2 きこえの検査について

「きこえ」の検査について
耳鼻科医が行う検査とは異なり、あくまでも教育的観察の一環として行うもの
純音聴力検査(気導聴力検査)
純音聴力検査は、聴力検査の中では最も基本的な、そして重要な検査です。その目的は
二つあります。一つは聞こえの程度が正常か異常か、異常とすればどの程度の聞こえの悪
さかということ。もう一つは、聞こえの悪さがどの部位の異常によるものかを大まかに判
断するものです。
1.大まかな手順
(1)検査を開始する15分以上前に電源を入れておく。(電源スイッチ)
(2)VUメータが0の位置になるように調整する。
(3)受話器を装着させる。(原則としてよく聞こえる方の耳から検査を始める。)
(4)チャンネルの検査音を〔純音〕、検査音選択を〔断続〕または〔連続〕ボタンを押
して選択する。
(5)周波数選択ボタンで提示する検査音の周波数を選ぶ。
・周波数は、1000Hz→2000Hz→4000Hz→8000Hz→再び1000Hz→500Hz→250Hz→125Hzの
順に選択するのが原則である。また、2度目の1000Hzの検査結果が始めの結果と10dB
以上の開きがあった場合には、再度2000Hz以上の検査を行う。(やり直しで5dBの違い
が出た場合は小さい方の値を採る。2度目を採るという方法もある。)
・幼児や一部の周波数についての検査しかできていない子ども、あるいは重度な聴力障
害児などには、検査しやすい周波数から適宜進めてもよい。
(6)聴力レベルダイアルの設定をする。
・聞こえるという反応が得られるまで、検査音の弱いレベルから徐々に強いレベルに上
げていく上昇法が原則であるが、子どもの検査などには聞こえる音を確認させ、その
音を下げていく下降法を組み合わせて行う。ある提示音レベルで聞こえる反応があっ
たら、それより10dB下げ、聞こえなかったら5dB上げる。(10dBダウン5dBアップ)と
いう提示の仕方を繰り返し、3分の2の反応が確かめられた値を採る。
・検査の際、音を提示するタイミングがリズミカルにならないように注意する。
(7)オージオグラムに記入する。
・右は○、左は×で記入する。周波数により、スケールアウトの数値が違うので注意す
る(125Hz:70dB、250Hz:90dB、500Hz:105dB、800Hz~4000Hz:110dB、6000Hz:
105dB、8000Hz:90dB)(右は斜め左下向き、左は斜め右下向き矢印)
(8)聴力レベルダイアルを最低のレベルにし、電源スイッチを切る。電源コンセントを
抜く。
2.オージオグラム例
オ ー ジ オ グ ラ ム【例】
○○
部
○年
平成 ○○年
○○月
125
聴
力
レ
ベ
ル
dB
250
氏名
○ ○ ○ ○
○○日
500
(
測定者
1000
2000
4000
○○
歳)
男
女
○ ○ ○ ○
8000
-10
-10
0
0
10
10
20
20
30
30
平均聴力レベル
40
40
4分法
50
50
a+2b+c
60
60
4
70
70
80
80
右
102 dB
90
90
左
105 dB
100
100
110
110
小数点以下は
120
120
切り上げる。
130
130
125
250
500
1000
(a)
(b)
周 波 数
2000
4000
8000
(c)
(Hz)
●オージオグラムの記入の仕方
右耳○記号,左耳×記号で表し,線(右:実線,左:点線)で結ぶ。スケールアウトは
○,×で表し,線では結ばない。
●平均聴力レベルの計算
{500Hz(a)+2×1000Hz(b)+2000Hz(c)}÷4
※計算の中にスケールアウトの値が含まれる場合には、その値にさらに5dBを加えて
から平均値を算出し、結果の数値に「以上」と明記する。
●測定時の生徒の反応
例)検査室が若干暑かったためか、反応が揺れ動くことがあった。
-1-
スピーカ法(音場聴力検査)
1.大まかな手順
(1)検査を開始する15分以上前に電源を入れておく。(電源スイッチ)
(2)VUメータが0の位置になるように調整する。
(3)スピーカから1m離れた位置に耳がくるように椅子に腰掛けさせ、スピーカの高さ
を合わせる。(補聴器装用時と裸耳の検査を行う。)
(4)チャンネルの検査音を〔ウォーブルトーン〕、出力選択を〔スピーカ〕、検査音選択
を〔断続〕または〔連続〕ボタンを押して選択する。
(5)周波数選択ボタンで提示する検査音の周波数を選ぶ。
・基本的に純音聴力検査と同様。
・周波数は、1000Hz→2000Hz→4000Hz→6000Hz→再び1000Hz→500Hz→250Hzの順に選択
するのが原則である。
・場合によっては、検査しやすい周波数から適宜進めてもよい。
(6)聴力レベルダイアルの設定をする。
・基本的に純音聴力検査と同様。
・上昇法が原則であるが、下降法を組み合わせて行ってもよい。
・検査の際、音を提示するタイミングがリズミカルにならないように注意する。
(7)補聴効果記録用紙に記入する。
・スピーカ法の場合は、平常の外側の目盛りを読む。通常は「聴力検査室において測定
した換算の基準値」をプラスした値を用いる。
・補聴器装用時は▲、非装用時は△を記入する。線で結ばない。
(8)聴力レベルダイアルを最低のレベルにし、電源スイッチを切る。電源コンセントを
抜く。
留意事項
A:純音聴力検査の単位はdB(HL)ヒアリングレベル
B:スピーカ法の単位はdB(SPL)サウンドプレッシャーレベル
Aは人の感覚を基準とし、Bは物理的な数値を基準とするため、全く同じで
はない。しかし、10dBごとの音の増大の仕方は共通のため、換算して比較
することができる。(新ISO 389-7で較正)
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2.補聴効果記録例
補 聴 効 果 記 録 用 紙【例】
○○
部
○年
平成 ○○年
○○月
130
氏名
○ ○ ○ ○
○○日
(
測定者
○○
歳)
男
女
○ ○ ○ ○
dB SPL
:マイクより 30cm(大きな音 声)
120
:マイクより 60cm(大きな音 声)
110
:マイクより 60cm(普通の音 声)
100
:マイクより120cm(普通の音 声)
90
(国立特殊教育総合研究所:無響室)
80
装用補聴器
70
60
右
HB-79P 00000000
50
左
HB-79P 00000001
40
使用Vol右
3
左
3
30
20
記入方法
10
0
補聴器非装用時…△
補聴器装用時……▲
※
線で結ばない
-10
125
250
500
周
波
1000 1500 2000 3000 4000
数
(Hz)
周波数
音場での最小可聴閾値
(裸耳の場合)dB SPL
最小可聴音場の音圧
(補聴器装用時)dB SPL
6000 8000
250
500
1000 2000 4000 6000
65
80
100
105
110
100
45
40
50
60
65
70
【スケールアウト:グラフ…↑,表…↓】
【参考】聴力レベルへの換算(両耳の場合)……dBSPL-(ISO389-7)=dBHL
※
SPL値の方がHL値より大きくなる。SPL値(機械測定値)の方がHL値(人間の聞こえ)より敏感なものとして覚えよう!
健聴者の最小可聴音場
MAF(ISO 389-7)
250
500
11
4
-3-
1000 2000 4000 6000
2
-1.5 -6.5
-
語音聴力検査
語音聴力検査には、語音了解閾値検査(語音聴取閾値検査)と語音弁別検査が含まれる。
1.語音了解閾値検査
(1)語表は「数字語表」を使う。(67-S語表)
(2)1行目から始め、1語音ごとに10dB(または5dB)づつ下げる。初めのレベルは
平均聴力レベル+40dB(30dBという方もいる)。
※1語音目は100%聴取となるようにする。
6語音目は0%聴取となるようにする。
(3)6語目が終わったら、すぐに初めのレベルに戻す。同様に6行目まで行う。
(4)測定結果は、同じレベル(縦列)の正解率を算出し、各レベルごとの正解率をスピ
ーチオージオグラムに記入し、そのポイントを線で結ぶ。50%ラインと交差するレ
ベルが語音了解閾値。
※
語音了解閾値は、気導純音聴力検査の平均聴
力と近い値になると言われており、標準純音聴
力検査が不確実な時の聴力推定に有用。
-4-
2.語音弁別検査
(1)語表は「ことばの語表」を使う。(67-S語表
20音)
(2)第1表の音の強さは、平均聴力レベル+40dBにして測定する。
(3)第1表の結果が、100%になれば10dB下のレベルで、100%以下なら10dB
上のレベルで、第2表を測定する。
(4)それぞれのレベルでの結果をスピーチオージオグラムに記入し、実線で結ぶ。この
結果一番明瞭度の高い値を「最高明瞭度」または「語音弁別能」と言う。
※
正確に繰り返した単語のパーセンテージが弁別率
であり、正常で90~100%。このスコアは、理
想的な聴力環境下で、その人が語音を理解できる能
力をよく表している。
-5-
-6-
骨導聴力検査
1.骨導聴力検査とは
・骨導音が頭蓋骨を通して内耳に伝えられる。
・聴力低下が、どの部位の障害で生じている
のかを判定するため。例えば、滲出性中耳
炎など伝音器官に疾病があって聴力低下が
起きた場合は、骨導閾値は低下せず、気導
閾値が低下する。
【気導と骨導の音の伝わり方】
2.骨導聴力検査の大まかな手順
①
骨導聴力レシーバを耳のうしろに出っ張っている硬い骨(乳様突起)にあてて、
純音を聴かせる。
②
骨導聴力はオージオグラムには、それぞれの周波数での聴こえる最小音をデシベ
ルの値で記入することは気導聴力と同じだが、右耳の骨導聴力は「[」、左耳の骨導
聴力は「]」の記号である。それぞれの骨導聴力記号は気導聴力でのように線で結
ばない。
③
250Hz~4000Hzの周波数で測定する。(平均的には、250Hzは4
0dB、500Hzは60dB、1000Hzは70dBで振動感覚を生ずる。振動感覚
を聴覚と誤認しないように注意する。そのため周波数にもよるが、70dB以上は計
測できない。)
④
マスキングが必要。
-7-
その他の検査
「きこえとことば発達情報室」(http://www.warp.or.jp/ent/より)
◆BOA(聴性行動反応検査):対象…乳児初期
乳児は、突然に音や人の声がすると、振り向く、音源を探す、目を動かす、ハッとなる、
大きな音ではびっくりする、泣き出すなどいろいろな反応を示します。このような聴性反
応を利用して、聴力検査をおこなう方法で、振音、社会音、楽器音、雑音なぞを直接、あ
るいはスピーカーを通じて乳児や障害を持った子どもに聞かせます。そして反応があった
ときにその位置での音圧を調べます。この音圧から聴力レベルを測定します。
◆CORテスト(条件詮索反応聴力検査):対象…1~3歳児
音がする方に、音がするのと同時に玩具などが光に照らし出されるようにしておき、子
どもに何度か試みて、音源の方向に何か楽しいものが現れるという期待を持たせるように
条件づけをしておきます。その上で音だけで音源の方に振り向くかどうかによって聴力レ
ベルを調べます。発達につまずきのある幼児ではCORに頼らなければならない例が多くあ
ります。
-8-
◆Play
Audiometry(遊戯聴力検査):対象…3歳以上
音を合図に積み木など(遊び用具)を一つずつ移させろ方法や、音が出ている時だけボ
タンを押すと玩具が見える装置を使って検査するピープショウテストなどがあります。
◆ABR(聴性脳幹反応)
:対象…0歳児~大人まで(障害児でも可能)
子どもを(一般にトリクロリールシロップ、エスクレ座薬などを使って)眠らせておい
て、レシーバーより音を聞かせ、頭や耳の周りに電極をおき、脳波を測定します。その反
応より内耳(蝸牛)より聴神経が脳幹を通って脳にたどり着く間の波形より聞こえている
かどうかを測定します。いろいろな音の大きさ、会話で使う音の周波数(低い音から高い
音)を調べ聴力測定します。
◆ティンパノメトリー
鼓膜や耳小骨の振動(動き具合)、滲出性中耳炎などをしらべる検査です。『鼓膜の可動
性』を見ます。波形を出す検査でティンパノグラムともいいます。外耳の気圧を連続的に
変化させながら、鼓膜の振動のしやすさを曲線で記録します。横軸に気圧、縦軸に鼓膜の
振動のしやすさを示します。
正常では外耳と中耳の圧は同じに保たれていますので、外耳の気圧をゼロ(大気圧)に
したときに一番振動しやすいので、中央にピークをもった曲線を描きます(A型)。
耳管という中耳と鼻の奥をつなぐ管の働きが悪くなると、中耳の気圧が低くなりますの
で、曲線のピークは陰圧の方(左に)移動します(C型)。
中耳に水がたまる滲出性中耳炎で鼓膜が振動しにくくなった場合はほとんどピークのな
い水平線になります(B型)。
滲出性中耳炎は鼓膜可動性が少なくなってB型になったり、あるいは内陥してC型にな
ります。この他にも、耳小骨が固くなって動きが悪くなった場合や、外傷などで耳小骨が
離断した場合などもこの検査でわかります。
(A型)
(C型)
(参考文献)
『補聴器活用ガイド』大沼直紀
コレール社
きこえとことば発達情報室HP(http://www.warp.or.jp/ent/)
-9-
(B型)