美しい村を目指した滞在型リゾート

C
LOSE-UP
建築
projects
二期倶楽部東館(栃木県那須町)
発注:二期リゾート 総合プロデュース:デザインインデックス
基本設計:コンラン&パートナーズ+山本・堀アーキテクツ 施工:東武建設
美しい村を目指した滞在型リゾート
深い森の中に開かれた一角に、パビリオンと呼ぶ12棟の客室棟が建つ。広場を囲むようにロの字型に客室を配置。どの部屋も玄関か開口部のどちらかが広場に
面しており、小さな集落のようでもある。各棟は1室∼3室からなり、計24室のうち8室がメゾネット。RC造の建物に木製ルーバーを張ってある(写真:吉田 誠)
木県の那須にある二期倶楽部といえば、
部だが、計画の発想からして当時の日本には
建築家の渡辺明氏が設計した軒深い大
ないリゾートホテルだった。
「日本のリゾート
谷石の建築を思い浮かべる人が少なくないだ
にあるのは、華やかに飾った大型ホテルばか
ろう。広大な自然森にひそむように建つ6室
りで、こぢんまりして落ち着ける空間がない。
だけの宿泊施設は、竹中工務店を独立したば
一方の旅館は工芸品みたいで、どこか堅苦し
かりの渡辺氏の名を一躍知らしめることにな
さがつきまとう。別荘のようにくつろげる小
った。1986年に完成した本館に続き、97年に
さなリゾートホテルをつくりたかった」
。二期
は同じ渡辺氏の設計で新館を増築している。
リゾートの北山ひとみ社長は、二期倶楽部を
栃
とかく建築関係者の間では、渡辺氏の作品
という側面から見られることの多い二期倶楽
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NIKKEI ARCHITECTURE
2003-11-24
開業した当時を振り返る。
まもなく二期倶楽部は、北山社長も意識し
N
受付やレストラン、スパなどが入るメーンビルディングは、パビリオンとは林を挟んで離れ
た位置にある。既存の本館・新館とは、森と小川で隔てられた東側にある
メーンビルディング
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パビリオン(客室)
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パビリオンコート
調整池
配置図(1/2,
000)
なかった「オーベルジュ」の先駆けとして注
夢をかなえた」
。北山社長がそう話すのは、二
目されるようになる。当初から敷地内の農園
期倶楽部東館。傾斜地に半ば埋もれた2階建
で旬の有機野菜をつくりレストランで供した。
てのメーンビルディングと、パビリオンと呼
食事に重きを置いた小さなホテルであるオー
ぶ12棟の客室群から成る。4900坪の用地に24
ベルジュが、日本でも広く認知されるように
室と、東館もまた小規模である。
なったのは、その後に訪れたバブル景気の頃
である。時代が二期倶楽部に付いてきた。
滞在型ともなれば、宿泊客は部屋にこもる
ばかりでなく、敷地内の自然へと積極的に足
今年7月、その二期倶楽部がまた新しい発
を踏み入れるようになる。それだけに、
「今回
想でリゾートホテルを完成させた。
「次は滞在
は建築というよりも、森の中の小さな美しい
型リゾートの時代が来ると確信して、長年の
村をイメージした」と言う北山社長が設計者
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パビリオンの各部屋は、南側が全面開口部で、室内から連続した大きなテラスがある。左手はメゾネットタイプ、中央は平屋タイプの部屋。客室棟の間には、広
場からの路地が延びていて、ウッドデッキの歩道となって森の中へと入っていく。しばらく森を行くと本館・新館に出る。敷地の総面積は4万2000坪
に選んだのは、世界的に知られるデザイナー
である英国のテレンス・コンラン氏だった。
「パビリオンのプランは何度もスタディー
「食への意識が高く、カントリーライフをおう
した。当初は木造で考えたが、森を残すため
歌しているところが、コンラン氏を選んだ大
に限定された用地内で、必要な部屋数をつく
きな理由だった」と言う。
るには、部屋同士が近くなりすぎて遮音性に
興味深いのは、パビリオンという発想だ。
問題があった。検討の末、鉄筋コンクリート
分棟形式の客室ならば、日本にも森のコテー
造に木製ルーバーを張る形になった」
。コンラ
ジのようなものがあるが、コンラン氏が提案
ン氏とともに基本設計をとりまとめ、実施設
したパビリオンはそれらとは明らかに違う。
計を担当した山本・堀アーキテクツの山本圭
従来のコテージなどは、客室を自然の中に孤
介代表は、そう話す。四角いボックスを基調
立させるが、ここでは広場を囲んでロの字型
とし、木製ルーバーで覆った客室群は、野趣
に客室群を集約している。どの客室も、玄関
に富んだ外観が多い一般のコテージとは対照
か、大きな開口部のどちらかが、広場に面し
的な洗練された意匠で、ここにもコンラン氏
ていて、全体としては森の中の小さな集落の
の特徴が表れている。
ような雰囲気がある。
東館のオープン以来、二期倶楽部は活況を
この配置には、広場を介して宿泊客同士の
呈している。夏休み中はほぼ満室が続き、秋
交流を促す狙いがある。日本のホテルは、交
以降も90%前後と、リゾートホテルとしては
流は避ける方向で計画しがちだが、小さな村
破格の高い稼働率を刻み続けている。
を意識した滞在型リゾートを目指した時、交
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流という発想が出てきた。
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(松浦 隆幸=フリーライター)
メゾネットタイプの部屋のうち2室は、露天風呂がある。
那須の湯を引き込んだ天然の温泉
メゾネットタイプの部屋は、2階にベッドルームがある。メゾネット部分にも大きな開口部があ
り、とても明るい。一つひとつの家具までコンラン氏の監修で選ばれている
パビリオンスイート
寝室
テラス
客室2階平面図
N
露天風
露天風呂
パビリオンスイート
▼
▼
居間
テラス
暖炉
玄関
玄関
寝室
居間
テラス
パビリオン
客室1階平面図(1/300)
寝室
居間
玄関
テラス
パビリオンスイート断面図(1/300)
メゾネットの客室は、全面開口になった南側が吹き抜
け。靴を脱いで部屋に入ると、ホテルよりも家に近い
空間という印象を受ける。飾りを排したシンプルモダ
ンなインテリア。開口部は複層ガラスの木製サッシ、
床はチークフローリングに床暖房。滞在型を意図した
ので、既存の本館・新館よりもかなり広い
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パビリオンから林を透かして見えるメーンビルディングの夕景。ラウンジやレストランのある建物の2階東面は、柱や壁を設けずに全面を開口部にしている。メ
ーンビルディングとパビリオンとは、この林を抜けて行き来する
テラス
露天風呂
レストラン
スパ
ラウンジ
ロッカー室
車寄せ
車寄
クラブルーム
中庭
機械室
リラクゼーションルーム
メーンビルディング断面図(1/500)
車寄せ
▼
機械室
2階レストランの窓側に壁はなく、サッシの割り
付けに合わせた鋼管柱だけのオープンなつくり
クラブ
ルーム
電気室
スタッフ
控え室
ラウンジ
事
務
室
中庭
リラクゼーション
ルーム
カウンセリング室
トリートメント室
倉
庫
サンクン
ガーデン
厨房
ロッカー室 ロッカー室
サウナ
スパ
レストラン
サウナ
レストラン
個室
スパ
N
調整池
テラス
調整池
露天風呂
露天風呂
露天風
露天風
植え込み
メーンビルディング1階平面図(1/600)
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メーンビルディング2階平面図
1階にあるリラクゼーションルーム。大きな窓か
らは小さな池と森しか見えない
関係者
の
声
茶臼岳 陰と陽の空間
ライフスタイルに共感
リゾートや余暇
日本へのコンランショップの導入を手
に対する日本人の
がけて以来、日本側の代理人としてコン
意識が変わり、滞
ラン氏とかかわってきたが、知り合った
在型リゾートをつくる必然性を感じてい
時から彼のライフスタイルには共感して
た。本館・新館は、部屋もクローゼット
いた。彼は、ロンドンの西方に、自然豊
も小さく、長期滞在には限界があるので
かな広大な土地を有し、有機野菜を育て、
東館をつくった。本館は、光と影を巧み
レストランを経営している。生活という
に演出する「陰」の建築だったが、東館
ものを深く追求している人で、北山社長
では明るく広がりのある「陽」の景観を
の選択は的確だと思った。ホテルという
つくった。最近、30歳代の若い利用者が
プロジェクトに夢を持ってきた僕自身、
増え、リピーターもとても多い。二期倶
プロデューサーとして内容の濃い計画に
楽部では、もう部屋を増やすつもりはな
携わることができて満足している。
い。小さな美しい村に育てるための機能
(後藤陽次郎=デザインインデックス代表)
(北山ひとみ=二期リゾート社長)
典型的なモダニズム
デザインの根幹の部分は、コンラン氏
コンラン効果
の意向を優先し、私たちは彼らのコンセ
オープンからまもない現時点では、一
プトをかなえる立場に回った。コンラン
泊の利用が多い。ただ、一度泊まると、
氏はモダニストで、基本的には余計なも
ここでの過ごし方が見えてくるようで、
のを消すデザインをしていく。私たちと
次は連泊したいと言う人が少なくない。
共通する感覚を持っているので、意思疎
宿泊者同士が気軽に声をかけ合う機会を
通が取りやすく設計もスムーズに運んだ。
つくっているが、日本人の間にはなかっ
彼らのデザインは、とても基本に忠実で、
た文化なので、積極的な交流が生まれる
例えばパビリオンのプランは90度に交差
にはもう少し時間がかかるかもしれない。
する直線だけで組み立て、本当に必要で
オープン以来の高い稼働率は、
「コンラ
ない限り曲線や変則の角度は持ち込まな
ン効果」とも言えるので、二度三度と訪
い。そういった典型的なモダンの手法が
ねてもらえるようサービスを充実させた
非常に面白かった。
い。 (今井博美=二期倶楽部副総支配人)
二期倶楽部
(山本圭介=山本・堀アーキテクツ代表)
東
北
新
幹
線
那須 ランドパーク
那須ハイ
那須サフ
パーク 那須 ァリ
リパー
本線
東北
那須IC
東
北
自
動
車
那須塩原
道
黒磯
道
国
4号
N
0
5㎞
案内図
総工費
を足し、いい気配の漂う経営を磨いてい
く。
那須湯本
10億8900万円(建築、外構)
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■外部仕上げ
<メーンビルディング>
屋根
ポリエチレンフォーム断熱材の上シ
ート防水
外壁
コンクリート打ち放し
外まわり建具
スチールサッシ
<パビリオン(客室)>
屋根
シート防水の上押さえコンクリート
外壁
木質ルーバー(セランガンバツ)40
㎜×20㎜@60㎜
外まわり建具
木製サッシ
外構
インターロッキングブロック400㎜
角、芦野石400㎜角ほか
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■内部仕上げ
<メーンビルディング>
各室
床:ライムストーン400㎜角、壁・
天井:コンクリート打ち放し
スパ
床:御影石400㎜角、ガラスモザイ
ク20㎜角(浴槽内)
、壁:鏡 t=8㎜の
上強化ガラス t=5㎜エッチング加工、
モルタル金ゴテ仕上げ、天井:スギ
板準不燃処理材 t=15㎜
<パビリオン>
居間・寝室 床:チークフローリング床暖房用
t=15㎜、壁:PB t=12.5㎜EP、天
井:PB t=9.5㎜EP
トイレ・化粧室
床・壁:ライムストーン400
㎜角、天井:ケイ酸カルシウム板
t=6㎜AEP
浴室
床:御影石400㎜角、壁:ライムス
トーン400㎜角撥水材塗布、天井:
フレキシブルボード t=5㎜AEP
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■建築概要
名称
所在地
主用途
地域・地区
二期倶楽部 東館
栃木県那須郡那須町高久乙道下2301
宿泊施設
市街化調整区域
建ぺい率12.8%(許容60%)
容積率16.5%(許容200%)
北東5.5m
13台
1万5408.93m2
1972.55m2
2544.06m2
RC造・一部S造、地上2階・塔屋1階
1階1861.72m2、2階674.57m2、塔屋
7.77m2
ベタ基礎
最高高6.76m、軒高6.73m
メーンビルディング:1階階高
3.60m・天井高3.00m、2階階高
3.32m・天井高3.00m
パ ビ リ オ ン ( 客 室 ): 1 階 階 高
3.00m・天井高2.405m、2階階高
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前面道路
駐車台数
敷地面積
建築面積
延べ面積
構造・階数
各階面積
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基礎
高さ
階高
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2.715m・天井高2.36m
主なスパン 5.4m×5.6m
発注者
二期リゾート
総合プロデュース
デザインインデックス(後
藤陽次郎、富田美紀子、京野未来)
基本設計者 コンラン&パートナーズ(TERENCE
CONRAN、RICHARD DOONE、
JAMES SOAN、JASON TRISLEY)+
山本・堀アーキテクツ(山本圭介、
堀啓二、鹿野正樹、鈴木宏之)
実施設計・工事監理者
山本・堀アーキテクツ
(山本圭介、堀啓二、鹿野正樹、鈴
木宏之)
構造設計者 空間工学研究所(岡村仁、鳥越一成)
設備設計者 総合設備計画(機械:遠藤二夫、若
松宏、林向萌 ※、電気:小松敬)※
元所員
施工者
建 築 : 東 武 建 設 ( 渋 木 哲 雄 )、 空
調・衛生:ヤマト(平本浩嗣)、電
気:前田電設(藤田博行)
設計期間
2000年5月∼2002年5月
施工期間
2002年7月∼2003年5月
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■利用案内
客室数
客室面積
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客室料金
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主な施設
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交通案内
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24室(パビリオン16室、パビリオン
メゾネット6室、パビリオンスイー
ト2室)
パビリオン49m2、パビリオンメゾネ
ット68∼86m 2、パビリオンスイー
ト96m2
パビリオン(4万5000円∼)
、パビリ
オンメゾネット(5万5000円∼)
、パ
ビリオンスイート(8万5000円∼)
レストラン、スパ、アロマサロン、
クラブルーム、ブティック
東北新幹線那須塩原駅からタクシー
で約30分、東北自動車道・那須ICか
ら車で約20分
0287-78-2215
http://www.nikiclub.jp/
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電話
URL
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2003-11-24
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