「聴く話す」を重視した小学校導入期における英語活動 -3年 ダイアログ

平成20年度石教研研究発表会
発表要項
「聴く話す」を重視した小学校導入期における英語活動
-3年 ダイアログ練習を中心とした英語活動を通して-
石巻市立石巻小学校
教諭
1
岡
麻知子
主題設定の理由
本校では平成16年度に、宮城県教育委員会より「宮城県英語教育推進事業」のモデル校として4年
間にわたる指定を受けた。モデル校の指定は終了したが、低学年で年間10時間(生活科)、中学年で
年間20時間(総合的な学習の時間)の英語活動を継続している。また、高学年においては平成23年
度から施行される新学習指導要領に合わせ、年間35時間(総合的な学習の時間)の英語活動を行って
いる。本校の英語活動の特色はALTとのTTによる授業を年間5時間程度設けているが、主として学
級担任が進めていることにある。
今回の新学習指導要領における外国語活動の新設は、中教審答申の「自己紹介などの初歩的な外国語
に初めて接することは、中学校よりむしろ小学校段階になじむもの」「小学校段階で外国語に触れる体
験は、中・高等学校においてコミュニケーション能力を育成するための素地をつくること」を踏まえた
ものである。小学生、特に低・中学年はジェスチャーやロールプレイングなど、体を動かしながら活動
することに抵抗なく取り組める時期である。Activity の中に目標とする表現内容を意図的、計画的に取
り入れることで、児童にとっては遊び感覚のうちに自然に英語がなじんでくるものと考える。また、小
学校期は言葉獲得の「敏感期」と言われていることから、身近な物の名前、簡単なあいさつなどを繰り
返し耳にし、話すことで、自然と脳内に蓄積されるものと考える。中学校で同じ単語を耳にした時には、
「知っている!」「話せる!」という成功体験が得られ、スムーズに英語学習に入っていけるのではな
いかと考える。
「外国語活動の前にもっと日本語を重視すべきではないか」という異論もメディアを通して聞かれる。
しかし、外国語に触れること自体が異文化理解であり、異文化理解ができれば、いかに日本の文化と違
うかということがわかるようになり、自国の文化理解にもつながると考える。また、英語活動はコミュ
ニケーション能力の育成も期待できる。
「外国語が話せた!」
「ALTと会話ができた!」という成功体
験は児童の自信につながり、英語活動から離れた学習場面や学級活動でも生きてくると考える。
2
研究主題について
(1)「聴く話す」を重視について
新学習指導要領の外国語活動の目標の中では「中学校段階の文法等を単に前倒しするのではなく、
あくまでも、体験的に『聞くこと』『話すこと』を通して、音声や表現に慣れ親しむこと」に留意し
ている。
そもそも、人間は、母国語において、まず耳で聴いて口で話すという順に沿って言葉を獲得してき
た。話し言葉が出来ていないときに、「読み書き」から始めることには無理がある。日本語を話すよ
うになった順序と同じ流れで外国語にも触れていくことが自然な言語獲得手段と考える。
また、外国語活動はコミュニケーション能力の育成が目標であるのに対し、ただ黙々とアルファベ
ットを書く練習をしたり、英文を読むという活動は一方的であり、コミュニケーションとは言えない。
子どもの感性にあった様々な Activity をしながら、目標としている語句や表現などを繰り返し聴かせ
たり、言わせたりすることによって、子どもがいつのまにかそれらを口にするようになることが望ま
しいと考える。
(2)小学校導入期について
英語活動の小学校導入期について、ここでは下学年とする。今後、中学校、高等学校でそれぞれ3
年間、大学で4年間、英語に触れることを考えると、小学校下学年はまさにその導入期であると言え
る。「中・高等学校においてコミュニケーション能力を育成するための素地を養うこと」が小学校の
外国語活動のねらいだとするなら、苦手意識を持たせることなくスムーズな橋渡しをしなければなら
ない。このことを踏まえると、小学校導入期は大切な時期であり、
「英語は楽しい!」
「この言葉は英
語で何て言うんだろう?」という気持ちがわき出てくるような活動の工夫が必要だと考える。
3
主題に迫るための取組の視点
(1)単語の練習はフラッシュカード
本校には、研究部が作成したフラッシュカードやゲーム用のカード、ロールプレイング用のお面
など、英語活動で活用する教具がそろっている。「動物」「色」「時間」など扱うテーマごとにケー
スに保存しており、一つ一つラミネートをかけているので何度でも使える。
←テーマごとに
←テンポ良く
【写真1】同じテーマごとにファイルに保存。
【写真2】教師もテンポ良くカードをめくる
カードは絵のみで、文字の表記は
ことが大切である。写真のように持
ない。
ち、後ろから前へめくる。
まずは、この中のフラッシュカードを使って単語の練習をする。その際、気を付けていることが
2点ある。
反
復
練
習
(1)教師に続いて2回ずつ
リズムとテンポ
遅
○
左図の反復練習(1)~(6)にかけて、
徐々にテンポを上げていく。子どもが乗
(2)教師に続いて1回ずつ
りやすいリズムも意識する。
(3)子どもだけで
(1)教師に続いて2回ずつゆっくり
(4)クラスを2つに分けて
T:flower.
C:flower.
T:flower.
C:flower.
(男女、教室の半分など)
(5)列ごと
(6)一人ずつ
(2)教師に続いて1回ずつやや速め
速
○
全体から個別へ。ここで「言える!」
T:flower.
C:flower.
T:rainbow.
C:rainbow.
・・・・・・
と自信をもつことで、この後の授業にも
考える間を与えず、意識させないことが
安心して、意欲的に臨める。
重要だと言われている。
(2)状況設定をしたダイアログ(対話の型)練習
練習した単語を使いながら、次はダイアログの練習を行う。覚えた英語をどんな場面で使えるか
が分からないと、せっかくの外国語活動も生きてこない。対話の型を練習することで、実際の会話
場面の体験をする必要がある。
本校では地方分権研究会とベネッセの共同監修による映像教材を活用している。以下の順序で取
り入れることが多い。
①映像を観て、会話場面、対話の型を捉える。
(2~3回繰り返す)
②教師対子どもで練習(チャンツで問い方、答え方両方練習)
③子ども同士で練習
・列
・グループ
・ペア
④模範練習(自信のある児童が全員の前で発表する)
【写真3】テンポの良いリズムでチャンツ練習
【写真4】模範練習。時間を尋ねる場面を
設定
ダイアログの意味を日本語で説明することはしない。だからこそ、始めに会話場面、状況を映像
を通して視覚的に把握する必要があり、また、同じ設定で練習することが大事である。
(3)授業のパターン化
導入期であるから、子どもが安心して授業に臨めることが何より大切だと考える。そのために、
授業の流れをパターン化する。そうすることで、子どもたちに心のゆとりが生まれ、「次はこれだ
な」という活動に対する構えができ、「何をするのか分からない」という状況にはならない。
基本的には以下の流れで授業を展開している。
ゲーム・ペアの会話練習でカード交換)
→
絵本の読み聞かせや、歌
カードを用いた活動(神経衰弱・ヒントゲーム・リレー
ダイアログを使った
例)ロールプレイング、
→
アクティビティやゲーム
→
ダイアログの練習
→
映像でダイアログの確認
→
フラッシュカードを使った
歌
単語練習
あいさつ
→
4
視点に応じた取組の概要
(1)実施月日
~授業実践例~
平成20年6月26日(木)
(2)題材名
“I am a~”という表現を使えるようになるとともに、歌に親しもう。
(3)ねらい
・ビンゴゲームを楽しみながら、動物の英語での名前に親しむ。
・“I am a~”という表現で動物の自己紹介を楽しむ。
段
階
学
習
活
動
Warmup
1
あいさつをする
Activity
Stand up.
指
導
上
の
留
意
点
評価の観点
○元気よく英語であいさつを行い、英語活動の楽しい
Good Morning.
雰囲気をつくる。
How are you? Sit down.
○歌詞に出てくる絵のフラッシュカードを順番に見
2
せ、教師の後に続けて発音させる。
「♪おはようお花さん」を歌う。
○黒板にフラッシュカードを提示することで、児童が
次の歌詞を確認しながら歌えるようにする。
Main
3
Activity
英語を使ったコミュニケーションを楽し
○フラッシュカードで発音の練習をしながら出てく
○動物の名前
む。
る動物を確認させる。
を英語で言う
ことが出来る
(1)動物ビンゴをしよう
dog
bear
rabbit
mouse pig cow
cat
○
monkey
教師がグー・チョキ・パーを示してこれからじ
ゃんけんをすることを意識づける。その際、3
(2)じゃんけんをしよう
つの手が日本では何を意味するのかを確認し、
Rock
paper
scissors
自然に意味が結びつくようにする。
Walk
jump
swim
dance
○日本語と違
○教師が指示した動作をしながら活動室内を自由に
う表現に親し
歩き、make pair の指示で、その場で出会った友達
もうとしてい
とペアをつくり、じゃんけんをする。
る。
(行動)
(3)「♪わたしはねこ」
○「わたしはねこ」の映像を観て、ダイアログの確認
I am a cat. Meow meow.
○ダイアログの練習(教師と、列ごと、ペア)
I am a dog. Bow wow. (pig wolf mouse snake
○ロールプレイング
Closing
4
英語の絵本の読み聞かせを聞く。
○落ち着いた雰囲気の中で話を聞かせる。
Activity
5
学習したことを確認する。
○児童にとっては初めての単語が多いが挿絵や日本
6
あいさつをする。
5
(発言)
語の物語から想像させる。
成果と課題
外国語活動は評価規準もなければ、言語習得を目的とするものでもない。
「理解している」
「身に付い
ている」という評価は適切ではないが、子どもたちの活動の様子は実に生き生きとしている。授業後の
アンケートには「単語の練習が楽しい」
「みんなと英語で話せるから楽しい」
「英語が話せる大人になり
たい」
「英語を話して外国の友達をつくりたい」という感想があった。
「聴く話す」という簡単なことで
はあるが、簡単なことを変化をつけて反復することで、着実に英語が言えるようになり、そのことが子
どもたちの自信につながっている。
ただ、感想の中に「忘れてしまうかも知れない」という不安の声もあった。練習したからには子ども
たちは「覚えたい」のである。年間20時間という限りある時数の中で、いかにしてこのような声に応
えていくかが今後の課題である。
【主な参考文献】
影浦攻著:「新しい時代の小学校英語指導の原則」
明治図書
2007