担などの制度設計も併せて考えていか
なければならない。
さらに、精神科や小児科以外の臨床心理士と連携する機会の少ないと予想される診療科
に対しても、潜在的ニーズをひろいあげ、必要性をより具体的に認識されるよう働きかけ
ていく努力を怠ってはならない。臨床心理士自身が有用性と限界を積極的に明らかにし、
潜在的なニーズを顕在化できるように働きかけていくことが、今後のよりよい臨床心理的
支援につながるであろう。これまで述べたように、臨床心理士が医療チーム内で医師を含
めた他の医療職らと連携していき、その中で臨床心理士としての専門性を発揮し、具体的
な職務を遂行することは重要なことである。それにもまして重要なことは、臨床心理士が、
患者の基本的人権を尊重し、全人格的な人間性を理解し、受け止め、支援していくことで
あると考える。
第3章
事例研究
本事例研究の目的は、医療領域において、臨床心理士が 患者に対して、いかなる関わり
を持ち、どのような心理援助を行っているのか、事例ごとにその実態を示し、臨床心理士
の役割について、序章において提起した下記の3つの視点、すなわち「臨床心理士と他の
医療職との協力関係について」、「臨床心理士の職務について」、「臨床心理士の役割期
待について」をもとに検討し、臨床心理士の医療領域における役割を考察することである。
本研究では、筆者が勤務する公立総合病院での 2008 年度から 2012 年度までの 5 年間担
当した計 687 名のうち、介入の終了している 12 事例(A 臨床心理的介入が行えた事例、B
臨床心理的介入が不十分な事例)について、医療領域において、臨床心理士が各患者に対し
て、いかなる関わりを持ち、どのような心理援助を行っているのか、事例ごとにその実態
を示し、検討した。なお、本研究では、特に他の医療職と関わることの多いがん患者の事
例を中心に検討を行った。
1. 臨床心理士と他の医療職との協力関係について
事例研究の結果、A の事例においては、臨床心理士介入後に医療チームでカンファレン
- 10 -
スを行うことができ、医療職が患者に対して一貫した関わりを持つことができるようにな
り、そのことが患者や家族のこころの安定につながった事例を経験した。また、 自閉症で
ある膵臓がん患者の事例のように医療職に障害に対する理解を深めてもらうという心理教
育的な関わりが加わったことにより、患者、家族を含めたチーム医療が円滑に進む結果と
なったという事例も経験した。
医療領域において、臨床心理士が活動するにあたり、疾患の有無、違いに関係なく、患
者、家族に対し、気持ちに寄り添った個別面接を提供することはもちろんのこと、医療チ
ームといかに密に連携をとり、ケアにあたるかが重要であるということが分かった。
2. 臨床心理士の職務について
臨床心理士は、医療領域において、各患者について、具体的にどのような関わりを持ち、
患者の治療に携わっているかを明らかにし、臨床心理士の役割を考察することが大切であ
る。 臨床心理士の主な職務として、心理面接、心理アセスメントがあげられる。臨床心理
士が行う心理面接は、週 1 回 50 分など、構造化された面接を行うことが基本である。しか
し、事例の中でも述べたように、医療場面においては、特に入院患者の場合は、患者の身
体状態、医師の治療や病棟のスケジュールに応じた柔軟な対応が必要となる。
また、筆者が勤務する総合病院のように精神科などの診療科を持たない医療機関におい
ては、臨床心理士は精神状態をきちんとアセスメントし、その状態によって精神科の治療
が必要と判断できる場合は、患者、家族、他の医療者にその必要性を伝えていくことも大
切な役割であると思われる。さらに、心理面接においても患者がこうなりたいと望む目標
の設定、料金の設定など心理面においても治療目標を設定することは重要であると考える。
臨床心理士が行うカウンセリングの基本として、時間、料金等の契約関係をしっかり築く
ことで、そこに守られた空間が生じ、患者が安心して語られる場所となるのだということ
を改めて認識した。本研究の事例では、治療開始の段階の患者から、経過観察中の患者、
終末期に渡るまでの事例を経験し、時期に応じて、また患者が元々もつ精神疾患や障害の
有無によっても対応が異なってくることが考えられた。しかしながら、たとえ終末期であ
っても最期まで患者の気持ちに寄り添い共に考えること、医療職が連携して関わること、
家族と協同して関わることが患者の不安の軽減や残された時間を有意義に過ごそうとする
意欲につながると考えられる。
3. 臨床心理士への役割期待について
小児の事例や患者の持つ障害によって、言葉によって明確に表現できないこともあると
- 11 -
思われるが、患者は臨床心理士に対して不安や気持ちの落ち込みなどの心身の症状が軽減
することを期待していると思われる。筆者は事例を通して、臨床心理士が患者と関わりを
持つ時に重要なことは、病める人としての関わりではなく、患者の生活背景やこれまでの
生き方を含め全人的に捉えることが大事な視点であるということがわかった。
医療にかかる患者はともすると、その人が抱える疾患に焦点があてられ、患者の人格そ
のものが置き去りにされることがある。臨床心理士は、医療職のように治療的な関わりや
身体面のケアができないからこそ、その人の人格を受け止め、その上で心身の健康な部分
にも焦点をあてた関わりを行うことが求められていると思われる。
家族に対しては、関わりを持てた事例と持てなかった事例とがあるが、患者とのコミュ
ニケーションの取り方やこれまでの心配事、患者の情報を共有し、話し合える役割を求め
られていたと考える。医療場面、特にがん治療においてよく言われるように、家族は第 2
の患者である。家族は患者のケアを中心に考えるために家族自身の気持ちを吐き出せず、
家族が心身ともに疲弊してしまうケースも多い。臨床心理士は、家族の不安を理解し、支
えることも望まれていると考える。
医療職からは、患者の気持ちに寄り添うこと、心理治療によって患者の持つ不安や心配
などの症状を緩和すること、さらに精神科の専門治療が必要かどうかの判断を行うという
役割を求められる。また、臨床心理士は、個別心理療法を行うのみならず、患者側の不安
を医療者に伝える、医療側の意思を理解しやすく伝えるといったリエゾン的な役割を担っ
ており、特に精神症状や発達障害等の臨床心理的問題が介在する患者のケアにおいて、臨
床心理士の早期からの継続した介入が有用であると考える。
臨床心理士は医療者側のニーズに応えることはもちろん必要であるが、医療チーム内で
患者の情報を共有し、心理面に配慮した関わりをすることが患者の治療にポジティブに働
く可能性を伝え、理解してもらうことも大切な役割であると考える。医療チームがそれぞ
れの専門性を活かし、連携し、こころのケアを含めた治療を進めることがよりよい治療に
つながるという認識を持ってもらうという役割も担っている と思われる。
事例 B では、身体症状が極めて重く、心理的問題を話し合えるような状態ではない患者
に対して臨床心理士が出来得ることはないか考え、臨床心理の原点ともいうべき、人間性
を大切にする、尊重することの意味を考察した。事例においては、何もできなかったとい
う思いが強い。だからこそ患者とベッドサイドでの交流を持つためには、臨床心理士は早
期に介入し、患者との安定した関係性を作ることが重要である。他の医療職に対して、早
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期介入の意味を伝えていくことが課題であると改めて認識した。
第4章
総合考察と今後の臨床心理士の在り方
本論は、医師への調査研究と事例研究に関する実証データをもとに、医療領域における
臨床心理士と他の医療職との協力関係、職務の専門性、臨床心理士への役割期待を明らか
にし、今後期待される新たな臨床心理士像を提示することを目的と して検討を行った。本
論では、総合考察および今後の臨床心理士の在り方について述べている。
医療領域における臨床心理士は、第一に医療チームの中で専門職として心理検査の実施、
カウンセリングなど具体的業務を含め何が出来るかを限界も含めて明確にすること、そし
て医療チームに広く認識してもらった上で、その専門性をどのように活用するかを職種間
で検討していくことが必要である。
第二に、臨床心理士の専門性を活用するうえで特に大切なのは、精神科との関係である。
すなわち、精神科のある病院での臨床心理士の役割もあるが、精神科のない病院にいる臨
床心理士がどのような役割を果たすべきであるかということである。
これまで述べたように、総合病院やホスピス等、精神科以外での医療領域において臨床
心理士の活動は広がりを見せており、また社会的な要請の高まりから臨床心理士独自の専
門性を発揮することが求められている。筆者が勤務する公立総合病院においては、2009 年
から病院の中で臨床心理士が独立した形で有料の心理カウンセリングを行う体制を整え
た。事例で示したように、地域の精神科医が臨床心理士の心理治療が必要であると判断し、
依頼されることも増えており、現在、精神科クリニックの治療と当院のカウンセリングを
並行して行っている継続事例も非常に多い。地域の中核病院である公立総合病院が、医師
とは独立した形で心理面接の依頼を受ける体制を整え活動することは、広義のチーム医療
の実現につながると考えられ、また地域の精神医療にも貢献できうるものと思われる。
臨床心理士が有料でカウンセリングを行うことは、患者との契約関係を明確にし、治療
効果を上げること、さらに病院にとって臨床心理士が経済的にも有用な存在であると認識
してもらうことにもつながると考えられる。日本臨床心理士会が実施した 2011 年の第 6
回「臨床心理士動向調査」において、臨床心理士が勤務先で有料(自費)の心理面接を行
っている割合は全領域合わせても 16.4%にすぎない。今後、臨床心理士の専門性や役割を
明確にしていくためにも、臨床心理士自身が経営的な利益をあげることの必要性を認識し、
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提言していくことが必要であると考える。
第三に、現在の既存の活動にとどまらず、新たな課題として医療職への心理ケアや医師
が関わる前の予診的な関わり、臨床心理的知見について医師をはじめとした医療職へ伝え
ていくこと、さらに臨床心理士自身が医療知識を習得することも課題となる。
上記のような取り組みを進めるとともに、臨床心理士の役割とし て最も大切なことであ
る患者を全人的にとらえ、受け止め、心理的に支える関わりを行い、患者本人の生きる力
や前向きに変化しようという意欲を引き出すことが大切である。臨床心理士にとってもっ
とも必要なことは、心を患う人の人間性の尊重と思いやりであり、そして、それに基づく
専門家としての適正な援助である。臨床心理士の役割に根本的に期待されるのは、心を患
う人、その家族や関わりのある周囲の人など、対象となるすべての人々の人間性の尊重で
あり、さらに、それに基づく心の問題を取り扱うにふさわしい専門家としての総合的能力
であるといえる。
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臨床心理士関係例規集