運動介入による高齢者の疾患予防と介護予防に関する先行研究 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 研究員 五十嵐 裕 背景 医療費の世代別割合のうち実に半数が高齢者で占めており,疾病を有する,もしくは要介 護の高齢者を減らすことが我が国の重要な課題となっている.日常生活内において疾病予防 や介護予防のための手段として運動の実施は低コストであり,これを普及させることは,医 療費の軽減に対しても大きな役割を果たすことが今後より一層期待される.本稿では高齢者 の代表的な疾患を取り上げ,その疾患に対する予防目的として高齢者が運動を行う必要性や 重要性について述べ,我が国における運動介入の研究事例を紹介していく. 疾患や病的な状態から能力障害までの過程を示す Nagi モデル 1)は,障害者のみならず高齢 者にも適合する.このモデルでは「病理→機能障害→機能的制限→能力障害」という過程を 辿るが,近年,Rikili ら 2)によって身体活動を考慮した改変が行われている.ここでは, 「病 理」は病的な状態のみならず, 「廃用」すなわち身体的な不活動が後の機能障害以降に関連し ていく経路を新たに追加している.また,彼らの改変では機能障害とは筋力・筋持久力,全 身持久力,柔軟性,運動能力(平衡性,調整力,敏捷性/パワー)が低下した状態,機能的制 限とは歩行,階段の昇降,椅子からの立ち上がり,持ち上げる/伸ばす,膝を曲げる/ひざまず く,走行の動作が制限される状態,そして能力障害とは日常の生活や余暇に支障をきたした 状態であると定義している 2) .継続的な運動は健常者における予防のみならず,上記の機能 障害,機能的制限の段階においても改善効果が認められ,その有効性を示した報告は多い. しかしながら,先行研究のレビューでは,能力障害の段階で改善を報告している論文数は機 能的制限の段階に比べ少ないことが報告されている 3) .そのため,疾病や機能低下の予防を 目的とした場合,早期の対応が必要であると考えられる. 我が国では健康を目的とした国民の健康づくりのための指針として,2006 年に策定された 「健康づくりのための運動指針 2006(エクササイズ 2006) 」4)を基準として用いてきた.これ によると,健常な成人(20~69 歳)において,健康づくり,もしくは疾病予防として週 23 エクササイズ(目安として歩行以上の身体活動を 1 日 60 分)を推奨していたが,70 歳以上 の高齢者に対しては明確な基準がなかった.そこで,2013 年に改定された新基準「健康づく りのための身体活動基準 2013」5)では,65 歳以上の高齢者では 10 エクササイズ(目安として 強度を問わず 1 日 40 分程度, 種目や動作は問わないが座位でないこと) を新たに定めている. これらの基準は,主にランダム化比較試験,システマティックレビュー,海外の研究結果等 を基に作成されているが,我が国においても高齢者を対象とした様々な介入研究や取り組み 等が報告されており,運動の効果を前向きに示すものも多い.ここでは,疾病予防に関係す る研究報告を紹介していくが,高齢者の運動実施においては留意すべき目標が複数存在する ため,高齢者において頻度の高い問題点を考慮し,今回は膝関節の機能低下,2 型糖尿病, サルコペニアに対する報告に限定した. 実施方法 対象は,①平均年齢 65 歳以上の日本人高齢者を対象,②介護保険制度が開始された 2000 年以降に発表,③運動介入を実施,④膝関節の機能,2 型糖尿病,もしくはサルコペニアに 関連した指標を測定,⑤全文の入手が可能,の全てを満たす論文である.検索は CiNii,PubMed, Google Scholar を用いて行った.検索に用いた語句は高齢者(older adults),運動(exercise) , トレーニング(training),身体活動(physical activity)を中心に,膝関節(knee joint),糖尿病 (diabetes),サルコペニア(sarcopenia),筋肉(muscle),筋力(strength)を組み合わせた検 索を行った.一方,英文ジャーナルの検索においても同様の検索を行った.検索後,対象と なった論文について,対象者の特性,運動の介入方法,デザイン,詳細なアウトカム指標と その結果を抜粋した. 検索から 25 編の論文から 31 件の報告を抜粋し 6-30),その概要をまとめた(表 1) . 結果・考察 膝関節の機能低下は加齢に伴い発症しやすく,高齢者では痛みを伴い,長期に症状が継続 するという特徴がある.膝関節のみならず,問題を含む運動器の機能低下はロコモティブ・ シンドロームと呼ばれ,近年,介護予防の主要なターゲットとなっている.今回の検索にお いて,膝関節の機能に関する運動介入の論文は 13 編,その報告数は 17 件であった 6-18). 膝関節の屈曲および伸展動作は主に大腿筋群の働きによるものであり,特に伸展動作を行う 大腿四頭筋の筋力は下肢筋力の代表値としてだけでなく,高齢者の歩行能力,立ち上がり動 作,立位でのバランス能力と関連することから 31-33) ,下肢の機能評価の指標として度々用い られる.よって大腿四頭筋の筋力トレーニングは膝関節の機能改善のみならず,転倒予防の 効果も期待される.大腿四頭筋の筋力評価や膝関節の伸展力を評価していたのは 12 件であっ た.また,他の関連指標として主観的な膝痛の評価や変形性膝関節症の指標による測定・評 価も行われていた 11,17,18). 2 型糖尿病は過食や運動不足との関連性が強い生活習慣病として知られており,血糖値の バランスを保つホルモンであるインスリンの作用が高齢期において一層低下するため,高齢 者に多く見られる疾患である.糖尿病は心血管系疾患,脳梗塞,腎症,網膜症,神経障害の 危険因子であり,高齢者においてこれらの合併症を発症すると日常生活の活動能力(ADL) の低下を招く 34) .運動は糖代謝を改善するための一般的な手段として定着しており,海外の レビューでは継続的な有酸素運動によるヘモグロビン A1c(HbA1c)の改善が報告されている 35,36) .今回検索した論文でも糖代謝の指標として HbA1c の測定・評価を行った報告は多い.そ の理由として,国民健康・栄養調査で HbA1c が糖尿病の有無を判定するために用いられたこ とが考えられる.平成 24 年の調査では,糖尿病の可能性が疑われる者の割合は初めて減少し たが,全世代のうち 70 歳以上が占める割合は男女共に 30%を超えていた.これは全世代のな かで最も高い割合であり 37) ,近年の高齢者における糖尿病の患者数増加を反映した結果とな った.今回の検索において,糖代謝指標に関する運動介入の論文は 11 編,その報告数は 12 件であった 12,19-28). サルコペニアは加齢に伴い筋量が低下する現象であり,老年症候群の 1 つと位置づけられ, 運動障害や転倒・骨折の危険性の増大,ADL の低下につながりやすい.例えば大腿四頭筋の 筋量が体重 1kg あたり 10g 以下の場合は正常の歩行が困難となる場合がある 38).我が国では 「貯筋」という言葉が定着しつつあるが,これと前述の関節機能向上の目的を合わせると, 大腿四頭筋は筋力と筋量の両者を増加させることが重要な介護予防の策といえる.また,中 国人の高齢者を対象とした横断研究ではサルコペニアと糖尿病との関連性が報告されており 39) ,疾患予防のうえでも筋量の増加は重要な目的といえる.今回の検索において,サルコペ ニアの指標に関する運動介入の論文は 11 編,その報告数は 12 件であった 12,19-28).サルコペニ アの評価指標として体脂肪率の測定・評価が一般的であるが,最近は侵襲的な方法である CT による筋横断面積から評価する方法も用いられている 30). 高齢者の健康を促進させるための運動方法の基準は複数存在し, 「体調管理を重視」以外は, 若年および中年世代と同じ方法が採用されてきた.しかし,最近の新しい基準は高齢者を意 識した改定がみられるようになった. 例えば前述の「健康づくりのための身体活動基準 2013」 5) では新たに 65 歳以上の高齢者に限定した基準が加わり,一方,アメリカスポーツ医学会 (ACSM)とアメリカ心臓学会(AHA)が合同で作成した国際基準では,2007 年に 12 年ぶ りの改定が行われ,その中で新たに高齢者に関する筋力トレーニングの基準が追加された 40). 種目の特性を活かした運動プログラムについては多様化の傾向がある.例えば,水中運動は 膝への負担を軽減することが可能であり,高齢者の疾病予防や介護予防の目的として導入さ れることが多い 6,10,17).筋力トレーニングと有酸素運動の複合は筋機能の他にも持久力の向上 も期待される 8,12,17,22,25,26,27,29,30) .また,ゴムバンドを利用しての筋力トレーニング 15,25,26,29,30) は手軽さや費用を抑えられるといったメリットがある. 今回取り上げた 3 つの疾患以外にも,高齢者を対象とした運動介入の効果を明らかにした 研究は多く存在する.しかし,対象者や運動プログラム,研究デザイン等の相違があり,今 回はメタアナリシスのような結果を統合することはできなかった.よって今後,運動に特化 した介護予防の効果に関する質の高い研究の蓄積がより一層求められるだろう.また,Rikili ら 2)による改変 Nagi モデル 1)からわかるように,筋力や筋量のみならず機能障害に関連する 筋持久力,全身持久力,柔軟性,運動能力といった要素の向上も疾病予防や介護予防に大き く関与することが示唆される.よって,運動介入による体力要素の向上と予防効果との関連 性を議論することも今後の 1 つの課題である. 引用文献 1) Nagi SZ. 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運動教室参加の男女6名 水中運動(上記同様),筋力トレーニング (上記同様),ステップ運動(音楽に合わ せた高さ20cmの踏み台昇降運動を最大酸素 摂取量の50%,10分間を1セット,1週間に 計14セット) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 30秒スクワットの回数†,体脂肪率 河津ら11) 74 継続して運動教室に参加可能 1か月目は週2回(準備期),2か月目以降は な男女21名(女性13名) 週1回(トレーニング期),1回約90分,準 備体操(5種目,各10秒×2回,1セット), 筋力・バランストレーニング(8種目,各3 秒×3回,1セット),整理体操(2種目,各 10秒×2回,1セット) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝の痛み(NRS),腰の痛み (NRS) Nishijima et al.12) 67 過体重(BMI24以上)かつ高 血圧症,脂質異常症,糖代謝 異常のうち2つ以上を有する 男女561名(女性327名) 6ヶ月間 介入群 vs. コントロール群 膝関節伸展筋力†‡ ,膝関節屈曲筋 (281:280)§ 力,空腹時血糖†,HbA1c 横塚ら13) 81 要介護度2の1名を除き,他の 週3回以上,1日1~2回,自重負荷による自 7名は介護保険未申請,計8名 動運動,自己抵抗による等尺性運動 (女性7名) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 峯松ら14) 78 自立生活を送る男女15名(女 2週間に1回,1回2時間程度,ストレッチン グ,筋力トレーニング(体幹筋,下肢筋, 性10名) 上肢筋) 2ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節屈曲位90ºでの等尺性膝伸展 力 山田ら15) 78 要介護認定非該当者で将来的 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の に要介護の可能性が高い男女 ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 75名(女性60名) 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 山田ら15) 84 要支援,もしくは要介護1の 男女122名(女性94名) 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 山田ら15) 84 要介護2以上の男女89名(女 性62名) 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 大淵ら16) 75 膝痛を有するが,運動プログ 週1 回の教室と隔日の自宅での重錘負荷歩行 ラム参加可能な男女37名(女 性28名) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 三宮ら17) 72 膝痛を有する男女36名(女性 週2回,1回60分,水中歩行,水中でのレジ スタンス・トレーニング(股関節屈曲・伸 27名) 展・外転運動,膝関節伸展運動など) 1.5ヶ月間 介入群(1群)のみ 大腿四頭筋筋力†,主観的な膝痛 (VAS)†,体脂肪率 渡邉ら18) 65 変形性膝関節症を有する女性 週2回,1回90分,ウエイト・トレーニング 200名 (60%1RMの負荷,10回,最大3セット,3 ~4種目) 3ヶ月間 教室群 vs. コントロール群 WOMAC(変形性膝関節症の評価 指標) (97:103)§ Maeda et al.19) 64 非肥満,正常血圧,ホルモン 週5回,1回30分,自転車エルゴメータ,換 療法や慢性疾患を有さない女 気性作業閾値(VT)の80% 性15名 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度,HOMA指数(インスリン (10:5)§ 抵抗性指標) 週2~4回,1回60~90分,自転車エルゴメー タ,最高酸素摂取量の40%の負荷,レジスタ ンス運動(上肢,体幹,下肢部の4種目), 20回を2セット 介入群(1群)のみ 下肢のウエイトマシーンの1RM (レッグプレス†,レッグエクステ ンション†,ヒップアブダクション † ) 河村ら20) 71 要支援・要介護1の認定者で 通所や訪問リハビリテーショ ンといったサービスを受けて いない男性,もしくは認定は 受けていないが生活動作に支 障がある男性16名 週2回,1回90分,レジスタンス・トレーニ ング(上肢・下肢,4種目),最大反復回数 の40%の負荷(40%1RM),10~20回を1 セット,4週目以降は12~15回を2セット, その他(骨盤エクササイズ,体幹安定化エ クササイズ,つま先エクササイズ,片足立 ち) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度※,HOMA指数(インスリン 抵抗性指標)※,HbA1c,※低下が 認められるが統計学的な分析は未 実施 河村ら20) 74 要支援・要介護1の認定者で 通所や訪問リハビリテーショ ンといったサービスを受けて いない女性,もしくは認定は 受けていないが生活動作に支 障がある女性17名 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度※,HOMA指数(インスリン 抵抗性指標)※,HbA1c,※低下が 認められるが統計学的な分析は未 実施 藤野ら21) 65 運動教室参加の女性19名 週2回,1回90分,レジスタンス・トレーニ ング(上肢・下肢,4種目),最大反復回数 の40%の負荷(40%1RM),10~20回を1 セット,4週目以降は12~15回を2セット, その他(骨盤エクササイズ,体幹安定化エ クササイズ,つま先エクササイズ,片足立 ち) (記載なし) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,体脂肪率† 守田ら22) 68 運動習慣のない男女46名(女 週2回以上,30~60分,トレッドミルもしく は自転車エルゴメーター,無酸素性作業閾 性39名) 値(AT)の強度,および下肢の筋力トレー ニング(3種目),最大反復回数が15~20回 の低負荷(15~20RM)の15回1セットを2~ 3セット 6ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖† 川俣ら23) (65-) 運動教室参加の一般高齢者26 週2回,包括的高齢者運動トレーニング 名(女性16名) (CGT:comprehensive geriatric training) 3.5ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 HbA1c (13:11)§ 友竹ら24) 70 心疾患を有さない高血圧症患 参加者個別に設定されたプログラム(体 操,ウォーキング)の実施,歩数計携帯に 者14名 よる日常の歩数の記録 平松ら25) 69 2型糖尿病の外来患者6名(女 性3名),2型糖尿病でない運 動教室参加者11名(女性10 名) 平松ら26) 67 骨・関節疾患,循環器疾患お 週1回,1回30分,有酸素運動(股関節,膝 よび運動器疾患を有していな 関節,股関節の筋群強化),ゴムバンド使 い女性10名 用のレジスタンス・トレーニング(肩部, 腕部,背部,大腿部の強化),自覚的運動 強度(RPE)の11(楽である)~12程度 (最大酸素摂取量の50~60%程度) 6ヶ月間 介入群(1群)のみ 木村ら27) 70 生活習慣病(高血圧症,糖尿 参加回数に制限なし,1回30~120分,自転 病,脂質異常症)を有する男 車エルゴメータ,自覚的運動強度(RPE) 女112名(女性100名) の11(楽である)~13(ややきつい),下 肢の筋力強化,バランス運動等 3ヶ月間 介入群 vs. 対照群 (56:56) Ohta et al.28) 72 心疾患および整形外科的疾患 毎日,1回10~20分,3セット(1週間あたり を有さない女性26名 計140分)の自宅内でのベンチステップ運 動,乳酸性作業閾値(LT)もしくは自覚的 運動強度(RPE)の15(きつい)程度 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 空腹時血糖† (13:13)§ 山本ら29) (65-69) 自立歩行可能な女性14名 12ヶ月間 介入群(1群)のみ HbA1c,体脂肪率 週2回(うち1回は自宅で実施),有酸素運 6ヶ月間 糖尿病患者群 vs. 非糖尿病 HbA1c‡,体幹除脂肪量 動(股関節,膝関節,股関節の筋群強 患者群 (6:11) 化),ゴムバンド使用のレジスタンス・ト レーニング(肩部,腕部,背部,大腿部の 強化),自覚的運動強度(RPE)の11(楽 である)~12程度(最大酸素摂取量の60%程 度) HbA1c,体脂肪率†,体幹脂肪量† 空腹時血糖,HbA1c‡ 週1回,1回90分,ストレッチング,有酸素 運動(集団でのリズム体操),レジスタン ス運動(ゴムチューブ使用および自転車エ ルゴメータでの負荷),その他自宅での自 主トレーニング 18ヶ月間 介入群(1群)のみ 体脂肪率 介入群(1群)のみ 体脂肪率 山本ら29) (70-) 自立歩行可能な女性7名 週1回,1回90分,ストレッチング,有酸素 運動(集団でのリズム体操),レジスタン ス運動(ゴムチューブ使用および自転車エ ルゴメータでの負荷),その他自宅での自 主トレーニング 18ヶ月間 原田ら30) 69 運動教室参加の女性39名 週1回,1回60分,ゴムバンドやステップ台 を用いたレジスタンストレーニング, ウォーキング,リズム体操,マット体操, 自覚的運動強度(RPE)の11(やや楽)~ 13(ややきつい)程度 3ヶ月間 §ランダム化比較試験(Randomized controlled trial) †介入群は介入前後の変化について有意な改善(P<0.05)が認められた項目 ‡介入群の前後の変化は対照群と比較して有意な改善(P<0.05)が認められた項目 well-rounded training 教 大腿部筋横断面積(CT)† 室群 vs. レクリエーション 教室群 (24:15)
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