IT VISION No.14

IT
VISION
No.14 (2007)
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す。診療所の場合は使う人も限られて
康維持へのメリット,などが挙げられ
のような基本部分があり,そこに検査伝
いますので,より使いやすいシステム
ます。例えば,HOT プロジェクトの中
票を処理するためのツールや処方せんを
構築も可能です。ただ,施設に合わな
には「 電子健康ノート」という概念が
出すためのツールを,メーカーを問わず
いとかえって非効率的になりますので,
あります。カルテとは別に,患者さん
自由に追加できるということです。その
事前にいろいろなシステムを試してみ
にもわかりやすい健康ノートのような
ためには,データ連携の規格,仕様は
る必要があります。また,通常は利益
ものを電子的に実現し,医療機関の受
標準化されている必要があります。
と,むしろ診療所の方が普及率も高く,
を生み出すようになるまでに,かなり
診情報や自分の健康情報などを一元管
一方,例えばHL7やMMLなど,ある
ペースも速いようです。特に,最近で
の努力とノウハウが必要ですので,IT
理するものです。具体的には,患者さん
限定された標準規格を使わなければなら
は若い開業医が増えていますので,新
化によって何が実現できるのかをきち
がデータベースセンターに自分の一生
の待ち時間も当然長くなります。これ
ないということでは,かえって標準化を
規開業の場合は初めから電子カルテを
んと理解することが重要です。
分の健康データを預け,健康状態を自
でわずか 3 点では, 割に合いません。
遅らせる原因にもなりかねません。そこ
―― 医療の IT 化が近年の大きなテーマ
導入するケースも多くなっています。
―― 診療所には行政からの補助金が出
由に書き込んだり閲覧したりする,
「生
レセプトのオンライン化も同様ですが,
で,私が副理事長を務める日本医療ネッ
となっていますが,診療所の IT 化の現
一方,既存の診療所では,資金面など
ないことが,電子カルテの導入が進ま
涯健康手帳」のような仕組みです。管理
本当に医療機関のIT 化を推進したいの
トワーク協会では現在,HL7 や MML を
状についてお聞かせください。
さまざまな問題があり,導入が思うよ
ない理由だとの声も聞かれますが。
は患者さん自身が行い,誰に開示する
であれば,現場が“IT 化によって業務
翻訳して相互乗り入れできるような仕組
私は,それは少し違うと思います。確
かも自分で選びます。国民の健康への
が楽になった”と実感できるような施
みづくりに取り組んでいます。これによ
策を講じることが必要です。
り,各ベンダーがより標準化に取り組み
厚生労働省は今年 3 月,「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイ
ン」を策定した。レセプトデータの取り扱いや地域医療連携に関する具体的な施
策が示されており, もはや診療所の IT 化は避けられない状況になりつつある。
早くから自院の IT 化に取り組むだけでなく, その普及に努めてきた大橋産婦人
科院長・東京都医師会理事の大橋克洋氏に, IT 化を進めるための方策と課題に
ついてお話をうかがった。
IT 化の実現には,
メリットを理解し
苦労や工夫を重ねることが重要
東京都医師会が行った 2006 年秋の調
うに進んでいないのが現状です。
査では,都内診療所の電子カルテ普及
―― 電子カルテの導入によって,診療所
かに,行政の補助金によってシステム
意識も高まりますので,政府が特定健
率は約 14.5 %です。診療所は病院に比
はどのようなメリットが得られますか。
を導入している病院がいくつもありま
診・保健指導の義務化でめざす予防医
べて普及が遅れていると言われていま
主に,情報処理の効率化,情報伝達
すが,結局は維持できず,立ち行かな
療の推進にもつながると考えています。
業でも IT を活用している時代です。医
すが,決してそんなことはありません。
の効率化,情報検索の効率化,の 3 つ
くなっているケースが多いからです。東
―― 電子化加算やレセプトのオンライン
療も近い将来,必ずそういう時代が来
規模の大きな病院では,国からの補助
があります。手作業よりも作業が大幅
京都医師会では現在,地域医療連携の
請求などの施策は, 診療所の IT 化にど
るはずですので,そのときになって慌
あきらめず
一歩一歩 IT 化に取り組む
金などによって導入が進んでいるよう
に効率化され,優れた電子カルテでは,
ためのインフラを整備し,医療の供給
のような影響を与えるとお考えですか。
てて導入するのでは,使いづらいシス
―― 最後に,これから診療所が IT 化を
に見えますが,そういったものを除く
情報検索が Web のように手軽に行えま
側,受給側,企業が一体となってより
IT 化が進むのであれば,それによっ
テムを仕方なく導入するということに
進めるに当たっての,アドバイスをお
良いサービスの実現をめざす HOT プロ
て各医療機関にも何らかのメリットが
もなりかねません。それなら,いまの
願いします。
ジェクト(Health of Tokyo Project)を
もたらされなければならないはずです。
うちからできるだけ良い環境を整えて
何はともあれ,
「できることからやっ
行っていますが,運営費はあくまでも
ところが現状では,マイナスの方がは
おくべきでしょうし,東京都医師会や
てみよう」という意気込みを持って挑
受益者負担です。それは,自分自身が
るかに大きいというのが私の考えです。
日本医師会も積極的にIT 化に取り組む
戦することが大事です。すでに IT 化を
工夫や苦労をしなければ,結局は何も
まず,電子化加算を受けるためには,
べきだと考えています。
実現した先輩方に相談することも 1 つ
身に付かないと考えるからです。
すべての患者さんへの明細書の発行が
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やすくするというのがねらいです。
の方法ですので,あきらめずに取り組
診療所のメリットが少ない
国が進める IT 化政策の現状
で何万円もかかります。内訳の説明に
医療 IT の推進には
情報連携の標準化が急務
も時間がかかるため,余分な人件費が
―― IT 化を推進するために,ベンダー
―― 診療所の IT 化が進むと,日本の医
必要です。さらに,従来は仕事が立て
にはどのような工夫が求められますか。
療や地域連携にどのようなメリットが
込んでいるときは,患者さんが少なく
私は,次世代の電子カルテシステム
もたらされるのでしょうか。
なってからまとめてレセコンに入力す
は,各医療機関が必要なツール,機能
医療にかかわる時間の節約,医療の
ればよかったのですが,それができな
を自由に組み合わせられるようにするべ
均質化,医療情報の取得しやすさ,健
くなりました。そうなると,患者さん
きだと考えています。これは,ワープロ
必要ですが,プリンタのトナー代だけ
20
とはいえ,いまはどんなに小さな企
んでいってほしいと思います。
大橋 克洋(おおはし かつひろ)
1966 年東京慈恵会医科大学卒業。67 年同大学産
婦人科学教室入局。70 年から東京都品川区にて
開業。日本産婦人科医会幹事,荏原医師会副会
長, 電子カルテ研究会発起人・コアメンバー,
厚生省委託事業「電子カルテ開発委員会」委員
を歴任。 現在, 東京産婦人科医会監事,
MedXML コンソーシアム理事長,東京都医師会
理事,日本医師会「IT 化推進委員会」委員を務
める。
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はじめに
電子カルテの選定
して,何よりも電子カルテは毎日使
定時, バージョンアップ時など),
ことが必要となるが,電子カルテと
こういったちょっとした見直しの積
うものなので「何となく使いやすそ
④ サポート拠点,⑤ サポートの人員
周辺システムを連動させるには,当
み重ねにより,コストを抑えること
クリニック開業にかかる資金のう
IT クリニックの中核を占めるシス
う」,「見やすい」,「思考が途切れな
体制, の 5 点となる。 電子カルテ導
然費用がかかる。また,過去に連動
が可能となる。
ち,IT 関連システムの比重が年々増
テムは電子カルテである。そのほか
い」という,直観的フィーリングも
入後に後悔しないためにも,これら
実績がなければ,連動するためのイ
加している。かつて診療所における
のシステムと比べても, その重要
大切な要素であると考える。
を十分に確認する必要がある。
ンターフェイスのすり合わせをメー
IT 関連システムと言えば,レセプト
性,業務における割合は非常に高い
「機能」については,現在多くの
周辺システムと
電子カルテの連動
円滑なシステム導入方法
カー同士で行わなければならないた
システム導入を円滑に行うために
めに,一定期間が必要となり,導入
は,建物の設計段階から準備を始め
スケジュールにある程度の余裕を持
る必要がある。システムはパソコン
コンピュータだけという場合が多かっ
と言えるだろう。そのため,病医院
診療所向け電子カルテの水準が上がっ
たが,いまでは電子カルテ,画像ファ
情報システム常設総合展示場
てきているため,通常の診療業務を
イリングシステム,予約受付システ
「MEDiPlaza」では,電子カルテの
こなす上では,ある程度機能に差が
周辺システムについては,診療科
たせる必要が出てくる。このような
やモニタなど,一つひとつはそれほど
ム,院内検査データ取り込みシステ
選定には一定の比較基準を持って選
なくなってきている。そのため,「機
目や求める IT 化レベルなどにより,
事情から,あえて連動させないこと
大きくはないが,意外にかさばるも
ムなど多岐にわたっている。医療分
ぶことをお勧めしている。
能」のあるなしよりも,その機能の
必要なシステムは異なる。例えば整
も選択肢の1 つである。連動に多額の
のが多くある。また,システム化に
性能や使いやすさに重点が移ってき
形外科や内科においては,検査画像
費用がかかったり,時間がかかった
伴う LAN や電源の配線なども設計段
ている。
を多く取り扱うため,これまでカル
りするのであれば,あえて導入せず
階から行っておけば,いざ納品になっ
野における IT 関連システムはさまざ
電子カルテの選定基準は,① 操作
まな分野,業務に及んでおり,診療
性,② 機能,③ サポート,④ 実績,
所のIT 化(以下,IT クリニック)も
⑤ 価格,の5 点となる。なかでも,操
「サポート」については,その企
テにはり付けたり,挟んで管理して
に,直接 ID などを打ち込み,ファイ
たときに慌てて配線をし直すという
病院同様広がりを見せ,その反面複
作性が最も重要で,操作性の良し悪
業の姿勢や規模,地域性などに大き
いたりしたものは,すべて「画像ファ
ルを呼び出すことも一案である。
ことを防げる。そのため,システム
雑さが増している。
しは,言い換えればシステムと使い
く依存する。最低限確認しておくべ
イリングシステム」で管理すること
選定は遅くても6 か月前から始めるこ
コストの考え方
手であるドクターの「相性」でもあ
きことは,① サポート窓口の営業時
となる。また,小児科や耳鼻咽喉科,
る。操作性については,画面レイア
間,② サポートの方法(駆けつけ,リ
美容整形など予約制を導入している
システムの導入には当然,コスト
ウトや画面展開, ボタン配置, ク
モート, 電話, メールなど), ③ サ
ところでは,「予約受付システム」が
が伴う。システム導入を進める上で
② 価格交渉,③ 契約,④ ハードの調
リック数などが決定要素となる。そ
ポートの内容(不具合時,診療報酬改
必要となる。さらに,眼科において
のコストの考え方は,「欲しいシステ
達,⑤ マスターの設定,⑥医療機器
コンセプトづくりは非常に大切であ
は,さまざまな院内検査機器のデー
ム」と「必要なシステム」は違うと
との連動,⑦ 研修,といったプロセ
る。コンセプトを明確にしておかなけ
タ管理が必要となるので,眼科専用
いうことである。これはコンセプト
スを踏むため,家電製品とはわけが
の検査データ管理システムの導入が
づくりの段階で考える必要があるが,
違う。また,このプロセスを十分に
進んでいるようである。眼科におけ
求める IT クリニック像を十分に明確
時間をとって行うことが,その後の
る IT 化については,電子カルテより
にした上で, 予算との比較を行い,
IT クリニックの成功に大きくかかわ
IT クリニックの
コンセプトづくり
診療所においてIT 化を進める上で,
業務効率化
患者満足
れば,購入しても結局は使わないとい
画像
ファイリング
(PACS)
うことにもなりかねない。コンセプト
をつくる上での視点は「患者満足」と
「 業務効率化」 の 2 つから考えれば,
整理できると思われる(図 1)。例えば
院内掲示
システム
検査データ
取り込み
システム
もこの検査データ管理システムが重
視されるケースも少なくない。その
「患者満足」については,待ち時間の
電子カルテ
短縮やインフォームド・コンセントに
貢献するシステムなどが当たり,「業
インフォームド・
コンセント
システム
リハビリ
システム
務効率化」については,ペーパーレ
スやレセプトチェック業務の短縮に貢
献するシステムなどが当たる。
健診システム
予約受付
システム
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IT クリニックの
コンセプトづくり
こととなる。
ほかにも,コ・メディカルのスタッ
このほか,コストを抑える上で,効
フが多くいるような大規模診療所で
果が上がるであろうことは,例えば
は,リハビリ部門システムや健診部
「構成台数の見直し」
,「ハードウエア
門システムなど部門システムが必要
のスペックの見直し」,「ノートパソ
となる。
コンの活用(ノートパソコンをカート
これらのシステムと電子カルテを
図1
「必要なシステム」の絞り込みを行う
などに載せて移動させることで,端
連動させ,電子カルテの端末からす
末数を減らす)
」 などが挙げられる。
べての情報を閲覧できるようにする
誌面の都合上詳細には述べないが,
とをお勧めしている。
システムの導入には,① 製品選定,
ることとなる。IT クリニックは,事
前準備が成功の鍵であると言えるだ
ろう。
大西 大輔(おおにし だいすけ)
2001 年一橋大学大学院 MBA(経営学修士)
コース卒。2002 年株式会社日本経営入社。日本
経営グループの厚生政策情報センターにおいて,
厚生行政情報ならびに病院経営に資する情報収
集,発信事業に従事。2002 年より病医院情報シ
ステム常設総合展示場「MEDiPlaza」にて,企
画,運営,スタッフ指導,管理を行う。2007 年
より統括マネージャーとして,全拠点の管理,
指導を行う。
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テ選定と同時に画像の処理も考えた。
正直,泌尿器科・皮膚科ということも
あり,X 線撮影は少ないだろうと考え,
当初,デジタル化は考えていなかった。
はじめに
しなければならない大きなトラブルは
システム稼働までのスケジュール
ない。しいて言えば,医用画像ワーク
開院に当たって,電子カルテは絶対
ステーションと電子カルテそれぞれに
入れると決めていた。
力を自分で行うことを考えた。本稿は,
を設置することで,処置室にいながら
しかし,限られたスペースでの設計の
2 年前の冬から各社の電子カルテを
システム選定を中心にご説明する。
キーボードがあり使いづらいこともあ
るが……。そのうち1 つにできると思っ
診察状況が確認でき,次の検査などへ
中で省スペース,廃液処理,自動現像
デモンストレーションしていただいた
IT 化を行うに当たり,導入目的を設
の道線がスムーズとなる。副産物とし
機の掃除などメンテナンスの負荷を考
りしながら実際に見て回って,使いや
神奈川県大和市に 2007 年 3 月 1 日に新
定した(開院後の運用を検討した上で
て,カルテの共有化でスタッフの士気
えて,富士フイルムのFCR CAPSULA
すいと自分が判断した機種を選定した。
関で完結していたが,これからはクリ
規開院した。これからのクリニックIT
明確化した)。① 完全ペーパーレス・
高揚にもつながっているようだ。③は
CL を導入することにした。また,画
また,開業セミナーなどに参加し積
ニックネットワークの医療に移行して
化に必要なのは,採血結果や血圧,体
フィルムレスとすることで省スペース
従来の紙カルテと異なり,コストは医
像のファイリングシステムを選定する
極的に情報収集を行った。
いく。基盤として医療機関のIT 化と情
重の推移を一目で評価できる機能を
化を図る,② 院内での人の動きを少な
師が入力する。逆にコスト漏れが多く
際に,当初は別の会社のシステムを検
○開院 2 年前……各社電子カルテのデ
報を共有できるシステムづくり,およ
持った電子カルテと,心電図,超音波画
くする,③ コスト漏れを防ぐ,④ 患者
なると思うが,受付スタッフがカルテ
討していたが,某出版社主催の開業セ
像と膀胱内視鏡画像を一元管理可能な
さんと情報を共有化する。
を見て「 先生ぃ,またコスト漏れです
ミナーにて,画像ファイリングができ
あいクリニック泌尿器科・皮膚科は,
電子カルテに連動した画像ファイリン
開院後の評価であるが, ①の完全
よ」と言ってくれることで,自分のコス
るネットワーク医用サービスである富
グシステムであると考え,2005 年11 月
ペーパーレス・フィルムレスはほぼ達
ト意識が上がる(笑)。④については,患
士フイルムの C @ R n a に手を触れて
より本格的な機種選択を開始した。
主な導入機器
開院するに当たり,導入した主な機
器を表 1 に記載する。
システム導入のコンセプトと
開院後 2 か月での評価
モンストレーション・比較検討
○開院 1 年前……各システムの見積り
入手,比較検討
○開院半年前……導入システム・機種
との連携はもちろん,心電図,膀胱内
○開院 50 日前……院内 LAN,光ケー
学病院の先生方とIT 連携して,より多
に振り分けられ,別便で届く紙での検
がわかるかどうかは別として,患者さん
視鏡画像を含めてデータを一元管理で
ブル(申し込みは1 か月前)設置完了
くの患者さんから支持される「かかり
査結果を患者さんにお渡ししている。
に安心感を与えるようだ(図 1)。当初
きる医用画像ワークステーション
○開院 45 日前……機器の導入設置
つけ医」として,そして医療における
心電図波形とX 線フィルムは院内LAN
は,電子カルテ操作に夢中になり,対面
CLEVIEW とC@Rna の組み合わせは,
○開業 14 日前……電子カルテのスタッ
納得の指標を常に発信し続けるクリ
で取り込み,そのままオンラインで遠
診察に支障を来す懸念もあったが,1 か
まさに私のニーズに合致したシステム
フトレーニング等
隔地でバックアップしている。ドライ
月毎日触っていれば心配無用になる。
だった。
これから開業しようとする先生方への
レーザーイメージャは備えてあるが,
システム選定のポイント
最終選定
医療IT は進歩したとはいえ,同一会
アドバイスは,システムを導入するかが
社内での連携は OK だが,他社製品と
ポイントではなく,いかに患者さんに納
の連携は技術的には可能でもどうしよ
得していただくために,自分自身がツー
種選定やIT 化への初期費用の削減に十
テにリンク,紙ベースで 1 か月保存し
レーションはもちろん,国際モダンホ
うもない部分があるようだ。当院でも
ルを活用できるかが最大のポイントでは
分な時間をとることができた。これから
てシュレッダー処理している。余分な
スピタルショウや病医院情報システム
電子カルテ,画像ファイリングシステ
ないかと思う。また,当クリニックでは
の医療は,IT 化なしでは行えない時代
紙がたまらない。当然,暗室も不要とな
常設総合展示場 MEDiPlaza,国際医
ム,心電計,脈波測定器,膀胱内視鏡
CI( Corporate Identity)戦 略 も 立 て
になっている。その上で,自分に合った
り省スペースに加え廃液処理,メンテナ
用画像総合展を利用して数十種類を検
はすべて異なる会社。導入は決めたも
て,患者さんに覚えていただけるロゴ
電子カルテと画像ファイリングシステム
ンスも不要と,メリットはかなりある。
討した。結局,使い慣れたパソコンと
のの開院間際にうまくコラボレーショ
マークを友人にデザインしてもらった
を決定することが重要である。そして,
②に関しては,受付以外にも,医療ス
同様に,直感的に使用できるラボテック
ンしないことがわかった。結局,営業
り,いろいろと工夫をしている(図 2)。
タッフが自由に使用できる電子カルテ
の SuperClinic に決定した。電子カル
スタッフレベルで相談していただき何
ホームページにて開業の準備から開
か所かで「日本で初めて」となったよ
院までの記録を掲載しているのでご参
うだ。自分の理想を実現させるには,
考いただきたい。
あいクリニック泌尿器科・皮膚科のシステム構成
VISION
No.14 (2007)
た。今後は無限大に広がるIT インフラ
みて,導入に踏み切った。電子カルテ
電子カルテは, 各社のデモンスト
IT
トワークにつながるシステムを導入し
きる診察台の上のカルテモニタは,内容
スキャナで JPEG 形式で保存し各カル
24
そのようなことを視野に入れて,ネッ
者さんが見ようと思えば見ることがで
に開院場所が決まった。結果として,機
分 類
レセコン・電子カルテ デジタル X 線画像診断システム
医用画像ワークステーション
ネットワーク医用サービス
心電計 内視鏡 び意識の変革が重要だと思っている。
成できている。血液データは,前日採血
一度も使用していない。紹介状などは
表1
従来の医療はほとんど 1 つの医療機
の結果がボタンを押すだけで各カルテ
開院日の1 年 4 か月前の2005 年 11 月
導入初期費用の可能なかぎりの削減努
ている。
会 社 ラボテック 富士フイルム 富士フイルム 富士フイルム フクダ電子 オリンパスメディカルシステムズ
機 種
SuperClinic
FCR CAPSULA CL
CLEVIEW
C@Rna
CardioStar FCP-7301
VISERA 電子スコープシステム
クリニック運営においては自分の向か
Dr.あい診療録(http://www.i1ro.jp)
う医療をスタッフに繰り返し示すこと
が重要だ。同様にクリニックのIT 化に
おいては,自分の思いを常に担当者に
図1
診察室のモニタレイアウト
説明していく努力が必要だと感じた。
今後のクリニックの展開
院内の IT 化にはほぼ満足している。
まだ開院 2 か月だが,診療をストップ
を利用し,近隣のクリニック同士や大
ニックでありたいと考えている。
(編注:原稿執筆時 5 月初旬)
図2
クリニックの
ロゴマーク
あいクリニック泌尿器科・皮膚科
〒 242-0024
神奈川県大和市福田 2004-7
高座渋谷西口駅前日の出屋ビル 2F
TEL 046-279-5670
URL http://aiclinic.net
増田愛一郎
(ますだ あいいちろう)
1986 年東海大学医学部
卒業。92 年東海大学大学
院修了,医学博士。2002
年東海大学医学部講師と
なる。2005 年 3 月東海大
学を退職。その後 2 年間
をかけて一般内科,創傷外科,東洋医学,
一般皮膚科,美容皮膚科など各分野の修練
を行うとともに抗加齢医学・栄養学・ス
ポーツ医学を学び,2007 年 3 月あいクリ
ニック泌尿器科・皮膚科を開設。標榜科に
とらわれない新しい形の診療をめざす。
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診療所の概要
たと思っている。カルテのある患者
している。当院では患者さまに問診
とマウス操作で入力時間が短縮でき
さまが来院された場合はカードリー
票を書いていただき,いつからどう
そうな電子カルテであること,の2 点
ダに診察券を入れるだけでチェック
いう症状が起こったかを受付のスタッ
が非常に印象的だった。やはりカル
インでき,検査や点滴をオーダして
フが簡単に電子カルテに入力し,診
心臓の「 心」 を入れ,「 糖心会」 と
吸検査など多くの検査機器が存在す
テの使い勝手は毎日の診察の中でと
も当院では伝票がない限り看護師は
察室ではそれにつけ加えるよう工夫
した。
るため,電子カルテと並行して画像
ても重要な要素だが,Hi-SEED では
対応しないようにしているため,入
した。そのほかの部分は事前にパネ
ファイリングシステムの導入も検討
入力をするときだけでなく,撮影画
力漏れや間違いは一度もなく,会計
ルにはっておき,クリックするだけ
し,紙カルテを一切使用しない診療
像や投薬履歴などもワンクリックで
も自分で登録して受付に送信するだ
ですむようにしており,紙カルテよ
いままで市民病院の外来でやって
きたことを開業してもそのまま継続
が非常に見やすくタッチパネル方式
IT 化のコンセプト
させたいとのコンセプトで,2005 年
開業に当たり,電子カルテを導入
体系をめざした。カルテや X 線フィ
見ることができ,診療に役立ってい
けで簡単に診療費が把握できる。患
り数段速く書き込めるようになって
11 月に岐阜県海津市海津町という田
することに迷いはなかった。市民病
ルムをいちいち探しにいくのは非常
る(図 2)。
者さまが病院に来院されてから退出
いる。
園風景豊かな場所に開業した。開業
院ですでに検査, 点滴, 薬などを
に手間であるし,カルテ庫などのス
また,薬剤チェック機能が標準で
されるまでの時間は,他院よりも短
電子カルテを利用する以上,一連
当初は,多くの患者さまに利用して
コンピュータ入力するという作業に
ペースを省くことで施設を広く有効
搭載されていることも決め手の1 つで
縮されていると自負するところであ
の業務を効率化できなければ無意味
いただくため,「おおや医院」や「お
慣れていたこともあるが,今後はカ
に使用できるようになると考えたた
ある。重複投与やアレルギー,併用
る。もちろん自分がある程度保険診
である。今後もより効果的な電子カ
おやクリニック」にしては,との提
ルテ開示が必須になり,誰にでも読
めである。
禁忌などの処方監査をリアルタイム
療の知識を有していることが必要と
ルテの運用をめざし,日立メディカ
案もあったが,専門が内科と循環器
みやすくわかりやすいカルテを作成
で実施でき,うっかりミスによる事
なるが,Hi-SEED ではそれほど難し
ルコンピュータとともに,アイデア
故を未然に防いでくれるのは非常に
くなく対応できている。
を出し合い検討していきたいと考え
システム選定のポイント
科であることにこだわり,
「おおや内
することが重要だと考えたからであ
科循環器科」とした。内科の中でも
る。また,当院は循環器科というこ
数ある電子カルテの中で,日立メ
特に糖尿病を専門としていたため,
ともあり,心電図(24 時間ホルター
ディカルコンピュータの H i - S E E D
ありがたい。
開業して1 年が経ったころ,医療法人
および負荷),超音波・ X 線・マルチ
という電子カルテを選んだ(図 1)。ま
化に伴い法人名に糖尿病の「糖」と
スライスCT ・血圧脈波・睡眠時無呼
ずレセコンと一体型であること,画面
電子カルテを導入し,とても良かっ
診療履歴をマークで表示。
各情報はワンクリックで参
照可能。
過去カルテ
高解像度レイアウトの採用
により,
過去カルテは常に
画面左側に表示。
ている。
題点と考えていたのが SOAP の「S」
現時点での評価と今後の展望
診療履歴
電子カルテ運用において唯一の問
の部分であったが,前に述べたタッ
チパネル方式がここでも効果を発揮
今回カルテ
主訴所見はフリー入力に
加え,
SOAP形式にも対応。
過去カルテからのDo入力
も項目を選んでボタンをク
リックするだけの簡単操作。
医療法人糖心会 おおや内科循環器科
〒 503-0641
岐阜県海津市海津町内記 207-1
TEL 0584-53-0899
項目パネル
パネル色・フォント色,
また
パネルの大きさを変更し,
見
やすく直感的なパネルをオ
リジナルで作成することが
可能。
区分をまたいだ約束セット
などの登録にも対応。
図1
26
Hi-SEED の基本画面
IT
VISION
No.14 (2007)
大矢 秀一
(おおや しゅういち)
図2
Hi-SEED を設置した診察室での診療の様子
1995 年福井医科大学
(現・福井大学医学部)
卒業。稲沢市民病院,掛
川市立総合病院,一宮西
病院勤務後,2005 年 11
月におおや内科循環器科
を開院。日本内科学会認
定内科専門医,日本循環器学会認定循環器
専門医。日本糖尿病学会所属。
IT
VISION
No.14 (2007)
27
はじめに
を傾け十分なコミュニケーション・わ
応のものを選んた(図 1)。紙カルテや
迅速に対応してもらえず,病院全体の
DESK Ⅱ Ver.2 を利用する上での不
能にし,患者さんの満足度向上につな
日常診療に支障を来したため良い印象
安や不満はなかった。導入時のスタッ
がっている。カルテ情報をプリントし
は持てなかった。
フへの教育は,開業前 5 日間,開業日
て渡すことで,休診時や救急時にほか
当日,開業後 2 日間の計 8 日あり,医
の医療機関にかかる際の基礎情報とし
療事務は 2 人とも医療事務の経験が少
て役立てられている。クリニック全体
システム選定のポイント
かりやすい説明」,「その時代にふさわ
フィルム保存スペースをなくし,医院
シィ・エム・エスの電子カルテ
な か っ た が , DOCTOR'S DESK Ⅱ
として「患者さんの訴えに耳を傾け十
こまちや東内科クリニックは,長野
しい水準の医療を提供すること」,「院
の設計をコンパクトにしたかったため,
DOCTOR'S DESK Ⅱ Ver.2 を 導 入
Ver.2 に関してはほとんど問題がなく
分なコミュニケーション・わかりやす
県駒ヶ根市の新興住宅街に2007 年 4 月
内検査が可能な検査機器の導入と電子
開業前の早い段階から電子カルテの導
し た の は , DOCTOR'S DESK Ⅱ
扱えている。シィ・エム・エスの電子
い説明」を実践できるようになった。
に開院した。開業に踏み切った動機は,
カルテとの連携などにより,クリニッ
入を決めており,躊躇はなかった。
Ver.2 を導入し開業している大学病院勤
カルテ導入教育の質の高さを感じた。
血液生化学測定器・内視鏡検査装
大学病院・地域基幹病院で消化器・肝
クの診療レベルを向上」をモットーに
また,開業に踏み切った背景には,院
務時代の先輩医師からの推薦があった
臓内科の専門医として診療と研究に当
掲げた。そして,充実した院内検査機器
内検査が可能な検査機器の導入がしや
こと,さらに他社の製品と比較・検討
スムーズな活用を支えるためのシィ・
装 置 な ど と DOCTOR'S DESK Ⅱ
たってきたが,1 人の患者さんに対し
の導入や外注検査機関との連携などに
すくなったことや,特殊な検査などに
した結果,実績や性能,サポートの充実
エム・エスの支援が行われいる。
Ver.2 とのオンライン化を実現したの
て十分な診療時間を割くことに限界が
よって,
クリニックの診療レベルの向上
おける病診連携ができる環境などが
度などが決め手となったからである。
また,開業後も日々のサポートなど,
置・超音波検査装置・生理機能検査
で,今後は外部検査を含めた検査画像
まとめ
データの電子カルテへの取り込みを実
あり,患者さんの要望に応えられない
を実現するためのツールとして,シィ・
整ってきて,
クリニックでも自分の考え
自分が専門としてきた消化器・肝臓
というフラストレーションを抱いてい
エム・エスの電子カルテ DOCTOR'S
る診療レベルを維持できるようになっ
分野の診療では,検査の比重が非常に
電子カルテの導入効果は,院内検査
現していく予定である。そのためには
システム拡張が必要であり,コスト的
たことがある。
それを実現するためにも
大きくなる。そうした検査結果を手作
および外注検査の結果をオンラインで
肝臓疾患を専門にしていると,長期的
開業を考えた時点より,「時代にふ
電子カルテは重要なツールであった。
業で紙カルテに記入したり,検査結果
カルテ上に取り込めるようになったこ
な問題を解決し,診断に足る画質のデー
な治療が必要な患者さんが多く,患者
さわしい水準の医療を提供する」ため
電子カルテについては,以前に勤務
用紙をはったりという作業は,煩雑で
と,また,外注検査のオーダもオンラ
タを DOCTOR'S DESK Ⅱ Ver.2 に取
さん 1 人をトータルで診ていくことの
に,電子カルテの導入は,選択肢の1 つ
していた地域基幹病院で経験はあった
あるとともにミスを誘発する。診療所
インでできるよう連携機能を整えたこ
り込められれば,非常に有効に活用で
重要性を感じ,ホームドクターとして
となっていた。診療業務の効率性から
が, 地域基幹病院の電子カルテは,
向け電子カルテでも,検査結果をオン
とにより,測定法の指示などがわかり
きると期待している。また,患者さん
の役割を担っていきたいと考え,開業
完全なペーパーレスを図るとともに,
メーカーが提供する診療プロセスに依
ラインでカルテ上に取り込むことが可
やすくなったことが挙げられる。これ
のカルテや紹介状をプリントアウトし
に至った。
画像機器類も含めた院内の画像もフィ
存するしかなく応用性がないこと,ま
能になってきたため,導入を決断した。
により,開業の背景であった「その時
て渡し,ほかの診療機関との連携に役立
電子カルテに求めた機能的要件は,
代にふさわしい水準の医療を提供する
てているが,これらがオンライン化でき
たためである。特に,慢性疾患の多い
DESK Ⅱ Ver.2 を導入した。
ルムレスにしようと考え,内視鏡検査
た,電子カルテ導入に当たりメーカー
IT 化のコンセプト・ねらい
装置・超音波検査装置・生理機能検査
からクレームに対して迅速に対応して
院内および外注検査のオーダリング機
こと」,「院内検査が可能な検査機器の
れば診療連携が促進され,患者さんの
開業に当たり,
「患者さんの訴えに耳
装置といった機器類もすべて電子化対
もらえる約束があったにもかかわらず,
能と,その検査データをオンラインで
導入と電子カルテとの連携などにより,
大きなメリットになると期待している。
電子カルテ上にスムーズに取り込める
クリニックの診療レベルを向上」とい
こと,過去の診療内容や投薬情報を容
う目的が達成された。
16ポートHUB
受付奥に設置
ADSLモデム
受付奥に設置
ルータ
〈サポート〉
CMSコールセンター
リモートメンテナンスセンター
受付・会計
複合機
(スキャナ,プリンタ使用)
リライト
診察券発行機
電子カルテ端末 レーザープリンタ 電子カルテ端末
ips
切替器
診察室 1
電子カルテ端末(高精細モニタ付),画像ファイリングシステム
カラープリンタ
図1
28
診察室 2
処置室
内視鏡室
X線操作室
電子カルテ端末(高精細モニタ),超音波検査装置
電子カルテ端末
内視鏡
CR装置
画像ファイリング
システムサーバ
こまちや内科クリニックのシステム構成
IT
VISION
No.14 (2007)
連携内容
① CR側へ患者情報の送信
② 心電計,
ビューワ側へ患者情報の送信
③ 検査連携用PCへ患者情報,
検査オーダの送信,
検査終了後
結果の自動受信
④ 内視鏡,
超音波,
CRデータのDICOM受信とDICOMデータ→
JPEG変換し電子カルテフォルダに送信
画像ビューワとの連携
⑤ 画像ファイリングシステムへ患者情報の送信,
⑥ 予約患者の予約内容を登録後,
リライト診察券に印刷
検査室
レーザープリンタ
電子カルテの導入が,看護師・医療
自分なりにアレンジして効率的な入力
事務との情報共有を実現し,診察前に
業務を実現できるかであった。そうし
患者さんの状況が把握でき,診療の効
た要件に基づいて,各社の診療所向け
率化と質の向上にも貢献している。ま
電子カルテをつぶさに検討し,選定し
た,情報共有によって患者さんに対し
た 電 子 カ ル テ が DOCTOR'S DESK
て看護師も適切なアドバイスなどがで
Ⅱ Ver.2 であった。
きるようになり,自分も診療に集中で
心電計
きるようになった。クリニックの専門
携帯用PC
カ
カラープリンタ
易に検索できること,テンプレートを
血液検査装置
携帯用PC
心電計
導入スケジュール
領域である消化器・肝臓疾患を中心に,
DOCTOR'S DESK Ⅱ Ver.2 導 入
慢性疾患患者さんの診察内容や症状の
時には,シィ・エム・エスの徹底した
説明では,検査データのビジュアル化
支援が行われたため, D O C T O R ' S
などによって,わかりやすい説明を可
こまちや東内科クリニック
〒 399-4117
長野県駒ヶ根市赤穂小町屋 10964
TEL 0265-81-7780
URL http://www.komachiya-higashi.jp
山浦 高裕
(やまうら たかひろ)
1994 年聖マリアンナ医
科大学卒業後,信州大学
第二内科入局。95 年飯山
赤十字病院内科,96 年市
立甲府病院内科副医長と
なり,98 年から信州大学
第二内科。2001 年昭和
伊南総合病院肝臓消化器内科医長,2003 年
飯田市立病院消化器内科医長,飯田女子短
期大学非常勤講師を経て,2007 年 4 月に開
院。飯田市立病院肝臓内科非常勤医師。日
本内科学会認定指導医など。
IT
VISION
No.14 (2007)
29
はじめに
これは受診者に対する説明用に印刷で
ツールも充実している。専門医による
や間違いがないよう作成を行った。多
き,インフォームド・コンセントに役
読影に対しては,各モダリティに応じ
様なシチュエーションに対応可能で,
立てることが可能である(図 2)。
た高精細モニタ(2M,3M,マンモグ
受診者の動線に沿ってチェックが行え
健診システム C&I-Win/sys は,健
ラフィ用 5M)を置いている。データ
るようなリストをつくることによって,
要となること。② ドック健診部門と保
Happy CS-Ⅲ(販売元はすべて東芝メ
診予約から所見入力,判定,報告書作
バックアップに関しては,同じデータ
業務を円滑にすると同時に,スタッフ
険診療で 1 受診者 1ID の下に一括した
ディカルシステムズ)を統合して成り
成,統計までの一連の流れを管理する。
を2 つのディスクに記憶させる(ミラー
間での共通した電子カルテ理解を確立
JR 東京駅日本橋口に隣接する JR 東
データ管理を行うこと。これによって
。ペンタブレットを含
立っている(図1)
当院では問診票を OCR で一括入力し,
リング)と同時に,バックアップテー
していくことにも役立っている。この
日本の新しいタワー「サピアタワー」。
健診データを有効利用し,患者の管理
めたクライアントは40 台,MWM シス
報告書問診欄への自動入力を行う。各
プにも保存することによって, 画像
リストは,あらかじめ入力された受診
この 7 階フロア 464 坪を占める新しい
指導に用いていくこと。③ MSCT や内
テム端末10 台,DICOM 変換用端末1 台
種検査所見は,独自の判定支援ロジッ
データの三重化保存を実現し,安全性
者情報や当日検査予定が自動出力され,
クリニックが「サピアタワークリニッ
視鏡などの多くの診断画像を管理し,
を置き,診察室および読影室では 1 台
クによりそれぞれの値を判定し,自動
を高めている。
さらに医師,検査部門,看護部門,事務部
ク」である。これは東京女子医科大学
迅速に利用することが求められること。
の端末と 1 つのマウスで電子カルテと
的に判定区分とコメントを出力するよ
門間の連絡やオーダが簡便にわかりや
運用と問題点
日本心臓血圧研究所,榊原記念病院の
④ 医師,看護師,臨床検査技師,診療
PACS ビューワを操作可能としている。
うになっており,これによって見落とし
流れを受ける,医療法人社団榊原厚生
放射線技師,検体検査部門,事務の各
各種モダリティからの情報入力に関し
を防ぎ,コメントのおおまかな統一を図
複数の専門分野の医師,複数の職域
今後の問題点としては,想定外の受
会が 2007 年 4 月に新しく開設した診療
職域が 1 つのカルテを記録・参照する
てはID カードリーダを用い,これをさ
ることをめざしている。この判定ロジッ
の多数の職員が 1 人の受診者に関与す
診者の行動や入力ミスへの対応という
施設である。外来診療部門は,循環器
こと,が挙げられる。これらの点では,
らに電子カルテ画面および口頭で確認
クの作成に関しては,どこから病的なも
るため,その情報伝達を電子カルテに
点かと思われる。アクシデントが発生
科,消化器科,糖尿病,呼吸器の専門
診療所というレベルよりむしろ中小規
することによって誤入力を避けている。
のとして再検や治療を行うかの基準が
全面的に依存することには限界がある。
した場合に迅速に対応できることは重
外来と, 一般内科の保険診療を行い,
模の病院における電子カルテ構築の体
電子カルテシステム ARTERIA は,
明確でない項目も多く,相当の労力を
この点からペーパーレス環境を支える
要であるが,これは起こってからでな
これにドック健診部門および消化器内
制が求められるものであった。
医師の思考の流れに従って所見を入力
要した。受診者に対する当日の一次説
ために,逆にチェックリスト(紙)の
くてはわからないというジレンマがあ
し,また情報を参照することができる
明には面談支援画面を設定し, 検査
運用が必要となった。
る。電子カルテ自体,想定された状況
ように設計され,これに引き続くオー
データや画像をスムーズに引き出しなが
これに関しては,クリニックの各部
に対して正確に操作されることを前提
視鏡研究所を併せ持つ。 循環器科は,
システム構成
64 列マルチスライスCT(MSCT)によ
すくチェックできるように工夫された。
る冠動脈の評価と,これを用いた心臓
当院のシステム構成は,電子カルテ
ダリングも効率的に入力できるよう構
ら説明できるようになっている(図 3)。
署が集まって意見交換を行い,受診者
としており,またマニュアルもこれに対
ドックを中心に診療を展開し,消化器
システム ARTERIA, 健診システム
成されている。また,ペンタブレットを
結果報告書はドック健診の質を大き
の流れをスムーズにして,診療の漏れ
応するためにある。スタート段階で右
内視鏡研究所は,大腸内視鏡の第一人者
C&I-Win/sys,医用画像管理システム
用いて画像にマークをつけたり,シェー
く左右するものであり,人体のシェーマ
である昭和大学横浜市北部病院消化器
(PACS)Rapideye(TFS-7000,4TB ×
マを書いてカルテにはり付けることも
を用いて異常所見の部位を示したり,
センター・工藤進英教授とそのチーム
2 基,二重化),検査支援サブシステム
可能であり,種々のイラストをあらか
報告書へ縮小画像を貼付することに
の全面的バックアップを得て,最先端
M W M システム, 医事会計システム
じめ登録し利用できるようにしている。
よって視覚的に理解しやすい形に出力
の消化器内視鏡診断と治療,MSCT を
受付
・初診時に診療側から新規カルテ番号を入手し
ID情報を登録
用いた大腸 3DCT 診断をめざしている。
健 診
報告書
請求・明細書
統計資料等
IT 化のコンセプト
受付
・初診時「00001」から自動発番
・「00001」のID情報を登録
診 療
新患登録時に発行
報告書
請求・明細書
統計資料等
新患登録時に発行
発番要求
ID情報
新規開設のクリニックであることか
健診システム
健診システム
ら当初より完全電子化をめざし,準備
すべての健診結果
検査結果
オーダ
を開始した。このクリニックの特色と
電子カルテ
電子カルテ
医事
医事
検査支援
オーダ
各種ME機器群
ち,それぞれの電子カルテに対する要
各種画像診断装置群
・個人別健診結果
・すべての画像データ
は放射線科医,婦人科医,眼科医も判
VISION
No.14 (2007)
医用画像
PACS
求が異なること。また,健診に関して
IT
具体的にどのようなアクションをとる
べきかの指示)→ご案内(当クリニック
図2
電子カルテと PACS の連携
図3
健診システムと PACS の連携
事指導などの具体的案内)と,健診結
供するようにデザインしている。
外来,および消化器内視鏡研究所を持
30
→プラン(受診者が異常所見に関して
果を有効に利用しやすくする流れを提
ID情報
しては,① 4 つの専門外来と一般内科
定を行い,これに対するサポートが必
医療法人社団榊原厚生会 サピアタワークリニック
〒 100-0005
東京都千代田区丸の内 1-7-12
サピアタワー 7F
TEL 03-5288-0011(代)
URL http://sapiatower-clinic.jp
するよう努めた。また,健診所見の判定
における二次健診,外来保険診療,食
ID情報
往左往している開設初期の現状である。
図1
共 有
サピアタワークリニックのシステム構成
・個人別診療結果(カルテ)
・個人別健診結果
・すべての画像データ
個人単位のすべての医療情報を
電子カルテで一元管理
PACS の Rapideye は,電子カルテ
や健診システムから直接起動すること
が可能であり,ID の一元管理により画
像とカルテの関連づけが正しく行われ
る。また,画像を診断するための支援
北原 公一
(きたはら こういち)
1982 年新潟大学医学部
卒業。東京女子医科大学
日本心臓血圧研究所循環
器内科入局。88 年榊原記
念病院循環器内科医長と
して,心臓カテーテル検
査および治療,心臓ペー
スメーカー植え込みおよび管理,心臓核医
学(特に心筋脂肪酸代謝イメージング),心
臓リハビリテーションを専門とし,2000 年,
同部長。2007 年 4 月,医療法人社団榊原厚
生会サピアタワークリニック副院長として,
循環器外来診療,冠動脈 CT,電子カルテの
構築に携わっている。
IT
VISION
No.14 (2007)
31
計,血圧脈波検査装置があり,画像の
はじめに
を磁気カードにした。患者さんの診察
対応できるか,⑦ もし追加する機器が
に行った模擬診療で大体の流れをつか
券を読み取り装置に通すだけで,電子
あってもその都度面倒な改装や回路・
んだ。開業後は機器の説明は各社のサ
カルテと画像ファイリングシステムに
回線が院内の邪魔にならない自由度が
ポートセンターがすぐに対応してくれ
連動して動くように,各医療機器メー
あるか,ということを最低条件に,す
て,診療中のトラブルを解決している。
カー同士に調整していただいた(図 2)。
べての機器に対しそれぞれ追求し,
最初は機器の操作を覚えきれず導入
IT 化のコンセプト・ねらい
量が増えることと,紙,フィルムのラ
診察券を忘れた場合などは手入力で
メーカーの担当者から直接プレゼン
したこと自体に後悔をしたこともあっ
横浜市の住宅街である磯子, 東戸
当院の所在は,いわゆる「……つい
ンニングコスト(保管場所も含め)を
画像を間違いなくファイルでき,診察
テーションを受けた(もちろん自分で
たが,それも最初の数回で機器の操作
塚,保土ヶ谷,新横浜を結ぶ環状 2 号
で」に受診をしてもらえる場所ではな
抑えること,その上,診断の根拠とな
券がある場合は手入力の煩雑さがなく,
アポイントをとったわけでではなく,
に慣れるとそれが診療の柱になり,患
の中間点よりやや西側に位置する港南
いため,開業する段階で最も気をつけ
りうる画像の解像度を上げることを
操作に慣れてしまえば診療のスタイル
一括に卸業者の医療器械部門がデモ機
者さんたちの間でも検査から結果説明
区の外れに,2007 年 1 月 15 日,当院
たのは,① 患者さんの来院意欲を誘う
重要視して, 日本ポラデジタルの
に支障を来さずに,むしろ患者さんの
を準備してくれて,直接使用説明をし
までの時間が短いことが話題になって
は開業した。最寄り駅である横浜市営
何かが必要であり,② その後も満足し
PACSPLUS を導入した。
取り違えなどの防止にひと働きしてく
てもらった形であった)。結局は,ど
いるようで,自分のスキルもどんどん
地下鉄の下永谷駅までは徒歩で10 分と
ながら通院してもらい,まして,③ ス
導入に当たり,煩雑な機器の操作を
れると考えている。
この医療機器もほとんど同じ仕様で,
上達している気持ちになってきている。
いう立地で,駐車場約 10 台,隣が保
タッフが集まらなくてもクリニックの
必要としないこと,機器同士の相性が
選定の方法は価格とアフターケアの充
システム選定のポイント
険調剤薬局,上階が有料老人ホーム,
機能を落とさないで診療ができる体制
悪くないこと,自分の診療スタンスに
医療テナントは当院のみという周辺環
の確保であった。医療機器選定の段階
対し過剰投資でないこと,今後の医療
私は人を使ったり育てたりすること
まとめ
実,会社のネームバリューということ
になってしまった。
今回の画像ファイリングシステムの
で,これらの条件を満たすことを重視
の進歩に最低 10 年は耐えられることを
が非常に苦手で,人に任せることにも
PACSPLUS を導入当初はいくつか
導入は,患者さんとの検査結果の共有
開業前の当初の予定では,駅近くの
し,さらにクリニックの坪数と診療の
考慮した。電子カルテはラボテックの
臆病で,今後の事業展開としてもたく
初期トラブルもあったが,それもメー
と経過を比較することが簡便になって
高いテナント料や駐車場の確保の難し
コンセプトを考え,電子カルテと画像
SuperClinic Ⅱで, 扱いやすさを最
さんのスタッフを雇うつもりもないの
カーの担当者が必死で回復作業をして
いて,操作性においても何ら支障を来
さをなくした分,医療機器の設備やク
ファイリングシステムの導入を決定し
優先に選択した。また,画像ファイル
で,医療機器選定のポイントは,① 自
くれて,事なきを得た。
すことはなく,非常に満足の得られる
リニック自体の機動力で患者さんに十
た(図 1)。
を間違いなく患者さんに紐づけできる
分がどのような診療をしたいのか,
境の中に位置している。
いまでも DICOM 画像なのか JPEG
ものであり,今後開業や改装を予定し
分満足してもらえるように工夫し,認
機器は CT と上部消化管内視鏡,超
ように,ドッドウェルのカードリーダ
② 開業資金の調整がつく範囲で,経営
画像なのか,そもそもデジタルとアナ
ている先生方にぜひお勧めしたいシス
知してもらった患者さんに広告塔の役
音波診断装置, X 線撮影装置, 心電
システムを入れて,患者さんの診察券
上過剰投資になっていないか,③ 敷地
ログの画像がどのように見分ければよ
テムであると言うことは間違いない。
割を担ってもらえるクリニックにする
の面積に対して機器が圧迫せずに機動
いのかなど,私には理解ができないこ
こととしていた。また,住宅地という
性を損なわないか,④ 自分の性格上,
とが多々あるが,専門家が操作をしや
立地条件から受診しやすい体制として
最初に導入しないとたぶん最後まで導
すく設定してくださり,また,自分で
も何か工夫が必要で,早朝 7 時 30 分の
入しないので,今後の医療のスタンス
もタイピングの練習をしたりして,積
に適応できるか,⑤ 専門の技師がいな
極的にコンピュータというものに接す
くても操作が簡便でわかりやすいか,
るように心がけた結果,現在のところ
⑥ 法や条例に準拠し,今後の変更にも
大きなトラブルはない状況である。
受付
【電子カルテ・レセコン】
ラボテックSuperClinicⅡ
診療開始を前面に打ち出し,昼の時間
にも可能なかぎり予約の検査や,会話
に時間がかかる患者さんや,訪問診療
などができるような体制にしてみた。
開業 3 か月が経過した段階で,何とな
く効果はあったものと自負している。
患者情報系
患者情報入力
磁気カード発行
オンライン
【血圧脈波検査装置】
オムロンコーリンfrom
画像情報系
磁気カード
スキャナ
患者氏名はASCII(ローマ字)
磁気カード
磁気カード
PC
導入スケジュール
PC
MWM(患者情報取得)
診察室
【電子カルテ・レセコン】
ラボテックSuperClinicⅡ
現在の当院のスタッフは,常勤の看護
【CT】
日立メディコ
Pronto
師( 妻)と事務・診療アシスタント
【CR】
コニカミノルタヘルスケア
REGIUS
DICOM
DICOM
【超音波】
日立メディコ
EUB5500
テナントが決定し建物が建築される
【内視鏡】
オリンパスメディカルシステムズ
EVIS LUCERA CLV260
DICOM
のに,当院の場合は約 8 か月という長
い期間を要した。その間じっくり設計
ビデオ
JPEG
に合わせて機器を選定することができ
2 人,パートの診療アシスタント 1 人
DICOM
の(院長の私を除いた)合計 4 名で,長
磁気カード
心電計
PACSPLUS
いてくれている。
VISION
No.14 (2007)
セッティングに年末の 1 週間,仕様説
図2
図1
IT
たので,結果としては,機器の搬入と
磁気カード
DICOM変換
い診療時間のシフトの中で頑張って働
32
DICOMゲートウェイ
ないとうクリニックのシステム構成
診察室のモニタ構成
(左が PACSPLUS)
明に 1 週間,スタッフへの説明に 1 週
間というスケジュールで,開業の直前
ないとうクリニック
〒 233-0016
神奈川県横浜市港南区下永谷 2-28-17
TEL 045-828-7110
URL h t t p : / / w w w . m y c l i n i c . n e . j p /
naitoclinic/pc/
内藤 守
(ないとう まもる)
1992 年北里大学医学部
卒業後,同院胸部外科研
修医。95 年自治医科大学
消化器一般外科,98 年医
療法人研医会かもい内科
胃腸科院長,2004 年医
療法人研明会(後の早明会)林内科医院を
経て,2007 年 1 月ないとうクリニックを開
設。標榜科目は内科・胃腸科,循環器科,
呼吸器科,外科であるが,専門診療という
よりも家庭医として地域医療に重点を置い
て日々診療に当たっている。
IT
VISION
No.14 (2007)
33
一番快適に過ごしていただくべきとこ
はじめに──診療所の概要
英クリニックは,2006 年 11 月に開
院した(図 1)。診療科目は,胃腸科,
バに保存するようにした。
な選択肢の 1 つであった。特に,画像
レーションをしていただいたり,東京
ングシステムを導入してフルデジタル
ファイリングシステムでの画像の表示
や大阪の展示会に積極的に見学にいっ
化したことは,クリニック内のスペー
スピードは大変重要であった。何社か
た。建物の設計時点で,検査機器,電
スの有効活用もでき,限られた人員で
検討した中で,パナソニック AVC メ
子カルテ,画像ファイリングシステム
効率良く運用でき,患者さん方にも満足
ディカルの Plissimo Airy が非常に表
の具体的な置き場所,どのように運用
していただいて大きなメリットと考え
ろである患者さんの待合室や診察室の
また,IT 化したことで相乗効果とし
示が速く,かつ過去画像の参照が簡単
するかを同時進行で検討を行った。半
ている。導入時には,操作面でいろい
スペースが狭くなってしまうことを避
て診療,医療事務などの効率化にもつ
にできることを評価した。電子カルテ
年前になり,院内 LAN 配線,電源仕
ろなメーカーにサポートしていただい
けたかった。
ながっている。
は診察の中で不可欠なもので,システ
様,システムメンテナンスのリモート
た。システムをスムーズに稼働させる
乳腺科, 内科, 外科, リハビリテー
そこで,クリニック内のカルテや資
このようにシステムを運用して半年
ムの信頼性やメンテナンスが優れてい
回線などの仕様について,電子カルテ,
ために,事前トレーニングをもう少し
ション科である。近年,がん患者が増
料,フィルムの置き場所をなくすため
が過ぎ,診察面において患者さんに電
るビー・エム・エルのMedical Station
画像ファイリングシステムメーカーを
早くからすべきであったと考えている。
加している中で当クリニックは,乳が
に検査機器,システムをフルデジタル
子カルテや画像ファイリングシステム
を選定した。
交えての建物メーカーと入念な打ち合
今後はさらにデジタル化を発展させ
ん,肺がん,胃がん,大腸がんなどの
化するねらいで,下記の具体的取り組
を見せながら,ゆっくり説明,会話す
わせをした。開院 5 か月前に,建築の
るためにも,マンモグラフィの読影モ
スタート時点で検査機器,電子カルテ,
ニタをさらに高精細化したいことと,
新規開院する上で,1 年前から検討
画像ファイリングシステムの導入日程
現状では内視鏡や超音波画像をオフ
疾患を早期発見,治療することに力を
入れている。
そのために,クリニック内の検査機
みを行った。
導入スケジュール
る時間が増えてきている。
(1)検査機器はすべてデジタル対応可
システム選定のポイント
能にして,ネットワークまたは媒
スタートした。当クリニックはメディ
を決定し,開院 2 週間前から順次導入
ラインで DICOM 変換しているので,
器は,最新鋭のデジタルX 線透視装置,
体でデータ送信できる仕組みを構
システムを選定する時,一番重要視
カルモールの 1 施設で,当初は建物の
を行っていくスケジュールを詳細に立
ゲートウェイ機能を導入して DICOM
デジタルマンモグラフィ装置,内視鏡
築した。これによって,フィルム
したのは検査機器や画像ファイリング
設計から入った。検査機器,電子カル
て,開院日から使用できるようにした。
自動変換する仕組みも検討している。
検査装置,超音波診断装置を備え,撮
や廃液がなくなり,機器を設置す
システムの画像の鮮明度やCPU の処理
テ,画像ファイリングシステムは,情
このスケジュールを立てたが,少し日
また,今後健診にも力を入れていくの
影画像はすべて画像ファイリングシス
る検査室が最小のスペースでレイ
速度で,いろいろな機種を見て決定し
報収集するためにホームページや雑誌
数が不足してしまい,1 か月前からの
で,画像の読影を大学病院に依頼する
テム( パナソニック AVC メディカル
アウトできた。
た。検査機器を導入するに当たり,デ
などでどのようなメーカーがあり,ど
準備が必要であったと考えている。
ため遠隔読影システム導入を検討して
ジタルX線透視装置,デジタルマンモ
んな特長があるか,メーカーよりカタ
Plissimo Airy)に保存してすぐに参
(2)検査関係のフィルムを置くスペー
いきたいと考えている。電子カルテに
照でき,電子カルテ(ビー・エム・エル
スをなくすために,検査機器から
グラフィ装置,内視鏡検査装置,超音
ログを取り寄せた。8 か月前になり,見
Medical Station)と連動できるフル
のデータを 5 年分安全に保存でき
波診断装置は,国際モダンホスピタル
てみたいメーカーの製品を絞り,地域
まとめ
現時点での評価と今後の展望
デジタルIT クリニックを実現している。
る画像保管サーバを設置した。
ショウや各社展示会などに何度も足を
の販売会社にお願いしてデモンスト
医療機器,電子カルテ,画像ファイリ
現在, 常勤務医師 1 名, 常勤事務
(3)診察用カルテは電子カルテを導入
2 名,パート事務 1 名,常勤看護師 2 名
してペーパーレスで運用できる仕
で業務を行っている。
組みを構築した。その結果,カル
IT 化のコンセプト,ねらい
運んで確認し,使用している先生方に
が有効利用できている。
は,患者さんを診察していて会話をす
新規開業する上で,明るく,落ち着
(4)患者さんが持参する紹介状,報告書
る傍ら,操作が簡単で使いやすく,か
いて,ゆったりできる空間をご提供す
も診察室の戸棚に保管すると管理
つカルテや画像の表示スピードも重要
ることにより,患者さんが受診しやす
作業が増え,煩雑になるため,紙類
いクリニックをコンセプトに考えた。
をデータ化しすべて画像保管サー
建物も高原のロッジをイメージしてお
バに保存する仕組みを構築した(こ
り,いままでのクリニックらしくない
れらの文書類は,電子カルテ内に
クリニックをめざした。特に,カルテ
は容量が大きすぎて入らない)。
やフィルムがあるとクリニック内がど
(5)他院や以前からの患者さんの検査
うしても煩雑に見えたり,置き場所や
データや一部デジカメで撮った画
収納場所もスペースを確保するために,
像データも,すべて画像保管サー
34
IT
VISION
No.14 (2007)
診察室
リハビリ室
えている。
超音波診断装置
また,診察室で使用する電子カルテ
や画像ファイリングシステムに関して
患者さんが受診しやすい,親しみやす
て,患者さんとゆっくりと会話できる
いクリニックをめざしていきたいと考
も感想などをうかがい検討した。
テ収納戸棚が不要となり,受付奥
関しては,音声入力できる機能も入れ
英クリニック
〒 514-1101
三重県津市久居明神町風早 2090-1
TEL 059-259-0808
URL http://www.hanabusa-md.jp
ルータ
DICOM
変換
メンテナンス
画像ファイリング 電子カルテ
システム端末
端末
佐々木英人
(ささき ひでと)
画像保管
サーバ
電子カルテ 電子カルテ
端末
端末
電子カルテ
サーバ
受付
図1
高原のロッジをイメージ
図2
イメージャ
内視鏡検査装置
内視鏡室兼処置室
英クリニックのシステム構成
デジタル デジタルマンモ
X線透視装置 グラフィ装置
CR
検査機器室
検査室
1976 年三重大学医学部卒
業後,77 年三重大学医学
部附属病院第 1 外科助手。
86 年尾鷲市立尾鷲総合
病院副院長兼外科部長,
91 年済生会松阪総合病院
外科部長,2000 年三重
中央医療センター外科部長,2006 年に英ク
リニックを開院。外科専門医,消化器病専門
医,消化器内視鏡専門医,マンモグラフィ
読影認定医師,三重大学医学部臨床教授。
IT
VISION
No.14 (2007)
35
はじめに
私の勤務していた病院の放射線科で
は,院内でも飛び抜けてIT 化が進んで
IT 事業で最も大切なのは, このアフ
評である。しかも,過去からの全デー
なる可能性がある。顧客増に応じてス
ターケアの充実である。言ってみれば
タが表になり,比較も簡単で,患者説
タッフを増員して,常にアクセス可能
IT などのデジタルデータを扱う企業ほ
明時にも説得力がある。
で,あまり混まないようにしてほしい。
ど,気が利いて思いやりがあり,お人
当院では受付,診察室,リハビリ室
もう 1 つは,電子カルテではなく,む
るが,どちらかといえばハードウエア
く使う文言の登録,処方や検査のセッ
よしで面倒見が良いという,人間味に
に各 1 台の端末があり,診察室に 1 台
しろ国民健康保険や支払基金などの電
の会社で,電子カルテなどのソフトウ
ト登録などを可能なかぎり多く登録し
富んだ『 アナログ』 な精神が重要に
Web ビューワを設置している(図 2)。
算化対応である。国民健康保険の返戻
エアを重要視する分野では後発の感は
ておいた。また,開業後もよく使う検
なってくる。その点において,私は一
画像検査などはすべてビューワ上で説
はいまでも紙しか受け付けないし,市
あった。
査や処方項目などはどんどんセット登
ユーザーとして島津製作所のシステム
明する。外部検査の MRI や SPECT な
民検診の書類は紙で提出しなければな
録して,常にカルテを進化させている。
に非常に満足しているし,これからも
どは,DICOM データで送ってもらい
らない。何とか早くこのような周辺の
伸びてゆくメーカーだと思う。
カルテに取り込む。返事や診断書など
環境を電子化していただきたい。
おり,院内全科の画像情報がオンタイ
CT は GE 横河メディカルシステム
ムで集められ,医師は 3 台のモニタに
で,心電計はフクダ電子,血算・生化
これは大切なことだが,電子カルテと
映し出される画像を観察して読影所見
などの検査は昭和メディカルサイエン
いえども,最初からレセプトを電子登
もう 1 つの優れものは,スキャナか
は script として登録しておいて,カル
を録音,トランスクライバーがそれを
スと契約し,これらの情報はすべてオ
録というわけにはいかない。1,2 回試
ら PDF ファイル(JPEG)として,必
テ上で作成し紙に出力して患者さんに
タイプし,さらに医師がチェックして
ンラインで電子カルテに取り込まれる。
験登録というものが必要で,この間は
要書類をカルテにはり付けられること
渡すか郵送する。主治医の意見書など
ユビキタスとは,“神は偏在する”と
所見を仕上げるようになっていた。こ
患者さんには診察室のWeb ビューワで
紙レセプトを出す必要がある。3 回目
である。患者さんが持ち込んだ紹介状
は,2 回目以降ほとんどコピーだけで
いう意味らしい。おそらくは,難しい
の手法で従来の 3 倍の読影量をこなし
検査所見を説明し,フィルムの現像は
から電子登録。4 回目以降はすべて電
やメモ,他院からの返事,健診所見な
でき上がる。
理屈は何一つ知らなくても,指一本で
ている姿にはいたって感動し,強い憧
一切なし。ほぼ完璧なフィルムレスの
子カルテ任せで本当に楽になった。
どスキャナで取り込んで,カルテには
リハビリが必要な患者さんはカルテ
れも抱いていた。いつかは自分もこう
完成である(図 1)。
り付ける。受付でも保険証をコピーせ
上でリハビリ処方せんを作成し,リハ
ということだろうと勝手に解釈してい
テナンス)なるものが存在し,これがす
ず, この手法でカルテにはり付ける。
ビリ室のスタッフがカルテを確認して
る。しかし,その実現のためには,常に
こぶる優れものである。電話一本,無料
いまでは,四重にもバックアップがと
実行する。最後に受付で処方せんや領
現場にあってこれをよく観察し,かつ
通話で朝 8 時半から夜 8 時まで土曜日
られ,ほとんど失う可能性がないとわ
収書をプリントして患者に渡す。診療
思いやりと機知に富んだ数多くの優秀
も含めてハードウエアでもソフトウエ
かって,法的義務のある書類以外は保
終了後には日報を作成して現金との確
なスタッフが必要である。よりユビキ
ターが付き添ってくれて,カルテの入
アでも担当の方がこちらの質問や要望,
存していない。
認を行う。診療終了後にデータの差分
タスな環境をめざすほど,『事件は現
力から保険請求のやり方まで親切に指
時には苦情などにも答えて,リモート
3 番目の優れものは,検査会社との
バックアップをしてシャットダウンす
場で起こってるんだ。 会議室じゃな
導してくれた。開業前から使いやすい
コントロールで即座にカルテや各種
データのオンライン化である。前日に
る。脳神経外科と整形外科がメインな
い!』という“踊る大捜査線”の信念と,
カルテをつくるため,いろいろな目的
フォームの訂正や変更もやってくれる。
採取した検査データは,翌日の朝電話
ので,X 線撮影装置や CT はかなりた
より『アナログ』な心情を大切にする精
別のカルテフォームをつくったり,よ
とにかく,電子カルテに代表される
回線を通じてカルテに取り込む。午後
くさん撮っていると思う。しかし,当院
神がますます重要になってゆくだろう。
には出力紙が届くので,患者さんに渡
にはほとんどフィルムや紙の資料はな
している。これは,患者にすこぶる好
い。見る人が見れば驚くほどすっきり
さらに,島津リモメン(リモートメン
ゆう環境で仕事がしたい。開業するに
当たってまず思い当たったのは,電子
カルテというよりはむしろこの PACS
の方, まさにフィルムレスの環境で
あった。
フィルムレス,
ペーパーレスをめざして
まず必要なものは,CT,X 線撮影装
使ってびっくり
電子カルテと PACS の利便性
当初は島津製作所のインストラク
置,血管年齢や糖尿病の経過観察にも
使えるということで頸動脈超音波診断
リモートメンテナンス
センター(島津リモメン)
受付
装置,心電計。これらのデータを電子
診察室
Bフレッツ
回線
スキャナ
検査室
していることだろう。
高速スキャナ
保存できるメーカーで,可能ならオン
PACS 込みの電子カルテが必要となっ
てくる。鑑賞に堪えられる機器である
電子カルテの
問題点
ルーター
ラインで管理・保存がしたいので
モノクロレーザー
プリンタ
電子カルテ
(受付・会計用)
電子カルテ&Webビューワ
21.1型高精密カラーモニタ
CT室
ことはもちろんだが,その中で最も合
X線室
心電計
超音波診断装置
第 1 には, 島津リモ
リハビリ室
メンのアクセスの問題
理的価格でまとまったのが島津製作所
である。 リモートメン
であり, X 線撮影装置と Web ビュー
テナンスの存在は必須
ワ,超音波診断装置,それと電子カル
であるが, 顧客が増え
テがひとまとめで採用された。もとも
と島津製作所は画像に優れた企業であ
36
IT
VISION
No.14 (2007)
CR
図1
ばんどうクリニックのシステム構成
X線撮影装置
て電話が混んでくると
ノート型電子カルテ
図2
Web ビューワを使用した患者説明
迅速な対応ができなく
将来への展望
ありとあらゆる仕事が成し遂げられる,
ばんどうクリニック
〒 245-0016
神奈川県横浜市泉区和泉町 514-8
TEL 045-800-3934
URL http://www.bancli.com
板東 邦秋
(ばんどう くにあき)
1981 年日本医科大学医
学部卒業。医学博士。順
天堂大学 脳神経外科研
修医,同助手などを経て,
88 ∼ 90 年に米国バージ
ニア医科大学脳神経外科
留学。92 年から藤沢市
民病院脳神経外科医長,98 年同主任医長,
順天堂大学非常勤講師となり,2003 年から
同部長。 2006 年にばんどうクリニックを開
設。日本脳神経外科学会認定医。
IT
VISION
No.14 (2007)
37
表1
アメリカが医療の質改善のため掲げる目標と IT への期待
項 目
はじめに
厚生労働省は2007 年 3 月 27 日,「医
アメリカが 21 世紀の医療制度として掲げる目標
IT に期待されている効果
安全性
医療行為から患者が損害を受けない。
禁忌チェックなど処方,調剤,投薬のエラー削減などの安全
性の基盤が提供される。
有効性
過小・過剰な医療サービスの回避
自動想起システムの利用などにより診療ガイドラインの遵守
が容易に
患者中心志向
患者の意思,ニーズ,価値意識を尊重し,患者の要望に応え
る。また臨床方針は患者の価値観を尊重して決定
患者ニーズにあった健康教育や疾病管理に関する情報提供。
個々の患者の特性,遺伝的素因,患者の病状に合わせた意思
決定支援など
適時性
有害な結果をまねく診療の遅れをなくす。
さまざまな検査結果や情報への随時アクセス
効率性
医療おけるあらゆる無駄を排除
電子化された診療情報へのアクセスによる検査の重複や搬送
事務などの削減。チーム医療の支援など
公正性
性,民族性,居住地,社会経済的地位を理由に医療サービス
の質が異なることがない。
遠隔医療や在宅医療など
うに, この目標は未達に終わったの
上したりすることは可能である。 し
であるが, 内容的には今後の保健医
かし, このためには従来のやり方を
対して健康・医療にかかわる情報を
研究所) が報告した,「 全米で毎年
情報化の対象が単に医療や健康だけ
療分野の情報化の姿を先見的に示し
変えなければならないこともある。こ
提供することによって個人ができる
4 万 4000 人から 9 万 8000 人の患者が
でなく, 介護や福祉にまで分野が広
たと評価されてよいと思う。
のグランドデザインでは, 制度や業
だけ長く健康な状態にとどまれるよ
医療過誤によって死亡している」 と
がったことから, これらを横断的に
療・健康・介護・福祉分野の情報化
今般のグランドデザインと 2001 年
務の見直しとの整合性, 総合的かつ
うに支援すること, さらに医療者や
いうものである。 医療者も人間であ
支援する施策が必要となったとして
グランドデザイン」を発表した。医
版とでは, 策定プロセスにおいて大
段階的な実施と, 全体的な最適性の
行政に対して国,地域,あるいは医
る以上間違いを犯す。 その過ちが重
いる。また,全体最適から制度や業
療・健康・介護・福祉分野において
きな違いがあった。 先のグランドデ
追求が必要であることが示唆されて
療の世界で何が起こっているかを適
大事故につながらないように制度を
務の見直しを行いつつ, 段階的に施
情報化が進められた将来のあるべき
ザインでは,医療界,学会,工業会
いる。
宜情報として提供することなどとし
変える必要があるというのである。そ
策を実施する必要性を説いている。
姿の実現に向けて,2006 年度からお
から有識者が集められ「 保健医療情
ここでは,今回まとめられた「医
ている。
こで,医療制度の全体としては表 1 に
おむね 5 年間のアクションプランを示
報システム検討会」が組織され,主
療・保健・介護・福祉分野の情報化
例えば,アメリカは 2004 年にブッ
掲げるような目標が掲げられた。 こ
医療機関・介護事業者, 保険者など
すものである。 グランドデザインの
にその場での議論からグランドデザ
グランドデザイン」 がどのようなこ
シュ大統領が 2014 年までに EHR を開
の目標達成に,IT の利用が大きな役
である。国民にあっては質の高いサー
背景にも書かれているように, この
インが策定された。 今回のグランド
とをめざそうとしているか, またそ
発することを掲げ,詳細はわからない
割を果たすと期待されているのであ
ビスが生涯を通じて効率的にかつ安
グランドデザインは 2006 年 1 月 19 日
デザインは, 有識者から意見を聴取
の結果としてどのような環境が実現
が全体で数百万ドルの予算が毎年投じ
る。
心して受けられること, サービスの
に IT 戦略本部(高度情報通信ネット
するというプロセスをとってはいる
されそうか, また残された課題は何
られているようである。2008 年度予算
アメリカを例として医療 IT の期待
ワーク社会推進戦略本部) が掲げた
が, 策定は厚生労働省の内部で行わ
かなどを考察してみたい。ただし,グ
では,アメリカの EHR である NHIN
される効果を述べたが, わが国にお
保険者などにあっては提供するサー
「IT 新改革戦略」においてうたわれた
れている。 厚生労働省の各部局で議
ランドデザインは 4 つの分野を横断的
Information
いても医療の課題とそれに対する IT
ビスの向上につながる IT 化であるこ
「(医療・健康・介護・福祉)分野横
論が行われ, 政策統括官がグランド
に俯瞰した施策を掲げているが, こ
Network)の開発を統括する保健省
が提供可能な対応とは同様なものと
とを掲げている。
断的な情報化方針,具体的なアクショ
デザインとしてまとめている。 その
こでは医療・保健分野を中心に記述
(HHS : Health and Human Services)
ンプラン等を示す情報化のグランド
ためか, 旧グランドデザインに比べ
することとする。
デザインを 2006 年度末までに策定す
て慎重さが目立つように感ずる。 す
る」 ことに応えるものとしてまとめ
でに着手されていること, 政策とし
られた。
て取り上げられることが既定となっ
( Nationwide
Health
の一部門である ONCHIT(Office of
the National Coordinator for Healthcare
医療・保健分野の情報化
──世界の動きから
考えてよいであろう。
Information Technology)は1億1800万
ドルがつけられたということである。
② 利用者とされているのは,国民,
提供者である医療機関・介護事業者,
③ 真に必要な IT 化では,② に掲
げた視点からの課題解決につながり,
医療・健康・介護・福祉分野の
情報化グランドデザインが掲げる
情報化のめざすべき将来の姿
この予算は NHIN の地域版である
持続的な社会保証制度の構築に資す
るものでなければならないとしてい
る。
厚生労働省は, 今回のグランドデ
ていることについては明記されてい
ザインの前に, 2001 年 12 月 26 日に
るが, 今後さらに検討を要する課題
欧米などの各国でEHR(Electronic
RHIO( Regional Health Information
グランドデザインは, まず施策と
コードや健診項目・電子データの形
「保健医療分野の情報化にむけてのグ
については,検討に着手する,開始
Health Record : 電 子 化 健 康 記 録 )
Organization)のプロトタイプの開発
して推進するに当たっての基本的視
式の標準化,安全基盤の構築,健康
ランドデザイン」をまとめている。こ
する, あるいは検討を進めると記述
の開発が進められている。 この目標
や標準化の推進に使われることになっ
点を示す。① 総合的施策の着実な実
情報管理のためのデータベースの構
こでは,電子カルテを「平成 18 年度
されている。
とするところは, 患者がどこにいて
ている。
そして,⑤ 行政の役割は,用語・
施,② 利用者の視点の重視,③ 真に
築, 各ステークホルダーの合意形成
まで全国の 400 床以上の病院の 6 割以
ITは,業務を円滑に行うためのツー
も,いつでも,患者の生涯にわたる
このような施策をとる背景には医
必要な IT 化の推進,④ 個人情報の
であるとしている。
上に普及, 全診療所の 6 割以上に普
ルでしかないが, これをうまく利用
医療健康記録を参照することによっ
療制度を変えなければならないとい
保護と国民の選択の尊重,⑤ 官民の
及」と数値目標を掲げ,保健医療分
することによって業務の生産性を上
て, より良い医療を提供できるよう
う事情がある。 それは, 1999 年に
役割の分担である。
野の情報化の姿を示した。 周知のよ
げたり,質を改善したり,効率を向
にすること, また国民一人ひとりに
IOM( Institute of Medicine : 医 学
38
IT
VISION
No.14 (2007)
① 総合的施策の着実な実施では,
このような基本的視点に立って,情
報化がそれぞれの利用者のどのよう
なニーズを持っているかが分析され
IT
VISION
No.14 (2007)
39
「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」に見る IT 化の未来
Trend View
る。そこでのポイントは,常に IT 化
れ, 標準化されてデータベース化さ
(3)2006 年度末までに,標準的な診
が各利用者にメリットをもたらすかで
れなければならない。 健診情報や診
療情報提供書を作成するシステ
ある。それぞれの利用者のニーズとし
療情報を送受信する医療情報システ
て以下のようなものが挙げられる。
者中心志向は患者の選択の尊重が中
なければならないし, 作業の流れの
(10)
2006 年度末までに,標準的な健
心的な課題であるが, きわめて専門
中で自動的にチェックが行われる機
ムを開発し,2007 年度から全国
診項目, 標準的なデータ形式を
性の高い医療にあっては, 基の情報
能の組み込みも必要である。 これら
ムや医療機器は, 標準に基づく相互
の医療機関などに同システムの
定めるとともに, レセプトデー
からときにより高次の情報, あるい
の機能はすでに実現されているもの
【国民】は,安心して質の高いサー
運用性を確保したものでなければな
ソフトウエアを無償配布する。
タおよび診療情報との連携の進
は知識へ変換して, 患者が理解でき
もあるが,医療の安全性,有効性を
ビスを受けるため, また自身の健康
らない。さらに,これらの情報は個
小規模医療機関向けにソフト
め方について,2006 年度中に検
るように患者にフィードバックされ
さらに改善するために何が必要かも
管理のために健診情報や診療情報を
人情報であるため,その保管や交換・
ウエアを無償で配布し, 医療機
討を開始。また,2008 年度から,
なければ, 真の患者中心の医療を実
検討され続けなければならないし,そ
利用したい。このため,希望すれば
共有は安全に行わなければならない。
関の情報化, ひいては医療機関
全国的規模で収集・分析すべき
現することはできないだろう。 効率
の結果がシステムに反映されていく
自身の健診情報や診療情報を電子的
また, 健診情報や診療情報をこのよ
間の連携を促進することをねら
健康情報および収集の仕組みに
性についても, 検査の重複を減らす
仕組みを構築しておくことも必要で
に入手し管理でき,セカンドオピニオ
うな目的に利用することについては,
いとする。
ついて検討を開始。さらに,健
としても, 提供された情報が信頼で
あろう。 このような情報を総合的に
ンや専門家への紹介をスムーズに受
国全体の合意も得られていない状況
(4)2006 年度末までに,保健医療福
診情報などとレセプトデータお
きるものでなければ, 改めて検査が
利用する仕組みの構築についても,デ
けられ, 必要な情報をサービス提供
にある。
祉分野の公開鍵基盤(HPKI)を
よび診療情報などとの連携の進
必要となってしまうだろう。 すなわ
ザインが必要となる。
構築し,2007 年度からその運用
め方について,結論を得る。
ち,情報を有効に生かすためには,そ
グランドデザインは,医療・健康・
れを利用する人間の考え方,意識が,
介護・福祉分野の情報化について,
者に提供することにより, より良い
サービスを受けられるようにしたい。
【医療機関・介護事業者】は,質の高
課題解決に向けた
アクションプラン
いサービスを提供するため費用対効
を開始する。
(11)
介護・福祉分野における情報化
(5)2006 年度末までに,医療機関と
の取り組みも, 介護給付の適正
ひいては行動が変わらなければなら
一定の方向性を示した。しかし,今
して選択すべき安全かつ安価な
化や給付実績の分析などを目的
ないと考える。 そのためにはシステ
後 5 年ということにこだわり過ぎてい
に開始される。
ムとして, 必要に応じてさまざまな
るようにも感じる。10 年,15 年先に
情報が利用できること, 使いやすい
医療や健康,介護,福祉提供体制と
こと, また情報の質として一定レベ
してどうあるべきか, そこでの情報
ル以上のものが保証されることなど,
システムの役割は何であるか, そこ
医療情報システムのあり方について
へ向かう最初の 5 年としての課題は何
も議論が必要となるだろう。
で, その課題解決はこのように進め
果比の高い IT を導入するニーズを持
前章で述べたような将来の姿の実
ネットワークのセキュリティ要
つ。また,このためには IT をベース
現に向けた具体的施策は, 一部はす
件を含めた, 安全な診療情報な
に客観的で高精度な統計的・疫学的
で動き出しているものもあるし, こ
どの取り扱いに関する指針を明
データを医療や研究に活用したいと
れから着手されるものもある。 それ
確化する。
している。 同時に医療保険事務や医
らは,以下のようなものである。
これについてはすでに「 医療
(1)医療分野で用いられる各種書類
情報システムの安全管理に関す
るニーズであるとする。【保険者など】
の記述要件や書類の定義などに
るガイドライン第 2 版」にまとめ
は, レセプトオンライン化などによ
ついて検討を行い, これらの書
られた。
り,医療保険事務を効率化し,保険
類の電子化・標準化などのあり
者機能を効果的に発揮したいという
方について 2008 年度末までに一
ニーズがあり, これにより事務コス
定の見解を示す。
療事務のコストの削減も,IT に対す
義務化する。
まとめ
──医療・保健・介護・福祉
分野の情報化グランド
デザインを読んで
表 1 にアメリカが掲げる 21 世紀の
IT 戦略本部が策定した「IT 新改革
ていく, というようなビジョンを示
医療制度の目標を示した。グランドデ
戦略」には,IT が持つ構造改革力を
し, それに向かってステップを踏ん
ザインが描くビジョンによって,表 1
追求するとある。IT が構造改革を促
で進むという議論があってもよかっ
タベース)の研究開発に着手し,
の 6 つの目標のいくつが達成されるの
すわけではない。 IT を利用すること
たと思う。また,全体として行政と
2009 年度末までに完成する。
であろうか。 患者の診療情報が医療
によって,多様にしかも迅速に得られ
してできることに記述を限ってしまっ
(6)医療知識基盤( オントロジデー
トを軽減し, 医療費を適正化するた
(2)各ベンダーの医療情報システム
(7)2011 年 4 月から, 医療機関( 薬
サービス提供者に提供され, 個人が
る情報を活用しようとすることが,構
ているようにも感ずる。 グランドデ
めにも健診情報・レセプトデータを
の相互運用性を検証する取り組
局を含む) と審査支払機関間に
健康管理のために自身の健診情報を
造改革を促すと考える。 情報化を進
ザインを叩き台として情報化の議論
活用して, 被保険者への効果的な保
みを支援し, 検証結果を医療機
おけるレセプト請求事務を原則
利用し, また疫学的分析によって得
めることは, 同時にそれを積極的に
を広げていくことを期待したい。
健指導を実施したい。
関などに公表する。
として,完全オンライン化する。
た知見を診療に利用したりする仕組
かつ効果的に利用することを可能と
グランドデザインは, このような
JAHIS( 保健医療福祉情報シ
(8)2008 度末までに,全国規模での
みと, これを可能とする標準化や安
する利用者の能力育成をも必要とす
各利用者のニーズを背景に, それら
ステム工業会), JIRA( 日本画
レセプトデータの収集, 分析の
全に情報を利用する基盤の構築が進
る。 情報あるいは情報システムを使
に応えることが情報化のめざすべき
像医療システム工業会) は,
ための体制を構築し,2009 年度
められることがグランドデザインに
うことを前提とした医学教育が必要
将来の姿としてとらえている。
関係学会や MEDIS-DC( 医療
からレセプトデータの収集・分
は示されている。このことによって,
となるだろう。
このような情報化の将来の姿を実
情報システム開発センター) と
析を段階的に実施し,2011 年度
患者中心志向,適時性,効率性,公正
安全性, 有効性についてはどうで
現するに当たり課題がある。 個人に
組 ん で IHE(Integrating the
から厚生労働省において全国規
性の一部の目標は達成可能であろう。
あろうか。 ここでも情報の利用者の
還元されるとは言え, 必要に応じて
Healthcare Enterprise)の活動
模でのレセプトデータを収集し,
医療機関や介護事業者間で交換・共
を行ってきた。 この活動を医療
分析・公表を実施する。
有されなければならないし, 医学研
情報システムの標準に基づく相
究や疫学的分析が可能であるために
は, 健診情報・診療情報が構造化さ
40
IT
VISION
No.14 (2007)
始めに書いたように,IT は,医療
意識が課題になることは基本にある
を含む多くの産業にあってツールと
が, さらにシステムの持つ機能とし
(9)2008 年度に,二次元コード(QR
しての存在でしかない。 情報を生か
て何かをプラスすることが必要とな
互運用性確保の手段として支援
コード) を被保険者証の券面に
して利用する人の存在があって初め
ろう。例えば,禁忌チェックはそれ
する。
装着させることを一部保険者に
て有効なツールとなる。例えば,患
を可能とするデータが用意されてい
篠田 英範(しのだ ひでのり)
1971 年早稲田大学理工学部修士課程修了。同年東
芝総合研究所入社。画像処理,音声認識などの研
究や米国技術アタッシェ,技術管理などに従事。91年
から同社医療機器事業部にて医用画像システムの
研究や開発に従事。2007 年 4 月から保健医療福祉
情報システム工業会標準化推進部長。
IT
VISION
No.14 (2007)
41
生活習慣病予防を目的として,2008 年度から保険者による特定健診・保健
指導が義務化される。健診結果に基づく継続的な保健指導を効率的に行っ
ていくためには,健診システムなどの活用が重要になってくる。そこで,
本特集では,健診システムのあり方について,新制度の概要から標準化へ
の考え方を取り上げ,健診情報学の専門的見地および職域でシステムを活
用する産業医より鳥瞰するとともに,関連して,健診システムに黎明期か
ら携わっているシステム開発者の一文を掲載した。
〈企画協力:奥 真也・東京大学医学部附属病院 22 世紀医療センター健診
情報学講座准教授〉
従来型の健診も実際には多岐にわた
Column
Column
るが,ここでいう従来型健診は,よ
健診の結果による階層化
り狭義に,職場で指令があって受け
ることになるものを指している。
○従来型健診は「 労働安全衛生法」
が根拠法令の中心であるが,特定
特定健康診査制度と健診システム
健診は「健康増進法」が根拠法令
の中心である。
健康増進法が個人の健康増進を
奥 真也
東京大学医学部附属病院
22 世紀医療センター
健診情報学講座准教授
はじめに
1
特定健診の結果により,受診者は「情報提供レベル」「動機付け支援レベル」および「積極的
支援レベル」に階層化される。このうち「情報提供レベル」は健診結果が正常に分類された人で
あり,後二者が特定保健指導の対象者となる。特定保健指導については別途実施要領が規定され
ており,初回面接(必須),電話や電子メールなどによるフォローアップなどがポイント化され,
一定以上のポイント数を積算できると保健指導を実施したことになる。
Column
Column
2
健診データの標準化
は不十分であることをお断りしてお
る,一連の予防医療重視政策が根底
法の目的とするのに対し, 労働安
く。本制度の詳細については,厚生
にあり,これらを健診の実務に照ら
全衛生法は, 労働者の安全と健康
健診データは,図
に情報が掲
して法整備をなしたのが今回の制度
を確保することにより, 快適な職
1 のような流通様式
載されているし,また,筆者らによ
導入である。メタボリックシンドロー
場環境の形成を促進することを目
が想定されている。
労働省のサイトなど
2)
,3)
るものを含め,いくつもの教科書お
ムが対策の中心に据えられたのは,重
よび参考書の出版が準備されている
症化した場合に国民医療費の増大の
的している。
なお,特定健診の実務的レベルの
これらの通信におい
ては,厚生労働省の
「 標準的な健診・保
2008 年 4 月から,特定健康診査(以
途中であると思われるので,今夏以
要因となりやすい生活習慣病,わけ
詳細については「高齢者の医療の確
健指導の在り方に関
下, 特定健診)制度および特定保健
降,これらの書などを参照されるこ
ても,糖尿病というテーマが,予防の
保に関する法律」に規定されている。
する検討会」などに
指導制度が開始される。この制度改
とをあらかじめお願いしておきたい。
重要性を具体的にイメージし,制度
正は,日本の医療制度の歴史上,ほ
ぼ初めて健診が義務化されるもので
特定健診制度は
予防重視路線の「最初の一歩」
あり,従来の健診・予防医療の実践
のあり方に大きな影響を及ぼす。
本制度の理解のために,経緯を記す。
○特定健診では「メタボリックシン
るという思慮に基づいたものである。
据えており,がん検診その他の課
に基づいて行われる
つまり,特定健診は,日本の医療
題については盛り込んでいない。
ものとされている。
がん検診などを必要と考える場
基本的にはファイ
特定健診
個人情報つきデータ
(法第15条)
特定健診
医療機関
健診機関
支払基金
匿名化データ
特定健診
(法第28条)
(法第142条)
支払基金は,
保険者
に対し,
特定健康診査
などの実施状況に関す
る報告を求める。
実施の委託(アウトソース)
(法第23条)
保険者から加入者への結果の通知義務
国民
保険者
個人情報つきデータ
事業者
ル形式はできるかぎ
複雑な法整備の状況を記すことによ
提とし,その中で実効性が強い部分
合には,追加項目,人間ドックの
保健指導制度の大まかな成り立ちを
り,読者を不要の混乱に陥らせる意
から開始される,まさにその「最初
実施などで対応することが推奨さ
日付や識別子などの
解説し,さらに,特にこの制度にお
図はないのだが,どのような背景で
の一歩」の具現であると見るのがよ
れている。
データ型のモデルは
ける健診情報のデータ形式の標準化
特定健診制度が導入されるに至った
いと思われる。今後,時宜を勘案し
○特定健診制度は,40 歳以上 75 歳
に関連した部分を述べる。本制度は
かを理解することは重要である。
つつ,歯周病,睡眠時無呼吸症候群
未満の労働者本人(被保険者)のみ
り単純な XML とし,
厚生労働大臣また
は都道府県知事
は,
保険者に対
し,
必要な資料の
提出を求める。
代行業者
管理の標準的な様式
この稿では,まず特定健診・特定
※(法番号)
は「高齢者の医療の確保に関する法律」に対応
図1
(法第27条) 特定健診
------------事業者は保険者に その他の
記録を提出する
健診
ことを負う。
(法第22条)
(法第25条)
保険者に記録の保存
を課す。
健診データの流れ HL7 の CDA R2 で記述される特定健診情報・特定保健指導情報ファイルとの整合性を考慮した
ものになっている。XMLスキーマだけでは単純に記述できないような制約は,可能なかぎり用
いない工夫がなされている。詳細については参考文献 3)のサイトにそれぞれの技術情報がある。
健康日本 21 1) のキャンペーンの精神
特定健診制度は,健康日本 21 から
などの解決課題の生活習慣病対策へ
ならず,家族(被扶養者)を含み,
を実務レベルで整備することをめざ
健康増進法までの流れの中にある。す
の盛り込み,がん検診の再構築,ス
その実施の義務は保険者に課され
し,その一法として,メタボリック
なわち,2000 年に厚生省事務次官通
トレス性疾患,うつ病などを代表と
ている。受診者には義務はない。
シンドロームに着目して健診制度を
知などの形で開始された「健康日本
するメンタルヘルスへの取り組みな
○特定健診の結果により,受診者を
抜本的に構築し直そうという発想で
・・
体系が整えられつつあるものであり,
21」の精神が,翌 2001 年に政府・与
ど,輻輳した予防医療の拡充が見込
いくつかのグループに分け(階層
党社会保障改革協議会が策定した
まれることを理解しておきたい。
化)
,グループの特性によって,特
+,++,+++」が 1 ∼ 5 の数値
制度の全体の解説には多くの紙数が
「医療制度改革大綱」の中で「健康寿
定保健指導と称する保健指導を行
で表現されるようになり,健診シス
必要である。以下,制度の骨格を成
命の延伸・生活の質の向上を実現す
うことを義務化する(Column 1)
。
テムにおける判定ロジックなどでの
す考え方と,健診システムにかかわ
るため,健康づくりや疾病予防を積
りの深い特定健診項目,階層化,新
極的に推進する。そのため,早急に
設される保健指導に関する部分など
○特定健診・特定保健指導のデータ
匿名化データ
特定健診
------------その他の
健診
健診データの電子的
ドローム」を中心的な課題として
特定健診と特定保健指導制度の特徴
国・都道府県
支払基金を経由するデータの流れ(検討中のもの)
個人情報つきデータ
よって検討された,
を安定普及するのに格好の素材であ
が予防重視に向かう大きな流れを前
法で定められているデータの流れ
法で定められていないが、現実に提供されると思われるデータの流れ
図 2 は XML による健診データの記述サンプルである。
健診および特定保健指導の実施項目には JLAC10(日本臨床検査医学会)の体系を援用したコー
ドが今回整備され,標準的なデータ
流通における使用が推奨されてい
る。この中では,例えば尿糖・尿蛋
白の定性判定について,「 −, ±,
活用が容易になる。
図2
健診データの記述サンプル
本稿では特定健診全体の解説はで
を(時空ともに)統一的に扱えるよ
法的基盤を含め環境整備を進める」
きないことは述べたが,読者の理解
うに,健診データの内容,流通形式
特に,保険者と健診機関あるいは代
Document Architecture Release
を選択的に詳述するにとどめるため,
と表現されたのを経て,2002 年に可
の一助となるために,特定健診が従
について詳細なガイドラインを提
行機関の間,保険者と国および都道府
2)に基づいたデータ送受信が強く推
特定健診制度の全体を理解するのに
決,公布された「健康増進法」に至
来の健診と異なる点を列挙しておく。
示した。
県 の 間 で HL7 の CDA R2( Clinical
奨されている(Column 2)
。
42
IT
VISION
No.14 (2007)
IT
VISION
No.14 (2007)
43
特定健康診査制度と健診システム
特定健診と健診システム
件とするデータ流通を行えるかどう
かというと疑問は残るのだが,デー
特定健診実施以降の健診システム
の行方については,未知数の部分が
多い。もし,それぞれの健診機関あ
タ流通環境の整備には,保険者間な
どで温度差が存在するのは事実であ
る。もちろん,筆者の立場では,こ
2.
集団あるいは社会全体におけ
る健診データの有効活用
個人データの蓄積が集団( 企業,
共済組合,保険者等)に及び,① 事
業所間比較,保険者間比較,地域化
表1
医療費と健康診断データの突合分析結果 順位
年齢
性別
性がある。とはいえ,現実には確実
診療実日数 合計点数
病 名
1170137 白血病
健診受診の有無
1
26
男
229
2
61
男
213
879580 くも膜下出血
未
3
55
男
90
789523 悪性リンパ腫
未
4
58
男
136
729738 動脈硬化(症)
未
5
41
女
133
603943 子宮の悪性新生物
未
6
51
男
264
602851 くも膜下出血
未
7
43
男
157
595598 腎不全
未
でないことにまで設備投資すること
は難しい。
したがって,まずはそれぞれの健
診機関ないし医療機関が,今後どの
るいは保険者が規定を忠実に遵守し
れらのデータ流通ができるだけ早く
間比較などが容易に行えるため,根
てシステム開発を行えば,来年度早々
全体として整備され,健診情報の活
拠のある保健事業構築が可能になり,
にも,非常にスムーズなデータの流
用の恩恵を享受できる人が加速度的
② 企業などとして取り組まなければ
通が全国レベルで確保されることに
に増えることを期待しているが,浸
いけない健康課題が明確になるとと
8
46
男
146
585829 良性新生物及びその他の新生物
未
ところと特定健診・特定保健指導制
なり,ある意味で非常に望ましいこと
透にはある程度の時間がかかること
もに,③ 保健事業の効果を客観的に
9
51
男
111
532620 その他の神経系の疾患
未
度の方向性が一致する部分を中心に
である。他方,システム開発には健
はむしろ自然であると考えられる。
測定できる。
10
52
女
41
504858 乳房の悪性新生物
未
資源投入していくのがよいのではな
診機関ないし保険者に少なからざる
これにより,社員および家族の健
経済的負担がかかる現実があり,整
健診データ標準化後の世界
備が短期間に一気に進むとは考えに
の整備,
(労働安全衛生法以来引き続
くい。
おそらくは,先進的な取り組みを
康増進に資することによる福利厚生
しかし,一定の時間が経過した後
いて重要な)社員の健康管理の向上に
には,すべてのプレーヤーの努力の
よる企業活動に対する効果が期待で
する保険者,代行機関を中心にシス
結実として,健診データが統一的に
テム開発が行われ, 専門健診機関,
扱えるようになり,その内容も粒度
受診
※6000 人規模の健康保険組合の被保険者の年間医療費を高額の順に表示。1 番が白血病であり、以下
くも膜下出血と続く。
高額医療消費者は入院等の影響で健康診断を受診していないことがわかる。第 7 位の腎不全患者は
健康診断を受診している。
※厚生労働科学研究補助金・循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「疾病予防サービスの制度に
関する研究 平成 18 年度 総括研究報告書」
(主任研究者 : 永井良三, 2007 年 3 月)より
ような医療を担っていきたいかとい
うことを熟慮し組織としての方向性
を打ち出すべきである。そのめざす
いだろうか。
具体的には,今後,必須性が高ま
る健診情報・医療情報の標準的な流
通の仕組みの整備に長期戦略をもっ
て対処していくことと思われる。例
合によって健診・予防事業の効果を
の流通が手段にすぎないことを考え
えば単に今回の特定健診・特定保健
また,社会としても,取り組まな
医療費という尺度で測定することが
ると,ここまでの項で述べたような
指導にきわめて特化した,しかし,汎
4)
きる。
医療機関などがそれに追随していく
がそろうことになる。そのときにど
ければいけない国民的健康課題につ
可能になる。一例として表 1 を示す 。
健診データの標準化後のデータ活用
用性の少ないシステムを慌てて導入
ような展開になるのではないかと思
のような効果があるかを見ておきた
いて,早期に明確に把握できるため,
これは,ある企業健保の約 6000 人規
につき,健診システム側が能動的に活
するのは望ましくない。将来の見通
われる。特定健診制度には,健診へ
い。別の言い方をすると,この効果
改善プロジェクト立ち上げなどの迅
模の健康保険組合の分析例である。
用法を示していくことが必要と思わ
しの良いシステム整備シナリオを描
の取り組みの度合いによって保険者
が大して魅力のないものであるとす
速な対応により,効果的な医療保険
れる。健診機関や保険者が具体的な
き,目先の特定健診・特定保健指導
に対する経済的インセンティブを与
れば,巨費をかけ,各施設などの労
行政が行える期待がある。
データ活用を簡便に行えるようなツー
の充足要件と整合させていくことが
える仕組みがあることもあり,ある
を強いてまでも,標準化を推し進め
ルをさまざまな形で提供していくこ
望まれるものである。
程度の時間が経てば正しくデータ流
ることはないことになる。要は,標
通環境は整ってくると思われ,拙速・
準化は常に目的でなく手段であると
安易な整備を期待しすぎなくてもよ
いうことであり,標準化の後に見込
いと考えている。
健診システムに期待されること
健診システム側は,単に特定健診
とが望まれる。これらの情報の有効
が規定するようなデータ流通の技術
活用法については,筆者の所属する
前項の事業者比較,保険者比較に
を実装するだけではもちろん十分で
東京大学医学部附属病院 22 世紀医療
まれる付加価値を理解することがか
関し,特に医療費レセプトとの突合
はない。健診事業の歴史的経緯の中
センター健診情報学講座 5)でも,学術
えって近道であるということである。
分析について記しておく。特定健診
で,個々の健診事業者,健診システ
的な立場から積極的に提案していく。
制度の健診データ整備が 2008 年 4 月
ム開発者が用意する健診システムは
に開始されるのに次ぎ,2011 年には
独自の発展様式を遂げてきた。また,
特にレセプトとの突合分析について
院教授)のサイト 3) には,システム
個人レベルの健診データが,① 個
レセプトデータがオンライン化され
かつてはそのような独自のシステム
開発者向きに提供される健診データ
人内で経年的変化が正しく判断でき,
る。レセプトのオンライン化は厚生
であっても,依頼者から求められる
さて,以上のことを踏まえると,健
標準化に関する種々の技術情報の最
② 他者との比較における健康度順位
労働省としても長年の課題であった
ニーズには何とか対応できていたと
診機関,医療機関においては,シス
●参考文献
1)健康日本 21: http://www.kenkounippon21.
gr.jp
2)厚生労働省:生活習慣病予防(健康づくり)特
集. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou
/seikatsu/index.html
3)健診データの電子的管理の整備に関するホー
ムページ : http://www.tokuteikenshin.jp
4)永井良三(主任研究者): 疾病予防サービス
の制度に関する研究 平成 18 年度 総括研究
報告書. 厚生労働科学研究補助金・循環器疾患
等生活習慣病対策総合研究事業, 2007.
5)東京大学医学部附属病院 22 世紀医療センター
健診情報学講座: http://www.kenshinjyohogaku.
jp
新版とともに,健診データ簡易入力
などの比較により,わかりやすく把
のがようやく実現する見通しが立っ
いうこともあった。そのために,デー
テム整備を含む特定健診制度対策に
奥 真也(おく しんや)
システムなどのツールが開示されて
握できるようになる。
たものであるが,あたかも健診デー
タ流通の標準化の実現は遅れてきた。
どのように臨めばよいのであろうか。
1988 年東京大学医学部卒業。2004 年 6 月より東
京大学医学部附属病院 22 世紀医療センター健診
情報学講座准教授。埼玉医科大学総合医療セン
ター放射線科准教授(兼任)
。専門は健診情報学,
医療情報学,核医学。日本 IHE 協会理事,日本
核医学会「核医学情報の標準化への対応」WG
委員長などを務める。株式会社レーグル代表取
締役社長。同社は医療関連事業を展開する企業
に対するコンサルテーションを行っている。
厚生労働省の研究班(主任研究者:
永井良三・東京大学大学院教授,分
担研究者:大江和彦・東京大学大学
1.
個人の健診データの有効活用
健診機関・医療機関は
今どう動けばよいか
おり,システム開発に早急な大型予
これにより,異常の早期発見,保
タ流通の標準化と呼応して相乗的な
したがって,今回の制度改正を契機
上述したように,今回の特定健診
算化を目さない保険者,健診機関な
健指導の受診による発病,重症化の
メリットが期待されている。すなわ
としてデータ流通が整えられること
制度は予防への大きな流れの一表現
どに対する配慮がされている。これ
防止などの予防効果が期待できる。
ち,特定健診・特定保健指導の効果を
には十分な価値がある。
であり,今後この方向の法整備や社
らのツールのみで特定健診制度が要
44
IT
VISION
No.14 (2007)
計測する手法として,レセプトとの突
しかしながら,あくまでもデータ
会的なコンセンサスが進行する可能
IT
VISION
No.14 (2007)
45
標準化が健診システムに与える影響
矢後昭彦
株式会社ハーディ
代表取締役社長
大量の検体を一気に検査して,その
を企図したもので,「脂質代謝: D,
ろう」,「軽い貧血が見られるが,胃
増えることになる。機械に人の代わ
決して事後のフォローアップを軽視
結果を健診システムに流し込み,計
肝機能:B,……」等々の結果をコ
切除しているためだろう」等々に至っ
りをさせることが「自動化」であり,
してきたわけではない。ヒト・モノ・
医療におけるコンピュータ化が,医
測系データと画像読影結果の所見
ンピュータで導出する処理を指す。一
ては,問診や読影所見情報があって
コンピュータの得意分野でもあるわ
カネなどのリソースの点から,対応
事システム,いわゆるレセコンから
コードをパンチ入力。後は連続紙に
般的な具体例を挙げれば,
初めて導かれるもので,そうした判
けだが,再現の対象が個性豊かな(身
したくても手が回らなかったのであ
始まったことはよく知られている。一
プリンタで印字をかける。こうした
① 各項目のカテゴリ分け〔例── T-
断に必要なデータ項目や知識ベース
勝手な?)個々人では,マスを対象と
る。もし,「特定健診」が十分に自動
方,絶対的な市場規模は小さいなが
オートメーションが確立されていっ
C h o( 総コレステロール)・ T G
は膨大だし,処理に必要な時間も半
する健診の世界には通用しなかった
化・省力化されたなら,そこで得ら
ら,健診システムもレセコンと大差
たのである。
端なものではなくなってくる。
のだ。
れた余剰分の資源を使い,シームレ
健診システムの成り立ち
( 中性脂肪)・ HDL( 高比重リボ
のない時期に誕生・普及を果たして
90 年代に入ると,健診システムの
タンパク)・ LDL(低比重リボタ
実は,90 年代前半,こうした問題
きた。汎用機やオフコンが主流だっ
プラットフォームは PC へと移ってい
ンパク)→脂質代謝,FBS(空腹
点を一挙に解決する「夢の自動判定
当時は,ガイドラインや EBM といっ
いくことができるのだ。しかも,情
た時代,まだ,PC が趣味や玩具の域
く。また,機能面では,予約や会計,
時血糖)・ HbA1c(ヘモグロビン
システム」の開発競争が行われた一
た用語が,まだ目新しかった時代だっ
報伝達を主たるジョブとする保健指
を出なかった1980 年代のことである。
統計といった管理業務などをカバー
A1c)→糖代謝〕
時代が存在した。 人工知能( AI)や
た。だが,もし,社会や業界全体が
導は,実に情報システム向きの業務
もっとも,黎明期における健診シ
するように拡張が進んだ。そして最
ファジー推論等々の技術が脚光を浴
共有できる標準的な基準が存在して
でもある。
ステムの機能は,結果報告書の作成
近では,オーダリングシステムや電
TG :∼ 149 → A,150 ∼ 249 → C,
びていたことも追い風だったのだろ
いたら,また別な展開があり得たに
程度に限定されていた。読者諸兄も
子カルテと同様の機能を備え,検体
250 ∼→ D)
う。健診関連の学会では,この種の
違いない。
ご覧になったことがあるだろうが,健
検査や画像システムと連携するよう
③ 閾値処理後,各カテゴリ別判定決
演題が目白押しだったし,実際に複
そう考えたとき,「標準化」された
診の結果報告書とは,模擬試験の結
なアーキテクチャを持つ製品も登場
定(カテゴリ項目内で最悪の判定
数の製品が華々しく世に送り出され
各種基準が,一種の社会インフラで
果通知書によく似た,往々にしてペ
してきている。
値を適用)
( 例── T - C h o : B ,
ていった。
あることを痛感するのである。高性
ただ,幸いなことに,死屍累々た
ラペラのプリンタ印字帳票である。
模擬試験の結果通知書であれば,
② 各項目の閾値(判定)設定(例──
教科別の点数と偏差値,志望校合格
べき余地がまだまだ残されている。
る歴史を歩んできた健診システムに
イスピードを出せる高速道路という
は,十分な知識と経験の蓄積がある。
といった処理である。
ム」は,夢のままに終わり,進歩も
社会インフラがなければ宝の持ち腐
新制度のグランドデザインがうまく
そこで止まってしまったのだった。
れだし,反社会的ですらある。健診
行われれば,そうした蓄積を糧に,健
システムの高性能化においても,し
診システムが予防医療のイノベーショ
かるべき共通の基盤が必要なのだ。議
ンに貢献していくことは間違いない
論の余地のない基準が共有できれば,
だろう。
を待て」といったコメントが主な記
歩と低価格化により,健診システム
の程度のアルゴリズムでは,十分な
載事項だろう。これが健診の場合は,
の守備範囲は大きく広がったのであ
精度が得られないことは明らかだ。
各種検査結果が列記され,異常値に
るが,以前から存在しているわりに
「尿定性検査は腎・尿路カテゴリに入
は「*」や「H」,「L」のマーク,最後に
は,あまり進化していない部分があ
れることが多いが,尿糖は糖代謝障
健診の判定とは,システム技術者
それに基づいた自動化を行い,そこ
判定として,A,B,C ……といった
る。それが「自動判定」機能である。
害カテゴリに入れるべきだろう」,「尿
が想像していた以上に,個々の医師
で浮いてきたリソースを次なる目標
記号と「半年間の観察を要す」,「所
健診における「判定」とは,一般
定性検査で潜血[±]は要再検レベ
の「勘と経験」に依存するものだっ
に振り向けることができるはずだ。
見あるも日常生活に差し支えなし」
診療における「診断」に相当する部
ルだが,尿沈渣赤血球が正常範囲内
たのである。A 先生にとってベスト
その「 次なる目標」 とは何か?
等々の素っ気ないコメントが並ぶこ
分であり,ヒト・モノ・カネという
なので再検は不要だろう」等々の指
な自動判定システムが, B 先生の酷
答えの 1 つは, すでに用意されてい
とになる。
リソースを,想像以上に多く消費す
摘は,いくらでも可能なのである。さ
評の対象になることも珍しくはない。
る。そう,「保健指導」である。
80 年代というと,血液の自動分析
る業務でもある。自動判定は,主に
らに,「白血球やや高めだが,風邪で
しかも,高度で複雑な知識ベースで
「健診のやりっ放し」の弊害が指
器が普及した時期とも重なっている。
検体検査や計測項目の判定の自動化
発熱しているためで,再検は不要だ
あればあるほど,否定される材料も
摘されて久しいが, 健診関係者は,
No.14 (2007)
わりの標準化にしても,洗練させる
能なスーパーカーを所有しても,ハ
もちろん,医療現場において,こ
VISION
緒に就いたばかりと言える。判定ま
しかし,その多くは,生き残るこ
PC のハード・ソフトの飛躍的な進
IT
もちろん,これらのことは,その
とはなかった。「夢の自動判定システ
の確率に加え,「人事を尽くして天命
46
スに「特定保健指導」へとつなげて
脂質代謝: D)
TG : D,HDL :A,LDL : C →
自動判定という夢
それにしても,いまにして思えば,
自動化と標準化,そして健診の将来
矢後昭彦(やご あきひこ)
1987 年東京大学医学部保健学科卒業。保健学博
士。90 年に株式会社ハーディ設立,同社代表取
締役社長に就任。保険医療分野のシステムコン
サルティング,システム開発,各種リサーチを
主な業務とする。92 年東京大学大学院医学系研
究科修了。93 年に人工知能による自動診断シス
テムの実用化に成功。「DocHardy」として,国
内外の多数の医療機関に採用される。
IT
VISION
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健診システム構築の実際と特定健診・保健指導の義務化に向けた対応
いる。システムはブラウザソフトを
に基づく産業医の意見や時間外労働
最終的な判定を行っている。これに
利用しており,一般従業員,管理職,
制限など,就業上の措置などの情報
より,産業医によって判定が大きく
医療職,システム管理者ごとに機能
を閲覧できる(図 3)。職場管理者は,
異なるといったことをなくし,全店
が分けられており,それぞれ画面設
もちろん疾病情報や健康相談の内容
大での標準化を図った。また,従業
定も異なる。
など,安全配慮に直接関係のない情
員の健康情報だけでなく,時間外勤
菊地 央
た。また,疾病分類なども標準規格
(3)標準化……産業医が従業員個々
一般従業員向けの機能は,社員番
報にはアクセスできないが,職場で
務などの労務データや職歴などの人
東京電力株式会社
本店産業医
に対応していないほか,法改正や社
人の健診結果に基づいて健康状
号とパスワードでイントラネットに
配慮すべき情報に限定して把握でき
事データも参照できるようにしてお
内制度の変更などに対応できない
態と以後の管理方針を判定する
ログインすれば,容易にリンクされ
るようになっている(図 4)。
り,保健指導などの際には,従業員
ものであった。そこで,次期システ
上で,その基準のバラツキを減
たTOHSS 画面に入ることができ,す
また,専門スタッフに対しては,担
ムへの更新に向け,2004 年から準備
らすよう自動化する。これによ
べての従業員が自分の健康情報にア
当事業所内における対応を要する新
適切な指導ができるようにしている。
を開始した。そして,翌 2005 年 8 月
り健康管理の標準化を図り,効
クセスし,自身の健康管理を行いや
規ケースの発生や従業員個々人ごと
このほか,システム管理者向けと
東京電力の従業員数は, 約 3 万
8 日から, 新健康管理システム
率化と対策の効果の評価をしや
すいよう配慮されている(図 1)。例
の対応履歴をひと目で把握できる機
しては,アクセス権限の設定や不正
8000 名,約 1 割が女性である。筆者
「TEPCO ヘルスケアサポートシステ
すい環境を整える。また,疾病
えば健診前には,健診の日程調整と
能がトップ画面で提供されている(図
アクセスを監視するための機能が設
名についても旧システムのよう
問診を Web 上で行う。健診後には,
5, 図 6)。健康診断については,各
けられている。
な独自のものではなく,ICD-10
結果完成が自動的にメールで通知さ
検査の基準値に基づいた自動診断機
(国際疾病分類第 10 版)に準拠し
れ,PDF ファイルの結果票を出力す
能を設けることにより,判定作業の
たコードを用いて,健康保険組
ることができる。そして,健診結果
負担が軽減された。産業医は,シス
合や厚生労働省のデータと比較
は継続的に管理されているため,過
テムが出力した標準的な判定結果を
はじめに
が勤務する本店には出向,派遣,海
ム(TOHSS)
」を稼働させた。
外勤務者も含め,そのうち約 5000 名
が所属している。
TOHSS 構築のための
4 つのコンセプト
電力業界は,小売自由化が段階的
に本格化する一方,電力消費の伸び
TOHSS の構築に当たっては,シス
は減少傾向にあり, 東京電力では,
テムベンダーの選定から行った。数
「 情報通信」,「 エネルギー・環境」,
社を候補として挙げ,価格も含め具
(4)安全配慮義務と自己保健義務の
体重や血圧データを同
「住環境・生活関連」,「海外」の 4 分
体的な検討を行ったが,その中で最
支援……会社が従業員の安全と
時表示するグラフ作成
野などで新事業を推進している。こ
も重視したのは,われわれがめざす
健康に配慮しやすいよう,管理
機能などにより, より
のような情勢の中において,産業保
機能を有するシステムを実現させる
者に対して必要最小限に限定し
詳細な情報提供ができ
健の専門スタッフが従業員の健康維
技術力があるかということであった。
つつも,確実な情報提供を可能
る(図 2)。また,保健
持・増進に図るのが,各事業所に設
われわれがめざすシステムとは,次の
にする。また,1 人 1 台のパソコ
指導後の自己管理を促
置された健康管理室である。全社の
4 つのコンセプトで表すことができる。
ンが付与されている従業員に自
すため, 自分自身で体
検討できるようにする。
去のデータと比較することも可能で,
健康管理室には,現在,産業医が約
(1)統計・分析機能……限られたマ
身の健康情報へのアクセスと活
重や血圧を入力すれば
180 名,看護師約 60 名が勤務し,健
ンパワーで健康管理を行うため
用を促し,健康管理に留意しな
グラフ化でき, 次回の
康診断や健康相談などを通じて,従
には,戦略的な施策が必要であ
がら生き生きとした会社生活を
保健指導時に医療ス
業員の健康管理に当たり,生産性の
り,その根拠となるデータに基
送るよう心がけ,生産性向上に
タッフと供覧できるよ
向上に取り組んでいる。
づく仮説が立てやすいよう,容
貢献してもらう。
うな仕組みになってい
大規模事業者にとっては,健康情
報を扱うためのシステムは,円滑な
健診・保健指導を行うためにも重要
易に統計データを作成できるよ
うにする。
(2)データの一元管理……全従業員
上記のようなコンセプトに基づき,
る。このほかにも,例え
選考を行った結果,NEC(日本電気)
ば「 メタボリックシン
の健康管理システムをベースに,
ドロームとは?」 など
な存在であるが, 東京電力では,
に対して会社生活を通じた継続
T O H S S を構築していくことに決
の健康に関連する情報
1989 年に初代のシステムを導入して
的, 全人的な健康管理を施し,
まった。
を提供するページを備
いる。この初代システムは,関連会
ロイヤリティを高める。勤怠や
社により開発されたものであり,当
心身の健康状態に関する健康情
時の運用に沿った機能を持っていた
報を一元管理するとともに,異
が,取り扱う情報は健康診断で実施
動先の健康管理室に経過を引き
TOHSS は,Web ベースのシステ
業員について, 健診や
した血液検査結果などで,アクセス
継ぎ,質の高い支援が継続的に
ムで開発されており,セキュリティ
長時間労働面談の受診
権限も専門スタッフに限定されてい
行えるようにする。
に十分な配慮をした上で運用されて
状況のほか, その結果
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IT
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確認し,必要に応じて修正しながら,
の背景にある生活環境にも配慮した
産業医の負担が軽減され
判定の標準化が進む
TOHSS が稼働した当初は,システ
ムが提供する新たな機能への期待と
図1
一般従業員向けの画面例①
図2
一般従業員向けの画面例②
図3
管理職向けの画面例①
図4
管理職向けの画面例②
えている。
立場に応じて 4 つの画面設定を用意
管理職向けの機能と
しては, 管理対象の従
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設定が必要になると考
えている。問診の方法,
血圧の測定結果の扱い,
保健指導の方法などに
ついては, 特定健診の
中で具体的な定めがあ
れば, 従業員の負担軽
減を図るため, 会社で
行っている健康診断の
図5
医療職向けの画面例①
図6
医療職向けの画面例②
内容やTOHSS をそれに
合わせることも検討す
うまく使いこなせるかという不安が
交錯した意見が聞かれたが,現在で
ることになるかもしれない。
特定健診・保健指導の義務化に向けた
健診システムの展望
はすでに定着している。これからは,
特定健診がターゲットにしている
メタボリックシンドロームは,生活
利用者の立場にかかわらず,システ
2008 年より,保険者による特定健
習慣病である。生活習慣病対策にお
ムに装備された各機能の趣旨を理解
診・保健指導が義務づけられる。ま
いては,安易に薬物治療を選択する
して,それを十二分に活用してもら
た,定期健康診断で行う検査項目の
のではなく,生活習慣を把握して問
うよう啓発活動の強化が必要と考え
見直しと関連して,労働安全衛生法
題点を抽出し,その是正を促すこと
ている。
関連法令の改正が検討されている。
を優先させなければならない。被保
健康管理室の業務については,新
東京電力では,単一の健康保険組合
険者が従業員の場合,仕事が忙しく
システム導入による大きなメリット
を有していることもあり,すでに新
なると退社が遅くなり,夜食を摂る
を感じている。従来は,健診を案内
制度に向けたミーティングを行って
ようになってしまったり,夕食が深
する書類や問診票, 健診結果など,
いるが,今後も行政側の動きを踏ま
夜にずれ込んだりして太りやすくな
紙での運用を行っていたが,それが
えながら,健康保険組合との協力体
ることがあり,生活習慣病と仕事は
ほぼペーパーレス化されたことで,配
制も強化していくことになる。
無関係でない。したがって,健康保
布の手間がなくなったほか,異動に
TOHSS 内の健康情報は,個人情報
伴う引き継ぎ書類のやりとりの負担
の最たるものであり,現状ではその
会社や産業医などに連携,協力を求
も軽減された。自動判定機能などが
データを健康保険組合が閲覧するこ
める動きがこれまでよりも強く出て
搭載されたことで,産業医の単純繰
とはもちろんできない。新制度適用
くるかもしれない。仮にそうなれば,
り返しの作業負担も軽減され,健診
後は,指定の年齢に該当する従業員
社内の専門スタッフの負担が増大す
結果の確定に要する時間も以前より
については,労働安全衛生法に基づ
ることになるから,現状のシステム
大幅に短縮された。労働基準監督署
く健診を実施した事業者たる東京電
をさらに強化し,頻回操作の少なく
に提出する健康診断の受診状況や有
力から,医療保険者としての健康保
するなど操作性を向上させ,また,い
所見数などの報告書の作成も自動化
険組合に対して,高齢者の医療の確
ままでよりも継続的,全人的な健康
されたほか,受診率の向上という成
保に関する法律に基づいて,健診デー
管理を行えるような機能と運用方法
果も得られた。システム導入を機に
タの一部が電子的に提供されること
が求められるだろう。
管理区分を見直したため,導入前ま
になるであろう。その際,血液検査
菊地 央(きくち ひろし)
での指標との比較は難しい面がある
データの提供に当たっては,日本臨
ものの,今後は産業医間のバラツキ
床検査医学会による JLAC10(ジェイ
が抑えられるなどして各指標の精度
ラックテン)が参考となる見込みだ
が高まるので,現状評価や施策づく
が,問診結果や保健指導の実績など
りがしやすくなると期待している。
については,何らかの標準コードの
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険組合が期待する効果を得るには,
1994 年産業医科大学医学部卒業,東京電力入社。
入社後に横浜労災病院派遣となり,96 年から東
京電力本店産業医,98 年から東京電力本店専属
産業医となる。日本内科学会認定内科医,日本
産業衛生学会専門医,労働衛生コンサルタント。
主な著書に「心の疲れを楽にする 50 のヒント」
(ぎょうせい),「産業医活動をする人のために」
(産業医学振興財団)がある。