韓国における私教育(学習塾等を利用した教育)について

経済月報
No.466 掲載分
平成 26 年 2 月
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【釜山支店】
「韓国における私教育(学習塾等を利用した教育)について」
1.はじめに
日本では毎年 1 月に大学入試センター試験が実施されますが、韓国では一足早く毎年 11
月に大学修学能力試験が実施されます。試験日にはパトカーが遅刻しそうな受験生を試験
会場まで送迎したり、朝の交通混雑を回避する為に会社の出勤時間を 1 時間程度遅くした
りといったニュースが日本のテレビにおいても幾度となく報道されました。
大学受験に限らず、韓国では教育熱が過熱しています。その理由は有名進学校を卒業し
なければ有名大学に進学できず、有名大学を卒業しなければ一流企業に就職できないとい
う風潮がある為です。サムスングループや現代自動車グループなどの 10 大財閥グループが
国内経済において大きな地位を占めており、そうした財閥企業へ就職することが大きなス
テータスとなります。
今回は韓国の教育環境の中でも特に私教育(学習塾等を利用した教育)事情についてレ
ポートしたいと思います。
2.幼児期における私教育
韓国では、幼稚園や保育施設が終わってから、放課後授業と題して約 1 時間、バレエ、
美術、テコンドーや英語など、外部から専門の講師を招いて特別な教育を行っています。
放課後授業を受ける場合は内容によって別途授業料を払うことになり、選択は自由ですが、
大半の子供が受けているようです。また、放課後授業以外にも、幼稚園や保育施設とは異
なる時間制の幼児教室や個別教育、文化センター等もあり、将来の競争社会に備え、幼児
期からの私教育利用は一般化しています。
3.小学校∼高等学校における私教育
韓国の統計庁が出した「私教育調査(2012 年)
」によると、学習塾等を利用する生徒の比
率は、小学生 80.9%、中学生 70.6%、高校生 50.7%となっています。高校生の利用率が低い
のは、学校での自律学習または家庭での学習が中心となる傾向がある為です。自律学習と
は、授業が始まる前や放課後に、受験の為に自習をすることで、朝は午前 8 時から、放課
後は午後 4 時から午後 9 時頃まで行われています。
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では、私教育にどれくらいお金を掛けているのでしょうか。下表‐1より小中高校生に
ついて 1 人当たりの月平均私教育費は、2012 年では小学生 21.9 万ウォン(1 万 5,527 円)、
中学生 27.6 万ウォン(1 万 9,568 円)、高校生 22.4 万ウォン(1 万 5,882 円)となってい
ます。因みに韓国の 1 世帯当たりの年間平均所得は 4,475 万ウォン(317 万円)です。日本
における月平均私教育費は公立学校の場合、小学生 7,250 円、中学生 1 万 8,667 円、高校
生 1 万 167 円、私立学校の場合、小学生 2 万 5,083 円、中学生 1 万 6,000 円、高校生 1 万
5,250 円。1世帯当たりの年間平均所得は 548 万円となっており、これらの数字から韓国は
日本より所得に占める私教育費の支出割合が高いことが分かります。
※出処:韓国統計庁 2013 年 家計金融・福祉調査
厚生労働省 平成 24 年 国民生活基礎調査
文部科学省 平成 24 年度 子どもの学習費調査
<表‐1>
区分
総私教育費
学生 1 人当たりの月平均私教
(億ウォン、%)
育費(万ウォン、%)
2011 年
2012 年
増減率
2011 年
全体
201,266
190,395
△5.4
24.0
小学校
90,461
77,554
△14.3
中学校
60,006
61,162
高等学校
50,799
51,679
2012 年
私教育
参加率
(%)
増減率
2011 年
2012 年
増減率
23.6
△1.7
71.7
69.4
△2.3
24.1
21.9
△9.1
84.6
80.9
△3.7
1.9
26.2
27.6
5.3
71.0
70.6
△0.4
1.7
21.8
22.4
2.8
51.6
50.7
△0.9
※出処:韓国統計庁 2012 年 私教育費調査
※100 ウォン=7.09 円(2012 年の年間平均為替レート)
4.小学生・中学生が目指す「特目高」「自律高」
韓国では 30 年ほど前、政府の「教育平準化政策」により中学校と高等学校の入試制度が
なくなり、住んでいる住居地によって進学する学校が決まることになっていました。しか
し、十数年ほど前に学力の低下が著しいと指摘され始め、結局「特殊目的高等学校」(韓国
ではこれを略称し「特目高」と呼んでいます)という名で「外国語高校」「科学高校」等が
設立されました。この「特目高」は中学校の内申と入学試験で優秀な学生を選抜すること
が許され、現在は進学校として位置づけられています。
また「特目高」と並び「自律高」と呼ばれる自律型私立高校・自律型公立高校も進学校
として人気があります。
「自律高」は教育課程の決定等、多くの部分が校長の裁量により決
定され、自律的な学校運営が行われています。
実力のある講師と競争的な学校の教育環境により、これら「特目高」
「自律高」の生徒た
ちの大学への進学率は著しく高く、全体的な学力も向上しました。そして、これらの高校
は「SKY 大学」(SKY はソウル大学、高麗大学、延世大学の頭文字)に代表される一流大学
への合格率も高く、その為、小・中学生の子供を持つ親の中ではこの狭き門とも言える「特
目高」
「自律高」の合格を目指す親も多く、私教育に全力を尽くす人が多いというわけです。
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【幾つもの学習塾が入居するビル】
5.大学∼就職における私教育
こうして幼少時より学歴競争に揉まれ、大学入学を経て、最終関門である一流企業への
就職活動へと移行していくのですが、ここにおいても私教育熱は存在します。主要都市の
大学では TOEIC 点数を卒業要件にしている大学もあり、TOEIC に特化した学習塾に通う学生
も多いようです。また、昨今では「サムスン修能試験」や「現代自動車考試」という言葉
が流行語のように広がっています。この言葉は就職活動を行っている大学生の内、3 割弱に
あたる学生が入社試験で、財閥企業の内の 1 社を受けているという韓国の就職活動事情を
表した言葉で、「大学修学能力試験」に掛けた造語です。就職戦線に勝ち残る為に、大手私
教育企業などはその入社試験の対策講義を開設するほどになっています。
6.終わりに
韓国の私教育に終焉はありません。幼稚園から就職まで長期にわたり私教育を受けなけ
ればならないと自ら嘆く声も出てきており、韓国の教育環境は日本以上となりつつありま
す。そして、韓国でも日本と同様、財閥企業と中小企業・自営業者との間には経済格差に
よる不公平感が生じ、そうした経済格差が韓国における教育環境にも大きな影響を与えて
います。
以
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上