はじめに この講座では、自分のアタマと時間を上手に使って仕事をするための方法 を学習します。その前半部である第1巻は、時間管理を中心に学んでいきま す。 時間管理は現代のビジネスパーソンにとって、とても重要なスキルになり つつあります。計画的に仕事をこなし、時間を有効に使っていく必要性を感 じている人は増えていますし、ビジネスパーソンは時間管理がうまくできて 当たり前と言われることも、今後増えてくるはずです。 また、時間管理は仕事のストレスにも、やる気にも影響するスキルです。 時間管理がうまくできるようになると、仕事の成果が高まるだけでなく、仕 事の面白さも高まります。この機会に、ぜひ時間管理のスキルを身につけて いただきたいと思います。 しかし、もしかしたら、多くの方がそうであるように、あなたも過去に時 間管理に挑戦して、あまりうまくいかなかったという経験をお持ちかもしれ ません。もしそうだとしても安心してください。この講座では、手間をかけ ず、簡単にできるように工夫した時間管理の“仕組み”を紹介します。今度 こそは挫折することなく、続けることができるはずです。 なぜなら、実は私自身も以前は時間管理にとても苦労したのです。本や雑 誌に載っているやり方をまねてみても思うようにいかず、悩んだこともたく さんありました。そこで、人はなぜ時間管理がうまくできないのか、うまく やるためにはどうすればいいのか研究し、この講座で紹介する時間管理の方 法を開発したのです。どんな方でも無理なく実践できて、しかも効果の高い 方法になっています。 時間は、言ってみれば私たちが何かをしようとするときに必要な、一種の 「資源」です。この資源は、私たちみんなに平等に与えられていて、その使 い方次第で、人生がまったく違ったものになるといっても過言ではありませ ん。しかし、時間は他の資源とは違って目で見ることができませんし、使っ ても使わなくてもなくなってしまいます。 この時間という資源を活用するためには、そのための“仕組み”が必要で す。これからその“仕組み”について学んでいきましょう。それは、あなた の将来のとって必ず役に立つはずです。 CONTENTS なぜか仕事のスピードが上がる 創意工夫の時間活用術 時間管理は“仕組み”発想でいこう! 第 第1章 1 巻 時間管理を始める前に subject 1 この講座の目的………………………………………………………………………………8 subject 2 なぜ仕事が遅くなってしまうのか? ……………………………………………………10 subject 3 時間管理が必要になっている背景 ………………………………………………………12 subject 4 こんな時間管理は失敗する ………………………………………………………………14 subject 5 時間管理とストレスの関係 ………………………………………………………………16 exercise ………………………………………………………………………………………………18 summary 第1章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………20 第2章 時間管理の考え方 subject 1 時間と仕事を同調させる …………………………………………………………………22 subject 2 時間管理の3つのフェーズ ………………………………………………………………24 subject 3 「管理する」ってどういうこと? ………………………………………………………26 subject 4 管理には“仕組み”が重要 ………………………………………………………………28 subject 5 うまくいかないときはどうする? ………………………………………………………30 exercise ………………………………………………………………………………………………32 summary 第2章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………34 第3章 時間管理のツールを準備しよう subject 1 なにを準備するのか? ……………………………………………………………………36 subject 2 「計画」よりも整理と考えよう …………………………………………………………38 subject 3 時間管理に適した手帳の選び方 …………………………………………………………40 subject 4 時間管理に手帳を使う理由 ………………………………………………………………42 subject 5 一ヶ所で管理する仕組みの重要性 ………………………………………………………44 exercise ………………………………………………………………………………………………46 summary 第3章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………48 第4章 仕事が発生したらまずどうすればいい? subject 1 アポイントは逆算思考で …………………………………………………………………50 subject 2 タスクは期限ではなく「いつから」と考える …………………………………………52 subject 3 タスクが発生したときの手順 ……………………………………………………………54 subject 4 書いた時点で計画になるように …………………………………………………………56 subject 5 仕事があふれる場合の対処法 ……………………………………………………………58 exercise ………………………………………………………………………………………………60 summary 第4章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………62 第5章 仕事の整理法 subject 1 「やること」と「情報」は分離する ……………………………………………………64 subject 2 大きなタスクは分解する …………………………………………………………………66 subject 3 タスクは少ない方がいい …………………………………………………………………68 subject 4 責任感と安心感のバランス ………………………………………………………………70 subject 5 仕事は二種類の眼で見る …………………………………………………………………72 exercise ………………………………………………………………………………………………74 summary 第5章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………76 第6章 実行し、結果を評価しよう subject 1 タスクとアポイントを合流させる ………………………………………………………78 subject 2 優先するのはどの仕事? …………………………………………………………………80 subject 3 自分の仕事を自分で評価する ……………………………………………………………82 subject 4 自分の時間の使い方を見直す視点 ………………………………………………………84 subject 5 継続の中にある時間管理の4つめのフェーズ …………………………………………86 exercise ………………………………………………………………………………………………88 summary 第6章で学んだことを確かめながらまとめてみましょう ……………………………90 第 章 時間管理を始める前に 第1章 時間管理を始める前に subject 1 この講座の目的 時間管理に対して苦手意識を 持っている人は非常に多い ここ数年、「時間管理」あるは「タイムマネジメント」という言葉を よく耳にするようになってきました。時間管理や手帳の使い方といった テーマについての書籍も多く出版されていますし、雑誌の特集記事で取 り上げられることも増えています。「自分の時間をどう使えばいいの か?」ということに対する関心が高まっているのでしょう。 アンケート結果の詳細 「あなたは時間管理ができていま すか?」という問いに対する回答 率は、 うまくできている:7% まあまあできている:21% あまりできていない:42% 全然できていない:30% でした。 時間管理ができていないと感じて いる人は非常に多いのです。 しかし、関心が高まっている反面、「時間管理は苦手で・・・」とい う方が多いのも事実です。私が関わっているインターネット上のサイト で実施したアンケートの結果では、「時間管理があまりできていない」 「全然できていない」と答えた人を合わせると、全体の7割を超えると いう結果となっています。 また、時間管理についてよく聞く声のなかには、「時間管理って、話 を聞くとなるほどと思えても、なかなか自分では実践できない」という ものもあります。つまり、時間管理に関しては、「やった方がいいこと はわかっている。でもできない、やりたくない」という感覚を持ってい る方が、とても多いようなのです。 このように、時間管理に対して抵抗を感じてしまうのは、実は人間に 人間は時間通りに行動するこ とが苦手? とって当然のことです。その理由の1つは、時間は伸び縮みしてつかみ 太古の人類の生活を想像してみて どころがないことにあります。同じ1時間でも、楽しいことと退屈なこ ください。農耕するにも狩猟する にも、現在のように細かく時間通 りに行動することは必要ありませ んでした。 「時間通りに行動する」というこ とは、人間にとって、少し背伸び した行為であることは、頭に入れ ておいた方が良さそうです。 とでは、過ぎる速さがまったく違います。人間には絶対的な時間感覚は ありませんから、きっちり時間通りに行動するのは、本来苦手なことな のです。 もう1つの理由は、選択の自由がなくなるように思えることです。時 間管理のために、細かくスケジュールを立てて、時間を区切って行動す る。そう考えただけで、拒否したくなる人も多いのではないでしょうか。 自分が何かにコントロールされてしまう、そんな感覚を感じるのです。 ただ、そう思うのも無理もないのかもしれません。一般には、「時間 管理」というと、しっかり計画を立ててそれを実行すること、と考えら れています。人によっては「時間管理」を学生時代の「時間割」の延長 線上にあるものと誤解している場合もあるでしょう。しかし、これらの イメージは間違っています。 8 時間管理に対する抵抗感をなくそう 時間管理とは、自分の行動を厳しく管理することが目的ではありませ ん。自分が「やるべき」と考えることを、自分が「やりたい」タイミン グでやるためにはどうすればいいか判断するための“仕組み”なのです。 コントロールされたくないと いう心理 時間管理術のなかには“仕組み”ではなく、「こうやって優先順位をつ コントロールされたくないという けて、こうやって計画しなさい」という“考え方”を強制するものもあ 欲求は誰にでもあるものです。こ りますが、これは時間管理の本質とは少しずれています。 いいます。この自己決定感が無く れを心理学では「自己決定感」と なると、内発的動機付け(=やる 時間管理の本質とは、「何を、いつやるか」ということを「自分が納 気)が失われてしまうのです。 得いくように」決めていくことです。判断するのはあくまでも自分自身 です。「時間割」によってコントロールされるのではなく、自分が自分 判断するのはあくまでも自分 自身 の「やること」をコントロールするために、時間管理という“仕組み” この講座で学ぶ時間管理は、自己 を活用していきます。自分の判断に必要な情報をうまく整理する仕組み 決定感を重視しています。自分を コントロールするためのものと言 をつくり、自分にとって納得のいく時間の使い方ができるようになるこ うよりは、自分の意思決定をサポ ートするための“仕組み”だと考 と、それが時間管理の本質なのです。けっして、自分に厳しい「時間 えてください。 割」を作ることが目的なわけではありません。 1-1 時間管理に苦手意識を持っている人が多い 【質問】あなたは、時間管理(= タイムマネジメント)をうまくやっているほうだと思いますか? はい、うまくできている いいえ、ぜんぜん できていない %% !% いいえ、あまり できていない % はい、まあまあ できている %割以上の人が、時間 管理ができていないと 自覚している " % しかし、時間管理に苦手意識を持つ必要はない 時間管理は「時間割」とは違う 時間管理 = 決められたことを守る ではない 時間管理は自分が判断するための「仕組み」 時間管理 = 情報を整理する仕組み と考える 時間管理が苦手と思うのは、特別なことではない しかし、時間管理は、やり方を工夫すれば、決して難しくない! 9 第1章 時間管理を始める前に subject 2 なぜ仕事が遅くなってしまうのか? 時間管理ができていないことで起こる問題 ●「期限まぎわはいつもバタバタ」 仕事の期限が近づいてから思い出し、慌てて取りかかる。そして、そ の仕事を片付けたいのに、ほかの仕事も舞い込んできてますます慌てて しまう。そんな経験を持つビジネスパーソンは数多くいます。どうして いつもバタバタしてしまうんだろう?あなたもそう考えたことはないで しょうか。 こんな「バタバタ病」は、自分の「やるべきこと」がよく見えていな いことが原因で起こります。例えば、期限間際になってから、「こんな ことなら、あの仕事を後回しにして、先にこっちをやっておけば良かっ 仕事の順番を間違えてしまう た」と思うこともあるでしょう。このように仕事の順番を間違えてしま 順番を間違う例には、 うことが、バタバタしてしまう原因を作るのです。 ・やるべきことを忘れる ・「まだ大丈夫」と思って先延ば ししてしまう ・ついほかの頼まれごとを引き受 けてしまう などがあります。 ●「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」 また、仕事をしていると、やらなければいけないことがたくさんあり すぎて、なにから手をつけたらいいのかわからなくなることもあります。 「とりあえず、これをやろう」と、仕事を始めてみたものの、今度はほ かの仕事が気になりだし、気がついたらそっちの仕事を始めていた。な んてこともあります。 こういう状態では、結局どの仕事も十分に進みませんし、自分自身も 落ち着いて仕事をすることができず、大きなストレスを感じます。この あれもこれも症候群 ような「あれもこれも症候群」になってしまうのはのは、自分の「やる 「あれもこれも」と気が散ってい べきこと」が見えていないことだけでなく、「やるべきこと」を安心し ると、結局どれも進まない。とい うことになってしまいます。 時間管理には「やるべきことを忘 れない」という目的があります が、「必要ないときには忘れられ て忘れられないことが原因です。 仕事に限らず、人間が同時に覚えておけることの数は、意外に少ない ものです。そのため、重要でもない仕事をしているうちに、一時的に重 る」ことも重要な目的です。 明日やればいい仕事のことが気に なったせいで、今日やるべき仕事 に手がつかないようでは、時間を うまく活用できないのです。 10 要な仕事を忘れてしまうこともあります。また、忘れてはいけないと思 うせいで、目の前の仕事に集中できなくなるということも起こります。 「計画性」という魔法の杖は存在しない なかには、こう考える人もいます。「バタバタしてしまうのは、自分 に計画性が足りないからだ。もっと計画性を持たなくては」しかし、い くら考えても反省しても、それだけで改善されることはありません。1 計画性と計画的 「あなたは計画性がない」と責め られると落ち込みますね。 しかし、この「計画性」という言 週間も経たないうちに、また元のバタバタ状態が再発してしまうことが 葉は、人の性格を表す言葉のよう 多いのです。実は、ここには大きな勘違いがあります。バタバタしてし に用いられています。しかし、具 まうのを、「計画性」という、自分の性格上の欠点と考えてしまうと、 わからないと思いませんか?(国 体的にどんな性格を指すのかよく 語辞典でも、「計画的」は載って なにも解決しません。「計画性」は見ることもできなければ、どこにも いても「計画性」が載っていない 売っていません。「計画性」という魔法の杖を探しても、けっして見つ ものが多いです) からないのです。 はなく、「計画的に行動するため 「計画性を持とう」と考えるので には?」と考えてみてください。 たくさんある「やること」を上手にこなしていく能力は、人間にもと もと備わっているものではありません。たくさんある「やるべきこと」 を覚えたり、順番を考えたりする能力は、本来備わっているものではな いのです。ですから、「やるべきこと」を管理する“仕組み”を作り、 “仕組み”を活用して判断していくことが重要です。いま、何をするべ きか「考える」ことに頭を使うのではなく、いま、何をするべきか判断 するための「“仕組み”を作ること」に頭を使うこと。これが、自分の 仕事や時間をうまく管理するための秘訣です。 1-2 時間管理ができていないと・・・ ●期限まぎわはいつもバタバタ 「やること」を忘れたせいであとでバタバタ ●「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」 ××さんに メールの返事… ○○の資料… △△の報告書… 来週の会議… 「いまやらなくていいこと」まで気になる 「計画性がないからうまくいかない」と考えるのは間違い 頭の中で判断するのではなく、管理する“仕組み”を作ることが重要 時間管理が苦手と思うのは、決して特別なことではない しかし、やり方を工夫すれば簡単にやることもできる 11 第1章 時間管理を始める前に subject 3 時間管理が必要になっている背景 仕事が細かく、たくさんになっている パソコンとインターネットの普及にともない、仕事のやり方は大きく 変わりました。例えば、あなたの勤め先に 1980 年代以前の社内書類が あれば、見てみてください。現在と違って、手書きで作成された書類が 沢山あることに気がつくことでしょう。当時と比べて、現在はパソコン 時間が短縮されている 手書きで書類を作り、それを修正 する。電卓を使ってデータを集計 する。手書きでグラフを書く。と いった作業にどれだけ時間がかか るか想像してみてください。現在 とは時間の感覚が大きく違うこと がわかります。 の普及により、データをまとめたり書類を作成するのに必要な時間は大 幅に短縮されました。 また、電子メールの普及により、1日に受発信する連絡の数は飛躍的 に多くなっています。電子メールがなかった頃に、電話での連絡を1日 に 100 件以上こなしていた人は非常に少なかったのに対し、現在では 電子メールの受発信数が 100 件以上という方は、決して珍しくありま せん。 また、技術の進歩にともない、ひとつのプロジェクトにかける期間も 短くなっています。自動車業界を例に挙げると、自動車の開発期間は 1990 年代前半と比べて3分の2以下という事例が増えています。なか には、半分や4分の1の期間で開発したという驚くべき事例もあります。 これは、IT をはじめとした技術の進歩がもたらした恩恵である反面、 素早くコミュニケーションを取り、仕事を次に進めなければいけないと いうプレッシャーが高まっているのも事実です。 このような変化によって、一つひとつの仕事にかける時間は短く、そ のぶん、仕事の数は増えているのが現状です。それにともない、ビジネ スパーソンに求められる能力も変わりつつあります。1日に行う仕事の 数が少なかった頃は、ひとつの仕事をコツコツやる能力だけでも対応で 自分の仕事全体を管理する能力 きたのですが、現在では、一つひとつの仕事をやる能力だけでなく、自 「自律型社員」「自律型組織」と 分の仕事全体を管理する能力が求められています。管理職になる前から いう言葉をよく聞くようになりま したが、これも同じことです。 「自律型社員」の反対語に近いの が「指示待ち部下」です。仕事が 細かく、たくさんになってくる と、指示待ち部下ばかりいても、 戦力になりません。そのため、自 分で自分の仕事を管理できる「自 律型」が求められるようになって いるのです。 12 管理する能力が求められ、管理職になればさらに管理能力が求められる。 そんな状況になっているのです。 時間管理を行うことは、単に時間を節約するだけではなく、自分の仕 事に対して、必要なことを必要なときに行うという管理能力を高めるこ とにつながります。現在の環境下で仕事をうまくやり遂げるために色々 な面で役に立つスキルなのです。
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