腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡を用いた最新治療 腰椎椎間板ヘルニアは、下肢痛や下肢のしびれを伴った腰痛を主症状とする、 整形外科の中でもメジャーな疾患のひとつです。その程度は患者さまによって 異なり、急激な腰痛と下肢痛のため歩行も困難となり救急車で来院される方か ら、軽い腰痛や下肢のしびれのみの方まで様々です。しかし、いずれの症状も 患者さまにとっては不快で日常生活の障害となるものに違いありません。今回 は腰椎椎間板ヘルニアについて、その治療法を中心に、当院でも行っている最 新の『内視鏡下手術』も含めお話させていただきます。 ●腰椎椎間板ヘルニアとは 腰椎(腰の背骨)の間には椎間板という軟骨がそれぞれ挟まっています。そ の椎間板は、線維輪という皮の中に、髄核という言わば「パンの中のあんこ」 のような柔らかい軟骨が入った構造をしており、クッションとして重要な役割 を果たしています。しかし力学的な要因や、最近研究では遺伝的な素因で、髄 核(あんこ)が線維輪(皮)を破り飛び出してしまう状態を「ヘルニア」と呼 びます。飛び出した髄核はすぐ後ろを走行する「下肢に向かう神経」を圧迫し、 下肢痛や下肢のしびれを併発します。 ●腰椎椎間板ヘルニアの手術適応 腰椎椎間板ヘルニアの患者さまの内7∼8割の方は保存的治療(安静や鎮痛 剤の内服、ブロック注射や物理療法等)で症状が軽快すると言われています。 しかしながら残りの2∼3割の方は保存的治療に反応が乏しく、手術的治療を 選択することになります。手術適応の中には、①ヘルニアにより下肢へ向かう 神経が障害され下肢に明らかな筋力低下がある方、②膀胱や直腸へ向かう神経 も障害され排尿・排便機能に支障を来されている方、③保存的治療に反応が乏 しく激しい痛みのために日常生活や社会生活に大きな支障が出ている方が含ま れます。逆に MRI 等の画像で、椎間板の膨隆はあるものの症状は腰痛だけの患 者さまには、下肢の症状を改善するために行うヘルニアの手術は適応となりま せん。 ●内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術 腰椎椎間板ヘルニアの手術には、①大きな切開で直視下にヘルニアを摘出す る従来法、②小切開で患部を顕微鏡で覗きながらヘルニアを摘出する方法、③ 小切開で内視鏡で覗きながら摘出する方法(図1)、④その他、レーザーによる 治療等があります。中でも③の内視鏡下手術は、①の直視下同等の良好な治療 成績が得られ、更には非常に小さい切開でありながら内視鏡で患部を拡大表示 して手術ができるため②の顕微鏡と同等の安全性が得られる、①と②の利点を 併せ持った大変優れた方法で、近年大きな注目を浴びています。 図1:内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術の断面像 左は模式図。直径 16mm の筒の中に小さなカメラが設置されており、大画面モニターで内部を観察しなが ら手術を行います。右は内視鏡と従来法で手術を行った際の術後 CT 像。従来法で多く見られる黒い空気 像(死腔)が内視鏡では少なく、侵襲が非常に小さい事がわかります。 内視鏡手術は腰に直径 16mm の細い筒を立て、その筒の中を小さいカメラで 覗きながら手術を行うため、皮膚の切開はわずか 2cm 程度で済みます(従来法 は 10cm 前後)(図2)。また、背骨に到達するために邪魔になる筋肉を大きく 剥がす必要がなくなり(図1)術後の腰痛は軽減、術翌日もしくは当日の歩行 が可能となります。そのため従来法では2∼3週間程かかっていた入院期間が、 早い方では5日前後で退院が可能となっています。つまり早期の社会復帰が可 能となるわけです。当初は小さい切開の手術は合併症が増えるのでは?といっ た心配もありましたが、日本整形外科学会の最新の調査では、合併症発生頻度 は従来法の7∼8%に対し、内視鏡では2∼3%と減少しており、逆に安全で あると言われています。これは、神経を患部により近い位置から大きく拡大し てクリアに観察できることで、より緻密で安全な操作が可能になったためと考 えられています。また、創のサイズは従来法と大きく異なりますが、術中行う 操作には大きな変化が無いため、ヘルニアの再発率についても大差が無いと言 われています。 図2:従来法と内視鏡法の皮膚切開の違い 従来法(赤線)に対し内視鏡法(黄線)は非 常に小切開で済むことがわかります。 今回ご紹介した内視鏡手術は 1997 年に本邦に導入されて以来、現在では約 250 の施設で年間約 7000 例の手術が行われています。当院でも小侵襲でより安 全性の高い内視鏡手術を現在は腰椎椎間板ヘルニア摘出術で導入し、今後は腰 部脊柱管狭窄症にも適応を広げていく予定です。腰椎椎間板ヘルニアでお悩み の方は一度当院整形外科でご相談下さい。
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