第2章 静電気 電気は我々の周りにあるすべてのものの 基礎になっている。原子が分子を構成する ための力の元であり,電球からコンピュー タまで,多くの科学技術に使われている。 もし,重力のように距離の2乗に反比例して 変化し,その強さが重力の10億倍のまた10億 倍もあるような力があったとしたら,宇宙はどう なってしまうだろうか。 その力が重力のように引力だとすると,宇宙は 可能な限り収縮してしまうだろう。 その力が重力と違って反発力だとすると,宇宙 は膨張し続けるであろう。 電気力と電荷 自然界には,電気力(electric force)と呼ばれる,強さ が重力の10億倍のまた10億倍もあるような力が存在 する。 電気力の源となる実体を電荷(electric charge)という。 電荷には正負があり,電気力は,同符号の電荷間で は反発力,異符号の電荷間では引力となる。 通常の物質では,正の電荷と負の電荷は等量存在し, 電気的に中性になっている。そのため,反発力と引力 は互いに打ち消し合い,電気力を感じることはない。 電気量と電気素量 電荷の量を電気量という。正負があり,その単 位はクーロン(C)である。なお,電荷という言葉 で,電気量を意味することもある。 電気量には最小単位があり,電気素量 (elementary electric charge)と呼ばれ,eで表 される。 e = 1.602×10−19 C すべての電気量は,eの整数倍になっている。 原子の基本的事項 電気の基本法則を理解するには,原子について基本的な事 項を知っておくことが重要である。 原子は,原子核と電子からなる。 電子は,同じ質量と同じ電気量 (−e)をもつ。 原子核は,陽子と中性子からで きている。陽子は同じ質量と同 じ電気量(e)をもち,その質量は 電子の質量の約1800倍もある。 中性子は陽子よりもほんのわず かに重いが,その電気量は0で ある。 ヘリウム原子 帯電とイオン 物体に電荷を帯びさせること,または,物体が電荷を 帯びた状態を帯電(electification)という。 原子内では,内側の電子は原子核によって強く束縛さ れているが,外側の電子は原子核からの束縛が弱い。 従って,外側の電子は原子から比較的簡単に移動し てしまう。 一番外側の電子を最外殻電子と呼ぶが,ほとんどの 原子では,最外殻電子と原子核の結合は極めて緩い。 電子を失って正に帯電したり,余分な電子を得て負に 帯電したりしている原子をイオン(ion)という。 摩擦による帯電 最外殻電子は,摩擦によっ て,一方の物質から他方の 物質に移る。 最外殻電子を原子内に止 めておく力は,物質によって 異なる。 (力)櫛>髪, 絹布>ガラス(プラスチック) 電荷保存の法則 電子は,ある物質から他の物質に簡単に移動 する。それでは,電子は新たに生成されたり, 消滅したりするのであろうか。 一つの領域内の電荷の総量は,領域の境界を 通して電荷の出入りがない限り,一定に保たれ る。これを,電荷保存の法則または電荷保存則 (principle of conservation of charge)という。 クーロンの法則(Coulomb’s law) 電気量q1,q2 〔C〕の電荷が距離d 〔m〕を隔てて置かれている とき,これらの電荷間に働く電気力の方向は電荷間を結ぶ直線 の方向であり,その大きさ(符号を含む)F 〔N〕は q1 q 2 F =k 2 d で与えられる。ここで,比例定数kは K = 9×109 〔Nm2/C2〕 であり,万有引力定数G(=6.673×10-11 〔Nm2/kg2〕)よりも桁 違いに大きい。なお,F > 0は反発力,F < 0は引力に相当する。 電場と電気力 電荷の存在により引き起こされる空間の性質の変化 (空間の歪み)を電場(electric field)という。電場はベ クトルで表され,その単位は V/m である。 電場を介して電荷に作用する力が電気力である。電場 Eの中に電気量qの電荷が存在するとき,電荷には r r F = qE で与えられる電気力Fが作用する。ここで,ベクトル(電 場)のスカラー(電気量)倍は,方向を変えずに,ベクト ルの大きさをスカラー倍することを意味する。ただし, スカラーが負のときは,向きが逆転する。 遠隔作用と近接作用 空間を隔てて存在する物体間に働く力で,介在 する空間の物理的性質の変化を伴うことなく直 接伝達されるものを,遠隔作用(action at a distance)という。 物体間に働く力で,介在する空間の物理的性 質の変化を通して伝達されるものを近接作用 (action through medium)という。物理学上の 基本的な力は,すべて近接作用であると考えら れている。 電気分極 絶縁体(誘電体ともいう)中の原子では,電子は原子 核を雲のように取り囲んでいる。通常は,電子雲の中 心は原子核の位置にあるので,原子は電気的に中性 である。ところが,絶縁体が電場の中に置かれると, 電気力により,電子雲の中心は原子核の位置からず れる。この現象を電気分極(electric polarization)ま たは誘電分極(dielectric polarization)という。 電気分極(その2) しかし,電子雲の中心の位置 が本来の位置からずれていて も,隣接する原子の原子核の 位置と一致すれば,絶縁体の 内部は,やはり電気的に中性 である(実際,そうなっている)。 そのような場合でも,絶縁体 の表面には,電荷が現れる。 電気分極の例 (a) 風船の貼付き (b) 紙片の引付け 電気力線 各点で接線方向がその点での電場の方向と一致する 向きをもった曲線を電気力線(line of electric force)とい う。電気力線の向きは,電場の向きを与える。 電気力線の可視化 油槽に浮かんだ糸屑が帯電した導体の周りから電気 力線に沿って並んでいる。 電気的ポテンシャルエネルギー 電荷が電場内で占める位置によって所有するエネル ギー(仕事をする能力)を電気的ポテンシャルエネルギー (electric potential energy)という。電気力に抗して荷電粒 子を動かすには,仕事が必要になる。この仕事が荷電粒 子の電気的ポテンシャルエネルギーを増大させる。 電位 電荷のもつ電気的ポテンシャルエネルギーを 電気量で割ったものを電位(electric potential) という。電位の単位は,ボルト(V)である。 電位という概念の重要性は,ある位置に電荷 があるなしにかかわらず,その位置に対して電 位の値が定まるという点にある。 2点間の電位の差を電圧(voltage)という。
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